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森本 将矢

森本 将矢

聖路加国際病院

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和歌山県立医科大学血液内科で主催している感染症セミナーからの抜粋です。今回は「肺炎」について取り上げています。

肺炎

1.      和歌山医大感染症セミナー① 〜肺炎〜
2. 感染症診療の原則 患者背景 感染臓器 微生物 抗菌薬選択 適切な経過観察
3. 発熱の原因 感染症 髄膜炎/脳炎/脳膿瘍/中耳炎 副鼻腔炎/  咽頭炎/喉頭炎/扁桃周囲膿瘍/咽後膿瘍 肺炎/気管支炎/肺結核縦隔炎 心外膜炎/心筋炎/感染性心内膜炎 胆管炎/胆嚢炎肝炎/肝膿瘍/SBP/PID CD腸炎/虫垂炎/ 憩室炎/肛門周囲膿瘍 感染性腸炎/    非閉塞性腸管虚血(NOMI)        尿路感染症(腎盂腎炎・前立腺炎)     腸腰筋膿瘍/硬膜外膿瘍/椎体炎 手術部位感染(SSI) 蜂窩織炎/壊死性筋膜炎 /化膿性関節炎 仙骨部等褥瘡感染 カテーテル関連血流感染 シャント感染/CAPD腹膜炎       胃瘻/VPシャント/ペースメーカー/   人工関節感染 感染症以外 脳外科術後/頭部外傷後(中枢性) 甲状腺クリーゼ 肺塞栓症 間質性肺炎/ARDS/ 無気肺 心筋梗塞 無石性胆嚢炎 急性膵炎 炎症性腸疾患 副腎不全 痛風/偽痛風/Crowned dens症候群 深部静脈血栓症 血腫吸収熱 血管炎/Still病/SLE等の膠原病 薬剤熱/Infusion reaction/ 悪性症候群/輸血 侵襲熱 腫瘍熱(固形腫瘍・血液腫瘍) 熱射病
4. 抗菌薬の選択 経験的治療 ・重症度の軸 ・感染臓器、微生物をつめるという軸 最適治療  培養結果や臨床経過を基に  De-escalationを行う 抗菌薬は   必ず2回選ぶ !
5.     グラム染色 陽性球菌 陽性桿菌 陰性球菌 陰性桿菌 ブドウ状 連鎖状 黄色ブドウ球菌 表皮ブドウ球菌 αレンサ球菌 βレンサ球菌 肺炎球菌 腸球菌 嫌気性菌 上 下 ペプトストレプトコッカス フゾバクテリウム バクテロイデス クロストリジウム 市中 院内 腸内細菌科 大腸菌 クレブシエラ プロテウス インフルエンザ桿菌 緑膿菌 アシネトバクター シトロバクター エンテロバクター セラチア 腸内細菌科 ブドウ糖非発酵菌 淋菌 髄膜炎菌 モラキセラ
6. ペニシリン系 [PCG] [ABPC] [AMPC] [PIPC] [ABPC/SBT] [PIPC/TAZ]
7. セフェム系 [CEZ] [CTM] [CMZ] [CTRX] [CTX] [CAZ] [CFPM] GNR 第4世代 = 第1 + 第3 GPC Pseudomonasのカバーあり
8. キノロン系 ・緑膿菌に対する抗菌作用は最も優れる ・GPCのカバー良好 ・異型肺炎にも抗菌作用を示す ・肺炎球菌に対する抗菌活性は  LVFXより優れる ・緑膿菌にはあまり効かない
9. 呼吸器感染症 尿路感染症 中枢神経感染症 皮膚・軟部組織感染症 骨・関節の感染症 消化器感染症 循環器・血流感染症 発熱性好中球減少症 真菌感染症 HIV感染症  
10.   肺炎
11. 86歳男性 「1週間前からの発熱と咳嗽」  来院1週間前から発熱と喀痰,咳嗽の症状が  出現し,市販の総合感冒薬で経過をみていたが,  なかなか解熱が得られず,症状の改善を  認めないため当院外来を受診した.  
