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神戸市立医療センター中央市民病院
2022年4月時点でのエビデンスやガイドラインをもとに、COVID-19治療についてまとめました。軽症・中等症Iについて詳しく述べています。重症例の治療の項目では、レムデシビルの効果やステロイドの投与量などについて考察しています。このスライドは、作者が個人的に作成したものであり、所属施設の見解を代表したものではありません。
市中肺炎診療の考え方 ウィズコロナ時代
#市中肺炎 #感染症 #COVID-19
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COVID-19 診断・治療・感染対策
#感染症科 #感染症 #新型コロナウイルス感染症 #COVID-19
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診療に繋がるグラム染色
#感染症科 #グラム染色
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COVID-19の症状
#感染症 #新型コロナウイルス感染症 #COVID-19 #症状 #味覚障害 #嗅覚障害 #消化器症状
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突然の有症状外国人に対応できる無料通訳サービスまとめ
#外国人診療 #新型コロナウイルス感染症 #COVID-19 #知識をつなぐ2020 #岡大GM #csyfe #医療通訳
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COVID-19の疫学 2020.12
#感染症科 #COVID-19
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COVID-19の予防薬・ワクチンまとめ
#ワクチン #予防 #新型コロナウイルス感染症 #COVID-19
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COVID-19 診断・治療・感染対策
#感染症科 #感染症 #新型コロナウイルス感染症 #COVID-19
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コロナ時代の感染対策(2021年12月版)
#新型コロナウイルス感染症 #COVID-19 #感染対策
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Primary Survey 気道(A)の異常【解剖・気道確保を中心に】
#救急外来 #ER #救急 #ABCDEアプローチ #みんなの救命救急科
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臨床における意思決定支援
#患者中心の医療の方法 #意思決定支援 #臨床倫理4分割表 #Shared decision making #臨床倫理 #倫理4原則
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不登校と向き合う第一歩 〜不登校は疑うところから〜
#総合診療 #不登校 #児童精神科
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急性腹症のCT
#腹痛 #CT
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局所麻酔時に痛みを減らすテクニック
#救急外来 #救急 #研修医 #局所麻酔 #キシロカイン #メイロン #ペンレス #エムラクリーム #麻酔
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踵採血のいろは〜新生児医療入門〜
#小児科 #新生児 #踵採血 #新生児マススクリーニング #濾紙血 #マイクロティナ #血液ガス
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薬剤感受性試験の読み方(ID-Gym2020~感染症治療のイロハ~ vol.2)
#抗菌薬 #MIC #薬剤感受性試験 #薬剤感受性検査
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【公式】Antaa Slideの投稿方法
#お知らせ
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COVID-19治療 update2022年4月版 神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科 黒田浩一 2022.4.28作成
日本感染症学会 World Health Organization National Institutes of Health 各薬剤の解説 各薬剤の解説と重症度別に推奨される治療を提示
本日の内容 2022.4時点でのCOVID-19の治療update - 呼吸管理 - 薬物治療 軽症~中等症に対する早期治療 重症COVID-19に対する治療
呼吸管理
COVID-19に対する呼吸管理 SpO2 94%未満で、酸素投与開始 High-flow nasal cannula(HFNC) Noninvasive ventilation(NIV) 人工呼吸器
High-flow nasal cannula(HFNC) 重症呼吸不全(P/F=100程度)患者の挿管が、酸素マスクより38%減少した(34.3% vs 51.0%)。28日死亡は有意な差はなかったが少ない傾向がみられた(8.1% vs 16.0%)。 Awake prone positioningによって、挿管が25%減少した。 患者の不快感が少ない 当初エアロゾル発生が危惧されていたが、空気予防策を実施すれば、安全に使用可能と考えられており、現在は臨床現場で多用されている Eur Respir J. 2020;56(5):2001154. JAMA. 2021 Dec 7;326(21):2161-2171. doi: 10.1001/jama.2021.20714. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00356-8
High-flow nasal cannula(HFNC) オープンラベルRCT@コロンビア 対象:P/F<200の呼吸不全を呈する重症COVID-19(N=220) HFNC vs 酸素マスク/経鼻カニュラなど Baseline:P/F=105、発症から無作為化 中央値8-10日 Primary outcome 28日以内の挿管:34.3% vs 51.0%(38%減少) 臨床的改善:11日 vs 14日 入院期間、ICU入室期間、14日死亡は同等 28日死亡はHFNC群で低い傾向(8.1% vs 16.0%) JAMA. 2021 Dec 7;326(21):2161-2171. doi: 10.1001/jama.2021.20714. HiFLo-Covid試験
Awake prone positioning 多施設オープンラベルRCT、HFNC使用中の急性呼吸不全を呈するCOVID-19患者を対象 場所:ICU or HCUが95%程度 APPの時間:できる限り頻回かつ長く Primary outcome(28日以内の挿管+死亡):40% vs 46%(14%減少) 8時間以上施行でよい成績(17% vs 48%) 挿管:25%減少、死亡:差なし 合併症増加なし https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00356-8
HFNCの安全性 細菌性肺炎患者の研究やマネキンとスモーク(長径 1µm未満)を使用した実験では、通常の酸素マスクとエアロゾル発生リスクが同等であった 1) 一般病棟のCOVID-19患者に対するHFNCの有用性と安全性(空気予防策で対応)を示した観察研究がある 2) ただし、直接COVID-19患者におけるHFNCによるエアロゾル発生リスクを評価した研究や臨床効果を検討した比較研究はない 3) 1) Eur Respir J. 2020 May 14;55(5):2000892. doi: 10.1183/13993003.00892-2020. 2) Eur Respir J. 2020 Sep 9;2001154. doi: 10.1183/13993003.01154-2020. 3) Can J Anaesth. 2020 Sep;67(9):1217-1248.
当院でのHFNCの使用方法 適応 - 酸素投与5L/分以上でSpO2 93%以下 - 挿管回避の可能性がある 除外基準 - 不穏状態などで、HFNCとサージカルマスクの継続使用不可 使用方法 - 個室(陰圧が望ましい)、空気予防策 - 患者はサージカルマスク着用
NIV(noninvasive ventilation) 当院では、原則として使用していない(導入は、今後の検討事項である) - 当初、大量のエアロゾル発生が懸念された →その後特にリスク高いという報告はない - 非COVID-19による1型呼吸不全に対してHFNCよりも治療成績が劣る可能性がある 使用を考慮する場合 - 神経筋疾患やCOPDによって2型呼吸不全を呈している場合 - 心原性肺水腫の場合 N Engl J Med. 2015;372:2185-96.
NIVの効果:CPAPで予後改善 英国で行われたオープンラベルRCT(2020.4.6-2021.5.3)、N=1260 急性呼吸不全を呈したCOVID-19(FiO2 0.4以上、中央値→SpO2 93%、FiO2 0.6、P/F=110)、発症から無作為化まで中央値9日、CPAP modeのPEEP中央値 8.3 cmH2O、どの群もawake prone 60-70%で実施 Primary outcome:30日以内の挿管+死亡 CPAP vs マスク/経鼻カニュラ36% vs 44%(挿管が減少、死亡は同等) HFNC vs マスク/経鼻カニュラ44% vs 45%(効果に差なし) ICU入室期間、入院期間は同等 JAMA. 2022 Feb 8;327(6):546-558. doi: 10.1001/jama.2022.0028. RECOVERY-RS
NIV or HFNC?? 前述のRECOVERY-RS試験では、HFNC<CPAPであった HENIVOT試験(N=109)では、P/F≦200の呼吸不全(baseline P/F=105 vs 102)を呈する重症COVID-19に対するNIV(最初の48時間以上をNIV<PEEP 10-12 cmH2O, PS 10-12 cmH2O>→HFNC)とHFNC(流量 60L/分)の効果を比較(オープンラベルRCT@イタリア)。Primary endpointの28日以内の呼吸サポート(HFNC/NIV/MV)なしの日数は同等。Secondary endpointの28日以内の挿管はNIVで減少(30% vs 51%)。28日死亡・60日死亡・入院期間・ICU入室期間は同等。 ●P/F=100程度の呼吸不全に対して、NIVは挿管を減らすが、死亡は減らさない JAMA. 2021 May 4;325(17):1731-1743.
気管挿管のタイミング その他の呼吸不全を呈する病態と同様である (1)時間単位で急速に呼吸状態が悪化 (2)HFNCで酸素化が保てない(PaO2/FiO2<100が目安) (3)CO2貯留、 (4)呼吸筋疲労 (5)意識障害 (6)循環動態不安定 (7)多臓器不全 などを加味して、総合的に判断する
薬物治療
病態を踏まえてevidenceのある薬剤で治療を行う
臨床医として重要なこと(私見) evidenceのある薬剤で治療を行う 信頼できるガイドラインを参照する(NIH@米国 etc) 理論的に効果が期待され、弱いevidenceのある薬剤(例:観察研究のみで効果が示されている)は、他の効果が確立した薬剤がない場合に、riskとbenefitを考慮した上で、その使用が検討される(または、臨床試験の中で使用すべきである) マスコミ、SNS、一部の専門家の意見:「切れ味がよい」という一部の専門家の意見は参考にしてはいけない(臨床現場で効果が実感できるほどの薬剤は今のところないはずである)
BMJ. 2020 Oct 23;371:m3862. doi: 10.1136/bmj.m3862.
重症度発症からのタイミングで治療薬が決定する
病態に合わせて治療薬を検討する 初期(~1w) ・ウイルス増殖 :抗ウイルス作用 過剰炎症反応期 ・宿主免疫による炎症反応 :抗炎症作用 J Heart Lung Transplant. 2020 May;39(5):405-407.
N Engl J Med. 2020 Oct 29;383(18):1757-1766. doi: 10.1056/NEJMcp2009249. Antibody Px
COVID-19に対する薬物治療の考え方 第13.1版
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軽症~中等症に対する早期治療 外来患者(軽症~中等症)
重症化を予防する薬剤 2021年夏以降に大きく方針が変わった 効果は高い ただし早期診断・早期治療が必要 (発症5-7日以内に投与開始)
50歳以上 55歳以上 61歳以上 60歳以上
新規治療薬の選択 臨床試験で示された治療効果 発症からの日数 静脈注射が可能な環境かどうか(自施設 or 他院紹介) 服用中の薬剤との薬物相互作用 流行している主なvariant 薬剤の需要と供給のバランス(流通制限の有無) 追加 ・年齢 ・重症化リスク因子の数 ・免疫不全の有無
NIHガイドラインでは 軽症から中等症COVID-19患者で重症化リスクがある場合 - nirmatrelvir+ritonavir(1回300/100mg 1日2回 5日間)(AIIa) 発症5日以内、成人 or 12歳以上かつ40kg以上、ritonavirとの薬物相互作用に注意 - レムデシビル(1日目200mg, 2-3日目100mg 点滴)(BIIa) 発症7日以内、成人 or 12歳以上かつ40kg以上 - モルヌピラビル(1回800mg 1日2回 5日間)(CIIa) 発症5日以内、18歳以上、上記3剤が利用できない事情がある場合に使用する - ソトロビマブ(500mg 単回点滴)(AIIa) → 4/1の更新版からCIIIとなった 発症7(10)日以内、成人 or 12歳以上かつ40kg以上、点滴必要 Therapeutic Management of Nonhospitalized Adults With COVID-19. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/management/clinical-management/nonhospitalized-adults--therapeutic-management/ [2022.4.1]
各薬剤の効果の比較 1人の入院を防ぐために治療する必要のある人数 https://doi.org/10.1093/ofid/ofac008
nirmatrelvir+ritonavirパキロビッド®パック
nirmatrelvir+ritonavir(パキロビッド) 二重盲検プラセボ対照RCT(EPIC-HR) 2021.7‐2021.12に施行(デルタ流行期) 18歳以上の高リスク群(ワクチン接種なし)に対する効果、5日間投与、eGFR 30-60は減量、約50%が既感染者(seropositive at baseline) 5日以内投与→28日以内の入院+死亡88%減少 治療群で死亡例なし 副作用:味覚障害5.6%、下痢3.1% N Engl J Med. 2022 Feb 16. doi: 10.1056/NEJMoa2118542.
