#4.
序 論 ALIの疾患概念 イメージは 「下肢の心筋梗塞」 なんらかの機序により急激に下肢血管が閉塞したため、 血液灌流障害を受けた下肢の筋組織などが 速やかに壊死、機能障害を来していく病態。 ゆっくり血管が狭窄~閉塞する場合には 側副血行路が発達するため急激な壊死は進行しにくいが、 急激な閉塞では側副血行路を作る時間がないため速やかに壊死が進行する。 慢性進行で比較的ゆっくり対応できるLEADやCLTIと、 急性発症で対応を急ぐALIでは緊急性が決定的に異なる。 ゆっくり治せる狭心症と 急いで治す心筋梗塞の関係に似る。
#5.
序 論 ALIの疫学 ・2018年に4813例のALIが報告された。 3.8/10万人年の比較的珍しい疾患。 ・62%が男性、38%が女性であった。 男性に多い。 ・74.6%が塞栓摘除術±パッチ形成術、14.1%がバイパスグラフト形成術、 17.1%が血管内治療(バルーン拡張術±ステント留置術)で治療された。 基本的には血管外科の疾患。 (ハイブリッド治療のため重複カウントがあり、総計100%を超える) 日血外会誌 2022; 31: 217–237
#6.
序 論 ALIの病因 病因 塞栓症 血栓症 ① 塞栓症 その他 7% 心房細動 41% ・人工弁 (特に機械弁) ・左室内血栓(陳旧性心筋梗塞や各種心筋症) ・奇異性塞栓(心房中隔欠損や卵円孔開存) ・感染性心内膜炎 ・心臓腫瘍 (肉腫や粘液種) ・アテローム塞栓(大動脈壁のプラークの飛散) ② 血栓症 ・Acute on chronic arterial thrombus (LEADのような慢性病変に脱水や心拍出量の低下、プラーク破綻が加わり、 血管が急性閉塞するもの。ALIの中では比較的進行は緩やか。) ・膝窩動脈瘤 (ALIに占める割合は低いが、膝窩動脈瘤の半数はALIで発症する。かつ肢切断率が高い。 ALIを診たら常に念頭に置いておく必要がある。) ・血管炎:バージャー病、ベーチェット病、高安動脈炎、各種膠原病 52% ③ その他 ・感染性心内膜炎、心臓/大動脈腫瘍、左房粘液腫 血管外科手術アニュアルレポート2018年 日血外会誌 2022; 31: 217–237
#7.
序 論 塞栓症/血栓症のどちらがメインなの? 病因が塞栓症<血栓症なのに、なぜ①塞栓症>②血栓症の順番で羅列されているの? 理由は明示されてはいません。 以下はあくまで筆者の考えですが、 ①塞栓症 は急激に発症し、ALIに特異的な治療(早期の塞栓除去術)によって状態が改善する可能性が期待される。 ②血栓症 の多くはAcute on chronic arterial thrombus(慢性経過中に発症する急性の動脈血栓症)であり、 発症形式がALIであっても比較的緩徐に進行する慢性動脈硬化性疾患(LEADやCLTI)との区別が難しい。 →治療方法もLEADやCLTIに準じたものになることも多く、ALIとして独立した概念に落とし込む事が難しい。 心房細動を代表とする原因疾患を背景とした急性の塞栓症 が典型的なALIとして分類し易いため、と考えます。 本稿でも以後主に 心房細動を代表とする原因疾患を背景とした急性の塞栓症について記載します。 (便宜的に「狭義のALI」と以後呼称します。) Circulation 2015; 132: 1805-1815.
#8.
序 論 改めて、典型的な狭義のALIの疾患概念 ② ① ①心房細動などにより心~大動脈に血栓が形成される。 ②血栓が剥離して大動脈内を末梢に移動する。 ③ ③血管が分岐・狭小化する下肢血管で詰まり、血栓塞栓症を起こす。 ④ ④塞栓症を起こした領域より末梢の灌流域で急激な虚血を起こす。
#9.
序 論 閉塞箇所ごとのALIの予後 術死率/在院死亡率 ① 腹部大動脈–腸骨動脈領域 10%/12% ② 大腿–膝窩動脈 7%/9% ③ ④ 下腿動脈 足部動脈 8%/11% 15%/17% かなり予後不良の疾患。 血管径が細い足部動脈では 完全な血行再建が難しく、 特に予後が悪い。 日血外会誌 2022; 31: 217–237
#10.
診 断 ALIの診断フローチャート 急性の下肢痛 臨床所見、末梢動脈静脈ドプラ音聴取 急性下肢動脈閉塞の判断 ヘパリンの静注 5000単位 または 70-100単位/kg 重症度分類 (SVS分類) カテゴリーI 救肢可能 カテゴリーIIa 危機的(境界型) カテゴリーIIb 危機的(即時型) 採血・採尿、心電図、画像診断 ALIと判断した時点で 検査結果を待たずに 速やかにヘパリン静注を行う。 (class Ia) カテゴリーIII 救肢不能
#11.
