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肺非結核性抗酸菌症 疫学・診断編(2024.11 updated)

投稿者プロフィール
番場祐基
Award 2023 受賞者

新潟大学医歯学総合病院

3,909

11

投稿した先生からのメッセージ

・肺NTM症を専門としない先生にも診療に加わっていただくことを目的にまとめました。

・NTMの概略、肺NTM症の基本的なところをまとめました。

・診断を行う上でのポイントをまとめました。

・どの程度まで経過観察としてよいのか、(私見が中心になりますが)まとめました。

概要

2023年に投稿した肺非結核性抗酸菌症解説スライドを改訂しました!

前編:疫学・診断編は主に肺非結核性抗酸菌症を専門としない先生方を対象に以下の点について解説しています。

1)肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは?

2)診断基準と診断上の諸問題

3)適切な経過観察とは?

治療については、後編:治療のポイントで詳細に解説しています。

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医

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テキスト全文

肺非結核性抗酸菌症の概要と目的

#1.

肺非結核性抗酸菌症 前編ー診断と経過観察(非専門家向け) 2024.11 updated

#2.

2 ABOUT ME Goal 番場 祐基 新潟大学医歯学総合病院 高次救命災害治療センター同 呼吸器・感染症内科 内科医 専門は呼吸器領域と感染症ですが、とりあえずなんでも診る 島暮らしをきっかけにブログ活動をスタート ブログ「内科医のジレンマ」同Facebookページ X:@LostphysicianYB note: @md_dilemma 集中治療領域で内科医だからこそできること!を模索中 色々やってますが、肺非結核性抗酸菌症は診療および研究テーマとして大きな軸の一つです

#3.

3 NTM診療に関わるかもしれない非専門の先生(特にプライマリケアに関わる方) 呼吸器内科や感染症科の専攻医 TARGET & GOAL 診療上のポイントを押さえて 適切なタイミングで専門家に相談できるようになる (できれば治療にも参画してもらう)

肺非結核性抗酸菌症の定義と疫学

#4.

4 1 2 3 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 診断基準と診断上の諸問題 適切な経過観察とは? INDEX

#5.

5 1 2 3 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 診断基準と診断上の諸問題 適切な経過観察とは? INDEX

#6.

6 Non-Tuberculous Mycobacteria 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 抗酸菌群 結核菌(M. tuberculosis) らい菌(M. leprae) 非結核性結核菌(NTM):200種以上 ヒトに病原性をもつもの M. avium/ intracellulare/ chimaera (M. avium complex = MAC) M. kansasii M. abscessus M. gordonae M. xenophi M. chelonae M. fortuitum M. scroflaceum M. szulgai M. marinum   ・   ・   ・ 7-8割以上 多くは土壌、水周りに生息 増加!

#7.

7 NTMの分類 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? M. abscessus complex M. chelonae M. fortuitum 迅速発育抗酸菌rapidly-growing mycobacteria(RGM) M. avium complex M. kansasii M. gordonae M. marinum 遅発育性抗酸菌 slow-growing mycobacteria(SGM) 7日以内で培養できる 培養に7日以上必要 など など

#8.

8 NTM症 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 局所感染 肺NTM症 皮膚感染症 播種性NTM症 播種性感染 免疫は(おそらく)正常 結節,気管支拡張, 空洞 自験例 皮膚膿瘍 皮膚潰瘍 など Emerg Infect Dis. 2009;15(9):1351-8 骨/軟部組織を中心に播種 免疫不全(AIDS, 抗IFN-γ自己抗体, GATA2欠損, etc) Lancet Infect Dis 2015; 15: 968–80

#9.

9 肺NTM症 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 粉塵・エアロゾル

#10.

10 肺NTM症は増加の一途 本邦の疫学データ 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? Emerg Infect Dis. 2016 Jun;22(6):1116-7.

肺NTM症の臨床症状と進行

#11.

11 肺NTM症は増加の一途 本邦の疫学データ 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 2020年人口動態統計 結核 (1,909人) < NTM症(2,017人) 死者数も増加している

#12.