12.   呼吸音の「ふつう」 Cracklesの分類
13.   呼吸音の「ふつう」 Cracklesの分類
14.  正常呼吸音
15. 正常呼吸音を聴き分ける意義 気管支音化: 本来肺胞音●を聴取すべき場所で 気管支音●が聞こえること
16. 気管支音化のメカニズム 正常:空気があると音が減衰していき、   肺胞では低く、小さな音が聞こえる 肺炎:水があると音が伝わりやすく、 肺胞でも高く、大きな音が聞こえる
17. 聴診部位<前胸部>
18. 聴診部位<後面>
19.   呼吸音の「ふつう」 Cracklesの分類
20. 一般的なcracklesの分類
21. Aschoffの細葉 Frank H. Netter Atlas of Human Anatomy 気管支 肺胞 間質
22. cracklesの分類
23. Early to mid inspiratory crackle
24. Pan inspiratory crackle
25. Late inspiratory crackle ※障害された肺胞が遅れて開く音なので、後期に聞こえる ➡︎後期になるにつれて、音が大きくなる(クレシェンド)
26. 肺炎の治療経過における呼吸音の変化について 肺炎の治療が進むと、呼吸音が   pan inspiratory crackle → early to mid inspiratory crackle → late inspiratory crackle へと変化するため、  聴診で治療経過をみることができる。
27. 86歳男性 「1週間前からの発熱と咳嗽」  来院1週間前から発熱と喀痰,咳嗽の症状が  出現し,市販の総合感冒薬で経過をみていたが,  なかなか解熱が得られず,症状の改善を  認めないため当院外来を受診した.  
28. 意識清明 体温38.5℃, 血圧124/82mmHg, 脈拍110/分, 呼吸数18/分, SpO2 96%(室内気) 身体所見 左背側でpan-inspiratory crackles聴取 血液検査 WBC 13000/µl, CRP 6.4mg/dl, BUN 15.6mg/dl, Cr 0.82mg/dl
29.  
30. 胸部単純X線写真の読み方 ①撮影条件  撮影体位 撮影方向  管球の高さ・電圧 斜位の有無 吸気 ②骨軟部陰影  乳房 肋骨 鎖骨 頚部軟部組織 頚胸椎 ③中心陰影  気管・気管分岐部 心胸郭比 肺門部  A-P window 気管分岐角 右傍気管支線 ④横隔膜周囲  横隔膜 CP angle Free air  胃泡 大腸ガス 実質臓器 ⑤肺野  浸潤影・すりガラス陰影・網状影
31.   ①撮影条件 患者プロフィール:患者名・年齢・性別 撮影体位:立位?座位?仰臥位? 撮影方向:正面?側面? PA(posterior-anterior)?AP? 管球の高さ:適切か?  左右鎖骨胸骨端が第4肋骨の後方陰影と重なっていれば適切 管球の電圧:適切か?  特に棘突起の輪郭が明確に見えれば適切 斜位の有無:正面?右前斜位?左前斜位?  棘突起が鎖骨頭の中間に位置していれば正面 吸気:十分か?  第10肋骨の後方陰影が追えれば十分吸気できていると考える
32.   ②骨軟部陰影 時計回りに「の」の字で確認していく ③中心陰影 中心陰影: 拡大・偏位がないか? 気管~気管分岐部: 偏位がないか? 大動脈と心臓:心胸郭比は? 肺門部:肺動脈・肺門部リンパ節に異常はないか? 右乳房→右肋骨→右肩甲骨→右鎖骨 頚部軟部組織 皮下気腫・甲状腺腫大 左鎖骨→左肩甲骨→左肋骨→左乳房 頚胸椎 側弯・圧迫骨折
33.   ③中心陰影(続き) A-P window (Aortic Pulmonary window):消失していないか?  上行大動脈リンパ節・左半回神経・左気管支動脈・動脈管等が存在  → 左肺門部肺癌/リンパ節腫大    反回神経腫瘤    大動脈瘤等の中縦隔の異常で消失 正常 A-P window 消失
34.   ③中心陰影(続き) 気管分岐角:開大していないか?   正常は50-100度 → 気管分岐部腫瘤   リンパ節腫大   左房拡大  で開大
35.   ③中心陰影(続き) 右傍気管支線 (paratracheal stripe): 拡大はないか? 鎖骨の高さから右上葉気管支上縁の高さまでの気管の右壁が  数mmほどの厚さの線状影として描出される 右上葉と気管の右側壁に囲まれる 立位で4mm以上で  - 脂肪腫  - 傍気管リンパ節腫大  - 気管腫瘍  - 甲状腺・副甲状腺腫瘍  - 胸膜病変  - 肺腫瘍   を疑う 正常 右傍気管支線消失
36.   ④横隔膜周囲 横隔膜:高さ?平坦化?  右の方が左より1肋間高い CP angle:sharp?dull? Free air 胃泡・大腸ガス(肝弯曲部・脾弯曲部) 実質臓器(肝臓・脾臓)
37.   ⑤肺野 上肺野 鎖骨胸骨端上縁から 第2肋骨前端の下縁 中肺野 第2肋骨前端の下縁から 第4肋骨前端の下縁 下肺野 第4肋骨前端の下縁以下
38. 86歳男性 「1週間前からの発熱と咳嗽」  来院1週間前から発熱と喀痰,咳嗽の症状が  出現し,市販の総合感冒薬で経過をみていたが,  なかなか解熱が得られず,症状の改善を  認めないため当院外来を受診した.  
