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喀血診療指針の理念と概要
#1. 日本呼吸器内視鏡学会 喀血診療指針 気管支学 47巻 6号 2024年11月発行 喀血診療指針 が出た! ガイドライン作成委員がまとめました! 岸和田リハビリテーション病院 喀血・肺循環センター 石川秀雄 × 総SNSフォロワー数 12万人 Slide Design by はましま まさひろ
#2. 1.本指針の理念と概要 はじめに 喀血 という症候はさまざまな原因により出現し、 程度によっては生命を脅かす重篤な病態 の一因となる。 しかし、これまでその症候に対する網羅的な議論に基づく診療指針 といったものは示されていない。 医師として極めて身近な症候であるこの喀血についての議論が深まらなかった原因は、 基礎疾患が多彩 であるといった症候自体の背景のみならず、喀血の基礎疾患を診療する専門分野が分 かれている ことから合議する機会に恵まれなかったといった、医療を取り巻く環境 にも一因が あるのではないかと考えられる。 神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 /喀血・肺循環・気管支鏡治療センター 丹羽 崇 (日本呼吸器内視鏡学会喀血ガイドライン作成ワーキンググループ座長)
#3. 目次 1. 本指針の理念と概要 2. 総論 喀血の定義 重症度 治療アプローチ概説 喀血の疫学 3. 喀血の基礎疾患 - 特発性喀血症 - 気管支循環の異常 - 肺アスペルギルス症 - 気管支拡張症 - 非結核性抗酸菌 - 肺結核 - 肺がん 4.喀血の診断・処置・治療 ① 喀血の診断 - 気管支鏡検査 - CTアンギオグラフィー - 気管支動脈造影 ② 喀血症例に対する救急措置 ③ 内科的治療 ④ 外科的治療 ⑤ 内視鏡治療 ⑥ 血管内治療 - 気管支動脈塞栓術 (BAE) 5.今後の検討課題
喀血の重症度分類と治療
#4. この診療指針の strong points 従来の3つの喀血 /BAEガイドラインは、 すべて放射線科関連学会から publishされたものであり、 主に放射線科的 /画像的視点から執筆されている。これは 頁数の圧倒的差にも反映されている。 著者:放射線科医のみ・ 12頁・欧州 これに対し、本診療指針チームは 呼吸器内科医、放射線科医、外科医、救急医によって構成され より 包括的な 内容になっているため、 93頁 に及んでおり 根本的に異質のもの である。
#6. 既存ガイドラインの重症度分類 定量化を断念 従来のものは、 Massive 死亡リスクの高い 喀血とは、窒息または 失血死リスクの高い喀血 ガイドライン間で バラバラで、 Moderate どのガイドラインにも 重症 と非重症 の ロジックが無い。 2分類 Mild
喀血の診断方法と治療アプローチ
#7. 喀血の重症度分類 我々のねらいは2つです。 01 バラバラでロジックがない現況を憂い、 02 国際的な統一 のために、 シンプルさ・実用性を意識して、 割り切って 再定義 したい。 再定義したい。
#8. 重症喀血量の設定 Point 死亡ハイリスク群のピックアップが目的。 これを漏らすことなくしっかり拾い上げる 高い感度 を担保すべき。
#9. 気管支内腔の容量 気管支内腔の容量は 150ml 200? or 400? 重症喀血量の設定
#10. 作成する重症度分類の仕組み 重症度分類は 意思決定のための practicalな仕組みにしたい 入院適応 やBAE適応 と リンクさせ、明確に提示したい。
喀血に対する内科的・外科的治療
#11. ? 具体的数値だけで良い? 患者さんはメスシリンダーで 計測してるどころではない。 極めて主観的かつ不確かな出血量。
#12. 具体的数値だけで良いのか? 具体的数値の提示だけでいいのか? 倉原優先生 (近畿中央呼吸器センター) の基準 BAE適応は、 ティシューで処理できない量