診 断 5P/6P 臨床所見 (5P/6P)、末梢動脈静脈ドプラ音 疼痛 Pain 知覚鈍麻 Paresthesia 蒼白 Pallor / Paleness 脈拍消失 Pulselessness 運動麻痺 Paralysis / Paresis (虚脱) (Prostration) ドプラ血流計 血流が存在する場合、 ・モニタに脈波が表示される ・ザーッザーッ、シューッシューッと音がする これらが確認出来ない時は、血流が低下している。 + 筋肉硬直、水疱形成、壊疽
#12.
診 断 重症度分類(SVS分類) 所見 カテゴリー ドプラ血流 予後 感覚消失 筋力低下 動脈 静脈 即時性なし なし なし 聴取可能 聴取可能 IIa.境界型 ただちに治療すれば 救肢可能 なし~足趾のみ なし 聴取不能 聴取可能 IIb.即時型 即時に治療すれば 救肢可能 あり 安静時疼痛を伴う 軽度~中等度 聴取不能 聴取可能 広範囲な組織血栓 恒久的な神経障害 重度~完全感覚消失 重度~麻痺(硬直) 聴取不能 聴取不能 I.救肢可能 II.危機的 III.不可逆性 重症度によって治療の緊急性が大きく変化する。 静脈より動脈ドプラの方がALIの早期検出には有用。 静脈ドプラ消失時点では時すでに遅し。
#13.
診 断 採血・採尿、心電図、画像診断 ・CK、LDH、AST、ミオグロビン等の逸脱酵素 採血・採尿: ・動脈血ガスで代謝性アシドーシスの有無の評価 ・BUN/Cre等の腎機能評価、尿量の測定 虚血に続発する 横紋筋融解の 程度を評価。 ・高K血症の有無 心電図: 画像診断: ・心房細動・心房粗動・心房頻拍の有無 ・高K血症に伴う心電図変化の有無 多少の腎不全で造影CTを躊躇わない。 迅速に解像度の良いCTで病変を特定し 速やかに治療する必要がある。 ・造影CT (>下肢動脈エコー) → 血管造影 脳梗塞や腎梗塞、上腸間膜動脈閉塞など 他の塞栓症を合併している可能性があり、 また左心耳や左室心尖部に血栓が見つかる 事もあるため、胸部から下肢まで撮像する。
#14.
治 療 ALIの治療フローチャート カテゴリーI 救肢可能 カテゴリーIIa 危機的(境界型) カテゴリーIIb 危機的(即時型) カテゴリーIII 不可逆的 採血・採尿、心電図、画像診断 保存的治療 待機的血行再建 準緊急 血行再建 カテゴリー I 24時間以内の血行再建 緊急血行再建 時間経過 下肢切断 カテゴリー II 6時間以内の血行再建 診断が遅れれば遅れるほど、血行再建の適応にならなくなってゆく。 血行再建が遅れれば遅れるほど、下肢と全身の予後が悪くなってゆく。 時間経過 カテゴリー III 血行再建の意義無し Time is life.
#15.
治 療 血行再建の方法 血管外科による血栓塞栓除去手術が第一選択。 Ex)フォガティカテーテル バルーンに引っ掛けた 鼠径部を切開して 血栓を超えたら フォガティカテーテル ④ 血栓をカテーテルと共に ① 総大腿動脈を露出 ② ③ バルーンを膨らませる を動脈内に挿入 血管外まで引きずり出す 術前術後の血管造影は必須。場合によっては血管内カテーテル治療(EVT単独)や Ope+EVTハイブリッドになるので、循環器内科との合同手術となる事が多い。
#16.
治 療 外科的血栓塞栓除去術とEVT なぜ外科的血栓塞栓除去術が第一選択とされ、EVTは補助的役割なの? ①血栓が大き過ぎてカテーテルでは除去しきれないから。 ②日本ではALIに対してtPAやウロキナーゼ、種々の血管内治療デバイスが保険適応となっていないから。 ① 腸骨動脈~大腿動脈の径はおよそ4~10mm径で、ALIではこの内腔を血栓が埋め尽くしている。 EVTで使える血栓吸引カテーテルは存在するが、径約2mmのストローで径4~10mmの筒状のプリンを 吸いつくそうとしているようなもので、殆どの場合吸引しきる事は困難である。 フォガティカテーテルのバルーンは4~14mmまで広がるので、血栓を根こそぎ引きずり出すことが出来る。 ② 海外では使用しているtPAやウロキナーゼ、種々の血管内治療デバイスが、日本ではALIに対しての保険適応が通らず 使用する場合には事実上病院の持ち出しとなる。 参考:ウロキナーゼ 冠動脈血栓における標準使用量の薬価 34,300~68,600円 末梢血管用ステントの一種 160,000円
#17.