39. 意識清明 体温38.5℃, 血圧124/82mmHg, 脈拍110/分, 呼吸数18/分, SpO2 96%(室内気) 身体所見 左背側でpan-inspiratory crackles聴取 血液検査 WBC 13000/µl, CRP 6.4mg/dl, BUN 15.6mg/dl, Cr 0.82mg/dl 胸部単純X線写真:  左下肺野に気管支透亮像を伴う浸潤影あり 喀痰グラム染色: 好中球の貪食像を伴うグラム陽性双球菌多数あり
40. 肺炎診療の基本 肺炎はまず「市中肺炎(CAP)」と「院内肺炎(HAP), 医療・介護関連肺炎(NHCAP)」を区別 市中肺炎をみたら細菌性肺炎か非定型肺炎かを判定 市中肺炎の入院適応は敗血症の有無と”A-DROP “を確認 院内肺炎, 医療・介護関連肺炎では患者背景を考慮 良くならない肺炎では感染症以外に注意
41.   市中肺炎 (CAP) 病院外で日常生活をしている人に発症する肺炎 院内肺炎 (HAP) 入院48時間以上経過した患者に新たに出現した肺炎 医療・介護関連肺炎 (NHCAP) 医療ケアや介護を受けている人に発症する肺炎 下記の定義項目を1つ以上満たす 1. 療養病棟に入院もしくは介護施設に入所している 2. 90日以内に病院を退院した 3. 介護を必要とする高齢者,身体障害者 4.通院で断続的に血管内治療(透析,抗菌薬,化学療法,免疫 抑制薬等)  を受けている
42.     日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」より
43. 細菌性肺炎 - 肺炎球菌(S.pneumoniae) - インフルエンザ桿菌(H.influenzae) - モラキセラ(M.catarrhalis) 非定型肺炎 - マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae) - レジオネラ(Legionella) - クラミジア(Chlamydophila pneumoniae)
44. 非定型肺炎の鑑別項目 1-5の5項目使用した場合 3項目以上合致した場合:非定型 2項目以下:細菌性 6項目使用した場合 4項目以上合致:非定型 3項目以下合致:細菌性 ※ Legionellaは含まない
45.
46. Mycoplasma Legionella Chlamydophila
47. 患者背景と起炎菌 器質的な肺疾患(COPD)→ H.influenzae, M.catarrhalis, S.pneumoniae 脾臓摘出の既往→ S.pneumoniae, H.influenzae 誤嚥のリスク(神経疾患など)→ 緑膿菌,嫌気性菌 大量飲酒家→ K.pneumoniae, S.pneumoniae, 嫌気性菌 小児との接触歴→ M.pneumoniae 頻回の入院歴や抗菌薬治療歴,高齢者施設入居者→ P.aeruginosa インフルエンザ感染後→ S.aureus 頻度増加 ( S.pneumoniae が最多) 温泉・24時間風呂→ Legionella 鳥類や動物との接触歴→ C.psittaci 透析中,低栄養,ホームレス,免疫抑制剤使用→ 結核菌 HIV感染者,免疫抑制患者→ Pneumocystis, Stenotrophomonas maltophilia Clin Infect Dis. 2007 Mar 1;44 Suppl 2:S27-72.
