テキスト全文
グラム陰性桿菌の実践的分類と初期治療の選択
#1. グラム陰性桿菌の実践的分類 初期治療の選択にグラム染色を活用しよう!
亀田総合病院感染症科
黒田浩一 2018年8月14日作成 注:このスライドは、作者が個人的に作成したもので、所属施設の見解を代表したものではありません(ただし、所属施設で初期研修医など対象に、個人的に講義している内容です)
#2. 内容 (このスライドの)主な対象疾患
グラム陰性桿菌の分類のポイント
腸内細菌科細菌とは?
SPACEとは?
グラム染色によるグラム陰性桿菌の分類
グラム陰性桿菌のザックリな治療
グラム陰性桿菌の分類の図、その解説
例:腎盂腎炎の治療
#3. 主な対象疾患 グラム染色が...
初期治療の選択に有用と思われる
- 尿路感染症
- 肺炎
を主な対象としています
腸内細菌科細菌とSPACEの分類方法
#4. GNRの分類のポイント 重要な細菌を3グループに分類
- 腸内細菌科細菌をさらに2グループに分類
- ブドウ糖非発酵菌
SPACEという分類は使用しない
グラム染色を有効活用する
#5. 腸内細菌科細菌とは? Enterobacteriaceae:腸内細菌科
Escherichia coli
Klebsiella pneumoniae, K. oxytoca
Proteus mirabilis, P. vulgaris
Enterobacter cloacae, E. aerogenes
Serratia marcescens
Citrobacter freundii, C. koseri
Providencia, Morganella, Salmonella, Shigella, Yersinia...
#7. SPACEとは? 院内感染で問題となる病原体
耐性化傾向が強い
local factorを参考にして経験的治療を決定
Serratia (腸内細菌科)
Pseudomonas(ブドウ糖非発酵菌)
Acinetobacter(ブドウ糖非発酵菌)
Citrobacter※1 (腸内細菌科)
Enterobacter※2 (腸内細菌科)
#8. 「SPACE」って一括りにしているけど...
#9. 2つのグループが含まれている 腸内細菌科細菌とブドウ糖非発酵菌
#10. そしてそれらはグラム染色で区別可能 ...なことが多い(難しいこともあります)
グラム染色による腸内細菌科細菌の識別
#11. グラム染色による分類 腸内細菌科細菌
太いGNR
ブドウ糖非発酵菌
細いGNR GNR:Gram-Negative Rods グラム陰性桿菌
#12. 見た目が違うので「このグラム染色所見からSPACEを疑います」とはならない!!
#14. 腸内細菌科細菌:太い 血液培養※3:E. coli 血液培養:E. coli 尿:E. coli
#15. ブドウ糖非発酵菌:細い 血液培養:緑膿菌 喀痰:緑膿菌(FN患者) 血液培養:Stenotrophomonas maltophilia
#16. どっちか微妙なことはありますが慣れれば概ね区別できます 慣れないうちはプロフェッショナル
(微生物検査技師さん)に聞きましょう
#17. 「SPACEを疑うので治療を●●にします」 とはなりません! ただし、前提として...
・良質な検体(主に、尿と喀痰)の採取
・グラム染色の実施と解釈
が必要です というわけで
グラム陰性桿菌の治療法と抗菌薬の選択
#18. 今日からSPACEと決別しましょう さようなら
#20. グラム陰性桿菌のザックリな治療 腸内細菌科細菌※4
→セフトリアキソン
ブドウ糖非発酵菌
→抗緑膿菌活性のある抗菌薬
#21. CTRXのSPACEへの効果
Serratia(腸内細菌科) ○
Pseudomonas ×
Acinetobacter ※5 ×
Citrobacter(腸内細菌科) ○
Enterobacter(腸内細菌科) △
#22. SPACEで抗菌薬は決まらない SPACE考えます≒緑膿菌も考えます
全例「緑膿菌」カバー
#23. とはいえ... 実際、盲目的に...
