テキスト全文
V20と肺がんカンファレンスの概要
#1. V20って何︖ 肺がんカンファレンス前に 知っておきたい3つのこと @江⼝真澄 放射線治療専⾨医
#2. スライドの対象者 • 肺がんカンファレンスに参加するレジデント • 放射線科で実習中の学⽣
肺V20のリスクと治療法
#3. Take Home Messages ü肺V20が⾼いと肺臓炎リスクが上がる。 üIMRT(強度変調放射線治療)を使っても肺臓炎は 増えない。 ü切除不能Ⅲ期肺がんに対して同時化学放射線治療 後、免疫治療を1年間継続投与すると予後が延⻑ することが⽰された。
#4. カンファレンスの⼀コマ 呼吸器内科 「この患者さん、放射線を当てられますか︖」 放射線科 「肺V20が25%なので当てられます」 V20︖︖︖ 本スライドではこんな疑問にお答えします。
放射線治療の流れとスケジュール
#5. 放射線治療の流れ 1. 放射線科医が診察。 2. 治療できそうであれば、当⽇~数⽇のうちにCT撮影。 3. その後、数⽇~2週間程度で放射線治療が開始。 放射線科受診 CT撮影 治療開始
#6. 放射線治療スケジュール 1. 原発巣とリンパ節転移を含む領域に対して前後対向2⾨照射で治療を 開始。1回2Gyで1⽇1回照射。治療時間は着替えや位置照合を含め10 〜15分程度。実際に放射線が出ているのは1〜2分。 2. 脊髄に当たる線量の上限を40Gyとしているため、治療開始して20回 で射⼊2⾨照射に変更する。この時、肺線量が増えることは許容する。 3. 同時化学放射線治療の場合、60Gy/30回が⽬標線量になる。 胸部CT 肺がん T2bN2M0 Stage ⅢA 前後2⾨照射 体の前と後ろの 2⽅向から 放射線を当てる 射⼊2⾨照射 体の前と後ろの 斜め2⽅向から 放射線を当てる
肺臓炎のメカニズムと症状
#7. ちょっと専⾨的なお話 「脊髄を守るために途中で斜めに変えるなら 最初っから斜めにしちゃダメですか︖」 「いい質問だね。40Gyまでは予防的に縦隔リンパ節を照射 範囲に含めるんだけど、前後のビームを使えば主に縦隔を 通ってくれるのでV20を下げることができるよ。仮に基準値 以下だったとしても肺臓炎を予防するためには出来るだけ V20は下げたいからね。反対に全部を前後のビームで治療す るっていうことも考えられるけど、そうすると脊髄に放射線 が当たり過ぎて⿇痺の原因となってしまうから、途中で斜め に変えるのは理に適っていると⾔えるね」
#8. 肺V20って︖ グレイって読むよ V20とは20Gyが当たる肺の体積”Volume”のこと。 肺臓炎リスク どうして肺V20を気にするのか︖→これが⾼いと
#9. 肺臓炎とは 放射線による酸化ストレス、⽑細⾎管傷害、サイトカイン放出により ⾎管内⽪傷害、肺胞上⽪細胞傷害を起こす(1)。 臨床的には放射線治療後、3-6ヶ⽉で5-25%の患者に画像上の変化や 発熱、咳嗽などの呼吸器症状をきたす(1, 2)。 右上葉肺がん 放射線治療 すりガラス影/ 浸潤影
#10. 肺臓炎の症状と鑑別 症状︓乾性咳嗽、息切れ、胸痛、微熱。 聴診︓crackleの聴取。 検査所⾒︓LDH、CRP、KL-6、SP-Dの増加。 臨床経過︓多くは経過観察で軽快する。照射野外に広がって重症化、 まれに致死的となることがある。 鑑別︓感染症、癌性リンパ管症、薬剤性肺炎、間質性肺炎、⼼不全。 ある程度の線量が当たると多くの症例で肺野の濃度上昇が認められる。 症状は⾮特異的であり、CTで放射線の照射野を確認することが⼤切。
肺V20と肺臓炎リスクの関係
#11. 肺臓炎の治療法 治療法︓ 軽症例(レントゲンのすりガラス影のみで症状がない) - 経過観察 中等症(咳症状) - 鎮咳薬の内服 重症(照射野外への進展や酸素化の低下) - 経⼝プレドニゾロン0.5 – 1 mg/kg/dayで治療開始 - ⼊院で酸素投与開始
#12. 肺V20が⾼いと肺臓炎リスク 800例のメタ解析の結果、V20が⾼いと肺臓炎リスクが上昇すること が⽰された(3)。 発症時期が放射線治療後早期だと重症化率が⾼い(4)。 肺V20 < 20% 20 – 29% 30 – 39% ≥ 40% 有症状の肺臓炎 18.4% 30.3% 32.6% 35.9% 致死的肺臓炎 0.0% 1.0% 2.9% 3.5%
IMRTの利点と治療法
#13. 肺V20が⾼くなるのはどんな時︖ • 上葉原発だと呼吸による移動が⼩さくて V20は低くなる。 • 下葉原発だと呼吸による移動の影響で V20は⾼くなる。 • ⼤きな腫瘍、原発巣とリンパ節転移が離 れている場合もV20は⾼くなる。
#14. 再びカンファレンスの⼀コマ 呼吸器内科 「原発が脊髄に近くて放射線当てられないですか︖」 IMRT︖︖︖ 放射線科 「IMRTを使えば脊髄を避けながら 治療できます」 症例を⾒ながら勉強していきましょう。
切除不能Ⅲ期肺がんの治療法
#15. 症例提⽰ 症例 80歳男性 現病歴︓ 市の健康診断を受け胸部レントゲンで異常影を指摘された。 当院紹介受診し胸部CT、⽣検を⾏った。 その結果、縦隔型肺癌(扁平上⽪癌)、T4N3M0 StageⅢCの 診断となった。 採⾎結果 SCC 9.0、CEA 0.4 ⽣活歴 アスベスト暴露なし。 喫煙歴 20本/⽇を60年間。 家族歴 特記事項なし。
