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インスリン完全トリセツ 〜研修医が当直で絶対困らないための処方・調整マニュアル〜

投稿者プロフィール
三浦正樹 糖尿病専門医・指導医

医療法人鉄蕉会亀田総合病院

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476

投稿した先生からのメッセージ

研修医の先生方、当直でインスリン指示に困ったことはありませんか?

「血糖400のコールが来た」「明日手術の患者のインスリンどうする?」「スライディングスケールだけで本当に大丈夫?」——そんな場面を想定して、糖尿病専門医が1冊にまとめました。

BBI の組み立てから責任インスリン法、低血糖対応、ステロイド・絶食・TPN まで、当直で実際に使える内容に絞っています。ADA 2026 の最新変更点(血糖目標の更新・SSI 単独が Evidence A で非推奨)も反映済みです。

最後のチートシート2枚は印刷してポケットに入れておくと便利です。

質問・フィードバックは Antaa QA または X(@DrMiura_Obesity)までお気軽にどうぞ。

概要

インスリン療法は「なんとなく」では危険な処方のひとつです。本スライドは、研修医・若手医師が当直や病棟で即使えるよう、ADA 2026最新ガイドラインに基づいて体系的に解説した実践マニュアルです。

【目次】

・インスリンの種類を10分で完全理解(超速効型・速効型・持効型・混合型)

・入院患者の血糖管理フロー(目標値・経口薬の扱い・SSIの位置づけ)

・BBI(Basal-Bolus Insulin)の組み立て方と初期量計算

・責任インスリン法:基礎は「絶対値」、Bolusは「差(Δ)」で調整

・当直で困る特殊場面(低血糖・絶食・ステロイド・シックデイ・TPN)

・研修医あるあるQ&A(血糖400・SSI指示・チルゼパチド併用・コール基準)

・ADA 2026アップデート(血糖目標・SSI Evidence A非推奨・CGM・SGLT2i・周術期)

・当直チートシート2枚(印刷してポケットに)

【対象】研修医・若手医師・コメディカルスタッフ

【参考】ADA Standards of Care 2026 / RABBIT 2 Trial / 日本糖尿病学会ガイドライン2024

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医

参考文献

  • ADA Standards of Medical Care in Diabetes 2026. Diabetes Care 2026;49(Suppl.1)

  • Umpierrez GE, et al. Randomized study of basal-bolus insulin therapy in the inpatient management of patients with type 2 diabetes (RABBIT 2 trial). Diabetes Care 2007;30:2181-2186

  • NICE-SUGAR Study Investigators. Intensive versus conventional glucose control in critically ill patients. N Engl J Med 2009;360:1283-1297

  • Pasquel FJ, et al. Insulin glargine U-300 versus U-100 in hospitalized patients with hyperglycemia. Diabetes Care 2020;43:1947-1954

  • 日本糖尿病学会. 糖尿病治療ガイド2024-2025. 文光堂

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テキスト全文

インスリン完全トリセツの概要と目的

#1.

研修医のための インスリン完全トリセツ ~研修医が当直で絶対困らないための処方・調整マニュアル~ BBI 導入 責任インスリン法 ADA 2026 最新版 BBIを自力で組み立てられる 責任インスリンδ法で血糖調整できる 低血糖・ステロイド高血糖に即対応 SSI単独NGの理由をエビデンスで語れる 三浦正樹 糖尿病専門医・指導医 亀田総合病院 糖尿病内分泌内科 2026年4月 低血糖・ステロイド

#2.

こんな場面で困っていませんか? ① 当直中に「血糖400です」コール → どうする?何から確認する? ③ ステロイドパルス開始、血糖300超え → 何を使う?いつ打つ? ② 明日手術の患者、インスリン指示は? → 持効型は継続?超速効型は中止? ④「スライディングスケールで」の指示 → これだけで本当に大丈夫? このスライドで全体像と実践ポイントを整理します

#3.

このスライドで学べること ☐ インスリン6分類の使い分けが即答できる ☐ 入院患者のBBI(Basal-Bolus Insulin)を自分で開始できる ☐ 責任インスリン法でインスリン量を正確に調整できる ☐ 当直で低血糖・高血糖に迷わず対応できる ☐ SSI単独がダメな理由をエビデンスで説明できる 対象:研修医・若手医師(コメディカルにも全体像の理解に有用)

インスリンの種類と作用時間の比較

#4.

