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循環器内科で何ともないと言われたけど、胸痛が収まらない患者さんに困った時に見るスライド ~彼の名はSyndrome X、冠微小循環障害(CMD)~ L1.png

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循環器内科で何ともないと言われたけど、胸痛が収まらない患者さんに困った時に見るスライド ~彼の名はSyndrome X、冠微小循環障害(CMD)~

投稿者プロフィール
Genjoh@循環器内科

総合病院

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77

概要

狭心症症状や心筋虚血所見が認められるのに、冠動脈の大血管に器質的狭窄が見られない場合には冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害を疑いましょう。現在における両疾患の検査、治療についての理解を深めていただけましたら幸いです。

◎目次

・Take home message

【序論】

・冠動脈疾患の分類

・Syndrome X

・INOCA

・INOCAの疫学・予後

・慢性冠症候群(CCS)とINOCAの内訳

・INOCAの成因

【診断】

・VSA/MVSの概念

・VSAの診断方法

・MVSの診断方法

・CMDの臨床分類

・CMDの診断基準

・CFRとIMR

・CMD検査実施施設

・INOCA診断の総まとめ

【治療】

・INOCAにおける日常生活管理

・VSAの薬物治療

・VSAの非薬物治療

・CMDに対する薬物治療

・INOCAに対する治療介入の意義

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医/専門医

参考文献

  • 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

  • J Am Coll Cardiol. 2018 Nov, 72 (21) 2625–2641

  • JACC Cardiovasc Imaging. 2015;8:210-220.

  • J Am Heart Assoc 2022; 11: e023207.

  • J Am Heart Assoc . 2020 May 5;9(9):e014954

  • 冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)

  • 日本冠微小循環障害研究会 (J-CMD) CMD検査実施施設

  • EuroIntervention . 2021 Jan 20;16(13):1049-1069.

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テキスト全文

胸痛が収まらない患者の診断

#1.

循環器内科で何ともないと言われたけど 胸痛が収まらない患者さんに 困った時に見るスライド 彼の名は Syndrome 冠微小循環障害 Dr.Genjoh@循環器内科 @DrGenjoh Coronary Microvascular Dysfunction

#2.

Take home message ① 狭心症症状や心筋虚血所見が認められるのに、 冠動脈の大血管に器質的狭窄が見られない場合には、 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害を疑おう。 ② 冠攣縮性狭心症を鑑別するために行う負荷試験は 一般的なカテーテル施行施設で概ね施行可能である。 一方で、冠微小循環障害の鑑別は限られた施設のみで可能である。 ③ 冠攣縮性狭心症に対する薬物治療はある程度確立されているが、 冠微小循環障害に対する薬物治療は未確立状態である。

#3.

序 論 冠動脈疾患の分類 不安定狭心症(UAP) 急性冠症候群 (ACS) 非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI) ST上昇型心筋梗塞(STEMI) 今回は この領域の おはなし MINOCA 80 冠動脈疾患 (CAD) IOCA 慢性冠動脈疾患 (CCS) 労作性狭心症 冠攣縮性狭心症(VSA) INOCA 冠微小循環障害 (CMD) 今回の主役! 冠微小血管 狭心症 微小血管攣縮 (MVS) 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

Syndrome XとINOCAの概念

#4.

序 論 Syndrome X ~2015年頃まで ① 慢性的な狭心症症状を有し、 ② 心筋虚血の客観的な検査所見(心電図、心エコー、MRI、核医学検査など)を認め、 ③ しかし冠動脈造影で有意狭窄を認めず、 ④ 負荷試験を施行しても陰性で、冠攣縮性狭心症(VSA)でもない。 狭心症みたいだが、冠動脈狭窄がなく狭心症ではない謎の疾患 「Syndrome X」 が医師と患者双方を悩ませていた。 学術用語ではなく、正体不明な状態をもってX症候群と通称された。 Mister XやX dayと同じノリ。 循環器内科で取り扱う既存の疾患概念に 合致するものがなく診断できなかった。 ・消化器内科(主に上部消化管内視鏡) ・総合診療科 ・心療内科 ・漢方医学科 などに紹介され、患者が難民化することも。

#5.

