#4.
大切なことは 「ただ訊く」ではなく
ある程度理解して訊くこと
#5.
Outline 日常診察における産婦人科問診の取り入れ方
ライフステージごとに多く見られる女性疾患
#6.
Outline 日常診察における産婦人科問診の取り入れ方
ライフステージごとに多く見られる女性疾患
#7.
症例:25歳 女性 主訴:全身倦怠感
現病歴:1週間前より全身倦怠感を自覚していたが様子を見ていた。なかなか改善しない
ため本日救急外来受診した。
アレルギー歴:なし
内服歴:なし
既往歴:なし
家族歴:実父 糖尿病 実母うつ病
Vital:BT:36.5 BP:100/75 PR:70 SpO2:99%(RA)
身体所見に特記すべき異常なし
#8.
こんな症例が来たらどうしましょう。
この場合のmanagementは中々難しいものがあるでしょう。血液検査で貧血や膠原病などの鑑別を行うか、精神科的な疾患を考慮しコンサルテーション、ないし自分でwork upするか、判断に迷うところでしょう。 なにか良い方法はないのか・・・
#9.
今回の症例のポイント 「若年女性」であること(妊娠可能年齢)
そう、それはすなわち
「女性を見たら妊娠を疑え」 ということ、産婦人科的な問診をしてみると・・・
#10.
症例:25歳 女性 妊娠分娩歴:0妊0産
月経歴:初経12歳 周期整 28-30日間隔 持続期間7日間
量:普通 疼痛:下腹部痛+ 臥床- 鎮痛薬使用-
最終月経:6週間前
Partnerの有無:有 単一 未婚
最終性交渉:1週間前 1回/週程度で定期的 避妊はしていない
#11.
産婦人科問診を追加することで情報量が増え、妊娠がよりらしく考えられるようになりました。
今回の症例では尿による妊娠検査を行い陽性を確認、産婦人科にコンサルテーションされ経腟超音波断層法により妊娠5週の診断となりました。このように問診の項目を追加するだけで一見主訴からは想起することが難しい「妊娠」を診断することができました。 症例:25歳 女性 妊娠6週 「妊娠してるなんてまったく思ってませんでした…」
#12.
今回の症例の主訴は全身倦怠感であり、一見すると妊娠を鑑別に挙げるのは難しいかもしれません。しかし妊娠の初期症状は実は多彩であり、一般的な続発性無月経の他には嘔気嘔吐、頻尿、情緒不安定から体温上昇まで認めています(表1)3)。妊娠の初期症状は多彩であるということを念頭いれておけば、様々な主訴の若年女性に対しても妊娠を想起し産婦人科問診を行うことできるでしょう。 ①妊娠初期症状は多彩である 症例:25歳 女性 妊娠6週
#13.
3) Healthline, Kimberly Holland and Rachel NallEarly. Pregnancy Symptoms: 17 Signs to Look.
Forhttps://www.healthline.com/health/pregnancy/early-symptoms-timeline[2018.03.29] 表1. 妊娠初期症状一覧
※一部改変
#14.
症例:30歳 女性 主訴:発熱、鼻汁、咽頭痛
現病歴:3日前より鼻汁を自覚していた。昨日より咽頭痛、本日になり発熱を認めたため救急外来受診した。
アレルギー歴:なし
内服歴:なし
既往歴:なし
Vital:BT 37.8 BP120/80 PR:77 SpO2:99%(RA)
意識清明
嘔気嘔吐なし
咳嗽なし
咽頭発赤あり白苔なし
前頸部腫脹なし圧痛なし
胸部:肺音 清 左右差なし
#15.
妊娠分娩歴:1妊0産
月経歴:初経13歳 周期整 30-60日間隔 持続期間7日間
量:普通 疼痛:下腹部痛+ 臥床- 鎮痛薬使用-
最終月経:3週間前
Partnerの有無:有 既婚
性交渉歴:不定期 挙児希望あり
不妊治療中:TI療法
「不妊治療中なんですが、飲んじゃいけない薬とかってないんですか?不安なのですが・・・」 症例:30歳 女性
#16.
そんなんしらんがな…(;゚Д゚)
とりあえず薬だすのよしとこ…
#17.
