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救命救急センター
集中治療医が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の基本的な診療法の総論を伝授します。ARDSとは何らかのトリガーによって引き起こされた炎症性の急性肺水腫です。初期研修医の先生、ARDSを診療する機会のある先生、ARDS治療=エラスポールというイメージのある先生、集中治療医によるARDSのアプローチに触れたい先生におすすめです。
◎目次
・本スライドの対象者
・なせARDSのケアと表現するのか?
・ARDSとは?
・診断基準(ベルリン基準)
・ARDSにはトリガーがある
・ARDSに特徴的なCT所見
・自発呼吸誘発性肺障害に注目
・努力呼吸のチェックポイント
・本日紹介するケア
・DRY-LUNGアプローチ
・肺保護換気(人工呼吸器管理)
・腹臥位療法
・腹臥位ってなぜ効くの?
・PROSEVA試験
・鎮痛・鎮静・筋弛緩
・ステロイド
・原疾患に対する介入
・治療方針の一例
・Take home message
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ARDS STANDARD CARE ARDS患者を悪くしないためになにをしたらいいのか︖ Presented by ゆっくり救急医 (Twitter: @Yukkuri_991)
本スライドの対象者 • 初期研修医 • 頻度は⾼くないけれどARDSを診療する⽅ • ARDS治療=エラスポールというイメージの⽅ • 集中治療医によるARDSのアプローチに触れたい⽅ 集中治療医が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の 基本的な診療法の総論を伝授します
なぜARDSのケアと表現するのか︖ • 実は, ARDSの死亡率を改善する薬剤は存在しない • むしろ医療⾏為がARDSを悪化させることがある • 患者の改善を慎重に待つ必要がある • 治療薬よりも⼿厚いケアが⼤切な疾患 ARDS管理のコンセプト 1. 患者の邪魔をしない管理をしよう 2. 電⼦カルテから離れてもっとベッドサイドにいこう︕
ARDSとは︖ なんらかのトリガーによって引き起こされた 炎症性の急性肺⽔腫 以下の4要素が疑うキッカケになる 1. 低酸素⾎症 2. 急性の病態 3. 肺野に両側性の陰影がある 4. ⼼不全だけでは説明がつかない
診断基準(ベルリン基準) タイミング 侵襲や呼吸器症状の出現/増悪から1週間以内 胸部画像所⾒ 両側性陰影(胸⽔や無気肺, 結節だけでは説明しきれないもの) 肺⽔腫の原因 ⼼不全や輸液過剰だけでは説明できない 酸素化 P a O 2/ F i O 2⽐ ※ P E E P ≧ 5 c m H 2O 軽症 中等症 重症 200<, ≦300 100<, ≦200 <100 判断が難しいところもあるので, 急性呼吸不全で両側性の陰影があって, 主な原因が⼼臓になさそうなものは「ARDSでは︖」と疑って介⼊する PEEP;呼気終末陽圧 参考: ARDS診療ガイドライン2016 https://www.jsicm.org/ARDSGL/ARDSGL2016.pdf (参照2022-2-07)
ARDSにはトリガーがある ARDSは⾊々な病態の続発症である 原因が肺にある直接損傷とそれ以外の間接損傷に分かれる • 直接損傷: 肺炎, 異内容物の吸引, 溺⽔, 肺挫傷など • 間接損傷: 敗⾎症, 外傷, ⾼度の熱傷, 輸⾎関連肺損傷など 参考: ARDS診療ガイドライン2016 https://www.jsicm.org/ARDSGL/ARDSGL2016.pdf (参照2022-2-07)
