テキスト全文
海外帰国者発熱の基本的理解とアプローチ
#1. 2023.06.30 海外帰国者発熱の みかた・考え⽅ 堺市⽴総合医療センター 感染症内科 ⻑⾕川耕平
#2. 海外から帰国した患者へのアプローチ • Common is common (頻度) • それに加えて海外特有の病気を考慮する (疫学)
#3. 帰国後の体調不良が多い地域と主訴 1.発熱 2.急性下痢 3.⽪膚症状 N Engl J Med. 2006;354(2):119-130.
発展途上国での感染症リスクと予防策
#4. 発展途上国で1ヶ⽉過ごした場合 • 旅⾏者下痢症 20-60% (ETEC >15%) • マラリア 2-3% (予防なし@⻄アフリカ) • インフルエンザ 1% • デング熱 1% • 腸チフス 0.02% (@南アジア) J Travel Med. 2008;15(3):145-146.
#5. 鑑別を考える上でのポイント •予防できるものとできないものがある •「予防できるのに怠っていた」ということ に注⽬する
#6. 渡航先は国でひとくくりにしない • どこに⾏ったか (地域によって起こる感染症も異なる) • 聞きなれない地名であれば必ず調べる • 滞在先と観光先が異なる場合もある
渡航前の準備と滞在中の注意点
#7. 旅⾏の事前準備はしていたか? • 基礎疾患はあるか? • 予防接種は済ましているか? • 必要な予防薬をもらっていたか?…マラリアや⾼⼭病など • 渡航⽅法は何か?…⾶⾏機・船, トランジットの有無 • 現地の気候は? • 渡航期間は?
#8. 滞在先での過ごし⽅をチェック • ⽬的…ビジネス・観光・VFR (Visiting friends and relatives) • 宿泊先…都市部?郊外?ホテル, ロッジ, 友⼈宅など。衛⽣状態を聴取。 • ⾷事…何を⾷べたか?ナマモノ以外にも, 野菜・果物・⽔・氷など • ⾏動…レジャースポーツ・⼭登り・森林浴・性⾵俗店の利⽤, 移動⽅法 (⾞・鉄道・⾃転⾞ etc) • 曝露…動物, 蚊, ダニなど。他には体調不良者や医療機関 (汚染された針) • 予防…マラリア予防, 防蚊対策は?
防蚊対策と効果的な防虫剤の使用法
#9. 防蚊対策 • 蚊は「1年あたりで最もたくさんヒトを殺している⽣き物」と⾔われる • 服装と防⾍剤, 宿泊施設がポイント - 服装:半袖, 半ズボン, スカートなどはできる限り避ける - 防⾍:DEETまたはイカリジン, 電気式⾍除け器, 蚊帳 - 宿泊施設:窓に網⼾が取り付けられている, エアコン完備の, ウェブサ イトで蚊の駆除対策をしていると記載されている施設。
#10. • 基本はDEET (20-50%を推奨, マラリア流⾏地域では50%がbetter) • イリカジンも20%含有が良い • DEET30%, イカリジン15%は, 5-8時間程度⾍除け効果が続く (塗り直し必要) • ⽇焼け⽌めと⼀緒に使う場合は, ①⽇焼け⽌め, ②防⾍剤の順番で塗布する • ⽔溶性なので, 汗や⽔曝露の後は塗り直しが必要 t for travel;Mosquito Bite Avoidance https://www. tfortravel.nhs.uk/advice/malaria/mosquito-bite-avoidance fi fi 防⾍剤
潜伏期間に基づく感染症の鑑別
#11. 診断のポイント •滞在歴と潜伏期間に注⽬する •特徴的な曝露があれば鑑別を絞れるかも
