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糖尿病性腎症の定義と分類
#1. 糖尿病性腎症の捉え方 〜臨床上大事なのはアルブミン尿の有無〜 長澤@腎臓内科 1
#2. 今回のTips ✔ 現在の呼称は”糖尿病関連腎臓病” ✔ 病理学的分類がある ✔ 臨床分類はeGFRとuAlbが重要 2
#3. 糖尿病性腎症→糖尿病関連腎臓病 ✔ 糖尿病性腎症(Diabetic Nephropathy)→糖尿病性腎障害(Diabetic Kidney Disease: DKD)→糖尿病関連腎臓病(DKD)と呼称が変化 最新の呼称を使った方が良いと思います ✔ 大まかに糖尿病により腎臓が障害されているものの総称 3
糖尿病関連腎臓病の病理学的分類
#4. 糖尿病関連腎臓病の捉え方 ✔ 境界線は曖昧である CKD CKD with 糖尿病 糖尿病関連腎臓病 タンパク尿を伴わないeGFR↓ (古典的)糖尿病性腎症 アルブミン尿→タンパク尿→ネフローゼ症候群→eGFR↓ 4
#5. 病理学的な呼称(後にすると誰も読まないからここで解説) ✔ 本来は糖尿病性糸球体硬化症(Diabetic Glomerulosclerosis)と書く ✔ 名前の通り糖尿病的な変化と腎硬化症的な変化のブレンド具合で判断する ✔ もちろん他の腎疾患に糖尿病性変化が乗っかることがある事はある IgA腎症、膜性腎症など 5
#6. 世界的な病理学的な分類(2010Ranal Pathology Society) ✔ Class I: 糸球体基底膜肥厚(glomerular basement membrane thickening)→本当は電顕で確認する必要がある! GBM の厚さが9 歳以上の男性で430 nm,女性は395 nm を超える ✔ Class II:メサンギウム領域の拡大(a:軽度,b:高度) Mild mesangial expansion(IIa) Severe mesangial expansion(IIb) ✔ Class III:結節型硬化(nodular sclerosis) ✔ Class IV:球状硬化(advanced diabetic glomerulosclerosis) 糖尿病関連腎臓病が本当にない!というには、科学的には電顕でのチェックが必須だが、通常そこ までは行われない(病理系の論文に出すなら電顕までした方が良いと思う) 6
日本における腎病理の評価基準
#7. 日本の病理学的な分類(日腎会誌 2015;57:649-725) 糸球体病変 ✔ びまん性病変(メサンギウム拡大,基質増加)0-3 0:メサンギウム拡大なし、1:メサンギウム拡大≦毛細血管腔、2メサンギウム拡大=毛細血管腔、3:メサンギウム拡大≧毛細血管腔 ✔ 結節性病変(結節性硬化)0-1 みんな大好きなKimmelstiel-Wilson lesion→次頁で解説 ✔ 糸球体基底膜二重化・内皮下腔開大0-3 最も所見の強い糸球体において評価 ✔ ✔ 滲出性病変0-1 メサンギウム融解・微小血管瘤0-1 非特異的 ✔ 糸球体門部小血管増生0-1 非特異的 ✔ 糸球体肥大0-1 非特異的 このほかに尿細管病変、血管病変と合わせてスコア化 7
#8. 結節性病変=糖尿病性糸球体硬化症ではない 腎病理で結節性病変を来す疾患 ✓ アミロイドーシス(Congo Red陽性) ✓ MIDD(LCDDが多い) Monoclonal Immunoglobulin Deposition Disease, Light Chain Deposition Disease ✓ Idiopathic nodular glomerulosclerosis(喫煙者に多い、上記否定された場合) 上記疾患は見逃されている事が結構多い(そのため腎生検では誰が読んだ?がかなり重要。外注の場 合は特に注意が必要) じゃあどうやって、、、糖尿病性糸球体硬化症ならば尿細管の基底膜やボウマン嚢の基底膜が厚かったり、、細動脈の硝子様変化があったり、、などを考えて総合的に 判断しておきます。他にもImmunotactoid Glomerulopathy(激レア、線維沈着)、Fibrillary Glomerulopathy(激レア、線維沈着)、Fibronectin glomerulopathy な(激レア、線維沈着)疾患はある、結節と言うより膜性増殖性のパターンをとる事が多いが、細胞増殖が少ない分葉構造がある場合には結節様にみえる 8
