#4.
低血糖とは
低血糖の症状と対応
ははらが減る
ひひや汗が出る
ふふるえる
へへんな動悸
ほほうっておくと昏睡
対応
1 今できる一番早い方法で糖を供給
・ 口にできて糖質を含むものがあれば何でも
・ブドウ糖静注 (50%ブドウ糖液20cc×2本くらい)
2 補正後も低血糖が続くとき
・5%ブドウ糖液などの持続点滴
・グルカゴン筋注 (1cc )
・経鼻投与のグルカゴン (バクスミー®)
★αグルコシダーゼ阻害薬 (ベイスン ® 、 セイブル®など)
を内服している場合、 経口の補正はブドウ糖のみ!
★おすすめの食品はブドウ糖を多く含む
お菓子のラムネ、ジュースのファンタ
★グルカゴンを投与した後は、 吐き気に注意
#5.
低血糖はなぜいけないの?
心血管イベントの増加
昔々、 糖尿病という血糖値を上げる病気が発見されました。 その後この病気が様々な糖尿病合併症を増加させることが分 かりましたが、いくつかの大規模臨床試験により 「血糖値を改善させることで糖尿病合併症が減少する」 ということも分
かりました。
その後、食後高血糖が心血管イベントを増加させること、それを抑制することが心血管イベントを減少させることなどが
次々と明らかになりました。
次に糖尿病医たちが焦点をあてたのは「どのくらい血糖を下げるのがよいのだろう」 ということでした。
つまり、血糖コントロールの下限を知りたいと考えたわけです。
そこで、いくつかの大規模臨床試験が行われました。 糖尿病界隈では非常に有名な ACCORD試験” がその一つです。 簡単に言うと1その時のガイドライン通りに治療した群と2ものすごく強力に血糖低下を目指す治療を行った群で、
3-point MACE (非致死性心筋梗塞
#6.
低血糖はなぜいけないの?
心血管イベントの増加
ACCORD試験、 ADVANCE試験、VADT試験のまとめ
ACCORD試験は大方の予想を裏切り2の強化した治療群で圧倒的に死亡率が増加したため、 臨床試験は途中で中断されました。
しかし、 同じようなデザインで同時期に行われたADVANCED試験、 VADT試験ではこのような死亡数増加は認められず 「それではこの違いは一体何によって生じたのだろう」という疑問が生じました。
#7.
低血糖はなぜいけないの?
心血管イベントの増加
重症低血糖は、心血管イベントを増加させる!
後の解析によって、 ACCORDの死亡群では重症低血糖 (自分の力だけでは回復できないレベルの低血糖) が多く、 重症低
血糖と心血管事故および死亡との間に強い相関を認めました。 重症低血糖が死亡数増加の原因だったわけです。
それまで「低血糖、 遅るるべからず」 で治療をしていた糖尿病医も多かったのですが、 この研究がパラダイムシフトとな
り、「低血糖は極力避けるべきもの」という理解が一般的になりました。
そうすると、低血糖を起こすリスクはHbA1cだけで推し量れないため、これを契機に「HbA1c値のみでリスク管理を行うの
ではなく、年齢、 現在の治療薬、 脂質、 血圧など様々な要素を含めて個別化した糖尿病治療が重要である」 という考えが主流になってきました。
※一概に、強化した糖尿病治療が悪いということでは、決してありません。 これらの試験をサブ解析した結果、 強化治 療で恩恵を受ける患者群もいる事が分かっています。 今回の主題ではありませんので詳細には触れませんが、 興味のあ る方は”ACCORD, ADVANCED, VADT” などで検索してみて下さい。
#8.
低血糖はなぜいけないの?
交通事故
糖尿病薬を処方する医師が忘れてはいけない問題に、 交通事故の問題があります。
運転中に無自覚性低血糖を起こしたことがある場合は、 免許の取得や更新の時に申告が必要 (道
路交通法施行令第三十三条の二の三) となり、虚偽の申告をして免許を取得・更新した場合には
罰則が適用されます (道路交通法第九十条の一)。
該当する患者さんには、 免許の取得・更新のときには正しく申告するよう指導する必要がありま
す。 このようなことはあまりないと思いますが、患者さんとの信頼関係を損なってでも、 運転を
させていはいけないと判断した場合は、医師が公安委員会に届け出ることができます (守秘義務
の例外として扱われます)。
もし、正しい申告をして免許が失効になった方が無自覚低血糖が起こらなくなり、 免許を再取得
したいという場合には、 失効から3年以内であれば技能試験および学科試験が免除されます。
#9.
