#4.
01. 妊娠前の管理 妊娠前から妊娠初期の高血糖は、自然流産、児の形態異常、死産など様々な 合併症のリスクを上昇させる 目標HbA1c:6.5%未満(重症低血糖などで達成困難なら7.0%未満)1) 妊娠計画時に使用できる(催奇形性が否定されている)血糖降下薬は?1,2) インスリン:詳細は後述(02. 妊娠中の管理) メトホルミン (グリベンクラミド) 妊娠中の使用を許可している国もあるが、日本では原則として 妊娠判明時に中止する。 グリベンクラミドは催奇形性は否定されているが、巨大児、LGA、 新生児低血糖のリスクを上昇させる報告あり3,4) 1) 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019、2) 日本産科婦人科学会/産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023 3) Y. W. Cheng. J Matern Fetal and Neonatal Med2012、4) W. C. Castillo. JAMA Pediatr 2015
#5.
01. 妊娠前の管理 <糖尿病合併症の管理> 網膜症 妊娠は糖尿病網膜症悪化のリスク因子であり、妊娠前に糖尿病網膜症がない症例に おいても妊娠中に発症する場合がある1)。 罹病期間が長い症例、妊娠前のHbA1cが高い症例、糖尿病腎症や神経障害が進行し ている症例は特にリスクが高く注意が必要である2,3)。 妊娠前に必ず網膜症の評価を行う。前増殖網膜症以上に進行している場合は 急激な血糖低下による網膜症悪化を防ぐ。 また、眼科的治療が必要ならば治療が完了した後に妊娠許可を出す。 1) Widyaputri F. JAMA Ophthalmol. 2022、2) Chew Ey. Diabetes Care 2015 3) Bourry J. Diabetes Care 2021
#6.
01. 妊娠前の管理 腎症 腎症3期以上の患者が妊娠を希望する or 予期せぬ妊娠があった場合は リスクを重々説明すること! 妊娠前の糖尿病腎症が2期以上であると、妊娠高血圧症候群、早産、胎児発育不全 などの周産期合併症のリスクが高くなる1,2)。 さらに、妊娠前にコントロール不良な高血圧、顕性蛋白尿(3g/日以上)、腎機能 低下(eGFR60ml/min/1.73m2未満)がある場合は、妊娠による永続的な腎機能低下 が起こるリスクがある2)。 糖尿病腎症がある患者が妊娠を希望する場合、妊娠前の十分なカウンセリングは もちろんのこと、妊娠前からの厳格な降圧管理が必要である。 糖尿病腎症の進行抑制のためにやむを得ずRAS系阻害薬を使用する場合は妊娠判 明時に速やかに中止し、必要であれば他薬剤へ変更する。 ※RAS系阻害薬の妊娠初期の使用による催奇形性の有無については議論がある3,4)。 中期以降の使用による児の羊水過小、頭蓋・顔面異常、肺低形成、胎児発育不全は明らか。 1) Ekbom P. Diabetes Care 2001、2) Spotti D. J Nephrol 2019 3) Walfisch A. J Obstet Gynaecol 2011、4) Fu J. Diabetes Metab Res Rev 2021
#7.
01. 妊娠前の管理 神経障害 糖尿病性胃不全麻痺があると、重症妊娠悪阻を発症する可能性がある。 高血圧症 メチルドパ、ラベタロール、ヒドララジンは以前から妊娠中に使用可能である。 近年、ニフェジピンの妊娠中使用が許可された。 脂質異常症 スタチンの催奇形性は否定的である1)が、原則として妊娠中は治療しない。 体重管理 1) Karalis DG. J Clin Lipidol 2016 肥満もやせも周産期合併症のリスクが高いため、適正体重に近づけることが目標。 葉酸の摂取 妊娠前からの葉酸摂取により神経管閉鎖不全のリスク低下が知られている。
#8.
02. 妊娠中の管理 <血糖管理目標> 妊娠中の高血糖は、自然流産、児の形態異常、死産、巨大児、在胎出生過体 重児、胎児発育不全、妊娠高血圧症候群など様々な周産期合併症のリスクを 上昇させる1)。 一方で、妊娠中の血糖管理によりこれらのリスクを低下できることが知られ ている2,3)。 妊娠時の血糖コントロールは、 低血糖を避けつつ可能な限り健常妊婦の血糖日内変動に近づけること を目標とする1)。 といいつつも、血糖管理目標値の多くは健常妊婦よりもはるかに高い。 (実際に健常妊婦レベルまで下げるのは難しいから?) 1) 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019、2) Alwan N. Cochrane Database Syst Rev 2009 3) Nachum Z. BMJ 1999
#9.
