テキスト全文
ウィズコロナ時代の感染対策の概要 #1.
ウィズコロナ時代の感染対策2024年2月版 神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科 黒田浩一 2024.2.16 最終更新 #2.
COVID-19は、5類感染症へ
2023年5月8日から具体的に何が変わったのか?
- 感染者の自宅療養期間
感染対策 - 基本的な対策は変わらない -
- 効果的かつ負担の少ない感染対策 - 換気
- マスク - 大規模クラスターを防ぐ
- COVID-19ワクチン - 入院前スクリーニング検査 このスライドの内容 #3.
5類感染症について知りたい
感染者の自宅療養期間について知りたい
基本的な感染対策について知りたい
マスクについて知りたい
COVID-19ワクチンについて知りたい
換気について知りたい 知りたい内容をクリックしてください COVID-19の5類感染症への移行とその影響 #5. 病原性・伝播性・変異の可能性とその影響を検討した結果、感染症法に基づく私権制限に見合った「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれ」がある状態とは考えられないことから、5類感染症に位置づけるべきである
他方、適正な医療を提供し続けることが、最重要課題であり、段階的な5類感染症への移行が望ましい 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけについて(第70回厚生科学審議会感染症部会, 2023.1.27). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30440.html なぜ5類感染症に移行? 5類感染症移行後の行政の役割と継続する対策 #7.
行政による搬送
行政による健康観察
発生届(全数調査→定点報告)
無料検査
検疫感染症 終了したもの
入院措置・勧告
就業制限
外出自粛(感染者・濃厚接触者)
宿泊療養(ホテル) 5類感染症に移行して... #8.
段階的に終了するもの
保健所による入院調整(実際には5月8日でほぼ終了)
医療機関への公的支援(診療報酬特例・病床確保料)
患者への公費支援
コロナは特別という空気感(特に医療機関) 5類感染症に移行してから... #9.
当面継続されるもの
COVID-19ワクチンの無料接種(2024年3月まで)
ゲノムサーベイランス
ウイルスそのものの性質・基本的な感染対策 5類感染症に移行しても... COVID-19患者への公費支援の変更点 #12. 外出自粛や就業制限の法的根拠がなくなる
- 一定期間自宅待機する義務はない
- 自主的に現在と同様に感染対策が継続される可能性もある
- そもそも軽症者は受診しなくなる可能性が高い
- 就労制限は、5日間に短縮する流れ
感染者は増加しやすくなる 新型コロナウイルス感染症対策に関する見解と感染症法上の位置付けに関する影響の考察. 第113回(令和5年1月11日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード. 資料3-10.
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の療養期間の考え方等について(令和5年5月8日以降の取扱いに関する事前の情報提供. https://www.mhlw.go.jp/content/001087453.pdf 療養中の行動制限がなくなる 自宅療養期間の目安と国際的な比較 #14. 外出を控えるかどうかは個人の判断
外出を控えることが推奨される期間
- 発症後5日間(特に感染させるリスクが高いため)
- 症状改善から24時間以上経過
周りの方への配慮:発症後10日間はマスク着用など
濃厚接触者:最終接触から7日目までマスク・手洗い・換気など
2023年4月28日に学校保健安全法も上記と同様の内容に改正された 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の療養期間の考え方等について(令和5年5月8日以降の取扱いに関する事前の情報提供.
https://www.mhlw.go.jp/content/001087453.pdf 自宅療養期間の目安(政府発表) ウイルス量の推移と感染性の関係 #16.
ウイルス量の推移 総説 Nat Rev Microbiol. 2023 Mar;21(3):147-161. doi: 10.1038/s41579-022-00822-w. #17.
軽症・中等症(従来株)の症状とウイルス量の推移 Nat Rev Microbiol. 2023 Mar;21(3):147-161. doi: 10.1038/s41579-022-00822-w. 重症度・免疫不全の有無だけでなく、感染前のSARS-CoV-2への免疫(ワクチン・感染歴)もウイルス量の推移に関連するが、variantの種類によって感染性ウイルスの排泄期間が変化することを明確に示した報告はない #18.
第120回(令和5年4月5日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-8. オミクロン系統感染者鼻咽頭検体中の感染性ウイルスの定量. 2023.4.5 発症6日目以降のウイルス量は低値 #19.