低血糖はなぜいけないの?
交通事故
低血糖リスクが高い患者さんを診察した場合は、 下記のような指導を行い、 カルテに
も記載するようにしましょう。
1 運転中に低血糖の気配を少しでも感じたら、直ちにハザードランプを点滅させ、
路肩に寄せて車を停止し対処する
2 運転前に血糖測定を行って対策をとる
3 車内にブドウ糖や糖分を含む食べ物や飲み物を準備しておく
4 空腹時や運動後など血糖値が下がりやすい時間帯の運転ではとくに注意する
5 運転中に無自覚性低血糖を起こす可能性があるならば、 車を運転してはいけないこと
#10.
低血糖はなぜいけないの?
認知機能障害
2型糖尿病患者で認知機能障害が増加することが知られています。 原因は 1高血糖 2 インスリン抵抗性
3低血糖・血糖変動として示唆されていますが、 その中でも低血糖が認知機能障害に関連していることはほぼ明らかとなっています。
逆に、認知症の方は低血糖になりやすいこともあり、 高齢の方ではとくに注意が必要です。
とくに夜間や睡眠時の低血糖は自覚しにくいこともあるため、 高齢者の糖尿病治療ガイドラインではこういった低血糖予防のセーフティーネットとして 「HbA1cの下限」 が設けられるようになりました。
高齢者糖尿病治療ガイドラインでは、患者さんによって目標とするHbA1cの範囲を設定していることも特徴で、 「DASC-8」 というスコアリングシステムを使用し患者さんをカテゴリー1~3に分類しています。
#11.
低血糖はなぜいけないの?
認知機能障害
カテゴリー I
カテゴリーII
カテゴリーIII
患者の特徴・ 健康状態 注1)
1認知機能正常
かつ
1軽度認知障害~軽度 1中等度以上の認知症
認知症
または
2ADL自立
または
2手段的ADL低下,
基本的ADL自立
2基本的ADL低下
または
3 多くの併存疾患や
機能障害
重症低血糖 が危惧され る薬剤(イン スリン製剤,
なし 注2)
7.0%未満
7.0%未満
8.0%未満
65歳以上
75歳以上
75歳未満
SU薬, グリ あり ニド薬など) の使用
8.0%未満
注3)
7.5%未満 8.0%未満
(下限 7.0%)
8.5%未満 (下限7.5%)
(下限6.5%) (下限7.0%)
詳細は触れませんが、 DASC-8はとてもよい指標ですので、興味のある方は検索してみてください。
#12.
低血糖のリスク
低血糖の発生率
● 1型糖尿病成人の軽度低血糖は週に2回程度
・1型糖尿病成人の重症低血糖の年間有病率は約30%
• 2型糖尿病は千差万別
1型
2型
人数
240人
480人
平均年齡
54(41-67) 歳
77 (68-83) 歳
○ 罹病期間、インスリン治療期間が長くなるほど
低血糖が多い
HbA1c
7.5%
6.8%
○ 治療内容などから、低血糖の起こしやすさを
推測することが必要
前駆症状あり
41%
56.9%
中枢神経系の
0.8%
2.9%
後遺症
重症低血糖関連項目の病型別比較
十日本糖尿病学会一糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告 2017
#13.
低血糖のリスク
高リスクな人々
長時間インスリン分泌を促進する薬剤(とくにSU薬)を内服している場合 1/2
インスリン分泌を促進する代表的な薬剤にはグリメピリド (アマリール ®)、 グリベンクラミド (ダオ ニール®)があります。 インスリンが腎排出であるため、 脱水などの腎障害により容易に深刻な低血糖
を生じ得ます。
以下は私見でありエビデンスはありませんが、 SU薬の使い方の目安です。
●
できればグリメピリドは0.5mgまでに控えましょう。
グリメピリド0.5mgでコントロールできない場合は糖尿病専門医に渡してください。
患者さんが低血糖を起こしておらず、これからも低血糖を起こさないという自信があれば1.0mgま で使用してもいいと思います。
・ 何があろうと低血糖にはならないと確信でき、 その他に血糖コントロールを改善する手段がないと
いう場合であれば2.0mgまで使用してもいいと思います。
・いかなる時もグリベンクラミドの処方はお勧めしません。
#14.