48.   肺炎球菌 モラキセラ・カタラーリス 緑膿菌 Polymicrobial pattern
49.   グラム陽性双球菌→ S.pneumoniaeを想定  AMPC 500-750mg 1日3-4回(内服)  ABPC 2g 6時間ごと(点滴) グラム陰性球桿菌→ H.influenzaeを想定  AMPC/CVA 375-750mg 1日3回(内服)  ABPC/SBT 1.5-3.0g 6時間ごと(点滴)  CTRX 2g 24時間ごと(点滴) グラム陰性桿菌(中型)→ K.pneumoniaeを想定  CTM 1g 6-8時間ごと(点滴)  CTRX 2g 24時間ごと(点滴) グラム陰性桿菌(小型)→ P.aeruginosaを想定  LVFX 500mg 1日1回(内服)  CFPM 1g 8時間ごと(点滴)
50.   Mycoplasma, Chlamydophilaを疑うとき  AZM 500mg 1日1回 (3日間)  MINO 100mg 1日2回 Legionellaを疑うとき  LVFX500-750mg 1日1回  AZM 500mg 1日1回 (7日~14日間) ※Legionellaに対してAZMよりLVFXの方が解熱期間が早い   Chest. 2005 Sep;128(3):1401-5.
51. 72歳男性 「3日前からの発熱,咳嗽,喀痰」 既往にCOPD,喫煙歴あり. 来院1週間前に温泉旅行から帰宅後,徐々に全身倦怠感が出現. 来院3日前から発熱,咳嗽,喀痰あり徐々に症状が  悪化した. 来院当日早朝から意識レベル低下したため救急要請し,当院救急外来受診した.  
52. 意識レベル JCSⅡ-10 体温39.0℃, 血圧88/40mmHg, 脈拍70/分, 呼吸数24/分, SpO2 86%(室内気) 身体所見 右肺でpan-inspiratory crackles聴取 血液検査 WBC 16500/µl, CRP 10.4mg/dl, Na 128mEq/l BUN 25.6mg/dl, Cr 1.28mg/dl, CK 656IU/l 胸部単純X線写真:  右下肺野全体に浸潤影あり 喀痰グラム染色: 口腔内の常在菌以外を認めず
53.  
54.   意識状態の変化(GCS<15) 収縮期血圧100mmHg以下 呼吸回数22/分以上 2点以上で 敗血症を疑う qSOFA
55. 「A-DROP」システム   日本内科学会雑誌第104巻第10号より引用
56.   レジオネラ肺炎 旅行先のホテル, 温泉施設, 病院, 循環風呂の給水, 入浴施設の汚染から集団発症する. どの年齢でも罹患するが, リスクとしては移植などの免疫不全, 透析中, 高齢, 慢性肝障害, アルコール依存症, 喫煙, COPDなどがある. 倦怠感, 頭痛, 筋肉痛で発症することが多い. 2-10日間の潜伏期間の後, 悪寒戦慄を伴った高熱があり, 急速に呼吸困難が進行する. 下痢や中枢神経症状も多い. 比較的徐脈もみられる. 肝機能異常, 低Na血症, CK高値を呈することがあり, 画像所見は多彩で一定ではないが, 原則肺病変ありきの病気である. 尿中レジオネラ抗原検査は有用だが, レジオネラ・ニューモフィラ血清型1のみを検出するため, その他のタイプであると検出できない. 治療はLVFXやMFLXなどのニューキノロン系, AZMなどのマクロライド系を使用する. 予後は不良で致死率は15-20%と高値であるため, 早急に治療する必要がある.
57. J Infect Dis 2002; 186: 127 L. pneumophila L. non-pneumophila
58. 94歳女性 「発熱,呼吸困難」 脳梗塞後寝たきりで施設入所中. 来院当日朝むせこみあり, その後昼頃から徐々に咳嗽と呼吸困難が出現した. 検温したところ38.3℃の発熱あり, 救急要請し当院救急外来を受診した.  
59. 意識レベル JCSⅡ-20 体温38.5℃, 血圧100/64mmHg, 脈拍114/分, 呼吸数24/分, SpO2 91%(室内気) 身体所見 右肺でpan-inspiratory crackles聴取 血液検査 WBC 18000 /µl, CRP 5.0 mg/dl, BUN 24 mg/dl, Cr 0.92 mg/dl 喀痰グラム染色: Polymicrobial pattern
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61.     HAPの重症度分類 日本内科学会雑誌第104巻第10号より