序 論 INOCA 2017年に米国で提唱されはじめ、2020年の欧州で疾患概念が確立。 ① 安定した慢性的な狭心痛や非典型的症状を有し、 ② 心筋虚血の客観的な検査所見 (心電図、心エコー、MRI、核医学検査、心臓カテーテル検査による心筋乳酸産生の亢進など)を認め、 ③ 冠動脈造影や冠動脈CTで50%以上の閉塞性冠動脈疾患がなく、 血流予備量比(FFR)<0.80の機能的虚血を生じる狭窄がない。 狭心症みたいだが、冠動脈狭窄がなく狭心症ではない謎の疾患は 「INOCA」 前頁と比較すると条件から④が外れている。 つまり、 として西洋医学的に診断できるようになった。 冠動脈閉塞を伴わない心筋虚血 (Ischemia with Non-Obstructive Coronary Artery disease: INOCA)。 INOCA - 冠攣縮性狭心症 = 微小循環障害 (VSA) (CMD) (= Syndrome X) 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

#6.

序 論 INOCAの疫学・予後 冠動脈大血管に閉塞が無いのならいいんじゃないの?微小血管なんか放置しておいても。 ダメです。想像以上に患者数は多く、予後は不良であり、治療介入を要します。 疫学 冠動脈造影検査(CAG)を受けた患者の10~30%はINOCAである。 (JACC Cardiovasc Imaging. 2015;8:210-220.) INOCA診断のため検査を行った場合、VSAの陽性は約49%、 CMDは約41%、両者の合併は約23%存在することが報告されている。 (J Am Heart Assoc 2022; 11: e023207. ) 予後 3.93(95%CI、2.91-5.30;P<0.001) CMD患者の健常者に対する死亡オッズ比 CMD患者の健常者に対するMACEオッズ比 5.16(95%CI、2.81-9.47;P<0.001) (MACE; Major Adverse Cardiovascular Events) =主要心血管イベント (J Am Heart Assoc . 2020 May 5;9(9):e014954.) Ischemia試験(目に見える冠動脈狭窄病変に対してPCI[カテーテルによる血行再建]で 治療しても、薬物治療群と予後が変わらなかった)とほぼ同時期の発表であったこともあり、 「デカい血管だけ拡張していてもダメじゃね?」「微小血管にも目を向けねば」感が強まった。 CFR<2.0=CMDだと MACE発生率が上がる J Am Coll Cardiol. 2018 Nov, 72 (21) 2625–2641 CAGで見える大血管は全体の5%に過ぎず、95%が微小 血管であることを考えれば、感覚的には納得できるかな…

INOCAの成因と疫学

#7.

序 論 慢性冠症候群(CCS)とINOCAの内訳 冠動脈大血管に狭窄あり (IOCA) 労作性狭心症(AP) (器質的冠動脈疾患) 冠動脈大血管に狭窄なし (INOCA) 冠攣縮性狭心症(VSA) (機能的冠動脈疾患) 2015年頃までは青と赤の鑑別で終了していた。 INOCAの概念が確立してから黄色と緑も 鑑別出来るようになった。 冠微小血管攣縮(MVS) (機能的冠動脈疾患) 各疾患は重複して存在しうることに注意。 微小血管狭心症(CMD) (器質的・機能的冠動脈疾患) 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

#8.

序 論 INOCAの成因 大血管に器質的な狭窄病変がなくても、 ①大血管で血管攣縮を起こしたり(VSA) 小動脈・細動脈・微小循環 心外膜冠動脈(大血管) 構造的異常 血管収縮性の亢進 ① 心外膜冠動脈の攣縮 ② 冠微小血管の攣縮 ③ 血管拡張不全 ・血管内皮機能障害 ・血管平滑筋機能障害 VSA ②微小血管で血管攣縮を起こしたり(MVS) MVS ④ 冠微小血管抵抗の増大 ・冠微小血管の内腔狭窄 ・冠微小血管リモデリング ・冠微小血管分布密度低下 ・心肥大に伴う血管外からの 血管内腔への圧迫 ③血管内皮からの血管拡張物質の産生が滞ったり 血管平滑筋が硬くなったりする →血管が拡張しにくくなる為に 上流から受け入れられる血液量が減ったり (CMD) ④微小血管に器質的な狭窄病変ができたり 微小血管の修復時に壁が肥厚して狭くなったり 微小血管が壊れちゃって数が減ったり 肥大心筋に圧迫されて微小血管が押し潰されたり (CMD) さまざまな理由で心筋虚血は起こりうる。 INOCA CMD 病態は必ずしも単一ではない。 大血管の狭窄+①+②+③+④=激しい心筋虚血というパターンもありうる。 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

#9.

