テキスト全文
振戦の基礎知識と診断の重要性
#1. Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital
Daisuke Yamamoto みんなの
振戦診療2025
振戦を理解し、得意になる!
#2. 本講演内容に関連し、開示すべき利益相反はありません。
#3. Introduction 振戦(tremor)は、反復的で律動的な不随意運動の一種であり、
最も頻度の高い運動異常症のひとつである。
その臨床的バリエーションは多様であり、正確な診断には
①詳細な病歴聴取、②神経学的診察、③必要に応じた補助検査
を総合的に行うことが求められる。
#4. Introduction 振戦の病因は
中枢神経系疾患、末梢神経障害、薬剤性、代謝異常、あるいは加齢に伴う生理的変化
など多岐にわたる。
つまるところ、振戦は単純な病態に思えてその鑑別は非常に奥深く、
「比較的診断は難しいもの」、として理解する必要がある。
#5. Introduction そして単一の情報のみで診断を決められる病態はなく、あらゆる知識を駆使して総合的な判断を下す必要がある。おそらくは、あいまいな評価で「本態性振戦」として処理されている誤診症例も多いだろう。本プレゼンテーションでは、振戦診断の重要ポイントを効率よく理解することを目標にしている。何事も、「わかると楽しい」に違いない。これは、振戦がわかって振戦診療が楽しくなるレクチャーである。
振戦の分類とその特徴
#7. まずは振戦に名前を
つけられるようになる 振戦の分類は、近年、国際パーキンソン病・運動障害学会(International Parkinson and Movement Disorder Society)のタスクフォースによって改訂され、機能的分類と診断的分類の2軸に基づく体系的理解が提唱されている。
まずは機能的分類(軸1)から、振戦症状の分類方法を理解する。賦活条件によって振戦症状は分類される。主要な賦活条件による2分類は、安静時振戦と動作時振戦である。 Mov Disord. 2018;33(1):75-87. doi:10.1002/mds.27121.
#8. 安静時振戦 と 動作時振戦、姿勢時振戦 安静時振戦(Rest tremor):身体部位が完全に支持され、活動していないときに出現。
姿勢時振戦(Postural tremor):四肢が重力に抗して支持されている際に出現。姿勢時振戦は 動作時振戦に含まれる。 Mov Disord. 2018;33(1):75-87. doi:10.1002/mds.27121.
#9. 動作時振戦:動作時振戦には下位分類があり、分類は次の表のごとく行われる。
動作時振戦(Action tremor)
単純運動時振戦(simple kinetic tremor): 目標を伴わない反復的な運動(手を開く・閉じる、ドアノブを回す、手を上下に動かすなど)を行っている最中に出現する振戦
企図振戦(intention tremor):
小脳失調で認められる。
作業特異的振戦(Task-specific tremor):特定の動作(例:筆記、楽器演奏)のみに出現。この場合は、ジストニアによる振戦の可能性を考慮する。 Mov Disord. 2018;33(1):75-87. doi:10.1002/mds.27121.
#10. POINT
安静時振戦、動作時振戦
姿勢時振戦、企図振戦
振戦の診断的分類とパーキンソン病
#11. 振戦に名前を付けて
➡その後、病名を考える。 振戦の分類において最も根本的な原則は、安静時振戦か?動作時振戦か?である。振戦症状を評価した上で、いずれかの振戦の原因疾患を考えていくことになる。
次に国際パーキンソン病・運動障害学会が示す、診断的分類(軸2)に沿って、代表的な診断を表2に示す。 Mov Disord. 2018;33(1):75-87. doi:10.1002/mds.27121.
#12. 診断的分類 際立つのは安静時振戦の代表がパーキンソン病であることである。その他の振戦は、動作時振戦、姿勢時振戦がほとんどである。安静時振戦であればパーキンソン病である、と単純には断定はできないものの、まずは安静時か?動作時か?の、大まかな分類が役に立つ。 Mov Disord. 2018;33(1):75-87. doi:10.1002/mds.27121.
#13. POINT
パーキンソン病は安静時振戦
その他は動作時振戦
#14. イントロダクション:総論 振戦の診断においては、①病歴の聴取、②神経学的診察、③補助検査という三つの観点から構造化された評価を行うことが推奨される。
まず①病歴の聴取では、発症様式(急性または慢性)、誘因の有無、症状の進行経過、家族歴、薬剤使用歴などを詳細に把握する必要がある。
次に②神経学的診察では、振戦が出現する時相、左右差の有無、振戦の周波数や振幅、小脳症状や筋緊張といった随伴症状の有無を評価する。
薬剤性振戦の原因と診断
#15. さらに③補助検査としては、甲状腺機能、肝機能、銅代謝を含む血液検査、脳MRI、DATスキャンなどを活用する。
これらの情報を総合的に判断し、症候学的な分類と疾患特異的な所見を照らし合わせることで、振戦の病型を同定し、適切な治療方針を決定することが可能となる。
総論的にはこのような解説になるが、もちろんこの説明だけでは到底理解できない。以降各論を解説し、より具体的な理解を深めていく。 イントロダクション:総論
#17. まずは常用薬の確認から まず診療の初めには、患者さんが現在使用している処方薬の確認を行う。
使用薬剤によって振戦が惹起されていないかを確認することは極めて重要であり、 これだけで診断が確定する場合もある。
ただし、薬剤性振戦についての知識がなければ適切に対応することは困難であるため、あらかじめ薬剤性振戦を起こしうる薬剤についての知識を整理しておく必要がある。
代表的な原因薬剤については、表にまとめて示す。 Parkinsonism Relat Disord. 2005;11(4):211–220.
#18. 薬剤性振戦の原因薬 Handb Clin Neurol. 2011;100:713-725.
#19. 薬剤の確認+αの情報も必要 ただし、これら薬剤を服用しているからといって、必ずしも患者さんの診断が薬剤性振戦であるとは限らない。
しかしながら、該当薬の使用歴があれば、まずは薬剤性の可能性を検討するのが妥当である。
特に、振戦の出現時期と薬剤導入のタイミングとの間に因果関係が疑われる場合には、薬剤性振戦の可能性を念頭に置く必要がある。 Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2017;7:442. doi:10.7916/D8ZP4C2H.
