神戸市立医療センター中央市民病院
市中肺炎診療の考え方 ウィズコロナ時代
#市中肺炎 #感染症 #COVID-19
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最終更新:2020年12月12日
COVID-19 診断・治療・感染対策
#感染症科 #感染症 #新型コロナウイルス感染症 #COVID-19
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診療に繋がるグラム染色
#感染症科 #グラム染色
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オンライン診療で何ができるのか
#COVID-19 #オンライン診療
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最終更新:2020年8月18日
赤い皮疹の見方/考え方/鑑別〜炎症、腫瘍、血管分けて考える〜
#皮疹 #赤い皮疹 #ステロイド #湿疹 #蕁麻疹 #接触性皮膚炎
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最終更新:2020年8月18日
新型コロナウイルスワクチン(COVID-19ワクチン)Q&A
#感染症科 #ワクチン #新型コロナウイルス感染症 #COVID-19
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COVID-19感染予防と身体障害
#新型コロナウイルス感染症 #麻痺 #欠損 #手洗い #手指消毒 #車いす #感染予防 #Covid-19 #コロナ
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中和抗体薬 update 2022年9月版 チキサゲビマブ・シルガビマブを中心に
#COVID-19 #中和抗体薬 #エバシェルド
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ステロイド外用薬 〜強さごとのまとめ〜
#ステロイド #イシヤク #アンテベート #デルモベート #フルメタ #リンデロン #ベトネベート #ネリゾナ #ロコイド #マイザー
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5類感染症となるCOVID-19への対応 - 5類化への対応・院内感染対策・早期治療の重要性 -
#新型コロナウイルス感染症 #COVID-19 #感染対策 #5類感染症 #マスク
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ミニマム緑膿菌
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C. difficile感染症 Updates
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肺炎が良くならないときに考えること
#市中肺炎 #肺炎 #短期治療 #Mnemonics #2023年お年玉 #難治性肺炎 #Nico and...
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ふり返れ!!地獄の総合内科専門医試験 2022〜感染症科編〜
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最終更新:2022年12月12日
SARS-CoV-2の重要な変異株 (オミクロンとその亜系統) 2022年11月版
#感染症科 #感染症 #COVID-19 #オミクロン #VOC
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COVID-19治療 update2022年11月版 神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科 黒田浩一 最終更新:2022.11.3
本日の内容(目次) COVID-19に対する治療 - 薬物治療 –総論- - 軽症~中等症Iに対する外来での早期治療 効果の高い薬剤の解説とその適応の考え方、その他の薬剤 - 入院患者に対する治療 - 抗菌薬について
薬物治療 -総論-
病態を踏まえてevidenceのある薬剤で治療を行う
臨床医として重要なこと(私見) evidenceのある薬剤で治療を行う 信頼できるガイドラインを参照する(NIH@米国 etc) 理論的に効果が期待され、弱いevidenceのある薬剤(例:観察研究のみで効果が示されている)は、他の効果が確立した薬剤がない場合に、riskとbenefitを考慮した上で、その使用が検討される(または、臨床試験の中で使用すべきである) マスコミ、SNS、一部の専門家の意見:「切れ味がよい」という一部の専門家の意見は参考にしてはいけない(臨床現場で効果が実感できるほどの薬剤は今のところないはずである)
日本感染症学会 World Health Organization National Institutes of Health 各薬剤の解説 各薬剤の解説と重症度別に推奨される治療を提示
重症度発症からのタイミングで治療薬が決定する
COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14.2版 初期(~1w) ・ウイルス増殖 :抗ウイルス作用 過剰炎症反応期 ・宿主免疫による炎症反応 :抗炎症作用
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.1版. National Institutes of Health. COVID-19 Treatment Guidelines. Clinical Spectrum of SARS-CoV-2 Infection. WHO. Living guidance for clinical management of COVID-19. COVID-19 Clinical management: living guidance.
軽症~中等症Iに対する外来での早期治療 外来患者(軽症~中等症I)
薬物治療の適応判断と選択 年齢、重症化リスク因子の数、免疫不全の有無 臨床試験で示された治療効果 発症からの日数 静脈注射が可能な環境かどうか(自施設 or 他院紹介) 服用中の薬剤との薬物相互作用 流行している主なvariant 薬剤の需要と供給のバランス(流通制限の有無)
NIHガイドラインでは 軽症から中等症COVID-19患者で重症化リスクがある場合 - ニルマトレルビル/リトナビル(1回300/100mg 1日2回 5日間)(AIIa) 発症5日以内、成人 or 12歳以上かつ40kg以上、ritonavirとの薬物相互作用に注意 - レムデシビル(1日目200mg, 2-3日目100mg 点滴)(BIIa) 発症7日以内、成人 or 12歳以上かつ40kg以上 - モルヌピラビル(1回800mg 1日2回 5日間)(CIIa) 発症5日以内、18歳以上、上記2剤が利用できない場合に使用する - Bebtelovimab(1回175mg 単回投与)(CIII) 発症7日以内(日本では未承認) Therapeutic Management of Nonhospitalized Adults With COVID-19 (Last Updated: August 8, 2022). https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/management/clinical-management/nonhospitalized-adults--therapeutic-management/ [2022.8.20]
WHOガイドラインでは 入院リスクの高い患者に対して 1. ニルマトレルビル/リトナビル 2. レムデシビル または モルヌピラビル Therapeutics and COVID-19: living guideline(WHO)(16/9/2022) https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2022.5 BMJ 2020;370:m3379, http://dx.doi.org/10.1136/bmj.m3379
ニルマトレルビル/リトナビル
ニルマトレルビル/リトナビル 二重盲検プラセボ対照RCT(EPIC-HR) 2021.7‐2021.12に施行(デルタ流行期) 18歳以上の高リスク群(ワクチン接種なし)に対する効果、5日間投与、eGFR 30-60は減量、約50%が既感染者(seropositive at baseline) 5日以内投与→28日以内の入院+死亡88% 治療群で死亡例なし 副作用:味覚障害5.6%、下痢3.1% N Engl J Med. 2022 Feb 16. doi: 10.1056/NEJMoa2118542. ①
ニルマトレルビル/リトナビル N Engl J Med. 2022 Feb 16. doi: 10.1056/NEJMoa2118542. 既往があっても効果あり:0.2% vs 1.5% ①
ニルマトレルビル/リトナビル N Engl J Med. 2022 Feb 16. doi: 10.1056/NEJMoa2118542. ・発症3日以内または5日以内に治療開始した場合、5日目のウイルス量は治療群でより低下した(0.7~0.87 Log10 copies/mL) ・治療開始時のウイルス量、serostatusに関係なく同様の効果が確認された ①
文献化未(プレス・リリースのみ) 研究は2021.7以降に施行(デルタ流行期) 標準リスク群 - 重症化リスク+ワクチン接種 - 重症化リスクなし+ワクチン接種なし 中間解析: - 症状の改善は治療群とプラセボ群で同等 - 入院と死亡が51%減少(有意差なし)、医療機関への受診 62%減少(有意差あり) - ワクチン接種済み+重症化リスク1つ以上の場合、入院と死亡が57%減少(有意差なし) https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-announces-additional-phase-23-study-results https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-reports-additional-data-paxlovidtm-supporting ニルマトレルビル/リトナビル ②
ニルマトレルビル/リトナビル イスラエル(主にBA.1流行期)の観察研究 対象:2022.1.9-2022.2.24に診断された40歳以上の重症化リスクのある患者(ワクチン接種または既感染者:78%) 65歳以上かつ免疫あり:入院率1.3%(4-6%が治療群) 65歳以上かつ免疫なし:入院率8.3% (4-6%が治療群) 65歳以上の入院:73%減少 - 過去の免疫のある65歳以上:入院68%減少 - 過去の免疫のない65歳以上:入院85%減少 65歳以上の死亡:79%減少(治療群の死亡:2/2484例) 40-64歳の入院・死亡:減少なし N Engl J Med. 2022 Aug 24. doi: 10.1056/NEJMoa2204919. 免疫なし=ワクチン0-1回接種、かつ、未感染 ③
ニルマトレルビル/リトナビル リスク評価:左図を参考にスコアをつけ、2点以上を重症化リスクありと判断 ワクチン接種未完了や免疫不全でポイントが非常に高い 70歳以上で全員治療対象となるため、やや閾値は低いと思われる この研究では、ワクチン接種接種回数(2~4回)や最終ワクチンから感染までの日数は不明 N Engl J Med. 2022 Aug 24. doi: 10.1056/NEJMoa2204919. ③
ニルマトレルビル/リトナビル 香港での観察研究(2022.2.26-4.26に入院(BA.2流行期)、対象:酸素投与不要の入院COVID-19患者(軽症~中等症)、無治療群の致命率10-16%のため比較的重症化リスクの高いpopulationと思われる(平均年齢77-80歳) 既感染者0%、ワクチン接種完了(ファイザー2回以上)6-10%→ワクチン接種していない高齢患者が主な入院対象・研究対象 主要評価項目:全死亡 - パキロビッド:66%減少 - ラゲブリオ:52%減少 Lancet Infect Dis 2022, https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00507-2 ④
Lancet Infect Dis 2022, https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00507-2 ④
・80%以上の患者が65歳以上 ・死亡抑制効果は - 65歳以上 - ワクチン非接種者 で有意に認められた ・ワクチン接種者も効果はある可能性があるが少数の検討であり、有意な差は示されなかった ・人工呼吸器管理、酸素投与、複合エンドポイント(死亡+人工呼吸器+ICU入室+酸素投与)でも同様の傾向がみられた Lancet Infect Dis 2022, https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00507-2 ④
パキロビッド使用後の入院・ER受診の頻度 オミクロン流行期のカリフォルニア州のデータ パキロビッド調剤の5-15日後のCOVID-19関連入院・救急外来受診を調査 2021年12月31日~2022年5月26日にパキロビッドを投与された12歳以上(5287人)を対象とした。COVID-19ワクチン:3回接種73%、未接種8%。 入院6例(0.11%)、救急外来受診39例(0.74%) 死亡2例(死因は基礎疾患によるものと判定された) 入院/受診理由で、初発症状の進行とCOVID-19リバウンドは区別していない MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Jun 24;71(25):830-833. doi: 10.15585/mmwr.mm7125e2. ⑤
パキロビッドの重症化予防効果 オミクロン流行期の米国( 2022.1.1-2022.2.28) 18歳以上、重症化リスクありの180,351名 重症化(WHO定義)+死亡:全体(0.5%) 2.6%にパキロビッドが処方された 75.1%が「十分な」ワクチン接種済み(2回以上、かつ、最終接種から180日以内) ワクチン接種とパキロビッド使用は、重症化または死亡の減少にそれぞれ関連した(HR 0.54, 0.20) パキロビットの効果:60歳以上、基礎疾患あり ⑥ Clin Infect Dis. 2022 Jun 2;ciac443. doi: 10.1093/cid/ciac443.
パキロビッドの入院予防効果 対象:18歳以上のワクチン接種済みの外来患者@米国(2021.12.1-2022.4.18:主にオミクロン) 30日以内の全ER受診・全入院・全死亡(治療群7.87% vs 無治療群 14.4%、45%減少)、ぞれぞれ41%(7.34% vs 12.5%)、60%(0.8% vs 2%)、100%減少(0% vs 0.8%) 肺炎72%減少、不整脈50%減少、30日以内に出現する呼吸器・消化器・全身症状が減少 ※ワクチン接種済みの定義の記載なし Clin Infect Dis. 2022 Aug 20;ciac673. doi: 10.1093/cid/ciac673. ⑦
入院・死亡抑制効果@香港 BA.2.2が流行していた時期の香港で行われた観察研究 対象:外来COVID-19患者(約107万人) N/R投与 6464名、モルヌピラビル投与 5383名 COVID-19ワクチン接種率:20-30% N/R:死亡66%減少、入院24%減少 モルヌピラビル:死亡24%減少、入院減少なし Lancet. 2022 Oct 8;400(10359):1213-1222. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01586-0. ⑧
治療終了後のリバウンド 治療終了後のSARS-CoV-2 RNA量の増加とCOVID-19症状の再発が報告されている 頻度は0.8%という報告がある 耐性化とは関連なし、リバウンド後に感染伝播しうる 長期投与や2コース目の投与の効果に関するデータはない NIH. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/therapies/antiviral-therapy/ritonavir-boosted-nirmatrelvir--paxlovid-/ [最終アクセス2022.5.21] https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1588371/v2 [最終アクセス2022.5.21] Clin Infect Dis. 2022 Jun 14;ciac481. doi: 10.1093/cid/ciac481.(再燃0.8%) Clin Infect Dis. 2022 Jun 20;ciac496. doi: 10.1093/cid/ciac496. Clin Infect Dis. 2022 Jun 23;ciac512. doi: 10.1093/cid/ciac512 N Engl J Med. 2022 Sep 15;387(11):1047-1049. doi: 10.1056/NEJMc2205944. N Engl J Med. 2022 Sep 15;387(11):1045-1047. doi: 10.1056/NEJMc2206449.
