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肺炎が良くならない時の考察と背景
#1. 肺炎が良くならないときに考えること キーワードは【Nico and...?】 バン@内科医のジレンマ 2023 2023.1.1
#2. 内科医
専門は呼吸器領域と感染症ですが、とりあえずなんでも診る
島暮らしをきっかけにブログ活動をスタート
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note: @md_dilemma
ひょんなこと(?)から救命センター勤務に集中治療領域で内科医だからこそできること!を模索中 番場 祐基 新潟大学医歯学総合病院 高次救命災害治療センター同 呼吸器・感染症内科
#3. 肺炎が良くならないときの鑑別「Nico and...」
検査データや画像検査、培養結果に引っ張られすぎずにバイタルサインと臓器所見を大事にしよう
肺炎の自然経過と治療方針
#4. 肺炎の自然経過を理解する
抗菌薬の変更を考える前にできることを考えるくせをつける
#5. 軽症・重症問わず、肺炎を診療するすべての先生
#6. 肺炎の治療期間 shorter is better
肺炎が良くなる、とは
肺炎が良くならない時「Nico and...」
肺炎の治療期間とその重要性
#7. 用語の整理 7 CAP
community-acquired pneumonia 市中肺炎:病院外で日常生活をしている人に発症する肺炎 NHCAP
nursing and healthcare-associated pneumonia 医療・介護関連肺炎:医療ケアや介護を受けている人に発症する肺炎(本邦独自)
以下のいずれかを満たす;1.療養病床に入院している、もしくは介護施設に入所している
2.90日以内に病院を退院した
3.介護を必要とする高齢者、身体障害者 (performance status≧3)
4.通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬等)を受けている HAP
hospital-acquired pneumonia 院内肺炎:入院から48時間以降に発症した肺炎 VAP
ventilator associated pneumonia 人工呼吸器関連肺炎:挿管から48時間以降に発症した肺炎 CAP(日本以外)
#8. 肺炎の治療期間 Shorter is better
#9. 肺炎の治療期間 「臨床的安定」が得られていれば、ガイドラインでは最短5-7日間程度を推奨
近年の研究では、特にCAPにおいて、さらに短い治療期間も提案されている 9 1)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン 2)Am J Respir Crit Care Med. 2019;200(7):e45-e67. 3)Clin Infect Dis. 2016;63(5):e61-e111.
4)Lancet. 2021;397(10280):1195-1203. 5)Clin Microbiol Infect. 2023;29(1):54-60. 6) Clin Infect Dis. 2022 Jul 27;ciac616. doi: 10.1093/cid/ciac616. ガイドラインでは? 本邦の成人肺炎診療ガイドライン1)CAP(軽〜中等症):1週間以内(弱く推奨)HAP/NHCAP::1週間以内(弱く推奨)ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌で再燃のリスクを指摘
ATS/IDSA CAPガイドライン2)最低5日間
ATS/IDSA HAP/VAPガイドライン3)ともに7日間 より短期治療でもよい? 入院市中肺炎患者4)AMPC/CVA 3日 vs. 8日 非劣性
入院市中肺炎患者5)4-7日(6日) vs. 8-14日(9日)90日後まで調査:再入院含めて差なし
