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COVID-19治療の最新情報と概要 #1.
COVID-19治療 update 2023年9月版 最終更新:2023.9.18 神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科 黒田浩一 #2.
本日の内容 • COVID-19に対する治療 - 薬物治療 –総論- 軽症~中等症Iに対する治療 各薬剤のエビデンス、治療適応の考え方 - 入院患者に対する治療 呼吸不全なし、低流量システム、HFNC/NIV、IMV/ECMO - その他:デキサメタゾンの投与方法、抗凝固薬、抗菌薬 COVID-19に対する薬物治療の総論 #4.
治療方針決定で重要な点 •Evidence •信頼できるガイドライン •病態生理 #5.
日本感染症学会 各薬剤の解説 各薬剤の解説と重症度別に推奨される治療を提示 National Institutes of Health World Health Organization #6.
重症度 発症からのタイミング で治療薬が決定する #7.
初期(~1w) ・ウイルス増殖 :抗ウイルス作用 過剰炎症反応期 ・宿主免疫による炎症反応 :抗炎症作用 COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15.1版 #10.
COVID-19を治療する目的 •重症化(入院)・死亡を防ぐ • 症状の改善を早める • Long COVIDを予防する • 感染伝播を予防する 日本感染症学会とNIHガイドラインの解説 #11.
ワクチン開始前 新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き #12.
2022年~ ・ワクチン ・オミクロン 98-99% 1~2% 新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き #13.
BMJ. 2020 Oct 23;371:m3862. doi: 10.1136/bmj.m3862. 重症度別の治療薬の選択と効果 #17.
ロナプリーブ ゼビュディ エバシェルド ラゲブリオ・ベクルリー パキロビッド ゾコーバ Science. 2021 Nov 12;374(6569):799-800. doi: 10.1126/science.acx9605. #19.
ロナプリーブ ゼビュディ エバシェルド ラゲブリオ・ベクルリー パキロビッド ゾコーバ Science. 2021 Nov 12;374(6569):799-800. doi: 10.1126/science.acx9605. #20.
デルタ流行期の外来患者の入院・死亡を減らす • デルタ流行期 • 高リスク群(ワクチン接種なし) • 発症5日以内に開始、5日間投与 • 約50%が既感染者 • 28日以内の入院+死亡88% • 既感染者でも効果あり(0.2% vs 1.5%) • 副作用:味覚障害5.6%、下痢3.1% N Engl J Med. 2022;386(15):1397-1408. doi:10.1056/NEJMoa2118542 ワクチン接種済み患者の治療効果 #21.
ワクチン接種済み患者の入院を減らす • ワクチン接種済みの重症化リスクの ある外来患者(オミクロン流行期) • 30日以内の全ER受診+入院+死亡 (治療群7.87% vs 無治療群 14.4%、45%減少) • 入院:60%減少(0.8% vs 2%) Clin Infect Dis. 2023;76(4):563-572. doi:10.1093/cid/ciac673 #22.
オミクロン流行期における入院・死亡を減らす • 米国での大規模観察研究:BA.2.12.1~ BA.5流行期の米国で、ニルマトレルビル/ リトナビル投与群と非投与群を比較 • 28日以内の入院: 55%減少(0.9% vs 1.4%) 対象患者の約75%は、ワクチン2回以上接種済み (約60%は3回接種) • 28日死亡: 85%減少(0.1%未満 vs 0.2%) Lancet Infect Dis. 2023;23(6):696-705. doi:10.1016/S1473-3099(23)00011-7 #23.
入院が必要となった事例の重症度を下げる • ニルマトレルビル/リトナビル投与群は、入院した場合の 入院期間は、非投与群と比較して有意に短く(3.4日 vs 5.2日)、重症化も少ない傾向であった(HFNC以上: 8.2% vs 12.5%)。 • ニルマトレルビル投与群では、ワクチン接種回数や変異 株の種類に関係なく、それぞれ同程度の効果が確認され た。基礎疾患の数が0~1の場合、2以上の場合と比較す ると、ニルマトレルビル/リトナビルの効果が減弱する傾 向が指摘された。 Lancet Infect Dis. 2023;23(6):696-705. doi:10.1016/S1473-3099(23)00011-7 #24.
ワクチン接種済み患者の入院・死亡を減らす • オミクロン流行期の米国で、大半がワクチン2回以上接種済みの患者を対象と した観察研究で、nirmatrelvir/ritonavirの投与は、14日以内の入院と28日死 亡を44%減少させた(複合アウトカム 0.55% vs 0.97%)。入院は40%減 少、死亡は71%減少した。 Ann Intern Med. 2023;176(1):77-84. doi:10.7326/M22-2141 • オミクロン流行期の米国で、ワクチン接種済みの18-50歳の外来COVID-19患 者を対象とした観察研究で、複合アウトカム(30日以内のER受診、入院、死 亡)を30%減少させた(4.9% vs 7.0%)。入院は65%減少(0.6% vs 1.7%)。死亡は100%減少。心血管疾患・悪性腫瘍の患者で効果を認めた。 Clin Infect Dis. 2023;ciad400. doi:10.1093/cid/ciad400 #25.
免疫不全者の入院・死亡を減らす • 血液悪性腫瘍患者(約80%がワクチン2回以上接種、1回の追加接種済みが約50%)の COVID-19患者(オミクロン流行期)を対象とした観察研究で、ニルマトレルビル/リト ナビル投与群は、その他の治療(他の抗ウイルス薬または中和抗体薬) 群と比較して、 30日死亡が有意に低かった(2.0% vs 10.8%)。 EClinicalMedicine. 2023;58:101939. doi:10.1016/j.eclinm.2023.101939 • リウマチ性疾患(RAが50%)で免疫調整薬使用中(MTXとTNF阻害薬が多い)の外来 COVID-19患者(オミクロン流行期、85%がワクチン3回接種以上)に対する治療 (70%パキロビッド、25%が中和抗体)は、無治療群と比較して、30日以内の入院+死 亡を88%減少させた(2.1% vs 17.6%)。ニルマトレルビル/リトナビル治療群と無 治療群を比較すると92%減少させた(1.3% vs 17.6%)。 Lancet Rheumatol. 2023;5(3):e139-e150. doi:10.1016/S2665-9913(23)00006-1. 免疫不全者に対する治療の重要性 #26.
免疫不全者の入院・死亡を減らす • オミクロン流行期に行われた観察研究で、免疫不全者(ワクチン2回以上接種 約 75%、3回接種 約50%)に対するニルマトレルビル/リトナビルまたはモルヌピ ラビルの投与は、無治療群と比較して、30日以内の入院+死亡を63%減少させた (5.9% vs 14.6%)。入院は52%減少(5.6% vs 11.0%)、死亡は95%減少 (0.3% vs 4.9%)した。 • 2剤の差は明らかではなかった • 特に死亡抑制効果が高かった • ワクチン接種歴に関係なく効果があった Clin Infect Dis. 2023;ciad504. doi:10.1093/cid/ciad504 #27. 治療終了後のリバウンド現象 • 治療終了後のSARS-CoV-2 RNA量の増加とCOVID-19症状の再発が報 告されている(頻度は0.8%という報告がある) • 耐性化とは関連なし、リバウンド後に感染伝播しうる • 長期投与や2コース目の投与の効果に関するデータはない • 治療の有無・治療薬の種類に関係なく、改善後のCt値の再度の低下(3 以上)は、4~7%で起こるという報告もある(主に高齢者を対象とした 研究) NIH. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/therapies/antiviral-therapy/ritonavir-boosted-nirmatrelvir--paxlovid-/ [最終アクセス2022.5.21] https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1588371/v2 [最終アクセス2022.5.21] Clin Infect Dis. 2022 Jun 14;ciac481. doi: 10.1093/cid/ciac481.(再燃0.8%) Clin Infect Dis. 2022 Jun 20;ciac496. doi: 10.1093/cid/ciac496. Clin Infect Dis. 2022 Jun 23;ciac512. doi: 10.1093/cid/ciac512 N Engl J Med. 2022 Sep 15;387(11):1047-1049. doi: 10.1056/NEJMc2205944. N Engl J Med. 2022 Sep 15;387(11):1045-1047. doi: 10.1056/NEJMc2206449. Lancet Infect Dis. 2023 Feb 13;S1473-3099(22)00873-8. doi: 10.1016/S1473-3099(22)00873-8. 薬物相互作用の確認と注意点 #31.