#13. 潜伏期間から疾患をしぼる 潜伏期間 <10⽇ 可能性のある感染症 熱帯熱マラリア (≧6⽇), アルボウイルス (デング, チクングニア, ジカ, ⻩熱, JE), ウイル ス性出⾎熱, ウイルス感染症 (インフルエンザ, SARS-CoV-2など), 旅⾏者下痢症, リケッ チア (紅斑熱-ロッキー⼭紅斑熱,アフリカダニ熱, 地中海紅斑熱, ツツガムシ病, Q熱), 回 帰熱, 髄膜炎菌, ペスト, ⿂介類中毒, 炭疽, レプトスピラ, 狂⽝病, チフス・パラチフス マラリア, レプトスピラ, ウイルス性出⾎熱, 急性HIV症候群, チフス・パラチフス, リケ 11-21⽇ ッチア (ツツガムシ病, Q熱, 発疹チフス), アフリカトリパノソーマ, ブルセラ, ウイルス 性肝炎, 腸内原⾍感染, 糞線⾍, ライム病, ⽪膚蝿蛆症/スナノミ症/疥癬, 狂⽝病, ⿇疹 >21⽇ マラリア, 結核, ウイルス性肝炎, 腸内寄⽣⾍感染, HIV, フィラリア症, アメーバ性肝膿瘍, リーシュマニア症, アメリカトリパノソーマ症, 狂⽝病, 梅毒, バベシア Lancet. 2003;361(9367):1459-1469. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 9th, Chap 319より作成
曝露状況からの疾患絞り込みと診察ポイント
#14. 曝露状況から疾患をしぼる 咬傷 蚊 マラリア, デング熱, ⻩熱, ⽇本脳炎, ⻄ナイル熱, フィラリア症, チクングニア熱 ダニ ボレリア症 (ライム病, 回帰熱), リケッチア症 (発疹チフス, ロッキー⼭紅斑熱), クリミア・コンゴ出⾎熱, Q熱, 野兎病, ダニ媒介性脳炎, エーリキア症 ハエ アフリカトリパノソーマ症, ロア⽷状⾍症 (オンコセルカ症), リーシュマニア症, バルトネラ症, サルモネラ, ハエウジ症 ノミ ペスト, スナノミ症 サシガメ アメリカトリパノソーマ (Chagas) 哺乳類 狂⽝病, ⿏咬症, 野兎病, 炭疽, Q熱, 蜂窩織炎 経⼝接種・接触 ⽔ 乳製品 未加熱⾷品 A型肝炎, E型肝炎, コレラ, Norwalk/caliciviruses (ノロ), サルモネラ, ⾚痢, ジアルジア, ポリオ, クリプトスポリジウム, サイクロスポーラ, メジナ⾍症 ブルセラ, 結核, サルモネラ, ⾚痢, リステリア 細菌性下痢症 (サルモネラ, ⾚痢, ⼤腸菌, カンピロバクターなど), 蠕⾍症 (回⾍, 旋⽑⾍, 条⾍-嚢⾍症, 鞭⾍症, ⽑⾍症, 住⾎線 ⾍を含む), 原⾍症 (アメーバ, トキソプラズマ) 淡⽔との⽪膚接触 レプトスピラ症, 住⾎吸⾍症, アカントアメーバ, ネグレリア ⼟壌との⽪膚接触 鉤⾍症, ⽪膚幼⾍移⾏症, 内臓幼⾍移⾏症, レプトスピラ症 性⾏為 HIV, HBV, HCV, 梅毒, 淋菌, クラミジア, ヘルペス, HPV 病⼈との接触 肺炎, 結核, 髄膜炎菌髄膜炎, リウマチ熱, ラッサ熱 Lancet. 2003;361(9367):1459-1469.
#15. ⾝体診察から疾患をしぼる 診察部位 診断的価値 バイタルサイン ⽐較的徐脈は腸チフスやリケッチアを⽰唆 ⽪膚 斑状丘疹状⽪疹:デング熱, レプトスピラ, 発疹チフス, 急性HIV感染症, 急性B型肝炎, 薬疹。バラ疹 (胸腹部にみられる直径2-3mmのピンク⾊の斑状の⼀過性の斑状出⾎): 腸チフス。痂⽪:リケッチア。点状出⾎, 斑状出⾎, 出⾎性病変:デング熱, 髄膜炎菌⾎ 症, ウイルス性出⾎熱 眼 結膜炎 (レプトスピラ) 副⿐腔・⽿・⻭ 旅⾏とは関連ないが, 副⿐腔炎,中⽿炎,⻭⽛膿瘍はコモンな感染症であり⾒逃されやすい ⼼臓・肺 肺:吸気時ラ⾳, 喘鳴に注意 ⼼臓:⼼雑⾳ (亜急性細菌性⼼内膜炎) 腹部 脾腫:IM, マラリア, 内臓リーシュマニア症, 腸チフス, ブルセラ症 リンパ節 別記載 神経 発熱+意識変容は緊急性が⾼い Am Fam Physician. 2003;68(7):1343-1350.