- 市中発症の単純性腎盂腎炎・市中肺炎
→セフトリアキソン(第3世代セフェム)
- 複雑性・院内発症の腎盂腎炎・院内肺炎
→セフェピム(第4世代セフェム)
としても、大きな問題はないわけですが...
#24. なるべく抗緑膿菌活性のある抗菌薬を温存したい という思いがあるのです 薬剤耐性化の進んだ緑膿菌をよく治療している立場としては....
腸内細菌科細菌の分類と治療のポイント
#25. 緑膿菌カバーを外せる状況 なんとなく(?)緑膿菌カバーしたくなる状況
でも、ゾシン、セフェピム、メロペンを温存したい
太いGNRが見えていることが前提ですが...
- 市中発症の重症の単純性腎盂腎炎
- 市中発症の複雑性腎盂腎炎
- 院内発症の軽症の尿路感染症 かもしれない
#26. わかりやすい!?グラム陰性桿菌の分類の図 腸内細菌科細菌(2つ)
ブドウ糖非発酵菌
:3つのグループに分類する
#27. 腸内細菌科細菌その1
:もともとCEZ or ABPCで治療可能
E. coli
Klebsiella pneumoniae※6
Proteus mirabilis 腸内細菌科細菌その2
:内因性AmpCβLあり→CTRX
Serratia
Citrobacter※1
Enterobacter※2 ブドウ糖非発酵菌:Pseudomonas aeruginosa
Acinetobacter baumanii
(Stenotrophomonas maltophilia)
(Burkholderia cepacia) 市中感染 医療関連感染/抗菌薬曝露 ESBL産生菌
治療:
カルバペネムが第1選択
セフメタゾール、フロモキセフ
PIPC/TAZ AmpCβL過剰産生菌
特にEnterobacter spp.
治療:
セフェピム
カルバペネム ※βL:ベータラクタマーゼ カルバペネマーゼ
多剤耐性菌(カルバペネム・アミノグリコシド・フルオロキノロン耐性) 抗菌薬曝露 抗菌薬耐性機序 分類(3つのグループ)
#28. 図の解説:その1 腸内細菌科細菌は
市中感染で多い群
医療関連感染で多い群
に分類
#29. 図の解説:その2 各群で経験的治療が異なる
腸内細菌科細菌その1:
セフォチアム(or セフトリアキソン)
腸内細菌科細菌その2:
セフトリアキソン(or セフェピム)
ブドウ糖非発酵菌:
抗緑膿菌活性のある抗菌薬 もちろん、院内アンチバイオグラムも参考にします
#30. 図の解説:その3 このように3群に分けると...
各群の細菌は、「共通した重要な薬剤耐性機序」を持つ
- 腸内細菌科細菌その1:ESBL
- 腸内細菌科細菌その2:AmpC過剰産生
- ブドウ糖非発酵菌:カルバペネマーゼ
複数の耐性機序による多剤耐性菌
抗菌薬曝露歴のある患者で、抗菌薬を選択する時に、頭の中が整理しやすい
腎盂腎炎の治療における抗菌薬の選択
#31. 初期治療の選択 耐性機序まで考慮した6群のどの群まで想定・カバーすべきか、下記の情報をもとに検討すると、初期治療が決まる
発症場所(市中・院内)
抗菌薬使用歴
過去の培養歴
重症度
患者の基礎疾患 など
#33. 太いGNRが見えた場合→腸内細菌科細菌? 単純性腎盂腎炎
:E. coliをカバーすればよい
:E. coliのアンチバイオグラムを参考にする
・おそらく多く病院では
第2世代セフェムの感受性は、第3世代を同じ程度
セフォチアムを選択
または、第3世代セフェム(セフトリアキソン)
#34. 太いGNRが見えた場合→腸内細菌科細菌? 最近の抗菌薬使用
以前の培養で耐性菌やEnterobacterの検出歴
院内発症
複雑性腎盂腎炎
EnterobacterとCitrobacterなどを考慮、かつ、軽症
→セフトリアキソンが検討できるかもしれない
ESBL産生菌を考慮
→メロペネム
AmpC過剰産生Enterobacterを考慮
→セフェピムまたはメロペネム
#35. 細いGNRが見えた場合→緑膿菌? 単純性腎盂腎炎ではこのような状況はほぼない
市中発症の尿管結石による閉塞性腎盂腎炎でもほとんどない
ほとんどの緑膿菌による尿路感染症は
