テキスト全文
周術期予防的抗菌薬の総論と目的
#2. 周術期予防的抗菌薬の総論 ●目的は手術部位感染(SSI)発生率の減少
・組織中で十分な殺菌作用を示す抗菌薬濃度の維持
・感染を引き起こさないレベルまで細菌量をコントロール
※完全な無菌化を目指さない!
●切開部位・皮膚の消毒・確実な清潔操作
術後管理など多角的なSSI予防策の1つにすぎない 手術部位や症例に応じて
テーラーメイドな投与計画を設計 参考)日本化学療法学会,日本外科感染症学会. 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 2016年.
抗菌薬選択・投与タイミングの目次
#3. 目次 ①抗菌薬選択
②投与タイミング
③投与量/投与間隔 引用) Life Support and Anesthesia(LiSA) 2022 VOL.29 NO.3 MEDSi出版
#4. 目次 ①抗菌薬選択
②投与タイミング
③投与量/投与間隔 引用) Life Support and Anesthesia(LiSA) 2022 VOL.29 NO.3 MEDSi出版
手術別の抗菌薬選択とその理由
#5. 引用)日本化学療法学会,日本外科感染症学会. 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 2016年. 手術別の術中汚染菌と抗菌薬の選択
#6. 主な抗菌薬①
セファゾリン(CEZ) ●基本的には皮膚の常在菌で
皮膚軟部組織感染症の主要な原因菌
黄色ブドウ球菌とレンサ球菌をカバー
●嫌気性菌群の関与がある手術部位(口腔・大腸など)
かどうかを考慮しカバーを拡大
➡CEZ以外の抗菌薬を選択
※CEZは耐性のない腸内細菌科(大腸菌など)の一部までカバー可能
参考)日本化学療法学会,日本外科感染症学会. 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 2016年.
#7. 主な抗菌薬②
セフメタゾール(CMZ) ●下部消化管手術では腸管内に存在する
Bacteroidesや腸内細菌科のカバーが必要
※CEZとメトロニダゾール(MNZ)の併用も可
参考)日本化学療法学会,日本外科感染症学会. 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 2016年.
#8. 主な抗菌薬③
スルバクタム/アンピシリン(SBT/ABPC) ●口腔や気管が開放される頭頸部・呼吸器手術では
口腔内の嫌気性菌群
(Peptococcus・Peptostreptococcusなど)もカバー
参考)日本化学療法学会,日本外科感染症学会. 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 2016年.
Βラクタム系アレルギーと代替抗菌薬
#9. Βラクタム系アレルギーの症例は… ●セファゾリンの代替➡クリンダマイシン
・腸内細菌科に無効(上部消化管手術など)
➡ゲンタマイシンなどアミノグリコシドを併用
・嫌気性菌群へのカバー不十分
➡メトロニダゾールを検討
※クリンダマイシンの代わりにグリコペプチドが用いられる場合も
参考)日本化学療法学会,日本外科感染症学会.
術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 2016年.
#10. 鼻腔培養でMが出てます… 【グリコペプチド系抗菌薬追加の適応考慮】
●MRSA保菌者(鼻腔培養など)
●手術部位からMRSAが検出
●β-ラクタム薬アレルギー患者
インプラント挿入術などにおいて
同一施設でMRSAによるSSIの集団発生が
認められた場合も検討
参考)日本化学療法学会,日本外科感染症学会.
術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 2016年.
周術期抗菌薬選択の注意点と目次
#11. 周術期予防的抗菌薬選択の注意点 ●完璧なカバーを目指した広域抗菌薬は避ける
●手術部位から常在細菌以外の細菌が検出
➡その細菌に活性を有する抗菌薬を選択
●術前1か月以内に抗菌薬使用歴
➡抗菌薬耐性獲得の関与も検討
参考)日本化学療法学会,日本外科感染症学会. 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 2016年.