治療終了後のリバウンド BA.2感染者(mRNAワクチン3回接種済み)の再燃(ウイルス培養陽性)では、二ルマトレルビル耐性と中和抗体価の低下のどちらも認めなかった ワクチン3回以上接種した7名のBA.2またはBA.2.12.1患者の再燃の報告では、治療完了2-7日後に症状が再燃し、7例中3例でウイルス培養が陽性となった(ウイルス培養と抗原定性検査の一致率は92%で、抗原陰性・ウイルス培養陽性はなかった)、NM耐性なし EPIC-HR試験(デルタ流行期に施行されたRCT)の解析では、NM/r群(2.3%)とplacebo群(1.7%)で治療後のウイルス量のリバウンドが認められた ワクチン3回以上接種済みの13例の報告では、2例でリバウンド中の感染伝播が確認された Clin Infect Dis. 2022 Jun 20;ciac496. doi: 10.1093/cid/ciac496 Clin Infect Dis. 2022 Jun 23;ciac512. doi: 10.1093/cid/ciac512 N Engl J Med. 2022 Sep 15;387(11):1047-1049. doi: 10.1056/NEJMc2205944. N Engl J Med. 2022 Sep 15;387(11):1045-1047. doi: 10.1056/NEJMc2206449.
薬物相互作用を必ず確認する パキロビッド®パックの添付文書から
薬物相互作用を必ず確認する パキロビッド®パックの添付文書から 主要な併用禁忌薬 アゼルニジピン アミオダロン、フレカイニド、シルデナフィル、リバーロキサバン ジアゼパム、エスタゾラム、トリアゾラム、ミダゾラム ボリコナゾール、リファンピシン、リファブチン カルバマゼピン、フェニトイン
薬物相互作用を必ず確認する パキロビッド®パックの添付文書から 主要な併用注意薬 エベロリムス、シクロスポリン、タクロリムス コルヒチン、クラリスロマイシン、ワルファリン クエチアピン、フルコナゾール、バルプロ酸、ラモトリギン カルシウム拮抗薬 アトルバスタチン、トラゾドン、(クロピドグレル:海外では)
併用注意薬内服中の具体的な対応 以下の4通りに分類(NIH guideline) 他のCOVID-19治療薬を選択する(≒併用禁忌) 臨床的に可能であれば、併用薬を一時的に中断する(ニルマトレルビル/リトナビル終了してから2~3日以上経過してから再開) 併用薬の用量を調整し、副作用をモニタリングする 併用薬を継続して、副作用をモニタリングする NIH. Drug-Drug Interactions Between Ritonavir-Boosted Nirmatrelvir (Paxlovid) and Concomitant Medications.
複数の情報源を参考にする NIH. Drug-Drug Interactions Between Ritonavir-Boosted Nirmatrelvir (Paxlovid) and Concomitant Medications. The Liverpool COVID-19 Drug Interactions website The Ontario COVID-19 Science Advisory Table The Food and Drug Administration Emergency Use Authorization fact sheet
実際には使用できないケースは少ない 米国の66007名の患者で、禁忌は9830名(14.8%)で認められた 重症患者であるほど禁忌を持つ率は高くなった 外来患者:14%、入院患者:20.6%、ICU患者:22.9%、死亡した患者:35.1% 外来患者における禁忌の内訳(N=59869名) - 12歳未満 4671名(7.8%)、未成年かつ40kg未満 3702名(6.2%) - 重度の腎障害 1268名(2.1%)、重度の肝障害 284名(0.4%) - 薬物相互作用 2554名(4.2%) タクロリムス使用時は原則パキロビッドは使用しない(なお、リファンピシンでリバース可能である) 5mg/日で濃度60 ng/mL以上になり、腹痛・背部痛・倦怠感・AKIを起こした2例報告がある Open Forum Infectious Diseases, ofac389, https://doi.org/10.1093/ofid/ofac389 Open Forum Infect Dis. 2022 Jul; 9(7): ofac238. doi: 10.1093/ofid/ofac238
米国での処方状況 2021.12.23-2022.5.21 内服抗ウイルス薬の総処方数:1076762 パキロビッド:77% ラゲブリオ:23% MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Jun 24;71(25):825-829. doi: 10.15585/mmwr.mm7125e1.
処方可能な医療機関の拡大 2022.2.28以降 病院・有床診療所で、院内または院外処方が可能 2022.4.22以降 無床診療所で、院外処方が可能 ほとんどの軽症例は、無床診療所で診断されていると思われるので、今後処方量の増加に期待 厚生労働省. 事務連絡(2022/4/22). 新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬(パキロビッド®パック)の医療機関及び薬局への配分について
ニルマトレルビル/リトナビル:第1選択薬 重症化予防効果は非常に高い(RCT) - オミクロン流行期での入院予防効果は50-70%(観察研究) ワクチン接種後の高リスク患者への効果も期待できる 内服薬である 発症5日以内、薬物相互作用は多いが、使用不可の状況は比較的稀 進行した腎不全患者には使用できない(eGFR<30) 高度肝障害の患者にも使用できない(Child-Pugh class C) 流通制限あり(各医療機関・薬局のストックは約5回分)
レムデシビル
レムデシビル RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬で、RNAの転写を早期に終了させることにより、ウイルスの複製を阻害する もともとエボラウイルスに対する治療薬として開発されたが、SARS-CoV-2にもin vitro活性を持つことが判明したため、COVID-19に対しても使用されるようになった 大規模な臨床試験として、軽症例に対するPINETREE試験と呼吸不全例に対するACTT-1試験とSolidarity試験が有名である
軽症者に対する早期レムデシビル 12歳以上の外来COVID-19患者 発症7日以内に開始 ワクチン接種歴なし 重症化リスクあり or 60歳以上 レムデシビル 3日間 vs プラセボ 28日以内の入院+死亡 :0.7% vs 5.3%(87% ) N Engl J Med. 2021 Dec 22;NEJMoa2116846. doi: 10.1056/NEJMoa2116846. 2020.9.18-2021.4.8に行われた試験(従来株~アルファ) 海外データ 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている
N Engl J Med. 2021 Dec 22;NEJMoa2116846. doi: 10.1056/NEJMoa2116846. ウイルス量の推移はプラセボ群と介入群で同等 海外データ 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている
固形臓器レシピエントに対するレムデシビル 固形臓器レシピエントの軽症~中等症COVID-19に対するレムデシビル(3日間)の効果を検討した後ろ向き観察研究(N=24) イタリア、2021.12.23~2022.2.26(オミクロン流行期) スパイク蛋白に対するIgG陽性は全体の67%であった(95%がワクチン3回接種済み)、腎移植後が70-80%、移植後の期間: 投与群2555日、非投与群705日 診断から28日以内の入院または進行(別の理由で入院している場合):投与群 0/7=0% vs 非投与群 9/17=52.9%(95%減少) Int J Infect Dis. 2022 Aug;121:157-160. doi: 10.1016/j.ijid.2022.05.001.
免疫不全者に対するレムデシビル 前向き観察研究@メキシコ、重症化リスクの高い発症7日以内の軽症・中等症COVID-19に対するレムデシビル(外来で3日間投与)の効果を検討、2021.12.2~2022.4.30(オミクロンが約95%を占めた)、126名(R群 54、非投与群72)、93.7%が中等度以上の免疫不全者、約80%がワクチン接種済み(定義の記載はないが2回以上と思われる) 主要評価項目:発症28日以内の入院+死亡→投与群で84%減少(9.3% vs 43.1%) Open Forum Infectious Diseases, 2022;, ofac502, https://doi.org/10.1093/ofid/ofac502 中等度以上の免疫不全者の場合、オミクロン流行期かつワクチン接種していても、治療のメリットは大きい
レムデシビルの副作用 吐き気などの消化器症状、肝障害、PT延長、腎障害など 製剤内にシクロデキストリンが含まれているため、eGFR 30mL/min未満の患者に対して、その蓄積による腎障害の懸念がある 一方で、eGFR 30mL/min未満であっても安全に使用可能という小規模な観察研究が多数報告されている 重度の徐脈を起こすことがある J Am Soc Nephrol. 2020;31:1384-6 Clin Infect Dis. 2020 Dec 14:ciaa1851. doi: 10.1093/cid/ciaa1851. Antimicrob Agents Chemother. 2021 Jan 20;65(2):e02290-20. Clin Microbiol Infect. 2021 Feb 27;27(5):791.e5-791.e8. doi: 10.1016/j.cmi.2021.02.013. JACC Case Rep. 2020 Nov 18;2(14):2260-2264. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2021 Jul;14(7):e009811. doi: 10.1161/CIRCEP.121.009811.
