#4.
どのような時に造血幹細胞移植をするのか? 造血器腫瘍(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など)に対する治療 は通常は「化学療法」である。 「造血幹細胞移植」は化学療法より強力な治療として位置づけられる。 造血器腫瘍に対して造血幹細胞移植を行うのは下記のような状況である。 1) 化学療法の効果がいまひとつの場合。 2) 現時点では化学療法はよく効いているが、 将来的に再発の可能性が高いことがわかっている場合。 *再生不良性貧血や先天性疾患に対しては造血を入れ替える目的で移植を行う。
#5.
造血幹細胞移植の種類 ドナーによる分類 自家移植:ドナーは自分自身 同種移植:ドナーは他人 細胞種による分類 骨髄:全身麻酔で骨髄液を採取 末梢血幹細胞:アフェレーシス*で採取 臍帯血:へその緒から採取 *機器を用いて血液中の血球と水溶性成分を 分離し、細胞成分のみを採取すること 自家移植ではほぼすべて「末梢血幹細胞」。 同種移植では「骨髄」「末梢血幹細胞」「臍帯血」いずれも用いる。
#6.
国内における造血幹細胞移植の実施数(1) 日本国内において移植件数は年々増加している。 ※「一般社団法人 日本造血細胞移植データセンター 2020年度 全国調査報告書 別冊」
#7.
国内における造血幹細胞移植の実施数(2) 自家移植 自家移植は形質細胞性腫瘍(多発性骨髄腫) と悪性リンパ腫に対して行われることが多い。 同種移植 同種移植は急性白血病に対して行われること が多い。2001年にチロシンキナーゼ阻害薬 が登場した後、慢性骨髄性白血病に対する移 植は劇的に減った。 ※「一般社団法人 日本造血細胞移植データセンター 2020年度 全国調査報告書 別冊」
#8.
国内における造血幹細胞移植の実施数(3) 自家移植 自家移植は現在年間約2000件。 ほとんどが末梢血幹細胞移植。 同種移植 同種移植は現在年間約3500件。 1997年以降臍帯血移植が始まり、それの伴っ て移植を受ける患者の総数は増加している。ま た、 2010年から非血縁者間末梢血幹細胞移植 が導入され、徐々に件数を伸ばしている。 ※「一般社団法人 日本造血細胞移植データセンター 2020年度 全国調査報告書 別冊」
#9.
幹細胞種類の比較 骨髄移植 末梢血幹細胞移植 臍帯血移植 移植準備期間 血縁:1か月程度 非血縁:3-6か月 血縁:1か月程度 非血縁:3-6か月 2-3週間程度 ドナーの負担 入院+全身麻酔 入院+G-CSF注射 なし 生着までの期間 2-3週間 2週間程度 3-4週間 生着不全 3%未満 3%未満 10-20% ふつう やや高い やや低い GVHDリスク その他 HLAは5/8座程度一致していれ ば移植可能 体重が重い人は細胞数の問題か ら選択が難しい。 それぞれ一長一短がある。患者の病状と血縁ドナーの有無により選択。
#10.
自家移植と同種移植の比較 同種移植 自家移植 大量化学療法 ±全身放射線療法 大量化学療法 同種免疫効果 (GVL効果) 前処置(大量化学療法)のみ 前処置(大量化学療法±全身放射線療法) 同種免疫効果(GVL効果) 再発性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、 若年者多発性骨髄腫など 急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、 骨髄異形成症候群など GVHDの有無 なし あり 移植関連死亡 約3% 約20-30% 抗腫瘍効果 適応疾患 同種免疫は効果も強力だが短期的なリスクも高い
#11.
自家移植のコンセプト 通常の化学療法は、一時的には骨髄抑制が起こるものの、時間がある程度経過すれば必ず 造血能が回復するように用量が設計されている。 しかし通常の化学療法では効果が不十分。もっと大量の抗がん剤を投与したらもっと効果 があるのではないか? しかしある一定の用量を超えた抗がん剤を投与すると、骨髄抑制が高度になってしまい、 最悪の場合、回復しなくなってしまう!(白血球ゼロの状態が長く続くと当然感染症リス クが高くなる) では、 「血液細胞の種」である自身の造血幹細胞をあらかじめ採取しておき、それを大量 の抗がん剤を投与した後に戻したら、造血能が回復するのではないか? このようなアイデアから生まれた治療が自家移植。 自家移植の正式名称は「自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法」で あり、治療の本体はあくまで移植前の大量化学療法(=前処置)! 移植自体は造血回復サポートに過ぎない(ここ勘違いしやすい)。
#12.
自家移植の手順 Step 1:造血幹細胞採取 普段、骨髄にいる造血幹細胞を末梢血に動員する薬剤(G-CSF製剤など)を患者さ ん自身に投与し、アフェレーシスの要領で、自家末梢血幹細胞(造血幹細胞)を採 取する。採取した末梢血幹細胞は液体窒素で凍結保存する。 造血幹細胞採取 Step 2:大量化学療法 患者さんに大量化学療法(これを「前処置」と呼ぶ)を投与し、造血器腫瘍(悪性 リンパ腫、多発性骨髄腫など)を叩く。同時に患者さん自身の正常な造血能も破壊 されてしまう。 大量化学療法 Step 3:自家末梢血幹細胞移植 そのまま放っておくと、患者さん自身の造血能が回復せず、いつまでも白血球ゼロ のままである。それをレスキューする目的で、あらかじめ患者さん自身から採取し ていた造血幹細胞を戻す。 造血幹細胞移植
#13.
