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直腸脱の影響と治療の重要性
#1. 直腸脱 「様子を見ましょう」とは言わないで! QOL 低下に直結するだけでなく、ADL 低下から生命予後にも影響します!
#2. 「様子を見ましょう」 「認知症があるから/高齢だから手術は無理」 といわれた直腸脱の高齢者に遭遇したことのある 方にぜひ読んでいただきたいです。
#3. 直腸脱を⾒たら、適切な治療を受けさせてあげてください ● ● ● 直腸脱の患者さんに遭遇したら、治せる病気ですので、ぜひ適切な治療を受 けるよう勧めてください。 ⾼齢⼥性に多い病気ですが、⾻盤内の構造のバリエーションが影響するの で、若年者や男性にも⽣じます。また、精神疾患の影響でいきむことをやめ られない場合にも発症します。 不幸な患者さんを数多く診てきましたので、僭越ながらこのようなスライド を提供させていただくことにしました。 「⾼齢だから‧認知症だから‧精神疾患があるから諦めなさい」 とは⾔わないでください。
直腸脱の定義と病態の理解
#5. 直腸脱とは ● 直腸脱(完全直腸脱)は、肛門から、粘膜だけでなく、筋肉 を含む大腸の全層が反転して飛び出す病態です。 ● 骨盤底筋および肛門括約筋の緩みや損傷、便秘などに伴 ういきみなどが原因で発生します。 ● 自然治癒は期待できず、骨盤底筋体操などを頑張っても 治ることはありません。 ● 治療には必ず手術が必要となります。
#6. 脱肛(肛⾨脱)‧直腸粘膜脱との違いは? ● ● ● 脱肛 (肛⾨脱) は、内痔核が脱出した状態です。 直腸粘膜脱は、直腸の粘膜のみが肛⾨から脱出した状態です。 いずれも、直腸壁⾃体が脱出してくるものではなく、直腸脱 (完全直腸脱) と は全く異なる病態です。 直腸脱 直腸粘膜脱 脱肛
直腸脱の手術選択と実際の症例
#7. 直腸脱は肛⾨疾患ではなく、直腸の疾患です ● 直腸粘膜脱‧脱肛は、肛⾨疾患です。 ● 直腸脱は、肛⾨疾患ではありません。肛⾨が全く正常であっても⽣じうるこ とから明らかなのですが、意外と理解されていないのが現状です。 ● もちろん、直腸脱には肛⾨の弛緩が影響しますし、直腸脱によって肛⾨機能 が低下しますので、複合的な疾患であることは間違いがありません。 ● しかし、治療すべきは、肛⾨ではなく、固定不良となった直腸なのです。 ● 歴史的には、肛⾨科にて治療していましたが、これは、経腹的な治療が現実 的に過⼤侵襲であったからです。現在は、腹腔鏡がありますから、再発のほ とんどない低侵襲治療が可能です。
#9. 全⾝⿇酔がかけられるなら腹腔鏡⼿術が第⼀選択 ⽇本⼤腸肛⾨病学会 による 肛⾨疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン 2020年版での術式選択のフローチャートは下図のとおりです。
#10. 実際のところどうなの? ほとんどの症例で腹腔鏡⼿術が可能です。 ● ⾼齢⼥性に多い疾患ですが、実際には、全⾝⿇酔がかけられない症例は意外 と少ないです。 ● 筆者の経験では、これまでに90歳以上の超⾼齢者の直腸脱約50名においてさ え、全⾝⿇酔がかけられないという理由で腹腔鏡⼿術を諦めたことはありま せん。 ○ 術後1か⽉以内の他病死を⼀例経験しましたが、退院後の初回外来ではお元気そうでしたの で、⼿術が強く影響したとは考えにくいです。 ● 実は、全体では、⼀例だけ諦めたことがあります。70代でしたが、⾨脈圧亢 進に伴う巨⼤脾腫‧⼤量腹⽔貯留例でした。
腹腔鏡手術の利点と経会陰手術の比較
#11. なぜ腹腔鏡⼿術が良いのか ● 腹腔鏡⼿術 = 経腹的な直腸吊り上げ固定術です ○ 要するに、正常な解剖に戻し、そもそも腸管が出てこないようにする⼿術です。 ○ すなわち、理論的に正しい、根本的な治療といえます。 ● (技術があれば) 併存する⼦宮脱も (多くの場合は) 同時に治せます ● (技術があれば) 併存する膀胱脱も (多くの場合は) 同時に治せます ● 腸管や粘膜を切除する必要がありません
#12. 昔からある経会陰⼿術はどうなの? ● 経会陰⼿術にはさまざまな術式がありますが、概して再発率や合併症率が⾼ く、術後のQOLが⾼いとは⾔えません。 ○ デロルメ法 (粘膜スリーブ切除術) 脱出した直腸の粘膜を切除してから、直腸の筋⾁を縫い縮める⽅法です。 ○ アルテマイヤー法 (経会陰的直腸S状結腸切除術) 脱出した腸管を経会陰的に切除します。 デロルメ法では対応できない⽐較的⾼度な直腸脱が 対象です。腸管の切除と吻合を伴いますので、縫合不全の可能性があり、腹膜炎など重篤な合 併症を⽣じるリスクがあります。 ○ ガント-三輪⼿術 (脱出直腸の粘膜を絞り染め式に縫い縮める⽅法) …⽇本だけの⼿術です ○ ティルシュ⼿術 (肛⾨周囲に⽷をかけて肛⾨を縫い縮める⽅法) …ガント-三輪⼿術に併⽤
直腸脱手術の再発率と合併症
#13. 必要なければ腸管や粘膜を切除しないべき (私⾒) ● 単純に考えて、必要なければ直腸‧S状結腸や直腸粘膜を切除しないべきと筆 者は考えます。 ● 例えばアルテマイヤー法ですが、便が貯留すべき直腸を切除してしまうこの 術式は、切除しないで治す術式と⽐べて劣ることは明らかです。 ● 腹腔鏡による直腸吊り上げ固定術は、何も切除しません。 ○ 直腸周囲を広く剥離すると、直腸への神経が切離されてしまい、術後の便秘につながります ので、私は全例で神経温存しています。 ○ 腹腔鏡下の吊り上げ⼿術後は便秘になるから腸管切除を併⽤するという意⾒には賛同しかね ます。神経を切らなければいいのですから!