#13. 喀血重症度分類 with 入院適応 &BAE適応 分類 喀血量 による定義 備考 入院加療 BAE 重症喀血 200ml/日以上 (コップ一杯) または酸素飽 和度90%以下 絶対適応 絶対適応 中等症喀血 200ml/日未満、 15ml/日以上 ティシューで 処理できない量 相対適応 相対適応 軽症喀血 15ml /日未満 ティシューで 処理可能 外来レベル 慎重適応 (大匙一杯) 入院とBAEの適応とリンクしたpracticalな分類 気管支の容積は150mlであり200ml以上を重症喀血とした
#14. 喀血治療フロー 喀血 Yes 基礎疾患の有無 特発性喀血症 二次性喀血 基礎疾患の治療 止血剤 No 喀血治療 気管支動脈塞栓術 気管支充填術 外科手術
喀血の基礎疾患とその治療法
#15. 03 喀血診療指針では 各疾患の定義 (概念) 、疫学、病態生理、 診断、治療など各疾患の一般論が記載 され、最後に少し喀血関連の情報が 記載されている。 喀血の基礎疾患 本スライドでは - 特発性喀血症 - 気管支循環の異常 - 肺アスペルギルス症 - 気管支拡張症 - 非結核性抗酸菌 - 肺結核 - 肺がん 喀血関連部分については、喀血頻度や BAE治療成績の差以外には特発性と 肺癌を除いて特記すべき疾患特異性は、 ほぼ無いため本スライドでは省略する。
#16. 04 喀血の診断・処置・治療 ① 喀血の診断 ④ 外科的治療 - 気管支鏡検査 ⑤ 内視鏡治療 - CTアンギオグラフィー ⑥ 血管内治療 - 気管支動脈造影 ② 喀血症例に対する救急措置 ③ 内科的治療 - 気管支動脈塞栓術 (BAE)
#17. 4-1:喀血の診断 気管支鏡 ・大量喀血時の気道確保時に同時に気管支鏡で内腔観察をすることがある。 ・凝血塊を安易に除去しない 。 初期画像検査としての CTA (CT angio) 大量喀血 ・大量喀血の初期画像検査としてCTAは有効 ・塞栓術の対象となる血管を同定できる可能性が高い。 少量〜中等量喀血 ・BAE前に、多くの場合使用される。 反復する喀血 ・BAE前CTAの有益性が検討されている。 特発性喀血症疑い患者に対する塞栓術を前提とした血管造影 ・血管径のみでは喀血責任血管と判断できないことがあり、 血管造影を行わないと得られない異常所見がある。 ・特発性喀血に対する気管支動脈塞栓術の効果は高いとされている。
#18. 4-2:喀血症例に対する救急措置 喀血患者に対する気管挿管に用いるデバイス 太めのシングルルーメンチューブ (SLT) の使用が望ましい。 注意 ダブルルーメンチューブ (DLT)の使用は 内腔径が狭くリスクを伴う。
#19. 4-3:内科的治療 トラネキサム酸の効果 出血の持続時間 や入院期間を短縮する可能性 が示唆されている。 血痰・喀血患者に対する活動性肺結核の除外 ・院内感染予防の観点から、血痰・喀血で搬送された患者に画像検査に並行して 結核の除外診断 を行うことはある。 ・活動性結核患者が血痰・喀血を主訴として来院する頻度は罹患率によって変わる。 ・結核を疑う症状があった場合には除外診断が求められる。 CT で発見された気管支動脈瘤や気管支動脈蔓状血管腫の治療 ・喀血や縦隔血腫などを伴う例に対する治療選択肢として、BAE・TEVAR・外科手術等がある。 ・気管支動脈瘤はハイリスク でおもにBAEが選択されている。 ・破綻した BAA は瘤径が小さい。
#20. 4-4:外科的治療 喀血に対する手術適応 ・大量喀血の場合、手術適応の判断は外科医の経験 によるところが大きい。 ・出血源や基礎疾患によって手術適応が変わってくる。 ・片側出血 が明らかで、かつコントロール困難 な場合、 救命のため早期に外科医へのコンサルト が望ましい。 インターベンションか手術かの選択 ・BAEの進歩により、緊急手術症例は減少している 。 ・コントロール困難な大量喀血時には外科的切除が生命予後を改善させる ことも覚えておくべき。
喀血に対する内視鏡治療と血管内治療
#21. 4-4:外科的治療 2 手術適応を判断するタイミング ・基礎疾患によっては手術療法がよい適応となるが、 術後合併症や生命予後の観点から緊急手術はなるべく避け、待機手術を考慮。 ・喀血に対する手術の合併症は約 26%、手術死亡は 6.5%という報告がある。 侵襲性肺アスペルギルス症患者の喀血治療としての手術 ・BAE無効例において手術は有効な治療法のひとつ。 ・基本は葉切除となるが、病変が小さい場合には区域切除や楔状切除も可能。 ・耐術能のない症例に対する空洞切開術や胸郭形成術、充填術などの報告もある。