#9. 病理と臨床像はしばしば解離! ✓ 腎病理をみても臨床像の推定は困難(eGFR、uAlb) ✓ 膵臓移植で病理学的にも改善した N Engl J Med. 1998 Jul 9;339(2):69-75 ✓ 2型糖尿病でも集学的治療で寛解、組織も改善という報告 はある Nephrology Frontier 2009;8巻1号:81-84 ✓ では何のために腎生検? 1つには他疾患の除外 9
臨床的評価とアルブミン尿の重要性
#10. 腎病理スコア化で腎予後の精度↑ ✔ 原則:病理学的なスコアリングは臨床的予後とリンクするべき ✔ そのために、単純に形態的な違いで分類するだけではなく、臨床的な予後に差 があるか?と捉える必要がある ✔ 前のページの分類の妥当性を検証した研究はこちら Nephrology(Carlton)17:68‒75, 2012、PLoS One 13 : e0190930, 2018、.PLoS One 13 : e0190923, 2018など ✔ そのために、「腎予後の判定の為の腎生検」というのはプロなら行う事がある 若年者でいつ頃腎代替療法が必要か?高齢者で寿命までに腎予後がありそうか?など 10
#11. 臨床的にはeGFRとuAlb ✔ 全例腎生検はしないので、臨床的にはeGFRの推移とuAlbで病期を判断していく ✔ 2023年より糖尿病関連腎臓病の分類は下記 病期 uACR(mg/gCre) eGFR 正常アルブミン尿期(第1期) UACR<30 >30 微量アルブミン尿期(第2期) UACR 30-299 >30 顕性アルブミン尿期(第3期) UACR>30 or UPCR>0.5 >30 GFR高度低下、末期腎不全期(第4期) 問わない <30 腎代替療法期(第5期) 透析療法中or移植 uACR:尿中アルブミン・クレアチニン比 日腎会誌 2023;65:847‒856. 11
#12. 糖尿病、試験紙(-)→アルブミン尿定量 「早期糖尿性腎症」 で3か月に1回 糖尿病あり 試験紙法 試験紙では少ないアルブミン尿は 検出できない up(-) up(+/-) 試験紙だけだと見逃す! 尿中アルブミン定量を! 尿中たんぱく定量を!(g/gCre) 試験紙 微量アルブミン(%) 顕性アルブミン(%) ー 10.1 0.4 +/ー 59.3 1.2 1+ 63.9 6.6 2+ 40.6 50.0 3+ 90.9 9.1 +/-でこんなに微量アルブミン尿がいる! Clin Exp Nephrol. 2007 ;11(1):51-5
uAlbと心血管リスクの関連性
#13. 誤解を恐れずに言うならば 2023-2024年の診療レベルで 「血糖降下薬を出しているにもかかわらず、尿アルブミンを測っ ていない」のは偏差値50未満の診療である 自分や自分の家族が偏差値50未満に治療受けたいですか?
#14. 何故uAlbが重要か? • CVDのマーカーとして有用 • 腎症の進展のマーカーとして有用 • 非専門医はuAlbをターゲットにした治療が確実かつ有用! 保険診療上は「早期糖尿病性腎症=第1、2期」で3ヶ月に1回測定可能」 (非糖尿病は保険では苦しい) • 顕性蛋白尿は原則専門医紹介!
#15. uAlbと心血管イベントやRRT • uAlb↑で心血管イベント↑RRTのリスク↑ • eGFR↓で心血管イベント↑RRTのリスク↑ • eGFRとuAlbの組み合わせでより強力なマーカー NA mA MA 60 RRT:腎代替療法(Renal Replacement Therapy) NA:Normoalbuminuria (0-29mg/gCre) mA:microalbuminuria(30-299mg/gCre) MA:macroalbuminuria(≧300mg/gCre) eGFR 0 eGFR↓、uAlb↑でイベントが爆発的に増える。 ※大体においてeGFRは測っているのでここにuAlbを加える!