典型的なウイルス性上気道炎の病歴であり、身体所見上も左記に合致する。処方としては解熱薬としてアセトアミノフェン製剤と各種症状に対して漢方薬なども考慮というところでしょうか。今回の症例で産婦人科問診を行ったところ不妊治療中でありました。本人も児に対する影響から内服薬に対してかなり強い不安を感じています。
症例:30歳 女性 不妊治療中
#18.
日本産科婦人科学会によるガイドラインから妊娠中の投与により胎児への催奇形性、胎児毒性を起こす可能性のある薬剤に関して表2にまとめました。薬剤の種類としては決して多くないことがわかります。その他の薬剤に関しても添付文書上有益性投与と記載されていることが多いですが、そのようなときには「薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳 改訂第2版」を使用し決定すると良いでしょう。
②妊娠中に絶対的に禁忌である薬剤は限られている 症例:30歳 女性 不妊治療中
#19.
「薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳 改訂第2版」(伊藤真也,村島温子/著), 南山堂, 2014 エビデンスの解説があり実際の使用の判断をこの書籍をもって行うことも多い。
#20.
大切なことは
正しい知識を持った上で患者さんに説明し合意の上で使用すること
母体の状態悪化は胎児の状態悪化につながる
という点を理解しておくことだと考えます。また薬剤の影響は妊娠週数によっても異なってくるため、産婦人科問診をしっかり行ってくることも重要です。
症例:30歳 女性 不妊治療中
#21.
表2 妊娠中の投与により胎児への催奇形性、胎児毒性を起こす可能性のある薬剤 妊娠初期 妊娠中期・後期 4) 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 編. 産婦人科診療ガイドライン-産科編2017を参考に筆者作成
#22.
症例:28歳 女性 主訴:頭痛
現病歴:1週間前より頭痛を自覚していたが市販の鎮痛薬内服で経過を見ていた。いつもは市販鎮痛薬内服で症状改善見られていたが、本日になっても症状改善しないため救急外来受診した。
アレルギー歴:なし
内服歴:ロキソニン60mg錠
既往歴:片頭痛 虫垂炎(20歳時 手術)
家族歴:実父 肺がん 実母 糖尿病
Vital:BT:36.7 BP:90/65 PR:75 SpO2:99%(RA)
意識清明
嘔気なし嘔吐なし
その他特記すべき異常所見なし
#23.
症例:28歳 女性 妊娠分娩歴:0妊0産
月経歴:初経12歳 周期整 28-30日間隔 持続期間5日間
量:普通 疼痛:下腹部痛+ 臥床- 鎮痛薬使用-
月経前になると頭痛や全身倦怠感を認めることがある
最終月経:3週間前
Partnerの有無:無
性交渉歴:ここ半年以内なし
「生理前になるとなんだか体調が悪くなってイライラします」
#24.
そんなんしらんがな…(;゚Д゚)
とりあえずなんか薬だしとこ…
#25.
症例:28歳 女性 今回の症例では産婦人科問診で月経前になると頭痛や全身倦怠感を認めることがある、という情報を得ました。この点から月経前症候群(Premenstrual syndrome: PMS)が疑われます。
#26.
症例:28歳 女性 診断基準としてはACOGのPMS診断基準(表3)5)があり参考にします。PMSは
「黄体期に続く多彩な精神症状、身体症状で特徴としては月経開始4日以内に減弱、消失する」
ことを特徴とします。
PMSに関連する症状は150種類以上あるとされておりますが、身体症状として腹部膨満感、頭痛、乳房痛が多く、またPMSの女性の約48%に胃腸障害があり、18%がホットフラッシュを自覚しています6)。
これらにより一般内科を受診する症例も多く認めます。 ③月経前症候群(PMS) 5) American College of Obstetrics and Gynecology Practice Bulletin. Clinical management guidelines for Obstetricians-Gynecologists. Obset Gynecol. 2000; 95(Suppl.): 1-9
6) Mortola JF. Clin Obstet Gynecol. 1992; 35: 587-98.
#27.
症例:28歳 女性 本疾患を知ってさえいれば、再現性をもって月経前に認める各主症状ということで鑑別に挙げること自体は難しくないでしょう、逆に知らなかった場合には診断に至らず正しい対応がされないでいることもあります。病態としてはセロトニン作動性ニューロンの黄体ホルモンへの感受性亢進説が有力ですが7)、正確な発症メカニズムは不明とされております。 ③月経前症候群(PMS) 7) Freeman EW. Psychoneuroeuroendocrinology. 2003; 28(Suppl.3): 25-37.