#22. 4-4:外科的治療3 喀痰塗抹陽性肺結核患者の中等量以上の喀血に対する各種治療の介入 ・感染管理上の注意を払ったうえでBAE、外科切除等による治療を考慮 すべき。 ・手術の場合、病変の取り残しによる空洞性病変再発を防ぐため、肺葉切除術が基本となる。 喀血に対する手術術式決定方法 ・基本的な術式は肺葉切除。 ・手術死亡関連因子は、高齢、広範囲切除、腎不全やサルコイドーシスなどの 基礎疾患の存在、細菌感染症の合併、肺膿瘍もしくは肺内壊死性病変の存在であった。 ・待機的手術が可能な場合 には手術アプローチや切除範囲を詳細に検討したうえで、 鏡視下手術や縮小手術の選択も考慮 される。
#23. 4-5:内視鏡治療 腫瘍による喀血に対する気管支鏡インターベンション ・十分な知識および経験を有する医療スタッフの存在が重要。 ・硬性鏡が効果的であるが経験と技能が必要。 ・氷生理食塩水やエピネフリン・トロンビンなどの気道内投与や、バルーン留置、EWS 充填、 焼灼術など、まざまな方法があるが、出血点の位置や対象領域により手技の選択が異なる。 喀血に対する EWS 充填術 ・喀血に対する EWS の有用性が示唆する症例報告がある。 ・大量喀血下 で EWS を留置できるのは限られた症例 である。 ・EWS 充填術には内視鏡操作の熟達が要求される場合がある。
#24. 4-6:血管内治療 BAE ・BAEは原疾患によらず、概ね良好な成績が得られている。 ・主な責任血管は気管支動脈とされているが、肋間動脈や、内側胸動脈、外側胸動脈、 下横隔膜動脈など、側副血行路の発達による様々な血管が喀血原因となる。 ・コイル、ゼラチンスポンジ、NBCA といった塞栓物質が選択肢として存在し、 それらの治療効果と合併症リスクを鑑みて選択される。 気管支拡張症 ・⻑期止血率は良好で合併症も少ない。 ・1 年止血率は 85〜98%、3 年止血率は78〜82%。 慢性肺アスペルギルス症 短期止血率は 64− 100%と幅があるが概ね高い。 ・6ヶ月以上の⻑期止血率は観察期間や塞栓物質により異なるが約 1−2 年で再喀血する。 ・IDSA のガイドラインではアスペルギローシスに対する BAE は強く推奨 されている。
今後の検討課題と出版予定
#25. 4-6:血管内治療 原発性肺癌 ・喀血機序 は良性肺疾患の主たるメカニズムである気管支動脈 -肺動脈シャントとは 異なることが多い。 ・良性疾患よりも⻑期喀血制御率が悪く、特に肺扁平上皮癌の患者では顕著である。 ・基本的に単施設後ろ向き研究しか存在しないが、短期止血率はまずまず高く、 重篤な合併症は少ない。 肺MAC症 ・BAE 後 12 か月における喀血制御率は良好 である。 ・⻑期観察において喀血制御率は低下傾向を認めるものの、 3 年で約 6 割の喀血制御が期待できる。
#26. 今後の検討課題 •気管支鏡検査中の喀血について •結核治療中の喀血は、予後規定因子となるか •結核後肺疾患では喀血は、予後規定因子となるか •大量喀血患者のとるべき体位について •大量喀血時の挿管適応について •大量喀血の出血量下限閾値について •少量喀血の出血量上限閾値について
関連書籍とBAEテクニックの紹介
#27. 2024年12月「気管支学」にて全文公開 2025年4月 南江堂から書籍として出版 Respiratory Endoscopyにて英文で公開
#28. ssBACEマスターノート 250頁、フルカラー、 7500円 2025年3月 日本医事新報社から出版 石川秀雄 監修により全 BAEテクニックを惜しみなく解説
#29. Thank you for your attention! 呼吸器内科医のためのBAEテクニッ クマニュアル 日本呼吸器内視鏡学会英文誌 Respiratory Endoscopyに掲載 Open Accessです。テクニックだけで なく総論も充実。