治 療 EVTを考慮する場合 ①動脈硬化性疾患の重症度が高く、血栓除去カテーテルの挿入が困難な場合 ②全身状態が手術療法に適さない場合 ③迅速な手術による血栓除去が困難な場合 ④外科的治療の後に血栓が残存し、EVTでの追加治療が必要な場合 などにはEVTでの治療を考慮する。 日本におけるALI患者の28.6%は車椅子、21.7%は寝たきりであるため、 外科手術が非現実的であることもしばしば経験される。 ※ 米国においては外科手術とEVTを比較して 施設に入所していて 「足の色が悪くて 1-2日様子を見ていたが 良くならないので 連れてきた」 →手遅れ というのが典型的なパターン… 寝たきりは院内合併症のリスク でもある。(HR 1.74) ・大切断率では同等 ・院内死亡率や急性腎障害ではむしろEVTの方が成績が良い ので、今後の保険適応の拡大次第ではALIに対してもEVTが隆盛する可能性はある。 J Atheroscler Thromb. 2021 Nov 1; 28(11): 1145–1152.
#18.
治 療 虚血再灌流障害 ALIは血行再建出来たから問題解決、ではない。 むしろ血行再建後に随伴して生じる病態がより重篤であることも多く、しばしば致死的となる。 ① 筋腎代謝症候群 ( myonephropathic metabolic syndrome:MNMS) ② コンパートメント症候群
#19.
•. 2020 Feb;59(2):173-218. 治 療 筋腎代謝症候群(MNMS) 乳酸 アシドーシス 重炭酸塩 カリウム 高カリウム血症 不整脈 透析 ミオグロビン 腎不全 利尿薬 CK 呼吸不全 呼吸補助 ・目安として CK 5000-10000:重症MNMS CK 20000以上 :横紋筋融解症 ただしCKの上昇は緩徐なので 上昇した段階で壊死はすでに進行している… ・早期の予後予測因子として 好中球がリンパ球の5倍以上では死亡率が上昇 大量の 横紋筋壊死 長時間虚血に晒された横紋筋が壊死すると、壊死物質が局所に蓄積される。 血流が再開するとそれらの壊死物質が一斉に体循環に流れ込み、腎不全・代謝異常を起こす。 確立された治療法は無く、各異常に対してバランスを取りながら回復を待つしかない。 Eur J Vasc Endovasc Surg . 2020 Feb;59(2):173-218.
#20.
治 療 コンパートメント症候群 筋が虚血状態になる 血行再建 血流が再開する ALIの25~30%にコンパートメント症候群を合併する。 大血管の血行再建が成功しても、筋内の末梢血管が筋肉内圧に 押しつぶされて再度虚血に陥ってしまう。 筋腎代謝症候群 筋が浮腫を起こして膨張する 筋膜内区画(コンパートメント)内で 膨張が制限されて筋肉内圧が上がる 筋膜切開術 内圧で筋肉内の血管が圧縮される 筋肉内圧計で30mmHgを超えた場合には筋膜切開術を行う。 ALIの診断から6時間以内に施行する。 8時間を経過すると予後不良である。 ・ALIの診断から6時間以上の時間経過 ・若年者 ・ALIの既往歴 ・低血圧 等はコンパートメント症候群重症化のリスクである。 Eur J Vasc Endovasc Surg . 2020 Feb;59(2):173-218.
#21.
治 療 血行再建後の治療 塞栓症の場合: 原因検索のために 心エコー / holter心電図 / 胸腹部造影CTなどを施行する。 60歳以下の場合には特に異常凝固能亢進の原因として下記も積極的に精査する。 悪性疾患 血栓性素因 (抗リン脂質抗体症候群 / PC欠乏症 / PS欠乏症 / アンチトロンビン欠乏症) 心房細動による狭義のALIであればDOACを開始する。 (ダビガトラン / リバーロキサバン / アピキサバン / エドキサバン) 血栓症の場合: 動脈硬化(および膝窩動脈瘤)が原因とされるALIにおいては 通常の二次予防としての抗血小板薬投与やスタチンの投与を開始する。
#22.
結 語 ALIにおいて最も重要な事は 動脈硬化(および膝窩動脈瘤)が原因とされるALIにおいては 治療介入による改善は限定的であることも多い。 一方で、塞栓症による狭義のALIにおいては 早期の治療介入によって劇的な改善が得られる場合がある。 故に、ALIに於いて最も重要な事は 早期発見、早期診断、早期治療 である。
#23.
Take home message ① カテゴリーIなら24時間、カテゴリーIIa / IIbなら6時間。 発症直後のGolden timeを見逃さない! ② 即座の抗凝固療法、速やかな外科的血栓塞栓摘除術が第一選択である。 選択できない場合にはEVT(血管内治療)とせざるを得ない場合もある。 ③ 血行再建が完了したから治療終了、ではない。 しばしば随伴する虚血再灌流障害への対応、全身管理が必要となる。