CKD患者に対するレムデシビル 高度腎不全患者への効果を検討した報告はほぼない(主にPK/PD研究) eGFR 30の場合:初日200mg、2日目から100mg 48時間おき eGFR 15の場合:初日200mg、2日目から100mg 4日に1回 透析患者の場合:透析4時間前に100mg投与(最大6回まで) CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol. 2022 Jan;11(1):94-103. doi: 10.1002/psp4.12736 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第7.2版
神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 2
Therapeutics and COVID-19: living guideline(WHO)(22 April 2022) https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2022.2 WHOのガイドラインは、重症化リスクが高い非重症例に対するレムデシビルの使用を提案 最新版
レムデシビルの欠点 点滴であること - 治療場所の問題 - 手間の問題 薬剤コスト
レムデシビル 効果は非常に高い 3日間の点滴(200-100-100mg)が必要(入院加療が現実的) ワクチン接種者への効果は検討されていない BA.2への効果も期待できる 腎不全患者に対して問題なく使用可能である 一般流通している(薬価収載済)が、高価(100mg 63,342円→3日間253,368円)
モルヌピラビル
モルヌピラビル 18歳以上、重症化リスクあり(年齢は60歳以上)、軽症~中等症COVID-19を対象 発症5日以内 Variant判明しているものでは、デルタが最多(約60%) 29日以内の24時間以上の入院+死亡:6.8% vs 9.7%(約30%の効果) Subgroup解析:既感染者では効果なし(3.8% vs 1.7%) 2021.5-2021.11に行われた臨床試験(主にデルタ流行期) N Engl J Med. 2021 Dec 16;NEJMoa2116044. doi: 10.1056/NEJMoa2116044
オミクロン流行期での検討 2022.1~2022.2のイスラエル(オミクロン流行期) 観察研究 モルヌピラビル投与群 vs 非投与群、77%が十分なワクチン接種状態 複合エンドポイント(入院+死亡)は減少しなかった サブグループ解析では、高齢者(75歳以上)、女性、不十分なワクチン接種歴、の場合に、複合エンドポイントの改善を認めた → 最適なワクチン接種状態の患者には無効の可能性が高い Clin Infect Dis. 2022 Sep 20;ciac781. doi: 10.1093/cid/ciac781
Clin Infect Dis. 2022 Sep 20;ciac781. doi: 10.1093/cid/ciac781
オミクロン流行期での検討 2021.12.8~2022.4.27の英国(オミクロンBA.1・BA.2流行期) オープンラベル無作為化比較試験(N=約25000)、査読前論文 モルヌピラビル投与群 vs 非投与群、90%以上がワクチン3回接種 主要評価項目:28日以内の入院+死亡は同等(0.8% vs 0.8%) 副次評価項目:症状改善までの日数は4.2日短縮(10.3日 vs 14.5日) → 最適なワクチン接種状態の患者には無効の可能性が高い Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4237902
オミクロン流行期のソトロビマブとモルヌピラビルの効果を比較した観察研究(英国)、ワクチン3回以上接種者BA.1流行期88%、BA.2流行期94% Main outcome:28日以内の入院+死亡は、BA.1流行期 0.96% vs 2.05%、BA.2流行期 0.95% vs 2.03%(約50%減少) BA.2流行期:ソトロビマブより効果低い medRxiv 2022.05.22.22275417; doi:https://doi.org/10.1101/2022.05.22.22275417 (BMJに掲載予定)
価格が決定(2022年8月10日) 1錠(200mg):2357.8円 1回800mg 1日2回:18862.4円 5日間:94312円!? 第527回 中央社会保険医療協議会(2022年8月10日) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00159.html
直接の比較試験はないが、他の薬剤より有効性が低い可能性が高い ワクチン接種者・既感染者への効果は期待できない可能性が高い 内服可能、発症5日以内 カプセルが大きくて内服しにくい(脱カプセルは可能とされている) 小児・妊婦は使用できない(適応は18歳以上) 他の薬剤が使用できない場合にのみ使用することが推奨される 薬価収載された(5日間94312円) モルヌピラビル
脱カプセルしてもよいのか? 本剤の脱カプセルや懸濁・簡易懸濁投与に関しては十分なデータがないため、やむを得ない場合を除き勧められない(ダメではない) 懸濁液の調製・投与:個人防護具(ゴーグル、マスク、手袋、長袖ガウン、帽子←妊婦、妊娠の可能性がある女性への曝露を避けるため)を着用の上、4カプセルを脱カプセルし、滅菌水40mLを調製用ボトルに加え調製する(カプセル内容物と滅菌水を3分間混和する)。懸濁液の投与は調製後できるだけ早く、遅くとも調製後1時間以内に行う(懸濁後の安定性データはない) 新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第8.0版 MSD Connect 製品基本Q&A ラゲブリオR カプセル200mg 脱カプセル・懸濁・簡易懸濁投与の可否,使用経験は? https://www.msdconnect.jp/products/lagevrio/info/faq/
脱カプセルした場合の投与方法 経口 全ての懸濁物を確実に飲み込むため、十分量の水分を摂取する 経管投与: 1) 投与前に1分間投与用シリンジを混和/振り混ぜ、懸濁液を再混合する 2) 投与前にNG/OGチューブを5mLの水で洗い流す 3) 投与シリンジから全量を投与する 4) 懸濁液投与後、水5mLで2回(計10mL)、チューブをフラッシュする MSD Connect 製品基本Q&A ラゲブリオR カプセル200mg 脱カプセル・懸濁・簡易懸濁投与の可否,使用経験は? https://www.msdconnect.jp/products/lagevrio/info/faq/
抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体(中和抗体薬)
抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体 日本で2022.11現在使用可能な製剤2つあるが... - カシリビマブ・イムデビマブ :BA.1に対する中和活性は著明に低下 - ソトロビマブ :BA.1では中和活性維持、BA.2では効果低下 米国では、BA.2にin vitro活性のあるbebtelovimabが使用可能
カシリビマブ・イムデビマブはBA.1に効果が期待できない N Engl J Med. 2022 Mar 10;386(10):995-998. doi: 10.1056/NEJMc2119407 remdesivir molnupiravir 静注プロテアーゼ阻害薬
BA.2 vs モノクローナル抗体・抗ウイルス薬 各治療薬のBA.2への活性を、従来株への活性と比較した ソトロビマブの効果はやや低下 イムデビマブはBA.1に対して効果を認めなかったが、BA.2に対しては活性を認めた 抗ウイルス薬は、あまり効果の低下を認めなかった remdesivir molnupiravir nirmatrelvir N Engl J Med. 2022 Mar 9. doi: 10.1056/NEJMc2201933.
BA.4/BA.5と中和抗体薬 レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル、 bebtelovimabの効果は期待できる casirivimab/imdevimabとtixagevimab/cilgavimabの効果は低い ソトロビマブの効果は期待できない N Engl J Med. 2022 Jul 20. doi: 10.1056/NEJMc2207519.
BA.2.75と中和抗体薬 ソトロビマブとtixagevimabは効果期待できる可能性がある bebtelovimabはやや効果が低い可能性がある Cilgavimabとロナプリーブ®は効果が期待できない bioRxiv 2022.07.14.500041; doi: https://doi.org/10.1101/2022.07.14.500041
軽症または中等症の重症化リスクのあるCOVID-19患者を対象とした二重盲検プラセボ対照RCT 2020.9.24-2021.1.17(従来株流行期) 発症から7日以内に投与(中央値は3日) 投与量は、600mgずつと1200mgずつで効果に差なし 投与群の0.1%が人工呼吸器管理 半減期:25-29日 カシリビマブ・イムデビマブ プラセボ群と比較して、28日以内の入院+死亡が、70%減少した(3.2%→1.0%) Baseline seropositive(24%)でも効果あり Infusion reaction:0.3%未満 DOI: 10.1056/NEJMoa2108163
カシリビマブ・イムデビマブの予防投与 アルファ流行前(~2021.1)に行われた家庭内曝露後96時間以内カシリビマブ・イムデビマブ皮下注(600mg/600mg)によるCOVID-19の発症予防効果を検討したプラセボ対照RCTでは、81.4%の予防効果が示された(1.5% vs 7.8%)。感染予防効果(無症候性感染も含む)は、66.4%(4.8% vs 14.2%)。 アルファ流行前(~2021.1)に行われた無症状病原体保有者(index caseの陽性検体が採取された96時間以内)に対するカシリビマブ・イムデビマブの皮下注による症候性感染予防効果を検討したプラセボ対照RCTでは、46%の予防効果が示された(29.0% vs 42.3%)。 DOI: 10.1056/NEJMoa2109682 JAMA. doi:10.1001/jama.2021.24939
ソトロビマブ COMET-ICE試験の中間結果 18歳以上の軽症~中等症のCOVID-19 呼吸不全なし、かつ、発症から5日以内、かつ、重症化リスクあり(55歳以上) COVID-19ワクチン接種者は除外 500mg 点滴静注1回 24時間以上の入院+死亡 :85%減少(1% vs 7%) N Engl J Med 2021; 385:1941-1950 DOI: 10.1056/NEJMoa2107934 2020.8.27-2021.3.4施行の臨床試験 主に従来株~アルファの流行期
ソトロビマブ 二重盲検プラセボ対照RCT(COMET-ICE試験の最終結果) 29日以内の入院:79%減少(1% vs 6%), 重症化:74%減少(1% vs 5%) 投与群は、HFNC・挿管例・ICU入室例なし Day 7時点のウイルス量の低下は投与群>プラセボ群(差:-0.23 Log10 copies/mL) 発症12日以内(中央値8日)の入院COVID-19患者(低流量酸素システム or 酸素投与なし、約60%が既往あり、ワクチンは10%未満)への効果を検討した二重盲検プラセボ対照RCT(TICO試験)では、5日目の臨床的改善などの差なし(90日死亡も差なし) JAMA. doi:10.1001/jama.2022.2832 Lancet Infect Dis. doi: 10.1016/S1473-3099(21)00751-9 2020.12-2021.3:従来株とアルファ(北欧)
ワクチン接種後のモノクローナル抗体 米国での観察研究 ブレイクスルー感染(主にファイザーワクチン接種後) 2回目接種から約4か月、デルタ流行期がメイン(2021.1-2021.8) モノクローナル抗体投与群で77%入院が少なかった(2.65% vs 10.7%) モノクローナル抗体投与群で呼吸不全が86%少なかった 使用された製剤は、主にカシリビマブ・イムデビマブ J Infect Dis. 2021 Nov 16;jiab570. doi: 10.1093/infdis/jiab570.
ソトロビマブ投与後のワクチン接種 以前は、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体投与後のワクチン接種は90日以上の間隔をあけることが推奨されていたが、現在では、関係なくワクチン接種しても問題ないと考えられている(日本の添付文書には、間隔についての記載なし) ソトロビマブではないモノクローナル抗体製剤(bamlanivimab)投与後のワクチン効果が検討された。投与群では、非投与群と比較して、スパイク蛋白に対するIgGが2分の1程度、中和活性はやや低い傾向(有意差なし)。投与からワクチン接種まで64日以内、65-84日、85日以上で、免疫学的効果(IgG)に差は認めなかった。 Interim Clinical Considerations for Use of COVID-19 Vaccines Currently Approved or Authorized in the United States. https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/clinical-considerations/covid-19-vaccines-us.html [accessed on 3/3/2022] medRxiv 2021.12.15.21267605; doi: https://doi.org/10.1101/2021.12.15.21267605
ソトロビマブの投与は推奨されない 米国のFDAは、流行しているSARS-CoV-2の50%以上がBA.2となった複数の州でソトロビマブの使用を制限した(2022.3.25) 段階的にその制限範囲を拡大し、2022.4.5には米国全域でソトロビマブの使用が制限された https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-updates-sotrovimab-emergency-use-authorization accessed on 4/9/2022
BA.1流行期の外来COVID-19患者に対するソトロビマブの28日以内の入院抑制効果はなかったことを示した米国の観察研究がある(入院 2.5% vs 3.2%)。両群とも50%以上の患者がCOVID-19ワクチンを3回以上接種、約20%が2回接種済み。中等度以上の免疫不全者は約20%。入院患者の重症度は、ソトロビマブ群で低い傾向であった。 オミクロン流行中の検討 △ Int J Infect Dis. 2022 Oct 10;S1201-9712(22)00540-9. doi: 10.1016/j.ijid.2022.10.002.
Int J Infect Dis. 2022 Oct 10;S1201-9712(22)00540-9. doi: 10.1016/j.ijid.2022.10.002.
主にBA.2流行期(全体の約70%)の外来COVID-19患者に対するソトロビマブの28日以内の入院抑制効果はなかったことを示したカタールの観察研究がある。両群とも70%以上の患者がCOVID-19ワクチンを2回以上接種済みであった。 オミクロン流行中の検討 △ Int J Infect Dis. 2022 Nov;124:96-103. doi: 10.1016/j.ijid.2022.09.023.