併用注意薬内服中の具体的な対応 • 併用注意薬≒注意しながら使用可能 • 以下の4通りに分類する • 他のCOVID-19治療薬を選択する(≒併用禁忌) • 臨床的に可能であれば、併用薬を一時的に中断する(ニルマトレルビル/ リトナビル終了してから2~3日以上経過してから再開) • 併用薬の用量を調整(減量)し、副作用をモニタリングする • 併用薬を継続して、副作用をモニタリングする NIH. Drug-Drug Interactions Between Ritonavir-Boosted Nirmatrelvir (Paxlovid) and Concomitant Medications. #32.
複数の情報源を参考にする • NIH. Drug-Drug Interactions Between Ritonavir-Boosted Nirmatrelvir (Paxlovid) and Concomitant Medications. • The Liverpool COVID-19 Drug Interactions website - 併用注意薬の投与量調整について記載がある • The Ontario COVID-19 Science Advisory Table • The Food and Drug Administration Emergency Use Authorization fact sheet #33.
使用できないケースは実は少ない • 米国の66007名の患者で、禁忌は9830名(14.8%)で認められた • 重症患者であるほど禁忌を持つ率は高い • 外来患者:14%、入院患者:20.6%、ICU患者:22.9%、死亡例:35.1% • 外来患者における禁忌の内訳(N=59869名) - 12歳未満 4671名(7.8%)、未成年かつ40kg未満 3702名(6.2%) - 重度の腎障害 1268名(2.1%)、重度の肝障害 284名(0.4%) - 薬物相互作用 2554名(4.2%) Open Forum Infect Dis. 2022;9(8):ofac389. Published 2022 Aug 3. doi:10.1093/ofid/ofac389 #34.
特に注意すべき状況 • カルシウム拮抗薬内服中の患者 - カルシウム拮抗薬の血中濃度上昇によるショック • カルシニューリン阻害薬内服中の患者 - 併用によるタクロリムスの血中濃度上昇によるAKI、痙攣、脳症 - 数日間の併用で、血中濃度が10倍になる可能性がある - カルシニューリン阻害薬休薬による移植後の拒絶反応のリスク Open Forum Infect Dis. 2022 Jul; 9(7): ofac238. doi: 10.1093/ofid/ofac238 J Heart Lung Transplant. 2023;42(1):30-32. doi:10.1016/j.healun.2022.08.029 Am J Kidney Dis. 2022;79(4):480-482. doi:10.1053/j.ajkd.2022.01.001 #35. カルシニューリン阻害薬の休薬の方法 Am J Transplant. 2022;22(7):1925-1926. doi:10.1111/ajt.16955 • 主に固形臓器移植後の患者で問題となる • レムデシビルは、入院(2泊3日)、または、COVID-19患者用の外来点滴室が必要であり、使用しずらい • モルヌピラビルのガイドラインでの推奨度は低い →Day 6-7に血中濃度測定(隔離診察室が必要)して、投与量を調整する American Society of Transplantation. COVID-19: FAQs for organ transplantation. Updated: February 1, 2023. https://www.myast.org/sites/default/files/COVID%20FAQ%20for%20Tx%20 professionals%202-2023%20FINAL.pdf Transplantation. 2022;106(8):1528-1537. doi:10.1097/TP.0000000000004200 腎機能障害患者への治療法と注意点 #36.
腎機能障害がある患者でも使えるようになるかも • 中等度の腎機能障害患者(eGFR 30~60 mL/min)の場合は、減量して使用する(添付文書) • 重度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/min未満)への投与は推奨しない(添付文書) • 重度の腎機能障害患者では、ニルマトレルビルの蓄積が懸念される • 薬物動態の研究では、ニルマトレルビルのAUCは、中等度の腎機能障害だと腎機能正常者の2倍、 重度の腎機能障害患者だと3倍であることが示されている Clin Pharmacol Ther. 2022;112(4):892-900. doi:10.1002/cpt.2688 • ただし、重度の腎機能障害患者(透析患者を含む)に対する減量レジメンの安全性を示した研究 は複数あるため、今後適応範囲の拡大があるかもしれない Clin J Am Soc Nephrol. 2022;17(8):1247-1250. doi:10.2215/CJN.05270522 Clin Infect Dis. 2023;ciad371. doi:10.1093/cid/ciad371 Clin J Am Soc Nephrol. 2023;18(4):485-490. doi:10.2215/CJN.0000000000000107 #37.
2023年3月8日に保険適用が決定 • 2023年3月8日に保険適用となることが決定した(3月15日~) • 薬価:パキロビッド600®(99027.5円) パキロビッド300®(62693円) • 文書による同意も不要となった(2023年8月~) • その他の抗ウイルス薬 - ゾコーバ®:1錠 7407.4円(5日間 51851.8円) - ラゲブリオ®:1錠 2357.8円(5日間 94312円) #38.
ニルマトレルビル/リトナビルの要点 • 入院・死亡を減らす効果は高い - オミクロン流行期での入院予防効果は50-70%(観察研究) • ワクチン接種後の高リスク患者、免疫不全者への効果も期待できる • 内服薬である • 発症5日以内、薬物相互作用は多いが、使用不可の状況は比較的稀 • 進行した腎不全患者(eGFR<30)・高度肝障害患者には使用できない • 一般流通、保険適用あり(特例承認のまま)、文書での同意は不要 • コストが高い(3割負担だと約18800円 or 29700円) #39.
使用できない状況を理解することが重要 • 治療適応のある患者で使用可能なら、ニルマトレルビル/リトナビルを優先する • 使用できない状況 - 呼吸不全(原因は問わない) - 重度の腎機能障害(eGFR 30 ml/min未満)、重度の肝障害 - 薬物相互作用(添付文書の併用禁忌薬、シクロスポリン、タクロリムス、クロピ ドグレル、など) - 内服困難(嚥下障害、強い嚥下痛、意識障害など) - 入手困難 レムデシビルとニルマトレルビルの比較 #41.
ロナプリーブ ゼビュディ エバシェルド ラゲブリオ・ベクルリー パキロビッド ゾコーバ Science. 2021 Nov 12;374(6569):799-800. doi: 10.1126/science.acx9605. #42.
外来COVID-19患者の入院・死亡を減らす • 外来COVID-19患者(ワクチン 接種なし、重症化リスクあり) • 発症7日以内に開始 • レムデシビル 3日間 vs プラセボ • 28日以内の入院+死亡 :0.7% vs 5.3%(87% N Engl J Med. 2022;386(4):305-315. doi:10.1056/NEJMoa2116846 ) #43.
免疫不全者の入院・死亡を減らす • 前向き観察研究@メキシコ、重症化リスクの高い発症7 日以内の軽症・中等症COVID-19に対するレムデシビ ル(外来で3日間投与)の効果を検討、2021.12.2~ 2022.4.30(オミクロンが約95%を占めた)、126名 (R群 54、非投与群72)、93.7%が中等度以上の免疫 不全者(固形がん7%、血液悪性腫瘍12%、自己免疫 疾患31%、固形臓器移植後 25%)、約80%がワクチ ン接種済み(定義の記載はないが2回以上と思われる) 中等度以上の免疫不全者の場合、オミクロン • 主要評価項目:発症28日以内の入院+死亡→投与群で 流行期かつワクチン接種していても、治療の 84%減少(9.3% vs 43.1%) メリットは大きい Open Forum Infect Dis. 2022;9(10):ofac502. Published 2022 Oct 6. doi:10.1093/ofid/ofac502 #44.