02. 妊娠中の管理 <血糖管理目標> HbA1c 目標:6.0~6.5%未満1)(健常妊婦は 5.1 ± 0.6% [平均値±2SD]2)) HbA1cの目標値は健常妊婦よりも遥に高いが、目標値を超えると周産期合併症の リスクが上昇するといったエビデンスが豊富。 一方、鉄欠乏による偽高値などにより血糖値を正確に反映しない場合があること、 直近の血糖管理状況を反映しないといった問題がある3)。 グリコアルブミン 特に妊娠中後期は鉄欠乏性貧血が多く、結果の解釈に注意が必要 目標:15.8%未満?1)(健常妊婦は 13.6 ± 2.1% [平均値±2SD]2)) グリコアルブミンの有用性を示す報告は複数あり、 15.8%以上で新生児低血糖の リスクが高いとの報告があるが、目標値のエビデンスは不十分2,5) 。鉄代謝の影響 を受けず、HbA1cよりも短期間の平均血糖を見れる一方で、肥満で偽低値を示す。 1) 糖尿病学会編・著. 糖尿病診療ガイドライン2019、2) Hiramatsu Y. Endocr J 2012、3) Neuza Mendes. J Obstet Gynaecol 2018 4) Shimizu I. Ann Clin Biochem. 2018、5) Sugawara D. J Matern Fetal Neonatal Med 2017
#10.
02. 妊娠中の管理 <血糖管理目標> SMBG 食前血糖よりも食後血糖を管理する方が周産期合併症のリスクを低下させることを 報告したランダム化比較試験の結果に基づき1,2)、妊娠中は食後血糖を用いて管理を 行う。 目標値3) 健常妊婦4) (mean ± SD) 空腹時血糖 95 mg/dL 未満 71 ± 8 mg/dL 食後1時間血糖 140 mg/dL 未満 109 ± 13 mg/dL 食後2時間血糖 120 mg/dL 未満 99 ± 10 mg/dL 1) De Vaccina M. N Engl J Med 1995、2) Manderson JG. Am J Obstet Gynecol 2003 3) 糖尿病学会編・著. 糖尿病診療ガイドライン2019、4) TL Hernandez. Diabetes Care. 2011
#11.
02. 妊娠中の管理 <血糖管理目標> SMBGの指導例 個々の症例に応じて血糖測定回数や測定タイミングを調整する 空腹時+食後1時間/2時間血糖 空腹時+食前+食後+眠前(7検/日) 空腹時血糖が基準値内でも 週に1回は測定する ※保険算定可能なのは月120回まで、それ以上に測定すると医療機関の持ち出しとなるため注意
#12.
02. 妊娠中の管理 <血糖管理目標> CGM 糖尿病合併妊娠において、CGM管理指標と周産期合併症の関連が報告されている1,2)。 また、1型糖尿病合併妊娠においてはCGMの使用により血糖管理が改善し、周産期合 併症のリスクが低下することが知られており3) 、可能なら使用を検討する 1型糖尿病合併妊娠における管理目標値 Time Above Range (TAR) グルコース値≧140mg/dLにある時間 < 25% Time In Range (TIR) グルコース値≧63mg/dL、<140mg/dLにある時間 > 70% Time Below Range(TBR) グルコース値<63mg/dLにある時間 < 5% ※2型糖尿病合併妊娠もCGMのメリットはあると思われるが、現状データが乏しい 1) Feig DS. Lancet 2017、 2) Ayodeji A. Sanusi. Diabetes Care 2023、3) Battelino T. Diabetes Care 2019
#13.
02. 妊娠中の管理 <食事療法> 糖代謝異常合併妊娠の適切なエネルギー量や栄養素の比率は確立されておらず、健常 妊婦の食事摂取基準に準じて指導することが一般的 1日あたりの摂取カロリーの目安:理想体重(BMI22)×30+付加量 付加量 ・妊娠前BMI<25:初期+50kcal、中期+250kcal、後期+450kcal ・妊娠前BMI≧25:付加なし 栄養素比率:炭水化物50~65%、蛋白質13~20%、脂質20~30%1) ※ 極端なエネルギー制限や糖質制限は有用性の根拠に乏しく、ケトーシスによる 児のIQ低下の報告もあることから勧めない2,3) これはあくまで目安。本来は個々の患者の基礎代謝量や活動量に応じて調整が必要。 体重増加量や児の発育状況、血糖値、ケトン体の有無などを見ながら臨機応変に対応する 1) 日本人の食事摂取基準(2020年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書 2) Han S. Cochrane Database Syst Rev 2. 2017、3) Rizzo T. N Engl J Med. 1991
#14.