12 肺NTM症の臨床症状 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? ・咳 ・痰 ・血痰、喀血 ・呼吸困難 ・倦怠感 ・食思不振 ・体重減少 呼吸器症状 全身症状 無症状 疾患進行 患者によって進行スピードが異なる (月単位で悪化するケースから年単位で安定なケースまで)

肺NTM症の病型と基礎疾患

#13.

13 病型 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 結節・気管支拡張型 線維空洞型

#14.

14 病型 結節・気管支拡張型(NB) 線維空洞型(FC) 中高年・痩せ型の 女性に多い 高齢男性 多くは背景疾患なし (一部は関節リウマチなど) 慢性呼吸器疾患(COPD、結核など) 多くは慢性的な経過 月〜年単位で進展 潜行性 呼吸不全の進行 疫学的特徴 基礎疾患 経過 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 結節性浸潤影+気管支拡張空洞を有するものは進行性) 空洞病変 画像所見 空洞があるものは予後が悪い

#15.

15 基礎疾患と画像所見 結節・気管支拡張型(NB) 線維空洞型(FC) 気管支拡張症 関節リウマチ(生物学的製剤) “荒蕪肺” 結核後遺症/進行したCOPD 基礎疾患 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 間質性肺炎 “非特異的”な陰影も

宿主因子と菌側因子の影響

#16.

16 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 線毛のvariants 気道クリアランス 嚢胞性線維症variants 免疫variants 結合組織variants AJRCCM. 192(5):618-28, 2015 宿主因子:肺NTM症は多因子(遺伝子)疾患である 中高年、やせ型、女性に多い “Lady Windermere syndrome” 共通の“宿主因子”が存在 肺MAC症患者のGWAS解析 →CHP2遺伝子変異との関連 ERJ. 58:1902269, 2021

#17.

17 宿主因子:関節リウマチと生物学的製剤 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? RA自体がNTM症のリスク(正確な疫学データは多くない) Ann Rheum Dis. 2013;72(1):37-42. 生物学的製剤(抗TNF-α阻害薬など)はNTM発症リスク (重症化や難治化のリスクになるかは報告によりまちまち) “生物学的製剤投与によりその(NTM症の)発症が促進される可能性があり,生物学的製剤治療開始前に,可能な限りHRCTでスクリーニングを行い,疑わしい患者には, 検痰などで定着あるいは発症の有無を確認しておく必要がある。” 生物学的製剤と呼吸器疾患 診療の手引き 日本呼吸器学会

#18.

18 菌側因子 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? Thorax. 64(10):901-7, 2009 増悪しやすい株の存在 薬剤感受性 菌種

#19.

19 肺MAC症における M. intracellulare /M. avium比 サンプルサンプルサンプル M. intracellulareは西日本で多い M. kansasiiの有病率は近畿地方で最も高く、 M. abscessusの有病率は九州・沖縄地方で最も高かった 環境の影響が 大きい Ann Am Thorac Soc .14(1):49-56, 2017

#20.

20 小括 その1 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 肺NTM症は増加の一途 多くは年単位で進行する結節・気管支拡張型だが、空洞を有する症例など一部は月単位で進行する 発症および疾患進行には宿主因子と菌側因子の両方が影響している 関節リウマチや既存の肺疾患など、基礎疾患のある方ではより注意が必要

肺非結核性抗酸菌症の診断基準

#21.

21 1 2 3 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 診断基準と診断上の諸問題 適切な経過観察とは? INDEX

#22.

22 診断基準 診断基準と診断上の諸問題 肺非結核性抗酸菌症に関する指針−2008年. 結核, 2008 A.臨床的基準 1)胸部画像所見 2)他疾患の除外 B. 細菌学的基準 1)2回以上の異なる喀痰検体で陽性 2)1回以上の気管支洗浄液で陽性 3)生検検体の所見+培養陽性 ただし稀な菌や環境から高頻度分離される菌の場合は 2回以上の培養陽性+菌種同定+専門家に相談

#23.