入院市中肺炎患者 後ろ向き6)超短期治療(1-2日) vs. 5-8日間アウトカムに差なし
#10. 短期治療のメリット 短期治療のメリットは様々想定されているものの、実はすべてが十分検証されているわけではない
ただ、医療経済的な恩恵は大きいと考えられる安全に短期治療できるならそれに越したことはない(はず) 10 多くの関連研究で入院期間の短縮効果が示されている 短期治療によって
薬剤耐性菌が減らせるかどうかについては十分なエビデンスが存在しない これについてもまだ十分なエビデンスが示されているとは言えない 早期退院 薬剤耐性菌の出現を抑制 C.difficile感染症
リスク軽減 Shorter is better
肺炎の臓器所見と診断基準
#11. ちょっと脱線 肺炎で血液培養とる? ルーチンでの採取は不要 重症例では採取(治療期間が変わる可能性)
「肺炎」の診断が間違っている場合もあり、疑念があれば採取を 11 1) Am J Respir Crit Care Med. 2019;200(7):e45-e67. 2)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン ポイント ルーチン採取は不要
重症例と診断に疑念がある場合には採取を(迷ったら取る) 非重症市中肺炎における血液培養陽性率は低く(数%)、結果が治療選択に影響する可能性も低い⇨原則血液培養は不要
ガイドライン1,2)では重症例と抗菌薬の先行投与など緑膿菌/MRSAリスクが高い場合に採取を推奨(日本でいうところのNHCAPでは血液培養採取がより望ましいと言える)
侵襲性感染症(肺炎球菌/インフルエンザ桿菌)ではより長期の治療期間が必要(10-14日など)である
特に「誤嚥性肺炎」は誤診が多い。経過が典型的な肺炎と異なる場合には、血液培養を採取しておいた方が良いだろう(実は血流感染症や腹腔内感染症に続発した誤嚥だったり)
#13. 13 1)BMJ. 2007, 10;335(7627):982.
細菌感染症では原則として単一臓器に菌が感染症状も基本的には単一臓器に由来するしたがって、肺炎では肺の臓器特異的所見が目立つ(呼吸数、SpO2、咳嗽、痰、胸部聴診所見など)⇨診断も治療効果判定にも肺に特異的な所見を利用する
肺炎で鼻汁や咽頭症状を伴うことは比較的稀
症状が咳嗽のみの症例で抗菌薬投与の恩恵が期待できるのも当然1)
ただし、消化器症状や咽頭痛は“臓器特異的所見”ではない
重症肺炎や非定型肺炎ではこうした非特異的臓器所見が目立つこともある 感染症診療の基本
#14. 典型的な肺炎の経過 バイタルサインや肺炎の臓器所見の改善は2-3日で認められる=治療効果あり(臨床的安定性あり)
ただし、重症例で改善が遅れる傾向にある 14 JAMA. 1998;279(18):1452-7. 呼吸数とSpO2が改善してくる 意識変容が改善 解熱傾向⇨食事摂取が可能になる 呼吸数とSpO2が正常化 約2日 約3日 約7日 75%が
3日以内に呼吸数、SpO2などの所見が
改善する
=効果判定は(48-)72h後に行う
肺炎が良くならない時の鑑別診断
#15. 典型的な肺炎の経過 最も早く肺炎の治療効果がわかるのは喀痰Gram染色
聴診所見もholo(全吸気)から吸気終末にcracklesが変化、聴診範囲も減少 15 JAMA. 1998;279(18):1452-7. 呼吸数とSpO2が改善してくる 意識変容が改善 解熱傾向⇨食事摂取が可能になる 呼吸数とSpO2が正常化 約2日 約3日 約7日 喀痰Gram染色で標的の菌が減少 数時間 聴診所見の変化
holo inspiratory cracklesから(mid to) late inspiratory cracklesに
#16. 肺炎の治療効果は
(可能なら)グラム染色バイタルサイン(特に呼吸数)、聴診所見などを参考に72h後に判定する
#17. 肺炎が良くならない時 Nico and...
#18. 肺炎が良くならないときに考えること Nico and ...