#28.
症例:28歳 女性 治療は日常生活で支障が出るようであれば開始します。まずは疾患に関する正しい情報を患者に伝えることからスタートします。まずは食事指導(アルコール、カフェイン、人工甘味料摂取の制限など)、生活習慣としては禁煙、規則正しい生活、十分な睡眠、適度な運動を定期的に行うことが推奨されています。
また、薬物療法による根本治療としては黄体ホルモン抑制をターゲットとした排卵抑制と選択的セロトニン再取り込み阻害薬投与の2種類があります。排卵抑制はまず挙児希望のない方にのみ適応となりますが、ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠においてPMS症状改善の有効性が報告されています8)。
本症例のように一般内科を受診されたPMS患者を適切managementし産婦人科ないし精神科につなげることが大切です。 ③月経前症候群(PMS) 8) Takeda T, Kondo A, Koga S, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2015; 41: 1584-90.
#29.
表3 PMS診断基準(ACOG 2000) 文献5) より引用
#30.
Outline 日常診察における産婦人科問診の取り入れ方
ライフステージごとに多く見られる女性疾患
#31.
ライフステージにおける頻度の高い女性疾患の紹介 ①20-30代:性感染症 特に若年女性において重要な疾患として、性感染症が挙げられます。
性感染症といえば
性器クラミジア感染症、淋菌、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ
などが多いものとして報告されています。
この中でも全体の7割程度を占める9)性器クラミジア感染症と淋菌に関しては、帯下の悪臭や下腹部痛などを来して受診しますが、無症候性であることが多く、感染に気が付かないまま長い時間を経過している症例も散見されます。 9) 厚生労働省ホームページ「性感染症報告数」(http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html) 「感染症発生動向調査」
※2015年の報告数については概数
(2016年3月現在)
#32.
ライフステージにおける頻度の高い女性疾患の紹介 ①20-30代:性感染症 このような症例がどういった形で見つかるというと、不妊症や異所性妊娠といった疾患として受診します。性器クラミジア感染症は卵管やその周囲に癒着を引き起こし卵管通過障害により不妊症の原因となり、またなんとか受精卵が卵管までたどりついてもそこで生着することにより異所性妊娠という場合によっては致死的にもなりうる疾患を引き起こします。
性感染症は「その後の人生に響く」疾患です、きちんと診断し治療するだけでなく、その後の患者指導まで含めて再発を予防することも重要と考えます。
今回は患者指導の方法としての「5C」(表4)を紹介します。
#33.
表4 性行為感染症の患者指導「5C」 10) Pettifor, A. et al: How effective is syndromic management of STDs?: A review of current studies. Sex transm dis, 27: 371-385, 2000
#34.
性行為感染症の患者指導「5C」 Counsel and educate on risk reduction(感染リスクを下げるための患者教育)
性交渉のパートナーは複数人いると感染リスクが上がること、また1人であっても変更した場合には再度感染リスクが生じることなどを伝える。 Condom promotion(コンドームの使用の推奨)
性感染症予防目的でのコンドームの着用を奨める Compliance with treatment(治療のコンプライアンス)
抗菌薬治療などを含めなるべく処方の回数を減らしたり通院の回数を少なくする治療法を検討する Contacting and treatment partner(パートナーへのコンタクト・治療)
パートナーの治療も奨める、2人同時に治療して以後1-2週間禁欲することが望ましい。パートナー同伴の場合はその場でカルテを作ってもらい処方することもある。 Confidentiality(プライバシーの保護)
性感染症というものには多分にプライベートな背景が含まれており、検査の説明、同意や結果の伝え方などに関してもあらかじめ取り決めおくことが望ましい。
#35.
Topics 「梅毒」 近年、若い女性の梅毒が増えている 2期梅毒 手掌紅斑
#36.
Bull World Health Organ 2013;91:217–226 | doi:10.2471/BLT.12.107623
#37.
未治療の梅毒合併妊娠の新生児予後は悪い ※妊娠初期から管理している場合は基本的に検査を受けるが未受診妊婦なども世の中に存在するため注意が必要。
#38.