診 断 VSA/MVSの概念 突然の冠動脈の過収縮により一過性に冠血流が低下し、心筋虚血をひき起こす病態。 (発作時のみに高度狭窄を来すが、背景には動脈硬化性変化も関与している) 40歳以上、喫煙、飲酒、脂質異常、ストレス、遺伝的素因を背景として 典型的には夜間~朝方の安静時の胸痛として出現する。 冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)

VSAとMVSの診断方法

#10.

診 断 VSAの診断方法 安静時・労作時の狭心症様発作があり、冠攣縮性狭心症を疑う場合、 自然発作時の12誘導心電図、またはホルター心電図などを施行する 虚血性変化陽性 関連する2誘導以上における 一過性の(=攣縮発作) ①0.1mV以上のST上昇 ②0.1mV以上のST低下 ③陰性U波の新規出現 のうちいずれか 虚血性変化境界域 陽性 冠攣縮誘発検査 陽性 VSA確定診断 虚血性変化陰性 右記の参考項目を満たす 陰性 陰性 VSA疑い VSA否定的 A:硝酸薬によりすみやかに消失する狭心症様発作 + B:下記のうちいずれか1つ ①:特に夜間から早朝にかけて安静時に出現する ②:運動耐用能の日内変動がある(朝の運動に弱い) ③:過換気発作により誘発される ④:Ca拮抗薬が有効でβ遮断薬が無効である A+Bを満たせば陽性 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

#11.

診 断 VSAの診断方法 ①:症状 + 心電図から確定診断に至るパターン。 現実的にはなかなか難しい(発作の瞬間の心電図変化がなかなか捕捉できない)。 (器質的狭窄を除外するために冠動脈CTは見ておきたい[推奨度 classIIa])。 ②:冠攣縮誘発検査を施行するパターン。 概ね心臓カテーテル検査における冠攣縮薬物試験を行う。 (器質的狭窄の有無も同時に判断できる) ① ② アセチルコリンまたはエルゴノビンを冠注し、下記所見が得られればVSAと診断する。 「心筋虚血の徴候(狭心痛および虚血性心電図変化)を伴う冠動脈の局所に誘発 される一過性の完全または亜完全閉塞(>90% 狭窄)、または冠動脈の連続する 2つ以上のセグメントに誘発される90%のびまん性血管収縮」 アセチルコリン:一過性に高度徐脈を来すので、一時的ペースメーカーが必要。 エルゴノビン:保険収載なし。代謝が遅く、重篤な攣縮が起こると遷延し危険。 ・・・でどちらも一長一短。 いずれの薬剤も心筋梗塞、ショック、重症不整脈、心停止を起こしうるので、 慎重に少量から負荷を行う。(重篤な合併症発生率は0.89%) 薬剤溶出性ステント(特に古い第一世代DES)がVSAを惹起することもあり、 PCIを受けた後も胸部症状が続く場合にはVSAの合併も疑う必要がある。 VSAらしくない症例に盲目的に施行したり、急性冠症候群に対して施行したりするべきではない。 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

#12.

診 断 MVSの診断方法 狭心症症状を有するが心外膜冠動脈(大血管)に 50%以上の狭窄がなく、VSAやMVSを疑う ①狭心症様の安静時または労作時の自覚症状を有する。 ②アセチルコリン・エルゴノビン誘発試験で 胸部症状の再現があり、虚血性心電図変化がある。 アセチルコリン/エルゴノビン誘発試験 なし 胸部症状の再現 MVS否定的 場合に、MVSと診断される。 あり なし 虚血性心電図変化 MVS否定的 あり あり 心外膜動脈攣縮 あり MVSと診断 ③しかし大血管において>90%の血管攣縮を来さない(VSAでない) 診断保留 明確な血管閉塞を来さない心筋梗塞(MINOCA)の原因となることもあり MVSは軽視してよい疾患ではない。 ただし、大血管における狭窄病変があったり(IOCA)、 大血管における血管攣縮発作があったり(VSA) する場合には、それらと重複するMVSの診断を下すことは 現段階では困難である。今後に期待。 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

CMDの臨床分類と診断基準

#13.