#16. 通常治療 vs IMRT • 前後2⽅向の治療だと原発巣に⾼線量を当てよう とすると脊髄にも⾼線量が当たってしまう 脊髄損傷のリスク • IMRTだといろんな⽅向から放射線を当てること で脊髄を避けながら原発巣には⾼線量を当てる ことができる。 根治性と副作⽤低減
#17. IMRTのメリット、デメリット メリット 重要臓器を避けながら癌に⾼線量を当てることができる。 デメリット 治療準備に時間がかかる。治療開始までに1-2週間。 いろんな⽅向から当てるので治療時間が⻑くなる。 • 今までは肺に放射線が広く当たってしまうIMRTでは肺臓炎悪化が ⼼配されたが、通常治療と⽐べてIMRTでGrade3以上の肺臓炎の 発症率が下がることが⽰された(5)。 IMRT 3.5% vs 通常治療 7.9% (p = 0.039) • 今後は肺がんのIMRTが増えるかも。
#18. 最近の知⾒ パシフィック試験 • 切除不能Ⅲ期肺癌に対する第3相試験。 • 主要評価項⽬は全⽣存率と無増悪⽣存期間。 同時化学 放射線治療 Durvalumab群 2週ごとに12ヶ⽉間投与 n = 476 48か⽉時点での全⽣存率 プラセボ群 n = 237 36.3% 49.6% 同時化学放射線治療後にDurvalumabを1年間投与することで 全⽣存率が延⻑することが⽰された(6)。 これを受け⽇本では2018年8⽉に保険収載された。
Durvalumabの効果と投与時期
#19. Durvalumab(デュルバルマブ)って何︖ • 現在臨床応⽤されている免疫療法は抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗 PD-L1抗体の3種類。そのうちDurvalumab(商品名︓イミフィンジ) は抗PD-L1抗体にあたる。 • T細胞上のPD-1が、がん細胞のPD-L1とくっつくとT細胞の活性化が 抑制されてがん細胞を攻撃できなくなります。抗PD-L1抗体はがん細 胞のPD-L1と結合することで、T細胞の活性化が維持されがん細胞を 攻撃することができるようになります。 Durvalumab PD-L1 PD-1
#20. Durvalumabの開始時期 • パシフィック試験では同時化学放射線治療終了後、中央値4.1 週間でDurvalumabを投与開始している。 • サブグループ解析では同時化学放射線治療後14⽇未満で Durvalumabを開始した群がプラセボ群に⽐べて全⽣存率の改 善効果を認めた(HR0.53、95%信頼区間 0.35-0.79)(6)。 • ⼀⽅、他の報告ではDurvalumab投与開始まで25-33⽇を要し ている(7、8)。42⽇以内に治療開始した群とそうでない群とで全 ⽣存率に差がなかった。
Durvalumabの有害事象と治療法
#21. Durvalumab投与で有害事象は増えない(9) 肺臓炎 全Grade Grade3-4 Grade5 Durvalumab群 33.9% 3.4% 1.1% プラセボ群 24.8% 2.6% 1.7% • ただしrecall現象(放射線治療後しばらくして免疫治療を⾏い肺臓炎が再燃 した)の報告もあり注意が必要(10)。 • 肺V20がGrade2以上の肺臓炎の有意なリスク因⼦である(11)。 肺V20が26%以上で50% vs 肺V20が26%未満で27% (p = 0.007) • 今までの肺がん治療では経験してこなかった免疫関連有害事象 irAE(immune-related adverse event)には注意が必要。
Take Home Messagesと参考文献
#23. Take Home Messages ü肺V20が⾼いと肺臓炎リスクが上がる。 üIMRT(強度変調放射線治療)を使っても肺臓炎は 増えない。 ü切除不能Ⅲ期肺がんに対して同時化学放射線治療 後、免疫治療を1年間継続投与すると予後が延⻑ することが⽰された。
#24. 参考⽂献 1. Hanania AN, et al.: Chest., 156(1), 150-162, 2019 2. Tsujino K, et al.: Int J Radiat Oncol Biol Phys., 1;55(1), 110-115, 2003 3. Palma DA, et al.: Int J Radiat Oncol Biol Phys., 85(2), 444-450, 2013 4. Sekine I, et al.:Radiother Oncol., 80(1), 93-97, 2006 5. Chun SG, et al.: J Clin Oncol., 35(1), 56-62, 2017 6. Faivre-Finn C, et al.: J Thorac Oncol., 16(5), 860-867, 2021 7. Taugner J, et al.: Invest New Drugs., 39(4), 1189-1196, 2021 8. Desilets A, et al.: Eur J Cancer., 142, 83-91, 2020 9. Antonia SJ, et al.: N Engl J Med., 377(20), 1919-1920, 2017 10.Shibaki R, et al.: Ann Oncol., 28(6), 1404-1405, 2017 11.Shintani T,et al.: Clin Lung Cancer., 22(5), 401-410, 2021