#20. 薬剤性振戦の臨床的特徴についても把握しておきたい。多くは姿勢時あるいは動作時に顕著となり、安静時振戦は比較的少ない。
振戦の頻度は4〜12 Hz程度の中等度でリズミカルであり、本態性振戦と類似することもある。
ただし、薬剤によってはパーキンソン病様の安静時振戦を呈することもある。
なお、薬剤ごとに振戦誘発の機序は異なり、その病態が明確に解明されていないものも少なくない。 薬剤性振戦の症状 Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2017;7:442. doi:10.7916/D8ZP4C2H.
薬剤性振戦の診断における留意点
#21. 薬剤性振戦の原因薬 Handb Clin Neurol. 2011;100:713-725.
#22. 薬剤性振戦の原因薬剤としては、リチウムやバルプロ酸といった気分安定薬、SSRI、三環系抗うつ薬が代表的である。
さらに、シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制薬は、特に臓器移植後に典型的な原因薬剤として知られている。
そのほか、β刺激薬などの気管支拡張薬、カルバマゼピンやフェニトインなどの抗てんかん発作薬、ハロペリドールなどの抗精神病薬、カフェインやテオフィリンといった中枢刺激薬も振戦を惹起し得る。 薬剤性振戦の代表的薬剤 Handb Clin Neurol. 2011;100:713-725. doi:10.1016/B978-0-444-52014-2.00051-1.
#23. ①当該薬剤が振戦を新たに惹起したのか、それとも潜在的な振戦(例:発症前のパーキンソン病など)を顕在化・増悪させたに過ぎないのか。
②複数の振戦誘発薬剤を併用している場合、単一の薬剤に原因を特定することが困難である。 (リチウム+SSRI/VPA、タクロリムス+ステロイドの併用など) 薬剤性振戦の診断における留意点として、以下の点が挙げられる。 Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2017;7:442. doi:10.7916/D8ZP4C2H.
#24. ③腎機能や肝機能の低下により薬物の代謝・排泄に異常が生じ、副作用として振戦が出現する可能性がある。
④精神的要因によって振戦症状が修飾されている可能性はないか。
⑤多剤併用による薬物相互作用により、血中濃度の変動や薬効の相加的影響が生じていないか(例:サルブタモール+テオフィリン:相加的に中枢刺激作用・交感神経刺激作用を増強し、手指振戦が悪化)。
これらの点を考慮すると、薬剤性振戦の診断は一筋縄ではいかないことが理解される。 薬剤性振戦の診断における留意点として、以下の点が挙げられる。 Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2017;7:442. doi:10.7916/D8ZP4C2H.
#25. 薬剤性振戦の確定診断には、「薬剤中止による症状の明らかな可逆性」、「薬剤投与開始あるいは増量との時間的関係の明確化」、「その薬剤単独での再現性」の三要素が揃うことが理想である。
しかし、実臨床においては「薬剤性が強く疑われる」といったレベルの診断にとどまることも少なくない。 薬剤性振戦の診断における留意点として、以下の点が挙げられる。 Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2017;7:442. doi:10.7916/D8ZP4C2H.
#26. 症状はしばしば非特異的であり、本態性振戦など他疾患との鑑別が困難なことも多いため、綿密な病歴聴取と経過観察が診断の中核をなす。
また、症状の進行性増悪がみられないことも、神経変性疾患との鑑別において有用な判断材料となりうる。 薬剤性振戦の診断における留意点として、以下の点が挙げられる。 Handb Clin Neurol. 2011;100:713-725.
振戦の既往歴とその重要性
#27. POINT
開始した直後ではなく、
変化の経過も追いながら。
#29. 既往歴確認の大切さ 振戦の診断において、既往歴の聴取は極めて重要である。
振戦は多様な原因によって生じる不随意運動であり、その背景にある疾患を正確に同定するには現在の症状のみならず、過去に罹患した疾患、外傷歴、手術歴、薬剤使用歴、生活習慣などを総合的に評価する必要がある。 Mov Disord. 2018;33(1):75-87.
#30. 既往歴確認の大切さ 特に、神経変性疾患、代謝性疾患、内分泌疾患、中毒性疾患、遺伝性疾患、脳血管障害、自己免疫性疾患など、振戦の原因となりうる病態に応じて、聴取すべき既往歴における焦点は異なる。 Curr Neurol Neurosci Rep. 2009;9(4):273-277.
#31. まず、振戦を生じうる神経変性疾患の中でも最も頻度の高いパーキンソン病について解説する。
病歴の聴取においては、四肢の無動、筋強剛、歩行障害などの「運動症状」の有無を確認することが必要である。
加えて、便秘や嗅覚低下、レム睡眠行動障害などの「非運動症状」の存在も探る。また、レビー小体型認知症も勘案し認知機能低下や幻視症状がないかを尋ねる。
頻度の高いPD Mov Disord. 2015;30(12):1591-1601. doi:10.1002/mds.26424.
#32. 次に、頻度の高い本態性振戦を検討する場合には、まず「家族歴」とともに、「若年発症歴の有無」に注目する必要がある。
長年にわたり安定して経過している手の振戦が存在し、特に飲酒により改善する傾向がある場合には、本態性振戦の可能性が高まる。
頻度の高いET Mov Disord. 2010;25(5):534-541.
#33. 代謝性疾患に起因する振戦としては、甲状腺機能亢進症が典型である。やはり振戦主訴の評価において甲状腺ホルモン検査は必ず確認しておきたい。
また、過去に甲状腺疾患の診断や治療歴があるか(レボチロキシンによる薬剤性振戦の可能性もありうる)、あるいは動悸、体重減少、下痢などの甲状腺機能亢進症を示唆する症状があったかどうかを確認する。 甲状腺機能亢進症 Practical Neurology. 2012;11(5):10-21.
#34. また、低血糖も振戦の原因になりうるため、糖尿病の既往やインスリンや経口糖尿病薬の使用歴も評価する。尿毒症性振戦の可能性については腎不全、透析歴もヒントになる。
中毒性の振戦を考慮する際には、カフェイン過剰摂取、アルコール依存症歴を確認する。
低血糖・尿毒症・嗜好品 Practical Neurology. 2012;11(5):10-21.
#35. 遺伝性疾患の病歴聴取 遺伝性疾患としては、若年発症のジストニア、ウィルソン病、脊髄小脳変性症などがある。これらを念頭に置いた場合、振戦に加えて歩行障害、構音障害、眼球運動障害など、他の神経所見の存在を確認する。
ジストニアに伴う振戦は、作業特異的振戦(Task-specific tremor)である。この場合、筋の過緊張所見を伴う。ウィルソン病は、肝機能障害+神経症状のキーワードで想起する。脊髄小脳変性症では小脳失調症状を伴う Mov Disord. 2018;33(1):75-87.