ウイルス量の推移 ウイルス量の推移には、重症度・免疫不全の有無だけでなく、variantの種類や感染前のSARS-CoV-2への免疫(ワクチン・感染歴)も関連する
デルタは、ワクチン接種者のほうが感染性ウイルス排泄期間が短いことが示されている
オミクロンではワクチン3回接種で感染性ウイルスのピーク値は低下するが、期間は短縮しない Nat Rev Microbiol. 2023 Mar;21(3):147-161. doi: 10.1038/s41579-022-00822-w. 感染対策の基本と法律・医療体制の変化 #20.
1回目の感染より2回目のほうが早く陰性化 Nat Commun. 2023;14(1):6206. Published 2023 Oct 5. doi:10.1038/s41467-023-41941-z 初回感染と比較して、2回目の感染はウイルスクリアランス(PCR陰性化)が早かった(9.2日 vs 6.3日)
2回目の感染のウイルスクリアランスまでの時間は、ワクチン接種回数による影響を受けなかった
1回目の感染で早期に陰性化した患者は、2回目の感染でも早く陰性化する傾向を認めた #24.
基本な感染対策は変わらない SARS-CoV-2の性質が変化するわけではない
変わるのは、法律・医療体制・人々の生活様式 院内感染対策の要点と重要なツール #25.
COVID-19ワクチン(アップデートする)
換気の悪い屋内や人混みでのマスク着用
換気・身体的距離の確保(最低1m、可能なら2m)
手指衛生(アルコール製剤、または、流水と石鹸)
換気の悪い3密(密集・密接・密閉)の回避(流行期)
体調不良時は、受診以外で外出しない・人と会わない 基本的な感染対策 #26.
効率的かつ負担の少ない感染対策(接触予防策の削減)
ユニバーサルマスキング(職員、患者、訪問者)
流行期は、看護師とリハビリ技師などはルーチンのN95マスク使用を検討する
職員のCOVID-19ワクチン接種(最適な状態を維持)
適切なタイミングでの手指衛生、目の防護のルーチン化
職員体調不良者の休務と検査
院内発生事例1例目の早期診断・早期治療
換気(機械換気・自然換気・へパフィルター・サーキュレーター・CO2モニター)
外来:マスク・換気・診察スペースの確保(ゾーニング:空間的または時間的分離) 院内感染対策の要点 #27.
100%の感染対策は存在しない
- それを目指す対策は、実効不可能、かつ、持続不可能
- 職員・患者による市中感染の持ち込み、院内感染をゼロは不可能
- 医療逼迫を起こさない・経営を悪化させないことが目標
クラスター発生の頻度と規模を最小限にする体制の構築
- 基本的な感染対策(マスク・手指衛生・ワクチン...)
- 診療体制の整備(index caseの早期発見・診断/検査・隔離・治療) 持続可能かつ現実的な院内感染対策 #28.
マスク
ワクチン
速乾性手指消毒薬
SARS-CoV-2検査
換気 院内感染対策で重要なツール 面会制限と感染対策の見直し #29.
ワクチン接種がすすみ、医療提供体制の強化・重症化予防薬が開発されたこと、などから、面会者からの感染を防ぎつつ、患者や家族のQOLを考慮して、対面での面会が実施できるよう、流行状況をみながら、各医療機関でその方法・条件を検討する必要がある
政府専門家の見解も同様である
- 過度な制限は控える、流行期はオンライン画面を活用
- 面会者が無症状であること・マスク着用は必要 面会制限について 第118回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-10. 医療機関と高齢者施設における新型コロナウイルス対策についての見解 - 感染症法上の類型変更を見据えて - (2023.3.8) #30.
体調不良者(発熱・気道症状)は来院しない
患者・家族のマスク着用の遵守
換気のよいスペースの準備(必須ではないがあると望ましい)
面会後48時間以内の体調不良の報告
地域の流行状況の把握
感染対策には有用だが条件にしにくいこと:ワクチン接種歴、COVID-19検査陰性確認、個室限定 対面での面会を可能にするために #31.
当院での面会 小康期・流行期
- 通常対応
流行拡大期
- 15~17時に限定、1回15分まで、1回1名まで
※病棟クラスター発生は、流行区分に関係なく、収束まで面会禁止 2023年秋以降 #32.
付き添い者への対応(2023.6~) 院内の流行期分類(小康・流行・流行拡大期)のうち、流行期または流行拡大期の場合に、抗原定性検査を行う
病院無償提供 or 市販キット
受診は不要
原則、交代不可 #33.
隔離病棟での面会の状況 2023.4~ 全患者面会可
毎日14時~16時、予約不要、口頭での説明と同意のみ
1回2名まで(大人数の場合は分かれて面会する)
原則小学生以下は面会不可
レッドゾーンに入る前にN95マスク・シールド付きマスク装着
ガウンは必須としていない(希望があれば使用) N95マスクの使用と感染予防策の効果 #35.