nirmatrelvir+ritonavir(パキロビッド) N Engl J Med. 2022 Feb 16. doi: 10.1056/NEJMoa2118542. 既往があっても効果あり:0.2% vs 1.5%
nirmatrelvir+ritonavir(パキロビッド) N Engl J Med. 2022 Feb 16. doi: 10.1056/NEJMoa2118542. ・発症3日以内または5日以内に治療開始した場合、5日目のウイルス量は治療群でより低下した(0.7~0.87 Log10 copies/mL) ・治療開始時のウイルス量、serostatusに関係なく同様の効果が確認された
文献化未(プレス・リリースのみ) 研究は2021.7以降に施行(デルタ流行期) 標準リスク群 - 重症化リスク+ワクチン接種 - 重症化リスクなし+ワクチン接種なし 中間解析:5日以内に投与→入院と死亡が70%減少 https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-announces-additional-phase-23-study-results nirmatrelvir+ritonavir(パキロビッド)
薬物相互作用を必ず確認する パキロビッド®パックの添付文書から
薬物相互作用を必ず確認する パキロビッド®パックの添付文書から 主要な併用禁忌薬 アゼルニジピン アミオダロン、フレカイニド、シルデナフィル、リバーロキサバン ジアゼパム、エスタゾラム、トリアゾラム、ミダゾラム ボリコナゾール、リファンピシン、リファブチン カルバマゼピン、フェニトイン
薬物相互作用を必ず確認する パキロビッド®パックの添付文書から 主要な併用注意薬 エベロリムス、シクロスポリン、タクロリムス コルヒチン、クラリスロマイシン、ワルファリン クエチアピン、フルコナゾール、バルプロ酸、ラモトリギン カルシウム拮抗薬 アトルバスタチン、ロスバスタチン、トラゾドン
処方可能な医療機関の拡大 2022.2.28以降 病院・有床診療所で、院内または院外処方が可能 2022.4.22以降 無床診療所で、院外処方が可能 ほとんどの軽症例は、無床診療所で診断されていると思われるので、今後処方量の増加に期待 厚生労働省. 事務連絡(2022/4/22). 新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬(パキロビッド®パック)の医療機関及び薬局への配分について
パキロビッド®:第1選択薬 重症化予防効果(約90%)は非常に高い ワクチン接種後の高リスク患者への効果も期待できる(文献化未) 内服薬である 発症5日以内、薬物相互作用に注意(必ず確認!) 進行した腎不全患者には使用できない(eGFR<30) 流通制限あり(各医療機関・薬局のストックは約5回分)
抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体
抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体 日本で2022.4現在使用可能な製剤2つあるが、すでに「過去」の薬... - カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ®) - ソトロビマブ(ゼビュディ®) ロナプリーブ®:BA.1に対する中和活性は著明に低下 ゼビュディ®:BA.1では中和活性維持、BA.2では効果低下 米国では、BA.2にin vitro活性のあるbebtelovimabが使用可能
オミクロン:第6波の原因となった https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/ [2022.3.16最終アクセス] α δ ο 2021.2.17- 医療従事者に接種開始 2021.3- アルファの流行 2021.4.12- 高齢者への接種開始 2021.6- デルタの流行 2022.1- オミクロン流行
オミクロン(B.1.1.529系統)の歴史 2021年11月24日:南アフリカではじめて報告された 2021年11月26日:WHOがOmicronと命名し、VOCに位置づけた 2021年11月26日:国立感染症研究所がVOIに位置づけた 2021年11月28日:国立感染症研究所がVOCに位置づけた 12月以降、欧州・米国などを中心し、世界中に拡がった SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第5報) https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10876-sars-cov-2-b-1-1-529.html VOC:variant of concern 懸念される変異株 VOI:variant of interest 注目すべき変異株
基準株と比較して、スパイク蛋白に30か所程度のアミノ酸置換を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位をもつ 主な変異:N501Y、E484A、G142D、G339D、S371L、S373P、S375F、S477N、T478K、Q493K、G496S、Q498R、Y505H 、P681H 感染伝播性 ワクチン効果 モノクローナル抗体の効果 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第5報) https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10876-sars-cov-2-b-1-1-529.html オミクロンのアミノ酸置換
オミクロンの下位系統 B.1.1.529系統 - BA.1系統:2022.3時点で主流、下位にBA.1.1系統もある - BA.2系統:インド、フィリピン、デンマークなどで増加 日本でもBA.2が増加していくことが予想されていた SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第7報)(2022.1.26) https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10945-sars-cov-2-b-1-1-529-7.html
オミクロンBA.1の特徴のまとめ 感染伝播性がデルタより2~3倍高く、倍加時間・世代時間・発症間隔・潜伏期間(約3日)がデルタより短い→急速に感染が拡大しやすい 入院リスク・死亡リスクは、デルタより低い 症状は、咽頭痛が多く、味覚嗅覚障害が少ない。肺炎は少ない。 カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ®:抗体カクテル療法)が無効である mRNAワクチン2回接種による感染予防効果は、デルタの場合より低く、2回目接種2か月後以降急速に減衰する。重症化予防効果は6か月程度は期待できるが、デルタと比較すると低い。booster接種によって効果は再上昇するが、2か月以降で、効果は減衰する。
BA.2系統とは? 2022年2月時点で、デンマーク・英国・南アフリカで増加 2022年3月から、日本でも増加傾向となり、4月には主流となった 実効再生産数(感染伝播性)は、BA.1の1.18-1.4倍 発症間隔は、BA.1より短い可能性がある(2.7日 vs 3.3日) mRNAワクチンの効果はBA.1と同等。ソトロビマブの効果は低下? 入院リスク・重症化リスクと死亡リスクは、BA.1と同等 or やや低い SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第8報)(2022.2.16)[accessed on 3/3/2022] medRxiv 2022.02.17.22271030; doi: https://doi.org/10.1101/2022.02.17.22271030 [accessed on 3/3/2022] SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 38 (11 March 2022) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000888040.pdf (2022/1/26) bioRxiv 2022.02.14.480335; doi: https://doi.org/10.1101/2022.02.14.480335 medRxiv 2022.03.10.22272177; doi:https://doi.org/10.1101/2022.03.10.22272177
神戸市:2022年3月下旬時点でBA.2が約50%を占めている 東京都では4月1日時点で83%がBA.2と推定された(第78回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料より) 讀賣新聞オンライン(https://www.yomiuri.co.jp/national/20220331-OYT1T50251/) 2022年4月現在、すでに日本でも主要なVOCは、オミクロン BA.2 である
ロナプリーブ®はBA.1に効果が期待できない N Engl J Med. 2022 Mar 10;386(10):995-998. doi: 10.1056/NEJMc2119407 remdesivir molnupiravir 静注プロテアーゼ阻害薬
ゼビュディ®は効果が期待できる ソトロビマブ(ゼビュディ®)は、 SARS-CoV-2 スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン上のACE2受容体結合部位とは異なる部位に結合する抗SARS-CoV-2 モノクローナル抗体治療薬 アルファ、ベータ、ガンマ、デルタだけでなく、オミクロンに対する中和活性も維持(in vitro) bioRxiv 2021.03.09.434607; doi: https://doi.org/10.1101/2021.03.09.434607 [プレプリント 2021.12.15] Nature 2021, doi: https://doi.org/10.1038/d41586-021-03827-2 medRxiv 2021.12.13.21267761; doi: https://doi.org/10.1101/2021.12.13.21267761
ロナプリーブ® ×・ゼビュディ® 〇 Nature 2021, doi: https://doi.org/10.1038/d41586-021-03827-2
Nature 2021, doi: https://doi.org/10.1038/d41586-021-03827-2 ロナプリーブ® ×・ゼビュディ® 〇
ソトロビマブ vs BA.2→△ bioRxiv 2022.02.07.479306; doi: https://doi.org/10.1101/2022.02.07.479306 bioRxiv 2022.02.14.480335; doi: https://doi.org/10.1101/2022.02.14.480335 ソトロビマブの効果が期待できない可能性がある(中和活性が従来株の27分の1)
BA.2 vs モノクローナル抗体・抗ウイルス薬 各治療薬のBA.2への活性を、従来株への活性と比較した ソトロビマブの効果はやや低下 イムデビマブはBA.1に対して効果を認めなかったが、BA.2に対しては活性を認めた 抗ウイルス薬は、あまり効果の低下を認めなかった remdesivir molnupiravir nirmatrelvir N Engl J Med. 2022 Mar 9. doi: 10.1056/NEJMc2201933.
モノクローナル抗体の耐性化? デルタに感染したCOVID-19患者に対して、ソトロビマブ投与した6-13日後に、receptor-binding domainに中和活性を低下させる変異がみつかった 抗菌薬のように、使用すると耐性化することがある? 治療失敗や耐性化したvariantの伝播を最小限にするために、適正使用とgenomic surveillanceが重要と考えられる N Engl J Med. 2022 Mar 9. doi: 10.1056/NEJMc2120219.
