#4.
導⼊ 症例 解説 熱中症について 熱中症 ● 暑熱曝露あるいは身体運動による体熱産生の増加を契機として、高体温を伴った全身 の諸症状が引き起こされる. ● この暑熱による障害は従来、主に症状から分類され熱失神(heat syncope)、 熱痙攣 (heat cramps)、 熱疲労(heat exhaustion)、熱射病(heat stroke) などとして表現さ れてきた. ● これらの諸症状・病態を一連のスペクトラムとして 「熱中症」として総称される. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#5.
導⼊ 症例 解説 症例:71歳 男性 確定診断名(主な病名および副病名) 1. Ⅲ度熱中症 2. 意識障害 3. 腎機能障害 【主訴】 意識障害 【現病歴】 入院前日の夜間まで普段どおりであったことを姪が確認していた. 入院当日の夜間に姪が、倒れて反応がない本人を目撃したため救急要請し当院に搬送となった.発見時 エアコンは付いておらず部屋は暑い状態であった.精査の結果意識障害の原因は熱中症と判断し、腎機 能障害も合併していたため加療目的に当科入院となった. 【既往歴】 肝性脳症、心不全 併存疾患:糖尿病・アルコール性肝硬変・心房細動 【家族歴】 特記すべき事項はない 【生活社会歴】 独居、ADLは自立している.姪が時々様子を見に来ている. 飲酒:日本酒2-3合/ 日
#6.
導⼊ 主な⼊院時現症 身体所見 意識 体温 血圧・脈拍 SpO2・呼吸数 眼瞼・瞳孔 頚部 胸部 腹部 四肢 E3V4M4 開眼はあり自発的な体動は認めるも指示には従わない 37.1 ℃ 101/48 mmHg, 113/分 (整) SpO2 98 %(自発呼吸, room air), 呼吸数 30/分 眼瞼結膜に蒼白を認めない 瞳孔 4mm/4mm. 対光反射両側陽性. 頚静脈に怒張を認めない. 心音: 心雑音を認めない 呼吸音: 整. cracklesやwheezesを認めない 平坦軟で圧痛を認めない 両上下肢に麻痺を認めない 両下腿に浮腫を認めない 症例 解説
#7.
導⼊ 症例 ⾎液検査成績 生化学 血算・凝固 WBC: 4700 /μL TP: 8.3 g/dL Na: 146 mEq/L RBC: 409万 /μL Alb: 3.1 g/dL K: 4.0 mEq/L Hb: 11.6 g/dL AST: 34 IU/L Cl: 108 mEq/L Ht: 35.1 % ALT: 20 IU/L 補正Ca: 10.6 mg/dL MCV: 85.8 fl γ-GTP: 141 IU/L P: 4.5 mg/dL Plt: 10.4万 /μL LDH: 240 IU/L アンモニア: 93 μg/dL PT: 52 % T-Bil: 0.3 mg/dL APTT: 27.6 sec BUN 54.1 mg/dL Cr: 3.21 mg/dL CK: 257 U/L CRP: 0.51 mg/dL 解説
#8.
導⼊ その他の検査成績 尿所見 静脈血液ガス 尿蛋白: (−) mmHg 尿潜血: (−) 24 mmol/L 浸透圧: 514 mOsm/kg Lac: 3.8 % Cre: 190 mg/dL 血漿浸透圧: 336 mOsm/kg UN: 837 mg/dL pH: 7.49 pCO2: 31 HCO3-: 症例 解説
#9.
導⼊ 画像検査所⾒ 画像所見 胸部レントゲン 心電図 心胸郭比 48%、胸水貯留を認めない 正常範囲内 頭部~腹部単純CT 特記すべき所見を認めない 症例 解説
#10.
導⼊ 症例 解説 治療経過 1 #1. 熱中症 ● 血液検査、画像検査から意識障害の原因となりうるような病変を指摘できず、発見時の環境から除外的に熱中症 によるものと診断した. ● また、腎機能障害は高度の脱水所見を認めたことから腎前性と考え、入院後に補液を行った. ● また、血清アンモニア値が軽度高値であったことから意識障害には熱中症の他に肝性脳症の関与もあるものと考 え入院前より内服していた肝不全用成分栄養剤散、ラクツロースは継続とした. ● 入院翌日には意識レベルは普段どおりまで改善し、腎機能も入院5日目にはベースラインのCre 1.1 mg/dLまで 改善した.そのため腎前性に矛盾ないと考え腎機能障害に関する追加の精査は行わない方針とした. ● またアルコール多飲患者でもありアルコール離脱症候群の予防目的にロラゼパムを1週間程度投与した.アル コール離脱症候群の所見は認めず症状も改善したため入院11日目に自宅退院となった. 退院時処方 ・エドキサバン30mg/日 ・リナグリプチン5mg/日 ・肝不全用成分栄養剤散100g/日 ・ラクツロース40mg/日
#11.