副作用:消化器症状と肝障害 • 吐き気などの消化器症状 • 肝障害 • PT延長 • 腎障害? • 重度の徐脈を起こすことがある Clin Microbiol Infect. 2021 Feb 27;27(5):791.e5-791.e8. doi: 10.1016/j.cmi.2021.02.013. JACC Case Rep. 2020 Nov 18;2(14):2260-2264. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2021 Jul;14(7):e009811. doi: 10.1161/CIRCEP.121.009811. #45. レムデシビルと腎不全 • 製剤内に添加剤として、シクロデキストリンが含まれているため、eGFR 30mL/min未満の患者に対して、その蓄積による腎障害(尿細管障害)と肝 障害の懸念があるため、多くの無作為化比較試験で除外され、投与が推奨さ N Engl J Med. 2022;386(4):305-315. Lancet Infect Dis. 2022;22(2):209-221. Lancet. 2020;395(10236):1569-1578. N Engl J Med. 2020;383(19):1813-1826. N Engl J Med. 2020;383(19):1827-1837. れていない • eGFR 30mL/min未満であっても安全に使用可能という複数の小規模な観察 研究とメタ解析が報告されている J Am Soc Nephrol. 2020;31:1384-6. Clin Infect Dis. 2020 Dec 14:ciaa1851. Antimicrob Agents Chemother. 2021 Jan 20;65(2):e02290-20. JAMA Netw Open. 2022;5(8):e2229236. Am J Ther. 2022;29(5):e520-e533. • 米国では、RCTで安全性が確認されたため、腎機能に関係なく使用可能に なった(2023年7月)。ただし、本邦では有益性投与となっている。 GILEAD. Press Rleases (7/14/2023). FDA Approves Veklury® (Remdesivir) for COVID-19 Treatment in Patients With Severe Renal Impairment, Including Those on Dialysis. https://www.gilead.com/news-and-press/press-room/press-releases/2023/7/fdaapproves-veklury-remdesivir-for-covid19-treatment-in-patients-with-severe-renal-impairment-including-those-on-dialys #46.
重度腎機能障害患者に対する レムデシビルの投与方法 #47.
CKD患者でのレムデシビルの薬物動態 • 重度腎不全患者への効果を検討した報告はほぼない(主にPK/PD研究) • レムデシビルの活性代謝産物であるGS-441524のトラフ濃度を測定し、 腎機能に合わせた最適な投与方法を提案している報告では... • eGFR 30の場合:初日200mg、2日目から100mg 48時間おき • eGFR 15の場合:初日200mg、2日目から100mg 4日に1回 CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol. 2022 Jan;11(1):94-103. doi: 10.1002/psp4.12736 #48.
神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 3 #49.
レムデシビルの要点 • 入院・死亡を減らす効果は高い • 3日間の点滴(200-100-100mg)が必要 • オミクロン流行期、免疫不全者への効果が期待できる • 複数の研究で、腎不全患者に対する安全性が確認されているため、 その使用は検討可能である(添付文書:有益性投与) • 一般流通(薬価収載済)、コスト・静注薬(末梢route確保必要)・ 治療場所(入院、隔離対応可能な外来診察室が必要)の問題がある #50.
ニルマトレルビル/リトナビルとの使い分け • レムデシビルは... • ニルマトレルビル/リトナビルが使用できない患者に使用す る(発症6~7日目、重度の腎機能障害、薬物相互作用、経口 摂取困難など) • 呼吸不全がある場合(COVID-19による呼吸不全と他疾患に よる呼吸不全を鑑別することは、通常難しい) モルヌピラビルの効果と使用条件 #52.
ロナプリーブ ゼビュディ エバシェルド ラゲブリオ・ベクルリー パキロビッド ゾコーバ Science. 2021 Nov 12;374(6569):799-800. doi: 10.1126/science.acx9605. #53.
デルタ流行期に入院・死亡を30%減らした • 18歳以上、重症化リスクあり(年齢は60歳 以上)、軽症~中等症COVID-19を対象 • 発症5日以内 • Variant判明しているものでは、デルタが最 多(約60%) • 29日以内の24時間以上の入院+死亡: 6.8% vs 9.7%(約30%の効果) • Subgroup解析:既感染者では効果 2021.5-2021.11に行われた臨床試験(主にデルタ流行期) なし(3.8% vs 1.7%) N Engl J Med. 2022;386(6):509-520. doi:10.1056/NEJMoa2116044 #54.
オミクロンかつクチン接種者だと入院は減らない • 2021.12.8~2022.4.27の英国(オミクロンBA.1・BA.2流行期) • オープンラベル無作為化比較試験(N=25783) • モルヌピラビル投与群 vs 非投与群、94%がワクチン3回以上接種 • 主要評価項目:28日以内の入院+死亡は同等(0.8% vs 0.8%) • 副次評価項目:症状改善までの日数は4.2日短縮(10.3日 vs 14.5日) → 最適なワクチン接種状態の患者には無効の可能性が高い Lancet. 2023;401(10373):281-293. doi:10.1016/S0140-6736(22)02597-1 #55.
Lancet. 2023;401(10373):281-293. doi:10.1016/S0140-6736(22)02597-1 #56. BA.2流行期:ソトロビマブより効果が低い • オミクロン流行期のソトロビマブとモ ルヌピラビルの効果を比較した観察研 究(英国)、ワクチン3回以上接種者 85%以上 • Main outcome:28日以内の入院+ 死亡は、BA.1流行期 0.96% vs 2.05%、BA.2流行期 0.95% vs 2.03%(約50%減少) medRxiv 2022.05.22.22275417; doi:https://doi.org/10.1101/2022.05.22.22275417 BMJ. 2022;379:e071932. Published 2022 Nov 16. doi:10.1136/bmj-2022-071932 #57.
メタ解析では入院を減らす効果はなかった • 9のRCTのメタ解析 • 28日死亡は減少傾向 • 28日までの入院・死亡の減少なし • 14日までの症状の改善は減少する • 28日までの症状改善の減少なし • 解析対象となった試験のほとんどの weightをPANORAMIC試験と MOVe-OUT Phase 3が占める J Antimicrob Chemother. 2023;78(7):1586-1598. doi:10.1093/jac /dkad132 #58.
免疫不全者の入院・死亡を減らす 【再掲】 • オミクロン流行期に行われた観察研究で、免疫不全者(ワクチン2回以上接種 約 75%、3回接種 約50%)に対するニルマトレルビル/リトナビルまたはモルヌピ ラビルの投与は、無治療群と比較して、30日以内の入院+死亡を63%減少させた (5.9% vs 14.6%)。入院は52%減少(5.6% vs 11.0%)、死亡は95%減少 (0.3% vs 4.9%)した。 • 2剤の差は明らかではなかった • 特に死亡抑制効果が高かった • ワクチン接種歴に関係なく効果があった Clin Infect Dis. 2023;ciad504. doi:10.1093/cid/ciad504 #59.
Long COVIDを14%減らした • 米国での大規模観察研究(2022.1~2023.1) • モルヌピラビル(11472人) vs 治療なし • ワクチン接種:3回 約60%, 2回 約20% • COVID-19の既往:両群とも約18% • 診断から30日目以降のeventを評価 治療群で、180日目Long COVID 14% 減少(絶対リスク低下:2.97%減少)、 死亡減少、入院減少(ワクチン接種回 数・感染歴は関係なく効果あり) BMJ. 2023;381:e074572. Published 2023 Apr 25. doi:10.1136/bmj-2022-074572 #60.
Day 180 18.58% vs 21.55% BMJ. 2023 Apr 25;381:e074572 新型コロナウイルスの変異株と治療法 #61.
• 治療群で、不整脈、肺塞栓、 DVT、倦怠感、肝疾患、AKI、 筋肉痛、神経認知障害が減少 • ワクチン接種歴、感染歴の有 無、患者背景(年齢、性別、 基礎疾患など)で効果の差は なかった BMJ. 2023;381:e074572. Published 2023 Apr 25. doi:10.1136/bmj-2022-074572 #63.
モルヌピラビルの要点 • 直接比較試験はないが、他の薬剤より有効性が低い可能性が高いと考えられている • ワクチン接種者・既感染者への重症化予防効果は期待できない可能性が高い • 免疫不全者の重症化予防はあるかもしれない • 症状改善を早める、Long COVIDを減らす可能性がある • 内服薬、発症5日以内カプセルが大きくて内服しにくい(脱カプセルは可能) • 小児・妊婦は使用できない(適応は18歳以上) • 他の薬剤が使用できない場合にのみ使用することが推奨される • コストはN/Rと同等、特例承認薬、文書での同意は不要(2023.4.24-) #64.
中和抗体薬 抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体 #65.
ロナプリーブ ゼビュディ エバシェルド ラゲブリオ・ベクルリー パキロビッド ゾコーバ Science. 2021 Nov 12;374(6569):799-800. doi: 10.1126/science.acx9605. #66.
抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体 • 日本で2023.9現在、治療目的で2種類・予防目的で1種類使用可能だが... - カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ®) :BA.1以降に出現したvariantに対する中和活性低下 - ソトロビマブ(ゼビュディ®) :BA.1では中和活性維持、BA.2以降のvariantに対する中和活性低下 - Tixagevimab/cilgavimab(エバシェルド®)は曝露前予防目的のみ :XBBでは中和活性が著明低下している #69.