軽症または中等症の重症化リスクのあるCOVID-19患者を対象とした二重盲検プラセボ対照RCT 2020.9.24-2021.1.17(従来株流行期) 発症から7日以内に投与(中央値は3日) 投与量は、600mgずつと1200mgずつで効果に差なし 投与群の0.1%が人工呼吸器管理 半減期:25-29日 Casirivimab+Imdevimab プラセボ群と比較して、28日以内の入院+死亡が、70%減少した(3.2%→1.0%) Baseline seropositive(24%)でも効果あり Infusion reaction:0.3%未満 DOI: 10.1056/NEJMoa2108163
DOI: 10.1056/NEJMoa2108163
DOI: 10.1056/NEJMoa2108163 ウイルス量の低下は介入群>プラセボ群:Day 7で、0.7~0.9 Log10 copies/mL
ロナプリーブ®の予防投与 アルファ流行前(~2021.1)に行われた家庭内曝露後96時間以内ロナプリーブ皮下注(600mg/600mg)によるCOVID-19の発症予防効果を検討したプラセボ対照RCTでは、81.4%の予防効果が示された(1.5% vs 7.8%)。感染予防効果(無症候性感染も含む)は、66.4%(4.8% vs 14.2%)。 アルファ流行前(~2021.1)に行われた無症状病原体保有者(index caseの陽性検体が採取された96時間以内)に対するロナプリーブの皮下注による症候性感染予防効果を検討したプラセボ対照RCTでは、46%の予防効果が示された(29.0% vs 42.3%)。 DOI: 10.1056/NEJMoa2109682 JAMA. doi:10.1001/jama.2021.24939
ロナプリーブ®の予防投与の適応 ●適応は、以下のすべてを満たす場合(オミクロン流行期には使用しない) 濃厚接触者(家庭内、高齢者施設内、医療機関内) or 無症状感染者 COVID-19重症化リスクがある ワクチン接種歴なし、または、摂取歴あるが免疫不全あり ●投与方法 皮下注(2.5mlを4か所)or 静注、投与後1時間は経過観察 タイミングは、曝露から7日以内が望ましいが、特に限定しない
ソトロビマブ(ゼビュディ®) COMET-ICE試験の中間結果 18歳以上の軽症~中等症のCOVID-19 呼吸不全なし、かつ、発症から5日以内、かつ、重症化リスクあり(55歳以上) COVID-19ワクチン接種者は除外 500mg 点滴静注1回 24時間以上の入院+死亡 :85%減少(1% vs 7%) N Engl J Med 2021; 385:1941-1950 DOI: 10.1056/NEJMoa2107934 2020.8.27-2021.3.4施行の臨床試験 主に従来株~アルファの流行期
ソトロビマブ(ゼビュディ®) 二重盲検プラセボ対照RCT(COMET-ICE試験の最終結果) 29日以内の入院:79%減少(1% vs 6%), 重症化:74%減少(1% vs 5%) 投与群は、HFNC・挿管例・ICU入室例なし Day 7時点のウイルス量の低下は投与群>プラセボ群(差:-0.23 Log10 copies/mL) 発症12日以内(中央値8日)の入院COVID-19患者(低流量酸素システム or 酸素投与なし、約60%が既往あり、ワクチンは10%未満)への効果を検討した二重盲検プラセボ対照RCT(TICO試験)では、5日目の臨床的改善などの差なし(90日死亡も差なし) JAMA. doi:10.1001/jama.2022.2832 Lancet Infect Dis. doi: 10.1016/S1473-3099(21)00751-9 2020.12-2021.3:従来株とアルファ(北欧)
ワクチン接種後のモノクローナル抗体 米国での観察研究 ブレイクスルー感染(主にファイザーワクチン接種後) 2回目接種から約4か月、デルタ流行期がメイン(2021.1-2021.8) モノクローナル抗体投与群で77%入院が少なかった(2.65% vs 10.7%) モノクローナル抗体投与群で呼吸不全が86%少なかった 使用された製剤は、主にロナプリーブ® J Infect Dis. 2021 Nov 16;jiab570. doi: 10.1093/infdis/jiab570.
ソトロビマブ投与後のワクチン接種 以前は、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体投与後のワクチン接種は90日以上の間隔をあけることが推奨されていたが、現在では、関係なくワクチン接種しても問題ないと考えられている(日本の添付文書には、間隔についての記載なし) ソトロビマブではないモノクローナル抗体製剤(bamlanivimab)投与後のワクチン効果が検討された。投与群では、非投与群と比較して、スパイク蛋白に対するIgGが2分の1程度、中和活性はやや低い傾向(有意差なし)。投与からワクチン接種まで64日以内、65-84日、85日以上で、免疫学的効果(IgG)に差は認めなかった。 Interim Clinical Considerations for Use of COVID-19 Vaccines Currently Approved or Authorized in the United States. https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/clinical-considerations/covid-19-vaccines-us.html [accessed on 3/3/2022] medRxiv 2021.12.15.21267605; doi: https://doi.org/10.1101/2021.12.15.21267605
ソトロビマブの投与は推奨されない 米国のFDAは、流行しているSARS-CoV-2の50%以上がBA.2となった複数の州でソトロビマブの使用を制限した(2022.3.25) 段階的にその制限範囲を拡大し、2022.4.5には米国全域でソトロビマブの使用が制限された https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-updates-sotrovimab-emergency-use-authorization accessed on 4/9/2022
ソトロビマブ(ゼビュディ®) BA.2流行前は、重症化効果は非常に高く第1選択薬だった ワクチン接種者への効果は検討されていない 点滴ルートが必要(診療所では使いにくい) 安全性も高い(妊婦でもOK) BA.2への効果が低い可能性が高いため、2022.4以降は使用しにくい 臨床試験は発症5日以内が対象とされたが、日本では発症7日以内、米国では発症10日以内まで使用可能 流通制限あり(院内ストックがあまり認められていない 2022.4)
レムデシビルベクルリー®
軽症者に対する早期レムデシビル 12歳以上の外来COVID-19患者 発症7日以内に開始 ワクチン接種歴なし 重症化リスクあり or 60歳以上 レムデシビル 3日間 vs プラセボ 28日以内の入院+死亡 :0.7% vs 5.3%(87%減少) N Engl J Med. 2021 Dec 22;NEJMoa2116846. doi: 10.1056/NEJMoa2116846. 2020.9.18-2021.4.8に行われた試験(従来株~アルファ)
N Engl J Med. 2021 Dec 22;NEJMoa2116846. doi: 10.1056/NEJMoa2116846. ウイルス量の推移はプラセボ群と介入群で同等
Therapeutics and COVID-19: living guideline(WHO)(22 April 2022) https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2022.2 WHOのガイドラインは、重症化リスクが高い非重症例に対するレムデシビルの使用を提案 改訂
レムデシビル(ベクルリー®) 効果は非常に高い 3日間の点滴(200-100-100mg)が必要(入院加療が現実的) ワクチン接種者への効果は検討されていない BA.2への効果も期待できる 腎不全患者への安全性が不明(おそらく問題なく使用可能) ウイルス量の推移はプラセボ群と介入群で同等(?) 一般流通している(薬価収載済)が、非常に高価(100mg 63,342円→3日間253,368円)
モルヌピラビルラゲブリオ®
モルヌピラビル(ラゲブリオ®) 18歳以上、重症化リスクあり(年齢は60歳以上)、軽症~中等症COVID-19を対象 発症5日以内 Variant判明しているものでは、デルタが最多(約60%) 29日以内の24時間以上の入院+死亡:6.8% vs 9.7%(約30%の効果) Subgroup解析:既感染者では効果なし(3.8% vs 1.7%) 2021.5-2021.11に行われた臨床試験(主にデルタ流行期) N Engl J Med. 2021 Dec 16;NEJMoa2116044. doi: 10.1056/NEJMoa2116044
直接の比較試験はないが、他の薬剤より有効性が低い可能性が高い 内服可能、発症5日以内 カプセルが大きくて内服しにくい 小児・妊婦は使用できない 流通制限がある 他の薬剤が使用できない場合にのみ使用することを推奨(NIH) ワクチン接種者・既感染者への効果は期待できない可能性が高い モルヌピラビル(ラゲブリオ®)
ここまでのまとめ 2022.4現在の日本では... 第1選択薬:パキロビッド®パック 第2選択薬:レムデシビル 第3選択薬:モルヌピラビル BA.1と確定している場合:ソトロビマブ 使用しない:カシリビマブ・イムデビマブ
供給制限あるかつ軽症の多いオミクロンでは費用対効果微妙? 優先順位をつける必要がある
そもそも本当に効果ある?? ワクチン接種者に対する効果は、パキロビッドとロナプリーブ以外は検討されていない(ロナプリーブの効果があるのであれば、ゼビュディも効果あると予想される) 重症化リスクが低いオミクロンでの効果は検討されていないが(おそらく比較試験をしても差は示しにくい)、in vitro活性は、抗ウイルス薬とゼビュディで確認されている BA.1とBA.2流行によって、2つのモノクローナル抗体は推奨されなくなった
カナダオンタリオ州のガイドライン 重症化のリスクの高い軽症患者に対する第1選択薬:ソトロビマブ (1)ソトロビマブ、(2)レムデシビル、(3)パキロビッド® Tier 1 - 免疫不全者(ワクチン接種の有無は関係なし) - 他のリスク因子のない70歳以上、かつ、ワクチン接種なし - 他のリスク因子のある60歳以上、かつ、ワクチン接種なし Tier 2 - 他のリスク因子のない60歳以上、かつ、ワクチン接種歴なし Clinical Practice Guideline Summary: Recommended Drugs and Biologics in Adult Patients with COVID-19. https://covid19-sciencetable.ca/sciencebrief/clinical-practice-guideline-summary-recommended-drugs-and-biologics-in-adult-patients-with-covid-19-version-9-0/ [最終アクセス 2022.2.3] 2022/1
カナダオンタリオ州のガイドライン 以下の群は中等度リスクとして、ソトロビマブ、レムデシビル、パキロビッドの投与を推奨していない(フルボキサミン or ブデソニドを推奨) Tier 3 - 他のリスク因子のない70歳以上、かつ、ワクチン接種あり - 他のリスク因子のある60歳以上、かつ、ワクチン接種あり Tier 4 - 他のリスク因子のない60歳以上、かつ、ワクチン接種歴あり - 他のリスク因子のある50歳以上、かつ、ワクチン接種歴あり Clinical Practice Guideline Summary: Recommended Drugs and Biologics in Adult Patients with COVID-19. https://covid19-sciencetable.ca/sciencebrief/clinical-practice-guideline-summary-recommended-drugs-and-biologics-in-adult-patients-with-covid-19-version-9-0/ [最終アクセス 2022.2.3] 2022/1
カナダオンタリオ州(最新版 4/1-) Clinical Practice Guideline Summary: Recommended Drugs and Biologics in Adult Patients with COVID-19. https://covid19-sciencetable.ca/sciencebrief/clinical-practice-guideline-summary-recommended-drugs-and-biologics-in-adult-patients-with-covid-19-version-11-0/ [accessed on 4/2/2022] 高リスク群:パキロビッド、または、レムデシビル ※ソトロビマブはBA.2流行のため非推奨 標準リスク群:経過観察(フルボキサミン or ブテソニド吸入)
NIHの優先順位(供給制限ある場合) ポイント:年齢、ワクチン接種の有無、免疫状態、重症化リスク因子 (1)ワクチン効果が期待できない免疫不全者(ワクチン接種歴関係なし)、 75歳以上のワクチン非接種者、65歳以上で重症化リスク因子のあるワクチン非接種者 (2)ワクチン非接種の65歳以上、ワクチン非接種の65歳未満で重症化リスク因子あり (3)ワクチン接種済みの75歳以上、ワクチン接種済みの65歳以上で重症化リスク因子あり(booster接種していない場合は、重症化リスクが高い) (4)ワクチン接種済みの65歳以上、ワクチン接種済みの65歳未満で重症化リスク因子あり(booster接種していない場合は、重症化リスクが高い) 米国NIHのガイドライン
重症化予防薬の適応(私見)
重症化予防薬の適応(私見)
新規治療薬のまとめ ワクチン接種者へのevidenceはほとんどない 2022/4時点では、パキロビッドが第1選択薬である 入院する場合は、レムデシビル 3日間が検討される オミクロン(BA.1)流行期は、ロナプリーブ使用不可 オミクロン(BA.2)流行期は、ゼビュディ使用不可 ラゲブリオはその他の薬剤が使用できない場合に考慮する
その他の薬剤
デキサメタゾン
デキサメタゾン→× 入院患者におけるデータであるが、酸素投与をしていない患者に対する副腎皮質ステロイドは、効果がないことが示されているため、デキサメタゾンは投与しない(理論上、時期尚早な投与によって、予後が悪くなる可能性がある。また、90日死亡の上昇を示した観察研究もある) 入院ができない医療状況で、SpO2が93%以下となった場合は、投与が検討される(在宅酸素旅法中にDexa 6mg/日、最長10日間)が、安易な使用は控えるべきである。高血糖に注意する。 N Engl J Med. 2021;384:693-704. Eur Respir J. 2021 Nov 25;2102532. doi: 10.1183/13993003.02532-2021
ファビピラビル
RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬 もともとインフルエンザに対して開発された薬剤 現時点では、軽症・中等症・重症COVID-19への効果は期待できず、臨床的に意義のある薬剤ではないと考えられている(複数の無作為比較試験) ファビピラビル(アビガン®)→× Nat Med. 2021 Jul 5. doi: 10.1038/s41591-021-01439-x Antimicrob Agents Chemother. 2020 Sep 21;AAC.01897-20. doi: 10.1128/AAC.01897-20. Infect Dis Ther. https://doi.org/10.1007/s40121-021-00517-4 Sci Rep. 2021 May 26;11(1):11022. doi: 10.1038/s41598-021-90551-6.