導⼊ 症例 解説 日本救急医学学会 熱中症分類2015 新分類 Ⅰ度 (応急処置と 見守り) Ⅱ度 (医療機関へ) Ⅲ度 (入院加療) 症状 重症 度 臨床症状からの分類 病態からみた分 類(参考) めまい、立ちくらみ、生あくび、 大量の発汗 筋肉痛、筋肉の硬直 (こむら返り) 意識障害を認めない (JCS=0) 通常は現場で対応可能 →冷所での安静、体表冷却、 経口的に水分と Naの補給 熱けいれん 熱失神 頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感 集中力や判断力の低下 (JCS≦1) 医療機関での診察が必要 → 体温管理、安静、十分な水分 とNaの補給(経口摂取が困難 なときには点滴にて ) 熱疲労 下記の3つのうちいずれかを含む (C)中枢神経症状 (意識障害 ≧JCS2、小脳症状、痙攣発作 ) (H/K)肝・腎機能障害(入院経過観 察、入院加療が必要な程度の肝ま たは腎障害) (D) 血液凝固異常 (急性期DIC診断 基準(日本救急医学会 )にてDICと 診断)→Ⅲ度の中でも重症型 入院加療(場合により集中治 療)が必要 →体温管理(体表冷却に加え 体内冷却、血管内冷却などを 追加) 呼吸、循環管理 DIC治療 熱射病 Ⅰ度の症状が徐々に改善 している場合のみ、現場の 応急処置と見守りでOK Ⅱ度の症状が出現したり、 Ⅰ度に改善がみられない 場合、すぐ病院へ搬送する Ⅲ度か否かは救急隊員 や、病院到着後の診察・検 査によりしんだんされる ※中枢神経症状(C:central Nervous System)肝機能障害(H:Hepatic)腎機能障害(K:kidney)DIC(D:disseminated intravascular coagulation) 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#12.
導⼊ 症例 解説 熱中症と気象条件 ● 熱中症は、体内での熱の産出と熱の放散のバラン スが崩れて、体温が著しく上昇した状態である. ● 体への熱の出入りに関係する気象条件としては、以下のものがある. ○ ○ ○ ○ 気温(周囲の空気の温度) 湿度(空気に含まれる水蒸気量 に関係) 風速、放射(輻射) 熱(太陽からの日射、 地表面での反射、建物からの輻射など)がある. ● 気温・湿度が高い、風が弱い、日射・輻射が強いという条件は、体からの熱放散を妨げる方向に作用する. ● 指標として「暑さ指数 (WBGT)」が推奨される(環境省:熱中症予防情報サイトで見られる) ● 梅雨明け前後の暑さのピークで、熱中症の発生リスクが最も高く、重症率も高い. また、暑くなる前は、真夏 よりも低い温度で熱中症が発生する. ● 熱中症の発生に最も寄与する気象要素は「気温」 である. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#13.
導⼊ 症例 解説 暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature) ● 熱中症予防のための指標として、暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)が推奨されている. 暑さ指数は、気温、 湿度、風、日射・輻射の気象条件を組み合わせた指標. ● 暑さ指数の行動指針としては、「暑さ指数」 に対応する乾球温度(気温) との対照表が掲載されている. 暑さ指数 WBGT(℃) 乾球温度 (℃) ・熱中症の搬送者が大量発生 ・気象庁は最高気温35℃以上で 高温注意情報 温度基準 注意すべき生活 活動の目安 熱中症予防のための運動指針 危険 31 運動は原則中止 35 厳重警戒 ・熱中症患者が急増 28 すべての生活活動でおこる危険性 31 警戒 25 中等以上の生活活動でおこる危険性 警戒 積極休憩 28 注意 21 24 厳重警戒 激運動中止 強い生活活動でおこる危険性 注意 積極水分補給 ほぼ安全 適宜水分補給 ● ● 熱中症の発生は、同じ「気温」でも湿度が高いほど危険度は高く、また、暑熱順化が十分でない時期には、より低い温 度で熱中症が発症する. スポーツ活動で冬季においても熱中症死亡例があることに留意する必要がある. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#14.