ARDS 原因疾患 輸液, 輸⾎, ⼼不全 • 原因疾患とARDSの境界は曖昧 • 全⾝性の病態であり⼼不全を合併することもある • 炎症性病態なので, 肺は輸⾎や輸液に影響を受けやすい • ⼼不全の存在や, 輸液による溢⽔=ARDS否定ではない 参考: ARDS診療ガイドライン2016 https://www.jsicm.org/ARDSGL/ARDSGL2016.pdf (参照2022-2-07)
ARDSに特徴的なCT所⾒ 範囲が⼩さい正常肺 通称Baby lung 病変が腹側に進⾏ 無気肺(病変部分) 病変部位は濃くなって だんだん腹側に進んでいく
⾃発呼吸誘発性肺傷害に注⽬ ぴーしり self-inflicted lung injury)と呼ぶ • P-SILI(patient • 激しい呼吸努⼒が, 胸腔内に強い陰圧を起こす • 肺に圧外傷(barotrauma)を加える • 酸素投与で⾎液ガス所⾒が保たれていても, P-SILIを放 置すれば呼吸状態は悪化する ü ベッドサイドで呼吸の回数と様式をチェック
努⼒呼吸のチェックポイント 1. 前頸部︓吸気時に胸鎖乳突筋, 斜⾓筋を動かす 2. 肩︓吸気時に肩が上がる 3. 肋間︓吸気時に肋間がへこむ 4. 腹部︓呼気時に腹筋を利⽤する 鎮静・鎮痛, 陽圧換気 の導⼊を考慮
本⽇紹介するケア 1. DRY-LUNGアプローチ 2. 肺保護換気 3. 腹臥位療法・呼吸理学療法 4. 鎮静・鎮痛・筋弛緩 5. ステロイド
DRY-LUNGアプローチ • ARDSの主病態は肺⽔腫であり⽔分制限が好ましい • ショック以外では, 輸液の減量を考慮する 「尿素窒素(BUN)が⾼いから脱⽔かな︖輸液を1本追加」と気軽な選択が 肺に負荷をかける. ARDSは炎症性病態なので, 体内に⽔分を貯め込みやすい状態. 悪化時に利尿 をかければいいやと考えていると思うように⽔が引けなくて困る.
500 mL メイン輸液 500mL 経管栄養 500mL 抗⽣剤 400mL 鎮静・鎮痛 200mL 胃薬 40mL 昇圧薬 60mL などなど.. • 知らぬ間に2000mL程度の⽔分Inが⼊っているのが重症患者 • メイン輸液なし, 経管栄養+薬剤の溶液のみというプラクティスを⾏うことも • 抗⽣剤の溶液を減らすなど細部まで検討しよう • 経管栄養は免疫能の観点だけでなく, ⽔分制限という⾯でも有⽤(1mLあた りのカロリー効率上, 経静脈栄養は⽔分負荷につながりやすい)
肺保護換気(⼈⼯呼吸器管理) • 低容量換気︓⼀回換気量6~8mL/kg理想体重 • ⾼めのPEEP︓無気肺予防(ただし⾄適PEEPはいまだ不明) • P e r m i s s i v e h y p e r c a p n e a ︓ 低 容 量 換 気 に よ る C O 2貯 留 を 許 容(循環が許せばpH7.15程度まで) ⼈⼯呼吸器はサポートの道具であり, 肺をよくすることはない. むしろ⼈⼯呼吸器肺障害(VALI)を起こす. 4種の肺損傷がVALIに関連(次ページ参照) 参考︓平岡栄治, 則末泰博, 藤⾕茂樹. 重症患者管理マニュアル. メディカル・サイエンス・インターナショナル , 2018年 .
VALIに関連する4つの肺損傷 1. 無気肺損傷(atelectrauma) 肺胞の虚脱と膨張により⽣じた ずり応⼒(shear stress)による 2. 圧損傷(barotrauma) 3. 量損傷(volutrauma) ⾼い気道内圧や換気量による肺損傷 肺胞損傷. 虚脱した肺胞は周囲の 正常組織にずり応⼒を⽣じやすい. 4. ⽣物学的損傷(biotrauma) 肺損傷により炎症性メディエーターが発⽣. 肺のみならず全⾝の障害につながる.