渡航者発熱の初期ワークアップと症例分析
#16. ⾝体診察から疾患をしぼる 診察部位 診断的価値 細菌:バルトネラ症, ペスト, ブドウ球菌感染, レンサ球菌感染, 結核, 野兎病, 発疹チフス, 局所リンパ節 寄⽣⾍:アフリカトリパノソーマ, アメリカトリパノソーマ, フィラリア症, トキソプラズマ症 細菌:ブルセラ症, レプトスピラ症, 類⿐疽, 2期梅毒, 結核, 腸チフス ウイルス:急性HIV感染症, デング熱, B型肝炎, ラッサ熱, ⿇疹/⾵疹, IM (EBV/CMV) 真菌:ブラストミセス, コクシジオイデス, ヒストプラスマ 全⾝性リンパ節 寄⽣⾍:内臓リーシュマニア症 (カラアザール) ⾮感染性:悪性腫瘍 (リンパ腫, ⿊⾊腫, 転移癌), ⾃⼰免疫疾患, サルコイドーシス, 薬剤 (フ ェニトイン, カルバマゼピン, アロプリノール, スルホンアミドなど) 意識変容 (+次ページ) 細菌:急性細菌性髄膜炎, 腸チフス, 髄膜炎菌感染症 ウイルス:⽇本脳炎, 狂⽝病, ⻩熱, ウイルス性出⾎熱 (エボラ, マールブルグ, ラッサ), 寄⽣⾍:アフリカトリパノソーマ, 熱帯熱マラリア Am Fam Physician. 2003;68(7):1343-1350.
#17. Abbreviations: ABLV, Australian bat lyssavirus; CHIKV, Chikungunya virus;CTFV, Colorado tick fever virus; DENV, Dengue virus; EEEV, Eastern equine encephalitis virus; EV71, enterovirus A71; HeV, Hendra virus; JEV, Japanese encephalitis virus; LACV, La Crosse encephalitis virus; MVEV, Murray Valley encephalitis virus; NiV, Nipah virus; POWV, Powassan virus; RABV, rabies virus; RVFV, Rift Valley fever virus; SLEV, SaintLouis encephalitis virus; TBEV, tick-borne encephalitis virus; VEEV, Venezuelan equine encephalitis virus; WEEV, Western equine encephalitis virus; WNV, West Nile virus; YFV, yellow fever virus; ZIKV; Zika virus. Clin Microbiol Infect. 2019;25(4):415-421.
#18. キーワードが診断に結びつくこともある 例①:ガンジス川で沐浴したヒトの発熱, 下痢 → 腸チフス 例②:東南アジア都⼼部で蚊に刺されたヒトの発熱 → アルボウイルス
#19. 渡航者発熱の初期ワークアップ • CBC, ⽣化学 (+⾎清保存) • マラリアを疑えば薄層 (+厚層) 塗沫, 迅速抗原 • 疑わしければデングの迅速, できなければ地⽅衛⽣研へ相談 • インフルエンザ迅速+SARS-CoV-2 PCR or 抗原 • ⾎液培養2セット (Typhoid, 類⿐疽など) • 下痢があれば便培養 • その他通常の発熱ワークアップも⾏う
症例研究:タイとケニアにおける発熱の事例
#20. 症例① • 25歳男性 • 8⽉に夏休みを利⽤しタイへ3泊4⽇ • 帰国翌⽇から発熱あり受診 • 下痢はなく, 喉と節々が痛い。 • ⿐汁あり
