テキスト全文
海外渡航者の発熱各論と症例
#1. 海外渡航者の発熱各論 感染症科レクチャー
2026年
関川喜之
#2. 輸入感染症 BIG4 ①マラリア
②腸チフス・パラチフス
③デング熱
④渡航者下痢症
#3. 症例 38歳 女性 【主訴】 発熱,悪寒
【現病歴】
受診16日前まで,インド旅行
受診6日前から,仕事中に悪寒(shaking chills)
受診5日前,発熱のため近医を受診
ロキソニン,カロナール,セフゾンを処方
受診当日,発熱が続くため外来を受診
症例
#4. 【既往歴】 なし(入院なし,手術なし)
【常用薬】 なし
【家族歴】 特記事項なし
【生活社会歴】
飲酒なし,喫煙なし
職業:ピアノ講師
両親と3人暮らし
【アレルギー】 薬なし,食物なし 症例
発熱症例の来院時現症とプロブレムリスト
#6. Review of systems <Positive>
悪寒戦慄,発熱,蚊に刺された
<negative>
頭痛,咳,痰,鼻汁咽頭痛,
皮疹,下痢,嘔気,嘔吐,
排尿時痛,頻尿,残尿感 症例
#7. 来院時現症 【Vital signs 】
BT 38.7 ℃,PR 113 bpm, BP 95/57 mmHg,
RR 15 /min, SpO2 97 %(room air)
【身体所見】
明らかな異常所見なし
症例
#8. プロブレムリスト #1.発熱,悪寒戦慄
#2.インド(アフマダーバード)渡航後
#3.生野菜・果物摂取
#4.蚊刺咬歴あり 症例
マラリアの概要と特徴
#12. マラリア 海外渡航の発熱患者で毎年報告
BIG4の中で致死的疾患
→海外渡航者で見逃してはいけない疾患 東京都感染症情報センター 年別マラリア報告数
#13. マラリア流行地と症状 マラリア検査治療予防の手引き 第6版 サハラ砂漠以南のアフリカが最も感染しやすい
#15. マラリア症の特徴 発熱(39度以上)と頭痛以外に特徴的症状なし
熱帯熱マラリアでは第3-5病日ころから合併症や死亡例
重症マラリアでは意識障害,黄疸,AKIの頻度高い
帰国後3か月までは発症リスクあり
マラリアの診療ポイントと検査
#17. マラリアの3大陰性徴候 リンパ節腫脹
皮疹
関節炎 これらが,もともとある人には注意
#18. マラリア診療のポイント ①疑ったら,連日3回のギムザ染色
(「マラリア原虫」をクリック)
②熱帯熱マラリアか非熱帯熱マラリアか
③熱帯熱マラリアなら重症か,そうでないか
④休眠体をつくるマラリア(卵形・三日熱)か
それ以外か(熱帯熱,四日熱,P.knowlesi)
マラリアの治療とノーベル賞
#19. 最初に行う検査 マラリア検査治療予防の手引き 第6版
#20. ギムザ染色 マラリア検査治療予防の手引き 第6版
#21. 他院では行える検査 マラリア検査治療予防の手引き 第6版
#22. マラリアの診断(ギムザ染色で) 重症マラリアの徴候があるかどうかが重要
1つでも見たせば“重症”として治療 マラリア検査治療予防の手引き 第6版
#23. マラリアの治療 三日熱と卵形マラリアはプリマキンが後療法として必要 マラリア検査治療予防の手引き 第6版
デング熱の概要と流行地域
#26. デング熱 ネッタイシマカ(Aedes aegypti)と
ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)により媒介される
デングウイルスにより発症。4種類の血清型がある
ヒトスジシマカ ネッタイシマカ
#28. 輸入デング熱の感染国 国立感染症研究所 日本のデング熱症例の動向について
#29. 東京都のデング熱の届出数 東京都感染症情報センター
デング熱の症状と診断
#31. デング熱 不顕性感染50~70%
潜伏期間は3~7日
#32. デング熱 別名、Break-bone fever
発熱:5-7日持続
頭痛,眼痛,筋肉痛,関節痛
発疹:病初期に皮膚紅潮
解熱期に点状出血,白い島状に抜ける紅斑