診 断 CMDの臨床分類 クリニカルシナリオに基づく冠微小循環障害(CMD)の臨床分類 臨床分類 臨床診断 主要な病因 狭心症 狭心症様症状 INOCA MINOCA タコつぼ型症候群 PCI/CABG後 血管平滑筋能障害 血管リモデリング 血管内皮機能障害 Type 2 心筋症や弁膜症に併発 呼吸困難 運動耐用能低下 糖尿病性心筋症 大動脈弁狭窄症 心アミロイドーシス 心臓ファブリー病 心筋炎 高血圧性心疾患 拡張型心筋症 血管平滑筋能障害 血管リモデリング 血管狭窄・閉塞 血管外からの圧排 Type 3 閉塞性冠動脈疾患に併発 (+IOCA) 狭心症 狭心症様症状 慢性冠症候群 急性冠症候群 血管平滑筋能障害 血管リモデリング 血管内皮機能障害 時に無症状 PCI関連 CABG関連 移植心冠動脈病変 内腔狭窄・閉塞 自律神経機能障害 全身性炎症反応 Type 1 閉塞性冠動脈疾患や 心筋疾患なし (=狭義のCMD) Type 4 医原性 臨床症状 PCI = 経皮的冠動脈形成術 = 冠動脈のカテーテル治療 CABG = 冠動脈バイパス外科手術 CMD自体は比較的広義な概念である。 (様々な病態の背景に、普遍的に併発しうる) 労作時あるいは安静時の狭心症様症状を訴え、 冠動脈造影を施行された症例のなかで、 心外膜冠動脈に血流を阻害する高度狭窄病変や 冠攣縮のいずれも認められないtype (=旧来のSyndrome X)は Type I(=狭義のCMD)と定義される。 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

#14.

診 断 CMDの診断基準 ・13N-アンモニアPET: 保険収載されているが、施設内サイクロトロンを 要するため可能な施設が限られている。 (class IIa) 1.心筋虚血の症状 ・労作性かつ/または安静時狭心症 ・狭心症様症状(息切れなど) 2.非閉塞性冠動脈疾患 ・冠動脈CTによる評価 ・侵襲的冠動脈造影による評価 大血管における狭窄がない 3.心筋虚血の証明 ・胸痛発作時の虚血性心電図変化 ・負荷に伴う胸痛かつ/もしくは虚血性変化 (運動負荷心電図変化や、運動/薬物負荷心筋シンチグラフィー等) 4.冠微小循環障害の証明 ・CFR <2.0 ・IMR ≧25 ・冠動脈slow flow現象(TIMIフレームカウント>25) ・MVS ・負荷心筋パーフュージョンMRI: 保険収載されていない。 dual bolus approach、dual sequence、 専用解析ソフトを要しハードルが高い。 (class IIb) 左記の他にも上記2つの検査がガイドラインで 認められているが、実施のハードルが高い。 心筋乳酸は虚血の鋭敏なマーカーでありCMDの診断に 有用であるが、冠静脈洞(CS)に右心カテを留置しそこで 採血をしないといけない(不整脈の先生はCSをよく使うが、 虚血の先生はCSをほとんど使用しない、そしてCMDは虚血 疾患である…)、アセチルコリン負荷の実施前・中・後で複数回の 乳酸測定を要するので実施のハードルが高い。 →現実的な落としどころとして CFRとIMRの測定を以て診断する形に落ち着いている。 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

#15.