抗菌薬使用歴(繰り返す尿路感染症を含む)
院内発症(抗菌薬曝露歴が通常存在する)
膀胱留置カテーテル使用
が認められる J Infect 2012;64:478, Infect Control Hosp Epidemiol 2013;34(1):1
Clin Microbiol Infect 2012;18:E13, Infect Control Hosp Epidemiol 2012;33(10):993
#36. 細いGNRが見えた場合→緑膿菌? 治療を決めるにあたって、以下を確認する
最近使用した抗菌薬
以前の培養結果(菌種、感受性)
緑膿菌の院内アンチバイオグラム
上記の情報
実は腸内細菌科細菌であった場合に想定される耐性機序
を検討して、抗緑膿菌活性のある抗菌薬を選択
CAZ、CFPM
PIPC/TAZ(UTIであえて選択することはあまりない)
MEPM(ESBL、AmpC過剰産生、重症) 尿路閉塞がある場合は、その解除が必要です
→泌尿器科コンサルト ∵耐性菌への効果安定しない
and 嫌気性菌の関与はほとんどない UTI: urinary tract infection
尿のGPC chainに関する考察と治療
#37. 脱線:尿のGPC chain 多くの場合GNRも観察される
その場合GNRの治療だけすればOK
治療は不要なことが多い
たぶん教科書には書いてない!?
#38. 脱線:尿のGPC chain GPC chain(連鎖を形成するグラム陽性球菌)
- Enterococcus faecalis
- Enterococcus faecium
- Viridans Group Streptococcus
Viridans Group Streptococcus
→contaminationと判断
腸球菌
→病原性は低いため、治療は不要なことが多い
#39. 脱線:尿のGPC chain 尿のGPC chain(腸球菌)を治療する状況
- 血液培養で検出された場合
- GPC chainによる単一菌感染の場合
- 複雑性腎盂腎炎、かつ、グラム染色でGNRも見られるが、GPC chainがdominantな場合
- 重症の場合/shockの場合
グラム陰性桿菌の要点と抗菌薬耐性機序
#40. 脱線:尿のGPC chain 治療
E. faecalis:アンピシリン
E. faecium:バンコマイシン
Enterococcus属の関与を疑った場合
→empiric therapy:バンコマイシン
#41. 補足 一部、今回のメインテーマではないため割愛しています ※1:Citrobacter freundiiが該当。Citrobacter koseriは該当しない。
※2:主にEnterobacter cloacaeとEnterobacter aerogenes。
※3:血液培養で陽性となったボトルの液のグラム染色
※4:AmpC-βラクタマーゼを内因性に持っている腸内細菌科細菌に対する初期治療にCTRXではなく、CFPMを使用する専門家は多い。CTRXの治療経過中に耐性化することがあるため(特にEnterobacter spp.)。
※5:Acinetobacter spp.は、CTRX感受性のことがあるが、通常初期治療には抗緑膿菌活性のある抗菌薬が使用される。多くの場合、アンピシリン/スルバクタムに感受性である(スルバクタムの効果)。また、見た目が、グラム陰性球菌(モラキセラに似る)に見えることがある。
※6:K. pneumoniaeは、ペニシリナーゼ産生するためABPCは無効。
#42. 今回対象としていないGNR Haemophilus influenzae
見た目が特徴的、グラム陰性球桿菌
Aeromonas hydrophila
Campylobacter spp
Helicobacter spp
など
#43. 要点 グラム陰性桿菌は3群に分類する
各群に対応した抗菌薬耐性機序を押さえる
グラム染色が重要(特に、尿・痰)
患者背景が重要
中でも、抗菌薬使用歴(医療曝露歴)・過去の培養歴が重要