第1章 インスリンの種類も10分で完全理解

#5.

インスリン分泌の生理 基礎分泌(Basal) 〉24時間持続して分泌 〉肝臓からの糖放出を抑制 〉空腹時血糖を規定 追加分泌(Bolus) 空腹時 ↓ 基礎分泌のみ(持続) 食事摂取 ↓ 追加分泌 急上昇 食後1~2時間でピーク ↓ 正常化 〉食事に反応して急峻に分泌 〉短時間で大量放出 〉食後血糖を規定 この2つを薬で再現するのが Basal-Bolus Insulin(BBI)療法

#6.

インスリン製剤 6分類 作用時間比較表 分類 代表的製剤 発現 ピーク 持続 超速効型 ノボラピッド、ヒューマログ、アピドラ 10~20分 1~3時間 3~5時間 速効型 ヒューマリンR、ノボリンR 30分~1時間 1~3時間 5~8時間 中間型 ヒューマリンN、ノボリンN 1~3時間 4~12時間 18~24時間 持効型溶解 トレシーバ、ランタスXR 1~2時間 ピークほぼなし 24h超~42h以上 混合型 ノボラピッド30Mix 等 10~20分 二峰性 終24時間 配合溶解型 ライゾデグ 10~20分 1~3h+持続 42時間以上 入院で最も使う組み合わせ:持効型(基礎)+ 超速効型(追加)= BBI

超速効型と速効型インスリンの違い

#7.

超速効型 vs 速効型:何が違う? 超速効型(病棟の主役) ・発現:10~20分 ・食直前に投与でOK ・例:ノボラピッド、ヒューマログ → 通常の入院管理はこれ 速効型(特殊用途) ・発現:30~60分 ・食30分前投与が必要 ・例:ヒューマリンR(ICU持続静注) → 食直前投与では効果が遅れる 速効型の食直前投与は作用が遅れ、食後高血糖を見逃す原因になる 病棟では超速効型の食直前投与が基本。高齢・術後・悪心では食後投与も検討

#8.

持効型インスリン:基礎を支える柱 トレシーバ(デグルデク) ・半減期:終25時間 ・投与時間のずれに非常に強い ・1日1回、時間が多少ずれてもOK ・持続:42時間以上 ランタスXR(グラルギンU300) ・通常ランタス3倍の濃度 ・皮下からの吸収がさらに緩徐 ・1日1回眠前 ・持続:36時間以上 入院ではトレシーバ・グラルギン(ランタス/ランタスXR)が広く使用される 共通:ピークほぼなし → 低血糖を起こしにくい特徴。但し過量では低血糖に注意

#9.

混合型の落とし穴 代表製剤 ノボラピッド30Mix ヒューマログMix50 ライゾデグ (基礎+追加が1本) 落とし穴① 比率が固定されている ・基礎と追加の割合を個別に調整できない ・食事量・体調変化に対応しにくい 落とし穴② 懸濁液は混和が必要 ・投与前に10回転倒混和が必要 ・混ぜ忘れ → 効果にムラが生じる 落とし穴③ 入院中の細かい管理が困難 ・食事量が不安定な入院患者には不向き 入院時に混合型を漫然と継続しない。BBI(持効型+超速効型)への切り替えを検討

#10.

SSI単独はもう卒業しよう RABBIT 2 Trial(Umpierrez, Diabetes Care 2007) 指標 BBI群 SSI群 P値 平均血糖 166±32 mg/dL 193±54 mg/dL <0.001 BG<140 mg/dL 達成割合 66% 38% <0.001 治療失敗(BG>240×2回連続) 0% 14% — 低血糖(<70 mg/dL) 3% 3% ns ADA 2026 Rec 16.10(Evidence A):大多数の入院患者でbasalなしSSI単独の継続は推奨しない。 軽症・短期例では一時使用は許容 正しい位置づけ:SSIは短期パターン把握+補正のみ。持続高血糖にはbasalを含むレジメンへ Umpierrez GE, et al. RABBIT 2 Trial. Diabetes Care 2007;30:2181-2186 / ADA Standards of Care 2026, Sec.16

入院患者の血糖管理フローとアセスメント

#11.

第2章 入院患者の血糖管理フロー

#12.