#21. 症例① • 観光⽬的, 季節は⾬季 • 予防…ワクチン接種なし, マラリア予防なし • 移動…⾶⾏機, トランジットなし。現地は⾞で移動。 • 宿泊先…バンコクのホテルに泊まったが, 観光で郊外も⾏った。 • ⾷事…屋台でカットフルーツ。⽣⽔・氷・⽣⾁・⽣⿂・⽣野菜・未加熱乳製品なし • ⾏動…レジャースポーツをした。⼭登りなし。性⾵俗店利⽤なし。 • 服装…宿泊ホテル周辺では⽇中半袖半ズボン。郊外は⻑袖⻑ズボン⻑靴下 • 曝露…防⾍剤はなし。刺されたか記憶はないが蚊は⾶んでいた。ダニとか動物はない。
#22. 潜伏期間から疾患をしぼる 潜伏期間 <10⽇ 可能性のある感染症 熱帯熱マラリア (≧6⽇), アルボウイルス (デング, チクングニア, ジカ, ⻩熱, JE), ウイル ス性出⾎熱, ウイルス感染症 (インフルエンザ, SARS-CoV-2など), 旅⾏者下痢症, リケッ チア (紅斑熱-ロッキー⼭紅斑熱,アフリカダニ熱, 地中海紅斑熱, ツツガムシ病, Q熱), 回 帰熱, 髄膜炎菌, ペスト, ⿂介類中毒, 炭疽, レプトスピラ, 狂⽝病, チフス・パラチフス マラリア, レプトスピラ, ウイルス性出⾎熱, 急性HIV症候群, チフス・パラチフス, リケ 11-21⽇ ッチア (ツツガムシ病, Q熱, 発疹チフス), アフリカトリパノソーマ, ブルセラ, ウイルス 性肝炎, 腸内原⾍感染, 糞線⾍, ライム病, ⽪膚蝿蛆症/スナノミ症/疥癬, 狂⽝病, ⿇疹 >21⽇ マラリア, 結核, ウイルス性肝炎, 腸内寄⽣⾍感染, HIV, フィラリア症, アメーバ性肝膿瘍, リーシュマニア症, アメリカトリパノソーマ症, 狂⽝病, 梅毒, バベシア Lancet. 2003;361(9367):1459-1469. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 9th, Chap 319より作成
#23. • 東南アジアは発熱疾患ではデングが最多 • 呼吸器症状があるとインフルエンザかもし れない Ann Intern Med. 2013;158(6):456-468.
#24. 迅速検査を⾏い、、、 インフルエンザA 陽性
#25. 熱帯・亜熱帯のインフルエンザは通年性 Bull World Health Organ. 2014;92(5):318-330.
#26. 症例② • 25歳男性 • 8⽉に夏休みを利⽤しタイへ3泊4⽇ • 帰国翌⽇から発熱あり, 3⽇間下がらず受診 • 下痢はなく, 節々が痛い感じがある • 淡く⽪疹がある
#27. 症例② • 観光⽬的, 季節は⾬季 • 予防…ワクチン接種なし, マラリア予防なし • 移動…⾶⾏機, トランジットなし。現地は⾞で移動。 • 宿泊先…バンコクのホテルに泊まったが, 観光で郊外も⾏った。 • ⾷事…屋台でカットフルーツ。⽣⽔・氷・⽣⾁・⽣⿂・⽣野菜・未加熱乳製品なし • ⾏動…レジャースポーツをした。⼭登りなし。性⾵俗店利⽤なし。 • 服装…宿泊ホテル周辺では⽇中半袖半ズボン。郊外は⻑袖⻑ズボン⻑靴下 • 曝露…防⾍剤はなし。刺されたか記憶はないが蚊は⾶んでいた。ダニとか動物はない。
#28. 潜伏期間から疾患をしぼる 潜伏期間 <10⽇ 可能性のある感染症 熱帯熱マラリア (≧6⽇), アルボウイルス (デング, チクングニア, ジカ, ⻩熱, JE), ウイル ス性出⾎熱, ウイルス感染症 (インフルエンザ, SARS-CoV-2など), 旅⾏者下痢症, リケッ チア (紅斑熱-ロッキー⼭紅斑熱,アフリカダニ熱, 地中海紅斑熱, ツツガムシ病, Q熱), 回 帰熱, 髄膜炎菌, ペスト, ⿂介類中毒, 炭疽, レプトスピラ, 狂⽝病, チフス・パラチフス マラリア, レプトスピラ, ウイルス性出⾎熱, 急性HIV症候群, チフス・パラチフス, リケ 11-21⽇ ッチア (ツツガムシ病, Q熱, 発疹チフス), アフリカトリパノソーマ, ブルセラ, ウイルス 性肝炎, 腸内原⾍感染, 糞線⾍, ライム病, ⽪膚蝿蛆症/スナノミ症/疥癬, 狂⽝病, ⿇疹 >21⽇ マラリア, 結核, ウイルス性肝炎, 腸内寄⽣⾍感染, HIV, フィラリア症, アメーバ性肝膿瘍, リーシュマニア症, アメリカトリパノソーマ症, 狂⽝病, 梅毒, バベシア Lancet. 2003;361(9367):1459-1469. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 9th, Chap 319より作成