同種移植のコンセプト 大量の抗がん剤を投与すると骨髄抑制が高度になってしまうので、「血液細胞 の種」である造血幹細胞を大量の抗がん剤投与後に戻して造血能を回復させる、 までは自家移植と全く同じコンセプト。 さらに、同種移植では「免疫療法」の力も発揮する。ここでいう免疫とは「非 自己を認識し、それを攻撃する力」のことである。 患者の体内にいる白血病細胞は、ドナーにしてみれば「非自己(自分のもので はない)」である。なので、ドナーリンパ球は白血病細胞を攻撃する力がある (これを同種免疫効果あるいはGVL効果という)。 自家移植でも用いた大量化学療法(±全身放射線療法)に加え、免疫 の力を利用することで、さらに強力な抗腫瘍効果を発揮する治療が同 種移植である。
#14.
同種移植ドナーの探し方 Step 1:患者本人のHLAを調べる 通常は採血で、患者さん自身のHLAを調べる。 Step 2:兄弟姉妹のHLAを調べる 最もHLAが合致する確率が高いのは兄弟姉妹(理論上25%の確率で一致する)。協 力的かつ健康な方がいる場合は、採血あるいは口腔粘膜採取でHLAを調べる。 Step 3:骨髄バンクに登録 兄弟姉妹で合致するドナーがいない場合は、骨髄バンクに登録し、合致するドナー を探す。合致するドナーの人数はネットで簡単に検索できる。 Step 4:臍帯血バンクでドナー検索 骨髄バンクでもドナーが見つからない場合は、臍帯血バンクでドナーを探す。合致 するドナーの人数はネットで簡単に検索できる。臍帯血の場合は、ある程度HLAが 異なっていても移植可能。
#15.
同種移植の手順 Step 1:ドナーの選定 Step 2:大量化学療法± 全身放射線療法 患者さんに大量化学療 法(抗がん剤)を投与 し、造血器腫瘍を叩く。 同時に患者さん自身の 正常な造血能も破壊さ れてしまう。 前ページの手順 に基づいて、ド ナーを探す。 Step 3:ドナーから造血幹細胞採取 • • • • 骨髄採取であれば基本は移植当日に行う。 末梢血幹細胞採取は前もって行い凍結しておく ことが多い(バンクを介する場合は当日採取)。 臍帯血はすでに凍結されたものをさい帯血バン クから前もって取り寄せる。 骨髄/末梢血幹細胞採取の場合は、ドナーにも一 定の負担がある。 Step 4:造血幹細胞を患者に輸注 ドナーから提供された骨 髄/末梢血幹細胞/臍帯血 のいずれかを通常の輸血 と同じ要領で、患者さん に投与する。
#16.
自家移植の合併症 前処置 移植日 生着 ~30日 ~100日 ~1-2年 生着後 生着前 移植後期 前処置の有害事象 細菌・真菌感染症 晩期障害(不妊・二次がんなど) 自家移植は比較的安全に行うことができる
#17.
同種移植の合併症 前処置 移植日 生着 ~30日 ~100日 生着後 生着前 ~1-2年 移植後期 前処置の有害事象 細菌・真菌感染症 細菌・真菌感染症 急性GVHD VOD/SOS* 細菌・真菌感染症 慢性GVHD 血栓性微小血管障害 サイトメガロウイルス感染症 帯状疱疹 晩期障害(不妊・二次がんなど) *VOD/SOS:肝中心静脈閉塞症 同種移植における再発以外の二大死因は感染症とGVHDである
#18.
GVHDとGVL効果 移植されたドナーのリンパ球は、「非自己を攻撃する力」を持つ。 この攻撃が患者本人に向かえばGVHD(移植片対宿主病)、白血病に向かえば GVL (graft versus leukemia)効果となる。 GVHDには移植後100日以内に生じる急性GVHDと、それ以降に生じる慢性 GVHDがある。 GVHD ドナーリンパ球 GVL効果 急性GVHDが出る臓器 は、皮膚・消化管・肝 臓と決まっている。 慢性GVHDはあらゆる 臓器に出る。 つまり、GVHDとGVL効果は表裏一体!
#19.
同種移植後の輸血製剤 患者とドナーの血液型が異なる場合、移植後の輸血製剤は工夫が必要になる。 間違えやすいので、慣れるまでは毎回オーダー時に確認しよう。 患者ABO型 ドナーABO型 不適合パターン A B A 用いる血液製剤 赤血球 血小板/FFP major/minor不適合 O AB O minor不適合 O A A AB major不適合 A AB B A major/minor不適合 O AB B O minor不適合 O B B AB major不適合 B AB O A major不適合 O A O B major不適合 O B O AB major不適合 O AB AB A minor不適合 A AB AB B minor不適合 B AB AB O minor不適合 O AB
#20.
自家移植と同種移植の生存曲線 疾患によって、自家移植と同種移植はどちらが推奨されるか決まってることも 多いが、なかには低悪性度リンパ腫のように迷うケースもある。 そのような疾患の場合、下記のような生存曲線を呈することが多い。 ③ 生存率 自家移植 ① ② 同種移植 移植後年数 ① 移植早期は同種移植のほうが生存率が急激に下がる(生 着不全やGVHD、感染症などの移植関連死亡による) ② 移植早期を乗り越えると、同種移植は再発が少ないので、 生存曲線はプラトーになる。 ③ 一方、自家移植は再発が多いため、生存曲線はプラトー にならず、だんだん下がっていく。 短期的リスクは高いが再発率の低い同種移植をするか、 短期的リスクは低いが再発率の高い自家移植にするか …専門家でも意見が分かれることがある。
#21.
Take Home Message 移植の適応は、1) 化学療法の効果が不十分な時、 2) 化学療法奏効していても今後再発する可能性高い とき。 自家移植は通常の化学療法の強化版で、比較的安全 性は高い。 同種移植は化学放射線療法に加えて免疫療法の効果 がある。したがって、短期的リスクは高いが、再発 率が低い「最強」の治療である。