入院時アセスメント 3ステップ Step 1:食事は可能か? 経口摂取可能 → 毎食前+眠前の血糖測定 / 絶食 → 6時間毎の血糖測定 Step 2:既存のインスリン・経口薬は? 種類・用量・最終投与時刻を確認。入院前の処方を必ず把握する Step 3:腎機能は? eGFR<30 or Cr≧2.0 mg/dL → インスリン必要量が減少、減量が必要 持続する高血糖(目安:180 mg/dL超が続く)→ インスリン導入を検討(ADA 2026)

#13.

血糖測定タイミングの決め方 経口摂取可能 ・毎食前(朝・昼・夕) ・眠前 ・= 1日4検 ・必要に応じ食後2時間も追加 絶食中 ・6時間毎(0時・6時・12時・18時) ・= 1日4検 ・低血糖リスク高い場合は4時間毎に 状況 追加測定のタイミング 低血糖症状(冷汗・動悸・ふるえ) 随時・即時 インスリン変更後 変更後24~48時間は毎食前 ステロイド開始直後 昼~夕方に追加 低血糖症状があれば随時追加測定。BG<70 なら即時対応

#14.

スライディングスケール(SSI)の正しい位置づけ SSI単独 ≠ 「インスリン治療」 SSIは短期間の血糖パターン把握+補正のみ SSI開始 (1~2日) → 空腹時BG≧1·60 mg/dL が1日2回以上? → 3日以内に BBIへ移行判断 SSI単独を長引かせない。持続する高血糖では correction-only を早期に見直す 「施設実践目安」空腹時BG ≧ 160 mg/dLが1日2回以上 → 3日以内にBBI移行を上級医に提案 「RABBIT 2 Trial でBBI群の治療失敗率 0% vs SSI群 14%。basalなしSSI単独の長期継続は原則避ける」

BBI初期量の計算と食事量不安定時の対応

#15.

BBI初期量の計算方法 以下は施設で使いやすい実践目安。高齢・腎不全・摂食不良・ステロイド使用では個別調整 1日総インスリン量(TDD)= 体重 × 係数(目安) 患者タイプ 係数(目安) 痩せ型・高齢(≧70歳)・腎不全(Cr≧2.0) 0.2 単位/kg 通常 0.3 単位/kg 肥満(BMI≧30)・ステロイド使用 0.4 単位/kg 基礎(持効型) 追加(超速効型) = TDD × 50% が目安 → 眠前1回投与 = TDD × 50% ÷3 → 毎食前投与 例:60kg・通常 → TDD = 18単位 → 基礎 9単位(眠前)+ 追加 同3単位(毎食前) ※高度肥満・高用量ステロイドではさらに増量が必要なことがある。必ず個別調整

#16.

食事量が不安定な場合:「食後打ち」 対象:高齢者・術後・悪心あり・摂食量が読めない患者 全量摂取 → 通常量(規定量)を投与 半量摂取 → 超速効型を 半量(規定量 ÷ 2)に減量 摂取なし → 超速効型はスキップ(基礎は継続) 食後打ちは高齢者・術後・悪心ありの患者に有用 基礎インスリン(持効型)は絶食でも継続が原則。1型は必ず継続、2型は個別調整

#17.

経口薬の入院時対応:継続 or 中止? 薬剤 入院時 主な理由 メトホルミン 中止 造影剤・腎機能変動・乳酸アシドーシスリスク SU剤(グリメピリド等) 中止 遅延性低血糖リスク・食事量不安定 SGLT2阻害薬 中止(原則) 脱水・正常血糖DKAリスク。心不全適応なら継続可(ADA 2026) DPP-4阻害薬 継続可 低血糖リスク低い(軽症例・腎機能正常なら) GLP-1受容体作動薬 症例による 術前は中止基本(胃排泄遅延→誤嚥リスク)。麻酔科方針に従う チアゾリジン糸 症例による 浮腫・心不全リスク・重症例では中止 重症・絶食・周術期・腎機能変動では中止寄り。軽症で安定した例は薬剤ごとに個別判断

#18.

血糖コントロール目標値(ADA 2026) 一般病棟 ICU 目標:100~180 mg/dL 目標:140~180 mg/dL ・食前 < 140 mg/dL が理想 ・随時 < 180 mg/dL が理想 ・ADA Standards 2026 推奨(Rec 16.4b) ・インスリン持続静注(ヒューマリンR)で管理 ・1~2時間毎に血糖測定 110 mg/dL未満を目指す超厳格管理は 厳格すぎる管理は低血糖リスクを増やす <110 mg/dLの超厳格管理は不利益。NICE-SUGAR Trial(NEJM 2009)で厳格管理群の 90日死亡率増加を認めた Finfer S, et al. (NICE-SUGAR Study). NEJM 2009;360:1283-1297 / ADA Standards of Care 2026, Sec.16

インスリン導入・調整の実際と注意点

#19.