#36. 脳卒中関連の振戦 脳血管障害に起因する振戦は、特に中脳や視床領域の梗塞や出血後に出現することがあるため、過去の脳卒中の既往を確認する。さらに、脳卒中後の遅発性振戦では、発症から数ヶ月を経て振戦が出現することがあることも留意しておく。
これは赤核振戦として表現され、小脳・中脳・視床の脳卒中が振戦の原因になりうる。 Mov Disord. 1998;13 Suppl 3:2-23.
家族歴の確認とその意義
#37. 自己免疫性疾患 自己免疫性疾患も背景疾患の鑑別になりうる。多発性硬化症などの脱髄性疾患が原因となる場合もある。 J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2001;70(6):691-694.
#38. 機能性疾患 機能性振戦は、器質的な神経疾患によらない振戦であり、機能性神経障害の一つである。発症は突然であることが多く、症状には日内変動や非定型な分布を認めることが特徴である。注意をそらすことで症状が軽減するほか、リズム運動によって振戦が同調する(entrainment test陽性)ことも診断の手がかりとなる。
機能性振戦の診断は、これらの陽性所見に基づく臨床的診断が中心であり、必要に応じて除外診断のために画像検査や電気生理検査を行う。 JAMA Neurol. 2018;75(9):1132-1141.
#39. 並存疾患と振戦 Neurol Clin. 2015;33(1):185-202. Mov Disord. 1998;13 Suppl 3:2-23.
#42. 家族歴を確認する 振戦の原因疾患を診断する過程において、家族歴の確認は重要な要素である。特に、神経変性疾患や遺伝性疾患、代謝性疾患の一部では家族内発症の傾向が明確であり、家族歴から得られる情報は臨床診断の大きな手がかりとなる。
家族歴の聴取は、単に振戦の有無を尋ねるだけでなく、その性質、発症年齢、経過、診断名、日常生活への影響などを確認する必要がある。 Mov Disord. 2018;33(1):75-87.
#43. 本態性振戦の家族歴 本態性振戦は、家族歴が診断に直結しやすい疾患である。本態性振戦では常染色体優性遺伝形式をとることが多く、親や祖父母、兄弟姉妹に振戦を呈する者がいないかを確認することが有用である。第一度近親者(両親・兄妹・子供)に本態性振戦患者がいると、本態性振戦を発症するリスクは4.7倍に増加する。
また、本態性振戦の症状は加齢とともに顕在化することが多いため、「年をとってから手が震え出した家族がいるか」といった問い方が実際的である。 Ann Neurol. 2001;49(6):761-769.
#44. パーキンソン病の家族歴 パーキンソン病についても家族歴聴取の意義はある。パーキンソン病は孤発例が大多数であるが、遺伝子異常による遺伝性パーキンソン病の存在が知られており、特に若年発症例においては家族内発症の確認が重要となる。
一方、孤発性パーキンソン病と考えられる場合であっても家族歴を有する場合も多く(15-25%)、やはり家族歴がある場合はその患者さんがパーキンソン病である事前確率が高くなる。 N Engl J Med. 2000;343(24):1765-1770.
#45. 代謝性疾患:Wilson病 ウィルソン病をはじめとする代謝性疾患では、家族歴の聴取は診断の糸口となる。ウィルソン病は常染色体劣性遺伝形式であり、両親が保因者である場合に発症する。 Hepatology. 2008;47(6):2089-2111.
#46. 代謝性疾患:Wilson病 そのため、同胞に肝障害や精神症状、運動障害などを呈した者がいなかったかを確認する。
特に、若年期(40歳未満)に肝障害とともに、振戦を含む神経症状を呈し、明確な診断がつかないまま経過した家族がいる場合には、ウィルソン病を疑う必要がある。 Hepatology. 2008;47(6):2089-2111.
現病歴の聴取と振戦の特徴
#47. 脊髄小脳変性症 脊髄小脳変性症などの神経変性疾患においても家族歴の意義は大きい。これらの疾患では、多くが常染色体優性遺伝形式をとり、発症年齢や症状の進行様式に家族内での一定の傾向がみられることがある。 Curr Opin Neurol. 2011;24(4):339-345.
#48. 脊髄小脳変性症 特に、歩行障害や言語障害、構音障害、認知機能低下などを伴う疾患では、家系内に同様の経過をたどった人物がいなかったかを聴取する必要がある。 Curr Opin Neurol. 2011;24(4):339-345.
#49. 自己免疫性疾患 自己免疫性疾患に起因する振戦、たとえば甲状腺機能亢進症に伴う振戦では、家族内にバセドウ病などの甲状腺疾患を有する者がいないかを確認することが重要である。
自己免疫疾患には家族内集積性があるため、甲状腺疾患以外にも、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、1型糖尿病などの既往が家族内にある場合は、自己免疫性疾患が存在する事前確率を高める。
Autoimmun Rev. 2015;14(2):174–180.
#50. 遺伝歴と振戦 遺伝歴がある場合には、変性疾患かどうか?が主な検討事項になる。
まれだが若年者ではウィルソン病を検討する。 Mov Disord. 2018;33(1):75–87.
#51. POINT
遺伝歴聴取はET・PDがメインだが、
それ以外の遺伝性疾患も。
#53. 振戦の現病歴 振戦の診断において、現病歴の聴取は極めて重要な要素である。
診察に先立ち得られる現病歴の情報は、器質的疾患による振戦と、機能的要因による振戦とを鑑別するための重要な手がかりとなる。
また、薬剤性、代謝性、中毒性などの可逆的な要因の特定にも役立つ。 Mov Disord. 1998;13 Suppl 3:2–23.
#54. 振戦の現病歴 まず、振戦の発症様式に関しては、急性、亜急性、慢性といった時間的経過に注目する必要がある。突発的に出現した振戦は、薬物中毒、代謝異常、中枢神経感染症、脳卒中などの急性病態を示唆する。また機能性振戦もこの発症パターンである。 Mov Disord. 1998;13 Suppl 3:2–23.
