テキスト全文
形成外科における手術の概要と対象者
#1. 図 解 Screw と Plate Part2 実践 編 shun@形成外科
#2. 本スライドの対象者 ・これから骨折の手術の勉強を始める 研修医・専攻医 ※ 形成外科・整形外科・脳外科・胸部外科・口腔外科など ・こんにちは! shun@形成外科 です 形成外科が扱う顔面骨の手術が主ですが 他の科の専攻医の先生方にも役立つと思います ・今回は、手術を実際に行う場合のコツや注意点を解説します ・手術の術者になると、どんどん手術が好きになるはず! ・Part1 基本知識編をまだ見てない人はそちらも見てね Twitter ID @shun46618111
プレート選択と手術の流れ
#3. 目 次 <Contents> ・プレートの選択 チタン・吸収性プレートの特徴と選択 プレートの形状の選択 ・プレートのベンディング ・ドリリングの手順 ・タッピング、プレーティング ・合併症 ・第3骨片の留め方
#4. タッピングまでの流れ 今度、手術を執刀することになったの いろいろコツを教えて欲しいな! プレートをスクリューで固定するには、いろいろな工 程があります。実際の流れに沿ってみていきましょう 実際の流れ ① プレートを選ぶ ② ベンディング ③ ドリリング、タッピング ④ プレーティング(スクリュー固定)
チタン・吸収性プレートの特徴と選択
#5. チタン・吸収性プレートの選択 まず、どのプレートを選択すればいいの? プレートには金属製のチタンプレートと吸収性プレートがあります それぞれの特徴を理解して、プレートを選びましょう チタンプレート ・金属製で頑丈、ただし、プレート抜去を要する ※ 顔面骨は基本的に抜去不要 ・プレートの種類が豊富 ※ 骨片のすき間を寄せたい → Dynamic compression plate 頑強に固定・骨から少し浮かして固定したい → Locking plate ・厚さの違いでミニプレートやマイクロプレートがある ※厚さは目安でメーカーで違うことあり ミニ プレート (0.8-1.0mm) → 厚くて丈夫、力が加わる部位の 頬骨・上下顎骨 などに使用 マイクロ プレート (0.5-0.7mm) → 薄いため力が加わらない部位の 眼窩周囲、鼻骨 などに使用 吸収性プレート ・チタンプレートよりやや弱いが、吸収されるためプレート抜去が不要 ・プレートの種類によって吸収期間やX線透過性、ベンディング方法など様々な特徴をもつ
#6. チタン・吸収性プレートの特徴 金属プレート(チタン) 吸収性プレート(ラクトソーブ) 強度 ◎ とても強い 〇 チタンより劣る ※使用部位は限られる 生体親和性 〇 優れている 〇 優れている X線透過性 × Xpに写る 〇 Xpに写らない 厚さ 分解・吸収 費用 〇 薄い mini plate 1.0mm micro plate 0.5mm △ やや厚い 厚さ 0.9・1.4mm ※いずれ吸収される × されない 〇 分解・吸収される 〇 安価 △ 高価 ※ 高額療養費制度の使用で 患者負担は同程度 私は、吸収性プレートを使用する場合でも、念のためチタンプレートも準備しています 参考文献:メディカルU&A. 頭蓋顎顔面治療をうける患者さんへ 吸収性プレートラクトソーブについて.
プレートの形状選択とベンディングの注意点
#7. プレートの形状の選択 プレート種類を決めたら、大きさはどう決めるの? ・骨折線を中心に、両側に2本以上のスクリューが固定できるプレートを選択 ・L,T,X型など多数あります。スクリュー固定部位に応じてプレートの形を選択 ・固定するスペースがない場合、1か所しか固定できない場合もあります A Aの場合 骨折線の両側に2本スクリューを固定したい → 5穴プレートを選択 B Bの第3骨片がある場合 ① 真ん中の第3骨片も固定できると良い ② 両側に2本スクリューを固定したい →①と②を満たすように7穴プレートを選択
#8. プレートのベンディング 次は、プレートを骨の彎曲にあわせるベンディングね ベンディング時の注意点 ・同じ場所を何回も曲げると割れるため注意(金属疲労) ・大きく(急角度)曲げる場合は注意 ・きちんとベンダーを使用して曲げる ・術前に、取扱説明書を確認しましょう 例:ラクトソーブをお湯で温める場合 → 1回10秒までで、最大3回まで などの注意書きがあります ・ベンディングでダメージが生じるとプレート破折の原因となります ・クラック(亀裂)ができた場合や、同じ部位を何度もベンディングした 場合は、新しいプレートに交換する事も考慮しましょう 参考文献:グンゼメディカル.ラクトソーブ添付文書.