オミクロンの変遷(BA.1→XBB) • BA.1(2021年12月~) • BA.2系統への置換(2022年3月~) • BA.4/BA.5系統(2022年7月~) • 世界各地でBA.2またはBA.5系統を起源とする亜系統が多数発生 - BA.2.75系統(2022年10月~) - BQ.1.1系統(2022年10月~) - XBB.1.5系統、XBB.1.9系統、XBB.1.16系統(2023年3月~) - EG.5(XBB.1.9.2の亜系統)(2023年7月~) - 2023年9月以降、BA.2.86系統が増加する可能性がある オミクロン株の影響と治療戦略 #72.
BA.5:抗ウイルス薬はOK レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル、 bebtelovimabの効果は期待できる casirivimab/imdevimabとtixagevimab/cilgavimabの効果は低い ソトロビマブの効果は期待できない N Engl J Med. 2022 Jul 20. doi: 10.1056/NEJMc2207519. #73.
BQ.1系統とXBB系統 • BQ.1系統:BA.5.3系統の亜系統 • XBB系統:2つのBA.2系統の亜系統の組換え体 - BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統) - BM.1.1.1系統(BA.2.75.3の亜系統) 国立感染症研究所. 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第25報)(2023.2.10) #74. BQ.1.1系統とXBB系統:著明な免疫逃避 • BQ.1.1は、BA.5にRBD領域に3つの変異(K444T, N460K, R346T)が追加 • XBB(R346T, N460K, F486S)は、BQ.1.1やBA.2.75.2と比較して免疫逃避の 程度がさらに大きい • すべての利用可能な中和抗体薬の活性が低下(エバシェルド®・bebtelovimab・ ゼビュディ®)、抗ウイルス薬の活性は低下なし • 従来型ワクチン4回目接種、BA.5対応2価ワクチン(4回目接種)による中和抗体 価の上昇は、BA.5と比較すると低値であるが、感染/入院予防効果は同等 • 重症化(入院・死亡)リスクの増大の報告はない bioRxiv 2022.09.15.507787; doi: https://doi.org/10.1101/2022.09.15.507787 N Engl J Med. 2022 Dec 7. doi: 10.1056/NEJMc2214302. 国立感染症研究所. 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第22報)(2022.11.18) #75.
N Engl J Med. 2022 Dec 7. doi: 10.1056/NEJMc2214302. #77.
XBB.1.5系統(2023.1- VOI) • XBB.1.5の実効再生産数はXBB.1(BQ.1.1と同等)の1.2倍 (BA.2とBA.5の差に匹敵する) • XBB.1.5のスパイク蛋白は、ACE2受容体への結合力がXBB.1 より4.3倍高い(BA.2の6倍) • 感染力がXBB.1より3倍高い • BA.2/BA.5のブレイクスルー感染によって誘導される中和抗 体に対して強い抵抗性を示す(XBB.1と同等、BQ.1.1より強 い抵抗性を示す) • まとめ:オミクロンXBB.1.5株は高い免疫逃避能を保 持しつつ、細胞への感染性をより高めたvariantである Lancet Infect Dis. 2023 Mar;23(3):280-281. doi: 10.1016/S1473-3099(23)00051-8. #78.
XBB.1.5系統:抗ウイルス薬の活性低下なし Lancet Infect Dis. 2023 Apr;23(4):402-403. doi: 10.1016/S1473-3099(23)00070-1. #79. XBB.1.16系統(2023.4- VOI) • 2023年1月以降、インドで急増したvariant、日本では3月以降増加 • WHO:2023.4.17- VOIに分類 • XBB.1.5+T478R(K487R)+E180V • 実効再生産数はXBB.1.5の1.13-1.31倍 • ACE2受容体への結合力はXBB.1より高いがXBB.1.5より低い • 感染力はXBB.1と同等で、XBB.1.5より低い • 入院リスクは、他のXBBと同等(シンガポールのデータ:入院患者の呼吸不 全リスクは高い可能性がある) • 大半の中和抗体薬のXBB.1.16に対する中和活性は低下(ソトロビマブ△) • 免疫回避能はXBB.1.5とほぼ同等(ワクチン、BA.2/BA.5 BTI) Lancet Infect Dis. 2023;23(6):655-656. doi:10.1016/S1473-3099(23)00278-5 Lancet Reg Health West Pac. 2023;37:100849. Published 2023 Jul 25. doi:10.1016/j.lanwpc.2023.100849 XBB.1.16 Updated Risk Assessment, 05 June 2023. https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/05062023xbb.1.16.pdf?sfvrsn=f1845468_3 エンシトレルビルの効果と使用条件 #86.
ロナプリーブ ゼビュディ エバシェルド ラゲブリオ・ベクルリー パキロビッド ゾコーバ Science. 2021 Nov 12;374(6569):799-800. doi: 10.1126/science.acx9605. #89.
エンシトレルビル:ウイルス価の低下 • 主にデルタ流行期にphase 2a試験が行われた 診断から120時間以内、90%弱の参加者がワクチン2回接種済み placebo群と比較して、ウイルス力価の低下が有意に大きかった エンシトレルビル投薬開始から120時間以内に感染性ウイルスは陰性化した Antimicrob Agents Chemother. 2022;66(10):e0069722. #90.
エンシトレルビル:症状の改善は早めない? • オミクロン流行期(2022.1.2-2022.2.9)に行われたRCT • 平均年齢35-37歳、発症5日以内、ワクチン2回接種が約80% • エンシトレルビル群は、placebo群より感染性ウイルスの減少と陰性 化が早かった(感染伝播を減らす可能性はある)が、症状の改善を早 めなかった。呼吸器症状と発熱などの改善はわずかに早かった(ただ しprimary endpointではない)。 Clin Infect Dis. 2022 Dec 7;ciac933. doi: 10.1093/cid/ciac933. COVID-19治療における薬剤の選択基準 #91.
気道症状の改善は早い傾向がみられる • 12の症状(鼻閉・鼻汁、咽 頭痛、呼吸困難、咳、倦怠 感、筋肉痛・体の痛み、頭 痛、悪寒、発熱、吐き気、 嘔吐、下痢)の総スコアの 変化は治療群とプラセボ群 で有意差なし • 気道症状の改善が、治療群 で早い傾向がみられた Clin Infect Dis. 2022 Dec 7;ciac933. doi: 10.1093/cid/ciac933. #92.
感染性ウイルスの陰性化は早い Day 4で感染性ウイルスはほぼ陰性化 Clin Infect Dis. 2022 Dec 7;ciac933. doi: 10.1093/cid/ciac933. #93.
エンシトレルビルの有害事象 • 添付文書 - HDLコレステロール低下(16.6%)、TG上昇(1~5%) • 市販後調査(令和5年2月19日までのデータ)での有害事象 - 重篤な有害事象は極めて稀(因果関係はなさそうなものがほとんど) - 流産が1例 • ウサギへの投与:催奇形性、流産、胚・胎児生存率低下 #94. 他剤との比較はデータ不足しているため難しい • エンシトレルビル承認時の研究は、オミクロン流行期に行われ、ワク チン接種済み・基礎疾患の少ない若年者(基礎疾患は35%程度、詳細 記載なし)、を対象として、症状の改善までの期間を検討した。 • 一方、ニルマトレルビル/リトナビルは、オミクロン以前・ワクチン未 接種・基礎疾患のある患者、を対象として、入院・死亡予防効果を検 討している。 • 背景が大きく異なっており、これら2剤の効果の比較はできない。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29325.html #95.
重症化予防効果を示すデータが待たれる • ニルマトレルビル/リトナビルは、大規模観察研究で、オミク ロン流行期の重症化リスクのある患者における入院予防効果 が認められている。今後、エンシトレルビルによる重症化予 防効果を示すデータ(大規模観察研究)が待たれる。 • これら2剤は、同じ機序の薬剤であり、抗ウイルス活性に大き な差はないことが示されている J Antimicrob Chemother. 2023 Apr 3;78(4):946-952. doi: 10.1093/jac /dkad027. #96.