#55. 振戦の現病歴 数ヶ月から数年にわたり徐々に進行する振戦は、神経変性疾患や本態性振戦の可能性を考慮すべきである。
そのため、「いつから震えを自覚するようになったか」「その頃の体調や出来事に変化はあったか」「振戦は突然始まったのか、徐々に悪化したのか」といった問いにより、発症の契機や時間軸を明確にすることが重要である。 Mov Disord. 2018;33(1):75–87.
#56. いつどのように震えるのか 次に、振戦の出現場面とそれによる機能障害の程度を確認することも診断上有用である。振戦が安静時に目立つのか、姿勢保持時に増強するのか、それとも動作中に誘発されるのかといった情報は、疾患の鑑別に直結する。
「じっとしているときに震えが出るか」「コップを持つときや字を書くときに震えが強くなるか」「姿勢を保つと震えてくるか」といった質問は、振戦の分類(安静時振戦、姿勢時振戦、動作時振戦)を見極める手がかりとなる。 Mov Disord. 2018;33(1):75–87.
本態性振戦の理解と診断基準
#57. いつどのように震えるのか また、「日常生活においてどのような支障があるか」「道具の使用や食事、衣服の着脱に困難を感じるか」などを尋ねることで、振戦の臨床的意義や重症度の評価にもつながる。
Curr Neurol Neurosci Rep. 2009 Jul;9(4):273–277.
#58. いつどのように震えるのか さらに、振戦の分布や左右差の有無も診断に重要な情報を提供する。
たとえば、本態性振戦では多くの場合、両側上肢に比較的対称性に振戦が出現する。
一方、パーキンソン病では、通常、片側優位の安静時振戦から始まることが多い。
「どちらの手が先に震え始めたか」「手以外に震える部位があるか」「震えの強さに左右差があるか」といった質問により、症状の局在と広がりを把握することができる。
Mov Disord. 2015;30(12):1591–1601.
#59. 振戦の修飾因子 また、症状の変動性や修飾因子についても、現病歴の中で確認すべき事項である。たとえば、「アルコール摂取により症状が軽減するか」「疲労や緊張によって悪化するか」「時間帯によって症状の強さに変化があるか」などの質問は、診断的価値が高い。
アルコールによって一時的に振戦が軽減する場合は本態性振戦を支持する所見であり、日内変動や心理的要因による変動が著しい場合には、機能性振戦の可能性を念頭に置くべきである。 Lancet Neurol. 2005;4(2):100–110.
#60. 振戦の修飾因子 薬剤性や中毒性の振戦を疑う場合には、「振戦が始まる前に新たな薬剤を使用し始めたか」「カフェインやアルコールの摂取量が増加していないか」「農薬、重金属、化学薬品などへの曝露歴があるか」といった点を確認する必要がある。
薬剤性振戦はしばしば用量依存性であり、原因薬剤の中止によって症状が軽減することが多いため、時系列に沿った詳細な薬歴の聴取が必須である。 Mov Disord. 2010;25(5):534–541.
#61. 振戦以外の症状はないか? 神経変性疾患や遺伝性疾患を鑑別に挙げる際には、振戦以外の神経症状の有無についても現病歴の中で把握しておくべきである。
「動作が遅くなったと感じることがあるか」「歩行中に足がもつれる、あるいは転倒しやすいことがあるか」「言葉が出にくい、あるいは字が書きづらいと感じるか」といった質問を通じて、他の神経症状の存在や進行状況を評価することが求められる。
Mov Disord. 1998;13(Suppl 3):2–23.
#62. 既往歴と振戦 病歴が病態そのものを反映しうる。いつ発症し、どのように経過したかを確認する。経過により、想定する疾患群のあたりをつける。 Neurology. 2008;71(9):670–676. Handb Clin Neurol. 2011;100:453–463.
Lancet Neurol. 2004;3(5):291–304. Lancet Neurol. 2005;4(12):866–876.
Mov Disord. 2016;31(4):555–562. Lancet Infect Dis. 2010;10(12):835–844.
#63. POINT
主には病歴が病態を
反映するのだろう。
#65. 本態性振戦の理解は
振戦診療の中核である。 本態性振戦(essential tremor)は最も頻度の高い振戦性疾患の一つであり、特に中高年以降に発症する慢性かつ進行性の神経疾患である。本疾患に特徴的な振戦は、動作時および姿勢保持時に出現・増悪する点にあり、安静時振戦は原則として認められないか、あっても目立たないことが多い。
疾患の進行期には安静時振戦も認めうる。通常、振戦は上肢の遠位部から始まり、左右対称性に出現する傾向があるが、症例によっては非対称性を呈することもある。
Mov Disord. 2010;25(5):534–541.
#66. ETの振戦の部位 振戦の頻度は一般に6〜10 Hz程度の中等度の速さで、細かく規則的な律動性を示す。患者は「手が細かく震える」「コップを持つと中身がこぼれる」「字がうまく書けない」などと訴えることが多く、日常生活動作、特に微細運動を要する場面で支障が顕著となる。
本態性振戦患者は、「書くこと、食べること、飲むこと」の動作において振戦症状によってQOL低下を認めていることに注目する。 Lancet Neurol. 2005;4(2):100–110.
パーキンソン病における振戦の特徴
#67. ETの振戦部位 初期には特定の動作に限定されることもあるが、経過とともに他の動作や部位に波及することがある。振戦の解剖学的分布としては、手・腕(約95%)が最も頻度が高く、次いで頭部(41%)、声(29%)、脚(17%)、顔面(15%)、体幹(8%)、舌(5%)などが報告されている。 Mov Disord. 1998;13(Suppl 3):23–29.
#68. ETの振戦部位 進行例では、頭部振戦(垂直方向の“yes-yes”振戦や水平方向の“no-no”振戦)や声帯振戦が加わることもあり、これらの所見と症状進展形式は本態性振戦に特有とされる。上肢振戦のみならず、頭部振戦、声帯振戦の存在にも注目する必要がある。
また、頭部振戦の存在はパーキンソン病より本態性振戦に一般的である。一方でパーキンソン病では、頭部振戦でなく下顎振戦が本態性振戦と比較して認められやすい。 Eur J Neurol. 2010;17(6):882–884.
#69. アルコールによる軽減 本態性振戦の診断において注目すべき臨床的特徴の一つに、アルコール摂取による一時的な症状軽減がある。「酒を飲むと手の震えが軽くなる」と訴える患者は少なくなく(50-90%)、この反応は比較的特異的とされ、鑑別診断上の有用な情報となる。 Ann Neurol. 1994;35(6):717–723.