23 培養検査 診断基準と診断上の諸問題 Urabe N, et al. BMC Pulm Med, 2023 より作図 繰り返すと診断に寄与 ただし6回まで 痰が出ない ・誘発喀痰検査(3%高張食塩水) ・気管支鏡検査 ・胃液検査 やや侵襲的 N 培養検査提出数 参考になるので、上記検査が難しい患者さんに行うが、確定診断にはつかえない Sci Rep . 13(1):7858, 2023

#24.

24 問題点 診断基準と診断上の諸問題 核酸増幅検査(NAAT) MACに対するPCR検査は日常的に行われている(特に結核との鑑別) 原則として塗抹陽性例に使用すること(塗抹陰性、PCR陽性の場合、判断に困る 培養生えれば良いが) IGRA(インターフェロンγ遊離試験) NTM感染でも偽陽性になることがある (結核との共通抗原を有するM. marinumやM. kansasiiなどは特に注意) 現在使われているQuantiFERON-TB Plus でも注意はすべき Int J Tuberc Lung Dis.13(11):1422-6 ,2009. PLoS One. 9(4): e93986,2014. J Clin Microbiol. 56(12): e00629-18, 2018.

#25.

25 血清検査 抗GPL-core IgA抗体(MAC抗体) 診断基準と診断上の諸問題 菌体細胞壁の構成成分であるGlycopeptidolipid(GPL)の部分において、MACの共通抗原であるGPL-core※を抗原とする血清IgAをELISAで測定 cutoff 0.7U/mL キャピリア®️MAC抗体ELISAを用いた14文献のMeta-analysis(cut off 0.7U/mL)MAC症 964例 vs. 非MAC症 1918例 疾患特異性が高い (ただしMACのみ、補助診断) ※M.abscessusやM.chelonae、M.fortuitumといった 迅速発育菌もGPL-coreを有する Sci Rep. 6:29325, 2016. AJRCCM. 177(7):793-7,2008.

診断上の問題点と検査方法

#26.

26 暫定的診断基準の追加 診断基準と診断上の諸問題 1.肺MAC症の初回検査に限り、臨床的基準を満たし、1回の喀痰検査で培養陽性かつMAC抗体陽性 2.臨床的基準を満たし、胃液検体で培養陽性の場合、 喀痰検査で1回以上の培養陽性 Kekkaku. 99(7):267-270, 2024 あくまで暫定的なもので、国際ガイドラインには明記されていないため、引き続き通常の診断基準を満たすかどうか喀痰検査などを繰り返すべき Chest. S0012-3692(24)05418-7, 2024 海外の多施設コホート研究でも(ようやく?)MAC抗体の有用性について報告されており、MAC抗体の補助診断としての地位は確立されたといってよいだろう

#27.

27 やっぱり痰が出ない! 診断基準と診断上の諸問題 それでも繰り返し採取:痰の質は問わない(唾液混じりでもOK)ラングフルート™︎も活用 肺NTM症の疑い濃厚で無症状かつ空洞なし:経過観察(後述) ハイリスク例(空洞、生物学的製剤など)では、 胸部画像所見の悪化時には他疾患の鑑別も含めて気管支鏡検査を躊躇しない(抗酸菌培養検査を)

#28.

28 MAC以外の菌が出た時 診断基準と診断上の諸問題 基本的に専門家へ紹介(治療編参照) M. abscessus complex M. fortuitumcomplex 感受性、治療反応性がよいのでNTM治療に慣れていれば 自施設で治療も可能 M. gordonaecomplex コンタミネーションが多いので、 原因かどうか慎重に判断治療はMACに準拠 その他 基本的に専門家へ紹介 基本的には専門家へ紹介でよいです M. kansasii 基本的に治療を行う(治療編参照)

#29.

29 小括 その2 診断と診断上の諸問題 診断のために複数回の検体採取が必要 痰が出ない場合には侵襲的検査も考慮するが、抗MAC抗体測定も有効である(MACに限る) MAC以外の菌が出た場合には専門家へ相談を

#30.

30 1 2 3 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症とは? 診断基準と診断上の諸問題 適切な経過観察とは? INDEX

適切な経過観察の基準とケース

#31.