ファビピラビル(アビガン®) 無症状または軽症COVID-19(呼吸不全なし)におけるファビピラビルの効果を検討したRCT 早期投与群 vs 遅延投与群(day 6に開始)を比較 Primary outcome:day 6でのPCR陰性化率 投与方法:初日1800mg 1日2回、その後800mg 1日2回 合計10日間 発熱出現と無作為化までの期間:中央値7日間 PCR陰性化を早めない 解熱を早める可能性 2.1日 vs 3.2日 Antimicrob Agents Chemother. 2020 Sep 21;AAC.01897-20. doi: 10.1128/AAC.01897-20.
ファビピラビル(アビガン®) ロシアでのオープンラベルRCT ファビピラビル(発症から6-7日で投与) vs 標準治療 対象:18歳以上の中等症COVID-19患者 (60名、25%が酸素投与必要、25%が発熱) primary endpoint:day 10までのPCR陰性化率 day 5のPCR陰性化率 62.5%vs 30%(有意差あり) day 10のPCR陰性化率 92.5% vs 80%(有意差なし) 解熱(37度未満)までの期間:2日 vs 4日(有意差あり) Clin Infect Dis. 2020 Aug 9;ciaa1176. doi: 10.1093/cid/ciaa1176.
ファビピラビル(アビガン®) 非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者を対象としたプラセボ対照RCT ファビピラビル vs プラセボ、発症10日以内(中央値約5日)、中等症Iを対象 primary outcome:症状(体温、酸素飽和度、胸部画像)の軽快、かつ、PCR陰性化までの時間 ファビピラビル投与群 11.9日、プラセボ投与群 14.7日(有意差あり) 体温や気道症状の改善の改善は両群同等 胸部画像の改善やPCR陰性化までの時間が短縮 治療群で、高尿酸血症が約80%でみられた Infect Dis Ther. https://doi.org/10.1007/s40121-021-00517-4
ファビピラビル(アビガン®) オープンラベルRCT 対象:中等症~重症COVID-19 両群とも75%が酸素投与、15%がHFNC/NIV 発症10日以内(中央値5.85日) ファビピラビル 10日+HCQ 5日 vs 標準治療 ステロイドは両群とも90%程度 症状の改善、死亡ともに減少しなかった Infect Dis Ther. https://doi.org/10.1007/s40121-021-00496-6
ファビピラビル(アビガン®) メタ解析(9つの比較試験) - 入院7日後の症状改善率高い - 入院14日後の症状改善率は同等 - ウイルス排除は早めない - 呼吸不全に至る可能性は減らさない - ICU入室率減らさない - 死亡減らさない 呼吸不全 ICU入室 Sci Rep. 2021 May 26;11(1):11022. doi: 10.1038/s41598-021-90551-6.
ファビピラビル(アビガン®) 治療中に高率に一過性の高尿酸血症が出現する(84.1%) アビガンで治療中に痛風発作が出現した症例報告(痛風発作の既往のあるCOVID-19患者)がある ICUで人工呼吸器管理を必要としているCOVID-19患者でのファビピラビルの血中濃度は非常に低く、効果は期待できない Clin Transl Sci. 2020 Sep;13(5):880-885. Intern Med. 2020 Sep 15;59(18):2327-2329. Antimicrob Agents Chemother. 2020 Sep 21;AAC.01897-20.
承認見送り→提供終了 2020.12 厚労省の審議会で承認されず 2021.12 観察研究に使用するためのファビピラビルの提供終了
イベルメクチン
イベルメクチン→× 糞線虫症やオンコセルカ症などに使用される抗寄生虫薬であるが、in vitroでSARS-CoV-2に対して持つことが示されたため、その効果が検討されるようになった in vitroでSARS-CoV-2に効果を認めたイベルメクチンの濃度は、ヒトに対する通常投与量では到底達成できないような高い濃度である 現時点では、有効性はない可能性が極めて高く、臨床試験以外では使用しないことが推奨される。 Nat Med. 2021 Jul 5. doi: 10.1038/s41591-021-01439-x
イベルメクチン 多くのRCTが軽症または中等症のCOVID-19患者を対象として実施されているが、文献化されているものはそれほど多くない これらの研究は、(1)規模が小さい、(2)研究デザインに問題があるものが多い、(3)大半の研究が先進国以外で実施されている、(4)1回投与量(200-400 µg/kgまたは12-24mg)や投与期間(単回投与や5日間)が様々である、などの特徴がある
2021/7頃までのRCT:効果なし 発症早期(4-7日以内)に投与した場合 プラセボ群(または標準治療群)と比較して - 入院(重症化)は減らない - 症状の改善は早まらない BMC Infect Dis. 2021;21:635. IMC Journal of Medical Science, 2021;14(2):11-18. https://doi.org/10.3329/imcjms.v14i2.52826 International Journal of Sciences 2020;9:31-35. DOI:10.18483/ijSci.2378 Int J Infect Dis. 2021;103:214-6. EClinicalMedicine. 2021;32:100720. JAMA. 2021;325:1426-35.
高用量でもウイルス量の減少はわずか イタリアで行われた二重盲検第二相プラセボ対照RCT 軽症の外来COVID-19患者(発症からの中央値4日)に対して、600µg/kg 5日間、または、1200µg/kg 5日間、または、placebo 5日間投与して比較 結果:①Day7のウイルス量の低下は大きい傾向にあったが、有意差は認めなかった、②症状の改善は早まらなかった、③重篤な副作用はなかった。 https://doi.org/10.1016/j.ijantimicag.2021.106516
メタ解析:効果なし Mortalityの差はない IVM群がよい傾向であった論文はまだ査読されていない 10のRCTのメタ解析(1つがスペイン、その他はlow- or middle- incomeの国) ・各研究の規模:24-398名、既往ない患者が大半 ・イベルメクチンの投与方法: 総投与量12-210mg 単回(5研究) or 5日(4研究) ・死亡、入院期間、副作用、ウイルス排除は同等 Clin Infect Dis. 2021 Jun 28;ciab591. doi: 10.1093/cid/ciab591
メタ解析:効果あり?不正あり Clinical recovery 入院期間 24のRCTを対象としたメタ解析では、イベルメクチンは死亡を減少させることが示された(上には、提示していない)。しかし、対象とした論文の2/3は査読されていない研究であること、解析対象となっていた死亡を著明に減少させた効果を示した論文がデータ改ざんなどの疑いで撤回されたこと(赤枠)、などから、このメタ解析の結果の信頼性は低い。同様の結果を示したメタ解析はもう1つあるが、同じように解釈されている。 Open Forum Infectious Diseases, 2021;, ofab358, https://doi.org/10.1093/ofid/ofab358 Am J Ther. 2021 Jun 21;28(4):e434-e460. doi: 10.1097/MJT.0000000000001402.
研究の質の問題:bias・不正 Open Forum Infect Dis. 2022 Jan 17;9(2):ofab645. doi: 10.1093/ofid/ofab645.
イベルメクチンの重症化予防効果なし オープンラベルRCT@マレーシア(2021.5.31-2021.10.25) 対象:発症7日以内の1つ以上基礎疾患のある50歳以上の軽症または中等症COVID-19患者(N=490) 65%が中等症(肺炎像あり)、発症からの中央値5日 イベルメクチン 0.4mg/kg/日 5日間 vs 標準治療 JAMA Intern Med. 2022 Feb 18. doi: 10.1001/jamainternmed.2022.0189. primary endpoint(呼吸不全):21.6% vs 17.3% secondary endpoint:人工呼吸器・ICU入室・28日院内死亡は同等、投与群で下痢増加5.8%(vs 1.6%)
イベルメクチンの重症化予防効果なし プラセボ対象RCT@ブラジル(2021.3.23-2021.8.6) 対象:発症7日以内の1つ以上基礎疾患のある18歳以上のCOVID-19外来患者(N=1358、これまでの最大規模の研究) 発症からの中央値3.8±1.9日 イベルメクチン 0.4mg/kg/日 3日間 vs プラセボ 3日間 N Engl J Med. 2022 Mar 30. doi: 10.1056/NEJMoa2115869. primary endpoint(28日以内の入院+COVID-19の悪化で救急外来受診し6時間以上滞在):IVM群 14.7% vs プラセボ群 16.3% その他:入院率同等、PCR陽性率の推移同等、症状改善までの期間、死亡同等(3.1% vs 3.5%)など
糞線虫の有病率で効果が異なる 12のRCTのメタ解析 イベルメクチンは、糞線虫の有病率が高い地域では死亡を減少させたが、有病率の低い地域では死亡を減少させなかった 糞線虫の世界全体での有病率は8.1% 仮説:流行地では、COVID-19に対するステロイドなどによる糞線虫過剰感染症候群をイベルメクチン予防した可能性?? 糞線虫流行していない地域で、糞線虫流行地域のイベルメクチンのevidenceは適応できない JAMA Netw Open. 2022 Mar 1;5(3):e223079. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.3079.