#70. 発症年齢と家族歴 本態性振戦の発症年齢は二峰性を示すことが知られており、20〜30歳代の若年成人期に発症する場合と、60歳以降の高齢期に初発となる場合に分かれる。いずれのタイプでも、経過は緩徐進行性であり、数年から十年以上をかけて徐々に症状が進行する。早期には軽微であった症状が加齢とともに顕著となり、日常生活や社会生活に支障を来すことがある。
また、発症から診断までに長期間を要することも少なくないため、症状の時間的変化について丁寧な問診が求められる。
Mov Disord. 2010;25(5):534–541.
#71. 発症年齢と家族歴 ETは家族歴の存在も診断の一助となる。
本態性振戦は常染色体優性遺伝の形式をとることがあり、30〜70%の症例で家族歴が認められる。特に40歳未満で発症する場合には、80%以上の確率で家族歴を有するとの報告もあり、若年発症例では遺伝的背景を強く疑う根拠となる。 Mov Disord. 2006;21(11):1980–1986.
#72. ETは除外診断である。 診断は除外診断的性格を有しており、他疾患を適切に鑑別した上で確定される。本態性振戦の診断に際しては、臨床所見のみならず、症状の経時的変化、振戦の誘発状況、家族歴、アルコール感受性、他疾患の除外など、多角的な視点から症状の本質を把握することが不可欠である。
これらの情報を総合的に評価することで、診断の精度を上げることができる。裏を返せば、振戦診療における本態性振戦は最もコモンでありながら、シンプルに診断しがたい疾患ともいえる。表7に本態性振戦の診断基準を示す。 Mov Disord. 1998;13(Suppl 3):2–23.
#73. 本態性振戦の定義 緩徐な進行経過、左右対称性の動作時振戦・姿勢時振戦。振戦は速い。そして、「他疾患が除外できる」のが本態性振戦である。家族歴があると診断に自信が持てる。 Mov Disord. 2018;33(1):75–87.
#74. POINT
ETらしさを詰めつつ、
しっかり他疾患を除外する。
#76. PDの振戦 振戦診療の中心となる本態性振戦に次いで、パーキンソン病の振戦を解説する。パーキンソン病における振戦は、運動症状の四徴の一つである。振戦はパーキンソン病患者の約70〜80%に認められ、運動症状の中でも比較的早期から出現する傾向がある。
典型的には安静時振戦として出現し、四肢の遠位部、特に片側の上肢から始まることが多い。振戦様式としては、親指と人差し指をこねるような“pill-rolling tremor”が特徴的であり、これは診断上有用な所見である。 J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2008;79(4):368–376.
本態性振戦とパーキンソン病の鑑別
#77. PDの振戦 J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2008;79(4):368–376. このパーキンソン病における安静時振戦は、随意運動の開始により一旦軽減し動作中には抑制される。随意運動による症状軽減は、本態性振戦との対比において重要である。また、パーキンソン病でも姿勢時振戦は生じうるのだが、姿勢保持後、数秒たってから振戦が出現することが知られており(re-emergent tremorという)、これはパーキンソン病の姿勢時振戦に特徴的である。
一方で本態性振戦における姿勢時振戦は、姿勢をとった直後に認められ、その所見に対比がある。
#78. PDの振戦 また、パーキンソン病の振戦は緊張や精神的ストレスで増強し、特に歩行時の振戦症状の悪化は参考になる。振戦の頻度はおおよそ4〜6 Hz程度とされ、比較的ゆっくりとした律動性を呈する。
この点は、より速い頻度(6〜10 Hz)を示すことが多い姿勢性振戦や動作時振戦と異なる特徴であり、鑑別の一助となる。
また、下肢振戦・下顎振戦の存在は本態性振戦よりもパーキンソン病を肯定する所見として理解してよい。
Lancet Neurol. 2000;355(9210): 1259–1265.
#79. PDでは振戦以外の運動症状がある。 パーキンソン病の運動症状はしばしば左右非対称に始まり、振戦も初期には片側の手に出現し、病勢の進行とともに対側や下肢に広がっていく。この片側優位性は、両側性を呈しやすい本態性振戦など他疾患との鑑別において重要な所見である。
振戦に加えて、筋強剛、動作緩慢、姿勢保持障害といった他の運動症状が明らかであれば、パーキンソン病の診断を強く支持する。 Mov Disord. 2015;30(12):1591–1601
#80. PDでは振戦以外の運動症状がある。 しかし、初期には振戦が唯一の症状として出現することもあり、このような場合には本態性振戦との鑑別が困難となることがある。さらに、パーキンソン病の進行に伴って、安静時振戦に加えて動作時にも振戦がみられるようになることがあり、複合型の振戦(mixed tremor)を呈する場合がある。
このような症例では、安静時振戦と姿勢時振戦の両方が確認される。したがって、振戦のタイプ(安静時か動作時か)のみで疾患を断定することは適切ではなく、パーキンソン病では複合的な振戦様式がありうるという認識が重要である。逆もしかりで、本態性振戦の進行期においても混合型の振戦を認めうる。 Parkinsonism Relat Disord. 2000;6(1):53–62.
#81. ET VS PDの相違点とピットフォール Mov Disord. 2010;25(5):534–541.
Mov Disord. 2014;29(13):1583–1590 本態性振戦とパーキンソン病は、成人発症の振戦性疾患として最も頻度が高い2疾患である。パーキンソン病の有病率は加齢とともに増加し、65歳以上では約1.8%に達する。一方、本態性振戦も加齢とともに頻度が上昇し、65歳以上では約4.6%とされている。
臨床医がこの2疾患の鑑別を迫られる場面は多く、とりわけ疾患初期には所見が微妙で、判断が難しいことは少なくない。
両疾患の対比にあたっては、以下のような診断の“定型”が語られることがあるが、いずれも例外が存在するため、注意が必要である。
#82. ET VS PDの相違点とピットフォール 「安静時振戦であればパーキンソン病である」: 本態性振戦の重症例や罹病期間の長い症例では本態性振戦でも安静時振戦を呈することがある。
「動作時振戦であれば本態性振戦である」: パーキンソン病でも動作時振戦を呈することがある。
「左右非対称性の振戦であればパーキンソン病である」:本態性振戦でも左右非対称に始まることがある。 Neuroepidemiology. 1997;16(3):124–133.