個人防護具(personal protective equipment)
1. 眼・鼻・口を防護するもの
サージカルマスク or N95マスク
ゴーグル or フェイスシールド
2. 長袖ガウン
3. キャップ(必須ではない)
4. 手袋 新型コロナウイルス感染症(COIVD-19) 診療の手引き 第6版
⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第4版. 接触予防策
飛沫予防策
空気予防策 COVID-19患者対応時のPPE(これまで) #36.
ポイント
・接触予防策は最小限
・専用病棟は不要
(病室単位での隔離)
・環境面の過剰な消毒は不要
(手指消毒が基本) 第87回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-8(2022.6.8)
事務連絡. 効率的かつ負担の少ない医療現場における感染対策の徹底について(2022.8.5)
事務連絡. 病床や救急医療のひっ迫回避に向けた宿泊療養施設や休止病床の活用等について(2022.8.19) 効果的かつ負担の少ない感染対策 #37.
Nat Rev Microbiol. 2021 Aug;19(8):528-545. doi: 10.1038/s41579-021-00535-6. マスク・身体的距離 手指衛生 手指衛生 マスク・換気 主な感染経路は、飛沫・エアロゾル感染である。接触感染は稀であるため、患者と直接接触しない限り、接触感染のリスクは極めて低い。 #38.
身体密着がなく、体液・排泄物を浴びる可能性が低い場合はガウン不要(問診/診察/検温、環境整備、患者搬送)
- 診察 - バイタル測定
- 環境整備 - 患者搬送 標準予防策を確実に実行することが重要 ガウンの省略 マスク着用の考え方と感染リスクの低減 #40.
神戸市立医療センター中央市民病院 感染管理室. 新型コロナウイルス感染症感染対策マニュアル(2023年3月30日改訂) COVID-19患者、COVID-19疑い患者、濃厚接触者では、①直接接触リスクが少ない場合(問診、診察、検温、環境整備、清掃、外来での案内など)、体液や飛沫・排泄物への汚染が想定されない限りガウンの着用は不要、②キャップは必須ではない、とマニュアルに明記した。
○:必要、△:体液や飛沫・排泄物への汚染が想定されない場合は不要
※1:N95マスクのかわりにサージカルマスクを着用する場合もある(条件:エアロゾル発生処置なし、かつ、患者がサージカルマスクを着用、かつ、接触が15分未満)
※2:気道吸引、喀痰誘発、胸骨圧迫、気管挿管、NIV、NHF、気管支鏡、用手換気、胸腔ドレーン留置、上部内視鏡検査、経食道エコー、呼吸機能検査、泣き叫ぶ児、強い咳嗽、など
※3:換気の良い場所では、サージカルマスク可 院内マニュアルを改訂 2023.3- COVID-19ワクチンの効果と接種方針 #45.
personal protectionとsource control
- マスク着用は、気道感染症罹患リスクを約20%低下させる
- 屋内で常時マスクを着用しているとCOVID-19罹患リスクが低下する
- 感染者と曝露者がマスクを着用していると最もCOVID-19罹患リスクが低下する
ユニバーサルマスキング
- 地域のユニバーサルマスキング政策で、COVID-19発症/入院/死亡が減少する
- マスク着用者が増加すると、地域のCOVID-19流行が制御されやすくなる
- 学校におけるユニバーサルマスキングはCOVID-19流行抑制に有用である
Transl Psychiatry. 2022;12(1):49. doi: 10.1038/s41398-022-01814-3. EClinicalMedicine. 2021 Aug;38:101024. doi: 10.1016/j.eclinm.2021.101024.
Lancet Digit Health. 2021;3(3):e148-e157. doi: 10.1016/S2589-7500(20)30293-4. Proc Natl Acad Sci U S A. 2022;119(23):e2119266119. doi: 10.1073/pnas.2119266119. マスクの効果:感染↓ #46.
alpha~delta流行期
屋内(indoor public)でマスクを常時使用することで感染が著明に減少
特にN95 or KN95マスクで効果高かった
60%以上がワクチン接種0-1回接種の集団での研究 MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Feb 11;71(6):212-216. doi: 10.15585/mmwr.mm7106e1. マスクの効果(オミクロン前)感染↓ #47.
オミクロン流行期の米国のデータ
マスク継続した学校のほうが30-50%感染者が少ない N Engl J Med 2022;387:1935-46.
DOI: 10.1056/NEJMoa2211029 学校でのユニバーサルマスキング:感染↓ 感染予防のための換気対策 #50.