イベルメクチン:副作用に注意 小規模な研究では、高用量でも大きな副作用は認めなかった 米国では、2021年8月にイベルメクチンの処方量がCOVID-19流行前の24倍になった。イベルメクチンの副作用に関する21例の電話相談のうち、ほとんどが動物用(ヒト用ではない)のイベルメクチンを内服していた。20-125mgなどの大量内服をしていた。 6名は入院を要した。消化器症状、混乱、 運動失調、脱力、血圧低下、痙攣を呈した。 外来で対応した患者は、消化器症状、めまい、 混乱、視覚異常、皮疹などが見られた。 https://doi.org/10.1016/j.ijantimicag.2021.106516 DOI: 10.1056/NEJMc2114907
コルヒチン
コルヒチン コルヒチンは、痛風・心膜炎・家族性地中海熱などに使用される抗炎症作用のある薬剤で、この抗炎症作用を期待して、COVID-19に使用される。 重症化リスクのある外来患者に対するコルヒチンはわずかな重症化予防効果はあるかもしれない。より効果の高い薬剤が使用できない場合は、その使用が検討されるが、下痢などの消化器症状に注意する。入院患者に対しては使用しない。なお、保険適用はない。 外来での使用方法(例):1回0.5mg 1日2回を3日間内服した後、1回0.5mg 1日1回 27日間内服(最適な投与量・投与期間は不明)
COLCORONA試験(外来患者) ・重症化リスクを1つ以上もっている40歳以上の外来COVID-19患者を対象 ・二重盲検プラセボ対照RCT、4488名、 ・コルヒチン1回0.5mg 1日2回 3日間、その後1回0.5mg 1日1回 27日間 ・症状出現から試験参加まで5.3日 ・主要評価項目:30日以内の入院または死亡の有意差なし(4.7% vs 5.8%) PCR陽性患者(93%)に限ると25%減少(4.6% vs 6.0%) ・副次評価項目:30日以内の死亡 0.2% vs 0.4%、30日以内の入院 4.5% vs 5.7% ・副作用:下痢が有意に増加(13.7% vs 7.3%)、肺塞栓が増加(0.5% vs 0.1%) Lancet Respir Med 2021;9:924–32. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00222-8
GRECCO-19試験(入院患者) ・入院患者を対象とした小規模なオープンラベルRCT(N=105) ・コルヒチン群 vs 標準治療 ・コルヒチン 初回1.5mg、60分後に0.5mg その後1回0.5mg 1日2回 退院まで(最長3週間) ・入院から投薬開始まで 3-5日(発症からの日数は不明) ・酸素投与60%、HFNC/NIV 6%、酸素投与なし 34% ・3週間以内の呼吸状態悪化が減少(14% vs 1.8%) ・下痢増加(45.5% vs 18.0%) ・入院期間同等(12日 vs 13日) JAMA Netw Open. 2020 Jun 1;3(6):e2013136. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2020.13136. 無増悪生存
RECOVERY試験(入院患者) ・入院患者を対象としたオープンラベルRCT(コルヒチン vs 標準治療)(N=11340名) ・NIV 26-27%、MV 5%、94%がステロイド使用 ・発症から投与までの期間:両群とも9日間(IQR 6-12日) ・初回1mg、12時間後0.5mg、その後1回0.5mg 1日2回を9日間 or 退院まで(早い方) ※投与頻度は、70kg未満、eGFR 30未満などの場合は1日1回投与 ・主要評価項目:28日死亡(21% vs 21%)で差なし ・サブグループ解析(呼吸不全の程度、投与開始 ~7日 vs 8日~など):差なし ・退院までの期間:同等(10日 vs 10日)、MV使用と死亡:同等(25% vs 25%) Lancet Respir Med 2021;9:1419–26. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00435-5
入院COVID-19に対するコルヒチン:無効 多施設オープンラベルRCT(ECLA PHRI COLCOVID trial) 2020.4.17-2021.3.28 コルヒチン:まず1.5mg内服し、2時間後に0.5mg内服。翌日から0.5mgを1日2回内服(退院まで、最長14日間) 両群とも低流量酸素使用80%弱 両群ともステロイド使用90%以上 PE:28日以内の挿管 or 死亡 JAMA Netw Open. 2021 Dec 1;4(12):e2141328. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.41328.
吸入ステロイドブデソニド
ブデソニド吸入の効果がもっとも検討されてる 外来患者に使用した場合、より効果の高い薬剤が使用できない状況であれば、症状の改善が早まり、入院が減少する可能性があるため、使用考慮できる。発症から1週間以内に開始する。 商品名:パルミコート 投与量・期間:1回800µg 1日2回吸入、改善するまで、または、14日間 なお、COVID-19に対する保険適用はない。 ブデソニド → △
・無盲検RCT・第2相試験(STOIC試験) ・基礎疾患問わない ・介入群:ブテソニド 1回800μg 1日2回吸入(症状消失まで) ・vs 通常治療 ・発症から投与までの期間:両群とも中央値3日 ・投与期間の中央値7日(4-10日) ・主要評価項目:救急外来での評価+入院 →ITT 3% vs 15%, PP 1% vs 14% ・副次評価項目:症状消失 7日 vs 8日 →1日早く改善(有意差あり) ・規模が当初の推定数より大幅に下回った(398例→146例) Lancet Respir Med. 2021 Jul;9(7):763-772. 吸入ステロイド(ブデソニド)
オープンラベルRCT(PRINCIPLE試験) 対象:発症から14日以内の50歳以上で基礎疾患がある、または、65歳以上の外来患者 基礎疾患あり:81% ブデソニド1回800μg 1日2回吸入 14日 vs 通常治療 発症から治療開始まで中央値6日(IQR 4-9日) 主要評価項目: - 症状の改善↑:11.8日 vs 14.7日 - 28日以内のCOVID-19による入院+死亡減少↓ :6.8 % vs 8.8%(統計学的有意差なし) Lancet 2021; 398: 843–55. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)01744-X 吸入ステロイド(ブデソニド)
シクレソニド(オルベスコ®)は効果なし 二重盲検プラセボ対照RCT@カナダ(N=203) 対象:発症5日以内の外来COVID-19患者、年齢中央値35歳、基礎疾患20%、発症からの日数の中央値3日 シクレロニド吸入600µg×2/日と点鼻 200µg/日の併用 vs placebo(吸入+点鼻) 14日間 Primary endpoint:7日時点の症状の改善 各症状の改善、入院、死亡すべて両群で同等 BMJ 2021;375:e068060. http://dx.doi.org/10.1136/bmj-2021-068060
フルボキサミン
フルボキサミン(ルボックス)→ △ フルボキサミンは、うつ病などに使用される選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:SSRI)であり、SARS-CoV-2の細胞内への侵入の抑制や抗炎症作用が注目されている。 発症から7日以内の外来COVID-19患者を対象とした複数の研究で、入院予防効果が示されている。なお、保険適用はない。 投与方法:1回50-100mg 1日2-3回 10-14日間 Molecular Psychiatry; https://doi.org/10.1038/s41380-021-01432-3
Molecular Psychiatry; https://doi.org/10.1038/s41380-021-01432-3
外来患者を対象とした観察研究 ・外来COVID-19患者(N=113名) ・50%が診断時無症状 ・希望者がフルボキサミン内服(内服群は有症状者が多かった) ・発症から診断確定まで約3.5日 ・1回50mg 1日2回 14日間 vs 投与なし ・14日までの入院が減少:0名 vs 6名(12.5%) Open Forum Infect Dis. 2021 Feb 1;8(2):ofab050. doi: 10.1093/ofid/ofab050
外来患者を対象としたRCT ・参加者:152名(試験脱落例25%程度) ・発症から7日以内に投与(両群とも中央値4日) ・フルボキサミン群 vs プラセボ群 ・少量で開始し1回100mg 1日3回まで増量 total 15日間 ・PE:15日以内の重症化 0% vs 8.3%(0名vs 6名)有意差あり ・COVID-19の悪化での入院 0名 vs 4名(人工呼吸器1名) ・重篤な副作用なし JAMA. 2020 Dec 8;324(22):2292-2300. doi: 10.1001/jama.2020.22760.
TOGETHER試験(対象:外来患者) プラセボ対照RCT@ブラジル 重症化リスクのある発症7日以内(中央値3.8日)の外来COVID-19患者(N=1497) 介入群:フルボキサミン100mg×2/日 10日間 Primary endpoint:28日以内の入院(ERでの6時間以上の滞在 or 高次医療機関への転送)が32%減少(11% vs 16%)、Secondary endpoint:入院、人工呼吸器、死亡は変化なし(ERでの6時間以上の滞在は介入群で少なかった) Lancet Glob Health 2021. https://doi.org/10.1016/S2214-109X(21)00448-4
入院患者呼吸不全なし
入院患者(呼吸不全なし) 酸素投与が不要な入院患者に対する予後改善効果を認めた薬剤はないため、原則対症療法で経過観察を行う 副腎皮質ステロイドは、効果がないことが示されているため、原則として投与しない。90日死亡が増加する可能性を示した観察研究もある。 レムデシビルは、2つの大規模RCT(ACTT-1試験・Solidarity試験)のサブグループ解析で効果を認めなかった 未分画ヘパリンによる深部静脈血栓症予防は行う N Engl J Med. 2021;384:693-704. Eur Respir J. 2021 Nov 25;2102532. doi: 10.1183/13993003.02532-2021 N Engl J Med. 2020;383:1813-26. N Engl J Med. 2021;384:497-511.
デキサメタゾンは効果なし 酸素投与をしていない患者に対する副腎皮質ステロイドは、効果がないことが示されているため、デキサメタゾンは投与しない(むしろ予後を悪化させる傾向にある) 理論上、時期尚早な投与によって、予後が悪くなる可能性もある N Engl J Med. 2021;384:693-704.
レムデシビルは効果なし N Engl J Med. 2020;383:1813-26. N Engl J Med. 2021;384:497-511. ACTT-1 Solidarity
中等症COVID-19患者に対象を限定したRCT 肺炎像があるがSpO2 94%以上のCOVID-19患者を対象 標準治療 vs レムデシビル 5日間 vs レムデシビル 10日間 Day 11での症状の改善がレムデシビル 5日群で標準治療群と比較してわずかに多かった 酸素投与期間・入院期間・28日死亡は差なし 臨床的意義はほとんどない? JAMA. 2020;324(11):1048-1057. 発症から投与開始までの中央値8-9日
入院患者O2:低流量システム
推奨される治療 鼻カニュラまたは簡易マスクを使用した酸素投与が開始された段階で、デキサメタゾン(1回6mg 1日1回、内服または点滴)を開始する。発症から7-10日以内であれば、レムデシビル(初日200mg、その後100mg、合計5日間)の併用を検討する。 急速に呼吸状態が悪化、かつ、高炎症反応(目安はCRP 7.5 mg/dL以上)を伴う酸素吸入中の患者に対して、トシリズマブまたはバリシチニブの追加を考慮してもよい。 回復期血漿は使用しないことを推奨する。 NIH guideline on 3/2022
デキサメタゾン
デキサメタゾン:RECOVERY試験 大規模なオープンラベルRCT(N=6425) ・デキサメタゾン(1回6mg 1日1回 10日間、または、退院時に終了) vs 標準治療 ・呼吸不全を呈する重症COVID-19患者の28日死亡が減少(22.9% vs 25.7%) ・人工呼吸器を使用していない患者の場合、人工呼吸器導入リスクも減少 ・致死率改善効果は重症度が高いほど大きい N Engl J Med. 2021;384:693-704.
退院後のデキサメタゾン内服継続 米国での観察研究(2020.5-2020.9) 退院時にDexaを投与していた患者を対象 90%が重症例(退院時O2吸入は両群50%弱で必要)、入院中のDexa投与期間の中央値4日 退院後も継続することの意義を検討→14日以内の再入院や死亡を減らさない(継続群9.1% vs 非継続群 11.4%で少ない傾向ではある) 継続群の総投与期間は中央値10日 JAMA Netw Open. 2022 Mar 1;5(3):e221455. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.1455.