31 いつ、だれに治療を開始すべきか? 適切な経過観察とは Daley CL, et al. Clin Infect Dis. 71(4):e1-e36, 2020 治療を開始すべき 1)喀痰塗抹陽性 2)空洞病変を有する それ以外は「総合的に判断」 ・症状の程度 ・予後不良因子(後述) ・検出菌の種類 ・治療薬への不耐/毒性 ・免疫不全の有無 ・その患者における治療優先度 etc

#32.

32 経過観察を選択しうるケース 適切な経過観察とは 未診断例 確定診断例 画像所見のみ(健診異常) MAC抗体のみ陽性 痰培養で1回だけ陽性 空洞なし・塗抹陰性 無症状 画像所見が軽微 基礎疾患なし

#33.

33 よくあるケース 〜検診異常・中葉舌区症候群〜 適切な経過観察とは 呼吸器症状なし 体重減少など全身症状もない 痰は出ない 胸部CTでみぎ中葉とひだり舌区に小粒状影と気管支拡張所見 空洞陰影なし 検診異常(胸部X線) 誘発喀痰検査を検討 早朝喀痰を出すため、痰の容器を持って帰ってもらう 鑑別含めた血清検査として、クリプトコックス抗原、抗GPL-core IgA抗体を提出(±IGRA) 2-3ヶ月程度でフォロー症状増悪、画像悪化時には培養検査を繰り返す 気管支鏡検査も考慮 対応例(私見)

#34.

34 よくあるケース 〜MAC抗体のみ陽性、痰が出ない〜 適切な経過観察とは 将来的に治療を要する可能性 高抗体価は治療反応不良 MAC抗体陽性 誘発喀痰検査を検討 早朝喀痰を出すため、痰の容器を持って帰ってもらう 無症状でも、数年単位の経過観察が妥当 特に抗体価が高い症例では注意 画像変化がある場合、背景肺疾患がある場合にはより積極的な検査を 対応例(私見) Respir Med. 171:106086, 2020 Jpn J Infect Dis. 70: 582–585, 2017

#35.

35 よくあるケース 〜痰培養で1回だけ陽性〜 適切な経過観察とは コンタミネーションの可能性は?(画像所見は肺NTM症に合致するか) 暫定的診断基準を利用治療開始のタイミングを逸しない

肺MAC症の自然史と経過観察

#36.

36 肺MAC症の自然史 適切な経過観察とは Eur Respir J ;49(3):1600537,2017 進行群 (n=305) 安定群 (n=115) 脱落(n=68) 追跡期間3年以上(平均5.6年) 一部は自然排菌陰性化する ※安定:3年以内に治療介入なし 進行:3年以内に治療開始 治療開始(n=22) 1)若年 2)高めのBMI 3)喀痰塗抹陰性 など 治療なし(n=93) 培養陰性化(n=48)

#37.

37 肺MAC症の自然史 適切な経過観察とは PLoS One;14(4):e0216034, 2019 未治療 (n=50) 治療開始 (n=15) 治療しなかった場合の経過(平均追跡期間は6.9±5.7年) 未治療65例 (診断から半年未治療) 7割以上が未治療であった 数年間の無治療経過観察は可能しかし… 緩徐ではあるが 1)画像所見悪化 2)呼吸機能悪化(%FEV1)

#38.

38 よくあるケース 〜軽症例〜 適切な経過観察とは 無症状、軽症例の経過観察は妥当 2-3ヶ月毎程度のフォローを行うが、必ず数年単位では進行することに留意する 無症状でも進行していることは多いので、症状のみを頼りにしないほうが良い

#39.

39 小括 その3 適切な経過観察とは 治療効果が確実ではなく、副作用もありうる肺NTM症治療において、戦略的な経過観察は妥当 無治療でも一部は自然軽快するが、基本的には緩徐に進行する 併存疾患の状態や増悪リスクを含めた総合的な判断が必要

まとめと治療編への導入

#40.

40 1 2 3 肺非結核性抗酸菌 (NTM)症は増加の一途 診断には複数回喀痰検査 MAC抗体も便利 軽症例は経過観察も妥当な選択肢 まとめ

#41.

41 後半「治療編」へ続く…

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