Long COVIDを減らす可能性がある • 第3相試験(多施設共同、二重盲検、プラセボ対照RCT、オミクロ ン流行期:2022.2-2022.7)の探索的評価の中間解析でLong COVIDが減少する可能性が示された • 持続するCOVID-19の症状と罹患後神経症状(集中力低下・物忘 れ・不眠 etc)が約25%減少(治療開始後3ヶ月と6ヶ月に評価) • 治療開始時に症状が強い群で、急性症状の持続(45%↓)と神経症 状(33%↓)の低下が大きい傾向がみられた Precision Medicine 2023;6(4):39-47 #97.
Precision Medicine 2023;6(4):39-47 #98.
Precision Medicine 2023;6(4):39-47 #99.
Limitations ・試験の規模が小さい(各群400名弱)、Day 85の回答率60% ・被験者による自己申告のみで症状を判断しているため正確性が担保できない ・COVID-19歳罹患や同様の症状がみられる感染症に罹患している可能性がある Precision Medicine 2023;6(4):39-47 #100.
エンシトレルビルの要点 • 投与可能年齢:12歳以上(体重は関係なし) • 発症72時間以内に開始する必要がある • 妊婦、妊娠している可能性のある女性には禁忌 • 薬物相互作用のある薬剤が多いため、必ず服用中の薬剤を確認 • 投与量:初日375mg、2-5日目 125mg(1日1回内服) • 腎機能・肝機能による投与量の調整は不要 • 効果:症状改善が約24時間早まる(重症化予防効果は未検討)、Long COVID減少 • 2023年3月に保険適用となり、3月31日から一般流通開始された(緊急承認のまま、同 意書必要、 5日間51851.8円→コストは高いが、他剤よりはやや安価) 妊婦に対するCOVID-19治療のガイドライン #102. その他の薬剤は使用しない • 以下の薬剤の効果は期待できない - デキサメタゾン(予後悪化のリスクすらある) - ファビピラビル、イベルメクチン、コルヒチン - 吸入ブテソニド、吸入シクレソニド、フルボキサミン • 上記すべての薬剤は、RCTで効果を示すことができなかった Infect Dis Ther. https://doi.org/10.1007/s40121-021-00517-4 N Engl J Med. 2022 Mar 30. doi: 10.1056/NEJMoa2115869. Lancet Respir Med 2021;9:924–32. Lancet 2021; 398: 843–55. BMJ 2021;375:e068060. N Engl J Med 2022; 387:599-610. #103.
デキサメタゾンは予後悪化させる可能性がある • 酸素投与をしていない入院COVID-19患者に対するデキサメタゾンは、 RCTのサブグループ解析(RECOVERY)で効果がないことが示された1) • 理論上、時期尚早な投与によって、予後が悪くなる可能性がある • 実際に、90日死亡の上昇を示した観察研究もある2) • 2023年には、5つのRCTと1つの観察研究(主に入院患者を対象としてい る)のメタ解析で、ステロイド投与による死亡の増加が確認された(非投 与群10% vs 投与群14%)3) 1) N Engl J Med. 2021;384:693-704. doi: 10.1056/NEJMoa2021436. 2) Eur Respir J. 2022;60(1):2102532. doi: 10.1183/13993003.02532-2021. 3) doi: 10.1056/EVIDoa2200283 #104.
軽症・中等症Iの外来患者の治療のまとめ • 重症化リスクの高い患者に対して以下を投与する - 第1選択薬:ニルマトレルビル/リトナビル - 第2選択薬:レムデシビル - 第3選択薬:モルヌピラビル • 使用しない:中和抗体薬、デキサメタゾン • 評価待ち:エンシトレルビル #106.
薬物治療の適応判断と選択に必要な情報 • 重症化リスク:年齢、重症化リスク因子の数、免疫不全の有無 • 臨床研究で示された効果(重症化予防・Long COVID予防 etc) • 発症からの日数 • 静脈注射が可能な環境かどうか(自施設 or 他院紹介) • 服用中の薬剤との薬物相互作用 • 流行している主なvariant(中和抗体薬の活性) • コスト(特に2023年10月以降)、患者の希望 #107.
オミクロン流行期・ワクチン追加接種済 高血圧の既往のある38歳男性に治療は必要か? • 重症化予防効果を示した抗ウイルス薬は、オミクロン流行前かつワクチン未 接種者でのみ、高い臨床効果がRCTで示されている • オミクロン流行期に行われた観察研究では、重症化リスク2%程度の集団で あれば、効果が期待できそうである • 重症化リスクの有無だけで治療適応と判断すると、過剰治療につながる可能 性がある(副作用やコストの問題がある、2023年10月以降、一部自己負担 となる) #108. カナダオンタリオ州のガイドライン 高リスク群(入院リスク 5%以上)「重症化リスク」を評価 ニルマトレルビル/リトナビル、または、レムデシビル リスク評価:年齢・ワクチン接種回数・基礎疾患の数 Clinical Practice Guideline Summary: Recommended Drugs and Biologics in Adult Patients with COVID-19. https://covid19-sciencetable.ca/sciencebrief /clinical-practice-guideline-summary-recommended-drugs-and-biologics-in-adult-patients-with-covid-19-version-11-0/ [accessed on 4/2/2022] #109.
当院での抗ウイルス薬の適応 神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 4 (最終改訂 2023.4.6) #110.
当院での抗ウイルス薬の適応 神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 4 (最終改訂 2023.4.6) 入院患者に対する治療の方針 #111.
当院での抗ウイルス薬の適応の考え方 • 入院リスクが2~5%以上見込まれる場合は治療の方針(正確な入院 リスク評価方法はないので、各国のガイドラインやこれまでに発表さ れた文献をもとに目安を作成した) • 前述の条件を満たさない場合でも、重症化リスク因子が1つ以上あり、 主治医が必要と考える場合、投与することは可能である。特に、進行 した重度の基礎疾患がある患者において、治療閾値を下げたほうがよ い可能性がある。 #112.
妊婦の場合 神戸市立医療センター中央市民病院.妊婦 のCOVID-19(軽症・中等症I)に対する 薬物治療ガイドライン version 3 (最終改 訂 2023.4.13) #113.
妊婦の場合 神戸市立医療センター中央市民病院.妊婦のCOVID-19(軽症・中等症I)に対する薬物治療ガイドライン version 3 (最終改訂 2023.4.13) #114.
当院での抗ウイルス薬の選択 • 第1選択薬:ニルマトレルビル/リトナビル(5日間) • 第2選択薬:レムデシビル(3日間) - 内服不可、パキロビッド併用禁忌薬内服中 - 発症から6-7日目に治療開始する場合 - 他疾患による呼吸不全がある場合(誤嚥性肺炎合併など) - 中等度以上の免疫不全者と呼吸不全がある場合は、5日間まで延長可 • 第3選択薬:モルヌピラビル(5日間) #115.
今後治療目的が変わる可能性はある • 現在の治療目的は、重症化(入院・死亡)予防 • 今後は... - 症状の改善を早める目的 - Long COVID予防目的 - 感染伝播予防目的 などでも使用されるかもしれない(コストとの兼ね合い?) #116.
Long COVIDを減らす効果 • ニルマトレルビル/リトナビルは、180日時点の症状の残存率(Long COVID)を、無治療群と比較して26%減少(12.99% vs 17.51%)させた(ワクチン接種歴・既感染歴に関連なし)。30日以 降の死亡と入院も有意に減少した。 • エンシトレルビル、モルヌピラビルも同様の効果が期待される • 入院COVID-19患者(大半が呼吸不全を呈していた)に対するレムデシビルの投与 は、1年後のLong COVIDを減少させなかった JAMA Intern Med. 2023 Mar 23. doi: 10.1001/jamainternmed.2023.0743. Nat Commun. 2022 Oct 18;13(1):6152. doi: 10.1038/s41467-022-33825-5. BMJ. 2023 Apr 25;381:e074572. doi: 10.1136/bmj-2022-074572. Precision Medicine 2023;6(4):39-47 #118.
軽症・中等症Iの外来患者の治療のまとめ • 年齢、ワクチン接種回数、免疫不全の有無、その他の重症化リスク因子の数などか ら、治療適応を決定する(現在は、「重症化予防」目的で治療している) - 第1選択薬:ニルマトレルビル/リトナビル 5日間 - 第2選択薬:レムデシビル 3日間 - 第3選択薬:モルヌピラビル 5日間 • エンシトレルビルの有用性は、データの蓄積待ち • 今後治療目的が追加される可能性(症状改善・Long COVID予防・感染予防) • 2023年10月以降、一部自己負担が開始されるため、コストについても考慮が必要 呼吸不全患者への治療法と注意点 #123.
