テキスト全文
救急医による胸痛の初期対応と心電図の重要性
#1. 救急専⾨医が教える 怖い胸痛 まずすべき対応 masa1019@救急科、内科
#2. Take Home Message ① どんなに問診を取っても ST 上昇型⼼筋梗塞の診断は ⼼電図 でしかできない。 ② ⼼電図で ST 変化なければ、トロポニンの結果を待ちながら 不安定型狭⼼症/⼤動脈解離/肺塞栓の病歴や⾝体所⾒やリスク因⼦を集めよう。 ③ 不安定型狭⼼症に対するトロポニンや⼼電図は 繰り返し ⾏おう。 ④ ⼤動脈解離や肺塞栓は否定しきれないなら⼤動脈造影 CT を撮るしかない。
#3. 急性冠症候群疑う患者が来たら… 直ちに⼼電図とVital確認を⾏う ※⼼電図は過去の物と⽐較すべし 1つでもあるなら、 すぐに助けを呼んで処置室へ移動 p 意識障害 p 収縮期⾎圧< 90 mmHg p SpO2 < 92% ü ST上昇かつ鏡像変化(+)なら → ST上昇型⼼筋梗塞として、緊急カテーテル治療へ ü ST上昇(ー)ならトロポニン結果待ちながら・・ 30分毎に⼼電図の経時的変化を⾒ながら(来院直後だけでは⾒逃す) 急性冠症候群、急性⼤動脈解離、肺塞栓症の病歴/リスク因⼦/⾝体所⾒を集めていく
急性冠症候群の症状とリスク因子の評価
#4. 急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome) ︓ST上昇型⼼筋梗塞(STEMI)〜⾮ST上昇型⼼筋梗塞(NTEMI)〜不安定狭⼼症(UAP)の総称 p 症状︓呼吸困難、嘔気、悪⼼、説明のつかない脱⼒感 p ⼼虚⾎症状︓10-20分以上の持続的/広範/深部/胸⾻後⽅の圧⼒感や燃えるような感じ p 放散痛︓ 頸部前⽅、顎、腕、肩甲間、⼼窩部 p リスク因⼦︓65歳以上、⾼⾎圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙歴、 既知の冠動脈疾患(狭窄度>50%)、新規のST変化(0.5mm以上) ※有症状時のST低下はUAPを考える p ⾮典型的要素(無痛だったり)︓⾼齢者、⼥性、糖尿病 N Engl J Med 2017; 376:2053-2064, 急性冠症候群ガイドライン2018 『不定愁訴を訴える⾼齢者にも⼼電図を取るべし』 『⼼電図のハードルはとにかく低く』
#5. 『トロポニン陰性 → 帰宅︖』 ü 発症から4〜6時間以内はトロポニンは⾎中に漏れない… → 発症時刻が⼤事、つまり 1 回の検査だけでは⾒逃す︕ トロポニンを 1 時間後に再検 初回値と 1 時間後の変化量から評価し、 アルゴリズムにのせる
#6. 『トロポニン陰性 → 帰宅︖』 p 試薬毎の cut off 値 ü NSTEMI(⾮ST上昇型⼼筋梗塞)疑いの場合、 NSTEMI疑い トロポニンの初回値と1時間後の変化量から 評価していく。 トロポニン結果で層別化 0h︓< B ng/L かつ Δ0-1h︓< C ng/L 0h︓< A ng/L 除外 その他 経過観察 試薬 A B C D E ⾼感度トロポニンT (Elecsys試薬) 5 12 3 52 5 ⾼感度トロポニンI (Architect試薬) 2 5 2 52 6 ⾼感度トロポニンI (Dimension Vista試薬) 0.5 5 2 107 19 0h︓≧ D ng/L Δ0-1h︓≧ E ng/L NSTEMI診断 2015 ESC Guidelines for the management of acute coronary syndromes in patients presenting without persistent ST-segment elevation 『ACSを疑うなら、⼼電図もトロポニンも再検すべし』
トロポニン検査の解釈と急性大動脈解離の診断基準
#7. 最初に⼼電図で STMI ではないことはわかった。 では、トロポニンを待ちながらやることは︖ ü トロポニン結果出るまで⼤体1時間ある ü まずは怖い⼤動脈解離や肺塞栓症について病歴と⾝体所⾒を集める ü その中で、肺炎/胸膜炎/肋軟⾻炎/帯状疱疹/肋間神経痛/胆嚢炎など その他疾患についても病歴と⾝体所⾒を集める 上記の⾮超緊急性疾患の可能性が⾼くなると、 相対的にACS/⼤動脈解離/肺塞栓症の可能性が低くなる