デルタ流行期~BA.2流行期のソトロビマブの効果を無治療群と比較した観察研究(米国、2022.3以降はBA.2 dominant)、ワクチン接種者約20% 30日以内の入院+死亡抑制効果を検討 オミクロン流行中の検討 ○ medRxiv 2022.09.07.22279497; doi:https://doi.org/10.1101/2022.09.07.22279497
オミクロン流行期のソトロビマブとモルヌピラビルの効果を比較した観察研究(英国)、ワクチン3回以上接種者BA.1流行期88%、BA.2流行期94% Main outcome:28日以内の入院+死亡は、BA.1流行期 0.96% vs 2.05%、BA.2流行期 0.95% vs 2.03%(約50%減少) オミクロン流行中の検討 ○ medRxiv 2022.05.22.22275417; doi:https://doi.org/10.1101/2022.05.22.22275417 (BMJに掲載予定)
ソトロビマブ BA.2流行前は、重症化効果は非常に高く第1選択薬だった 点滴ルートが必要であるが、1回投与である 安全性は高く、妊婦にも使用可能 BA.2以降の流行variantへのin vitro活性は低いことが示されているが、実際には臨床治療効果は期待できるかもしれない 臨床試験では、発症5日以内が対象とされたが、日本では発症7日以内であれば使用可能 流通制限あり(院内ストックがあまり認められていない)
エンシトレルビル(未承認) https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2022/09/20220928.html
塩野義製薬のプレスリリース、1日1回 5日間内服、オミクロン流行期のRCT 主要評価項目:発症から72 時間未満に割付された患者集団における5 症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、けん怠感)の消失までの時間 症状消失までの時間の中央値:投与群で167.9時間、プラセボ群で192.2時間(約24時間短縮) 比較的高頻度に見られた副作用:高比重リポ蛋白の減少および血中トリグリセリドの上昇 2022年10月初旬時点では未承認(審議継続中) https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2022/09/20220928.html エンシトレルビル(未承認)
ここまでのまとめ 2022.11現在の日本では... 第1選択薬:ニルマトレルビル/リトナビル 第2選択薬:レムデシビル 第3選択薬:モルヌピラビル、(ソトロビマブ) 使用しない:カシリビマブ・イムデビマブ
中和抗体薬による感染予防効果 tixagevimab 300 mg plus cilgavimab 300 mg 曝露前予防、筋注、6か月おき(半減期約90日) 対象(①かつ②かつ、③または④) ①未感染 ②12歳以上、または、40kg以上の小児 ③ワクチン接種不可(重篤なアレルギーなど)のため未完了の者 ④ワクチン効果が低いと想定される中等度以上の免疫不全者 Prevention of SARS-CoV-2 Infection (Last Updated: August 8, 2022). https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/overview/prevention-of-sars-cov-2/ 投与量300mgずつ、と、 6 か月ごとに用量を繰り返す戦略は、薬物動態/薬力学 (PK/PD) モデリング データに基づいている
2022年8月30日に特例承認 流通開始時期:未定 まずは発症抑制目的での投与に限定して薬剤供給される見込み 対象:中等度から高度免疫不全者
各variant, subvariantへの効果 アルファ・デルタに対する活性:あり BA.1に対する活性:低下しているが、300mgずつの投与であれば臨床的な効果は期待できる BA.2に対する活性:あり BA.4/BA.5に対する活性:低下しているが、300mgずつの投与であれば臨床的な効果は期待できる ファクトシート. https://www.fda.gov/media/154701/download NIHガイドライン. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/tables/variants-and-susceptibility-to-mabs/(最終アクセス:8/30/2022)
曝露前発症予防効果 約80% ワクチン未接種かつCOVID-19未感染で、重症化リスㇲがあるまたは感染リスクが高い18歳以上の成人(免疫不全者は約10%)を対象としたプラセボ対照RCT(PROVENT試験)@欧州・米国2020.11.21-2021.3.29に投与(従来株~デルタ流行期)、150mgずつ筋注 主要評価項目:投与後183日目までの症候性COVID-19 主要解析:症候性感染77%減少(0.2% vs 1.0%)、追跡期間中央値83日。追加解析(追跡期間中央値196日):症候性感染予防83%(0.3% vs 1.8%)、重症化・死亡はプラセボ群のみ。安全性も確認された。 参加者は試験中に盲検化を解除してワクチン接種が可能 ファクトシート. https://www.fda.gov/media/154701/download N Engl J Med 2022;386:2188-200. DOI: 10.1056/NEJMoa2116620
曝露後の発症予防効果はない 8日以内にCOVID-19確定患者の曝露を受けた18歳以上に対する曝露後予防効果を検討したプラセボ対照無作為化比較試験(海外第3相試験、STORM CHASER試験)、2020.12-2021.6 150mgずつ投与 ワクチン接種者と既感染者は除外 ファクトシート. https://www.fda.gov/media/154701/download アストラゼネカwebsite. https://www.astrazeneca.com/media-centre/press-releases/2021/update-on-azd7442-storm-chaser-trial.html 症候性感染の発症率を比較:投与群3.1% vs プラセボ群 4.6%で、有意差なし(追跡期間の中央値49日)。投与後1週間以内の発症率の差なし。
外来患者での重症化予防効果 発症7日以内のワクチン未接種の外来COVID-19患者を対象としたプラセボ対照RCT(国際共同第3相試験、TACKLE試験) 2021.1.28-2021.7.22(アルファ~デルタ) 既感染者 14%、重症化リスクあり 90%、免疫不全者 5% 29日までの重症化・死亡予防効果:50.5%(4% vs 9%) Day 6のウイルス量(鼻腔スワブ)は有意に低下 Lancet Respir Med. 2022 Jun 7;S2213-2600(22)00180-1. doi: 10.1016/S2213-2600(22)00180-1.
入院患者に対する効果 発症12日以内の入院COVID-19患者(米国・欧州など)を対象としたプラセボ対照RCT(約80%が酸素療法中) 2021.2.10-2021.9.30 300mgずつ投与(静注)、急性の臓器不全の患者(挿管など)は除外、ワクチン接種(2回)完了15%、レムデシビル・ステロイドは約70%で投与済み(最終的に93%で投与された、既感染者 50-60% Lancet Respir Med. 2022 Jul 8;S2213-2600(22)00215-6. doi: 10.1016/S2213-2600(22)00215-6. 主要評価項目の90日以内の回復は同等。死亡は有意に減少(9% vs 12%、30%減少) baseline serostatusは結果に影響なし
オミクロンに対する臨床効果 2022.1.1-2022.4.30(BA.1, BA.2, BA.2.12.1) 主に免疫不全者を対象とし予防効果を検討した観察研究@米国 基本的に300mgずつ投与 免疫不全 92%、ワクチンbooster接種 73% 複合エンドポイント(感染・入院・死亡):1.0% vs 3.2%(69%減少) 感染66%減少、入院87%、全死亡64% medRxiv 2022.05.28.22275716; doi: https://doi.org/10.1101/2022.05.28.22275716
エバシェルド®の効果のまとめ オミクロン前のデータ - ワクチン非接種者を対象として曝露前予防効果 約80% - ワクチン非接種者を対象として重症化予防効果 約50% - ワクチン非接種者を対象として曝露後予防効果なし - 入院患者の死亡を減少させる可能性がある BA.4/BA.5を含むオミクロンに対する効果は、300mgずつ投与すれば、期待できる可能性が高い(PK/PDのデータと査読前論文のみ)
エバシェルド®の投与量 対象:成人、または、12歳以上かつ40kg以上の小児 投与タイミング:6か月おき、ワクチン接種から2週間以上の間隔 予防量 Tixagevimab 150 mg、cilgavimab 150 mg(各1.5mずつ、筋注) ただし、BA.4/BA.5流行期は Tixagevimab 300 mg、cilgavimab 300 mg (各3mずつ、筋注) 治療量:300mgずつ(各3mずつ、筋注) FDAファクトシート. https://www.fda.gov/media/154701/download
発症予防目的の使用での注意点 COVID-19の予防の基本はワクチンによる予防であり、この薬剤がワクチンに置き換わるものではない 濃厚接触者には適応がない 中等度以上の免疫不全者がよい適応となる
発症予防目的での使用の対象患者 抗体産生不全あるいは複合免疫不全を呈する原発性免疫不全症の患者 B細胞枯渇療法(リツキシマブ等)を受けてから1年以内の患者 ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬を投与されている患者 キメラ抗原受容体T細胞レシピエント 慢性移植片対宿主病を患っている、又は別の適応症のために免疫抑制薬を服用している造血細胞移植後のレシピエント 積極的な治療を受けている血液悪性腫瘍の患者 肺移植レシピエント 固形臓器移植(肺移植以外)を受けてから1年以内の患者 T細胞又はB細胞枯渇剤による急性拒絶反応で最近治療を受けた固形臓器移植レシピエント COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14版(2022年8月30日)
米国での主な対象者(予防のみ) 積極的治療中の固形癌・血液悪性腫瘍 COVID-19ワクチンに対する反応不良が予想されるまたは重症化リスクが高い血液悪性腫瘍(急性白血病、CLL、NHL、 plasma cell dyscrasias)(治療の有無を問わない) 免疫抑制療法中の固形臓器移植レシピエント CAR-T細胞療法または造血幹細胞移植後(移植後2年以内または免疫抑制療法中) 中等度または重度の原発性免疫不全症 進行性or未治療のHIV感染症(CD4<200個/mm3未満、免疫再構成を伴わないAIDS指標疾患の既往、症候性HIV感染症) 高用量コルチコステロイド(PSL 20mg/日以上 2週間以上、またはその相当量)、アルキル化薬、代謝拮抗薬、移植関連免疫抑制薬、重度の免疫抑制薬として分類されるがん薬物療法、免疫抑制または免疫調節薬である生物学的薬剤 NIHガイドライン. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/special-populations/immunocompromised/ https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/overview/prevention-of-sars-cov-2/ FDAファクトシート. https://www.fda.gov/media/154701/download [最終アクセス2022.9.1]
治療適応の考え方
オミクロン流行期に、ワクチン3回接種済みの高血圧の38歳男性に治療は必要か? 重症化リスクがもともと低いオミクロンでの効果はあまり効果が検討されていない(デルタ流行期よりも効果に差がでにくい) ワクチン接種者に対する効果はあまり検討されていない(パキロビッド、中和抗体薬、ラゲブリオ)、かつ、効果は小さいと予想される in vitro活性は、抗ウイルス薬で確認されている コストが非常に高い薬剤である(安価なもので約10万円)
カナダオンタリオ州 Clinical Practice Guideline Summary: Recommended Drugs and Biologics in Adult Patients with COVID-19. https://covid19-sciencetable.ca/sciencebrief/clinical-practice-guideline-summary-recommended-drugs-and-biologics-in-adult-patients-with-covid-19-version-11-0/ [accessed on 4/2/2022] 高リスク群(入院リスク 5%以上): ニルマトレルビル/リトナビル、または、レムデシビル 標準リスク群:経過観察(フルボキサミン or ブデソニド吸入) フルボキサミンとブデソニドは 本邦では保険適用なし
欧州のガイドライン ESCMID COVID-19 guidelines: update on treatment for patients with mild/moderate disease. Clinical Microbiology and Infection, 2022, doi: 10.1016/j.cmi.2022.08.013. 推奨順位は 1. ニルマトレルビル・リトナビル 2. レムデシビル 3. モルヌピラビル、中和抗体薬 ワクチン接種済み 免疫不全なし データ不十分 ワクチン接種済み 免疫不全あり ワクチン未接種
欧州のガイドライン ESCMID COVID-19 guidelines: update on treatment for patients with mild/moderate disease. Clinical Microbiology and Infection, 2022, doi: 10.1016/j.cmi.2022.08.013. 推奨順位は 1. ニルマトレルビル・リトナビル 2. レムデシビル 3. モルヌピラビル
欧州のガイドライン 重症化リスク因子:60歳以上、BMI>25kg/m2、喫煙、免疫不全、慢性肺疾患、慢性心疾患、sickle cell disease、高血圧、糖尿病、悪性腫瘍、神経発達障害、その他医学的に複雑な状態、医療関連技術への依存 ワクチンの効果が期待できない状況(vaccine failureのリスク因子):不十分なワクチン接種歴、最終ワクチン接種が4か月以上前、中等度以上の原発性免疫不全、進行または無治療のHIV感染症、2年以内のCAR-T細胞療法または造血幹細胞移植、固形臓器移植後の免疫抑制薬使用中、ステロイド(PSL 20mg/日以上)やTNF阻害薬などの免疫抑制・免疫調節薬の使用 ESCMID COVID-19 guidelines: update on treatment for patients with mild/moderate disease. Clinical Microbiology and Infection, 2022, doi: 10.1016/j.cmi.2022.08.013.