#9. プレートのベンディング ぴったりあわせる ベンディング ・骨の彎曲に沿って、ぴったり丁寧に合わせましょう ・プレートと骨が密着してないと、硬いチタンプレートでは 骨がプレートに引き寄せられて、整復位がずれるため注意 ベンディングが足りない ※骨片のそれぞれの可動性によっても変わります 例:ベンディングが不足 → 骨が引っ張られ、外側が跳ね上げられる ベンディングが強い → 骨が押さえられ、下に落ち込んでしまう ベンディングが難しい場合は以下を考慮 ベンディングが強い ・長いほど難しい!※必要な長さで最短のプレートにする ・ロッキングプレートを使用する ※骨から浮いて固定できるため、ベンディングが甘くても大丈夫 ・術前に時間のかかるベンディングをしておく! ※事前に3Dモデルを作成→プレートをベンディング使用する
ドリリング手順と位置の重要性
#10. ドリリングの手順 次は、いよいよ骨に穴(青い溝)をあけるドリリングね! ドリリングの手順 ① はじめは低速で回転させながら、骨表面にあてて少し穴を削る ※骨に当ててからドリルを回転させると、先端が滑ってずれることあり ② 少し穴が開いたら先端が安定するので、回転数をあげて削る ※高回転だと削れやすいため、ちょっとした手ブレで穴が大きくなります 顔面骨など薄い骨の場合は1万回転程度としましょう ③ 貫通した後に、抜くときも回転させたまま抜いてくる ④ ドリルをきちんとオペ看さんに手渡し、機械台へ戻す ・ドリルは短時間でも患者さんの体に置くのはやめましょう ・間違ってフットスイッチを踏んだ時に、患者さんを傷つける可能性があります
#11. ドリリングのコツ ドリリング時のコツを、あったら教えて ・慣れるまでは、穴を開ける場所にマーキングするとわかりやすいです ・ドリリング時は、骨表面に垂直にドリルを構え、骨全層に穴をあけます ・ドリルは重いので、結構ふらついてしまう場合があります ふらつく時はドリルの持つ手を、どこかに触れて支える(支点とする)と安定します ・回転数は高い方が、軽い力で良く削れます 一方、回転数をあげるとトルクが弱くなり、力を入れて押し当てた時や 骨孔を貫通させた際に、スタック(回転が止まる)しやすいです 削れ過ぎる時やスタックしてしまう時は、回転数を下げてみましょう ・回転させる前に、周りの組織を巻き込まないか、必ず確認しましょう 裏側の組織(脳や神経など)を傷つけたくない場合、脳ベラなどで保護を
#12. ドリリングの位置 ドリリングの時に少しずれたらまずい? ・スクリューホール(スクリュー穴)は、真ん中にあけることが大切です ・スクリュー穴が真ん中に開いていれば、スクリューヘッドもプレート ホール(プレート穴)の真ん中にすんなり入ります ※ 実際は、プレートとスクリューに多少余裕があることが多いです ・ずれてプレート穴の端に、スクリュー穴を開けた場合 締め込むとスクリューヘッドがプレートとあたってしまいます ずれた場合どうなるの? ・骨やプレートがずれたり、スクリューが入らない可能性があります ・骨とプレートが固定されている場合と、固定されていない場合で 変わります
ドリリング時の注意点と助手の役割
#13. ドリリングの位置がずれた時 骨とプレートが動かない場合 ※プレートと骨がスクリューで固定されている ・スクリュー穴を、プレート穴の端に開けてしまった場合 ・スクリューヘッドがプレートに当たって干渉するため ① スクリューが入らない ② スクリューが傾く などの可能性があります ※プレートの穴が少し大きければ多少のズレは許容される事もある プレートが動く場合 ※プレートがスクリューで固定されていない場合 ・プレートがずれて動き、スクリューヘッドにプレート穴に入る プレートは動かず、骨が動く場合 ※片側のみ、スクリュー固定されている場合 ・固定されてない骨が動き、スクリューヘッドがプレート穴に入る ※そうならない場合もあります 例:スクリュー穴が外側に開いた場合、骨が少し内側にずれれば スクリューヘッドがプレート穴におさまる
#14. ドリリング時に、助手が注意する事 助手をしてると眠くなるんですけど、注意する事はあるの? ・周囲の組織をドリルが巻き込むと、組織損傷を起こすため 助手が筋鈎などで周囲の組織をしっかりよける ※ むやみにぐいぐい引っ張ると、皮膚や組織が痛むので注意 必要な分だけ筋鈎は引っ張ろう ※ 見たい気持ちは分かるが、覗きこむと頭が術者の邪魔になるので注意! ※ 術野が変わると危ないので、術者のOKが出るまではじっとして動かない ※ 裏側の脳や神経などを傷つけたくない場合は、脳ベラなどで保護する ・ドリリングが終わったら、骨の削りカスを洗い流す ・血で穴が見えなくなったら、吸引する ・手術を理解すると、面白くなって手術中眠くならないはず!
