#4.
あなたならどうしますか? ? 救急隊からの第一報 到着まであと 5 分 82 歳 女性 施設入所中 ADL は車いす
昨日から食事量が減り 今朝から呼びかけに反応が鈍い
体温 38.4℃ 血圧 88/52 脈拍 118 整 呼吸数 28
SpO₂ 92%(室内気) JCS Ⅰ-3
既往:高血圧・認知症 留置カテーテルあり この 5 分で 何を予測し 何を準備するか
少しだけ考えてみてください
#5.
3 つのポイントで予測する 最も考えられる 敗血症
(尿路・肺炎・軟部組織)
施設入所+カテーテル
= 尿路感染が筆頭候補 見逃すと危険 敗血症性ショック
低血糖・髄膜炎
大動脈・消化管穿孔
「発熱+意識低下」を
感染と決めつけない 到着直後に必要な処置 末梢ルート 2 本
血液培養 2 セット
細胞外液の急速投与
酸素・モニター
血液ガス(乳酸) ✓ 前半の「3 つのポイント」を
そのまま敗血症疑いに当てはめる 「高齢+発熱+意識低下+血圧低め」= 敗血症性ショック前提で動く
#6.
3 項目で準備する 敗血症版 人員 ☐ Dr1+Ns2 リーダー決め
☐ 「ショック疑い」で招集
☐ 技師に血培・血ガスの一報
☐ 補助者に搬送・体位 場所 ☐ モニター付きの処置室
☐ 隔離の要否(咳・痰)
☐ ベッド周りの導線
☐ ICU/HCU の空床確認 物品 ☐ 末梢ルート 18〜20G ×2
☐ 血培 2 セット+採血管
☐ 細胞外液 1L
☐ 酸素・血ガス・NAd 希釈 ✓ 全部出せばいいわけじゃない この患者に要るものを ノルアドレナリンは希釈して手元に
感染のフォーカスを考えて、抗菌薬は「何を打つか」まで想定する
#7.
到着前の 30 秒ブリーフィング とある例 前半の 5 項目(患者像・目標・役割・危険な変化・悪化時)で 30 秒
「誰が何を」と「何が起きたら止まるか」を伝える
#8.
患者像 82歳女性 発熱と意識低下 血圧低め 尿路感染からの敗血症性ショック疑い 目標 到着から1時間以内に 血培 → 抗菌薬 輸液1Lを入れ切る 役割 Aさんルート+血培 Bさんモニター+記録 医師が評価と指示 危険な変化 sBP 90未満が続く 意識レベルの低下 SpO₂ 90未満 悪化したら 末梢からノルアドレナリン開始 ICUに一報 気道確保の準備 到着前の 30 秒ブリーフィング ある一例
#9.
敗血症の定義 Sepsis-3 「感染に対する生体反応が調節不能な状態となり
重篤な臓器障害が引き起こされる状態」 診断基準 感染症 もしくは
感染症の疑い + SOFA スコア
2 点以上の急上昇 ✓ 日本版敗血症診療ガイドライン 2024(J-SSCG 2024)も Sepsis-3 を踏襲 ER では「感染らしさ」+「臓器障害」の 2 軸で疑う Singer M, et al. JAMA 2016;315:801-10. 日本版敗血症診療ガイドライン 2024
#10.
quick SOFA ── ベッドサイドで使える 3 項目 qSOFA ✓ 意識状態の変化
✓ 呼吸数 22 回/分 以上
✓ 収縮期血圧 100 mmHg 以下
✓ 2 つ以上で「敗血症疑い」 診断基準ではない あくまでスクリーニング
ER での重症敗血症の検出感度は
32% との報告
SOFA はそもそも臓器障害を
評価するツール ✓ さっきの症例は 3/3 でも 1/3 でも「疑い」は捨てない
✓ J-SSCG 2024:qSOFA は感度が低い可能性 SIRS・NEWS も含めて評価を
✓ qSOFA は「感染症かどうか」を判断するツールではない qSOFA が低くても「感染らしい+なにか変」なら敗血症として動く Seymour CW, et al. JAMA 2016;315:762-74. Askim Å, et al. Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2017;25:56.
#11.