呼吸不全のない入院患者 • 副腎皮質ステロイドは、RCTのsubgroup解析で効果がないことが示されているため、原 則として投与しない。90日死亡が増加する可能性を示した観察研究もある。 N Engl J Med. 2021;384:693-704. Eur Respir J. 2022;60(1):2102532. doi: 10.1183/13993003.02532-2021 • 2023年には、5つのRCTと1つの観察研究(主に入院患者を対象としている)のメタ解析 で、ステロイド投与による死亡の増加が確認された(非投与群10% vs 投与群14%) doi: 10.1056/EVIDoa2200283 • レムデシビルは、2つの大規模RCT(ACTT-1試験・Solidarity試験)のサブグループ解析 で効果を認めなかった N Engl J Med. 2020;383:1813-26. Lancet. 2022;399(10339):1941-1953. • 未分画ヘパリンによる深部静脈血栓症予防を行う(1回5000単位 1日2回) #124.
デキサメタゾンは使用しない • 酸素投与をしていない患者に対する副腎皮 質ステロイドは、効果がないことが示され ているため、デキサメタゾンは投与しない (むしろ予後を悪化させる傾向にある) • 理論上、時期尚早な投与によって、予後が 悪くなる可能性がある N Engl J Med. 2021;384:693-704. #125.
レムデシビルの効果は期待できない Solidarity ACTT-1 N Engl J Med. 2020;383:1813-26. Lancet. 2022;399(10339):1941-1953. #126.
中等症に限定すれば効果があるかもしれない • Day 11での症状の改善がレ ムデシビル 5日群で標準治 療群と比較してわずかに多 かった • 酸素投与期間・入院期間・ 28日死亡は差なし(臨床的 意義は小さい) • 発症から投与までの中央値 が8-9日であり、より早期 に投与すれば、効果が期待 • 肺炎像のあるSpO2 94%以上のCOVID-19患者を対象としたオープンラベルRCT • 標準治療 vs レムデシビル 5日間 vs レムデシビル 10日間 されるかもしれない JAMA. 2020;324(11):1048-1057. #127.
免疫不全者に対する効果はあるかもしれない • 免疫不全のある入院COVID-19患者に対 するレムデシビルの効果を検討した大規 模観察研究(N=約30000, 2020.12~ 2022.4) • Remdesivirは入院2日以内に開始された • 14日死亡・28日死亡が投与群で25~ 30%低かった • どのvariant・呼吸状態でも、投与群で予 後はよかった Clin Infect Dis. 2023;ciad460. doi:10.1093/cid/ciad460 #130.
デキサメタゾン(Recovery):死亡減少効果 大規模なオープンラベルRCT(N=6425) ・デキサメタゾン(1回6mg 1日1回 10日間、 または、退院時に終了) vs 標準治療 ・呼吸不全を呈する重症COVID-19患者の28 日死亡が減少(22.9% vs 25.7%) ・人工呼吸器を使用していない患者の場合、 人工呼吸器導入リスクも減少 ・致死率改善効果は重症度が高いほど大きい N Engl J Med. 2021;384:693-704. トシリズマブとバリシチニブの併用治療 #131.
レムデシビル(ACTT-1):症状の改善早める • Day 1 200mg/日、Day 2-10(または 退院まで) 100mg/日 • 主に先進国で行われたRCT(N=1062) • 臨床的改善までの期間短縮(10日 vs 15日)し、28日死亡は減少する傾向 (11.4% vs 15.2%) • 人工呼吸器やNIV/HFNCが不要な呼吸 不全例でのみ効果を認めた • ステロイドは23%で使用された N Engl J Med. 2020;383:1813-26 #132.
レムデシビル 5日間と10日間で同等 • 入院COVID-19(大 半が低流量システム またはHFNC/NIV) を対象としたオープ ンラベルRCT • 投与5日目に人工呼吸 器使用中の場合は、 10日間まで延長して もよいかもしれない 5日間 vs 10日間投与は同等の効果(14日目のclinical status) N Engl J Med. 2020;383:1827-37 #133.
レムデシビル(solidarity):院内死亡減少 • 18歳以上の入院患者(N=8320)を対象としたオー プンラベルRCTで、Remdesivir(10日間)と標準 治療を比較(ステロイド使用率:約70%) • Primary endpoint:院内死亡(14.5% vs 15.6%, RR 0.91, 0.82-1.02):治療開始 時に人工呼吸器使用:42.1% vs 38.6%、 酸素投与(人工呼吸器使用なし):14.6% vs 16.3%(RR 0.87, 0.76-0.99)、酸 素投与なし:2.9% vs 3.8% Lancet. 2022 May 2;399(10339):1941-1953. doi: 10.1016/S0140-6736(22)00519-0. #134.
レムデシビル(CATCO):人工呼吸器導入減少 • 入院患者対象のオープンラベルRCT(カナダ) • Remdesivir 10日間 vs 標準治療 • 発症から無作為化まで8日 • ステロイド使用:両群87.2% • トシリズマブほぼなし • 呼吸不全90%(大半が低流量酸素またはHFNC) Primary outcome:院内死亡 18.7% vs 22.6%(有意差なし) その他のoutcome:人工呼吸器導入減少(8% vs 15%)、60日死亡同等(24.8% vs 28.2%) CMAJ. 2022;194(7):E242-E251. doi:10.1503/cmaj.211698 #138.
免疫不全者に対する効果【再掲】 • 免疫不全のある入院COVID-19患者に対 するレムデシビルの効果を検討した大規 模観察研究(N=約30000, 2020.12~ 2022.4) • Remdesivirは入院2日以内に開始された • 14日死亡・28日死亡が投与群で25~ 30%低かった • どのvariant・呼吸状態でも、投与群で予 後はよかった Clin Infect Dis. 2023;ciad460. doi:10.1093/cid/ciad460 #139.
トシリズマブ(REMAP-CAP):院内死亡減少 • ICU入室24時間以内の重症呼吸不全を呈し 生存 ているCOVID-19患者(副腎皮質ステロイ 生存 ドは90%以上の患者に投与された)を対 象としたオープンラベルRCT • HFNC 30%、NIV 40%, MV 30% • トシリズマブ群は、通常治療群と比較して、 ICU退室 退院 21日までのorgan support-free day (10日 vs 0日)が有意に長く、病院内死 亡が有意に減少した(28% vs 36%) N Engl J Med. 2021;384:1491-502 #140.
トシリズマブ(Recovery):死亡減少 • 呼吸不全(50%以上がHFNC・NIV・人工呼 吸器を使用)と高炎症反応(CRP≧7.5 mg/dL)を呈しているCOVID-19患者を対象 としたオープンラベルRCT • ステロイドは80%以上の患者に投与 • トシリズマブ群は通常治療群と比較して、28 日死亡(31% vs 35%)が有意に減少した。 また、人工呼吸器導入リスク(15% vs 19%)も有意に減少した。 Lancet. 2021;397(10285):1637-1645. doi:10.1016/S0140-6736(21)00676-0 重症COVID-19患者への治療戦略 #141.
トシリズマブ投与時の注意点 • COVID-19への効果を検討した各RCTでは、標準治療群と比較して 細菌・真菌感染症、消化管穿孔、B型肝炎ウイルス・結核菌の reactivationの増加は指摘されていない • ただし、副腎皮質ステロイドとの併用で細胞性免疫の低下は懸念さ れるため、B型肝炎と結核のスクリーニングを検討する • 添付文書での禁忌:重篤な感染症を合併している患者 • 米国では好中球 1000未満、血小板 5万未満での使用は非推奨 #142.
バリシチニブ • 経口JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬のひとつであり、関節リウマチに 対して使用されている薬剤 • ヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーのJAK1及びJAK2分子に高い選択 性を有するJAK阻害薬 • 免疫調整作用によって、COVID-19による過剰な炎症反応が抑制され ることが期待されている • ウイルスのエンドサイトーシスを阻害することによって、抗ウイルス 活性と感染予防効果をもつ可能性も指摘されている Lancet Infect Dis. 2020;20(4):400-402. doi:10.1016/S1473-3099(20)30132-8 #143.