デプスゲージの使用法とプレーティングの流れ
#15. デプスゲージ デプスゲージに注意点はあるの? デプスゲージ ・骨孔(青色)の奥にカギ状の先端を引っかけて深さを測る器具 ・使用するスクリューの長さを決める スクリューの長さは、種類によって部位が異なるため注意を パターン1: L1=B(ねじ頭から下のみ) ※スクリュー長と言われることあり パターン2: L2=A(ネジ頭)+B(ネジ頭から下) ※全長と言われることあり A ※スクリューによっては、他のパターンもあるので注意 B L L1 L2 ・デプスゲージで計った長さ(L)が、スクリューの長さ のL1 か L2 かを確認しましょう ・使用する器具のことは、正確に理解しないと 思わぬところで間違いが起こるので注意しましょう
#16. タッピングまでの流れ ① ドリリングでスクリュー穴を掘る ② デプスゲージで骨孔の深さを測る ③ スクリューの長さを選択する ・スクリューが短い → 固定力が弱い ・スクリューが長い → 裏面から突出し組織を損傷 ・つまり、裏面から突出しない程度の長さがいい ④ タッピングで骨にらせんの溝を掘る ・チタンスクリューは硬いので、タッピングは不要 ※セルフタッピングスクリューである ・吸収性スクリューは骨を削るほど硬くないため タッピングが必要
#17. プレーティング ⑤プレーティング:プレートをスクリューで固定すること ・ドリリング → タッピング → スクリュー挿入の一連の流れの時に 穴を見失わないよう、看護師から器具を受け取る時も目線を外さないこと ・スクリュー穴の角度そのままに、スクリューも同じイメージで挿入する ・スクリュー固定の順番の基本は、骨接線から近いスクリュー穴から固定 ※実際は、ドリリングしやすい部位から固定していくことが多い ・スクリューは、始めは少し緩めに締め、最後にすべてのスクリューが 問題なければ、最後にまとめてしっかり締める ここまでで一通りの説明はおしまいです。 あと少しなのでがんばろう!
第3骨片の留め方と合併症の管理
#18. 第3骨片の留め方 第3骨片を留める時に、留め方のコツはありますか? A ・骨片が、左・第3骨片・右のケースを考えてみます ・固定の仕方はいろいろあります B 例えば A:3つの骨片を一枚のプレートで固定する B:隣(2つ)の骨片を固定する ・どの方法がいいか、考え方を覚えましょう Bの様に【左と第3骨片】【右と第3骨片】と2枚のプレートで固定した場合 ・第3骨片が大きく、アライメントが良好なケース → しっかり固定される ・アライメントが不良なケース → 不安定な固定となるため注意しよう ※ アライメントが良好とは、線状骨折で骨欠損がなく、ピッタリとはまること
#19. 第3骨片の留め方 アライメントが不良な場合は、可能であれば 長いプレートで、両側と第3骨片の全てを固定しましょう パターン1 1枚のプレートで固定する場合 ①まず、第3骨片をプレートに固定する ※穴を開ける部位をマーキングしておく ② ① ② ②次に、長いプレートで全てを留める 大きな骨片(②)を固定した後に、最後に第3骨片(①)だと固定しにくい パターン2 1枚のプレートだと固定しにくい場合 ① ② ①まず、第3骨片をアライメントの良い方へ固定する ②次に、長いプレートで全てを留める
#20. プレートによる合併症 合併症 プレート感染 プレートの露出 治 療 • 人工物の感染より、プレート抜去が必要 • 感染などで傷が開き、皮膚からプレートが見える • プレート抜去や皮弁などで被覆する必要がある 骨片のずれ • 固定ができておらず、骨片が移動してずれてしまう • ずれが大きい場合は、再度整復が必要なこともある プレートの破折 • 外力や不適切なベンディングなどでプレートが破損 • プレート抜去と再固定が必要なこともある アレルギー反応 • 炎症の所見(発赤、腫脹、熱感)がみられる • 抗アレルギー剤やステロイドで改善なければ、抜去が必要 異物反応 • 異物が免疫系を賦活化して、炎症を惹起する • 異物肉芽腫を生じた場合はプレート抜去が必要なこともある 参考文献:竹澤悠介. 眼窩骨折術後に異物肉芽腫を生じた1例. 日形会誌. 2022, vol.42, no.10.
手術の要点と参考文献
#21. Take home message ・プレートは両側に2本以上のスクリュー固定を心掛けよう ・ベンディングは同じ部位を何度も曲げないように注意しよう ・ドリリング時は、周囲の組織を傷つけないようにしっかりよけよう ・実際の手術の流れはイメージできたでしょうか? ・手術の始めから終わりまでイメージして、分からない部分をつぶして いけばきっと手術もうまくできるはずです! ・手術は準備が大切です!「発注を忘れて、手術当日にプレートがない」 なんてことにならないように注意しましょう! ※ 個人の考えが入っているので他の先生の考えと多少違う点があるかもしれません
#22. 参考文献 • AO Surgery Reference のホームページ. • 田嶋定夫. 顔面骨骨折の治療 改訂第2版.克誠堂出版, 1999. • 小室裕造. 頭蓋顎顔面の骨固定 基本とバリエーション. 克誠堂出版, 2013. • 菅原康志. インストラクション・フェイシャルフラクチャー. 克誠堂出版, 2007. • 菅原康志. インストラクション・クラニオフェイシャルサージャリー 改訂第2版. 克誠堂出版, 2012.