マラリアとデング熱の流行地域と診断基準
#29. 曝露状況から疾患をしぼる 咬傷 蚊 マラリア, デング熱, ⻩熱, ⽇本脳炎, ⻄ナイル熱, フィラリア症, チクングニア熱 ダニ ボレリア症 (ライム病, 回帰熱), リケッチア症 (発疹チフス, ロッキー⼭紅斑熱), クリミア・コンゴ出⾎熱, Q熱, 野兎病, ダニ媒介性脳炎, エーリキア症 ハエ アフリカトリパノソーマ症, ロア⽷状⾍症 (オンコセルカ症), リーシュマニア症, バルトネラ症, サルモネラ, ハエウジ症 ノミ ペスト, スナノミ症 サシガメ アメリカトリパノソーマ (Chagas) 哺乳類 狂⽝病, ⿏咬症, 野兎病, 炭疽, Q熱, 蜂窩織炎 経⼝接種・接触 ⽔ 乳製品 未加熱⾷品 A型肝炎, E型肝炎, コレラ, Norwalk/caliciviruses (ノロ), サルモネラ, ⾚痢, ジアルジア, ポリオ, クリプトスポリジウム, サイクロスポーラ, メジナ⾍症 ブルセラ, 結核, サルモネラ, ⾚痢, リステリア 細菌性下痢症 (サルモネラ, ⾚痢, ⼤腸菌, カンピロバクターなど), 蠕⾍症 (回⾍, 旋⽑⾍, 条⾍-嚢⾍症, 鞭⾍症, ⽑⾍症, 住⾎線 ⾍を含む), 原⾍症 (アメーバ, トキソプラズマ) 淡⽔との⽪膚接触 レプトスピラ症, 住⾎吸⾍症, アカントアメーバ, ネグレリア ⼟壌との⽪膚接触 鉤⾍症, ⽪膚幼⾍移⾏症, 内臓幼⾍移⾏症, レプトスピラ症 性⾏為 HIV, HBV, HCV, 梅毒, 淋菌, クラミジア, ヘルペス, HPV 病⼈との接触 肺炎, 結核, 髄膜炎菌髄膜炎, リウマチ熱, ラッサ熱 Lancet. 2003;361(9367):1459-1469.
#30. 主なアルボウイルスの症状⽐較 筋痛 関節痛 浮腫 結膜炎 出⾎ ⽩⾎球減少 ⾎⼩板減少 発熱 ⽪疹 致死率 後遺症 ワクチン 診断法 デング ++ ++ + (軽度) 重症例 ++ ++ ++ + ⼊院例の2.5% GBS, HPS, 脳炎 あり PCR, 抗体, 抗原 チクングニア ジカ ++ ++ ++ + ++, 四肢 ++ ++ 稀 ⼀例のみ ++ ++ ++ + ++ ++ no data 1%以下 ⻑期間 (24ヶ⽉) 続く関節痛 GBS, 脳炎, ⼩頭症の可能性 なし なし PCR, 抗体(ELISA/IFA) 尿と⾎清PCR, 抗体 (開発中) Neth J Med. 2016;74(3):104-109.
#32. タイにおけるデングの分布 Trends Parasitol. 2013;29(12):623-633.
#33. (参考)タイにおけるマラリアの分布 Trends Parasitol. 2013;29(12):623-633.
#34. (参考)タイにおけるデングとマラリアの分布 • 緑:デング熱 • ⾚:熱帯熱マラリア Trends Parasitol. 2013;29(12):623-633.
#36. デング熱の診断 • 発症初期ならばNS1抗原の検出に より診断可能 (感度77.3%, 特異度 100% [PCRがreference]) • 数⽇経っていればIgM/IgGが検出 される • 4類感染症なので診断後すぐ届出 Am J Trop Med Hyg. 2011;84(2):224-228. N Engl J Med. 2012;366(15):1423-1432.