バリシチニブとレムデシビルの併用:回復早める • 2重盲検のプラセボ対照RCT(ACTT-2試験) • 併用 vs レムデシビル単剤 • バリシチニブ14日間まで、レムデシビル10日間まで • Primary outcome:回復までの時間が1日短縮 (7日 vs 8日) • HFNC/NIV使用患者(右図D):10日 vs 18日 • 28日死亡は有意差なし(5.1% vs 7.8%) • 副作用は併用によって増加しなかった • ステロイドの使用は原則禁止(両群10%程度で使用) N Engl J Med. 2021;384(9):795-807. #144.
バリシチニブ vs デキサメタゾン:同等 • 二重盲検プラセボ対照RCT(N=1010、ACTT-4) • 対象:呼吸不全のある入院しているCOVID-19 低流量システム、HFNC、NIVを使用中の呼吸不全 • 両群にレムデシビル(10日間まで) • バリシチニブ 14日間 vs デキサメタゾン 10日間 • 29日までの人工呼吸器free生存は同等(87.0% vs 87.6%) • 29日死亡同等(5.5% vs 6.4%) • 副作用はDexa群で有意に多かった(感染同等・VTE同等) Lancet Respir Med. 2022;10(9):888-899. doi:10.1016/S2213-2600(22)00088-1 #145.
バリシチニブ(COV-BARRIER):死亡減少 • 18歳以上の入院COVID-19患者(1525名)を対象とした二重盲検プラ セボ対照RCT(COV-BARRIER試験)、人工呼吸器使用中の患者は除外 • バリシチニブ 14日 or 退院まで(早い方) 全体 • 投与量:4mg/日、eGFE 30-60の場合は2mg/日 • 約90%が呼吸不全、ステロイド約80%、レムデシビル約20% • Primary endpoint:28日以内の呼吸状態の悪化と死亡の複合エンドポ イントは同等(27.8% vs 30.5%) • Secondary outcome:28日死亡は38%減少(8.1% vs 13.1%) HFNC/NIV群 • 60日死亡も減少(10% vs 15%) • サブグループ解析で、HFNCまたはNIVを使用していた群で、有意に28 日死亡が減少した(17.5% vs 29.4%) Lancet Respir Med. 2021;9(12):1407-1418. doi:10.1016/S2213-2600(21)00331-3 #146.
バリシチニブ(Recovery):28日死亡減少 • 最大規模のオープンラベルRCT@英国 • 対象患者:8156名(バリシチニブ+標準治療 vs 標準治療) • 2歳以上の入院を必要としたCOVID-19患者(eGFR ≧15) • バリシチニブ 4mg/日 10日間 or 退院日まで(早い方) • 発症から治療開始まで:中央値9日間 • 酸素投与 67%、NIV(HFNC含む) 24%、人工呼吸器 3% • 無作為化時点で、ステロイド投与 95%、トシリズマブ 23%(最終的に 26% vs 29%)、レムデシビル20% Lancet. 2022 Jul 30;400(10349):359-368. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01109-6. #147.
バリシチニブ(Recovery):28日死亡減少 Lancet. 2022 Jul 30;400(10349):359-368. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01109-6. #148.
バリシチニブ(Recovery):28日死亡減少 • バリシチニブ投与群で - 28日死亡 13%減少(28日死亡が低下したのは、NIV/HFNC使用群) • baseline CRPの値はバリシチニブの効果に関連なし • トシリズマブ投与あり→28日死亡 介入群14% vs 標準治療群17% バリシチニブ+トシリズマブ>トシリズマブ?? バリシチニブ+トシリズマブ vs バリシリニブは不明 • メタ解析で、28日死亡 20%減少 Lancet. 2022 Jul 30;400(10349):359-368. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01109-6. #149. WHOは3剤併用治療も選択肢として提示 重症・最重症COVID-19に 対して、バリシチニブを投 与することを推奨する (strong recommendation) 免疫調整作用のあるステロ イド・IL-6受容体拮抗薬と の3剤併用についても言及 している(3剤併用しても よい、と記載している) Therapeutics and COVID19: living guideline (WHO)(13/1/2023) https://www.who.int/publications/i/item/ WHO-2019-nCoV-therapeutics-2023.1 #150.
バリシチニブ:挿管患者の死亡を減らす • 米国・南米での二重盲検プラセボ対照RCT (N=101)、探索的試験 • 対象:人工呼吸器またはECMO(3名の み)使用中の18歳以上の患者 • 介入:バリシチニブ 4mg/日 14日 • ステロイド使用86%、RDVほぼなし • Limitation:小規模、baselineの重症度 28日死亡 46%減少(39% vs 58%) 60日死亡 44%減少(45% vs 62%) が不明(例:P/Fなどの人工呼吸器設定) 入院期間、人工呼吸器free日数・有害事象は同等 Lancet Respir Med. 2022;10(4):327-336. doi:10.1016/S2213-2600(22)00006-6 デキサメタゾンの使用法と効果 #151.
バリシチニブの投与量 • 腎不全患者では減量が必要 - 正常腎機能(eGFR≧60):4mg/日 - 中等度腎機能障害(30≦eGFR<60):2mg/日 - 高度腎機能障害(15≦eGFR<30) :2mg 48時間ごと、または、投与しない • 投与期間:14日間 or 退院まで(早い方) #152.
バリシチニブの投与時の注意点 • COVID-19対象をする場合は、短期間の使用であり、臨床試験では、 長期使用で問題となる感染(結核やヘルペスウイルス属の再活性化 を含む)・深部静脈血栓症の増加は見られなかった • ただし、副腎皮質ステロイドとの併用で細胞性免疫の低下も懸念さ れるため、B型肝炎と結核のスクリーニングが検討される • 添付文書での禁忌:好中球 500未満、リンパ球 200未満、妊娠(可 能性を含む) #153.
バリシチニブ vs トシリズマブ:差はない • ステロイド投与中の入院している呼吸不全の患者を対象とした2薬剤 についてのRCTのメタ解析では、同等の効果(死亡 22%減少)が確 認された。 Clin Microbiol Infect. 2023 Jan;29(1):13-21. doi: 10.1016/j.cmi.2022.07.008. • 18歳以上のP/F<200のCOVID-19患者251名を対象としたオープン ラベルRCT(TCZ vs baricitinib)では、主要評価項目(28日死亡+ 人工呼吸器)は同等(44.4% vs 39.2%)。入院期間同等。28日死 亡同等(39.7% vs 32.0%)。 Clin Microbiol Infect. 2023 Mar;29(3):372-378. doi: 10.1016/j.cmi.2022.10.015. #158.
Crit Care. 2022 Oct 8;26(1):308. doi: 10.1186/s13054-022-04185-9. Intensive Care Med. 2022 Jul;48(7):850-864. doi: 10.1007/s00134-022-06726-w. (2022.2-2021.7のスペインデータ) #159. デキサメタゾン 6mg/日は少ない? • 急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:ARDS)で 使用されるメチルプレドニゾロンは、1~2mg/kg/日である N Engl J Med. 2006;354:1671-84 Chest. 2007;131:954-63 • 似た画像所見を呈する間質性肺炎(リウマチ関連 or 特発性)では、高用量ス テロイドを使用することが多い • 体重40kgと100kgの患者に対して同じ投与量でよいのか? • 肥満患者と健常人でデキサメタゾンの血中濃度は差はないことを示した薬物 動態の研究があるため、肥満患者において、体重による投与量調整は不要で あるという意見がある Critical Care 2022;26:60. https://doi.org/10.1186/s13054-022-03941-1 #160.
デキサメタゾン 6mg vs 12mg:差なし • COVID STEROID 2試験(欧州・インド) • 酸素10L/min以上、HFNC・NIV・人工呼吸器管理中 の成人COVID-19を対象としたRCT(N=982) • 体重の中央値80kg(IQR 68-96)、DM 約30% • Dexa 12mg vs 6mg(10日間まで) • 28日までの人工呼吸器などのlife supportなしの生存 期間を延長させなかった(22.0日 vs 20.5日) • 28日死亡・90日死亡は減少傾向となったが、有意差 はなかった(27.1% vs 32.3%、32% vs 37.7%) • septic shockと侵襲性真菌感染症の増加なし JAMA. 2021;326(18):1807-1817. doi:10.1001/jama.2021.18295 抗凝固薬と抗菌薬の使用基準 #161.