02. 妊娠中の管理 <食事療法> 1日3回の食事で食後血糖が目標値を達成できない場合は分割食を試す 目標血糖 目標血糖 2-3時間後 1-2単位(80-160kcal)くらい 1度にパンを2つ食べると 目標血糖を超えてしまう 分割して食べることで、必要量を摂りつつ 血糖値が目標内に抑えられる! 食後血糖を抑えるために糖質摂取量を極端に減らしてしまう人も多い。 分割食として減らした分の糖質を後から摂取することで、糖質摂取不足→ケトーシス のリスクが低くなる たまには分割食におやつを食べてもOK 個人的にはグリコのSUNAOシリーズが好きです
#15.
02. 妊娠中の管理 <食事療法> カーボカウント:食事に含まれる糖質量を計算することで食後の血糖管理を行う 食後血糖の厳格な管理が求められる糖尿病 合併妊娠の管理に非常に有用 まずは主食の糖質量を一定にすることから 分割食を行っている場合 ・1型糖尿病 ・分割食もカウント or ・メインの食事の時に多めにインスリン注射して 分割食を低血糖予防として摂取 ・2型糖尿病(インスリン分泌が十分な) ・基本はメインの食事の糖質量の調整のみでOK カーボカウントについて詳しくは成書もしくは 拙スライド(カーボカウント導入編・実践編)をご参考ください
#16.
02. 妊娠中の管理 <運動療法> 運動療法は血糖コントロールの改善効果、妊娠高血圧症候群の発症予防効果、過度な 体重増加の抑制効果があると報告されている1-5) 1) Bung P. J Perinat Med 1993、2) Avery MD. J Matern Fetal Med2001 3) Jovanovic-Peterson L. Am J Obstet Gynecol 1989、4) Brown J. Cochrane Database Syst Rev6 2017 5) V Martínez‐Vizcaíno. BJOG 2023 運動療法の禁忌:進行した糖尿病網膜症、重篤な心疾患、呼吸器疾患、頸管無力症、 持続する性器出血、前置・低置胎盤、前期破水、切迫流早産、頸管長短縮、妊娠高血 圧症候群など6,7) 6) 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019 7) 日本産科婦人科学会/産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023 強度の運動、腹部が圧迫されたり転倒や相手と接触したりする運動は不可。 「しゃべりながらできる程度」の有酸素運動(ウォーキング、ヨガ、エアロビクスな ど)が望ましい。 インスリン治療中の場合は食事前や超速効型インスリン注射後すぐの運動は行わない、運動量 が多いときはあらかじめインスリン量を少なくする、CGMモニターで血糖変動を確認する!
#17.
02. 妊娠中の管理 <薬物療法> 食事・運動療法で目標血糖を達成できない場合はインスリン治療を開始する 基本的には超速効型インスリン+持効型インスリンの「強化療法」 超速効型インスリン 超速効型インスリン 超速効型インスリン 持効型インスリン 140 95 朝食 分割食 昼食 どのインスリンを使う?:次項で解説 分割食 夕食 分割食
#18.
02. 妊娠中の管理 <薬物療法> 一般名 ヒトインスリン 商品名 ノボリンR ヒューマリンR ヒューマログ RCT なし インスリングルリジン なし 複数のメタアナリシスでヒ トインスリンと同等の有効 性・安全性が報告2,3,4) なし ノボラピッド ヒトインスリンと比較して 複数のメタアナリシスでヒ 周産期合併症を増やさず、 トインスリンと同等の有効 性・安全性が報告3,4) 低血糖の頻度を減らす5-7) フィアスプ ノボラピッドと同等の有効 性・安全性が報告8,9) インスリンアスパルト アピドラ その他 胎児移行・催奇形性なし1) ヒトインスリンは妊娠中の使用に関しての安全性が確立されている インスリンリスプロ ルムジェブ メタアナリシス なし 生殖毒性試験の結果からは 妊娠中使用のリスクは低い と思われる なし なし 市販後調査で周産期合併症 リスクとの関連は否定され ている10)
#19.