Curr Neurol Neurosci Rep. 2013;13(6):353.
J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2008;79(4):368–376.
#83. ET VS PDの相違点とピットフォール このように、本態性振戦とパーキンソン病の鑑別には、単一の所見に頼らず、総合的かつ長期的な視点での評価が必要である。経過観察を通じて診断を確定していく柔軟な姿勢が、過剰な診断確定や誤診を避けるうえで重要である。
加えて、本態性振戦とパーキンソン病が合併して存在する可能性もあり得るため、実臨床では「本態性振戦+パーキンソン病」の可能性も考慮した柔軟な思考も必要になる。
診断に迷う症例では、DATスキャンの施行が有用であり、本態性振戦とパーキンソン病の鑑別に際して客観的な指標となりうる。 Expert Rev Neurother. 2012;12(6):687–696
#84. ET VS PDの相違点とピットフォール 本態性振戦とパーキンソン病の鑑別は古典的なテーマであるが、今なお困難を伴う場合があり、臨床経過を丁寧に追いながら診断を進める姿勢が求められる。
最後に、両疾患の基本的な相違点を示す。例外はありうることを理解しながら、まずは典型をマスターする。 Mov Disord. 2018;33(1):75–87.
#85. ET VS PD まとめ Mov Disord. 2018;33(1):75–87.
Mov Disord. 2015;30(12):1591–1601
#86. POINT
ET VS PDのせめぎあい。
やはりPDは難しいと思いながら。
振戦の検査方法とその意義
#88. 機能性振戦 機能性振戦(functional tremor)の診断は、器質的疾患を除外することも重要だが、機能性振戦らしい陽性所見を積極的に捉えることによって確定される。診断において重視されるのは、神経学的診察を通じて得られる一貫した「機能性振戦らしい」といえる臨床的特徴である。
臨床的に典型的な所見としては、まず注意依存性が挙げられる。 Lancet Neurol. 2012;11(3):250–260.
#89. 機能性振戦 これは、患者が他の運動課題に注意を向けると振戦が軽減または消失する現象である。また、振戦の周波数や振幅が短時間のうちに変動する「可変性」も重要な所見であり、神経変性疾患にみられる安定した振戦とは対照的である。
さらに、他側の四肢に一定のリズム運動を課した際に、患側の振戦がそのリズムに同調する「entrainment現象」も、機能性振戦に特徴的である。このほか、振戦の突然の出現や消失、易疲労性(fatigability)なども診断の一助となる。 Lancet Neurol. 2012;11(3):250–260
#90. 機能性振戦 鑑別診断としては、初期のパーキンソン病や両側性の本態性振戦とは症状が類似することがあるため、診察時には陽性所見の有無に細心の注意を払う必要がある。
特に、神経変性疾患ではみられない同調現象や注意依存性を確認することが、正確な鑑別において有用である。 Lancet Neurol. 2012;11(3):250–260
#91. 脊髄由来の振戦 脊髄疾患が背景にある場合、振戦の原因になりうる。脊髄性振戦は、多くの場合、局所的かつ姿勢依存性の振戦として現れ、特に四肢近位部や体幹に限局することが特徴である。脊髄障害に由来するため、振戦症状以外にも表在感覚や深部感覚の障害、痙性、筋力低下、腱反射の亢進など、明らかな脊髄症候を伴う。
脊髄損傷後や頚椎症性脊髄症、脊髄空洞症、自己免疫性脊髄炎、遺伝性脊髄小脳変性症など、幅広い病因によって生じうる。典型的な所見としては、振戦が持続的に同一の肢位で誘発され、他の姿位では消失または著明に軽減するという姿勢依存性を有する点が挙げられる。また、振戦が体幹に限局し、四肢に拡がらない場合には脊髄病変を強く示唆する。
Mov Disord. 1998;13(Suppl 3):2–23.
Curr Opin Neurol. 2014;27(4):442–449.
Mov Disord. 1992;7(3):219–228
#92. 末梢神経由来の振戦 末梢神経疾患が背景にある場合、それが振戦の原因になりうることを理解しておく。末梢神経障害由来の振戦は、多くの場合、感覚神経と運動神経の両方に影響を及ぼす広範なニューロパチーに伴って出現する。
特に、感覚神経の障害によって固有感覚(位置覚・振動覚など)のインプットが著しく障害されることが、フィードバック制御系の破綻を通じて振戦の発生に関与していると考えられている。このような機序で生じる振戦は、感覚性振戦と呼ばれ、視覚や他の感覚による代償が不可能な場合に顕在化しやすい。 Handb Clin Neurol. 2011;100:679–688.
Mov Disord. 2004;19(3):253–267
#93. 末梢神経由来の振戦 臨床的には、主に四肢遠位部に出現する姿勢時・動作時振戦として観察され、通常は中等度以上の感覚障害を伴う。患者は四肢のふらつきや手の不器用さを主訴とすることが多く、振戦は目を閉じることで増悪する傾向がある(Romberg徴候との関連)。
代表的な疾患には、慢性炎症性脱髄性多発神根炎(CIDP)、ギランバレー症候群、シャルコー・マリー・トゥース病などが含まれる。
肢 J Neurol Sci. 2005;233(1-2):143–151.
#94. POINT
その他:脊髄由来・末梢神経由来
#96. 振戦の採血検査 振戦の背景にある疾患を診断する際には、神経変性疾患、内分泌・代謝異常、中毒性疾患、器質的脳病変、自己免疫疾患などを念頭に置いて、必要な採血検査を選択する。すべての検査項目を網羅的に実施する必要はなく、臨床像に応じた絞り込みが重要である。
検査の実施にあたっては、ルーチンで評価すべき項目と、症例ごとの条件に応じて追加すべき項目とを区別して整理することが望ましい。 Practical Neurology. 2016;16(5):340–348
振戦診断に役立つ問診票の作成
#97. 振戦の採血検査 振戦のパターンに関わらず、すべての患者にとってスクリーニングが重要であり、甲状腺機能、肝機能、腎機能、電解質(カルシウムとマグネシウムを含む)、血球数の検査を行う必要がある。
臨床検査は、振戦の特定の遺伝的原因の診断にも役立つ。これらの原因には、ウィルソン病における血清セルロプラスミン値などが該当する。表に採血検査と鑑別疾患のまとめを示す。
Mov Disord. 2018;33(1):75–87
#98. 振戦の採血 「羽ばたき振戦」をここに加えたが、神経生理学的には「陰性ミオクローヌス」に分類されるため、振戦とは区別される。ただし、不随意運動におけるスクリーニングの採血検査としては評価対象になろう。 Practical Neurology. 2016;16(5):340–348.