ライフステージにおける頻度の高い女性疾患の紹介 ①30-40代:子宮筋腫、内膜症 昨今の少子化により女性の妊娠回数が昔と比べて減少しており、すなわちそれは月経回数が多いということと同義です。子宮筋腫、内膜症は存在したとしても妊娠により月経がなくなることで進行が抑えられる疾患ですが、妊娠回数が減少したことにより子宮筋腫や内膜症が進行しやすいというのが上記疾患が現代病と言われている所以です。 子宮筋腫 内膜症 http://hongkongryuhoujyoka.com/chiryou/sikyukinsyu.html
より転載 http://www.kobiki-clinic.com/
より転載
#39.
ライフステージにおける頻度の高い女性疾患の紹介 ①30-40代:子宮筋腫、内膜症 子宮筋腫は過多月経による貧血、月経困難症、また不妊など様々な主訴を来します。特に過多月経、過長月経の原因となり、それによって生じる貧血は重症することがあり注意が必要です。また不妊を主訴にした場合に子宮筋腫核出術を行うことが多いが母体年齢の高齢化により、子宮筋腫核出術を既往に持つ妊産婦が増加しており11)それにより生じる合併症が問題となってきています。
内膜症に関しては重度の月経困難症を来している場合は生活に支障がでていることも少なくなく、挙児希望の有無などにもよりますが治療介入によりQOLを劇的に改善することもあり、見つけたら早めに産婦人科を受診してもらうことを奨めます。 11) Berkeley et al, Abdominal myomectomy and aubsequent fertility. Surg Gynecol Obstet.156:319-322,1983.
#40.
ライフステージにおける頻度の高い女性疾患の紹介 ①40-50代:更年期障害 日本人の平均閉経年齢は50.5歳であり、その前後5年の10年間を更年期とします。
更年期障害の定義について
「更年期に現れる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、これらの症状の中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害とする」
とされています。12) 12) 日本産科婦人科学会 編. 産科婦人科用語解説集 改訂第3版 2013.
#41.
ライフステージにおける頻度の高い女性疾患の紹介 ①40-50代:更年期障害 更年期症状は多彩であり実に200パターン以上もの主訴があると言われています。そのため産婦人科にとどまらず整形外科や一般内科などを受診する方も少なくありません。上記したように、前提として器質的疾患の除外が必要となることから明確な診断基準は存在しません。更年期障害が疑われる方を診る場合は診断としては、まず甲状腺機能、貧血、肝機能以上、関節リウマチなどの器質的疾患の除外を行った後(表5)13)、簡略更年期指数(simplified menopausal index;SMI)(表6)14)でスコアリングし治療の必要性に応じて産婦人科を受診してもらうようにすると良いでしょう。
また更年期で不定愁訴で来院する女性のうち、最終診断の4分の1はうつ病であったという報告もあり14)、希死念慮などうつ病エマージェンシーの状態である場合も存在することから適格に評価し精神科につなぐことも重要です。 13) 高松 潔, 他. 産婦人科治療. 2013; 95: 1890-6
14) 後山尚久. 産婦人科治療. 2010; 101: 385-92
#42.
ライフステージにおける頻度の高い女性疾患の紹介 ①40-50代:更年期障害 治療としてはホルモン補充療法、うつ病と診断された場合は抗うつ薬による治療、また漢方、食事療法、運動療法など症状により様々な治療法を状況に応じて選択します。治療の詳細に関しては本スライドでの記載は省きますが、ホルモン補充療法ガイドライン201715)をもとに治療を行います。
15) 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会. ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版
#43.
表5 更年期障害の除外診断として考慮すべき主な疾患・病態 13) 高松 潔, 他. 産婦人科治療. 2013; 95: 1890-6
#44.
表6 簡略更年期指数(SMI) 25点以下:「異常なし」、50点を超える:「外来受診を推奨」、66点以上「治療を要する」 14) 後山尚久. 産婦人科治療. 2010; 101: 385-92
#45.
まとめ 女性を診る上で月経や子宮、卵巣などの女性特有の臓器に関する知識を最低限持っていることはとても重要です。産婦人科は初期研修でローテーションしていなければ国家試験以来という方も多いでしょう、そんな場合に苦手意識から無意識のうちに産婦人科的な問診を省いて診察を進めてしまいがちです。本稿で取り上げた症例、疾患は産婦人科的には頻出の疾患であり、どれも月経や生殖内分泌にかかわってくるものたちです、これらの知識があれば産婦人科的な問診の重要性が理解でき意識せずに自然と訊けるようになるのではないかと思います。産婦人科的な問診の意義を理解し的確にアセスメントできるようになるだけで女性に対する診断能力が格段に上がることでしょう。