病院内・高齢者施設内
換気の悪い混雑している屋内
混雑している公共交通機関内
あとは各人がリスク・ベネフィットを考えて... 個人的なマスク着用の推奨 #52.
Sci Adv. 2020 Sep 2;6(36):eabd3083. doi: 10.1126/sciadv.abd3083. 放出する飛沫の量
N95マスク:0.1%
サージカル:1%
コットン:10% サージカルマスクよりN95マスク? #54.
感染した医療従事者から患者への伝播をかなり減らすことが期待される(理論的にはほぼ感染させないと思われるが、source controlとしてのデータはないため、個別にリスクを判断して、曝露した患者が濃厚接触者に該当するか判断する)
患者から医療従事者への伝播をかなりの精度で防ぐことが可能となる(通常病棟でルーチンの使用した場合、サージカルマスクと比較して、感染を約45%減らす可能性を示した観察研究がある)
一方で、COVID-19に従事している医療従事者1009名(4か国)を対象としたRCTでは、サージカルマスクとN95マスクのCOVID-19感染予防効果は有意な差を認めなかった(limitation:規模が小さい、観察期間10週間、国によって結果が異なる) Sci Adv. 2020 Sep 2;6(36):eabd3083. doi: 10.1126/sciadv.abd3083.
JAMA Netw Open. 2022 Aug 1;5(8):e2226816. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.26816.
Ann Intern Med. 2022 Dec;175(12):1629-1638. doi: 10.7326/M22-1966. N95マスクの意義 入院前スクリーニング検査の必要性と影響 #55.
対象:主に急性期病院の看護師(カナダ、イスラエル、パキスタン、エジプト)
COVID-19対応時のマスク:N95 vs サージカルマスク
観察期間:10週間(エジプトはオミクロン期、他3国はオミクロン流行前の時期)
イスラエルとエジプトの全施設でクラスター発生あり、N95マスクのアドヒアランスは悪い傾向 Ann Intern Med. 2022 Dec;175(12):1629-1638. doi: 10.7326/M22-1966. N95マスクの効果は微妙? #56.
流行拡大期(分類:小康期→流行期→流行拡大期)の場合
勤務中に、患者と1m以内での接触時間が合計15分を超える場合
- マスクを着用できない患者への15分以上の対応
- 吸痰や食事介助する場合
- 患者との体の接触が多い状況(リハビリ、体位変換)
エアロゾル発生手技(挿管・気管支鏡など)を行う場合 当院でのN95マスクの適応 #57. 地域の流行レベルが高い場合、以下の際にN95マスク使用を考慮
- エアロゾル発生手技
- 感染伝播リスクの高い手術(鼻・咽頭・気道の手術など)
- 感染伝播リスクの高い状況
:患者がマスク着用不可、換気が悪い場所、クラスター発生中の病棟
- シンプルにするため、全患者に対して、常時着用してもよい
全患者対応時に、目の防護(ゴーグル/フェイスシールド)を行う Interim Infection Prevention and Control Recommendations for Healthcare Personnel During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic (2023.5.8). https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/infection-control-recommendations.html [2023.10.10最終アクセス] 米国でのN95マスクの推奨 2022.9- #59.
流行期分類 2024.2現在 指標①が基準を満たした場合に、指標②と③をから判断する
指標①:陽性職員数(人/週)
- 流行期:7人以上、流行拡大期:21人以上
指標②:院内検査陽性者数(人/週)
- 流行期:20人以上、流行拡大期:65人以上
指標③:院内検査陽性率 10%超え日数(日/週)
- 流行期:1日以上、流行拡大期:5日以上
※参考:定点報告数、神戸市内の入院患者数(E-MIS/G-MIS) オミクロン株の変遷とワクチンの効果 #60.
COVID-19ワクチン 2024年2月16日現在 #63.
BA.1(2021年12月~)
BA.2系統への置換(2022年3月~)
BA.4/BA.5系統(2022年7月~)
世界各地でBA.2またはBA.5系統を起源とする亜系統が多数発生
- BA.2.75系統(2022年10月~)
- BQ.1.1系統(2022年10月~)
- XBB.1.5系統、XBB.1.9系統、XBB.1.16系統(2023年3月~)
→EG.5(XBB.1.9.2の亜系統)(2023年7月~)→EG.5.1系統→HK.3系統
- BA.2.86系統(2023年11月~)→JN.1系統(2023年12月~) オミクロンの変遷(BA.1→XBB/BA.2.86) 新型コロナウイルスの流行状況と対策 #65.