NIHの優先順位(供給制限ある場合) ポイント:年齢、ワクチン接種の有無、免疫状態、重症化リスク因子 (1)ワクチン効果が期待できない免疫不全者(ワクチン接種歴関係なし)、 75歳以上のワクチン非接種者、65歳以上で重症化リスク因子のあるワクチン非接種者 (2)ワクチン非接種の65歳以上、ワクチン非接種の65歳未満で重症化リスク因子あり (3)ワクチン接種済みの75歳以上、ワクチン接種済みの65歳以上で重症化リスク因子あり(booster接種していない場合は、重症化リスクが高い) (4)ワクチン接種済みの65歳以上、ワクチン接種済みの65歳未満で重症化リスク因子あり(booster接種していない場合は、重症化リスクが高い) 米国NIHのガイドライン
重症化予防薬の適応(当院) 神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 2
重症化予防薬の適応(当院) 神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 2
重症化予防薬の選択(当院) 第1選択薬:ニルマトレルビル/リトナビル 第2選択薬:レムデシビルを使用する場合 - 内服不可、パキロビッド併用禁忌薬内服中 - 発症から6-7日目に治療開始する場合 - 一過性の呼吸不全例(多くの場合、高齢者の誤嚥) - 全例入院して投与している
国内で薬剤は足りていないのか? ニルマトレルビル/リトナビル :200万人分確保して、約26200人に投与(1.31%) モルヌピラビル :160万人分確保して、約384000人に投与(24%) カシリビマブ・イムデビマブ 約41600人に投与(5/18から増加?) ソトロビマブ 約162900人に投与(5/18から増加?) 第94回(令和4年8月10日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード参考資料 2022年8月9日時点でのデータ
抗ウイルス薬は余っている 2022年9月時点:ラゲブリオ 62万/160万、4万5千/200万が投薬された 2022年7月の感染者 約340万人、8月の感染者 約630万人 治療が必要な患者に適切に処方されていない 知識の問題、薬剤の供給システムの問題 診療責任の所在の問題、薬物相互作用を調べるのが手間 第100回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(2022.9.21). https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000992311.pdf
新規治療薬のまとめ 年齢、ワクチン接種回数、免疫不全の有無、その他の重症化リスク因子の数などから、治療適応を決定する 第1選択薬は、ニルマトレルビル/リトナビル 5日間 第2選択薬は、レムデシビル 3日間 モルヌビラビルはその他の薬剤が使用できない場合に考慮 ワクチン接種者、かつ、第1・2選択薬が使用不可時の場合、ソロトビマブを検討してもよいかもしれない
その他の薬剤
デキサメタゾン
デキサメタゾン→× 入院患者におけるデータであるが、酸素投与をしていない患者に対する副腎皮質ステロイドは、効果がないことが示されているため、デキサメタゾンは投与しない(理論上、時期尚早な投与によって、予後が悪くなる可能性がある。また、90日死亡の上昇を示した観察研究もある) 入院ができない医療状況で、SpO2が93%以下となった場合は、投与が検討される(在宅酸素旅法中にDexa 6mg/日、最長10日間)が、安易な使用は控えるべきである。高血糖に注意する。 N Engl J Med. 2021;384:693-704. Eur Respir J. 2021 Nov 25;2102532. doi: 10.1183/13993003.02532-2021
ファビピラビル
RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬 もともとインフルエンザに対して開発された薬剤 現時点では、軽症・中等症・重症COVID-19への効果は期待できず、臨床的に意義のある薬剤ではないと考えられている なお、COVID-19に対する使用は承認されていない ファビピラビル Nat Med. 2021 Jul 5. doi: 10.1038/s41591-021-01439-x Antimicrob Agents Chemother. 2020 Sep 21;AAC.01897-20. doi: 10.1128/AAC.01897-20. Infect Dis Ther. https://doi.org/10.1007/s40121-021-00517-4 Sci Rep. 2021 May 26;11(1):11022. doi: 10.1038/s41598-021-90551-6.
ファビピラビル 非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者を対象としたプラセボ対照RCT ファビピラビル vs プラセボ、発症10日以内(中央値約5日)、中等症Iを対象 primary outcome:症状(体温、酸素飽和度、胸部画像)の軽快、かつ、PCR陰性化までの時間 ファビピラビル投与群 11.9日、プラセボ投与群 14.7日(有意差あり) 体温や気道症状の改善の改善は両群同等 胸部画像の改善やPCR陰性化までの時間が短縮 治療群で、高尿酸血症が約80%でみられた Infect Dis Ther. https://doi.org/10.1007/s40121-021-00517-4
ファビピラビル メタ解析(9つの比較試験) - 入院7日後の症状改善率高い - 入院14日後の症状改善率は同等 - ウイルス排除は早めない - 呼吸不全に至る可能性は減らさない - ICU入室率減らさない - 死亡減らさない 呼吸不全 ICU入室 Sci Rep. 2021 May 26;11(1):11022. doi: 10.1038/s41598-021-90551-6.
承認見送り→提供終了 2020.12 厚労省の審議会で承認されず 2021.12 観察研究に使用するためのファビピラビルの提供終了
イベルメクチン
イベルメクチン 糞線虫症やオンコセルカ症などに使用される抗寄生虫薬であるが、in vitroでSARS-CoV-2に対して持つことが示されたため、その効果が検討されるようになった in vitroでSARS-CoV-2に効果を認めたイベルメクチンの濃度は、ヒトに対する通常投与量では到底達成できないような高い濃度である 現時点では、有効性はない可能性が極めて高く、臨床試験以外では使用しないことが推奨される。なお、COVID-19に対する保険適用はない。 Nat Med. 2021 Jul 5. doi: 10.1038/s41591-021-01439-x
高用量でもウイルス量の減少はわずか イタリアで行われた二重盲検第二相プラセボ対照RCT 軽症の外来COVID-19患者(発症からの中央値4日)に対して、600µg/kg 5日間、または、1200µg/kg 5日間、または、placebo 5日間投与して比較 結果:①Day7のウイルス量の低下は大きい傾向にあったが、有意差は認めなかった、②症状の改善は早まらなかった、③重篤な副作用はなかった。 https://doi.org/10.1016/j.ijantimicag.2021.106516
メタ解析:効果なし Mortalityの差はない IVM群がよい傾向であった論文はまだ査読されていない 10のRCTのメタ解析(1つがスペイン、その他はlow- or middle- incomeの国) ・各研究の規模:24-398名、既往ない患者が大半 ・イベルメクチンの投与方法: 総投与量12-210mg 単回(5研究) or 5日(4研究) ・死亡、入院期間、副作用、ウイルス排除は同等 Clin Infect Dis. 2021 Jun 28;ciab591. doi: 10.1093/cid/ciab591
メタ解析:効果あり?不正あり Clinical recovery 入院期間 24のRCTを対象としたメタ解析では、イベルメクチンの効果が示された。しかし、対象とした論文の2/3は査読されていない研究であること、解析対象となっていた死亡を著明に減少させた効果を示した論文がデータ改ざんなどの疑いで撤回されたこと(赤枠)、などから、このメタ解析の結果の信頼性は低く、後に撤回されている。同様の結果を示したメタ解析はもう1つあるが、同じように解釈されている。 Open Forum Infectious Diseases, 2021;, ofab358, https://doi.org/10.1093/ofid/ofab358 Am J Ther. 2021 Jun 21;28(4):e434-e460. doi: 10.1097/MJT.0000000000001402.
研究の質の問題:bias・不正 Open Forum Infect Dis. 2022 Jan 17;9(2):ofab645. doi: 10.1093/ofid/ofab645.
イベルメクチンの重症化予防効果なし オープンラベルRCT@マレーシア(2021.5.31-2021.10.25) 対象:発症7日以内の1つ以上基礎疾患のある50歳以上の軽症または中等症COVID-19患者(N=490) 65%が中等症(肺炎像あり)、発症からの中央値5日 イベルメクチン 0.4mg/kg/日 5日間 vs 標準治療 JAMA Intern Med. 2022 Feb 18. doi: 10.1001/jamainternmed.2022.0189. primary endpoint(呼吸不全):21.6% vs 17.3% secondary endpoint:人工呼吸器・ICU入室・28日院内死亡は同等、投与群で下痢増加(5.8%vs 1.6%)
イベルメクチンの重症化予防効果なし プラセボ対象RCT@ブラジル(2021.3.23-2021.8.6) 対象:発症7日以内の1つ以上基礎疾患のある18歳以上のCOVID-19外来患者(N=1358、これまでの最大規模の研究) 発症からの中央値3.8±1.9日 イベルメクチン 0.4mg/kg/日 3日間 vs プラセボ 3日間 N Engl J Med. 2022 Mar 30. doi: 10.1056/NEJMoa2115869. primary endpoint(28日以内の入院+COVID-19の悪化で救急外来受診し6時間以上滞在):IVM群 14.7% vs プラセボ群 16.3%、その他:入院率・PCR陽性率の推移・症状改善までの期間・死亡(3.1% vs 3.5%)など同等であった
イベルメクチン:副作用に注意 小規模な研究では、高用量でも大きな副作用は認めなかった 米国では、2021年8月にイベルメクチンの処方量がCOVID-19流行前の24倍になった。イベルメクチンの副作用に関する21例の電話相談のうち、ほとんどが動物用(ヒト用ではない)のイベルメクチンを内服していた。20-125mgなどの大量内服をしていた。 6名は入院を要した。消化器症状、混乱、 運動失調、脱力、血圧低下、痙攣を呈した。 外来で対応した患者は、消化器症状、めまい、 混乱、視覚異常、皮疹などが見られた。 https://doi.org/10.1016/j.ijantimicag.2021.106516 DOI: 10.1056/NEJMc2114907
コルヒチン
コルヒチン コルヒチンは、痛風・心膜炎・家族性地中海熱などに使用される抗炎症作用のある薬剤で、この抗炎症作用を期待して、COVID-19に使用される。 重症化リスクのある外来患者に対するコルヒチンはわずかな重症化予防効果はあるかもしれない。より効果の高い薬剤が使用できない場合は、その使用が検討されるが、下痢などの消化器症状に注意する。入院患者に対しては使用しない。なお、COVID-19に対する保険適用はない。 外来での使用方法(例):1回0.5mg 1日2回を3日間内服した後、1回0.5mg 1日1回 27日間内服(最適な投与量・投与期間は不明)
COLCORONA試験(外来患者) ・重症化リスクを1つ以上もっている40歳以上の外来COVID-19患者を対象 ・二重盲検プラセボ対照RCT、4488名、 ・コルヒチン1回0.5mg 1日2回 3日間、その後1回0.5mg 1日1回 27日間 ・症状出現から試験参加まで5.3日 ・主要評価項目:30日以内の入院または死亡の有意差なし(4.7% vs 5.8%) PCR陽性患者(93%)に限ると25%減少(4.6% vs 6.0%) ・副次評価項目:30日以内の死亡 0.2% vs 0.4%、30日以内の入院 4.5% vs 5.7% ・副作用:下痢が有意に増加(13.7% vs 7.3%)、肺塞栓が増加(0.5% vs 0.1%) Lancet Respir Med 2021;9:924–32. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00222-8
RECOVERY試験(入院患者) ・入院患者を対象としたオープンラベルRCT(コルヒチン vs 標準治療)(N=11340名) ・NIV 26-27%、MV 5%、94%がステロイド使用 ・発症から投与までの期間:両群とも9日間(IQR 6-12日) ・初回1mg、12時間後0.5mg、その後1回0.5mg 1日2回を9日間 or 退院まで(早い方) ※投与頻度は、70kg未満、eGFR 30未満などの場合は1日1回投与 ・主要評価項目:28日死亡(21% vs 21%)で差なし ・サブグループ解析(呼吸不全の程度、投与開始 ~7日 vs 8日~など):差なし ・退院までの期間:同等(10日 vs 10日)、MV使用と死亡:同等(25% vs 25%) Lancet Respir Med 2021;9:1419–26. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00435-5
入院COVID-19に対するコルヒチン:無効 多施設オープンラベルRCT(ECLA PHRI COLCOVID trial) 2020.4.17-2021.3.28 コルヒチン:まず1.5mg内服し、2時間後に0.5mg内服。翌日から0.5mgを1日2回内服(退院まで、最長14日間) 両群とも低流量酸素使用80%弱 両群ともステロイド使用90%以上 PE:28日以内の挿管 or 死亡 JAMA Netw Open. 2021 Dec 1;4(12):e2141328. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.41328.
吸入ステロイド(ブデソニド)
ブデソニド吸入の効果がもっとも検討されてる 外来患者に使用した場合、より効果の高い薬剤が使用できない状況であれば、症状の改善が早まり、入院が減少する可能性があるため、使用考慮できる。発症から1週間以内に開始する。 商品名:パルミコート 投与量・期間:1回800µg 1日2回吸入、改善するまで、または、14日間 なお、COVID-19に対する保険適用はない。 ブデソニド吸入
・無盲検RCT・第2相試験(STOIC試験) ・基礎疾患問わない ・介入群:ブデソニド 1回800μg 1日2回吸入(症状消失まで) ・vs 通常治療 ・発症から投与までの期間:両群とも中央値3日 ・投与期間の中央値7日(4-10日) ・主要評価項目:救急外来での評価+入院 →ITT 3% vs 15%, PP 1% vs 14% ・副次評価項目:症状消失 7日 vs 8日 →1日早く改善(有意差あり) ・規模が当初の推定数より大幅に下回った(398例→146例) Lancet Respir Med. 2021 Jul;9(7):763-772. ブデソニド吸入
オープンラベルRCT(PRINCIPLE試験) 対象:発症から14日以内の50歳以上で基礎疾患がある、または、65歳以上の外来患者 基礎疾患あり:81% ブデソニド1回800μg 1日2回吸入 14日 vs 通常治療 発症から治療開始まで中央値6日(IQR 4-9日) 主要評価項目: - 症状の改善↑:11.8日 vs 14.7日 - 28日以内のCOVID-19による入院+死亡減少↓ :6.8 % vs 8.8%(統計学的有意差なし) Lancet 2021; 398: 843–55. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)01744-X ブデソニド吸入
シクレソニド効果なし 二重盲検プラセボ対照RCT@カナダ(N=203) 対象:発症5日以内の外来COVID-19患者、年齢中央値35歳、基礎疾患20%、発症からの日数の中央値3日 シクレロニド吸入600µg×2/日と点鼻 200µg/日の併用 vs placebo(吸入+点鼻) 14日間 Primary endpoint:7日時点の症状の改善 各症状の改善、入院、死亡すべて両群で同等 BMJ 2021;375:e068060. http://dx.doi.org/10.1136/bmj-2021-068060 シクレドニド(オルベスコ®)はCOVID-19に対する保険適用なし
フルボキサミン
フルボキサミン フルボキサミンは、うつ病などに使用される選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:SSRI)であり、SARS-CoV-2の細胞内への侵入の抑制や抗炎症作用が注目されている。 発症から7日以内の外来COVID-19患者を対象とした比較的規模の大きい複数のRCTで、入院予防効果を示すことができなかった 投与方法:1回50-100mg 1日2-3回 10-14日間(保険適用はない) Molecular Psychiatry; https://doi.org/10.1038/s41380-021-01432-3 JAMA Netw Open. 2022 Apr 1;5(4):e226269. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.6269.