低血糖のリスク
高リスクな人々
長時間インスリン分泌を促進する薬剤 (とくにSU薬) を内服している場合2/2
• SU薬による深刻な低血糖は持続時間が長いことも特徴です。 自験例では昏睡から離脱するまで1週
間を要したことがあります。
・グリニド薬は持続時間が短いため、 低血糖を起こしにくいです。 グリニド薬は人によって効き方
が異なることがあるため、 血糖降下の強度を評価することは難しいですが、 飲めばその日から効 果がでます。低血糖が心配な患者さんの場合は、 数錠だけ処方し、次の診察日に食事とグリニド
の内服をしてもらって、 病院で食後血糖を測定すると良いでしょう。
★ただし、 SU薬は悪者ではありません
誤解されがちですが、 SU薬が膵β細胞機能を低下させることはありません。 内因性インスリン 分泌が減少しやすいアジア人の糖尿病患者さんにとって、少量のSU薬はとても有効な場合が多 いです。 安全に適切に使用すればとてもよい薬だと思っています。
#15.
低血糖のリスク
高リスクな人々
インスリン治療を行っている場合
● とくに内因性インスリン分泌が枯渇している方で、 低血糖を生じる頻度が高いことが知られています
・インスリンによる低血糖を生じる可能性があります。 持効型インスリンを普段通り打ったけれど食事をとり損ねた、 などの場合は注意が必要です。
・混合型インスリンで治療している場合、 HbA1cを下げようと思うあまり隠れ低血糖を生じている場合があります。 私見でありエビデンスはありませんが、 30:70のミックス製剤でHbA1c 7.5%以下の場合は、 低血糖が隠れていることを積極的に疑った方がよいと思います。低血糖を疑う場合、 短期間だけでもリブレ ® や Dexcom ® などを用いて血糖値の推移をモニタリングしてみるとよいでしょう。
#16.
低血糖のリスク
高リスクな人々
SU薬とDPP4阻害薬を併用して、 まだ日が浅い場合
・DPP4阻害薬が発売された頃に多くみられた事象です。 SU薬の多くとDPP4阻害薬は相乗効果
があり、想定以上のインスリン分泌を生じる場合があります。
・ この相乗効果は、膵β細胞のEpac2に依存しています。
• SU薬の中で、 グリクラジド (グリミクロン ® ) はEpac2に作用しないため、 DPP4阻害薬との
相乗効果がありません。
・DPP4阻害薬と併用するSU薬とにグリクラジドを選択することで、 想定外の低血糖を起こし
にくくなります(グリクラジド 20mg で、概ねグリメピリド0.5mg と同程度の血糖降下作用 があります)。
#17.
低血糖のリスク
高リスクな人々
β遮断薬を内服している場合
β遮断薬は、交感神経の緊張を抑えて心予後を改善する薬剤です。
• これによって、低血糖による自律神経症状(β1受容体を介した頻脈、 β2受容体を介した振 戦、発汗など) がマスクされ、 出現しにくくなります。
• また、 自律神経刺激によるインスリン拮抗ホルモン (グルカゴンアドレナリン)の分泌
が低下するため、 低血糖からの離脱が遅くなる場合があります。
・ただし、 β遮断薬は心予後を改善するエビデンスが強いので、 心予後が重要な患者さんにと
っては重要な薬剤です。 糖尿病症例においても、 β遮断薬投与をためらう必要はありませ ん。本邦で心不全患者に用いられるのは、β1選択性の高いビソプロロールとaβ遮断作用の あるカルベジロールの2種類ですが、 どちらを選択しても血糖コントロールにほとんど差は
ありません
一応、 糖代謝について両者を比較したGEMINI試験(2004 JAMA)というのがあり、そちらではカルベジロー ルの方が有利でしたが・
#18.