導⼊ 症例 解説 熱中症の診断基準 Ⅰ度(軽度) 通常は現場で対応 可能 めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直 (こむら返り) 意識障害を認めない(JCS=0) 熱けいれん 熱失神、日射病 Ⅱ度(中等章) 医療機関での診察 が必要 頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下、(JCS≦1) 熱疲労 入院加療 下記の3つのうちいずれかを含む (C)中枢神経症状(意識障害≧JCS2、小脳症状、痙攣発作) (H/K)肝・腎機能障害(入院経過観察、入院加療が必要な程度の肝または腎障害) (D) 血液凝固異常(急性期DIC診断基準(日本救急医学会)にてDICと診断)→Ⅲ度の中でも重症型 熱射病 Ⅲ度 (重症) ● 熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」である. すなわち①「暑熱による諸症状を呈するもの」のうち で、②「他の原因疾患を除外したもの」を熱中症と診断する. ○ ①「暑熱環境に居る、あるいは居た後」の症状 : めまい、失神(立ちくらみ)、生あくび、大量の発汗、 強い口渇感、筋肉痛、筋肉の 硬直 (こ むら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、せん妄、小脳失調、高体温等の諸症状 ○ ● ②「他の原因疾患を除外したもの」 : 感染症、悪性症候群による中枢性高体温、甲状腺クリーゼ等 暑熱による障害は従来、主に症状から分類され熱失神(heat syncope)、 熱痙攣(heat cramps)、 熱疲労(heat exhaustion)、熱射病(heat stroke)などとされてきた.熱中症診療ガイドラインでは、これらの諸症状・病態を一連のスペクトラムとして熱中症として総称する. ● 熱中症を1つの重要な「症候群」としてとらえ、診断基準を簡略化することで、 一般市民、病院前救護、医療機関による判断を容易にして早 期認識、早期治療につなげることができる. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#15.
導⼊ 症例 解説 重症度分類 Ⅰ度(軽度) Ⅱ度(中等章) 通常は現場で対応可能 めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り) 意識障害を認めない(JCS=0) 熱けいれん 熱失神、日射病 医療機関での診察が必要 頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下、(JCS≦1) 熱疲労 入院加療 下記の3つのうちいずれかを含む (C)中枢神経症状(意識障害≧JCS2、小脳症状、痙攣発作) (H/K)肝・腎機能障害(入院経過観察、入院加療が必要な程度の肝または腎障害) (D) 血液凝固異常(急性期DIC診断基準(日本救急医学会)にてDICと診断)→Ⅲ度の中でも重症型 熱射病 Ⅲ度 (重症) ● 初期対応にあたる非医療従事者が過小評価しないために、暑熱による障害を一括して「熱中症」という症候群としてとらえたうえで、 重症度に 応じて3段階に分類したものが「日本救急医学会熱中症分類 」である. ● Ⅲ度は中枢神経症状(C:central Nervous System) 、肝(H:Hepatic) ・腎機能障害(K:kidney) 、血液凝固異常(D:DIC)などの臓器障害を呈 するものであり、医療機関での診療、検査の結果から最終判断される. \内科専門医が補足/内科専門医試験こぼれ話 ・中枢神経症状は、意識障害、小脳症状、けいれん発作など ● Ⅲ度熱中症の詳細な記載法: 各障害臓器の頭文字ⅢC, ⅢH, ⅢHK, ⅢCHKD のように追記する. ● 重症度別に示された症状は、各段階においてよく見られる症状であり、その重症度で必ずその症状が起こるというものではない. ・肝・腎機能異常は AST,ALT,BUN,Creの上昇など 暑熱による諸症状は対処のタイミングや内容、患者側の条件により刻々と変化する 早期に異常を認識し早期の治療につなげて重症化を防 ぐことが、この重症度分類の目的である. 特に意識障害の程度、体温、発汗の程度などは、短時間で変化の程度が大きいので継続的に観察 し、容態の変化に注意する. ● 日本救急医学会熱中症分類を用いることで、 重症熱中症の迅速かつ適切な初療対応が可能となると考えられる. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#16.