レムデシビル
レムデシビル RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬で、RNAの転写を早期に終了させることにより、ウイルスの複製を阻害する もともとエボラウイルスに対する治療薬として開発されたが、SARS-CoV-2にもin vitro活性を持つことが判明したため、COVID-19に対しても使用されるようになった 大規模な臨床試験として、ACTT-1試験とSolidarity試験が有名であるが、相反する結果となった 2021年8月12日に保険適用となり、薬価収載された(100mg 63,342円)
ACTT-1試験(プラセボ対照RCT) Day 1 200mg/日、Day 2-10(または退院まで) 100mg/日 主に先進国で行われた(N=1062) 臨床的改善までの期間短縮(10日 vs 15日)し、28日死亡は減少する傾向(11.4% vs 15.2%) 人工呼吸器やNIV/HFNCが不要な呼吸不全例でのみ効果を認めた 発症から投薬まで10日以内・10日以上どちらでも臨床効果を認めた N Engl J Med. 2020;383:1813-26
レムデシビルの投与期間:5日間 重症COVID-19に対して5日 vs 10日投与は同等 投与5日目に人工呼吸器使用中の場合は、10日間まで延長してもよいかもしれない N Engl J Med. 2020;383:1827-37
Solidarity試験では効果なし 院内死亡減少なし(12.5% vs 12.7%) ACTT-1より規模が大きいRCT(N≒5400)だが、オープンラベル 参加国:アジア・アフリカ・ラテンアメリカが主体) ステロイドの使用:両群とも48%程度 最重症例(人工呼吸器管理)が少ないが、致命率はACTT-1と同等 N Engl J Med. 2021;384:497-511. DOI: 10.1056/NEJMoa2023184
メタ解析:低流量酸素投与中ではよい? N Engl J Med. 2021;384:497-511. DOI: 10.1056/NEJMoa2023184
DisCoVeRy試験(呼吸不全のあるCOVID-19) オープンラベルRCT@欧州 対象:呼吸不全のある18歳以上の入院COVID-19患者(N=857) 約40%がHNFC以上を使用、発症から投与までの中央値9日 ステロイド・アクテムラの使用は両群とも約40%・1%未満 レムデシビル 5-10日(退院する場合は6日目以降中止) Primary endpoint:15日目の臨床状態は同等 28日死亡、退院までの期間、ウイルス量の推移も同等 Lancet Infect Dis 2021. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(21)00485-0
カナダ:人工呼吸器導入減少・死亡同等 入院患者対象のオープンラベルRCT(カナダ) Remdesivir 10日間 vs 標準治療 発症から無作為化まで8日 ステロイド使用:両群87.2%(アクテムラほぼなし) 呼吸不全90%(大半が低流量酸素またはHFNC) CMAJ. 2022 Jan 19;cmaj.211698. doi: 10.1503/cmaj.211698. Primary outcome:院内死亡 18.7% vs 22.6%(有意差なし) その他のoutcome:人工呼吸器導入減少(8% vs 15%)、60日死亡同等(24.8% vs 28.2%)
CMAJ. 2022 Jan 19;cmaj.211698. doi: 10.1503/cmaj.211698.
レムデシビル:観察研究では効果大? 入院2日以内にレムデシビルを投与開始群 vs 投与なし群を比較(ステロイド 96%) 呼吸不全の程度に関係なく、14日、28日死亡が減少した Clin Infect Dis. 2021 Oct 1;ciab875. doi: 10.1093/cid/ciab875.
発症6日以内に入院した呼吸不全患者には... 単施設観察研究 入院時の呼吸状態の記載はない 発症6日以内に入院した患者において、レムデシビルの投与は30日死亡を低下させる 入院3日以内のステロイド投与は約10%のみ レムデシビルの投与タイミングの記載はないが、原則、低流量酸素投与している発症7日以内の患者が対象となった(医師の裁量で適応拡大可) J Antimicrob Chemother. 2021 Nov 12;76(12):3296-3302. doi: 10.1093/jac/dkab321.
Dexaとremdesivirの併用 入院しているCOVID-19患者に対するデキサメタゾンとレムデシビルの併用(2020.6-12、発症から投与開始の中央値7日)は、通常治療群(どちらも投与なし、2020.2-5)と比較して、30日死亡(12.6% vs 19.7%)と人工呼吸器管理(9.0% vs14.6%)が減少した(観察研究)→どちらの効果か不明 入院COVID-19患者(約70%が酸素投与なし)でレムデシビルはデキサメタゾンよりも先行または同時投与すると、症状の改善が早まり、死亡減少(7.7% vs 11.6%)、入院期間の短縮に関連する。発症からDexa投与までの日数記載なし(後ろ向き観察研究)→中等症に対するRDV重症化予防効果?ステロイド投与早すぎ? 入院しているCOVID-19患者(N=67)に対してステロイドを抗ウイルス薬に先行させるとICU入室と相関が増加した、死亡は同等だった。発症からステロイド開始までの期間は、ステロイド先行群で早かった(5.6日 vs 9.7日)。発症から入院まで8-9日(後ろ向き観察研究)→RDV関係なくステロイド早すぎ投与の影響? Clin Infect Dis. 2021 Dec 6;73(11):2031-2036. doi: 10.1093/cid/ciab536. Clin Infect Dis. 2021 Aug 22;ciab728. doi: 10.1093/cid/ciab728. PLoS ONE 16(9): e0256977. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0256977
レムデシビル投与のタイミング 酸素投与開始後早期に開始する - 発症7日以内の場合は、呼吸不全なくても使用可(重症化予防) 遅くとも発症から7-10日までに投与開始することが望ましい HFNC(O2 5L/minに相当)が必要になったら、すでに時期を逸している可能性あり ACTT-1の発症からレムデシビル投与までの期間は9日(中央値、IQR:6-12日) 発症早期にウイルス量が多いことから、理論的に早期投与が望ましいと考えられる
デキサメタゾンとレムデシビルの併用 レムデシビルでウイルスを減らして、ステロイドで感染に続発する有害な炎症反応を減弱させる、という治療は理にかなっている、かつ、それぞれの薬剤の効果は証明されているので、呼吸不全の患者によく併用されている。しかし、併用効果を検討したRCTはない(観察研究はある)。 また、ステロイドが抗ウイルス薬なしで投与された場合に、ウイルスクリアランスを遅らせる可能性があるという理論上の懸念からステロイド単剤使用を好まない専門家もいる デキサメタゾンの効果を示したRECOVERY試験では、レムデシビルはほとんど使用されなかった レムデシビルの効果を示したACTT-1試験では、ステロイドは23%でしか使用されなかった Clin Infect Dis. 2021 Jun 10;ciab536. doi: 10.1093/cid/ciab536
N Engl J Med. 2022 Jan 27;386(4):385-387. doi: 10.1056/NEJMe2118579.
米国のガイドラインは ・低流量システム ・HFNC/NIV を使用している呼吸不全のCOVID-19患者に対するレムデシビルの使用を推奨している Therapeutic Management of Hospitalized Adults With COVID-19. Last Updated: February 24, 2022 (https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/management/clinical-management/hospitalized-adults--therapeutic-management/)
Therapeutics and COVID-19: living guideline(WHO)(3 March 2022) https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2022.2 WHOのガイドラインは、重症度に関わらず、レムデシビルを使用しないことを提案している
Therapeutics and COVID-19: living guideline(WHO)(22 April 2022) https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2022.2 WHOのガイドラインは、重症化リスクが高い非重症例に対するレムデシビルの使用を提案 改訂
レムデシビルの副作用 吐き気などの消化器症状、肝障害、PT延長、腎障害など 製剤内にシクロデキストリンが含まれているため、eGFR 30mL/min未満の患者に対して、その蓄積による腎障害の懸念から投与が推奨されていない ただし、eGFR 30mL/min未満であっても安全に使用できたという小規模な観察研究もある 重度の徐脈を起こすことがある J Am Soc Nephrol. 2020;31:1384-6 Clin Infect Dis. 2020 Dec 14:ciaa1851. doi: 10.1093/cid/ciaa1851. Antimicrob Agents Chemother. 2021 Jan 20;65(2):e02290-20. Clin Microbiol Infect. 2021 Feb 27;27(5):791.e5-791.e8. doi: 10.1016/j.cmi.2021.02.013. JACC Case Rep. 2020 Nov 18;2(14):2260-2264. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2021 Jul;14(7):e009811. doi: 10.1161/CIRCEP.121.009811.
CKD患者に対するレムデシビル 効果を検討した報告はない(PK/PDの研究のみ) eGFR 30の場合:初日200mg、2日目から100mg 48時間おき eGFR 15の場合:初日200mg、2日目から100mg 4日に1回 透析患者の場合:透析4時間前に100mg投与(最大6回まで) CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol. 2022 Jan;11(1):94-103. doi: 10.1002/psp4.12736 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第7.0版
回復期血漿
回復期血漿 オープンラベル多施設RCT N=103(予定の200例に届かなかった) 重症または最重症COVID-19を対象 primary outcome(28日以内の症状改善) 全体:51.9% vs 43.1%(有意差なし) 重症例:91.3% vs 68.2%(有意差あり) 最重症例:20.7% vs 24.1%(有意差なし) secondary outcome:28日死亡(15.7% vs 24.0% ) 発症から無作為化まで:27-30日 JAMA. 2020 Aug 4;324(5):460-470. - 投与のタイミングは遅い - 重症例では効果がある可能性がある
回復期血漿 米国、単施設の観察研究(投与群 vs 非投与群) 重症または最重症COVID-19を対象(N=39) 投与群:投与14日後の呼吸の悪化↓(17.9% vs 28.2%)、死亡↓(12.8% vs 21.6%) 発症から入院までの期間の中央値 7日(0-14) 入院から輸血までの期間の中央値 4日(0-7) 挿管していない患者、入院から7日以内に投与した場合に、効果がみられやすかった Nat Med. 2020 Sep 15. doi: 10.1038/s41591-020-1088-9.
回復期血漿 N=35322(52.3%がICU患者で、27.5%が人工呼吸器患者)の観察研究 診断から3日以内 vs 4日目以降:30日死亡 21.6% vs 26.7%(有意差あり) 輸血した血漿中のIgG価が高いほど、効果が高かった(死亡が減少) 重症(約90%)または最重症COVID-19を対象 投与群138名 vs 非投与群1430名、発症から治療まで 45日 死亡減少 2.2% vs 4.1%、ICU入室減少 2.4% vs 5.1% medRxiv. 2020 Aug 12;2020.08.12.20169359. doi: 10.1101/2020.08.12.20169359. (プレプリント) Blood. 2020 Aug 6;136(6):755-759. doi: 10.1182/blood.2020007079.