#12. 目次 ①抗菌薬選択
②投与タイミング
③投与量/投与間隔 引用) Life Support and Anesthesia(LiSA) 2022 VOL.29 NO.3 MEDSi出版
投与タイミングとVCMの注意点
#13. 投与タイミング ●執刀時点で十分な組織中濃度となるように
●基本的には切開の1時間前以内に投与を開始1)
●フルオロキノロン系・バンコマイシンは
副作用を避けるため120分以内に投与を開始2)
1)日本外科感染症学会 消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン作成委員会.
消化器外科SSI予防のための周術期管理2018. 診断と治療社, 2018; 78-9.
2)Bratzler DW, et al. Am J Health Syst Pharm 2013; 70: 195-283.
#14. VCM:合併症を考慮して60分以上かけて red neck 症候群
●VCM急速投与➡ヒスタミン遊離
頸部・顔面・体幹皮膚の発赤や掻痒、低血圧を惹起
●チオペンタールなどの反応との相互作用として出現
全身麻酔の1時間前には投与終了を
●テトラサイクリンでは生じにくい1)
➡安全性や利便性からこちらを好む医師も多い
1)Hepper DL, et al. Anesth Aanlog 2003;97:1381-95.
#15. VCM:組織移行性も考慮して60分以上かけて Cmaxに到達した時点は組織濃度と平衡関係が成立する前 引用) Life Support and Anesthesia(LiSA) 2022 VOL.29 NO.3 MEDSi出版
整形外科手術における抗菌薬投与
#16. 整形外科領域の
ターニケットを用いた手術の場合… ●駆血により手術部位への動脈血流は阻害
➡事前に抗菌薬投与を完了させる
●ターニケットを加圧する5-10分前に
抗菌薬の投与を終了することを推奨
引用)Schweizer ML, et al. JAMA 2015; 313: 2162-71.
#17. 目次 ①抗菌薬選択
②投与タイミング
③投与量/投与間隔 引用) Life Support and Anesthesia(LiSA) 2022 VOL.29 NO.3 MEDSi出版
#18. 引用) Life Support and Anesthesia(LiSA) 2022 VOL.29 NO.3 MSI出版 PK/PD理論を意識した投与計画
抗菌薬の投与量と間隔の考慮
#19. 抗菌薬の投与量 引用)日本化学療法学会,日本外科感染症学会. 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 2016年. SSI予防目的であるが治療量投与が推奨
#20. 肥満患者の場合… ●肥満症例においては分布容量が大きく
血中濃度が上昇しない可能性あり
●CEZは体重80kg以上では2g
120kg以上では3g投与を推奨
引用)Schweizer ML, et al. JAMA 2015; 313: 2162-71.
#21. 肝腎機能障害がある場合… ●腎・肝障害があっても術前単回投与であれば
抗菌薬の投与量を変更する必要はない
引用)Bratzler DW, et al. Am J Health Syst Pharm 2013; 70: 195-283.
●有効血中濃度の達成に
薬物の代謝・排泄機能は直接関連しない
●腎機能低下がある場合は投与間隔を延長
#22. 抗菌薬の投与間隔 引用)日本化学療法学会,日本外科感染症学会. 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 2016年.
血中濃度推移と投与方法の設計
#23. 血中濃度推移のイメージまとめ 体重50kg 腎機能正常 腎機能低下➡投与間隔延長 体重90kg 腎機能正常 体重90kg 1回投与量2g 引用) Life Support and Anesthesia(LiSA) 2022 VOL.29 NO.3 MEDSi出版
#24. 引用) Life Support and Anesthesia(LiSA) 2022 VOL.29 NO.3 MEDSi出版 参考:ワンショットは可能…? ●VCMは副作用の観点から×
●CEZは理論上可能
➡消失時間は早くなることに注意…
●医療安全の観点からもCPのように決まった
投与方法やタイミングを設計しておくことが大切
周術期抗菌薬の重要なメッセージ
#25. Take home message ●周術期予防的抗菌薬の目的はSSIの予防!
●手術部位に合わせた周術期抗菌薬選択を!
●アレルギーや腎機能、体重など症例に応じて
周術期投与計画を設計する!