第3章 インスリン導入・調整の実際

#20.

外来でのインスリン導入:判断基準 1️⃣ HbA1c目標に対し多剤併用でも未達成 → インスリン導入を強く検討 2️⃣ 空腹時血糖が持続的に ≧ 160 mg/dL 3️⃣ 糖毒性解除が必要(著明高血糖で発見・HbA1c ≧ 10%以上) 4️⃣ 1型糖尿病(絶対適応) 導入前チェック:自己注射能力・低血糖の理解・フォロー体制 独居・認知機能低下・視力障害 → 手技確認・家族同席・訪問看護との連携

#21.

Treat-to-Target:基礎インスリンの増量ルール (外来・退院後Basal Titrationの考え方) 1 持効型を眠前に開始(ランタス:0.1~0.2単位/kg から) 2 早朝空腹時血糖を毎日測定・記録する 3 目標 80~130 mg/dL に達するまで調整 目標超え(空腹時≧130) → 2単位ずつ増量 (数日~1週ごと) 目標下回り(空腹時<80) → すぐに2単位減量 総量10単位未満のときは1単位ずつ増減。急な変更は低血糖を招く Riddle MC, et al. (INSIGHT Study). Diabetes Care 2003;26:3080-3086 / ADA Standards of Care 2026, Sec.9

#22.

追加インスリン(超速効型)の調整 判定タイミング:食後2時間 または 次の食前血糖 高すぎる場合 低すぎる場合 食後2時間BG > 200 mg/dL 継続 または次食前血糖が高め 低血糖(< 70 mg/dL)発生 または次食前血糖が低め → 責任インスリンを 1~2単位増量 → 責任インスリンを 1~2単位減量 「でも...どの食前インスリンを変えればいいの?」 → 次のスライドで「責任インスリン法」を徹底解説! 変更後は 2日間は同量で様子を見るのが原則

責任インスリン法とその落とし穴

#23.

★ 責任インスリン法:基礎は「絶対値」、Bolusは「差(Δ)」 鉄則:まず基礎(持効型)を合わせてから、Bolus(超速効型)を評価する ①「基礎」持効型 — 空腹時血糖の「絶対値」で判断 ②「Bolus」超速効型 — 食前血糖の「差(Δ)」で判断 目標:80~130 mg/dL 目標超え → 2単位増量 目標下回り → 2単位減量 食間・夜間の血糖を一定に保つ役割 → 区間のΔ Δの意味 対応 朝前→昼前 のΔ↑ 朝食時Bolus不足 朝食時を増量 朝前→昼前 のΔ↓ 朝食時Bolus過多 朝食時を減量 昼前→夕前 のΔ↑ 昼食時Bolus不足 昼食時を増量 昼前→夕前 のΔ↓ 昼食時Bolus過多 昼食時を減量 夕前→眠前 のΔ↑ 夕食時Bolus不足 夕食時を増量 夕前→眠前 のΔ↓ 夕食時Bolus過多 夕食時を減量 目標:Δ ≈ 0(食前血糖がフラット) 1回の高値で即変更しない。2~3日のパターンで判断。変更後は2日間同量で固定 日本糖尿病学会. 糖尿病治療ガイド2024-2025 / ADA Standards of Care 2026, Sec.9

#24.

責任インスリンの落とし穴:ソモジー効果 vs 暁現象 ソモジー効果(Somogyi) 暁現象(Dawn Phenomenon) 夜間に低血糖が起きる → 反動で早朝高血糖 深夜2~3時の血糖が「低い」 低血糖を感知 → ホルモン反応で血糖上昇 ホルモン変動で早朝に血糖上昇 低血糖は起きていない 深夜2~3時の血糖が「正常~やや高め」 成長ホルモン・コルチゾール分泌↑ 対応:眠前持効型を「減量」 対応:眠前持効型を「増量」 「早朝高血糖 = 持効型増量」は危険な思い込み! → Somogyi効果は古典的概念で議論あり。CGMまたは深夜2~3時血糖で夜間低血糖を確認してから判断

#25.