Molecular Psychiatry; https://doi.org/10.1038/s41380-021-01432-3
外来患者を対象とした観察研究 ・外来COVID-19患者(N=113名) ・50%が診断時無症状 ・希望者がフルボキサミン内服(内服群は有症状者が多かった) ・発症から診断確定まで約3.5日 ・1回50mg 1日2回 14日間 vs 投与なし ・14日までの入院が減少:0名 vs 6名(12.5%) Open Forum Infect Dis. 2021 Feb 1;8(2):ofab050. doi: 10.1093/ofid/ofab050
外来患者を対象としたRCT ・参加者:152名(試験脱落例25%程度) ・発症から7日以内に投与(両群とも中央値4日) ・フルボキサミン群 vs プラセボ群 ・少量で開始し1回100mg 1日3回まで増量 total 15日間 ・PE:15日以内の重症化 0% vs 8.3%(0名vs 6名)有意差あり ・COVID-19の悪化での入院 0名 vs 4名(人工呼吸器1名) ・重篤な副作用なし JAMA. 2020 Dec 8;324(22):2292-2300. doi: 10.1001/jama.2020.22760.
TOGETHER試験(対象:外来患者) プラセボ対照RCT@ブラジル 重症化リスクのある発症7日以内(中央値3.8日)のワクチン未接種の外来COVID-19患者(N=1497) 介入群:フルボキサミン100mg×2/日 10日間 Primary endpoint:28日以内の入院(ERでの6時間以上の滞在 or 高次医療機関への転送)が32%減少(11% vs 16%)、Secondary endpoint:入院、人工呼吸器、死亡は変化なし(ERでの6時間以上の滞在は介入群で少なかった) Lancet Glob Health 2021. https://doi.org/10.1016/S2214-109X(21)00448-4
ワクチン接種済み55%の集団で効果なし 2021.3~2022.1(主にデルタ)@米国 対象:30-85歳、BMI≧25、発症7日以内、外来患者、未感染者 約55%がワクチン接種済み(回数や種類についての詳細記載なし) フルボキサミン 50mg×2/日 14日 vs プラセボ Primary endpoint(呼吸不全、ER受診、入院、死亡):24.0% vs 24.9% 入院 1.8% vs 1.5%(同等)※ワクチン接種歴は結果に影響なし 症状の改善も早まらなかった N Engl J Med 2022; 387:599-610. DOI: 10.1056/NEJMoa2201662
その他の薬剤のまとめ 残念ながら...十分な効果を示す薬剤はない - ファビピラビル、イベルメクチン、コルヒチン - 吸入ブテソニド、フルボキサミン 日本の臨床現場で使用することはない
入院患者に対する治療
入院患者-呼吸不全なし-
入院患者(呼吸不全なし) 酸素投与が不要な入院患者に対する予後改善効果を認めた薬剤はないため、原則対症療法で経過観察を行う(COVID-19以外の理由で入院した患者の場合は、外来患者に対する治療を行う) 副腎皮質ステロイドは、効果がないことが示されているため、原則として投与しない。90日死亡が増加する可能性を示した観察研究もある。 レムデシビルは、2つの大規模RCT(ACTT-1試験・Solidarity試験)のサブグループ解析で効果を認めなかった 未分画ヘパリンによる深部静脈血栓症予防は行う N Engl J Med. 2021;384:693-704. Eur Respir J. 2021 Nov 25;2102532. doi: 10.1183/13993003.02532-2021 N Engl J Med. 2020;383:1813-26. N Engl J Med. 2021;384:497-511. 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている
デキサメタゾンは効果なし 酸素投与をしていない患者に対する副腎皮質ステロイドは、効果がないことが示されているため、デキサメタゾンは投与しない(むしろ予後を悪化させる傾向にある) 理論上、時期尚早な投与によって、予後が悪くなる可能性もある N Engl J Med. 2021;384:693-704.
レムデシビルは効果なし N Engl J Med. 2020;383:1813-26. N Engl J Med. 2021;384:497-511. ACTT-1 Solidarity 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている
中等症COVID-19患者に対象を限定したRCT 肺炎像があるがSpO2 94%以上のCOVID-19患者を対象 標準治療 vs レムデシビル 5日間 vs レムデシビル 10日間 Day 11での症状の改善がレムデシビル 5日群で標準治療群と比較してわずかに多かった 酸素投与期間・入院期間・28日死亡は差なし 臨床的意義はほとんどない? JAMA. 2020;324(11):1048-1057. 発症から投与開始までの中央値8-9日 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている 海外データ
入院患者-O2:低流量システム-
推奨される治療 鼻カニュラまたは簡易マスクを使用した酸素投与が開始された段階で、デキサメタゾン(1回6mg 1日1回、内服または点滴)を開始する。発症から7-10日以内であれば、レムデシビル(初日200mg、その後100mg、合計5日間)の併用を検討する。 急速に呼吸状態が悪化、かつ、高炎症反応(目安はCRP 7.5 mg/dL以上)を伴う酸素吸入中の患者に対して、トシリズマブまたはバリシチニブの追加を考慮してもよい。 回復期血漿は使用しないことを推奨する。 NIH guideline on 8/8/2022
デキサメタゾン:RECOVERY試験 大規模なオープンラベルRCT(N=6425) ・デキサメタゾン(1回6mg 1日1回 10日間、または、退院時に終了) vs 標準治療 ・呼吸不全を呈する重症COVID-19患者の28日死亡が減少(22.9% vs 25.7%) ・人工呼吸器を使用していない患者の場合、人工呼吸器導入リスクも減少 ・致死率改善効果は重症度が高いほど大きい N Engl J Med. 2021;384:693-704.
レムデシビル:ACTT-1試験 Day 1 200mg/日、Day 2-10(または退院まで) 100mg/日 主に先進国で行われたRCT(N=1062) 臨床的改善までの期間短縮(10日 vs 15日)し、28日死亡は減少する傾向(11.4% vs 15.2%) 人工呼吸器やNIV/HFNCが不要な呼吸不全例でのみ効果を認めた ステロイドは23%で使用された N Engl J Med. 2020;383:1813-26 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている 海外データ
レムデシビルの投与期間:5日間 重症COVID-19に対して5日 vs 10日投与は同等 投与5日目に人工呼吸器使用中の場合は、10日間まで延長してもよいかもしれない N Engl J Med. 2020;383:1827-37 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている 海外データ
Solidarity試験:院内死亡減少 18歳以上の入院患者(N=8320)を対象としたオープンラベルRCTで、Remdesivir(10日間)と標準治療を比較(ステロイド使用率:約70%) Primary endpoint:院内死亡(14.5% vs 15.6%, RR 0.91, 0.82-1.02):治療開始時に人工呼吸器使用:42.1% vs 38.6%、酸素投与(人工呼吸器使用なし):14.6% vs 16.3%(RR 0.87, 0.76-0.99)、酸素投与なし:2.9% vs 3.8% Lancet. 2022 May 2;399(10339):1941-1953. doi: 10.1016/S0140-6736(22)00519-0. 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている 海外データ
DisCoVeRy試験(呼吸不全のあるCOVID-19) オープンラベルRCT@欧州 対象:呼吸不全のある18歳以上の入院COVID-19患者(N=857) 約40%がHNFC以上を使用、発症から投与までの中央値9日 ステロイド・トシリズマブの使用は両群とも約40%・1%未満 レムデシビル 5-10日(退院する場合は6日目以降中止) Primary endpoint:15日目の臨床状態は同等 28日死亡、退院までの期間、ウイルス量の推移も同等 Lancet Infect Dis 2021. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(21)00485-0 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている 海外データ
カナダ:人工呼吸器導入減少・死亡同等 入院患者対象のオープンラベルRCT(カナダ) Remdesivir 10日間 vs 標準治療 発症から無作為化まで8日 ステロイド使用:両群87.2%(トシリズマブほぼなし) 呼吸不全90%(大半が低流量酸素またはHFNC) CMAJ. 2022 Jan 19;cmaj.211698. doi: 10.1503/cmaj.211698. Primary outcome:院内死亡 18.7% vs 22.6%(有意差なし) その他のoutcome:人工呼吸器導入減少(8% vs 15%)、60日死亡同等(24.8% vs 28.2%) 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている
レムデシビル投与のタイミング 発症早期に開始する - 軽症~中等症I:発症7日以内 - 呼吸不全:発症から7-10日以内がよい? ※発症早期にウイルス量が多いことから、理論的には早期投与が望ましい
N Engl J Med. 2022 Jan 27;386(4):385-387. doi: 10.1056/NEJMe2118579.