XBB.1.5, XBB.1.9, XBB.1.16, EG.5.1
著明な免疫逃避が特徴である
すべての利用可能な中和抗体薬の活性:低下(ソトロビマブ△?)
抗ウイルス薬の活性:低下なし
重症化(入院・死亡)リスクの増大の報告はない
XBB.1.5対応1価ワクチンによって中和抗体価は上昇する N Engl J Med. 2022 Dec 7. doi: 10.1056/NEJMc2214302. Lancet Infect Dis. 2023 Apr;23(4):402-403. doi: 10.1016/S1473-3099(23)00070-1.
Lancet Infect Dis. 2023;23(6):655-656. doi:10.1016/S1473-3099(23)00278-5 Lancet Infect Dis. 2023;23(10):e395-e396. doi:10.1016/S1473-3099(23)00553-4
Lancet Infect Dis. 2023;S1473-3099(23)00575-3. doi:10.1016/S1473-3099(23)00575-3 XBB系統とその亜系統:免疫逃避が特徴 COVID-19ワクチン接種の最新情報 #71.
4-7回目接種としての効果(多くはBA5対応2価ワクチン接種歴あり)
各variantに対する中和抗体は、XBB関連歴の有無を問わず認められた XBB.1.5対応1価ワクチンの免疫原性 Lancet Infect Dis. Published online January 8, 2024. doi:10.1016/S1473-3099(23)00784-3 #72.
4回目以降接種としての効果(N=65、82%が感染歴あり)
各variantに対する中和抗体は接種によって上昇した XBB.1.5対応1価ワクチンの免疫原性(P) Lancet Infect Dis. 2024;24(1):e1-e3. doi:10.1016/S1473-3099(23)00690-4 ワクチン接種の効果と推奨方針 #75. 2023.10.11-2023.12.10の米国でのXBB.1.5対応ワクチン(ファイザー)の効果を検討
EG.5の亜系統、JN.1系統が流行
18歳以上の成人
観察期間:中央値30日
- COVID-19関連入院 63%減少
- COVID-19関連ER受診 58%減少
- XBB.1.5対応ワクチン未接種者は、ワクチン未接種者と罹患/入院リスク同等 XBB.1.5対応1価ワクチンの入院予防効果 medRxiv 2023.12.24.23300512; doi: https://doi.org/10.1101/2023.12.24.23300512 #76.
デンマークでのXBB.1.5対応1価ワクチンの効果を検討した観察研究
対象は、65歳以上で、オミクロン対応2価ワクチン接種歴あり、COVID-19感染歴は問わない
2023.10.8-2023.10.26(主にEG.5の子孫系統が流行)
入院予防効果:76.1% XBB.1.5対応1価ワクチンの入院予防効果 Lancet Infect Dis. 2024;24(2):e73-e74. doi:10.1016/S1473-3099(23)00746-6 非常に短期間(2週間未満)しかフォローアップされていない #77.
米国でのXBB.1.5対応1価ワクチンの効果(免疫不全者は除外) 2023.9-2024.1
JN.1系統が流行(2023.11から増加し、2023.12以降主要流行variantになった)
Updated vaccine群(case)とupdated vaccine未実施群(control)を比較
- control群の約30%は1回もワクチンを接種していない
- control群の約70%はワクチン接種から約1年(中央値)が経過している
症候性感染予防効果(重症化・入院・死亡予防効果については未検討):
- 接種から7-59日:58%、60-119日:49%
- 接種から60-119日の場合、JN.1(SGTF+):49%、XBB系統:60% XBB.1.5対応1価ワクチンの感染予防効果 50% MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2024;73(4):77-83. doi:10.15585/mmwr.mm7304a2 #78.
2024年2月現在、世界中で、免疫逃避能の高いJN.1系統の流行が拡大している
XBB.1.5対応1価ワクチンは...
- JN.1やXBBの子孫系統に対する免疫原性は確認済み
- JN.1に対して、症候性感染予防 約50%(接種後4ヶ月以内)
・JN.1に対する重症化予防効果は未検討だが、感染予防効果より高いと予想される
- XBB子孫系統(EG.5.1など)に対して
・症候性感染予防 約60%(接種後4ヶ月以内)
・入院院予防効果 約60-75%(接種後1ヶ月程度) COVID-19ワクチンの効果 日本におけるCOVID-19ワクチン接種の現状 #82. 諸外国の2023年秋冬接種 2023.9.6現在 追加接種の推奨:重症化リスクが高い者と医療従事者・介護従事者・その同居者
米国:未発表
英国:重症化リスクが高い者とその接触者(医療・介護従事者含む)
カナダ:最終接種から6ヶ月以上が経過した者
フランス:重症化リスクが高い者とその接触者(医療・介護従事者含む)
ドイツ:最終接種から12か月以上が経過した重症化リスクが高い者とその接触者
EU:最終接種から4~12か月以上が経過した重症化リスクが高い者、最終接種から12ヶ月以上が経過した医療従事者 第50回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(2023年9月8日)資料2. 新型コロナワクチンの接種について. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001145304.pdf 換気の重要性とエアロゾル感染対策 外来での感染対策とクラスター防止 #90.