敗血症診断の流れ ── J-SSCG の考え方 感染症の疑い qSOFA ≧ 2 ? SOFA が 2 点以上上昇?(臓器障害) 敗血症 敗血症性ショック YES YES YES YES NO モニタリング
感染症と全身状態を時系列で評価 NO モニタリング
臓器障害の再評価を続ける ショックの判定(2 つとも) ① 十分な輸液をしても MAP 65 mmHg 以上の維持に血管収縮薬が必要
② 乳酸値 2 mmol/L(18 mg/dL)超 qSOFA < 2 でも モニタリングをやめない 日本版敗血症診療ガイドライン 2024 の診断フローをもとに作成
#12.
#13.
発熱の定義は様々… 「38℃以上」は根拠が薄い 1/3 高齢者の 3 人に 1 人は
発熱が目立たない Norman DC. Clin Infect Dis 2000 ✓ 高齢者は基礎体温が低く 同じ感染でも体温が上がりにくい
✓ 「38℃ないから感染ではない」は成り立たない
✓ 低体温(36℃未満)はむしろ重症のサイン 発熱がなくても 低体温でも 感染を鑑別から外さない O'Grady NP, et al. Crit Care Med 2008;36:1330-49. Norman DC. Clin Infect Dis 2000;31:148-51.
#14.
高齢者の感染症は 発熱がないことが多い 「老いた、ボケたは感染症!」 ✓ お:嘔吐 感染症では化学受容体が刺激される
✓ い:息切れ qSOFA の頻呼吸に注目
✓ た:立てない・倒れやすい・だるい
全身倦怠感は重要なサイン
✓ ボケた:意識変容 中枢性疾患・低血糖・
慢性硬膜下血腫との鑑別 臓器非特異的な症状の急性経過(数時間〜数日)
発熱がなくても 感染症を鑑別に入れる 引用)林寛之『Dr.林の高齢者救急・急変お助け本』/レジデントノート 2021;23(13)
#15.
高齢者の感染症を見抜く 観察のポイント 悪寒戦慄と経口摂取量 ✓ 悪寒戦慄があれば菌血症のリスク
12 倍 陽性尤度比 4.7
✓ 40℃以上の発熱より
悪寒戦慄の有無のほうが菌血症を示す
✓ 経口摂取が 8 割以上あれば
菌血症は否定的 5 分前に救急隊へ聞きたい一言 「震えていましたか?」
「いつから食べていない?」
「普段の意識・ADL は?」 ✓ 「普段と違う」をきちんと拾う
施設スタッフ・家族の違和感を大事に
✓ 救急隊からの追加確認にも使える 5 分前だからこそ聞ける 「震え」と「食べているか」で 菌血症のあたりをつける Tokuda Y, et al. Am J Med 2005;118:1417. Komatsu T, et al. J Hosp Med 2017;12:510-5.
#16.
感染源の検索 ── Common な部位から 日本の ICU 入院 敗血症患者 1,184 人の感染源(FORECAST 研究) ✓ 肺・腹部・尿路・
軟部組織で約 9 割
✓ 機能/構造異常のある
部位をチェック
✓ あるはずのものがない:
嚥下・排尿・皮膚
✓ ないはずのものがある:
結石・腫瘍・カテーテル この症例:留置カテーテル → まず尿路 でも決め打ちしすぎない
肺・腹部・皮膚(仙骨部・踵)を Top to bottom で一周する Abe T, et al. Crit Care 2018;22:322.
#17.
身体診察の Pit Fall ── 看護師が第一発見者になりうる ✓ 見えない・カバーされている部分(背部・殿部)
✓ ドレッシングされている創部やカテーテル刺入部
✓ パルスオキシメーターで隠れている指(感染性心内膜炎)
✓ 痰やドレーンの排液を見ない
✓ 圧がかかる部位(後頭部・踵・仙骨部)を見ない
✓ 時間節約のためにシステマティックな診察を省く 更衣・清拭・体位変換のタイミングは 最高の「感染源チェック」
見つけたら「ここ、赤いです」の一言で医師の診察が変わる
#18.
