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ステロイド糖尿病の病態と血糖管理

投稿者プロフィール
けー@代謝内科

総合病院(私立)

47,481

228

概要

副腎皮質ステロイドは、グルココルチコイド作用によって高血糖・耐糖能障害をもたらし、新規発症糖尿病の2%が経口ステロイド投与に関連しています。ステロイド投与時の血糖管理についての理解にお役立ていただければ幸いです。

◎目次

・ステロイド高血糖の頻度

・副腎皮質ステロイドが各臓器に与える影響(糖代謝関連)

・ステロイドによる高血糖の危険因子

・ステロイドの種類ごとのグルココルチコイド作用の違い

・ステロイド投与時の血糖変動

・ステロイド投与時の血糖管理

・ステロイド投与時の血糖管理:薬剤について

・デキサメタゾンを間欠的に投与する場合(抗がん治療など)

・デキサメタゾンを間欠的に投与する場合(インスリン投与の一例)

・Take Home Messages

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医/専門医

参考文献

  • Liu XX, et al. Hyperglycemia induced by glucocorticoids in nondiabetic patients: a meta-analysis. Ann. Nutr. Metab. 2014;65:324–332.

  • Hayashi R et al. Adipocyte GR Inhibits Healthy Adipose Expansion Through Multiple Mechanisms in Cushing Syndrome. Endocrinology. 2019 Mar 1;160(3):504-521 より引用

  • Hu W et al. Individual-specific functional epigenomics reveals genetic determinants of adverse metabolic effects of glucocorticoids. Cell Metab. 2021 Aug 3;33(8):1592-1609.

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テキスト全文

  • #1.

    ステロイド糖尿病 の病態と血糖管理 三苫 けい

  • #2.

    Prednisolone: Synthetic adrenal cortex hormone preparations made from cortisol. Table of contents 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 ステロイド高血糖の頻度 副腎皮質ステロイドが各臓器に与える影響(糖代謝関連) ステロイドによる高血糖の危険因子 ステロイドの種類ごとのグルココルチコイド作用の違い ステロイド投与時の血糖変動 ステロイド投与時の血糖管理 ステロイド投与時の血糖管理:薬剤について デキサメタゾンを間欠的に投与する場合(抗がん治療など) デキサメタゾンを間欠的に投与する場合(インスリン投与の一例) Take Home Messages

  • #3.

    ステロイド高血糖の頻度 副腎皮質ステロイドは、グルココルチコイド作用によって高血糖・耐糖能障 害をもたらす 新規発症糖尿病の2%が経口ステロイド投与に関連している 健康な成人でも、グルココルチコイド内服を開始してから1週間以内に、何 らかのインスリン抵抗性や耐糖能障害を生じうる 1か月以上のグルココルチコイド内服により、32%の症例で一過性の高血糖を 認め、19%の症例で新規に糖尿病を発症した Liu XX, et al. Hyperglycemia induced by glucocorticoids in nondiabetic patients: a metaanalysis. Ann. Nutr. Metab. 2014;65:324–332.

  • #4.

    副腎皮質ステロイドが 各臓器に与える影響 糖産生↑ インスリン抵抗性↑ トリグリセリド合成↑ 肝の脂肪変性↑ 肝臓 食欲↑ 副腎皮質 ステロイド 脳 骨格筋 インスリンシグナル↓ 糖取り込み↓ タンパク分解↑ タンパク合成↓ 膵臓 急性期:インスリン分泌↑ 慢性期:インスリン分泌↓ 糖取り込み↓ 脂肪分解↑ 遊離脂肪酸放出↑ 脂肪組織

  • #5.

    肝に対する影響 肝糖新生が増加する FOXO1 PGC-1α PEPCK G6PC 糖新生 インスリン抵抗性が増加する グルコ コルチコイド IRS1, IRS2 PI3K Akt

  • #6.

    肝に対する影響 インスリン抵抗性 悪循環 代償性高インスリン血症 de novo lipogenesis 肝の脂肪変性 肝のインスリン抵抗性は、代償性高 インスリン血症を生じ、糖質・アミ ノ酸からの新規脂肪酸合成(de novo lipogeneis)を増加させる これにより肝の脂肪変性が進行し、 さらなるインスリン抵抗性を生じる という悪循環を生じる

  • #7.

    骨格筋に対する影響 インスリンシグナルが減弱する IRS1 PI3K Akt グルコ コルチコイド 糖取り込みが減少する GLUT4 Translocation 糖取り込み

  • #8.

    骨格筋に対する影響 筋の異化が亢進し、同化が減弱する Myostatin グルコ コルチコイド Aktリン酸化 FoxO3a mTORリン酸化 4EBP1 eIF4E S6K1 Fbxo32 Trim63 タンパク 合成 タンパク 分解 筋芽細胞 分化

  • #9.

    脂肪組織に対する影響 FFA グリセロール カイロミクロン VLDL グルココルチコイド は、脂肪細胞における FFA/TG代謝の、ほと んどのプロセスに関与 している MGL MG LPL FFA TG LPL グルコース ATGL HS L DG 4 , 1 t Glu FFA: 遊離脂肪酸, DG: ジアシルグリセロール, MG: モノアシルグリセロール, LPL: リポ蛋白リパーゼ, ATGL: 脂肪細胞特異的トリグリセリドリパーゼ, HSL: ホルモン感受性リパーゼ, MGL: モノグリセリドリパーゼ

  • #10.

    脂肪組織に対する影響 グルコ コルチコイド トリグリセリド合成の増加 脂肪細胞分化 血中遊離脂肪酸の増加 脂肪細胞の肥大化 インスリン抵抗性 ただしグルココルチコイドが脂肪 組織に与える影響は、内臓脂肪/皮 下脂肪の違いや、グルココルチコ イドの投与期間によって異なる場 合がある

  • #11.

