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生存曲線の基本概念と重要性
#1. 生存曲線のミカタ kotobuki@血液専門医
#2. 本スライドの対象 治療成績を改善させるには、常に研究を行い、現状以上を目指すことが不可欠 です 従って、最前線の臨床現場では「研究」が必ず行われています 特にがん領域の臨床研究においては、「生存曲線」がつきものです このスライドでは、論文などでよく見る生存曲線の見方について学生・研修医 の先生を対象に説明します
#3. 生存曲線とは このヒゲはなんだろう? 曲線っていうのにカクカクしているね 1.0 生存割合 0.8 0.6 やっぱり時間がたつと急激に さがってしまうね。 多くの患者さんが一気に亡く なってしまったのかな? 0.4 0.2 0.0 0 12 24 36 48 時間(月) 生存曲線は、1958年に開発されたカプラン・マイヤー法によって描かれます
生存曲線の描き方とデータ
#4. 生存曲線の描き方 (1) ここでは、架空のデータを用いて生存曲線の描き方を学びましょう 6年間の臨床試験を行い、計5名(A~Eさん)が参加したとしましょう 死亡 A 死亡 B 打ち切り C 死亡 D 打ち切り E 0 1 2 3 4 時間(年) 5 6 打ち切り(censoring) 死亡することなく試験終了、 試験参加を拒否した場合、 消息不明になった場合など
#5. 生存曲線の描き方 (2) 実際の臨床試験では、開始と同時に一気に患者さんが参加するわけではなく、参加時 期はまちまちです 生存曲線を描くには、まずスタートをそろえます 死亡 A A 死亡 B 打ち切り C 死亡 D 0 1 2 3 4 時間(年) 5 死亡 B 打ち切り C 死亡 D 打ち切り E 死亡 打ち切り E 6 0 1 2 3 4 時間(年) 5 6
#6. 生存曲線の描き方 (3) 当たり前ですが、スタート時点では5名全員生存しており、生存割合は100%です。つまり、1 名あたり20%を担っていることになります 1年目にDさんが亡くなります(イベント発生)。これにより生存割合は20%下がります 死亡 100 打ち切り C 死亡 D 打ち切り E 80 60 イベント 全生存期間の場合 「イベント=死亡」です。 20×4=80% B 生存割合(%) 死亡 20×5=100% A 40 20 0 0 1 2 3 4 時間(年) 5 6 0 1 2 3 4 時間(年) 5 6
生存曲線の解釈と打ち切りの影響
#7. 生存曲線の描き方 (4) 2年目にEさんが打ち切りになりました。Eさんは亡くなってはいません。引っ越したりして通 院が途絶えてしまったり、患者さん自身が試験参加の意思を撤回したのかもしれません 死亡ではないので、生存割合は下がらず80%のままです。しかし人数は4→3名に減りますか ら、1人あたりが担う%が20%→26.6%に増えます 死亡 100 C 死亡 D 打ち切り E 60 40 26.6×3=80% 打ち切り 80 20×4=80% B 生存割合(%) 死亡 20×5=100% A 打ち切りの場合、ヒゲの ような印をつけることが 多いです。 20 0 0 1 2 3 4 時間(年) 5 6 0 1 2 3 4 時間(年) 5 6
#8. 生存曲線の描き方 (5) 3年目にBさんが死亡しました。死亡なので生存割合は下がります。1人あたりが担 う%は26.6%になっていましたから、26.6%下がって53.2%になります 同じ1名の死亡でも、Dさんの時とは下がる%の幅が変わります! 死亡 C 死亡 D 打ち切り E 60 40 26.6×3=80% 打ち切り 80 20×4=80% B 生存割合(%) 死亡 20 0 0 1 2 3 4 時間(年) 5 6 0 1 2 26.6×2=53.2% 100 20×5=100% A 3 4 時間(年) 5 6
#9. 生存曲線の描き方 (6) 4年目にAさんが死亡しました。死亡なので生存割合は下がります。1人あたり が担う%は26.6%になっていましたから、26.6%下がって26.6%になります 死亡 死亡 D 打ち切り E 60 40 20 0 0 1 2 3 4 時間(年) 5 6 0 1 2 3 4 時間(年) 26.6×1=26.6% C 26.6×3=80% 打ち切り 80 20×4=80% B 生存割合(%) 死亡 26.6×2=53.2% 100 20×5=100% A 5 6