#37. 重症化のサイン • 腹痛・腹部圧痛 • 持続的な嘔吐 • 腹⽔・胸⽔ • 粘膜出⾎ • 無気⼒・不穏 • 肝腫⼤ • ヘマトクリットの上昇 (≧20%, かつ⾎⼩板減少) 第5版 蚊媒介感染症の診療ガイドライン
#38. 重症型デングの診断基準 • 重症の⾎漿漏出症状 (ショック, 呼吸不全など) • 重症の出⾎症状 (消化管出⾎, 性器出⾎など) • 重症の臓器障害 (肝臓, 中枢神経系, ⼼臓など) 第5版 蚊媒介感染症の診療ガイドライン
マラリアの治療法と予防策、ワクチンの最新情報
#39. ポイント • デング熱は⾎液検査を確認する • その他重症化を⽰唆するサインがないか注意
#40. 症例③ • 25歳男性 • 8⽉に夏休みを利⽤しケニアへ2週間 • 帰国翌⽇から発熱あり, 3⽇間下がらず受診
#41. • サブサハラ・アフリカ地域の発熱疾患は マラリア (熱帯熱) が最多 Ann Intern Med. 2013;158(6):456-468.
#42. マラリアが確認されている地域での発熱は, マラリアではないことがわかるまで マラリアを疑う
#43. マラリアっぽさとは? • 3ヶ⽉以内に熱帯から帰国した患者におけるマラリア予測因⼦ - アフリカ帰り (OR 11.9) 腹痛 (OR 14.1) 嘔吐 (OR 19.4) 筋痛 (OR 6.3) 不⼗分な予防 (OR 10.1) ⾎⼩板 <150,000/μL (OR 25.2) → 特徴的な症状はなく, 疑わなければ始まらない J Travel Med. 2010;17(2):124-129.
#44. マラリアの脅威 • 2020年に推定2億4100万⼈のマラリア患者が発⽣ • 2020年のマラリア死亡者数は627,000⼈で, ここ20年減少のトレンド だったが前年より12%増加した (COVID-19流⾏による医療サービス停⽌ による死者が47,000⼈) • 総死亡者における, 5歳未満の⼩児の割合は77% • 死者の約96%は29カ国に集中;ナイジェリア (27%), コンゴ⺠主共和国 (12%), ウガンダ (5%), モザンビーク (4%), アンゴラ (3%), ブルキナ ファソ (3%) の6カ国で約半数 World malaria report 2021 updated 8/Dec/2021, https://www.who.int/publications/i/item/9789240040496
#46. マラリアの⽣活環 Schizontes:分裂体 Trophozoites:栄養体 ⽣殖⺟体 分裂⼩体 胞⼦⼩体 休眠体 Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition, 274, 3299-3320.e10
#47. マラリアにも⾊々ある • Plasmodium falciparum…熱帯熱マラリア • Plasmodium vivax…三⽇熱マラリア • Plasmodium ovale…卵形マラリア • Plasmodium malariae…四⽇熱マラリア • Plasmodium knowlesi…サルマラリア
#48. マラリアにも⾊々ある ⾚⾎球外 (肝臓) 発⽣ 時期 (⽇) ⾚⾎球周期 (⽇) ヒプノゾイト (再発) 肝シゾント当たりのメ ロゾイト数 ⾚⾎球嗜好 未治療感染の最⻑期間 (年) P. falciparum P. vivax P. ovale P. malariae P. knowlesi 5.5 8 9 15 ?7 2 2 2 3 1 No Yes Yes No No 30 000 10 000 15 000 2000 若い⾚⾎球が多いが, あらゆる時期で可能 網⾚⾎球 網⾚⾎球 古い⾚⾎球 全て 2 4 4 40 ? Manson's Tropical Diseases 23rd ed., 43, 532-600.e1
#49. マラリアの診断 ギムザ染⾊でマラリア原⾍を確認するときは, 感染⾚⾎球が⼤きくなっているか否かに注⽬ • ⼤きくなっている場合 (三⽇熱・卵形) はヒプノゾイトを作る→プリマキンが必要 • 診断感度は厚層塗沫標本>薄層塗沫標本
#50. その他マラリアの診断 • XN-31 prototypeを⽤いたフローサイトメトリーはPCRをreference standardとして 32/33例をマラリア感染⾚⾎球陽性と診断し, その割合も顕微鏡でカウントされた寄⽣⾍ ⾎症と⾼い相関係数を⽰した1) • pfhrp2/3⽋損P. falciparumでは, 抗原偽陰性リスクがある (南⽶・アフリカの⼀部)2) Malar J. 2022;21(1):229. Bull World Health Organ. 2020;98(8):558-568F.