アルブミン尿の進展と腎機能低下
#16. 基本的にはuAlb→uPへ進展 • アルブミン尿が徐々に増えていき、顕性蛋白尿になる事が大半! • いきなり顕性蛋白尿が出ている場合には、腎疾患を想定する(IgA 腎症、膜性腎症など) • 上記の為にも「いつまで検尿が問題ないか」も大事
#17. uAlbとeGFRの関係 観察年数 アルブミン尿-0.22 ml/min/1.73m2/year (-2.22 – 2.01) 一般住民 -0.36 ml/min/1.73m2/year アルブミン尿+ -2.68 ml/min/1.73m2/year (-6.15 – 0.56) eGFR 試験紙(-)でもこのようにuAlbが隠れており進行が早い症例が 存在する!→だからuAlb定量が必要! BMJ Open Diabetes Res Care. 2020 Mar;8(1):e000902 J Am Soc Nephrol. 2006 May;17(5):1444-52. から作図 ここは問題ない。 臨床的には 年に1未満のeGFR低下 は認識できない ここはかなり問題 5年で10以上 eGFRさがる
#18. uAlbがないけど、eGFR低下が早い症例は? • 確かに一定数存在するが、uAlb多くてeGFR低下が早い症例の方が 圧倒的に多い 私見では9割以上 • 糖尿病で加療中なのにuAlbを測定せずに、uAlb陰性と言っている のは問題 試験紙(−)はアルブミン尿陰性ではない
正常な腎機能低下速度とその影響
#19. 正常な人の腎機能低下速度 eGFR(ml/min/1.73m2)の年あたりの低下速度 • 日本の住民レベル 0.36 小さな変化なので • eGFR 40-50 0.8-1.2 過去のデータを年に1回は見直す • eGFR 30-39 2.0-3.3 これを逸脱してeGFRの低下が早いときは紹介を検討 Hypetens Res 2008;31:433-441 GFR 図はイメージ 50から加速し、40をきると転げ落ちる。 50 40 eGFR<30あたりから、薬の制限、腎性貧血、アシドーシス、 P、Ca代謝異常など色々起こる これらがでてくるとフォローの間隔を調整する必要がある。 50 60 70 80 90 年齢
#20. uAlb↓には血圧が大事! (RAA使ってまず140/90mmHgを達成!) アルブミン尿へ改善 顕性蛋白尿への進展 50% 50% 40% 40% 30% 30% 20% 20% 10% 10% 0% 0% <120 120-129 130-139 >140 ここがコスパが高い これ以上下げると過降圧など懸念↑ <120 120-129 130-139 >140 最近は死亡率の観点からここまでは下げない Diabetes Care 2005; 28: 2733-2738から作図
DKD治療の最新ガイドライン
#21. 血糖も脂質も一緒に良くする! 血圧、脂質、血糖未達成を1とした時のUP寛解のOdd Ratio 7 血圧<130/80mmmHg 脂質 TC <200mg/dl TG<150mg/dl HDL>40mg/dl 6 5 4 血糖 HbA1c<7.0% 3 3個達成がとても大事! 禁煙も加えると尚良い 2 1 0 0 1 2 3 続報でeGFRの低下抑制、 心血管イベント↓ Diabetes. 2005 Oct;54(10):2983-7 Diabetes. 2007 Jun;56(6):1727-30.より作図
#22. 強化療法の効果(J-DOIT3) 有意差がついたもの ・脳血管イベント -58% ・腎症 -32% ・網膜症 -14% 有差無し ・下肢血管 -11% ・冠動脈 -14% ・総死亡 1% 個人的な解釈は下記 ・コントロール群でも相当イベント数が少ない ・SGLT2阻害薬はほとんど使われていない ・高齢者のエントリーは少ない(平均年齢59歳) ・低血糖は少ない などあるが、いろいろ頑張れば頑張るほど「腎臓は守れる」 可能性が高くなる。 Ueki K, et al.: Lancet Diabetes Endocrinol. 2017;5: 951-964
#23. DKDの治療2024最新バージョン • 血圧、血糖などの目標の確認 • アルブミン尿が減るところまで薬物療法追加 1.ACEi/ARB 2.SGLT2阻害薬 3.MRA 4.GLP1-RA(データは不十分。肥満かつ血糖が目標に達していない場合) 上記に加え肥満の是正、禁煙、ライフスタイルの改善 その内「糖尿病の治療を受けていたが、アルブミン尿などは測られておらず目標値の話もされなかったために合併症が生じた」なんていう医療裁判は 増えてもおかしくないと思っている。実際に判例は存在する→東京地裁平成15年5月28日判決 厚労省の『糖尿病性腎症重症化予防に関する事業実施の手引き』P07に「微量アルブミン尿→医療機関で診断」と明示されている以上 現代の医療水準としてuAlbは必須と認識しておいた方が良いと捉えている
糖尿病関連腎臓病の寛解可能性
#24. 糖尿病関連腎臓病はどのレベルまで寛解するか? • ネフローゼレンジは基本的には腎予後は不良 余命とのバランスが勝負。このレベルでも寛解になった症例報告はあるが、『症例報告となるレベル』の頻度と捉えた方が良い • 顕性蛋白尿で五分五分 フルにキードラッグ薬が入っているか?にもよるが、十分にキードラッグが入っているにもかかわらず、尿タンパクが1g/gCreを切れな いときはeGFRの低下速度は早い • 微量アルブミン尿は十分勝ち目がある 基本的にはここをターゲットとして加療するのが良いと考えている。個人差は大きいが油断するとあっという間に顕性蛋白尿になる事が ある(だからといって、超高齢者、肺炎や尿路感染症、悪性腫瘍の治療で入院中の患者にアルブミン尿を測定して腎臓内科に相談しろ、 と言う話ではない、あくまで外来の主治医が考えるべき事)