補正インスリンの翌日繰り込み(アルゴリズム法) SSIとの違い → SSIは「後出しじゃんけん」、アルゴリズム法は「先手を打つ」 1 毎食前に補正インスリン(スケール分)を必要に応じて投与 2 翌日、前日の補正量を「責任インスリンの基本量に加算」 3 変更後は 2日間は同量 で様子を見る(頻繁な変更禁止) 計算例:昨日の昼食前補正が +4単位だった → 今日から昼食前の基本量を4単位増量(補正をゼロに戻す) → 2日間はこの量で固定して血糖パターンを再評価 SSI=後手、アルゴリズム法=先手。これが決定的な違い

#26.

インスリン離脱のタイミング インスリンは「一生続けるもの」ではない。2型ならタイミングを見て離脱を検討 離脱を検討するサイン 切り替え先の候補 ・HbA1c が改善・目標域に到達 ・TDDが 20単位以下 に減少 ・食後血糖が安定化 ・内因性分泌残存:CPR index ≧1.2 (参考所見・施設差あり) ・DPP-4阻害薬(低血糖リスク低い) ・GLP-1受容体作動薬(体重減少効果あり) ・SGLT2阻害薬(心腎保護効果あり) ・GIP/GLP-1 RA(体重管理も必要な場合) 離脱を焦らない。糖毒性解除に通常 2~4週間 必要 1型糖尿病・膚性糖尿病・LADA は原則インスリン継続(離脱不可)

特殊場面での血糖管理フロー

#27.

第4章 当直で困る!特殊場面の完全フロー

#28.

低血糖対応フロー 血糖 < 70 mg/dL 意識あり・経口可能 意識障害・経口不可 ブドウ糖 15g 経口投与が目安 (ブドウ糖錠5g×3錠 or 150mLジュース) ↓ 15分後 再検 改善なければ再度15g / 施設プロトコルに従う ↓ 回復後も原因除去まで観察 50%ブドウ糖液 40mL(=20g)静注 ↓ 5%ブドウ糖液で持続点滴 ↓ 15分後 再検・意識確認 必要に応じ追加静注 SU剤(グリメピリド等)による低血糖は遅延する → 必ず入院+持続点滴+頻回測定 ADA Standards of Care 2026, Sec.6 / 日本糖尿病学会. 糖尿病治療ガイド2024-2025

#29.

低血糖の原因検索チェックリスト ☐ インスリン過量投与(単位数の確認・処方ミス) ☐ SU剤の蓄積(特に高齢者・腎機能低下患者) ☐ 食事量減少・欠食(食事摂取量を看護師に確認) ☐ 副腎不全の合併 (低血糖+低Na+低血圧 → 要注意) ☐ 腎機能悪化(インスリンクリアランス低下) ☐ アルコール摂取(糖新生阻害による低血糖) 原因不明の低血糖を繰り返す → インスリノーマ・副腎不全を鑑別 72時間絶食試験・コルチゾール測定を検討

#30.

絶食・術前のインスリン指示 製剤 絶食・術前の対応 理由 持効型(ランタス等) 継続(1型:必ず/2型:前夜量 70~80%目安) 基礎分泌の代替は必要 超速効型(ノボラピッド等) 混合型 経口薬 血糖測定 全中止 BBIへ切替後に絶食管理 全中止(原則) 6時間毎 + 補正スケール設定 食事摂取なしで投与→低血糖 混合型のまま絶食管理は困難 低血糖・乳酸アシドーシス等 絶食中も血糖変動を監視 鉄則:基礎(持効型)は「止めない」、追加(超速効型)は「止める」 ADA Standards of Care 2026, Sec.16 / Joshi GP, et al. Anesth Analg 2010;111:1378-1387

医療事故から学ぶインスリンのヒヤリハット

#31.

ステロイド誘発高血糖:パターンと対応 ステロイド(朝1回投与)の血糖パターン → 午後~夕方にピーク 軽度 中等度 重度/パルス BG 200~250 mg/dL BG 250~350 mg/dL BG > 350 mg/dL 昼・夕の超速効型追加 BBI開始+昼夕ボーラス増量 積極的BBI 6時間毎血糖測定 ステロイド減量に合わせてインスリンも減量。テーパリング中の低血糖に注意 ステロイド 血糖上昇の特徴 主な対応 プレドニン 朝1回 昼~夕の食後高血糖 昼・夕の超速効型を増量/追加 ステロイドパルス 著明な終日高血糖 積極的BBI+6時間毎測定 Umpierrez GE, et al. J Clin Endocrinol Metab 2012;97:4031-4038 / ADA Standards of Care 2026, Sec.16

#32.