#10. 生存曲線の描き方 (7) 6年目にCさんが打ち切りとなりました。この「打ち切り」は、死亡しないまま試験が 終了したことを意味します ここで曲線も終わりになります 死亡 死亡 D 打ち切り E 60 40 26.6×2=53.2% C 26.6×3=80% 打ち切り 80 20×4=80% B 生存割合(%) 死亡 20 0 0 1 2 3 4 時間(年) 5 6 0 1 2 26.6×1=26.6% 100 20×5=100% A 3 4 5 6
がん臨床試験のエンドポイント
#11. 実際に生存曲線を読んでみよう ここまで学べば生存曲線は理解できます ヒゲは「打ち切り」ですね 1.0 左図では、100か月の時点で大幅に下がっていま すが、これは一気にイベントが起きてしまった わけではありませんね 生存割合 0.8 0.6 この時点で、すでに2名しか残っておらず、1名 あたりの受け持つ%が大きくなっているので、1 名のみにイベントが起きても一気に下がってし まうのです(赤い矢印は同じ1名分です) 0.4 0.2 最近の論文では、その時点でどのくらいの人が 0.0 0 20 40 Number at risk 19 17 13 60 80 100 120 11 6 2 1 時間(月) 残っているのか、図の下に表示されていること が多くなっています(左図ではNumber at risk)
#12. がん臨床試験におけるエンドポイント 全生存期間(OS)以外にも様々なエンドポイントがあります エンドポイント イベント(いずれか早いもの) 全生存期間 Overall survival (OS) あらゆる死亡 無増悪生存期間 Progression-free survival (PFS) あらゆる死亡 増悪/再発 無再発生存期間 Relapse-free survival (RFS) あらゆる死亡 再発 無病生存期間 Disease-free survival (DFS) あらゆる死亡 再発 二次がん 治療成功期間 Time to Treatment Failure (TTF) あらゆる死亡 増悪/再発 治療中止 死亡は、死因を問いません!がんによる死亡以外も含みます
生存曲線から得られる知見とメッセージ
#13. 最近はPFSが主流になりつつある 生存の延長はがん治療の最大の目的であり、全生存期間(OS)の延長は王道です しかしOSをみるには、お金も時間もかかります。したがって、最近はPFSなど他のエ ンドポイントで代用することが主流です 「病気の進行を遅らせること自体にそもそも意味があるのか」という批判もあります が、例えばリンパ腫では、PFSがOSの代用になりうることが示されています1) 長所 短所 OS 王道(文句言えない) 研究終了まで時間がかかる PFS 研究終了までの時間が比較的短い 「病気の進行を遅らせること」にそ もそも意味があるのか 1) Maurer MJ et al., Ann Oncol. 2018;29:1822-1827.
#14. 生存曲線からみえること A) OS PFS A)ではOSとPFSがほぼ重なっていますが、B)ではOSがPFS を大きく上回っています つまり、A)のがんは「がんの進行≒死亡」ですが、B)のがん B) OS では「がんの進行≠死亡」であることを意味します。あるい は、他の治療法によって救命されているのかもしれません PFS C) PFS C)ではPFSが平坦(プラトー)になっています。これはこの 治療法が根本的治療(=治癒を目指せる治療)となりうるこ とを意味します D) 一方、D)ではPFSは時間経過とともに下がり続けています。 PFS これはこの治療法が、多くの患者さんで根本的治療にはなら ないことを意味します
#15. Take Home Message 生存曲線では、イベントと打ち切りを理解しよう がん治療領域の臨床研究の王道は、全生存期間(OS)であった。 しかし時間とお金の問題から、他のエンドポイントで代用され ることが多く、現在は無増悪生存期間(PFS) が使用されるこ とが多い 全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を見比べるとがん あるいはその治療の特徴がわかる