3. 腹臥位療法 • 1⽇16時間程度うつぶせで管理 • 酸素化だけでなく死亡率の改善効果あり • 褥瘡や気管チューブ抜去などの合併症が問題 • 医師を含めたスタッフ全員の熟練がかなり必要 • 不慣れな施設では1時間ごとの左右側臥位交換や頭⾼位を励⾏ (完全仰臥位はだめ︕)
腹臥位ってなぜ効くの︖ まだ正常な肺 ⼼臓の重さで つぶれる肺 背側肺を重⼒から解放し, • 気道の開存 • 分泌物の誘導 • 肺胞換気の改善 を期待する. 無気肺, 病変部位
PROSEVA試験 腹臥位療法の信頼性を深めた代表的な試験. • 多施設共同ランダム化⽐較試験(466名が解析対象) • 参加施設︓5年以上の腹臥位の経験がある • 対象︓PaO2/FiO2 <150のARDS • 腹臥位︓1⽇16時間以上おこなう(平均4回繰り返された) • 結果︓腹臥位群での28⽇死亡率の改善(16.0% vs 32.8%) • 合併症は増加しなかった. 参考︓C Guérin, et al. Prone positioning in severe acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med. 2013. 368:2159-68.
4. 鎮痛・鎮静・筋弛緩 • 呼吸器⾮同調や強い努⼒呼吸を消すため, しっかり鎮静, 鎮痛 • 鎮静に反応しない場合, 中等症以上では48時間まで筋弛緩薬 (ロクロニウム)の持続投与を考慮 • 廃⽤の合併症が強く, 筋弛緩は可及的に短く, ルーチンにしない • 呼吸状態がピークアウトしたら浅い鎮静に切り替えて, 廃⽤の 進⾏を⾷い⽌めることが鉄則︕
5. ステロイド • 本邦のガイドラインでは, ⼈⼯呼吸器を装着している⽇数を減 らす⽬的で, メチルプレドニゾロン(1~2mg/kg/⽇)を投与 • ステロイドパルスではないことに注意 • 筆者は重症ARDSに対して, 48mLの⽣理⾷塩⽔で溶いて 2mL/hで持続静注している • 死亡率上昇が⽰唆され, 発症14⽇以上のARDSには投与しない 参考︓平岡栄治, 則末泰博, 藤⾕茂樹. 重症患者管理マニュアル. メディカル・サイエンス・インターナショナル , 2018年 . ARDS診療ガイドライン2016 https://www.jsicm.org/ARDSGL/ARDSGL2016.pdf (参照2022-2-07)
原疾患に対する介⼊ • ARDSは疾患名ではなく, 症候群であることに注意 • いろいろな病気を含む雑多な集団である • 原疾患の追及や治療が, 予後改善のために⾮常に重要 • 原疾患によりステロイドへの感受性も⼤きく変わる • 原疾患は⾒つかるまで探す 参考︓平岡栄治, 則末泰博, 藤⾕茂樹. 重症患者管理マニュアル. メディカル・サイエンス・インターナショナル , 2018年 .
治療⽅針の⼀例 超急性期(発症数⽇) 原疾患への介⼊ 絶えず続ける 肺保護換気 ⼈⼯呼吸器モード 呼吸不全がピークアウトしたら 続ける Assist control Pressure support+PEEP 腹臥位療法 1⽇16時間を繰り返す - ステロイド メチルプレドニゾロン1~2mg /kg すみやかに漸減 呼吸様式の安定⽬的の深い鎮静 積極的離床を⽬的に 筋弛緩は時折利⽤ 浅い鎮静に変更 昇圧薬を利⽤しながら⽔分制限 通常管理 BUN上昇やクレアチニン微増を許容 ⽔分負荷には警戒を続ける 鎮静・鎮痛・筋弛緩 循環管理 ARDSは患者により, 経過にばらつきがあり, あくまで⼀例であることをご了承ください.
Take home message 低容量換気と⾼めのPEEP=肺を傷つけない呼吸器管理 腹臥位療法は死亡率改善に役⽴つ ARDSは体液ボリュームの過剰で悪化する ⽔分制限も治療のひとつ 特別な薬剤はステロイドと筋弛緩だけ覚えておけばOK あくまでARDSは原疾患の治療が優先