シックデイ・TPN中の血糖管理 シックデイルール ・基礎インスリン → 継続 ・超速効型 → 食事量に応じて減量 or スキップ ・水分摂取を促す(脱水予防) ・血糖・ケトン体を頻回チェック TPN中の血糖管理 ・方法1:TPN内にヒューマリンR混注 (ブドウ糖10gにつき1~2単位)(初期目安の一例) ・方法2:持効型皮下注 + 補正スケール ・血糖測定:6時間毎 TPNインスリン量は前日必要量・感染・ステロイド・既存糖尿病の有無で個別調整する。上記は初期目安の一例 1型のシックデイでインスリン中止 → DKAの最大原因 TPN突然中止 → 低血糖リスク。インスリンも同時に減量・中止すること

#33.

医療事故から学ぶ:インスリンの3大ヒヤリハット ヒヤリハット① 血糖400でいきなりインスリン投与 DKA/HHSの可能性あり。まず血液ガス・ケトン体確認が最優先 ヒヤリハット② 絶食中に超速効型をそのまま投与 食事摂取なしで打つと低血糖。絶食時は超速効型を中止・基礎は継続 ヒヤリハット③ SU剤を入院後も漫然と継続 食事量不安定+腎機能低下 → 遅延性低血糖。入院時は原則中止 インスリン事故の多くは「確認不足」と「想定外の食事量変化」で起きる

#34.

第5章 研修医がつまずくQ&A

当直時の血糖管理とチートシート

#35.

Q1:当直中に血糖400超えのコール。何から始める? 「またDKA/HHSを除外」が最優先。インスリンを打つ前に血液ガスを確認する やってはいけない対応 「血糖高いからとりあえず速効型10単位」 ・DKA → 補液・電解質補正が優先 ・HHS → 急速な血糖低下で脅浮腫リスク ・原因不明のまま投与 → 重症化 正しい対応手順 1. バイタル確認(意識・脱水・呼吸) 2. 血液ガス採取(pH・HCO₃・AG) 3. ケトン体・浸透圧確認 4. DKA/HHS → プロトコル通り補液優先 5. 単純高血糖 → BBI調整 DKAの治療の柱:① 補液(生食) ② インスリン(持続静注) ③ 電解質補正(K+補充)

#36.

Q2:「スライディングスケールで様子見て」と言われた 正しい対応ステップ 1 軽症・短期入院ならばSSIで短時間の血糖パターン把握はありうるが、持続高血糖では 早期basal含むレジメンを検討する 2 空腹時BG ≧ 160 mg/dLが1日2回以上 → BBIへの移行を上級医に提案 Step 3:提案時のセリフ例 「RABBIT 2 Trial(Diabetes Care 2007)で、BBI群はSSI群より 平均血糖が 27 mg/dL低く、治療失敗率も 0% vs 14% でした。 ADAもbasalなしSSI単独の長期継続は原則避けるとしています。 BBIへの切り替えを検討しませんか?」 エビデンスを添えて提案すれば上級医も納得しやすい Umpierrez GE, et al. RABBIT 2 Trial. Diabetes Care 2007;30:2181-2186 / ADA Standards of Care 2026, Sec.16

#37.

Q3:チルゼパチドとインスリンが同時処方。注意点は? チルゼパチド(マンジャロ® / ゼップバウンド®)= GIP/GLP-1受容体作動薬 注意点 具体的対応 ① 低血糖リスク上昇 インスリン(特にSU剤併用時)を 20~30%減量 検討 ② 消化器症状 悪心・嘔吐で食事量↓ → 超速効型が過量になりやすい ③ 急速な血糖改善 用量漸増期に血糖が急に下がる → インスリン減量タイミングを逃さない チルゼパチド開始・増量時は「インスリン量の見直し」を必ずセットで行う Ludvik B, et al. (SURPASS-5). Lancet 2021;398:583-598 / Philis-Tsimikas A, et al. (SURPASS-3). NEJM 2021;385:1478-1490

#38.