導⼊ 症例 解説 熱中症にかかりやすい人 ● 発症時期:梅雨明け後7月中旬から8月上旬にかけてピーク. ● 発症時刻: 12 時および15 時前後の日中が最も多い. 晴天での発症が多い. ● 気温は環境要因の危険因子として重要である . ● 若年男性のスポーツ、中壮年男性の労働による労作性熱中症は屋外での発症頻度が高く重症例は少な い.高齢者の日常生活の発症(非労作性熱中症)が増加しており、高齢者では重症化率,死亡率が高い. ● 陸上競技などグラウンドスポーツは重症率が高い傾向にある. 米国の高校の運動選手の調査で、約3割の熱中症は2時間を超える練習で発症し、さらにその3分の1は医療従 事者が現場に不在時であった. 長時間の連続した練習は避け、指導者が適切に監督する必要がある. ● 労作性熱中症は、農林、土木、製造業などの肉体労働で発症頻度が高く、男性、若年労働者、 短い雇用 期間は危険因子と報告されている. また、高温多湿な環境、飲水の機会が少ないと重症化しやすい. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#17.
導⼊ 症例 解説 熱中症にかかりやすい人 ● 高齢者では男女ともに日常生活のなかで起こる非労作性熱中症の発症頻度が高く、重症例が多いことも特徴. ● 屋内発症の非労作性熱中症では、高齢、 独居、日常生活動作の低下、精神疾患や心疾患などの基礎疾患を有す ることが熱中症関連死に対する独立危険因子である. ● 非労作性熱中症は日常生活の中で徐々に進行し、周囲の人に気付かれにくく対応が遅れる危険性がある. また、 低栄養や脱水、持病の悪化、感染症など複合的な病態を呈する. 特に屋内で発症する非労作性熱中症は高齢の女 性、独居に多く、精神疾患、高血圧、糖尿病、認知症などの基礎疾患を有する症例は重症化しやすい. ● 高齢者になるほど熱に対する感受性、体温調節能、活動レベルは低下し、基礎疾患を有する頻度が高いことから、 屋内発症、重症例が多いと考えられる. ● 屋内環境についてエアコンの設置使用状況をみると、高齢者では使用者は少なく、設置しているにもかかわらず使 用を控える傾向にあった. また、エアコンの未使用者および非設置者の重症度は高かった. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#18.
導⼊ 症例 解説 治療 ● 深部体温が38℃台になるまで積極的な冷却処置を行う. ● 高体温の時間が長くなると予後不良となるため、できるだけ早期に目標温度に到達することが望ましい. ● 労作性熱中症に対しては、ショック状態など生命を脅かす合併症が存在しない限り、病院に搬送前に水槽に 浸漬、または大量の水を噴霧させるなど、できるだけ早期から冷却処置を行うことが推奨されている. ● 低体温に陥らないため、深部体温(直腸温、膀胱温、食道温など)のモニタリングが望ましいが、病院前では困 難である. ● 意識障害を伴う重症熱中症に対しては、病院に搬送前より水を噴霧させるなど、積極的な冷却処置を開始 し、病院到着後は直腸温をモニタリングし深部体温が 38℃台になるまで全身管理の下に冷却処置を効果的 に行うことが後遺症を生じないためにも重要となる. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#19.
導⼊ 症例 解説 治療 ● 労作性(運動性)熱中症の場合、直腸温度40℃異常は超緊急. 冷やして39℃未満に下げる必要がある. ● 熱に弱いのは中枢神経と肝臓である. ● 第一推奨、冷水浴(8~14℃)または 表水浴(2~5℃) → 冷却できてきたら、マイルドな(冷房、霧吹き、扇風機)などへ切り替える. ○ ○ 【腸温を指標に低体温へ陥らない冷却処置について検討した研究】 浸漬させる水温が10℃未満であれば38.6℃、10℃以上であれば37.8℃の直腸温を目標として冷却すれば、 低体 温を生じることなく、安全であったと報告あり. 【冷水への浸漬の効果に関する研究】 2℃の水に約9分浸漬させることで直腸温が39.5℃から38.6℃まで低下すること、目標温度を直腸温 38.6℃ とし た場合は処置を終えた後に低体温に陥らないことも報告されている. ● 霧吹きで水をかける+うちわであおぐ 緊急時には弱い. ● 脇の下や首、腋窩を氷嚢で冷やす 緊急時には弱い. ● クーリングジャケット、手足冷却器具、冷却毛布→効果はイマイチ. ● 血管内冷却カテーテルを用いた深部冷却と水冷式体表冷却に関しては、一部の病院ではおこなわれている. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015. 林 寛之. Step biyond resident 第216回 暑い、熱い、篤い!?高体温Part2. レジデントノート. vol.23 no.13.2021.
#20.