抗菌薬が 1 時間遅れるごとに 生存率が下がる 79.9% 低血圧から 1 時間以内に
抗菌薬を投与した患者の生存率 −7.6% 遅れる 1 時間ごとに
生存率が低下(6 時間まで) 50% 6 時間以内に投与されたのは
半数だけ 中央値 6 時間 ✓ 敗血症性ショック 2,731
人の後ろ向きコホート(カナダ・米国 14 ICU)
✓ 時間の起点は「低血圧の発症」 到着ではない
✓ 遅れの多くは「培養を待つ」「ルートを待つ」「指示を待つ」 「到着 5 分前」の準備は この 1 時間を縮めるためにある
血培 → 抗菌薬 のあいだに検査結果を待たない Kumar A, et al. Crit Care Med 2006;34:1589-96.
#19.
初期治療バンドル ── J-SSCG 2024 直ちに 微生物検査 ☐ 血液培養(2 セット)
☐ 感染巣(疑い)から検体採取 直ちに 抗菌薬 ☐ 適切な経験的抗菌薬投与 可及的速やかに 感染巣対策 ☐ 感染巣の探索
☐ 感染巣のコントロール 直ちに 初期蘇生 ☐ 初期輸液(調整晶質液)
☐ ノルアドレナリン(低血圧を伴う場合に初期輸液と並行して早期に)
☐ 乳酸値測定(繰り返す)
☐ 心エコー(繰り返す)
☐ ショックが初期輸液で改善しない場合 集中治療が安全に遂行できる場所へ 追加 ショックに対する追加薬剤 ☐ バソプレシン
☐ ヒドロコルチゾン 敗血症を疑った際には 直ちに開始
検査結果を待たずに 血培 → 抗菌薬 → 輸液 → ノルアドを並行で 日本版敗血症診療ガイドライン 2024 初期治療バンドルをもとに作成
#20.
ソースコントロール ── 感染源を同定したら速やかに 流れが詰まる・よどむ 閉塞性腎盂腎炎
閉塞性胆管炎/胆嚢炎
→ ドレナージ 菌の供給源がある カテーテル感染
感染性心内膜炎
消化管穿孔
→ 抜去・手術 血流がない(壊死・膿瘍) 壊死性筋膜炎
深頸部膿瘍・膿胸
→ デブリドマン・ドレナージ ✓ 抗菌薬が届かない場所には 物理的に手を入れるしかない
✓ J-SSCG 2024 CQ1-8:感染源を同定後 可能な限り速やかに この症例:留置カテーテルの入れ替え + 腎エコーで水腎症を見る
水腎症があれば泌尿器科へ 閉塞を解除しないと抗菌薬は効かない
#21.
ショック ≠ 血圧低値 バイタルサインのみでショックを判断しない
血圧が保たれているうちに 脈・呼吸・尿量・意識で気づく ATLS 出血性ショック分類(出血以外のショックでも代償の考え方は同じ) 若い人は代償が効く
高齢者は「普段の血圧」が高い
Shock Index(HR/sBP)>1 は要注意
#22.
ショックは 3 つの窓で見抜く Pickard A, et al. Anesth Analg 2011;113:120-3. Lima A, et al. Crit Care Med 2009;37:934-8. Ait-Oufella H, et al. Intensive Care Med 2011;37:801-7. 中枢神経 意識の変化 落ち着きのなさ 傾眠 腎臓 尿量 0.5ml/kg/h 未満 留置カテなら毎時チェック 皮膚 蒼白・冷汗・湿潤 CRT>2秒 mottling(網状皮斑) CRTは乳酸値より早い指標
ICUで血圧安定後も CRT 4.5秒以上は臓器障害のリスク
mottling は膝から始まり スコアが上がるほど死亡率↑
#23.
敗血症性ショック ── まずは輸液負荷 輸液負荷 血管が拡張し 血管外へ漏れ出す
→ まず「血管内」を満たす 次に「血管を締める」 ! 5分前に細胞外液を加温して加圧バッグに 到着したら「入れながら」評価する
#24.
初期輸液の速度と量 ── J-SSCG 2024 CQ3-5 ✓ 循環血漿量の適正化を目標に
✓ 晶質液 30 mL/kg 以上を 3 時間以内 60 kg なら 1,800 mL
✓ 乳酸値・輸液反応性を見ながら 500 mL ずつ ✓ いつからノルアドレナリンを併用するか 明確な根拠はない
✓ 過剰輸液の害(肺水腫・腎うっ血)を考えつつ 遅らせない 「入れ切ってから昇圧薬」ではなく 反応が乏しければ並行して始める 日本版敗血症診療ガイドライン 2024 CQ3-5 Evans L, et al. Crit Care Med 2021;49:e1063-143.