Therapeutics and COVID-19: living guideline(WHO)(16/9/2022) https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2022.5 WHOのガイドラインは、重症COVID-19に対して、レムデシビルを使用することを提案している(人工呼吸器使用例には非推奨)
Therapeutics and COVID-19: living guideline(WHO)(16/9/2022) https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2022.5
入院患者-HFNC or NIV-
推奨される治療 デキサメタゾン(1回6mg 1日1回 10日間)を投与 レムデシビル(初日200mg、2-5日目100mg)を考慮 CIIa 以下のいずれかを追加 - バリシチニブ(1回4mg 1日1回、最長14日間) AI - トシリズマブ(8mg/kg 単回投与、最大800mg) BIIa NIH guideline on 8/8/2022
レムデシビルの効果は?? この重症度の患者群においてレムデシビルの効果は確立されていないため、一律の使用は推奨されないが、発症早期(例:7-10日以内、当院では主治医の裁量で発症14日以内なら投与可能)や中等度~高度免疫不全者で理論上抗ウイルス薬の効果が期待できる状況であれば、投与を検討してもよいかもしれない
トシリズマブ
トシリズマブの使用が検討される背景 トシリズマブ:ヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体 IL-6高値(>100 pg/mL)は、重症度とウイルス血症の存在に関連する 1) IL-6高値(>6.75 pg/mL)は、長期間のウイルス排泄(PCR)に関連する 2) IL-6高値(来院時のIL-6 >35 pg/mL、IL-6の最大値 >80 pg/mL)は、人工呼吸器管理の必要性(最重症例)に関連する 3) IL-6高値(入院時>70 pg/mL)は、死亡に関連する 4) 最重症のCOVID-19でIL-6は高値で、非生存者で有意に高い(中央値 61.1 pg/mL) 5) 1) Clin Infect Dis. 2020 Nov 5;71(8):1937-1942. 2) Clinical Infectious Diseases, ciaa490, https://doi.org/10.1093/cid/ciaa490 3) J Allergy Clin Immunol. 2020 Jul;146(1):128-136.e4. 4) Nat Med. 2020 Oct;26(10):1636-16 5) Am J Respir Crit Care Med. 2020 Jun 1;201(11):1430-1434
REMAP-CAP試験 ICU入室24時間以内の重症呼吸不全を呈しているCOVID-19患者(副腎皮質ステロイドは90%以上の患者に投与された)を対象としたオープンラベルRCT HFNC 30%、NIV 40%, MV 30% トシリズマブ群は、通常治療群と比較して、21日までのorgan support-free day(10日 vs 0日)が有意に長く、病院内死亡が有意に減少した(28% vs 36%) N Engl J Med. 2021;384:1491-502 生存 生存 ICU退室 退院 海外データ
RECOVERY試験 呼吸不全(50%以上がHFNC・NIV・人工呼吸器を使用)と高炎症反応(CRP≧7.5 mg/dL)を呈しているCOVID-19患者を対象としたオープンラベルRCT ステロイドは80%以上の患者に投与 トシリズマブ群は通常治療群と比較して、28日死亡(31% vs 35%)が有意に減少した。また、人工呼吸器導入リスク(15% vs 19%)も有意に減少した。 Lancet. 2021;397:1637-45 海外データ
トシリズマブの効果が期待できる状況 HFNC・NIV・人工呼吸器使用中の重症患者 ICU入室24時間以内 副腎皮質ステロイドを併用
トシリズマブの投与方法 トシリズマブ 8mg/kg(max 800mg)を単回投与 各臨床試験では、1回投与で改善が乏しい場合に臨床医の判断で12-24時間後に2回目の投与が許容されているが、その追加投与の効果についての検証が不十分であるため、現時点では2回目の投与は推奨しない 添付文書では、2回目まで使用可能:通常、成人には、副腎皮質ステロイド薬との併用において、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回8mg/kgを点滴静注する。症状が改善しない場合には、初回投与終了から8時間以上の間隔をあけて、トシリズマブ(遺伝子組換え)として8mg/kgを1回追加投与できる。
トシリズマブ投与時の注意点 COVID-19への効果を検討した各RCTでは、標準治療群と比較して細菌・真菌感染症、消化管穿孔、B型肝炎ウイルス・結核菌のreactivationの増加は指摘されていない ただし、副腎皮質ステロイドとの併用で細胞性免疫の低下は懸念されるため、B型肝炎と結核のスクリーニングを検討する 2022年1月21日に酸素投与を要するCOVID-19患者に対するトシリズマブの投与が承認された(投与前の同意書は不要となった)
バリシチニブ
バリシチニブ 経口JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬のひとつであり、関節リウマチに対して使用されている薬剤 免疫調整作用によって、COVID-19による過剰な炎症反応が抑制されることが期待されている ウイルスのエンドサイトーシスを阻害することによって、抗ウイルス活性と感染予防効果をもつ可能性も指摘されている COVID-19に対する保険適用がある薬剤である(2021年4月23日に承認) Lancet Infect Dis. 2020;20:400-2
バリシチニブとレムデシビルの併用 2重盲検のプラセボ対照RCT(ACTT-2試験) 併用 vs レムデシビル単剤 バリシチニブ14日間まで、レムデシビル10日間まで Primary outcome:回復までの時間が1日短縮 (7日 vs 8日) HFNC/NIV使用患者(右図D):10日 vs 18日 28日死亡は有意差なし(5.1% vs 7.8%) 副作用は併用によって増加しなかった ステロイドの使用は原則禁止(両群10%程度で使用) N Engl J Med. 2021;384(9):795-807. 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている 海外データ
バリシチニブ vs デキサメタゾン 二重盲検プラセボ対照RCT(N=1010) ACTT-4試験 対象:呼吸不全のある入院しているCOVID-19 低流量システム、HFNC、NIVを使用中の呼吸不全 両群にレムデシビル(10日間まで) バリシチニブ 14日間 vs デキサメタゾン 10日間 29日までの人工呼吸器free生存は同等(87.0% vs 87.6%) 29日死亡同等(5.5% vs 6.4%) 副作用はDexa群で有意に多かった(感染同等・VTE同等) Lancet Respir Med. 2022 May 23;S2213-2600(22)00088-1. doi: 10.1016/S2213-2600(22)00088-1. 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている 海外データ
COV-BARRIER試験 18歳以上の入院COVID-19患者(1525名)を対象とした二重盲検プラセボ対照RCT(COV-BARRIER試験)、人工呼吸器使用中の患者は除外 バリシチニブ 14日 or 退院まで(早い方) 投与量:4mg/日、eGFE 30-60の場合は2mg/日 約90%が呼吸不全、ステロイド約80%、レムデシビル約20% Primary endpoint:28日以内の呼吸状態の悪化と死亡の複合エンドポイントは同等(27.8% vs 30.5%) Secondary outcome:28日死亡は38%減少(8.1% vs 13.1%) 60日死亡も減少(10% vs 15%) サブグループ解析で、HFNCまたはNIVを使用していた群で、有意に28日死亡が減少した(17.5% vs 29.4%) Lancet Respir Med 2021. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00331-3 全体 HFNC/NIV群 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている 海外データ
Recovery試験 最大規模のオープンラベルRCT@英国 対象患者:8156名(バリシチニブ+標準治療 vs 標準治療) 2歳以上の入院を必要としたCOVID-19患者(eGFR ≧15) バリシチニブ 4mg/日 10日間 or 退院日まで(早い方) 発症から治療開始まで:中央値9日間 酸素投与 67%、NIV(HFNC含む) 24%、人工呼吸器 3% 無作為化時点で、ステロイド投与 95%、トシリズマブ 23%(最終的に26% vs 29%)、レムデシビル20% Lancet. 2022 Jul 30;400(10349):359-368. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01109-6.
Recovery試験 Lancet. 2022 Jul 30;400(10349):359-368. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01109-6.
バリシチニブ投与群で - 28日死亡 13%減少(28日死亡が低下したのは、NIV/HFNC使用していた群) baseline CRPの値はバリシチニブの効果に関連なし トシリズマブ投与あり→28日死亡 介入群14% vs 標準治療群17% Dexa+バリシチニブ+トシリズマブの意義があるかも? バリシチニブ vs バリシチニブ+トシリズマブは不明 メタ解析で、28日死亡 20%減少 Recovery試験 Lancet. 2022 Jul 30;400(10349):359-368. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01109-6.
WHOは3剤併用の選択肢も提示 重症・最重症COVID-19に対して、バリシチニブを投与することを推奨する(strong recommendation) ステロイド・IL-6受容体拮抗薬との3剤併用についても言及(3剤併用してもよい、という記載) Therapeutics and COVID-19: living guideline(WHO)(16/9/2022) https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2022.5
人工呼吸器使用中の患者では? 米国・南米での二重盲検プラセボ対照RCT(N=101)、探索的試験 対象:人工呼吸器またはECMO(3名のみ)使用中の18歳以上の患者 介入:バリシチニブ 4mg/日 14日 ステロイド使用86%、RDVほぼなし Limitation:小規模、baselineの重症度が不明(例:P/Fなどの人工呼吸器設定) Lancet Respir Med 2022. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(22)00006-6 28日死亡 46%減少(39% vs 58%) 60日死亡 44%減少(45% vs 62%) 入院期間、人工呼吸器free日数・有害事象は同等 本研究はギリアド・サイエンシズ株式会社より試験提供を受けている 海外データ
バリシチニブの投与量・投与期間 腎不全患者では減量が必要 - 正常腎機能(eGFR≧60):4mg/日 - 中等度腎機能障害(30≦eGFR<60):2mg/日 - 高度腎機能障害(15≦eGFR<30) :2mg 48時間ごと、または、投与しない 投与期間:14日間 or 退院まで(早い方)
バリシチニブ投与時の注意点 COVID-19対象をする場合は、短期間の使用であり、臨床試験では、長期使用で問題となる感染(結核やヘルペスウイルス属の再活性化を含む)・深部静脈血栓症の増加は見られなかった ただし、副腎皮質ステロイドとの併用で細胞性免疫の低下も懸念されるため、B型肝炎と結核のスクリーニングが検討される
入院患者-人工呼吸器 or ECMO-
推奨される治療 デキサメタゾン(1回6mg 1日1回 10日間)を投与 レムデシビルは、原則使用しない トシリズマブ(8mg/kg 単回投与、最大800mg)またはバリシチニブ(1回4mg 1日1回、最長14日間)の併用を開始する NIH guideline on 8/8/2022
Crit Care. 2022 Oct 8;26(1):308. doi: 10.1186/s13054-022-04185-9. Intensive Care Med. 2022 Jul;48(7):850-864. doi: 10.1007/s00134-022-06726-w. (2022.2-2021.7のスペインデータ)
デキサメタゾンの投与量について
Dexa 6mg/日(中等量)は少ない?? 急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:ARDS)で使用されるメチルプレドニゾロンは、1~2mg/kg/日である 似た画像所見を呈する間質性肺炎(リウマチ関連 or 特発性)では、高用量ステロイドを使用することが多い 体重40kgと100kgの患者に対して同じ投与量でよいのか? 肥満患者と健常人でデキサメタゾンの血中濃度は差はないことを示した薬物動態の研究があるため、肥満患者において、体重による投与量調整は不要であるという意見がある N Engl J Med. 2006;354:1671-84 Chest. 2007;131:954-63 Critical Care 2022;26:60. https://doi.org/10.1186/s13054-022-03941-1
高用量Dexa vs 標準投与量 COVID STEROID 2試験(欧州・インド) 酸素10L/min以上、HFNC・NIV・人工呼吸器管理中の成人COVID-19を対象としたRCT(N=982) 体重の中央値80kg(IQR 68-96)、DM 約30% Dexa 12mg vs 6mg(10日間まで) 28日までの人工呼吸器などのlife supportなしの生存期間を延長させなかった(22.0日 vs 20.5日) 28日死亡・90日死亡は減少傾向となったが、有意差はなかった(27.1% vs 32.3%、32% vs 37.7%) septic shockと侵襲性真菌感染症の増加なし JAMA. doi:10.1001/jama.2021.18295
高用量Dexa vs 標準投与量 フランスの19のICUに入室した重症呼吸不全を呈しているCOVID-19患者に対して、高用量デキサメタゾン(20 mg/日 5日間、その後10 mg/日 5日間)と通常投与量(6 mg/日 10日間)の効果を検討した無作為化比較試験では、主要評価項目である60日死亡は同等(27.0% vs 27.8%)であった JAMA Intern Med. 2022;182(9):906-916. doi:10.1001/jamainternmed.2022.2168
デキサメタゾン以外のステロイドについて
高用量メチルプレドニゾロン 重症COVID-19を対象(SpO2 85%未満が50%程度) メチルプレドニゾロン 2mg/kg/日(5日間、その後半量を5日間) デキサメタゾン 6mg/日を10日間 mPSL群で、症状改善が早まる、入院期間短縮(7.43 ± 3.64 and 10.52 ± 5.47 days)、人工呼吸器使用率低下(18.2% vs 38.1%) 死亡は有意差はなかったが低い傾向(18.6% vs 37.5%) Limitaition:その他の詳細な治療法についての記載なし、小規模(N=86) BMC Infect Dis. 2021 Apr 10;21(1):337. doi: 10.1186/s12879-021-06045-3. 海外データ
ステロイドパルス療法の追加効果なし 二重盲検無作為RCT@イタリア(N=304) 入院しているCOVID-19患者を対象 発症から5日以上(発症からの中央値:8-9日)、呼吸不全あり(P/F=100~300)、CRP 5 mg/dL以上 ※人工呼吸器管理中の患者は除外 標準治療(Dexa 6mg/日 10日間)に、メチルプレドニゾロン 1g/日 3日間 or プラセボを追加 Primary outcome:入院期間(無作為化~酸素投与なしで退院) 30日以内の退院(75.4% vs 75.2%)、入院期間の中央値 15日 vs 16日 ICU入室して人工呼吸器管理 20% vs 16.1%、30日死亡 10.0% vs 12.2% Eur Respir J 2022; in press. https://doi.org/10.1183/13993003.00025-2022
副腎皮質ステロイドのまとめ デキサメタゾン 6mg/日(内服・点滴) 7-10日間(第1選択) 呼吸不全を呈している重症例・最重症例で使用する 肥満成人(例えば100kg以上)で6mg/日が適正かどうか不明 重症例では、12mg/日まで増量してもよいかもしれない メチルプレドニゾロン 1-2mg/kg/日への増量は、状況によって検討してもよいかもしれない(ただし、”使い時”は不明) ステロイドパルス療法は行わない 遷延する呼吸不全に対して、投与期間を延長すべきかどうか不明
その他の治療
抗凝固薬
COVID-19と血栓 入院中のCOVID-19患者では、特にICU入室が必要な重症患者で、深部静脈血栓症/肺塞栓症(静脈血栓塞栓症、venous thromboembolism VTE)の発生のリスクが高い ICU入室患者のVTE:7.2-13.6% 一般病棟患者のVTE:4.2% 無症状者にスクリーニング目的の下肢静脈エコー検査を行うとより高率に見つかる Blood Adv. 2020;4:5373-7 JAMA. 2020;324:799-801 Chest. 2020;158:2130-5 ほとんどの患者は抗凝固療法(予防量)がおこなわれている 海外データ
抗凝固薬は重症例では予防量 ICU入室患者やD-dimer高値のCOVID-19患者を対象とした抗凝固薬の治療的投与と予防的投与の効果を比較したRCTで、治療的投与は死亡などのoutcomeを改善させなかった JAMA. 2021;325:1620-30 Lancet. 2021;397:2253-63 海外データ
ヘパリンの予防投与 入院患者に対して、予防的抗凝固療法を行う 未分画ヘパリン 1回5000単位 1日2回 皮下注射(諸外国では低分子量ヘパリンが使用) 酸素投与終了かつ歩行可能になるまで or 退院まで 低流量酸素が必要なD-dimer上昇のある患者では、抗凝固薬の治療的投与を推奨するガイドラインがあるため、未分画ヘパリンの持続投与(APTTを定期的に確認)も検討される(NIHのガイドラインは、低分子量ヘパリンを推奨しているが、日本では保険適応がないため、使用は難しい) ※DOACはあまり検討されていない:リバロキサバン10mg/日、エドキサバン 30mg/日? VTEが診断された場合は、治療量に増量する 外来患者に対する抗凝固療法は推奨されない Blood Adv. 2021;5:872-88. Blood Adv. 2022 May 3;bloodadvances.2022007561. NIH guideline 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における静脈血栓塞栓症予防および抗凝固療法の診療指針(version 3.0).