#14. 再発率は低く、合併症は少なく ● 概して腹腔鏡⼿術は再発率が低いとされますが、その中でも術式やメッシュ 使⽤の有無により成績は異なります。 ○ メッシュを使⽤しない縫合固定のみの術式では 5〜10%程度、メッシュを使⽤する術式では 2〜5%程度の再発率の報告が多いです。 ○ フォローアップ期間やフォローアップの⽅法で把握できる再発は変わってきますので、論⽂な どを読む際には注意が必要です。まじめに再発を拾う施設ほど再発率は⾼くなります。 ● メッシュによる合併症にはメッシュ感染やメッシュ露出 (慢性的な圧迫によ り直腸壁が壊死してメッシュが直腸内腔に露出する) があります。 ○ メッシュを使わなければ⽣じえないので、それを理由にメッシュを使⽤せず再発率が⾼くな ることをやむなしとする考え⽅もあります。 ○ 筆者はメッシュによる合併症を⽣じない術式にすることが解決策と考えています。これまでの メッシュ使⽤ 250例ほどにおいて、メッシュトラブルは皆無です。
腹腔鏡手術の技術的課題とリスク
#15. 再発率はこんなに違います J Anus Rectum Colon. 2020 Jul 30;4(3):89-99. Surgical Treatment of Rectal Prolapse in the Laparoscopic Era; A Review of the Literature より、レビュー対象の論文のうち、もっとも症例数の多かった論文について表を作成
#16. 経肛門手術が圧倒的に多く行われている理由は?
#17. 腹腔鏡⼿術は、術者側の負担が⼤きいです ● ⼈⼿が要ります。 ● 技術が要ります。腹腔鏡での縫合操作を延々とやらなくてはなりません。 ● 時間がかかります。 ○ 私も導⼊当初は3時間以上かかってしまうことが当たり前でした。でも、250例ほど執⼑した 今では、2時間程度です。 ● そもそも、腹腔鏡⼿術ができなければ経肛⾨⼿術しかできません。 ○ でも、それを理由にガイドラインに従わないのはどうかと思います。
#18. 腹腔鏡⼿術は全⾝⿇酔なので危険と思われている? ● 必ず全⾝⿇酔が必要になりますが、⿇酔の技術はすごく進歩しています。 ○ 癌だったら迷わず全⾝⿇酔で⼿術するのに、なぜ? ○ 良性疾患だからリスクをとる価値がないと思われてる? ■ 想像してみてください。肛⾨から腸が⾶び出して、出歩くこともできず、痛みが強けれ ば座ることもできず、(場合によっては) 便まみれで家族からも疎まれる⽣活を。 ● 実際に執⼑してみると、経肛⾨的⼿術のデロルメ法やアルテマイヤー法より も、腹腔鏡⼿術のほうが術後は安⼼です。 ● ○ 吻合部位がない ○ 出⾎量が少ない 経肛⾨⼿術でも、全⾝⿇酔が選択されることはしばしばあります。
医師の言葉が患者に与える影響
#20. 医師の⼀⾔が、残りの⼈⽣の苦しみにつながります ● 「⾼齢なので様⼦を⾒ましょう」 ○ ⾼齢なので様⼦を⾒ているうちに、もっと⾼齢になります。しかも出歩かなくなって⾜腰が弱ると、 どんどん弱ってしまいます。 ⾃然に治ることがない病気に対して、「⾼齢なので様⼦を⾒ましょう」 というのは、「⾼齢なので治療は諦めて我慢させたまま⼀⽣終わらせましょう」という意味です。 ● 「診察のときは出ていなかったので治療の必要はありません」「気のせいですよ」 ○ ● 脱出した時の写真をスマホで撮ってきてもらえば⼀⽬瞭然です。 (術後再発に対して)「何度やっても再発する⼈は再発するので無駄です」 ○ 経会陰的⼿術後の再発であれば、腹腔鏡⼿術でほとんど治せます。 ○ 腹腔鏡⼿術後の再発であっても、ほとんど治せます。 ○ 完全直腸脱での再発なら再度腹腔鏡⼿術、粘膜脱だけなら経会陰的⼿術で治せます。
#21. 全身麻酔がかけられるなら、 直腸脱の治療は腹腔鏡が第一選択です 最後までご覧くださいましてありがとうございました!