#25.
#26.
敗血症に対する昇圧薬 ── J-SSCG 2024 CQ3-6, 3-7 「中心静脈路がないから打てない」で 30 分失わない 希釈液を 5 分前に用意 De Backer D, et al. N Engl J Med 2010;362:779-89. Tian DH, et al. Emerg Med Australas 2020;32:220-7. Evans L, et al. Crit Care Med 2021;49:e1063-143. 第一選択:ノルアドレナリン
第二選択:バゾプレシン ドパミン? → ノルアドレナリンのほうが28日死亡率を改善し 不整脈が少ない
アドレナリン・ドブタミン? → 輸液+ノルアドで維持できないときに弱く推奨 末梢静脈路から早期投与OK
0.1–0.2γ程度まで 1–2日であれば許容 肘窩に近い太い静脈から
Ballieu P, et al: J Intensive Care Med 2021;36:101/SSCG2021
#27.
循環の指標としての乳酸値 ── なぜ Lac が上がるのか 初回の血ガスで乳酸を測り 2 時間後に再検 「下がったか」で治療を見直す
肝障害・けいれん・アドレナリン投与でも上がる 解釈は病態とセットで Jansen TC, et al. Am J Respir Crit Care Med 2010;182:752-61. 乳酸値をモニターしたほうが
院内死亡率が低い
下がらない ≒ ショックの遷延
Am J Respir Crit Care Med 2010;182 嫌気性代謝 = Lac↑
酸素の需要供給バランスの
破綻を示唆する可能性
#28.
具体的なアクションプランの一例 リンゲル液 500〜1,000 mL ボーラス MAP < 65 が遷延 ノルアドレナリン 0.1 μg/kg/分 で開始
0.01〜0.02 μg/kg/分 ずつ増減 ノルアド ≧ 0.2 でも MAP < 65 が遷延 バソプレシン 1.8 単位/時 ± ヒドロコルチゾン 50 mg/6 時間ごと(200 mg/日)
ノルアドレナリン適宜増量(頻脈性不整脈に注意) リンゲル液 30 mL/kg 投与後も MAP < 65 が遷延 輸液反応性を評価
輸液チャレンジ or 受動的下肢挙上(PLR)など 反応性あり 反応性なし 輸液ボーラス
(再評価を繰り返す) ノルアド増量 or
アドレナリン/ドブタミン リンゲル液は
30 mL/kg を目安に継続
(肺水腫に注意) 三谷雄己『みんなの救命救急科』中外医学社 の図をもとに作成
#29.
症例に戻る ── 到着からの 60 分 −5 分 第一報 予測と 3 項目準備 30 秒ブリーフィング 0 分 第一印象:呼びかけに開眼 末梢冷たい CRT 4 秒 → ショックとして扱う 5 分 ルート 2 本 血培 2 セット+血ガス(乳酸 4.2) 細胞外液を全開で開始 酸素 15 分 尿路感染を想定した抗菌薬を投与 腎エコー カテーテル入れ替え 30 分 1L 入れても sBP 84 → 末梢からノルアドレナリン 0.05γ 開始 60 分 2L・NAd 0.1γ で MAP 68 乳酸再検 3.0 ICU へ連絡 家族へ説明 5 分前の準備が 到着後の 60 分 にとってとても大切!
#30.
まとめ 5 分前チェックリスト 敗血症版 ✓ 第一報で「高齢・発熱(or 低体温)・意識変容・血圧低め」
→ 敗血症性ショック前提
✓ 予測:最も考えられる/見逃すと危険/到着直後の処置 の 3 点で
✓ 到着後:ショックは血圧だけで判断せず 意識・尿量・皮膚で見抜く
✓ 1 時間以内に 血培 → 抗菌薬 → 30 mL/kg 乳酸を 適宜再検 5 分前の「型」は同じ 中身を敗血症に置き換えてみよう
#31.
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#32.
Thank you ご参加ありがとうございました