抗菌薬について
細菌性肺炎の合併は少ない 細菌感染症の合併:5%未満 ICU入室患者の細菌感染症の合併:11-15% 最重症例を除いて... 抗菌薬の経験的投与は不要なことがほとんどである しかし、抗菌薬の使用率は56-72%と報告されている 1) Clin Infect Dis. 2020 Jul 1;ciaa902. doi: 10.1093/cid/ciaa902. 2) J Infect. 2020 Aug;81(2):266-275. 3) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 22;S1198-743X(20)30423-7. 4) Clin Infect Dis. 2020 Aug 21;ciaa1239. doi:10.1093/cid/ciaa1239. 5) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 31;S1198-743X(20)30450-X. 6) Clin Infect Dis. 2020 May 2;ciaa530. doi: 10.1093/cid/ciaa530. 7) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 22;S1198-743X(20)30423-7.
経験的抗菌薬治療 軽症から中等症COVID-19では抗菌薬は、原則不要 経験的治療の対象 - 画像所見(浸潤影)と炎症マーカー(CRP・PCT上昇)が細菌感染症を示唆する - 高度免疫不全者 - ICU入室患者?(当院ではICU入室のみを理由として抗菌薬投与は行っていない) 治療開始前に、喀痰培養・血液培養・(尿中抗原提出) 抗菌薬選択:市中肺炎ガイドラインに従う(ただし、非定型肺炎カバーは不要) Recommendations for antibacterial therapy in adults with COVID-19 – An evidence based guideline. https://doi.org/10.1016/j.cmi.2020.09.041
しかしオミクロンになってから...
第6波以降の患者の特徴 上気道症状の強い高齢者(ADLが低い、基礎疾患のある患者が大半を占める)が、誤嚥性肺炎などによる呼吸不全のため、入院となることが多い このような患者は、発症2-3日程度で呼吸不全となることが多い CXRやCT画像は、気管支肺炎像またはconsolidationがほとんど(典型的な多発スリガラス影をみることはまれ) 宿主の過剰な免疫反応が発症数日で起こるとは考えにくい
広島県のデータ(BA.1流行期) 第70回(令和4年2月2日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード. 資料3-8. 広島県新型k路ナウイルス感染症版 J-SPEEDデータ等からの知見.
広島県のデータ(BA.2流行期) 第94回(令和4年8月10日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード. 資料3-9. 広島県新型k路ナウイルス感染症版 J-SPEEDデータ等からの知見. 第7波データ分析 発症から3日位内に呼吸不全となる患者が62%を占める。8日目以降に呼吸不全となる患者は少ない。 症状悪化=中等症II・重症・死亡のいずれかの状態に移行すること
発症早期の呼吸不全の原因の鑑別 ウイルス性気管支炎 → レムデシビル ウイルス性肺炎 → レムデシビル(±デキサメタゾン) 市中肺炎(細菌性肺炎)の合併 → 抗菌薬 化学性肺炎・無気肺 → 吸痰 症状(膿性痰)・受診までの経過・画像・治療開始後の経過から原因を考える
当院での現在の中等症IIへの治療方針 発症5日以内(特に3日以内)の呼吸不全の場合は、細菌性肺炎合併による呼吸不全の可能性をまず考える(症状、経過、画像所見から病態生理を考えた上で、治療薬を決定する)。肺炎像がない若年者の呼吸不全も経験することがあるが、それはウイルス性気管支炎をみているのかもしれない。 気管支肺炎像がある場合は、COVID-19は軽症で、細菌性肺炎が合併していると考えて、初期治療は、レムデシビル 3日間と市中肺炎の経験的抗菌薬治療(セフトリアキソン、または、アンピシリン/スルバクタム)で治療開始することが多い。60歳未満の肺炎像がない場合は、レムデシビル単剤で治療開始している。 大半の症例は2-3日程度で呼吸不全は改善する(市中肺炎の通常の治療経過と一致)
呼吸管理
COVID-19に対する呼吸管理 SpO2 94%未満で、酸素投与開始 High-flow nasal cannula(HFNC) Noninvasive ventilation(NIV) 人工呼吸器
High-flow nasal cannula(HFNC) 重症呼吸不全(P/F=100程度)患者の挿管が、酸素マスクより38%減少した(34.3% vs 51.0%)。28日死亡は有意な差はなかったが少ない傾向がみられた(8.1% vs 16.0%)。 Awake prone positioningによって、挿管が25%減少した。 患者の不快感が少ない 当初エアロゾル発生が危惧されていたが、空気予防策を実施すれば、安全に使用可能と考えられており、現在は臨床現場で多用されている Eur Respir J. 2020;56(5):2001154. JAMA. 2021 Dec 7;326(21):2161-2171. doi: 10.1001/jama.2021.20714. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00356-8
High-flow nasal cannula(HFNC) オープンラベルRCT@コロンビア 対象:P/F<200の呼吸不全を呈する重症COVID-19(N=220) HFNC vs 酸素マスク/経鼻カニュラなど Baseline:P/F=105、発症から無作為化 中央値8-10日 Primary outcome 28日以内の挿管:34.3% vs 51.0%(38%減少) 臨床的改善:11日 vs 14日 入院期間、ICU入室期間、14日死亡は同等 28日死亡はHFNC群で低い傾向(8.1% vs 16.0%) JAMA. 2021 Dec 7;326(21):2161-2171. doi: 10.1001/jama.2021.20714. HiFLo-Covid試験
Awake prone positioning 多施設オープンラベルRCT、HFNC使用中の急性呼吸不全を呈するCOVID-19患者を対象 場所:ICU or HCUが95%程度 APPの時間:できる限り頻回かつ長く Primary outcome(28日以内の挿管+死亡):40% vs 46%(14%減少) 8時間以上施行でよい成績(17% vs 48%) 挿管:25%減少、死亡:差なし 合併症増加なし https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00356-8
HFNCの安全性 細菌性肺炎患者の研究やマネキンとスモーク(長径 1µm未満)を使用した実験では、通常の酸素マスクとエアロゾル発生リスクが同等であった 1) 一般病棟のCOVID-19患者に対するHFNCの有用性と安全性(空気予防策で対応)を示した観察研究がある 2) ただし、直接COVID-19患者におけるHFNCによるエアロゾル発生リスクを評価した研究や臨床効果を検討した比較研究はない 3) 1) Eur Respir J. 2020 May 14;55(5):2000892. doi: 10.1183/13993003.00892-2020. 2) Eur Respir J. 2020 Sep 9;2001154. doi: 10.1183/13993003.01154-2020. 3) Can J Anaesth. 2020 Sep;67(9):1217-1248.
当院でのHFNCの使用方法 適応 - 酸素投与5L/分以上でSpO2 93%以下 - 挿管回避の可能性がある 除外基準 - 不穏状態などで、HFNCとサージカルマスクの継続使用不可 使用方法 - 個室(陰圧が望ましい)、空気予防策 - 患者はサージカルマスク着用
NIV(noninvasive ventilation) 当院では、心不全やCOPD急性増悪合併例で使用が検討される - 当初、大量のエアロゾル発生が懸念された →その後特にリスク高いという報告はない - 非COVID-19による1型呼吸不全に対してHFNCよりも治療成績が劣る可能性がある 使用を考慮する場合 - 神経筋疾患やCOPDによって2型呼吸不全を呈している場合 - 心原性肺水腫の場合 N Engl J Med. 2015;372:2185-96.
NIVの効果:CPAPで予後改善 英国で行われたオープンラベルRCT(2020.4.6-2021.5.3)、N=1260 急性呼吸不全を呈したCOVID-19(FiO2 0.4以上、中央値→SpO2 93%、FiO2 0.6、P/F=110)、発症から無作為化まで中央値9日、CPAP modeのPEEP中央値 8.3 cmH2O、どの群もawake prone 60-70%で実施 Primary outcome:30日以内の挿管+死亡 CPAP vs マスク/経鼻カニュラ36% vs 44%(挿管が減少、死亡は同等) HFNC vs マスク/経鼻カニュラ44% vs 45%(効果に差なし) ICU入室期間、入院期間は同等 JAMA. 2022 Feb 8;327(6):546-558. doi: 10.1001/jama.2022.0028. RECOVERY-RS
NIV or HFNC?? 前述のRECOVERY-RS試験では、HFNC<CPAPであった HENIVOT試験(N=109)では、P/F≦200の呼吸不全(baseline P/F=105 vs 102)を呈する重症COVID-19に対するNIV(最初の48時間以上をNIV<PEEP 10-12 cmH2O, PS 10-12 cmH2O>→HFNC)とHFNC(流量 60L/分)の効果を比較(オープンラベルRCT@イタリア)。Primary endpointの28日以内の呼吸サポート(HFNC/NIV/MV)なしの日数は同等。Secondary endpointの28日以内の挿管はNIVで減少(30% vs 51%)。28日死亡・60日死亡・入院期間・ICU入室期間は同等。 ●P/F=100程度の呼吸不全に対して、NIVは挿管を減らすが、死亡は減らさない JAMA. 2021 May 4;325(17):1731-1743.
気管挿管のタイミング その他の呼吸不全を呈する病態と同様である (1)時間単位で急速に呼吸状態が悪化 (2)HFNCで酸素化が保てない(PaO2/FiO2<100が目安) (3)CO2貯留 (4)呼吸筋疲労 (5)意識障害 (6)循環動態不安定 (7)多臓器不全 などを加味して、総合的に判断する
Take Home Messages 病態・発症からの日数を考慮しつつ、エビデンスのある薬剤を使用する 重症化リスクの高い軽症患者では、ニルマトレルビル/リトナビルまたはレムデシビルを使用する 呼吸不全のある入院患者では、デキサメタゾンを全例で投与(ただし、発症1週間以内の呼吸不全の場合は、想定される病態に応じて、抗ウイルス薬または抗菌薬の先行投与を検討する) レムデシビルは、発症早期の重症化リスクの高い軽症患者、または、低流量システムによる酸素投与中の患者がよい対象である HFNC開始時点で、トシリズマブまたはバリシチニブを追加 入院患者には、VTE予防のために未分画ヘパリンの皮下注を行う オミクロン流行前のデータでは、細菌性肺炎の合併は少ないため、経験的抗菌薬治療は不要なことが多かったが、オミクロン流行期の高齢者の入院例では誤嚥性肺炎合併が多い印象がある
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