    脂肪組織に対する影響 グルココルチコイド受容体によってコラーゲン に関連する遺伝子の発現が抑制され、これによ って脂肪細胞への脂肪の蓄積が妨げられている ステロイドは、脂肪細胞のグルココルチコイド 受容体によって、前駆脂肪細胞の増殖を抑制し ている グルココルチコイド受容体は、ATGLによって 脂肪を分解している グルココルチコイド受容体は時計遺伝子Per1を 介して糖取り込みを抑制する Hayashi R et al. Adipocyte GR Inhibits Healthy Adipose Expansion Through Multiple Mechanisms in Cushing Syndrome. Endocrinology. 2019 Mar 1;160(3):504-521 より引用

  • #12.

    ステロイドによる高血糖の危険因子 副腎皮質ステロイドの種類と用量 投与経路(経静脈的、経口、関節注射) 60歳以上 BMI 25以上、内臓脂肪型肥満、高中性脂肪血症 耐糖能障害の既往 HbA1c 6.0以上 糖尿病の家族歴 特定のSNP(一塩基多型) Hu W et al. Individual-specific functional epigenomics reveals genetic determinants of adverse metabolic effects of glucocorticoids. Cell Metab. 2021 Aug 3;33(8):1592-1609.

  • #13.

    ステロイドの種類ごとのグルココルチコイド作用の違い 弱 強※ ヒドロコルチゾン (半減期: 8時間) プレドニゾロン (半減期: 16~36時間) メチルプレドニゾロン (半減期: 18~40時間) デキサメタゾン・ベタメタゾン(半減期: 36~54時間) インスリンを使用する場合は、これらの半減期に合わせて調整を行います (ステロイドの効果持続時間とインスリン効果を合わせるイメージ) ※グルココルチコイド作用の強さ

  • #14.

    ステロイド投与時の血糖変動 ステロイド投与後2〜3時間後に血糖が上昇し、約5〜8時間後に 最高となる 朝食前は低く、食後の血糖値が高い 朝直前、昼食前、夕食前と上昇していく 夜間によく血糖が下がり、朝食前は正常値であることも多い

  • #15.

    ステロイド投与時の血糖管理 ステロイド糖尿病(ステロイド投与前に糖尿病がなかった場合)では、 インスリン以外の抗糖尿病薬の保険適応はない(2型糖尿病にステロ イドが投与されて悪化した場合は、保険適応あり) インスリン療法を行う場合、基礎インスリンよりも追加インスリン を中心に投与する。 ただしデキサメタゾン投与の場合は例外(後述) 基礎インスリンの代わりに、インスリン持続時間に合わせて中間型 製剤(N製剤)や、作用時間が比較的短い基礎インスリン製剤である レベミル を使用するのもよい

  • #16.

    ステロイド投与時の血糖管理 朝にプレドニゾロンを内服すると、午前中から夕方にかけての インスリン抵抗性が増すため、朝・昼の追加インスリンを多く 必要とすることが多い 自己のステロイド分泌が障害されていると早朝低血糖を生じや すいので、夕や眠前に投与するインスリン量を多くしすぎない ように注意する もともとインスリン治療を行っている方がステロイド投与を受 けた場合、ステロイド投与中のインスリン量は通常時の2倍弱 程度となることが多い

  • #17.

    ステロイド投与時の血糖管理:薬剤について ステロイドの血糖上昇作用は非常に強いため、 インスリンでの血糖管理が必要となる場合が多い 経口血糖降下薬での血糖管理が期待できるケース もともと糖尿病がないか、 あっても食事・運動療法のみ で血糖コントロールが良好 ステロイド投与後の空腹時血 糖値が、一日を通して200mg を超えることがない かつ

  • #18.

    ステロイド投与時の血糖管理:薬剤について PSL 10mg/日程度までであれば、GLP-1製剤が著効する場合 がある(私見) SU薬は使用しない(早朝低血糖のリスクが高いため) グリニド薬は使用してもよいが、血糖降下作用を期待するた めにはチアゾリジン薬やメトホルミン、あるいはαグルコシダ ーゼ阻害薬と組み合わせる必要がある SGLT2阻害薬を使用する場合は性器感染症に一層注意する

  • #19.

    デキサメタゾンを間欠的に投与する場合(抗がん治療など) デキサメタゾンによる血糖上昇効果は2~3日間持続するため、 この期間だけインスリン量を増量する プレドニゾロンと違い、1日を通して血糖上昇効果が働く。こ のため、基礎インスリンを使用している場合は、プレドニゾロ ン内服の場合よりも、基礎インスリンを多めに必要とする 早朝空腹時からの高血糖を呈する場合は、インスリン量が足り ていないことが多い

  • #20.

    デキサメタゾンを間欠的に投与する場合(抗がん治療など) インスリン療法の一例 普段の投与量 ヒューマログ 6-6-6 レベミル 0-0-0-6 デキサメタゾン投与期間中の投与量 ヒューマログ 12-12-12 レベミル 10-0-10-0 超速効型インスリンは概ね倍 持効型インスリンは倍より少し多く、24時間カバーするように ※実際の使用にあたっては個別に判断ください

  • #21.

    Take Home Messages ステロイド糖尿病は独特な血糖変動パターンをとる 副腎皮質ステロイドは各臓器に様々な代謝変化をもたらす プレドニゾロンとデキサメタゾンの半減期は覚えておこう 血糖管理の基本はインスリンだが、プレドニゾロン少量なら GLP-1製剤が著効することが多い

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