CO2センサーの目標値 1000 ppm未満がよい Environ Sci Pollut Res Int. 2023 Jun 7;1-14. doi: 10.1007/s11356-023-27944-9. 外来セッティングでの空気感染予防
感染者と非感染者がどちらも...
・マスク着用なし
:感染拡大を防ぐために620ppm以下
・サージカルマスク着用
:感染拡大を防ぐために1000ppm以下
※接触・飛沫感染は考慮していない #94.
外来でのクラスター発生リスクは入院より低い(接触時間が短い)
動線:マスク着用、かつ、短時間の移動であれば、分離不要
待合:定期的な消毒(1日2回など)、身体的距離、マスク
- 空間的分離(車や別室で待機してもらう)
- 時間的分離(別の時間帯に発熱患者を診察する)
診察室:患者毎に高頻度接触面は消毒が無難
奈良県福祉医療部 医療政策局. 医療における新型コロナウイルス感染症対応マニュアル(令和5年6月12日) 外来での感染対策 大規模クラスターを防ぐための対策 #95.
大規模クラスターを防ぐ 院内感染ゼロは不可能
大規模なクラスターを防ぐことが重要 #96.
基本的な感染対策の遵守:ワクチン・マスク・手指衛生
体調不良時(軽度な症状でも)に休める体制・文化
これによって、職員→職員、職員→患者、が減少する
職員間感染をゼロにする 専門職どうしなので可能なはず
早期発見=早期診断→早期隔離(入院患者) 大規模クラスターを防ぐために #97.
●大量の職員が同時に感染・離脱の原因は、職員間感染が想定される
職員間感染予防は、専門職どうしなので、容易のはず
①マスク着用、②体調不良時は働かない、③ワクチン接種(効果大きくない)
病院機能を維持するためにも、医療従事者の大規模クラスターは防ぎたい
●患者-職員間の場合、一度に複数の感染者が出ることは稀
患者→職員、職員→患者
:伝播を0にすることは難しい(患者はマスクをはずす!)
:①マスク着用、②体調不良時は働かない、③ワクチン接種、④流行期のN95マスク
●患者-患者間感染は、ほとんどが大部屋で起こる(マスク着用、早期診断・隔離、換気) 職員間感染はゼロ目標 #98.
休憩時のスタッフ室でマスクを外した状態の会話
昼食時のマスクを外した状態での会話
ロッカーでマスクを外した状態での会話
帰宅途中のマスクを外した状態での会話
食事会(完全な予防は難しいが、低頻度であるため許容される)
特に、発熱・気道症状(特に咳)がある場合は控える 職員間伝播の原因 入院前スクリーニング検査の見直し #100.
早期発見:発熱・気道症状をすぐに察知、担当医に報告
早期診断:検査閾値は低く設定する
→早期治療と早期隔離につながる
流行期に
「この発熱は、一過性の誤嚥が原因だと思う」×
「この発熱は、ただの風邪が原因だと思う」×
その患者の周囲にCOVID-19感染者がいなくても鑑別が必要である
∵無症状病原体保有者から感染した可能性がある(同室者、職員) 院内発症COVID-19患者は早期発見が重要! #102.
COVID-19の症状のない入院前・処置前の患者に対するSARS-CoV-2スクリーニング検査(asymptomatic screening)は、pandemicが始まって以来、広く実施されてきた
目的:感染に気づいていないSARS-CoV-2に感染している人を特定し、SARS-CoV-2の院内伝播を防ぐこと
しかし、pandemicが始まってから3年が経過した現在、有用性が小さい可能性が指摘されており、あまり推奨されなくなってきている 入院前スクリーニング検査 #103.