#8. 急性⼤動脈解離 p 急性⼤動脈解離スコア ※もしも全ての項⽬で陽性なら、1点追加する 素因条件 (1点) 疼痛の性状 (1点) ⾝体所⾒ (1点) マルファン症候群 突然発症の痛み 脈拍⽋如または ⾎圧左右差 ⼤動脈解離家族歴 激痛 限局した神経学的 所⾒の⽋如 既知の⼤動脈弁疾患 裂けるような痛み 新規の⼤動脈弁 閉鎖不全症雑⾳ 最近の⼤動脈処置 低⾎圧/ショック 既知の胸部⼤動脈瘤 診断結果 スコア0点かつ D-Dimer<500ng/ml スコア≦1点かつ D-Dimer<500ng/ml 感度 99.6% (97.7-100%) 98.8% (96.4-99.7%) 特異度 18.2% (16.4-20.2%) 57.3% (54.9-59.7%) 陽性尤度⽐ 1.22 (1.19-1.25) 2.31 (2.18-2.45) 陰性尤度⽐ 0.02 (0.003-0.16) 0.02 (0.01-0.07) Circulation. 2018;137:250-258. 急性⼤動脈解離は 「突然発症の胸背部の激痛」だけでなく 以下の時も疑う p 胸背部痛に説明のつかない 神経学的所⾒が合併する時 p ⾎圧⾼くないのに神経学的異常がある時 (左半⾝⿇痺が多い) スコアやD-Dimerは 低リスク患者の否定に使うもの
肺塞栓症の症状と診断基準に関するガイドライン
#9. 肺塞栓症 p 症状 → なんでもあり p DVT 疑う所⾒とは 症状 ⻑⾕川ら (224⼈) 肺塞栓症研究会 (579⼈) 呼吸困難 76% 72% 胸痛 48% 43% ・下腿把握痛 発熱 22% 10% 失神 19% 22% ・Hommans 兆候 咳嗽 16% 11% 喘鳴 14% 記載なし ⾎痰 記載なし 6% 動機 記載なし 22% p ⼼電図 → なんでもあり ※なくてもDVTは否定できない ・熱感、発⾚、腫脹 (⾜関節背屈で下腿痛増悪) → 感度10-54%、特異度39-89% マクギーの⾝体診断学より p 下肢エコー 右側前胸部誘導の陰性T波(右室の虚⾎所⾒) 洞性頻脈、S1Q3T3、右脚ブロック、 ・⼤腿、膝窩の2点で確認し 静脈圧迫される A V 圧迫前 →ある程度のDVT否定的 ST低下、肺性P、右軸偏位、 前壁あるいは下壁誘導でのST上昇、時計⽅向回転 だが、より近位のDVTは ⾒逃す可能性あり 肺⾎栓塞栓症および深部静脈⾎栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン 圧迫後 A V Ann Emerg Med. 2010;56:601-610
#10. 肺塞栓症 p Modified wells criteria JAMA. 2006;295(2):172-179. 因⼦ 点数 DVT疑う所⾒あり 3.0 肺塞栓症が他の疾患よりも疑わしい 3.0 HR>100回/分 1.5 静脈⾎栓症の既往 1.5 過去4週間以内の⻑期臥床 1.5 喀⾎ 1.0 悪性疾患 1.0 Q.そもそもどういう時に肺塞栓症を疑うのか︖ →⾝体所⾒/採⾎/胸部レントゲン/単純 CT でも それは 呼吸苦や酸素化低下の原因が分からない時、つまり そこで スコア A.『謎の酸素化不良の時』 『肺がきれいなのに、酸素化が悪く頻脈の時』 スコア ≦4 点かつ D-Dimer 陽性 または スコア ≦4 点かつ D-Dimer 陰性 スコア >4点 造影 CT へ ※D-Dimer陽性/陰性基準 ・50歳以下︓500ng/mL ・50歳以上︓年齢×10ng/mL 否定的
ACSと大動脈解離・肺塞栓症の最終診断と対応
#11. 結論 ACS ü 病歴やリスクを集め、⼼電図/トロポニンを再検し、ACS を捕まえる。 ü ACS を否定し切れないのなら、施設毎の循環器内科相談ルールに則る。 (個⼈的には経過観察⼊院は許容と思っている) ⼤動脈解離/肺塞栓症 ü 病歴やリスクを集めてスコアも駆使するが、 最終的な診断も否定も、結局は⼤動脈造影CTを撮るしかない (個⼈的には根拠のある⼤動脈造影 CT は許容と思っている)
#12. Take Home Message ① どんなに問診を取っても ST 上昇型⼼筋梗塞の診断は ⼼電図 でしかできない。 ② ⼼電図で ST 変化なければ、トロポニンの結果を待ちながら 不安定型狭⼼症/⼤動脈解離/肺塞栓の病歴や⾝体所⾒やリスク因⼦を集めよう。 ③ 不安定型狭⼼症に対するトロポニンや⼼電図は 繰り返し ⾏おう。 ④ ⼤動脈解離や肺塞栓は否定しきれないなら⼤動脈造影 CT を撮るしかない。