低血糖のリスク
高リスクな人々
低血糖関連自律神経応答障害 hypoglycemiaassociated autonomic failure, HAAF
・無自覚性低血糖の病態はHAAFというものであることが知られています。
・HAAFとは、低血糖を繰り返すたびに、 自律神経における低血糖に対する反応が減弱してしまうという現象です。 低血糖によってHAAFを生じ、 HAAFによって無自覚性の低血糖を生
じるという低血糖の悪循環を生じます。
・ 無自覚性低血糖が起こっても、 その後の対処によっては自覚症状の回復が見込める場合があります。 可能な限り低血糖を回避することで、年齢などによって異なるものの、 おおむね2週間程度で、 低血糖時の自律神経症状が回復し、3カ月後には低血糖の自覚性の完全な回復を期待できる「と報告されています。
| ER. Seaquist et al. Diabetes Care 1 May 2013; 36 (5): 1384–1395.
#19.
糖尿病薬によらない低血糖
低血糖を起こす薬剤
●シベンゾリンなどの抗不整脈、 ニューキノロン
系の抗菌薬は覚えておきたい
抗不整脈薬
シベンゾリン
ジソピラミド
リドカイン
キニジン
抗菌藥
シプロフロキサシン
イソニアジド
・いずれも膵β細胞のKATPチャネルを強制的に閉 向精神薬
ドキシサイクリン
ペンタミジン
ST合剤
降圧薬
エナラプリル
メトプロロール
ナドロール
ピンドロール
鎖しインスリン分泌を生じる
クロルプロマジン
ハロペリドール
イミプラミン
エチオナミド
プロプラノロール
睡眠薬
オキシテトラサイクリン ベンゾジアゼピン系
気管支拡張薬
NSAIDs
●
• リトドリン、 リチウムなど、 通常は血糖上昇にリチウム
働く薬剤でも低血糖を生じ得る
マプロチリン
利尿薬
フェノテロール
テルブタリン
消化性潰瘍治療薬
アスピリン
インドメタシン
抗がん薬
・その他、 αリポ酸を含む健康食品でインスリ
アセタゾラミド
フロセミド
シメチジン
インターフェロンα
ラニチジン
ン自己免疫症候群 (後述)による低血糖を
起こすことがある
抗てんかん薬
フェニトイン
産科薬
抗ヒスタミン薬
オクトレオチド
血管拡張薬
ジフェンヒドラミン
パーキンソン病薬
イソクスプリン
抗凝固薬
リトドリン
セレギリン
ワルファリン
#20.
糖尿病薬によらない低血糖
低血糖を起こす疾患群
・自己免疫性低血糖症
インスリン自己免疫症候群で 血糖値 0mg/dLをみたことがあ るよ。あれはびっくりした〜
○ インスリン自己免疫症候群、インスリン受容体異常症など。 αリポ酸で生じる事がある
・ 反応性低血糖
•
○ インスリン分泌のタイミング ・量と、 炭水化物吸収のタイミングがずれることにより生
じる。診断のため、75gOGTTを3~4時間まで行う事もある。食事指導、 αグルコシダー
ゼ阻害薬などで対応。 胃切除後などでも生じることが多い。
●糖新生の抑制・低下
○ アルコール摂取など
重症腎不全・低栄養
○もう終末期かも・・
CO
ea ea
お酒を飲んだあとは肝の糖産 生が低下するからラーメンが 食べたくなるよね〜
#21.
糖尿病薬によらない低血糖
低血糖を起こす疾患群
・インスリン拮抗ホルモンが低下する疾患
○ 下垂体前葉機能低下症、副腎皮質機能低下症
・インスリノーマ
○ かなり稀。 殆どが単発例だが、 MEN1に注意
・膵外性腫瘍 肝細胞癌、繊維肉腫、横紋筋腫瘍、 消化器癌などの巨大腫瘍
○ IGF-2分泌、ブドウ糖の消費、 肝障害による糖新生・放出の低下による
コルチゾール不足による低血糖を疑ったら朝食前に15分安静でACTH, コルチゾールを測定しましょう。 ここで注意ですが、 ACTHは採血後室温で保存すると分解してしまいます。 速やかに検査室に届けて遠心 分離までの処置をしてもらうようにしましょう。 採血直後から氷水で冷やして検査室に届けるのが理想 です。そのように指示簿に記載しておくとよいです。
このため、ACTHが低値であっても、 検査するまでの条件が悪かったせいで偽の値となる場合があり得る ことに注意してください。
#22.
Take-home Messages
・低血糖で大血管障害・認知機能障害が増加する
糖尿病薬以外による薬剤性低血糖に注意!
• IGF産生腫瘍などの低血糖を起こす疾患群がある
低血糖を自覚するには、 自律神経の働きが重要!