入院前SARS-CoV-2スクリーニング検査 ・SHEA(the Society for Healthcare Epidemiology of America、米国医療疫学学会)は、医療機関への入院前または手術前に無症状の人にSARS-CoV-2スクリーニング検査を一律に行うことを推奨していない
・スクリーニング検査の必要性の検討
- 地域の流行状況
- 患者背景
血液内科病棟、造血幹細胞移植病棟(重症化リスクが高い)
精神科病棟(症状の訴え・感染対策が難しい→感染伝播リスク高い)
- 施設のレイアウト:大部屋、精神科病棟(共有スペースがある) Infect Control Hosp Epidemiol. 2023 Jan;44(1):2-7. doi: 10.1017/ice.2022.295. ・基本的な感染対策が十分に実施されている場合の有用性は不明である
・患者に不利益がある可能性がある 入院前スクリーニング検査の影響と考察 #105.
効果を示した研究がほとんどない
患者・医療機関への悪影響 > 潜在的な効果
流行当初と異なる状況
- ワクチンまたは感染によるSARS-CoV-2に対する免疫
- 軽症例の増加(感染した場合の影響が以前より小さい)
- ワクチン・治療への良好なアクセス Infect Control Hosp Epidemiol. 2023 Jan;44(1):2-7. doi: 10.1017/ice.2022.295. スクリーニング検査が非推奨の理由 #106.
ユニバーサルマスキングなどの感染対策は効果的だが、感染伝播をゼロにするわけではないため、入院前検査によって、無症状感染者を発見・隔離し、院内感染伝播を抑制する(特に大部屋・エアロゾル発生手技中の感染伝播抑制)ことが可能かもしれない
COVID-19患者の術後合併症を予防する
ただし、これらを証明した研究はほとんどない(精神科病院のようなマスク着用や手指衛生が難しい施設でのエビデンスはある) Infect Control Hosp Epidemiol. 2023 Jan;44(1):2-7. doi: 10.1017/ice.2022.295. 入院前検査に期待される効果 #107.
感染伝播リスクのない患者の隔離(PCR陽性は必ずしも感染性を意味しない)
手術などの治療・ケアの遅れ、救急外来での滞在時間の延長
高次医療機関やリハビリ施設などの適切な施設への移動の遅れ
コストの増大:金銭的コスト、検査室・技師の負担、検査実施のための物品・検査場の準備・人的資源の確保や予約システムの構築(ロジスティックス)
偽陰性(感度低い):見落とし、医療従事者の感染対策遵守率低下や入院後に発生したCOVID-19に対する検査適応の判断ミスにつながる可能性がある Infect Control Hosp Epidemiol. 2023;44(1):2-7. doi: 10.1017/ice.2022.295. JAMA Intern Med. 2023;e231261. doi: 10.1001/jamainternmed.2023.1261. 入院前スクリーニング検査による悪影響 #108.
患者の症状スクリーニング、体調不良のある職員の休務(症状スクリーニングと検査)、換気の最適化、環境清掃、手指衛生、マスクによるsource control、COVID-19疑い・確定例の隔離、患者/職員のワクチン接種、特定の処置(エアロゾル発生手技)を行う際のN95マスクの使用、など
これらの対策が実施されている状況でのスクリーニング検査の意義は不明(効果の証明も否定もされていない)
Infect Control Hosp Epidemiol. 2023 Jan;44(1):2-7. doi: 10.1017/ice.2022.295. 基本的な感染対策が重要である #109. 地域の流行状況
- 地域でのCOVID-19発生率
- 下水中のウイルス濃度
- 休務中の職員数
- COVID-19 hospital admission levels(medium or high)
人口10万人あたりの1週間の入院患者数 10人以上 Infect Control Hosp Epidemiol. 2023 Jan;44(1):2-7. doi: 10.1017/ice.2022.295.
MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023 May 12;72(19):529-535. doi: 10.15585/mmwr.mm7219e2.
CDC. COVID-19 by County (Updated on May 11, 2023). https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/your-health/covid-by-county.html 入院前スクリーニング検査の必要性の検討 流行状況に応じたスクリーニング検査の必要性 #110.
患者背景
- 血液内科病棟、造血幹細胞移植病棟(重症化リスクが高い)
- 精神科病棟(症状の訴え・感染対策が難しい→感染伝播リスク高い)
施設のレイアウト:大部屋、精神科病棟(共有スペースがある)
リスクが高いかもしれない処置→多くの場合考慮不要である
- 計画された挿管・抜管は、感染伝播リスクは高くない
- 上部・下部消化管内視鏡前のスクリーニング検査はすでに非推奨 Infect Control Hosp Epidemiol. 2023 Jan;44(1):2-7. doi: 10.1017/ice.2022.295. 入院前スクリーニング検査の必要性の検討 #111.