#99. 振戦で評価する画像検査 画像検査を施行する目的は、主に脳や脊髄の器質的疾患を鑑別することである。繰り返しの話題になるが、パーキンソン病と本態性振戦の鑑別はしばしば議論となる。パーキンソン病が疑われる場合には、DATスキャンやMIBG心筋シンチグラフィーの実施を検討する。
また、脊髄病変の可能性が鑑別に上がる場合には、脊髄MRIも有用な検査手段となる。スクリーニング目的で頭部画像検査を行った際に異常所見が認められた場合には、それを手がかりとしてさらに詳細な鑑別を進めていくことが重要である。表10に画像検査と鑑別疾患のまとめを示す。 Mov Disord. 2018;33(1):75–87
#100. 振戦の検査 画像検査で基底核の左右対称性病変がある場合はウィルソン病等の代謝性病態の検討となる。脳萎縮があるなら変性疾患を考慮する。DATスキャンは、本態性振戦/薬剤性振戦などのあらゆる振戦性疾患VSパーキンソン病の鑑別の切り札。 Practical Neurology. 2016;16(5):340–348
#101. POINT
採血・MRI・DAT SCAN
#103. ここまでの内容を含んだ、
診断に役立つ網羅的知識を抽出するための
問診表を作成しました。
知識の確認もしてみましょう。
#104. 1. 現在服用中の薬剤の確認
質問: 現在お飲みになっているお薬の中に、振戦(手や体のふるえ)を引き起こす可能性があるものがあります。以下の代表的な振戦誘発薬剤のリストを示しますので、該当するものにチェックしてください。
気分安定薬(精神科、心療内科での処方薬) 薬剤名:_____________________
抗うつ薬 (精神科、心療内科での処方薬) 薬剤名:_____________________
抗精神病薬(精神科、心療内科での処方薬) 薬剤名:_____________________
免疫抑制剤・ステロイド(プレドニゾロン、タクロリムスなど)薬剤名:_____________________
気管支拡張薬(喘息や肺気腫で使用する吸入薬) 薬剤名:_____________________
抗てんかん発作薬(てんかんの薬) 薬剤名:_____________________
喘息治療薬(テオフィリン など) 薬剤名:_____________________
抗不整脈薬 薬剤名:_____________________
その他の薬剤(上記以外で現在服用中のもの) 薬剤名:_____________________
#105. 2. 既往歴(これまでにかかった病気やけが)
質問: 過去に経験した病気や手術・けがについて教えてください。
該当する項目にチェックし、具体的な病名や内容・時期をお書きください。
神経の病気(例:パーキンソン病、脳卒中〈脳梗塞・脳出血〉、てんかん、脳炎 など):
病名・経過: __________________________________________________
代謝・内分泌の病気(例:甲状腺の病気〈バセドウ病等〉 、糖尿病、肝臓・腎臓の病気 など):
病名: __________________________________________________
精神の病気(例:不安障害、うつ病、統合失調症 など):
病名: __________________________________________________
その他内科系の病気(心臓・呼吸器・血液など特筆すべき病気があれば):
病名: __________________________________________________
手術歴(とくに脳や脊椎の手術歴):
手術内容・時期: __________________________________________________
大きなけがや外傷歴(とくに頭部外傷 や むち打ち など):
内容・時期: __________________________________________________
#106. 3. 家族歴・遺伝歴
質問: ご家族やご親戚に、同じような振戦(ふるえ)の症状がある方はいらっしゃいますか。
はい(いる)
いいえ(いない)
※「はい」の場合、以下にその方との続柄(例:父・祖母・兄弟など)、発症した年齢(おおよそ)、診断名(分かれば)をお書きください。
続柄:__________ / 発症年齢: 歳頃 / 診断名:_______
続柄:__________ / 発症年齢: 歳頃 / 診断名:_______
振戦診療の総括と重要性
#107. 4. 現病歴(現在の症状が出るまでの経緯)
質問: 現在の振戦症状についてお尋ねします(いつ・どのように症状が始まり、変化してきたか)。
発症時期・きっかけ: 振戦に気づいたのは「いつ頃」からですか?その直前に何か出来事はありましたか(新しい薬を飲み始めた、大きな病気にかかった、事故に遭った、強いストレスを受けた など)?
記入欄: 症状に気づいた時期・きっかけ: __________________________________________________________
発症様式: 症状の始まり方はどれに当てはまりますか?
突然現れた(急に発症した)
徐々に現れた(少しずつ症状が出現・進行した)
リラックスしている時や十分な休息後は軽減する
その他: ______________________________________________________
日常生活への支障: 振戦のために日常生活で困っていることがありますか?
はい(ある) - 困っている内容: _________________________
いいえ(ない)
#108. 経過・症状の変化: 発症後の振戦の変化について教えてください。時間の経過とともに症状は…
悪化している(だんだん強くなっている)
ほぼ変わらない(大きな変化はない)
改善している(軽くなってきている)
良くなったり悪くなったりを繰り返している(症状に波がある)
修飾因子: 振戦の強さが変わる要因はありますか? 当てはまるものにチェックしてください(複数可)。
精神的緊張・ストレスがあると悪化する
カフェイン摂取(コーヒー、お茶など)で悪化する
疲労や睡眠不足で悪化する
リラックスしている時や十分な休息後は軽減する
その他: ______________________________________________________
日常生活への支障: 振戦のために日常生活で困っていることがありますか?
はい(ある) - 困っている内容: _________________________
いいえ(ない)
#109. 5. 振戦の詳細な状況・特徴
質問: 振戦の出方について、具体的に教えてください。
振戦が出現する時の状況: どんな時に震えますか(当てはまるものすべてにチェックしてください)?
安静にしている時(力を抜いてリラックスしているとき)
姿勢を保っている時(例:腕を前に伸ばしてじっとしているとき)
何か動作をしている時(例:コップで飲み物を飲む、字を書くなど動作の最中)
振戦が出る部位: 震えが出る体の部位にチェックしてください(複数可)。
右手・右腕
左手・左腕
両手とも(左右差なく)
頭部(首や頭が「はい・いいえ」をするように震える)
顎・顔面(口やアゴが震える)
声(話している声が震える)
下肢(両脚)
その他の部位: ________________
#110. 左右差: 振戦の左右差はありますか?