肺炎における併存症とその影響
#19. Natural course 肺炎の自然経過 レントゲン所見や全身炎症所見はしばしば遷延する
肺の特異的所見や他のバイタルサインが改善していれば、必ずしも治療を延長する必要はない(全身炎症が続くなら、肺炎以外に原因を求めた方がよいかもしれない) 19 1)Am J Respir Crit Care Med. 1994;149(3 Pt 1):630-5. 2)Clin Infect Dis. 2007;45(8):983-91. ポイント 経過良好でも、レントゲン所見も熱も炎症も
そう簡単に良くならない 7日時点でレントゲン所見の正常化は半数のみ 6週後にもまだ3割に陰影の残存がある1)
陰影悪化のありなしで28日時点でのアウトカムに差なし2)
熱やCRPといった全身炎症の指標改善はしばしば遅れるあるいは、肺炎以外の理由で悪化しているのかもしれない(薬剤熱、偽痛風、静脈炎、CDI、etc)
#20. Intracellular pathogens 結核は常にどんな患者でも完全に除外できない
非定型肺炎一括りではなく、年齢や肺外症状に注目して具体的に鑑別
重症例は鑑別困難 empiricalに治療を 20 ポイント 結核、結核、結核!!
肺外症状に注目 βラクタム系抗菌薬にも当初反応したように見える結核症例もしばしば経験する
結核リスクとなる細胞性免疫不全の有無や、Onset、全身症状に注目
若年者のマイコプラズマ、高齢者のクラミジア いずれも上気道症状が目立つことがある
レジオネラ肺炎は全く別;低Na血症、消化器症状、意識障害、肝機能障害といった非特異的な所見
いずれにしても重症肺炎ではマクロライド系抗菌薬などでカバーが必須
ウイルスも肺炎の原因となる(特に免疫不全患者では注意)
#21. Comorbidity 既知/未知の併存症 すでにわかっている既往症以外に、実は未診断の併存症が肺炎治癒を阻害していることがある
特に嚥下障害と神経筋疾患には注意 21 1) Geriatr Gerontol Int. 2020;20(8):785-790. 誤嚥性肺炎の3割に、未診断の疾患1)
神経疾患>上部消化管疾患>薬剤性疾患>頭頸部疾患
多くはHistory takingで診断できた
誤嚥を助長する薬剤(抗精神病薬など)にも注意 誤嚥以外にも
肺炎後呼吸不全の改善が乏しいことからALSといった神経変性疾患の診断に至ったことがある 併存症のコントロールも重要
#22. Obstruction/Abscess いずれも追加検査(気管支鏡検査、胸部CT)で診断する
ドレナージや手術のタイミングなど、呼吸器内科/外科にコンサルトが必要 22 1) Ann Transl Med. 2019; 7(15): 357. 2) Clin Infect Dis. 2016; 62(8): 957–961. 3) J Thorac Cardiovasc Surg. 2017 Jun;153(6):e129-e146.(膿胸の参考文献) Obstruction(閉塞) 腫瘍などによる気管支閉塞1) Abscess(膿瘍) 肺膿瘍
膿胸 細菌感染が関与している証明は困難であることが多い2)が、ある程度empiricに治療せざるを得ない
治療は閉塞の原因の解除(悪性腫瘍ならその治療)だが、しばしば治療は困難であり、死亡率も高い 特に、膿胸はドレナージが必須t-PA/DNase(海外)やウロキナーゼの胸腔内注入も有効※
ドレナージ後1週間程度で改善乏しい場合には外科的治療(掻爬術)を積極的に検討する ※2022年12月現在、供給停止中
薬剤耐性菌とその管理方法
#23. 23 非感染性疾患=非常にたくさんある
重要な鑑別
心原性肺水腫
非心原性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
間質性肺疾患(好酸球性肺炎、器質化肺炎を含む)
肺胞出血 Non-infections まずは胸部画像検査(胸部CT)
非特異的だったり、専門的な判断が必要になることも多いので、迷ったら呼吸器内科に相談を
#24. Drug-resistant bacteria 薬剤耐性菌/Dose 薬剤投与方法・量 あえて、最後に考える(安易な抗菌薬変更を選択しないために) 24 薬剤耐性菌 MRSA、ESBLs、多剤耐性緑膿菌などの耐性菌がはじめから治療対象になることは稀