入院前スクリーニング検査の陽性率 0.4~1.1%
ほぼ症状スクリーニングで対応可能
pre-symptomatic phaseは、検査施行例の0.1~0.4%未満
→ 入院前検査の意義はそれほど大きくない
オミクロン流行期(既感染者増加)かつワクチン導入後の現在の状況に、このエビデンスを外挿することは適切ではないかもしれない J Clin Virol. 2021;142:104915. doi:10.1016/j.jcv.2021.104915 J Med Virol. 2021;93(5):2890-2898. doi: 10.1002/jmv.26770.
Emerg Infect Dis. 2021;27(2):404-410. doi: 10.3201/eid2702.202318 Clin Microbiol Infect. 2021;27(4):658-659. doi: 10.1016/j.cmi.2020.11.010.
Infect Control Hosp Epidemiol. 2022;43(8):974-978. doi: 10.1017/ice.2021.294. 従来株流行期のデータ #112.
入院前PCR検査は不要な可能性がある Infect Control Hosp Epidemiol. 2023;1-4. doi:10.1017/ice.2023.66 入院前PCRスクリーニング検査終了前後の院内クラスターについて検討
終了前の波(第7波):クラスター7件 vs 終了後の波(第8波):クラスター9例
第8波でindex caseが患者で、入院48時間以内に発症した事例は1件のみ→これのみ検査で防ぐことができた? #113.
入院前PCR検査をやめると院内発生増加する? JAMA Intern Med. 2023 Jun 5;e231261. doi: 10.1001/jamainternmed.2023.1261. 入院前スクリーニング検査を終了した後(2022.8~9)、院内発症COVID-19が増加した
- イングランド 26%増加
- スコットランド 41%増加
市中感染1000名あたりの1週間の新規院内発症事例を評価した(分母を「市中発症COVID-19患者の入院1000例」にしても同様の結果) #114.
新規入院・転院患者に対するスクリーニング検査は地域の流行状況により検討されうる
新規の入院または転院患者を受け入れる場合に、来院時および過去7日以内に発熱や咳嗽などの症状が本人または同居者にないか確認すること(症状スクリーニング)が重要であり、認める場合には、速やかにPCR検査を実施する 第118回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-10. 医療機関と高齢者施設における新型コロナウイルス対策についての見解 - 感染症法上の類型変更を見据えて - (2023.3.8) 政府の専門家:流行状況により検討可能 ウィズコロナ時代の社会と医療の変化 #115.
非流行期は不要であるが、流行期は有用かもしれない(「流行期」の確立した定義なし:地域での発生率・数、定点報告、地域の入院患者数、下水中ウイルス濃度、院内検査陽性率、地域の新規入院患者数、職員の新規感染者数などを参考にする)
血液内科病棟や精神科病棟での検査閾値は下げてもよいと思われる
院内伝播抑制の基本は、ユニバーサルマスキング、手指衛生、患者・職員の症状スクリーニングと検査、体調不良の職員の休務、換気
コスト、検査場の設置・撤去の労力、人員確保(勤務表への影響)、患者への連絡などの業務量なども考慮に入れて、実施の可否を決定する 入院前スクリーニング検査のまとめ #116.
入院前スクリーニング検査が陽性
・新規の感染と既感染を鑑別する
・以下の情報から、主治医が判断する
- 病歴(過去2ヶ月の診断歴・症状)
- RT-PCR Ct値 入院前PCR検査結果の判断 #117.
COVID-19は、5類感染症へ
2023年5月8日から具体的に何が変わったのか?
- 感染者の自宅療養期間
感染対策 - 基本的な対策は変わらない -
- 効果的かつ負担の少ない感染対策 - 換気
- マスク - 大規模クラスターを防ぐ
- COVID-19ワクチン - 入院前スクリーニング検査 このスライドの内容 #118.
社会は、コロナ前にほぼ戻った
- コロナ前から変わったこと:屋内・人混みでのマスク、ワクチン、換気の重要性
- ワクチン接種済みの健常者は、コロナを意識せずに生活可能となった
- 重症化リスクのある人はそうはいかない(早期検査・診断・治療とワクチン接種が重要)
- ワクチン接種と早期治療によって、ほぼ重症化(ICU入室/死亡)することはなくなった
病院・高齢者施設は、ウィズコロナ体制という新体制を構築する必要がある
- 感染対策がコロナ前に戻ることはない(マスクと換気の重要性 )
- コロナを意識しながら、コロナ前と同じレベルの医療を提供する必要がある 社会と病院のウィズコロナは異なる #119.
ご清聴ありがとうございましたご質問あればお願いします神戸市立医療センター中央市民病院感染症科 黒田浩一hrkz1985@gmail.com