テキスト全文
R-CHOP療法の概要と意義
#1. R-CHOP療法を実際にやってみよう! kotobuki@血液専門医
#2. R-CHOP療法とは 悪性リンパ腫の中で全体の約30%を占める、最も多いタイプである 「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」の標準治療。 Rを除いたCHOP療法もT細胞リンパ腫などに対しての標準治療。 血液内科医がおそらく生涯で最も多く行うレジメンである。 20年ほど前に確立された治療だが、それ以降もR-CHOP療法を上回 る治療は出てきておらず、標準治療の座を守り続けている。(ただ し近い将来、変わるかもしれない!?) このレジメンを安全にできることで、血液内科における他の化学療 法にも自信が持てるようになる!
#3. なぜ「R-CHOP」なの? 商品名 R C H O P 一般名 リツキサン🄬🄬 リツキシマブ アドリアシン🄬🄬 ドキソルビシン(別名:ハイドロキシダウノルビシン) エンドキサン🄬🄬 オンコビン🄬🄬 プレドニゾロン🄬🄬 シクロホスファミド ビンクリスチン プレドニゾロン それぞれ5つの薬剤の頭文字をとって命名されている。「アール・チョップ」と読む。 「H」はややこじつけかもしれないが、「CHOP」は語呂がよく、 開発者の気持ちが込められている! 余談だが血液内科ではSMILE療法というレジメンも存在する。
R-CHOP療法実施前の注意点
#4. 実施前に気を付ける3つのポイント 1. B型肝炎ウイルス(HBV)感染の有無 化学療法開始前に必ずHBs抗原/HBs抗体/HBc抗体を検査する。どれか1つでも陽性である 場合「免疫抑制・化学療法により発症する B 型肝炎対策ガイドライン」1)に沿って対応を 行う。HBV-DNAのフォローを忘れずに行う。 2. 心機能 R-CHOP療法に含まれるアドリアマイシンは心機能障害をきたす。治療前に心臓超音波検査 を行い、心機能低下(EF<55%)を認める場合は循環器内科依頼を検討する。また最近で はBNP・トロポニンTといったマーカーも注目されている。必要に応じてACEやβブロッ カーを投与する。 3. 耐糖能異常 R-CHOP療法に含まれるプレドニゾロンは血糖値を上昇させる。HbA1cを測定し、耐糖能 異常を認める場合には、血糖測定を行い、必要に応じて血糖降下療法を検討する。RCHOP療法を契機にインスリンを導入するケースも珍しくない。 1) 日本肝臓学会編「B型肝炎治療ガイドライン(第3.4版) 2021年5月
#5. スケジュールを知ろう 商品名 一般名 1日投与量 投与方法 投与スケジュール day1 day2 リツキサン🄬🄬 リツキシマブ 375 mg/m2 静脈注射 アドリアシン🄬🄬 シクロホスファミド 750 mg/m2 静脈注射 ○ ドキソルビシン 50 mg/m2 静脈注射 ○ ビンクリスチン 1.4 mg/m2 静脈注射 ○ プレドニゾロン 100 mg/body 内服 エンドキサン🄬🄬 オンコビン🄬🄬 プレドニゾロン🄬🄬 day3 day4 day5 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 3週間ごとに計6-8サイクル行う (実投与期間はday1-5のみで、day6-21は休薬期間) *施設によっては、リツキシマブの投与日が異なることがある。
#6. 副作用発現時期を知ろう 有害事象 Infusion reaction 原因薬剤 シクロホスファミド ドキソルビシン 血管外漏出 ドキソルビシン ビンクリスチン day2 day3 day4 day5 day6 day7 day8 day9 day10 day11 day12 day13 day14 day15 day16 day17 day18 day19 day20 day21 シクロホスファミド ドキソルビシン ビンクリスチン 不眠 プレドニゾロン 便秘 ビンクリスチン 末梢神経障害 ビンクリスチン 脱毛 day1 リツキシマブ 悪心・嘔吐 骨髄抑制 発現時期 シクロホスファミド ドキソルビシン ビンクリスチン *前ページの投与スケジュールで行った場合。 休薬期間にも気を付けるべきことが多い! (ただ次の治療を待っているだけではない!)