回復期血漿は... 重症例(呼吸不全、かつ、人工呼吸器未使用) かつ 早期の投与の場合 に効果が期待されていた
重症患者を対象としたRCT RECOVERY試験(Lancet. 2021;397:2049-59) PlasmAr 試験(N Engl J Med. 2021;384:619-29)
回復期血漿は効果なし 高い抗体価の回復期血漿の効果を検討した複数のRCTで、呼吸不全を呈しているCOVID-19患者(人工呼吸器管理中の患者を除外)に対する呼吸状態改善・死亡抑制効果は認められなかった これらの研究では、大半の症例は発症から10日以内に早期投与されており、理論的に効果が高いと考えらえる投与方法で実施されている Lancet. 2021;397:2049-59 N Engl J Med. 2021;384:619-29 BMJ. 2020;371:m3939
入院患者HFNC or NIV
推奨される治療 デキサメタゾン(1回6mg 1日1回 10日間)を投与 レムデシビル(初日200mg、その後100mg、合計5日間)を考慮 呼吸状態が急速に悪化+高炎症反応の場合、以下のいずれかを追加 - トシリズマブ(8mg/kg 単回投与、最大800mg) - バリシチニブ(1回4mg 1日1回、最長14日間) NIH guideline on 3/2022
レムデシビルの効果はおそらくない この重症度の患者群においてレムデシビルの効果は確認されていないため、一律の使用は推奨されないが、発症7-10日以内や高度免疫不全者で理論上抗ウイルス薬の効果が期待できる状況であれば、投与を検討してもよいかもしれない これは、副腎皮質ステロイドが抗ウイルス薬なしで投与された場合に、ウイルスクリアランスを遅らせる可能性があるという理論上の懸念があるためである
トシリズマブ
トシリズマブの使用が検討される背景 トシリズマブ(アクテムラ® ):ヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体 IL-6高値(>100 pg/mL)は、重症度とウイルス血症の存在に関連する 1) IL-6高値(>6.75 pg/mL)は、長期間のウイルス排泄(PCR)に関連する 2) IL-6高値(来院時のIL-6 >35 pg/mL、IL-6の最大値 >80 pg/mL)は、人工呼吸器管理の必要性(最重症例)に関連する 3) IL-6高値(入院時>70 pg/mL)は、死亡に関連する 4) 最重症のCOVID-19でIL-6は高値で、非生存者で有意に高い(中央値 61.1 pg/mL) 5) 1) Clin Infect Dis. 2020 Nov 5;71(8):1937-1942. 2) Clinical Infectious Diseases, ciaa490, https://doi.org/10.1093/cid/ciaa490 3) J Allergy Clin Immunol. 2020 Jul;146(1):128-136.e4. 4) Nat Med. 2020 Oct;26(10):1636-16 5) Am J Respir Crit Care Med. 2020 Jun 1;201(11):1430-1434
本当にCOVID-19でIL-6は上昇している?他の病態と比べると...sepsis以下... COVID-19 with ARDS(ICU入室48時間以内) 細菌によるseptic shock with ARDS (診断から24時間以内) 細菌によるseptic shock without ARDS (診断から24時間以内) 院外心停止(ICU入室から24時間以内) 多発外傷(受傷から24時間以内) JAMA. 2020 Sep 3;324(15):1565-1567. 48 376
本当にCOVID-19でIL-6は上昇している?実はそれほど上昇していない... 重症COVID-19では、IL-6などの炎症性サイトカインは上昇しているが、その「程度」は、他の炎症性サイトカインが上昇する病態(cytokine release syndrome、sepsis、COVID-19以外のARDS)と比較して小さい Lancet Respir Med. 2020;8:1233-44
トシリズマブ(重症例:酸素投与) プラセボ対照RCT、二重盲検 一般病棟で酸素投与が必要な患者(N=243) トシリズマブ 8mg/kg単回 vs placebo ステロイドは両群約10%で投与された 発症から中央値9-10日目(IQR 6-13) Primary outcome:死亡+挿管は同等 致死率5%程度、挿管率7-10% N Engl J Med. 2020 Oct 21. doi: 10.1056/NEJMoa2028836
トシリズマブ(重症例:酸素投与) 一般病棟のCOVID-19患者131名(酸素3L以上、かつ、HFNC・人工呼吸器使用なし)を対象としたRCT トシリズマブ(8mg/kg day 1) vs 標準治療 改善乏しい場合はday 3に 400mg追加検討 発症10日目に無作為化(IQR 7-13) Primary outcome:14日以内の人工呼吸器使用または死亡(24% vs 36%) 28日死亡同等(11% vs 12%) 標準治療群の方が、ステロイド(33% vs 61%)と抗ウイルス薬の使用患者数が多かった JAMA Intern Med. 2021 Jan 1;181(1):32-40.
トシリズマブ(重症例:酸素投与) 一般病棟のCOVID-19:126名(P/F=200-300;ベンチュリーマスク or HFNC)を対象としたRCT トシリズマブ 8mg/kg投与、その後12時間後に2回目投与 Primary outcome:14日以内の臨床的悪化(死亡 or 人工呼吸器使用・ICU入室 or P/F 150未満)→同等 発症から無作為化まで8日(IQR 6-11) JAMA Intern Med. 2021 Jan 1;181(1):24-31.
EMPACTA試験:人工呼吸器↓ 二重盲検プラセボ対照RCT(N=389) 対照:重症COVID-19(NIV/MVは除外、HFNC 25%程度) 約80%で全身ステロイドと抗ウイルス薬が使用された 標準治療+トシリズマブ 8mg/kg vs 標準治療 +プラセボ 効果乏しい場合は8-24時間後に2回目投与可 Primary outcome:28日までの死亡と人工呼吸器使用 Primary outcome:12.0% ↓ vs 19.3% 死亡:10.4% vs 8.6%(高い傾向) 重篤な感染の増加はなかった N Engl J Med. 2021 Jan 7;384(1):20-30.
軽度呼吸不全のCOVID-19患者には効果なし ここまでに提示したトシリズマブの効果を検討した複数のRCT(プラセボ群または標準治療群と比較)では、死亡・人工呼吸器導入を減らす効果は認められなかった これらの研究は、副腎皮質ステロイドの併用がなく、重症度も比較的低い(致死率数%~10%程度)ものがほとんどである 主に低流量システムを使用して酸素投与されているCOVID-19患者(副腎皮質ステロイドは80%以上の患者に投与された)を対象としたプラセボ対照RCT(EMPACTA試験)では、トシリズマブ投与によって、28日までの死亡と人工呼吸器導入の複合エンドポイントは有意に減少したが、死亡は減少しなかった これらの研究結果から、副腎皮質ステロイドの併用がない、または、低流量システムで酸素投与している重症度のCOVID-19患者に対して、トシリズマブの効果はあまり期待できないと考えられる
より重症の場合は?
米国の68病院のICUに入院したCOVID-19患者(人工呼吸器使用約60%)を対象とした大規模観察研究(3924名) ICU入室後2日以内のトシリズマブ投与群 3日目以降の投与または非投与群 両群とも約15%でステロイドが投与された 30日死亡はトシリズマブで少なかった:27.5% vs 37.1% Subgroup解析では、人工呼吸器かつP/F<200でトシリズマブの効果をみとめた 2次感染の頻度は両群で同等(32.3% vs 31.1%) トシリズマブ(最重症例:人工呼吸器) JAMA Intern Med. 2020 Oct 20;e206252. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.6252.
REMAP-CAP試験 ICU入室24時間以内の重症呼吸不全を呈しているCOVID-19患者(副腎皮質ステロイドは90%以上の患者に投与された)を対象としたオープンラベルRCT HFNC 30%、NIV 40%, MV 30% トシリズマブ群は、通常治療群と比較して、21日までのorgan support-free day(10日 vs 0日)が有意に長く、病院内死亡が有意に減少した(28% vs 36%) N Engl J Med. 2021;384:1491-502 生存 生存 ICU退室 退院
RECOVERY試験 呼吸不全(50%以上がHFNC・NIV・人工呼吸器を使用)と高炎症反応(CRP≧7.5 mg/dL)を呈しているCOVID-19患者を対象としたオープンラベルRCT ステロイドは80%以上の患者に投与 トシリズマブ群は通常治療群と比較して、28日死亡(31% vs 35%)が有意に減少した。また、人工呼吸器導入リスク(15% vs 19%)も有意に減少した。 Lancet. 2021;397:1637-45
トシリズマブの効果が期待できる状況 HFNC・NIV・人工呼吸器使用中の重症患者 ICU入室24時間以内 副腎皮質ステロイドを併用
トシリズマブの投与方法 トシリズマブ 8mg/kg(max 800mg)を単回投与 各臨床試験では、1回投与で改善が乏しい場合に臨床医の判断で12-24時間後に2回目の投与が許容されているが、その追加投与の効果についての検証が不十分であるため、現時点では2回目の投与は推奨しない
トシリズマブ投与時の注意点 COVID-19への効果を検討した各RCTでは、標準治療群と比較して細菌・真菌感染症、消化管穿孔、B型肝炎ウイルス・結核菌のreactivationの増加は指摘されていない ただし、副腎皮質ステロイドとの併用で細胞性免疫の低下は懸念されるため、B型肝炎と結核のスクリーニングを検討する 2022年1月21日に酸素投与を要するCOVID-19患者に対するアクテムラ®の投与が承認された(投与前の同意書は不要となった)
バリシチニブ
バリシチニブ(オルミエント®) 経口JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬のひとつであり、関節リウマチに対して使用されている薬剤 免疫調整作用によって、COVID-19による過剰な炎症反応が抑制されることが期待されている ウイルスのエンドサイトーシスを阻害することによって、抗ウイルス活性と感染予防効果をもつ可能性も指摘されている COVID-19に対する保険適用がある薬剤である(2021年4月23日に承認) Lancet Infect Dis. 2020;20:400-2
BaricitinibとRemdesivirの併用 2重盲検のプラセボ対照RCT(ACTT-2試験) 併用 vs レムデシビル単剤 バリシチニブ14日間まで、レムデシビル10日間まで Primary outcome:回復までの時間が1日短縮 (7日 vs 8日) HFNC/NIV使用患者(右図D):10日 vs 18日 28日死亡は有意差なし(5.1% vs 7.8%) 副作用は併用によって増加しなかった ステロイドの使用は原則禁止(両群10%程度で使用) N Engl J Med. 2021;384(9):795-807.