導⼊ 症例 解説 治療 何を飲めばよいか ● 熱中症では水分とともにNaなど電解質の喪失があるので、Na欠乏性脱水が主な病態であり水分の補給に加 えて適切な電解質の補給が重要である. ● 水分のみの補給ではNaが希釈され痙攣の閾値を下げ、また補給された水分は血清浸透圧の低下による水 利尿によって体外に排泄されてしまう. ● 熱中症の徴候を認めた際には特に塩分と水分が適切に配合された経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)が適切である. ● ORSは当初発展途上国の乳幼児の脱水症の予防や治療、特にコレラの脱水治療のために開発された. ● 小腸でNaとブドウ糖は1:1で吸収されることからORSも同様の組成となっている. ● 経口補水液OS-1が普及している. 小児用としてアクアライトORSも発売されている. ● 推奨されている飲水量は高齢者を含む学童から 成人が500~1,000mL/日、幼児が300~600mL/日、 乳児 が 体重1kg当たり30~50mL/日を目安としている. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#21.
導⼊ 症例 解説 熱中症の治療 何を飲めばよいか ● 通常の水分・電解質補給であれば市販のスポーツドリンクで十分である. 下痢や嘔吐、発熱、発汗、経口摂 取不足でいわゆる夏バテを感じた際に飲むことで熱中症の予防になる. ただし、スポーツドリンクは塩分量が 少なく、糖分が多いことを認識しておく必要がある. ● 梅昆布茶や味噌汁などもミネラル、塩分が豊富に含まれており熱中症の予防に有効である. ● 簡単な水分補給としては体重測定をおこない、その減少分と同等の水分補給または0.1から0.2%程度の食 塩水、つまり1Lの水に1から2gの食塩と砂糖大さじ2-4杯(20-40g)の糖分を加えたものが効率よく水分を吸収 でき有効な予防になる. 市販の飲料水であればNa量を100mLあたり40-80mg含んだものが適当である. ● 夏場は特に高齢者に脱水症が生じやすく、また脱水に自分では気づきにくいことも多い. さらにお茶などの塩 分が少ない嗜好があり、自分では水分補給をしているつもりでも結果的に電解質が補給されていない場合も あり経口補水液などを定時に飲むような習慣をつけさせることも熱中症の予防につながる. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.
#22.
導⼊ 症例 解説 本症例のポイント • 熱中症に伴う意識障害と腎機能障害の症例であった.「熱中症診療ガイドライン2015」では熱中症は暑熱 環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称と定義されている.また、重症度はⅠ、Ⅱ、Ⅲ度 の 3 段階に分類される. • 治療は重症度に応じて水分とナトリウムの摂取、体温管理、呼吸・循環管理などが挙げられる.体温管理 としては深部体温が38℃台になるまで積極的な冷却処置を行うことが推奨されている.高体温の時間が長 くなると予後が不良となるため、できるだけ早期に目標温度に到達することが望ましいとされている. • 重症熱中症によって中枢神経、肝、腎、循環器などの多臓器に及んで障害をきたすことがあり注意が必要 である. 本症例では夏場にエアコンを切った状況、暑熱環境においての意識障害・腎機能障害でありその 他に明らかな原因を認めなかったため熱中症と診断し、その中でも重症度分類からⅢ度と診断した.
#23.
導⼊ 症例 解説 本症例のポイント • アンモニアは肝性脳症の原因ではあるものの血中の値が低値でも肝性脳症は否定できず、様々な病態で 上昇しうるためスクリーニングや評価にならないとされている(JAMA2014;6:634).肝性脳症の治療として は原因の除去と栄養療法であり、原因は静脈瘤破裂などによる出血、感染症、便通異常、脱水、電解質 異常など原因は多岐にわたる. • 本症例では熱中症に伴う脱水が肝性脳症の誘発因子であったと考え、熱中症に対する治療と入院前から 加療している便秘薬と栄養療法は継続とした.熱中症に関しては補液のみで早急に改善した. • 高齢者は体温調整機能や脱水を感じにくいなどの点から熱中症をきたしやすいため特に注意が必要であ ることを本人と家族に理解いただき、自宅での生活でエアコンを使用する、こまめな水分補給を行うなどの 対策を講じるよう指導した.また、飲酒も脱水の誘発因子であり、肝硬変・肝性脳症のコントロールのため に禁酒は必要であることを多職種から繰り返し指導した.
#24.
導⼊ 症例 Take Home Message 熱中症予防の指標として暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)が推奨されている 労作性熱中症は屋外での発症頻度が高く、重症例は少ない 屋内で発症する非労作性熱中症は高齢の女性、独居に多く、基礎疾患が有る症例は重症化しやすい 労作性熱中症では、直腸温度40℃異常は超緊急で冷やして39℃未満に下げる必要がある 解説