高用量デキサメタゾンは予後を改善しない • フランスの19のICUに入室した重症呼 吸不全を呈しているCOVID-19患者に 対して、高用量デキサメタゾン(20 mg/日 5日間、その後10 mg/日 5日 間)と通常投与量(6 mg/日 10日間) の効果を検討した無作為化比較試験で は、主要評価項目である60日死亡は同 等(27.0% vs 27.8%)であった JAMA Intern Med. 2022;182(9):906-916. doi:10.1001/jamainternmed.2022.2168 #162.
ステロイドパルスの追加効果なし • 二重盲検無作為RCT@イタリア(N=304) • 入院しているCOVID-19患者を対象 • 発症から5日以上(発症からの中央値:8-9日)、呼吸不全あり(P/F=100~300)、CRP 5 mg/dL以上 ※人工呼吸器管理中の患者は除外 • 標準治療(Dexa 6mg/日 10日間)に、メチルプレドニゾロン 1g/日 3日間 or プラセボを追加 • Primary outcome:入院期間(無作為化~酸素投与なしで退院) • 30日以内の退院(75.4% vs 75.2%)、入院期間の中央値 15日 vs 16日 • ICU入室して人工呼吸器管理 20% vs 16.1%、30日死亡 10.0% vs 12.2% Eur Respir J. 2022;60(4):2200025. Published 2022 Oct 20. doi:10.1183/13993003.00025-2022 #164.
ヘパリンの予防投与 • 入院患者に対して、予防的抗凝固療法を行う 未分画ヘパリン 1回5000単位 1日2回 皮下注射(諸外国では低分子量ヘパリンが使用) 酸素投与終了かつ歩行可能になるまで or 退院まで • 低流量酸素が必要なD-dimer上昇のある患者では、抗凝固薬の治療的投与を推奨するガイドライン があるため、未分画ヘパリンの持続投与(APTTを定期的に確認)も検討される(NIHのガイドラ インは、低分子量ヘパリンを推奨しているが、日本では保険適応がないため、使用は難しい) ※DOACはあまり検討されていない:リバロキサバン10mg/日、エドキサバン 30mg/日? • VTEが診断された場合は、治療量に増量する • 外来患者に対する抗凝固療法は推奨されない Blood Adv. 2021;5:872-88. Blood Adv. 2022 May 3;bloodadvances.2022007561. NIH guideline 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における静脈血栓塞栓症予 防および抗凝固療法の診療指針(version 3.0). #166.
COVID-19と細菌/真菌感染症の合併 • 入院患者の細菌性肺炎の合併:3~5% • ICU入室患者の細菌性肺炎の合併:約10% → 抗菌薬の経験的投与は原則不要 Clin Microbiol Infect. 2020;26(12):1622-1629. Clin Infect Dis. 2021;72(10):e533-e541. • 人工呼吸器管理が必要な重症患者において、侵襲性肺アスペ ルギルス症が比較的高頻度に合併する(5~15%) Clin Microbiol Infect. 2020;27(5):790.e1-790.e5. Lancet Respir Med. 2022;10(2):180-190. #167.
入院COVID-19患者への経験的抗菌薬治療 • 軽症から中等症COVID-19では抗菌薬は、原則不要 • 経験的治療の対象:臨床的に細菌性肺炎を疑う場合 - 画像所見(浸潤影)と炎症マーカー(CRP・PCT上昇 - 高度免疫不全者 - 膿性痰が多い - ICU入室患者? • 治療開始前に、喀痰培養・血液培養・尿中抗原検査、Multiplex PCR検査 • 抗菌薬選択:市中肺炎ガイドラインに従う(通常、非定型肺炎カバーは不要) Clin Microbiol Infect. 2021;27(1):61-66. doi:10.1016/j.cmi.2020.09.041 #168.
オミクロン以降、高齢の感染者増→誤嚥性肺炎増 • 上気道症状の強い高齢者(ADLが低い、基礎疾患のある患者 が大半を占める)が、発症2-3日程度に、誤嚥性肺炎・痰づま りによる呼吸不全のため、入院となる事例が増加した • CXRやCT画像は、気管支肺炎像またはconsolidationがほと んど(典型的な多発スリガラス影をみることは稀):誤嚥性肺 炎>宿主の過剰な免疫反応によるCOVID-19 #169.
広島県(BA.1流行期):早期に呼吸不全に至る 第70回(令和4年2月2日)新型コロ ナウイルス感染症対策アドバイザ リーボード. 資料3-8. 広島県新型k路 ナウイルス感染症版 J-SPEEDデータ 等からの知見. #170.
広島県(BA.2流行期):早期に呼吸不全に至る 発症から3日位内に呼吸不全 となる患者が62%を占める。 8日目以降に呼吸不全となる 患者は少ない。 症状悪化=中等症II・重症・ 死亡のいずれかの状態に移行 すること 第94回(令和4年8月10日)新型コロナ ウイルス感染症対策アドバイザリー ボード. 資料3-9. 広島県新型k路ナウイ ルス感染症版 J-SPEEDデータ等からの 知見. 第7波データ分析 COVID-19治療のまとめと今後の展望 #171.
発症早期の呼吸不全の鑑別 •ウイルス性気管支炎 •ウイルス性肺炎 •市中肺炎(細菌性肺炎)の合併 •化学性肺炎・無気肺・痰づまり 症状(膿性痰)・受診までの経過・画像・治療開始後の経過から原因を考える #172.
オミクロンは誤嚥性肺炎のリスクが高い? • 市中肺炎合併リスクがこれまでのvariantよりも高いというデータはない • 高齢またはもともとADLの低い感染者の絶対数が増加したため、誤嚥性肺炎 を合併するCOVID-19患者が増加した、という理由がもっとも考えやすい • 強い咽頭痛や嚥下痛がある場合や、もともとADLが低く嚥下機能が低下して いる場合は、誤嚥性肺炎を合併しやすいことが十分想定される • ほとんどの事例を誤嚥性肺炎と臨床診断しているが、一部はウイルス性肺炎 であった可能性はある #173.
当院での高齢者の中等症IIの治療方針 • 発症5日以内(特に3日以内)の呼吸不全の場合は、細菌性肺炎合併による呼吸不全 の可能性をまず考える(症状、経過、画像所見から病態生理を考えた上で、治療薬 を決定する)。肺炎像がない若年者の呼吸不全も経験することがあるが、それはウ イルス性気管支炎をみているのかもしれない。 • 気管支肺炎像がある場合は、COVID-19は軽症で、細菌性肺炎が合併していると考 えて、初期治療は、レムデシビル 3日間と市中肺炎の経験的抗菌薬治療(セフトリ アキソン、または、アンピシリン/スルバクタム)で治療開始すること。60歳未満の 肺炎像がない場合は、レムデシビル単剤で治療開始している。 • 大半の症例は2-3日程度で呼吸不全は改善する(市中肺炎の通常の治療経過と一致) #174.
発症早期の呼吸不全の鑑別と治療 • ウイルス性気管支炎 → レムデシビル • ウイルス性肺炎 レムデシビル(±Dexa) → • 市中肺炎(細菌性肺炎)の合併 • 化学性肺炎・無気肺 → 吸痰 → 抗菌薬 #175.
抗菌薬についてのまとめ • 細菌性肺炎合併頻度は低い • 外来COVID-19患者には原則抗菌薬は不要である • 入院COVDI-19患者でも原則抗菌薬は不要である • ただし... - 高齢者では、発症数日以内に誤嚥性肺炎を合併することがある - 細菌感染症を疑う所見(膿性痰、炎症反応上昇、浸潤影)に注意 #176.
Take Home Messages • 病態・発症からの日数を考慮しつつ、エビデンスのある薬剤を使用する • 重症化リスクの高い外来患者では、まずニルマトレルビル/リトナビルの使用を検討する :①ニルマトレルビル/リトナビル、②レムデシビル、③モルヌピラビル • 呼吸不全のある入院患者では、デキサメタゾンを全例で投与 • レムデシビルは、発症早期の重症化リスクの高い軽症・中等症I患者、または、低流量シス テムによる酸素投与中の患者、呼吸不全を呈している免疫不全者がよい対象である • HFNC開始時点で、バリシチニブまたはトシリズマブを追加する • 入院患者には、VTE予防のために未分画ヘパリンの皮下注を行う • 経験的抗菌薬治療は原則不要である(高齢者の誤嚥性肺炎合併には注意が必要である) #177.
ご清聴ありがとうございました ご質問は hrkz1985@gmail.com までお願いします