#51. マラリアとデング熱とCRP • CRP≧0.6 mg/dL→感度 100% (95.8–100.00%), 特異度 55.3% (44.1–66.1%) • CRP≧1.0 mg/dL→97.7 (91.8–99.7%), 76.5 (66.0–85.0%) • CRP≧2.4 mg/dL→91.9 (83.9–96.7%), 90.6 (82.3–95.8%) → CRPが≧2.4mg/dLだとデング熱よりはマラリアっぽく, CRPが≦0.5mg/dLだとマラリアっぽくない Am J Trop Med Hyg. 2014;90(3):444-448.
#52. マラリアの治療と予防 • 早期診断・早期治療 • 重症化の徴候を⾒逃さない • 予防する
#53. マラリアは早期診断・早期治療 • • 輸⼊重症マラリア59例 (56例成⼈, non-immune半数) の帰国から診断ま での期間1) - ⽣存者:8⽇ (IQR 6-15) - 死亡者:16⽇ (IQR 10-20) 症状発現から24時間以内に治療することで, 重症マラリア貧⾎への進⾏を 約50%減らすと予測される2) 1. Malar J. 2012;11:96. 2. PLoS Med. 2020;17(10):e1003359.
#54. 重症マラリアの定義 • • 検査所⾒ 臨床的特徴 - 低⾎糖 - 意識障害,昏睡 - < 15 mEq/l) 代謝性アシドーシス(HCO 3 - 疲憊(脱⼒) - 重症貧⾎(Hb < 5 g/dl) - 哺乳不良 - ヘモグロビン尿 - 痙攣 - ⾼原⾍寄⽣率(> 2%≑100,000/μl) - 頻呼吸 - ⾼乳酸⾎症(> 5 mEq/l) - ショック(algid malaria) - 腎障害(⾎清クレアチニン > 3.0 mg/dl) - ⻩疸(他の臓器不全の兆候を伴う) - ヘモグロビン尿 ✓臨床的特徴, 検査所⾒いずれか1つに合致すれば重症マラリアと定義 (医療資源が乏しいセッティングを想定) - 出⾎傾向 熱帯熱マラリアに合併するが, 三⽇熱マラリア, サルマラリアにおいて ✓ - 肺⽔腫(胸部X線所⾒による) もみられることがある 第10.2版 寄⽣⾍症薬物治療の⼿引き
#55. ⽇本におけるマラリアの治療 • 重症マラリア:グルコン酸キニーネ注射薬 • ⾮重症マラリア:アルテメテル・ルメファントリン配合錠4T分2×3d, アトバコン・プロ グアニル塩酸塩4T分1×3d, メフロキン塩酸塩*3-6T 1-2回にわけて内服 • 熱帯熱マラリアの場合, キニーネ塩酸塩⽔和物1.5-1.8g (10mg塩/kg/dose) 分3 7⽇ 間+DOXY or CLDMも使⽤可能 三⽇熱・卵形マラリアにおける根治療法:リン酸プリマキン *タイ国境地帯ではP. falciparumのメフロキン耐性が報告されているため, 同地で感染したと推定される患者には使⽤を避ける 詳細は⼿引きを参照 → 熱帯病治療薬研究班, 寄⽣⾍症薬物治療の⼿引き2020 (10.2版) https://jsparasitol.org/wp-content/uploads/2022/01/tebiki_2020ver10.2.pdf
#56. ACTs • artemisinin-based combination treatments (ACTs) - アルテメテル・ルメファントリン配合錠 (リアメット ), artesunate–amodiaquine, dihydroartemisinin–piperaquine, artesunate–me oquine, artesunate+sulfadoxine–pyrimethamine, artesunate + pyronaridine • 特にP. falciparumではクロロキンやantifols耐性が世界的に広がっており, 幼弱な原⾍に も効果があることからACTsが第⼀選択薬 • その他のマラリア原⾍にも有効であり, 混合感染の場合も第⼀選択である fl ®︎ WHO Guidelines for malaria, 3 June 2022. Geneva: World Health Organization; 2022 (WHO/UCN/GMP/2022.01 Rev.2)
#57. 重症マラリアにはartesunate静注 • 2つのRCTで, artesunateの静脈内投与はキニーネの静脈内投与に⽐べて有意に治療効果 が⾼かった - 死亡率を東南アジアの成⼈で35% (95%CI 18.5-47.6) 低下1) - アフリカの⼩児で22% (95%CI 8.1-36.9) 低下2) • ただし, ⽇本ではグルコン酸キニーネ注射薬 (キニマックス®) しか使⽤できない • 原⾍寄⽣率<1%を⽬安に経⼝摂取可能であれば, いずれかの経⼝薬へ変更する 1. Lancet. 2005;366(9487):717-725. 2. Lancet. 2010;376(9753):1647-1657.