右側のほうが強い
左側のほうが強い
左右差はない(ほぼ同じ程度)
振戦の頻度: 震えはどのくらいの頻度で起こりますか?
常にまたはほぼ一日中(起きている間ほとんど持続している)
発作的・断続的(良い時と悪い時があり、一時的に止まる時間もある)
日常生活への影響: 振戦のためにしにくい動作があれば教えてください(当てはまるものにチェック)。
字を書くこと(手書きで文字を書く)
飲み物をコップや茶碗で飲むこと
箸やフォークなどで食事をすること
衣服の着脱やボタンかけ
その他: _______________________________________
#111. 6. 振戦以外の症状の有無
質問: 振戦以外に、次のような症状がありますか(当てはまるものにチェック)?
勝手に力が入ってしまう (筋肉が強ばって動かしにくい)
動作が遅いと感じる (動作緩慢、例えば歩き始めに時間がかかる 等)
歩きにくい、バランスが悪い(歩行障害や姿勢の不安定さ)
便秘がちである
匂いを感じにくい(嗅覚低下がある)
物忘れが多い・認知機能の低下を感じる
#112. 7. 本態性振戦の診断補助項目
質問: 次の項目は、本態性振戦の可能性を示唆する所見です。当てはまるものにチェックしてください。
家族に振戦症状のある方がいる(親・兄弟姉妹・祖父母など近親者)
振戦が長年にわたり続いている(発症から長い経過年数がある)
少量の飲酒で一時的に震えが軽減することがある
#113. 8. パーキンソン病の診断補助項目
質問: 次の項目は、パーキンソン病の可能性を示唆する所見です。当てはまるものにチェックしてください。
安静にしている時にも手足が震える(何も動作をしていない安静時にも振戦が出現する)
親指と人差し指をこねるような振戦をしている
片側の手や足から振戦が始まった(症状の初期は左右どちらか一方に限局していた)
震え以外に、動きの遅さや歩きにくさなどの症状もある(他の運動症状も伴っている)
#115. 双極性障害のため炭酸リチウムを内服中である。
先月、気分不安定のためリチウムの維持量が増量された。
数週間前から手指の粗大な振戦に気付き、コップを持つと水がこぼれそうになるという。
診察時にも両手の振戦がみられるが、その他の神経学的異常所見(筋強剛、歩行障害、構音障害など)はない。
①振戦の原因は? ②原因薬剤は? ③その他に考えることは? 30歳男性。
この症例を解釈して下さい。
#116. 数年前から両手のふるえに気づいていたが徐々に悪化し、最近は新聞を読む時に紙が揺れて困るため受診した。
字を書くと震え字になり、腕を前に伸ばして構えた姿勢で手指の振戦あり。
一方、安静に膝の上に手を置いた状態では目立ったふるえはない。神経診察で筋強剛や無動は認めず、歩行もほぼ正常である。
父親も高齢の頃から手の震えがあったという。
少量のアルコールを飲むと一時的に症状が和らぐとのことである。
①診断は? ②追加問診は? ③検討事項は? 68歳男性。
この症例を解釈して下さい。
#117. 安静時にも軽度の手指振戦がみられることがあり心配になって受診した。
症状に気付いて1年ほど経つが徐々に悪化傾向という。診察すると、両手を前方に伸ばしたときに中等度の振戦があり、指鼻試験では明らかな企図振戦は認めない。歩行はほぼ正常で、筋固縮や寡動もはっきりしない。
本人は動作時の振戦を主症状として訴えるが、診察室で安静にしている際にも軽い振戦が観察された。既往歴に特記すべき疾患はなく、家族にも同様のふるえを訴えた者はいない。
①診断は? ②追加問診は? ③今後のアクションは? 61歳男性。
この症例を解釈して下さい。
#118. 約半年前、仕事上の強いストレスを感じた直後から右手の震えに気づいたため受診した。振戦は安静時にも見られ、姿勢保持や動作中も持続するが、その振幅や頻度は一定ではなく刻々と変動するという。
神経学的診察では、検者が左手でリズミカルな動作を行うよう指示して患者の注意を振戦からそらすと、右手の振戦は一旦消失し、その後左手の動きのテンポに合わせて再び震え始める様子が観察された。
振戦以外に神経学的異常所見はない。
①診断は? ②追加問診は? ③今後のアクションは? 35歳女性。
この症例を解釈して下さい。
#119. 15年来の糖尿病があり、数年前から両足先のしびれ感とふらつきを自覚していた。近頃、細かい作業中に手が震えて物を落とすことが増えたため来院した。
神経学的所見では、両足の膝下にかけて振動覚と位置覚の低下を認め、アキレス腱反射は低下している。
両腕を前方に伸ばすと軽度の振戦が認められ、患者が眼を閉じると振戦の振幅が増大した。
①診断は? ②追加問診は? ③検討事項は? 55歳男性。
この症例を解釈して下さい。
#120. 数年来ゆっくり進行するふるえを主訴に来院した。
字を書こうとすると手指が大きく震え、物に手を伸ばす際には目標に近づくほどふるえが増悪するという。安静にしている時には明らかなふるえはみられない。
指鼻試験で手指の標的到達時に振幅の大きい不規則な振戦が顕著となり、歩行では軽度の酩酊様歩行がみられた。
①診断は? ②追加評価は? ③検討事項は? 70歳女性。
この症例を解釈して下さい。
#121. 手指のふるえと動作緩慢を主訴に神経内科を受診した。
1年前から書字やボタン掛けが下手になり、最近は腕を水平に伸ばすと肘を少し曲げた姿勢で手が羽ばたくように粗大に震えることに気付いたという。
両手の振戦とともに四肢の筋張力低下、小刻み歩行様の歩行障害を認める。家族に同様の症状はいない。血液検査では軽度の肝機能障害があり。
①診断は? ②検討事項は? ③追加検査は? 19歳男性。
この症例を解釈して下さい。
#122. 振戦診療を通じて、改めていろいろ総合して判断することの大切さも感じていただければ。
検査一発診断、というわけにはいかず、丁寧な情報収集が有効である。
振戦診療はよりその要素が大きかろう。 網羅的に捉え、
情報を統合する。