COV-BARRIER試験 18歳以上の入院COVID-19患者(1525名)を対象とした二重盲検プラセボ対照RCT(COV-BARRIER試験)、人工呼吸器使用中の患者は除外 バリシチニブ 14日 or 退院まで(早い方) 投与量:4mg/日、eGFE 30-60の場合は2mg/日 約90%が呼吸不全、ステロイド約80%、レムデシビル約20% Primary endpoint:28日以内の呼吸状態の悪化と死亡の複合エンドポイントは同等(27.8% vs 30.5%) Secondary outcome:28日死亡は38%減少(8.1% vs 13.1%) 60日死亡も減少(10% vs 15%) サブグループ解析で、HFNCまたはNIVを使用していた群で、有意に28日死亡が減少した(17.5% vs 29.4%) Lancet Respir Med 2021. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00331-3 全体 HFNC/NIV群
人工呼吸器使用中の患者では? 米国・南米での二重盲検プラセボ対照RCT(N=101)、探索的試験 対象:人工呼吸器またはECMO(3名のみ)使用中の18歳以上の患者 介入:バリシチニブ 4mg/日 14日 ステロイド使用86%、RDVほぼなし Limitation:小規模、baselineの重症度が不明(例:P/Fなどの人工呼吸器設定) Lancet Respir Med 2022. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(22)00006-6 28日死亡 46%減少(39% vs 58%) 60日死亡 44%減少(45% vs 62%) 入院期間、人工呼吸器free日数・有害事象は同等
バリシチニブの投与量・投与期間 腎不全患者では減量が必要 - 正常腎機能(eGFR≧60):4mg/日 - 中等度腎機能障害(30≦eGFR<60):2mg/日 - 高度腎機能障害(15≦eGFR<30) :2mg 48時間ごと、または、投与しない 投与期間:14日間 or 退院まで(早い方)
バリシチニブ投与時の注意点 COVID-19対象をする場合は、短期間の使用であり、臨床試験では、長期使用で問題となる感染(結核やヘルペスウイルス属の再活性化を含む)・深部静脈血栓症の増加は見られなかった ただし、副腎皮質ステロイドとの併用で細胞性免疫の低下も懸念されるため、B型肝炎と結核のスクリーニングが検討される
入院患者人工呼吸器 or ECMO
推奨される治療 デキサメタゾン(1回6mg 1日1回 10日間)を投与 レムデシビルは、原則使用しない ICU入室24時間以内に、トシリズマブ(8mg/kg 単回投与、最大800mg)の併用を開始する 2022年3月時点ではバリシチニブの推奨はない NIH guideline on 3/2022
デキサメタゾンの投与量について
Dexa 6mg/日(中等量)は少ない?? 急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:ARDS)で使用されるメチルプレドニゾロンは、1~2mg/kg/日である 似た画像所見を呈する間質性肺炎(リウマチ関連 or 特発性)では、高用量ステロイドを使用することが多い 体重40kgと100kgの患者に対して同じ投与量でよいのか? 肥満患者と健常人でデキサメタゾンの血中濃度は差はないことを示した薬物動態の研究があるため、肥満患者において、体重による投与量調整は不要であるという意見がある N Engl J Med. 2006;354:1671-84 Chest. 2007;131:954-63 Critical Care 2022;26:60. https://doi.org/10.1186/s13054-022-03941-1
高用量Dexa vs 標準投与量 COVID STEROID 2試験(欧州・インド) 酸素10L/min以上、HFNC・NIV・人工呼吸器管理中の成人COVID-19を対象としたRCT(N=982) 体重の中央値80kg(IQR 68-96)、DM 約30% Dexa 12mg vs 6mg(10日間まで) 28日までの人工呼吸器などのlife supportなしの生存期間を延長させなかった(22.0日 vs 20.5日) 28日死亡・90日死亡は減少傾向となったが、有意差はなかった(27.1% vs 32.3%、32% vs 37.7%) septic shockと侵襲性真菌感染症の増加なし JAMA. doi:10.1001/jama.2021.18295
RECOVERY試験 Dexa 20mg/日 5日間 その後、10mg/日 5日間 vs 標準治療(Dexa 6mg/日 10日間) ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04381936 https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04381936
デキサメタゾン以外のステロイドについて
高用量メチルプレドニゾロン 重症COVID-19を対象(SpO2 85%未満が50%程度) メチルプレドニゾロン 2mg/kg/日(5日間、その後半量を5日間) デキサメタゾン 6mg/日を10日間 mPSL群で、症状改善が早まる、入院期間短縮(7.43 ± 3.64 and 10.52 ± 5.47 days)、人工呼吸器使用率低下(18.2% vs 38.1%) 死亡は有意差はなかったが低い傾向(18.6% vs 37.5%) Limitaition:その他の詳細な治療法についての記載なし、小規模(N=86) BMC Infect Dis. 2021 Apr 10;21(1):337. doi: 10.1186/s12879-021-06045-3.
主にmPSLの効果が検討されている 高炎症反応を伴う重症COVID-19に対するmPSL 1.5mg/kg/日以上の投与が、死亡を減らす可能性を示した観察研究がある mPSLミニパルス療法(250-500mg/日 3日間、その後プレドニゾロン内服50mg/日 14日間)が、デキサメタゾン(6mg/日 10日間)と比較してICU入室と死亡を減少させた観察研究がある 一方で、高用量のmPSL(1mg/kg/日 5日間)の予後改善効果は認められなかったプラセボ対照比較試験もある どの研究は、規模が小さいことや試験デザインの問題があるため、現時点では、高用量ステロイドによる治療を積極的に推奨する根拠は乏しい PLoS One. 2021 Jan 28;16(1):e0243964. PLoS One. 2021 May 25;16(5):e0252057. Clin Infect Dis. 2021;72:e373-e81
ステロイドパルス療法の追加効果なし 二重盲検無作為RCT@イタリア(N=304) 入院しているCOVID-19患者を対象 発症から5日以上(発症からの中央値:8-9日)、呼吸不全あり(P/F=100~300)、CRP 5 mg/dL以上 ※人工呼吸器管理中の患者は除外 標準治療(Dexa 6mg/日 10日間)に、メチルプレドニゾロン 1g/日 3日間 or プラセボを追加 Primary outcome:入院期間(無作為化~酸素投与なしで退院) 30日以内の退院(75.4% vs 75.2%)、入院期間の中央値 15日 vs 16日 ICU入室して人工呼吸器管理 20% vs 16.1%、30日死亡 10.0% vs 12.2% Eur Respir J 2022; in press. https://doi.org/10.1183/13993003.00025-2022
副腎皮質ステロイドのまとめ デキサメタゾン 6mg/日(内服・点滴) 7-10日間(第1選択) 呼吸不全を呈している重症例・最重症例で使用する 肥満成人(例えば100kg以上)で6mg/日が適正かどうか不明 12mg/日まで増量してもよいかもしれない メチルプレドニゾロン 1-2mg/kg/日への増量は、状況によって検討してもよいかもしれない(ただし、”使い時”は不明) ステロイドパルス療法は行わない 遷延する呼吸不全に対して、投与期間を延長すべきかどうか不明
その他の治療
抗凝固薬
COVID-19と血栓 入院中のCOVID-19患者では、特にICU入室が必要な重症患者で、深部静脈血栓症/肺塞栓症(静脈血栓塞栓症、venous thromboembolism VTE)の発生のリスクが高い ICU入室患者のVTE:7.2-13.6% 一般病棟患者のVTE:4.2% 無症状者にスクリーニング目的の下肢静脈エコー検査を行うとより高率に見つかる Blood Adv. 2020;4:5373-7 JAMA. 2020;324:799-801 Chest. 2020;158:2130-5 ほとんどの患者は抗凝固療法(予防量)がおこなわれている
抗凝固薬は重症例では予防量 ICU入室患者やD-dimer高値のCOVID-19患者を対象とした抗凝固薬の治療的投与と予防的投与の効果を比較したRCTで、治療的投与は死亡などのoutcomeを改善させなかった JAMA. 2021;325:1620-30 Lancet. 2021;397:2253-63
ヘパリンの予防投与 入院患者に対して、予防的抗凝固療法を行う 未分画ヘパリン 1回5000単位 1日2回 皮下注射(諸外国では低分子量ヘパリンが使用) 酸素投与終了かつ歩行可能になるまで or 退院まで 低流量酸素が必要なD-dimer上昇のある患者では、抗凝固薬の治療的投与を推奨するガイドラインがあるため、未分画ヘパリンの持続投与(APTTを定期的に確認)も検討される(NIHのガイドラインは、低分子量ヘパリンを推奨しているが、日本では保険適応がないため、使用は難しい) ※DOACはあまり検討されていない:リバロキサバン10mg/日、エドキサバン 30mg/日? VTEが診断された場合は、治療量に増量する 外来患者に対する抗凝固療法は推奨されない Blood Adv. 2021;5:872-88. NIH guideline on 2/24/2022
抗菌薬
細菌性肺炎の合併は少ない 細菌感染症の合併1-5):2.2-7% ICU入室患者の細菌感染症の合併1-5) :11-41% 最重症例を除いて... 抗菌薬の経験的投与は不要なことがほとんどである しかし、抗菌薬の使用率は56-72%と報告されている 1,4,6,7) 1) Clin Infect Dis. 2020 Jul 1;ciaa902. doi: 10.1093/cid/ciaa902. 2) J Infect. 2020 Aug;81(2):266-275. 3) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 22;S1198-743X(20)30423-7. 4) Clin Infect Dis. 2020 Aug 21;ciaa1239. doi:10.1093/cid/ciaa1239. 5) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 31;S1198-743X(20)30450-X. 6) Clin Infect Dis. 2020 May 2;ciaa530. doi: 10.1093/cid/ciaa530. 7) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 22;S1198-743X(20)30423-7.
入院するCOVID-19の細菌性肺炎合併率 2020.2.19-2021.2.24(従来株、VOC流行前) 入院するCOVID-19の細菌性肺炎合併は検査した患者の9.1% (102/1125)※全患者の3.2% 培養(血液・喀痰)とプロカルシトニンは入院48時間に採取 原因微生物:肺炎球菌79%(主に尿中抗原検査で同定)、S. aureus 6.8%、H. influenzae 6.8%、レジオネラ 0% 血液培養:1%(8/803)で陽性 細菌感染症のリスク因子:プロカルシトニン 0.2 mg/mL以上 SpO2 ≦ 94%、フェリチン < 338 ng/mL Int J Infect Dis. 2022 Mar 4;S1201-9712(22)00143-6. doi: 10.1016/j.ijid.2022.03.003.
経験的抗菌薬治療 軽症から中等症COVID-19では抗菌薬は、原則不要 経験的治療の対象 - 画像所見と炎症マーカーが細菌感染症を示唆する - 高度免疫不全者 - ICU入室患者?(当院ではICU入室のみを理由として抗菌薬投与は行っていない) 治療開始前に、喀痰培養・血液培養・(尿中抗原提出) 抗菌薬選択は、市中肺炎のガイドラインに従う(ただし、非定型肺炎のカバーは不要) 治療開始後48時間の時点で検査陰性の場合は、抗菌薬終了を検討する Recommendations for antibacterial therapy in adults with COVID-19 – An evidence based guideline. https://doi.org/10.1016/j.cmi.2020.09.041
Intensive Care Med (2020). https://doi.org/10.1007/s00134-020-06278-x ICU入室 septic shock or CTで細菌性肺炎を疑う場合 培養検査を行う 治療期間は5-7日、de-escalationを行う
入院患者の治療のまとめ or △
まとめ:COVID-19の治療 重症呼吸不全患者では、積極的にHFNC/NIVとawake prone positioningを考慮する 病態・発症からの日数を考慮しつつ、エビデンスのある薬剤を使用する 重症化リスクの高い外来患者では、パキロビッド®またはレムデシビルを使用する(モノクローナル抗体は流行しているvariantで効果が大きく異なる) 呼吸不全のある入院患者では、デキサメタゾンを全例で投与 レムデシビルは、低流量システムによる酸素投与中の患者がよい対象 HFNC開始時点で、トシリズマブまたはバリシチニブを追加 入院患者には、VTE予防のために未分画ヘパリンの皮下注を行う 細菌性肺炎の合併は少ないため、経験的抗菌薬治療は不要なことが多い
ご清聴ありがとうございました
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その他の治療
高齢者へのBCG接種は効果なし 2020.4.16-2021.5.14、オランダ、二重盲検RCT、12か月f/u、両群とも30%弱以前にBCG接種歴あり 60歳以上の高齢者に対するBCGで、気道感染症とCOVID-19(左図)の減少なし BCG接種者(ワクチン非接種者)は、COVID-19罹患後のS蛋白に対するIgG値が、非接種群より有意に高かった COVID-19の罹患率は同等 Clin Infect Dis. 2022 Mar 5;ciac182. doi: 10.1093/cid/ciac182.
ICUのCOVID-19患者に対するスタチン プラセボ対照RCT(2020.7.29-2021.4.4) イランの11の病院、ICU患者、約50%がHFNC/NIV/MV使用 アトルバスタチン20mg/日を30日間 vs プラセボ 30日間 PE:30日以内の静脈血栓・動脈血栓、ECMO使用、全死亡の複合エンドポイント PE同等、全死亡同等 BMJ. 2022 Jan 7;376:e068407. doi: 10.1136/bmj-2021-068407.