#58. Infect Dis Clin North Am. 2019;33(1):39-60.
#59. ACTsの注意点 • マラリア免疫がない場合, アルテメテル・ルメファントリン (AL) による 治療でP. falciparumが再燃するかもしれない (治療成功率:AL 94.7% vs 従来治療 99.5%)@スウェーデン1) - ⽇本からの報告ではALで治療された3/19例が再燃 (15.7%)2) → マラリア⾮流⾏地においてALでの治療後1ヶ⽉以内の発熱は再燃も鑑別 • 寄⽣⾍率が⾼い場合, 遅発性溶⾎性貧⾎ (>1週間) に注意3) 1. Clin Infect Dis. 2017;64(2):199-206. 2. 感染症学雑誌. 2014;88(6):833-839 3. Travel Med Infect Dis. 2018;22:40-45.
#62. 抗マラリア薬による予防 メフロキン アトバコン・プログアニル ドキシサイクリン 国内承認 ○ ○ ✖ 服⽤⽅法 1錠/週1回 1⽇1回1錠 1⽇1回1錠 服⽤開始時期 渡航1-2週間前から 渡航1-2⽇前から 渡航1-2⽇前から 服⽤終了時期 帰国後4週間 帰国後1週間 帰国後4週間 副作⽤ 嘔気, 下痢, めまい, 徐脈, 悪夢, 頭痛, 不眠 嘔気, 下痢, 腹痛, 肝酵素上昇, ⽪疹 消化器症状, ⽇光過敏, 膣カンジダ症 妊婦への適応 なし (要相談) なし なし 授乳婦 投与中は授乳を中⽌ 投与中は授乳を中⽌ 投与中は授乳を中⽌ ⼩児 なし (要相談) BW ≧40kg なし 薬価 784.4円/錠 507.3円/錠 22円/錠 CDC Yellow Book 2024, Malaria (accessed June 21, 2023) https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2024/infections-diseases/malaria
#63. そのほかの予防に関するtopics • ワクチン • モノクローナル抗体
#64. マラリアワクチン • • RTS,S/ASO1 vaccine:2021年10⽉WHOはサブサハラアフリカ, その他流⾏地域の⼩児 に対し, RTS,Sワクチンを承認1) - 死亡予防についてNNV200 - マラリア発症を40%減少, 致死的重症マラリアの⼤幅な減少 - 脳マラリア症例の増加, ⼥児における死亡率上昇の可能性などの懸念はある2) R21/MM vaccine:⽉齢5-17の⼩児に対するphase 2 trialで, 接種1年後のマラリア発祥 に対するVE 77%2) 1. World Health Organization. World malaria report 2021. (Accessed on June 22, 2022) https://www.who.int/teams/global-malaria-programme/reports/world-malaria-report-2021 2. Lancet. 2021;397(10287):1809-1818.
#65. モノクローナル抗体 • L9LS:targetはRTS,S/ASO1ワクチンと同様にP. falciparumのスポロゾイト表⾯蛋⽩。 phase 1では健常成⼈におけるマラリア防御効果は未接種と⽐較し88% vs 0%1) • CIS43LS:P. falciparumのスポロゾイトを標的とする。phase 2で健常成⼈における感 染防御効果88%。プラセボと⽐較し頭痛が3.3倍2) 1. N Engl J Med. 2022;387(5):397-407. 2. N Engl J Med. 2022;387(20):1833-1842.
#66. まとめ • 海外帰国者, または旅⾏者の体調不良は, 国だけではなく地域まで注⽬ • 予防含めた病歴及び症状を詳しく聞く • 上記に加えて潜伏期間・曝露状況を踏まえ原因を絞り込む • 都度しっかり調べることが何より重要