診 断 CFRとIMR 心外膜血管 微小血管 カテーテルで冠動脈造影検査を行い、心外膜血管に狭窄がないことを 確認した後で、特殊な圧測定ワイヤーを用いてCFRとIMRを測定する。 CFR: 安静時血流に対して、最大充血時血流がどれだけ増えることができるか =心筋の酸素需要増加に応じて冠血流が増加できる予備能を表す。 (▲心外膜血管の予備能も拾ってしまう) 小さいと悪い。 特殊な 圧測定ワイヤー IMR: 冠動脈末梢における血圧、血流を測定 =冠血流低下のもととなる微小血管の血管抵抗の大きさを表す。 (◎微小血管に特異的な指標) 大きいと悪い。 FFR IMR CFR <2.0 かつ IMR ≧25 なら Type I CMD と診断。 CFR FFR:大血管レベルにおける血流低下の指標。 <0.80で大血管に血流低下の原因となる狭窄があると診断できる。 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

INOCAの治療と生活管理

#16.

診 断 CMD検査実施施設 冠動脈造影のついでに、冠動脈に特殊 ワイヤーを入れて生食を冠注、計測 するだけでtype I CMDの鑑別が 出来るCFR、IMR測定は大変有用。 ただしCFR、IMR測定に対応した 新しい特殊ワイヤーと測定機械を 同時にそろえる必要があるため、 現時点では測定できる施設は 心臓カテーテルの出来る施設のうち 一部である。今後に期待。 CMD検査実施施設数 (2024/1/5時点) 日本全国(160施設) 東京(20) 神奈川(14) 大阪(13) 愛知(12) 北海道(9) 京都(9) 兵庫(8) 福岡(8) 岡山(5) 他都道府県は(1~4) 青森・秋田・岩手・山形・福島・新潟(0) 島根・佐賀(0) 都会は恵まれているが、普通の都道府県でも 代表的な施設のみ。東北は壊滅的で0多し。 自施設でやりたくてもできないことも あるので、循環器内科に強く当たらないでね。 詳細・最新の対応状況はここから 日本冠微小循環障害研究会 (J-CMD) CMD検査実施施設

#17.

診 断 INOCA診断の総まとめ さっくりまとめると左記の通り。 Step 1:冠動脈造影 大血管に高度狭窄がない Step2が2つ並んでいるのは 順番がまだ定まっていないから。 Step 2: 冠循環生理学的評価 (FFR/CFR/IMR) Step 2: アセチルコリン/エルゴノビン誘発試験 VSA/MVSの評価 欧米は CFR/IMR→誘発 日本は 誘発→CFR/IMR が多い。 FFR ≦ 0.80 ↓ 大血管の狭窄病変 (IOCA) ・見逃されている狭窄 ・びまん性病変 (軽い狭窄が長距離) 誘発試験 陽性 + FFR > 0.80 CFR ≧ 2.0 IMR < 25 ↓ VSA 誘発試験 陽性 + FFR > 0.80 CFR < 2.0 IMR ≧ 25 ↓ VSA +CMD 誘発試験 陰性 + FFR > 0.80 CFR < 2.0 IMR ≧ 25 ↓ CMD 誘発試験 陰性 + FFR > 0.80 CFR ≧ 2.0 IMR < 25 ↓ 心疾患否定的 ∵CFR/IMRを測定するために 先に血管拡張させてしまうと VSA/MVSの偽陰性が増える。 日本はそれを避けている。 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

#18.

治 療 INOCAにおける日常生活管理 ・VSAやCMDの病因の1つとして冠動脈内皮障害があげられる。 ・血管内視鏡検査で攣縮部位に一致してプラークが存在することが多い。 INOCAの危険因子も動脈硬化性疾患とほぼ同様 と考えられている。 ・禁煙 ・内服治療の継続 ・運動の継続 ・血圧の管理 ・体重管理 ・脂質異常症の管理 ・糖尿病の管理 ・節酒 一般的な狭心症と比較すると、 冠攣縮の予防のために禁煙がより重要である他、 節酒、寒冷刺激を避けること、ストレスを 避けることなども必要。 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療

VSAとCMDの薬物治療

#19.