副作用とその対策
#7. Infusion reactionへの対応 通常リツキシマブの投与24時間以内に、発熱・悪寒・悪心・掻痒・発疹などがでる。重篤 な場合アナフィラキシーに発展することもある。腫瘍量が多い患者さんでリスクが高い。 ほとんどの場合、初回投与時に起こるため、1サイクル目は入院で行い、問題ないようであ れば2サイクル目は外来で行うことが多い。 Infusion reactionの予防策として点滴開始30分前に抗ヒスタミン薬および解熱鎮痛薬の前 投与を行う。 処方例: アセトアミノフェン0.5g +ジフェンヒドラミン30mg リツキシマブの投与は最初の30分は50mg/時の速度で点滴静注を開始し、問題なければそ の後注入速度を30分毎に50mg/時ずつ上げて、最大400mg/時まで速度を上げことができ る。 投与中は、心電図・SpO2モニターを装着し、30-60分毎に血圧測定を行う。 Infusion reactionが起こった場合には、下記の対策を。 ・いったん中止 ・副腎皮質ホルモン剤(ヒドロコルチゾン50mgなど)投与。 ・症状消失後、それまでの半分の速度で再開。
#8. 骨髄抑制・感染予防への対応 骨髄抑制期はday9-14頃で、好中球が主に低下する。 血小板は通常軽度低下であり、輸血を要することはほとんどない。ただし、個人差がある。 R-CHOPにおける発熱性好中球減少症のリスクは10-20%である。G-CSFの一次予防は次の 場合に検討する2)。 ・65歳以上でfull doseの化学療法を行っている ・化学療法歴、放射線治療歴 ・遷延する好中球減少症 ・リンパ腫の骨髄浸潤 ・最近の手術歴 ・肝障害(総ビリルビン>2mg/dL) ・腎障害(CCr<50) 感染予防としてST合剤の投与を。特にCD4<200/µLになる場合では必須。 処方例: ST 1錠1x朝食後 (高齢者は0.5錠でも可) 2) NCCN guideline, Hematopoietic Growth Factors, Version 2.2020
#9. 嘔気への対応 R-CHOP療法は、ガイドラインによっても異なるが、中等度~高度催吐性リスク に分類される3-4)。 制吐剤として、アプレピタント・5-HT3受容体拮抗薬・副腎皮質ホルモン剤の投 与が推奨される。この中で、R-CHOP療法の場合、もともとレジメンに副腎皮質 ホルモン剤(プレドニゾロン)が含まれるため、実際にはアプレピタント・5HT3受容体拮抗薬を投与する。 処方例: アプレピタント 125mg-80mg-80mg 3日間内服 *シクロフォスファミド・ドキソルビシン投与日から開始する パロノセトロン 0.75mg 静脈注射 *シクロフォスファミド・ドキソルビシン投与前に 3) NCCN guideline, Antiemesisi, Version 1.2021 4) 日本癌治療学会「制吐薬適正使用ガイドライン」2015 年10 月【第2 版】一部改訂版 ver.2.2 (2018 年10 月)
神経毒性と血管外漏出への対応
#10. 神経毒性(便秘・末梢神経障害)への対応 1. 便秘 高頻度に起こる。入院自体も増悪因子。イレウスに発展することすらある。 患者さんは、化学療法による下痢を心配していることが比較的多いが、便秘のほうが怖い ことを説明する。入院時から酸化マグネシウムなどの処方を推奨する。 2. 末梢神経障害(しびれ) しびれは回数を重ねるとほぼ必発。「指先に皮が一枚かぶった感覚」と表現される方が多い。 軽度であれば許容いただくが、生活に支障が出るレベルになることが懸念される場合は、適 宜原因薬剤であるビンクリスチンを減量あるいは中止する。 しびれを聞くときの質問: 「はしが持てますか?」 「ペットボトルのフタを開けられますか?」 「ボタンをかけられますか?」
#11. 抗がん剤血管外漏出への対応 R-CHOP療法に用いる薬剤は、組織侵襲性の高い薬剤が多い。 ドキソルビシン:起壊死性抗がん剤 ビンクリスチン:起壊死性抗がん剤 シクロフォスファミド:炎症性抗がん剤 もし漏出してしまった場合は、下記の対応を行う。 ・漏出部位にステロイド剤局注 ・デルモベート軟膏塗布 ・患部の温罨 ・患肢の挙上 ・皮膚科にコンサルテーション ドキソルビシンの漏出の際にはデクスラゾキサン(サビーン🄬🄬)の投与を検討する。
#12. 外来化学療法で気を付けること R-CHOP療法は、2サイクル目は外来で行うことが多い。 外来では入院のように連日診察することができないため、患者さん自身にも治療の概要を 理解しておいてもらう必要がる。 特に注意するポイントは下記の2つ。 1. 発熱性好中球減少症 骨髄抑制期(多くの場合day9-14頃)を理解してもらい、その時期に発熱した場合は、すぐ に医療機関を受診することを説明しておく。(発熱性好中球減少症は内科的救急疾患!) 外来では持続性G-CSF製剤の使用も検討しよう! 2. 神経障害(便秘、しびれ) 排便状況に気を付けてもらう。便秘はよくない!必要に応じて下剤処方しておく。 しびれについては毎回の外来で確認する。
R-CHOP療法の重要なポイント
#13. Take Home Message 実施前には、1) HBV感染の有無、2) 心機能、3) 耐糖能異常の 3つのポイントに気を付けよう! 副作用の種類と出現時期を理解し、適切に予防することが大 事!特に骨髄抑制(感染症予防・G-CSF)と神経障害(便秘・ しびれ)に気を付けよう! 外来化学療法では、患者さんの理解も欠かせない。骨髄抑制期 に発熱した場合は、すぐに医療機関を受診するよう伝えよう!