Q4:主治医に連絡すべき血糖値の基準は? 信号機ルール(当直時の判断基準) レベル 基準 対応 緑(経過観察) BG 100~250 mg/dL・無症状 プロトコル通り対応 黄(報告推奨) BG < 70(低血糖) BG > 250 × 2回連続 補正インスリン ≧ 8単位/回 日勤帯に主治医へ報告 赤(即時連絡) BG < 50 mg/dL BG > 400 mg/dL 意識障害を伴う血糖異常 ケトン体陽性 今すぐ当直医・主治医コール この基準は施設ごとに異なります。自施設のプロトコルを必ず確認してください

#39.

第6章 まとめ & チートシート

#40.

インスリン当直チートシート ① — 種類・導入量・責任インスリン インスリン種類クイックリファレンス 分類 代表製剤 発現 持続 用途 超速効型 ノボラピッド/ヒューマログ 10~20分 3~5h 食前ボーラス・補正 速効型 ヒューマリンR 30~60分 5~8h 持続静注(ICU) 1~2h 24~42h 基礎インスリン 持効型BBI初期量計算 ランタス/トレシーバ TDD = 0.2~0.4 単位/kg → 基礎50%(眠前) + 追加50%÷3(毎食前)【目安】 高齢・腎不全→0.2 / 通常→0.3 / 肥満・ステロイド→0.4 責任インスリン:基礎は絶対値、Bolusは差(Δ)で調整 区間のΔ(Bolus)/空腹時(基礎) Δ↑(上昇)→増量 Δ↓(低下)→減量 朝前→昼前 朝食時を1~2単位↑ 朝食時を1~2単位↓ 昼前→夕前 昼食時を1~2単位↑ 昼食時を1~2単位↓ 夕前→眠前 夕食時を1~2単位↑ 夕食時を1~2単位↓ 早朝空腹時(目標80~130) 持効型を2単位↑ ′2~3日のパターンで判断 / 変更後は2日固定 / 早朝高血糖は深夜血糖で暁現象・夜間低血糖を鑑別 低血糖対応・絶食時の鉄則・当直コール基準はチートシート②へ 持効型を2単位↓

#41.

インスリン当直チートシート ② — 低血糖・絶食時・コール基準 低血糖対応(BG < 70 mg/dL) 状態 治療 意識あり ブドウ糖10g(ジュース150mL与える等)経口 → 15分後再検・回復なければ再投与 意識低下/経口不可 50%グルコース40mL静注(必要なら繰り返し) → 低血糖原因を検索 持効型由来の低血糖は長時間続く→点滴指示・入院加等検討。大副・上級医に必ず報告 絶食時の鉄則 当直コール基準 基礎(持効型) → 継続(絶対中止しない) BG 100~250 mg/dL 追加(超速効型) → 食事なければ中止 経過観察でOK 経口薬 → 病態に応じて個別判断 (SU剤:満鉄中止 / メトホ:内視鏡後48h中止) 血糖測定:結果を必ず確認・記録する BG < 70 または > 250 × 2回 当直医に報告 初期導入の黄金ルール BG < 50、> 400、意識障害 インスリンは「基礎が先、Bolusは後」 / 低血糖は「原因を探れ」 / 1回の血糖値で即変更しない 即庁くコール

#42.

参考文献 & 関連スライド 1. Umpierrez GE, et al. RABBIT 2 Trial. Diabetes Care 2007;30:2181-2186 2. Umpierrez GE, et al. RABBIT 2 Surgery. Diabetes Care 2011;34:256-261 3. ADA Standards of Care 2026, Chapter 16: Diabetes Care in the Hospital 4. NICE-SUGAR Investigators. N Engl J Med 2009;360:1283-1297 5. 日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2024 第6章 6. Pasquel FJ, et al. Glargine U-300 in hospitalized patients. Diabetes Care 2020;43:1947 7. 浅間総合病院 入院患者血糖管理プロトコル 8. 医療事故情報収集等事業 報告書2015 / 医療安全情報 No.215 9. サノフィ DMTOWN「インスリンの用法・用量調節の基本的な考え方」 関連スライド(シリーズ) 周術期血糖管理 完全マニュアル 121,371 PV / 813保存 CGM・AGP読影 完全トリセツ 6,262 PV / 60保存 糖尿病薬 CKD完全マニュアル 7,462 PV / 80保存 内分泌ローテ 10選チートシート 10,140 PV / 102保存 保存して当直に備えましょう! ご質問は Antaa QA または X(@DrMiura_Obesity)まで

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