02. 妊娠中の管理 <薬物療法> 一般名 ヒトイソフェン インスリン(NPH) 商品名 RCT ノボリンN ヒューマリンN メタアナリシス その他 ヒトインスリンに硫酸プロタミンを添加したもの。 安全性が確立されている。 NPHインスリンと比較して NPHインスリンと比較して 周産期合併症が増えないor 低血糖・早産が少ない15) 少ない、血糖良い11-14) インスリンデテミル レベミル インスリングラルギン 100 ランタス なし NPHインスリンと比較して 周産期合併症が増えない16) インスリングラルギン 300 ランタスXR なし なし インスリンデグルデク トレシーバ レベミルと比較して周産期 合併症に差がない18) なし 市販後調査で先天異常や流 産は増えないと報告17) 1) Buse MG. J Clin Invest 1962、2) C. G. Blanco. Diabetes Technol Ther 3) S. S. Lv. Archives of Gynecology and Obstetrics 2015、4) K. Nørgaard. Diabetes Therapy 5) E. R. Mathiesen. Diabetes Care 2007、6) M. Hod. Am J Obstet Gynecol 7) D. J. Pettitt. Diabet Med 2007、8) S. K. Nørgaard. BMJ Open 2021、9) S. K. Nørgaard. Lancet Diabetes Endocrinol 10) Zoran Doder. Eur Endocrinol 2015、11) Fishel Bartal M. Am J Obstet Gynecol 2021、12) Ji J. BMJ Open Diabetes Res Care 13) Herrera KM. Am J Obstet Gynecol 2015、14) Hod M. J Matern Fetal Neonatal Med 15) Athanasiadou KI. Diabetes Res Clin Pract 2022、16) Lepercq J. Obstet Gynecol Int 17)
#20.
02. 妊娠中の管理 <薬物療法>
#21.
02. 妊娠中の管理 <その他> 妊娠中体重増加量の目安 2006年の基準1) 2021年の基準2) (BMI<18.5) 9-12kg 12-15kg (BMI≥18.5, <25) 7-12kg 10-13kg やせ 標準 体重が増えすぎると巨大児や妊娠高血圧症候群、 増えなさすぎると低出生体重児や早産のリスクが上昇 1度肥満 (BMI≥25, <30) 2度以上肥満 (BMI≥30) 個別対応 上限5kgを目安 7-10kg 個別対応 上限5kgを目安 糖尿病診療ガイドライン2019には「健常妊婦の基準(表の2006年の基準)」を参考にする よう記載されているが、2021年の体重増加基準を糖代謝異常合併妊娠に用いるべきかは不明 過度な体重増加抑制は2度以上肥満であっても厳禁(低出生体重児が増える1)) 1) Champion ML. Curr Diab Rep 2020
#22.
02. 妊娠中の管理 <その他> 定期的な眼科受診を忘れずに! スライド5に記載した通り、妊娠中は網膜症の新規発症・進行リスクが高い。 網膜症が進行し未治療の場合、経腟分娩による網膜症進行のリスクがあるため (Valsalva retinopathy)、分娩前に評価しておくこと。 妊娠初期に受診 網膜所見なし:6か月から1年に1回 軽症または中等症非増殖糖尿病網膜症以上:3~6か月に1回 重症非増殖糖尿病網膜症以上:1~3か月に1回 (日本眼科学会 糖尿病網膜症診療ガイドライン2021) 産科のカルテも確認する 例えば胎児発育不全や過剰発育があった場合に、母体体重増加量が適切かどうか (増えなさすぎ、増えすぎがないかどうか)を見直す
#23.
03. 分娩後の管理 分娩後は必要インスリン量が一気に減る これらのインスリン拮抗ホルモンの影響を 受けなくなることと、母乳分泌による血糖 低下作用による 分娩後すぐにインスリン量を減らすこと! 1型糖尿病の場合は妊娠前の使用インスリン量を参考に調整するが、分娩前の インスリン量の半量程度を目安にする。 2型糖尿病もおおむね半量でよい。場合によってはインスリン投与を中止する。
#24.
03. 分娩後の管理 低血糖に注意すること 妊娠中の厳格な管理のイメージのままに血糖を下げようとする症例も多いが、分娩後 は低血糖にならないことを第一に、多少血糖が上がっても過剰反応しないように指導 赤ちゃんを抱いている最中に低血糖になると事故につながります。 特に母乳分泌が良い人は授乳後に低血糖になりやすいので、授乳前の補食も勧めます。 産後もきちんと治療を続け、妊娠中に増えた体重を戻すこと 特に2型糖尿病では産後に治療中断してしまう症例をしばしば経験する。 次子妊娠の可能性がある場合は、体重を戻さないまま妊娠してしまうと肥満に伴う 合併症(巨大児や妊娠高血圧症候群など)が増えるため注意。
#25.
Take Home Message 糖尿病患者が妊娠を希望したら、血糖管理を良くするだけでは 不十分!合併症の評価をしよう。 妊娠中は食後血糖の管理が重要。分割食や超速効型インスリン の打ち方を工夫しよう。 産後は低血糖に注意し、治療を続けるように指導しよう。