治 療 VSAの薬物治療 Main ①Ca拮抗薬 (ベニジピン、ジルチアゼム等) sub sub ②長時間作用型硝酸薬 (硝酸イソソルビド) ③ニコランジル 上記でも症状の改善が乏しい場合には、 ①ニトロ舌下錠屯用 ②β1作動薬(デノパミン)[ただし保険適用外] ③漢方薬(四逆散、桂枝茯苓丸、柴朴湯) などで症状の緩和につとめる。 Ca拮抗薬は基本的にベニジピンがお勧め。 日本人VSA患者を対象としたメタアナリシスで ベニジピン、アムロジピン、ニフェジピン、ジルチアゼム、4 種の中で唯一MACE(主要心血管イベント)を 減らした実績がある。 (Circ J 2010; 74: 1943–1950) ベニジピンは親和性が高く24時間作用すると されているが、半減期1.7時間で短め。 実際、他の長時間作用型Ca拮抗薬に切り替えると 胸部症状改善する例も経験あり…。 ARNIでも抑えきれない高血圧にはニフェジピン徐放剤 高容量、β遮断薬で抑えきれない頻脈性心房細動には ジルチアゼム徐放剤、など併存疾患によって使い分けて も良いのでは。 冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版) EuroIntervention . 2021 Jan 20;16(13):1049-1069.

#20.

治 療 VSAの非薬物治療 VSAは心室頻拍/心室細動などの致死性不整脈を併発することがあり、 特に内科的治療に抵抗性の場合や、院外心停止症例ではその発生率が高い。 心停止患者の実に14%をVSA患者が占めている。 VSA患者で蘇生された心停止症例のうち、ICD植込みを受けた患者は受けなかった患者に比べて死亡率が低かった。 (3% vs. 14%) 冠攣縮にともなう院外心停止を含むVT/VF 既往例で内科的治療に抵抗性の場合、 ICD 植込みを考慮する(class IIa) 難治性・重症冠攣縮性狭心症に対して、星状神経節ブロック・胸部交感神経節切除術 を考慮してもよいとされているが…保険適用外のため実施は難しい。 2022 年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療

#21.

治 療 CMDに対する薬物治療 Main ①Ca拮抗薬 (ベニジピン、ジルチアゼム等) Main ②β遮断薬 (カルベジロール、 ビソプロロール等) sub ③ニコランジル 現時点では左記の治療が推奨されているが、 予後改善効果の報告はなく、薬物治療法が確立 されているとは言い難い。 ラノラジン、イバブラジン、トリメタジジン、 ジボテンタンなど様々な薬剤が検討されているが 疾患概念の確立から日が浅く、まだまだ時間が かかりそう。 VSA+CMD合併症例においては ・ACE阻害薬 / ARB ・スタチン の追加を検討する。 冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版) EuroIntervention . 2021 Jan 20;16(13):1049-1069.

INOCA治療介入の意義

#22.

治 療 INOCAに対する治療介入の意義 予後を改善できないのなら、こんな複雑な段階を経てまで無理に診断しなくてもいいのでは…? 虚血性心疾患としての生活習慣是正を開始できたり、QOLの改善が期待できたりします。 INOCA患者の主要心血管イベントは健常者と比較して5倍以上にも上ります。(6p) INOCAの背景には動脈硬化性疾患とほぼ同様の危険因子が存在すると考えられており(18p)、 狭心症・急性冠症候群予備軍と言えるハイリスク状態を未然の状態で発見し、早期に一次予防を 開始できるきっかけとなることにINOCA診断の意義があるでしょう。 のみならず、INOCAと正しく診断し治療介入を開始すると1年後には27%の患者の狭心症症状に 改善がみられ、合わせてQOLの改善がみられたとする報告があります。 JACC Cardiovasc Interv . 2020 Jan 13;13(1):33-45. 症状の強いINOCA患者さんは難治性の症状に相当困っていることも多いです。 薬剤への反応性が良好な場合、Ca拮抗薬1剤だけで軽快する場合もあります。しっかり診断してあげましょう。

#23.

Take home message ① 狭心症症状や心筋虚血所見が認められるのに、 冠動脈の大血管に器質的狭窄が見られない場合には、 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害を疑おう。 ② 冠攣縮性狭心症を鑑別するために行う負荷試験は 一般的なカテーテル施行施設で概ね施行可能である。 一方で、冠微小循環障害の鑑別は限られた施設のみで可能である。 ③ 冠攣縮性狭心症に対する薬物治療はある程度確立されているが、 冠微小循環障害に対する薬物治療は未確立状態である。

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