喀痰から検出される病原体すべてが起炎菌というわけでもない(=培養検査に騙されない)。
これまでの介入を行なっていても改善が乏しく、かつ耐性菌が検出されている症例では遠慮なく専門家に相談を。 薬剤投与方法・量 1回投与量
投与回数(〜時間おき)
投与経路(併用薬との相互作用)
臓器移行性(肺ではそこまで重要ではない※) ※ダプトマイシン除く
免疫不全患者における肺炎の管理
#25. 25 真菌感染症(肺アスペルギルス症、肺ムーコル症など)
“重度の免疫不全” :ウイルス感染症、真菌感染症、あるいは複合感染を想定
肺外の感染症の合併(実はSeptic emboliである。感染性心内膜炎や骨髄炎、中枢神経感染症を合併している。など) ... それでも解決しないときは 「Nico and」 ですべてが網羅されるわけではない
頻度は低いが、病態が特殊な場合には稀な原因微生物を想起したり、全身の感染症の一つとして「肺炎」を呈していることも
#27. 参考)免疫不全患者のCAPマネジメント 27 Chest. 2020 Nov;158(5):1896-1911.より Q3:どのような病原体を「主要な呼吸器病原体」と考えるべきか
免疫不全患者においてもCAPの原因となる「主要な」病原体は免疫不全のない患者と同様と考えるべき ○Core Respiratory Pathogens
【GP】肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、(A群溶血性)連鎖球菌
【GN】インフルエンザ菌、モラクセラ、腸内細菌科細菌
【非定型】レジオネラ、クラミジア、マイコプラズマ、コクシエラ
【ウイルス】インフルエンザ、パラインフルエンザ、コロナウイルス、RSウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス、ヒトメタニューモウイルス
#28. 参考)免疫不全患者のCAPマネジメント 28 Chest. 2020 Nov;158(5):1896-1911.より Q4:Core〜に加えて免疫不全患者において呼吸器感染症を起こしうる病原体【細菌】薬剤耐性菌を含む腸内細菌科細菌、ブドウ糖非発酵GNR(緑膿菌やアシネトバクター)、MRSA、ノカルジア、ロドコッカス
【抗酸菌】結核、NTM 【ウイルス】CMV、HSV、VZV
【真菌】P. jirovecii、アスペルギルス、ムーコル、ヒストプラズマ、クリプトコックス、ブラストミセス、コクシジオイデス
【寄生虫】トキソプラズマ、糞線虫
免疫不全の種類によって考慮すべき病原体は異なる
#29. 参考)免疫不全患者のCAPマネジメント 29 Chest. 2020 Nov;158(5):1896-1911.より 免疫不全の種類によって考慮すべき病原体は異なる
肺炎が良くならない時のMnemonics【Nico and ...】
#31. おさらい 肺炎が良くならない時のMnemonics【Nico and ...】 31 Natural course 肺炎の自然経過 あるいは 他の炎症/感染症の合併 Intracellular pathogen 結核、非定型肺炎、ウイルス Comorbidity 既知/未知の併存症 嚥下障害の原因検索 神経(筋)疾患の検索 Obstruction 気管支の閉塞(腫瘍など) N I C O Abscess 肺膿瘍、膿胸 A Non-infections 心原性/非心原性肺水腫/間質性肺疾患 N Drug resistant/Dose 薬剤耐性を考えるのは最後 D
#32. おさらい→対応 肺炎が良くならない時のMnemonics【Nico and ...】 32 Natural course 病歴、バイタルサイン、身体所見から
ある程度鑑別が可能 Intracellular pathogen Comorbidity Obstruction 画像検査(胸部CT)
気管支鏡検査、胸腔ドレナージ、あるいは画像読影など専門家(呼吸器内科)へのコンサルテーションを要する N I C O Abscess A Non-infections N Drug resistant/Dose 感染症内科医や薬剤師に相談 (複雑な病態では早めに相談💡) D
肺炎の鑑別診断における注意点
#33. 肺炎が良くならないときの鑑別「Nico and...」
検査データや画像検査、培養結果に引っ張られすぎずにバイタルサインと臓器所見を大事にしよう