ターニケットテスト陽性
WBC減少,Ht上昇,PLT減少,CRP低値
通常,1週間程度で回復
#33. Tourniquet test 収縮期血圧と拡張期血圧の中間点で5分間加圧
2.5cm2に10個以上の点状出血で陽性
毛細血管の脆弱性や出血傾向を示唆
#34. white islands in a sea of red 自験例
#35. white islands in a sea of red 自験例2
#36. デング出血熱 解熱傾向の時期に一部がデング出血熱
15歳以下に多い
2回目以降の感染(新生児除く)での発症が多い
不安・興奮状態,四肢冷感
血圧低下,出血傾向(鼻・消化管出血)
WBC減少,PLT10万未満,Ht20%以上の増加,Alb<3.5
AST・ALT上昇,低Na,胸腹水
デングショック症候群は放置すると10~20%の死亡率
適切な治療で1%未満に
腸チフス・パラチフスの概要と症状
#38. 診断と治療 【診断】
PCR,血清中ウイルス蛋白抗原(NS1抗原)
IgM抗体(ペア血清による陽転化)
感染症科に電話ください
【治療】
支持療法(輸液が重要)
解熱薬はアセトアミノフェンを使用
アスピリンやNSAIDsは避ける
(出血傾向やアシドーシス助長)
#39. 参考 節足動物媒介感染症研修会 忽那先生スライドより
#41. Enteric fever(Typhoid fever)(腸チフス,パラチフス) Salmonella enterica serovar Typhi: チフス菌
(病名 typhoid fever 腸チフス )
S. enterica serovar Paratyphi A: パラチフス菌
(病名 paratyphoid fever パラチフス )
他にまれに,Paratyphi B, Paratyphi C など
これらのサルモネラ菌種による
全身感染症を総じてEnteric fever
#42. 流行地域 人口10万人あたり。Global Burden of Disease Collaborative Network, Global Burden of Disease study, 2019
#43. 東京における報告者数 腸チフス パラチフス
#44. 感染経路 糞口感染:汚染された水、食事の摂取
不衛生な上下水道の国に多い
ヒトにしか発症しない
潜伏期間:6-30日(平均7-14日)
#45. 症状と治療 古典的には発熱,頭痛,腹痛
下痢は50%程度、便秘は10-38%
一過性の体幹部皮疹(バラ疹)が20%程度
重症者では消化管出血や消化管穿孔
発熱は90%以上
診断:血液培養,骨髄培養、便培養
比較的徐脈,脾腫,白血球減少
白血球減少は16~46%.3分の2は好酸球ゼロ
治療:CTRX or AZM (→感受性みてABPC)
渡航者下痢症の原因と鑑別疾患
#46. Typhoid Mary メアリー・マーロン 1869-1938
世界で初めての無症候性保菌者
14歳からNY州で家事使用人
本人は腸チフス発症なし
1900-1907年 22人の感染者、死亡1人
1915年 25人の感染者、死亡2人
その後、23年間隔離された
#49. 渡航者下痢症 9月2日の「急性下痢症」を参照
腸管外感染症を見逃さない
(レジオネラ、腎盂腎炎、TSS、SFTS、デング熱、マラリアなど)
2~3週間以上つづく下痢は腸管寄生虫症を鑑別に
→便虫卵検査を3回、赤痢アメーバ抗原キットを検討
#50. プロブレムリスト #1.発熱,悪寒戦慄
#2.インド(アフマダーバード)渡航後
#3.生野菜・果物摂取
#4.蚊刺傷あり 症例
#51. 鑑別疾患 <感染症>
細菌:尿路感染症,感染性心内膜炎,腸チフス・パラチフス,野兎病
結核,レジオネラ,レプトスピラ,ライム病,ツツガムシ病
ウイルス:伝染性単核球様症候群
(HAV,HBV,HCV,CMV,EBV,トキソプラズマ,HIV,パルボウイルス)
デング熱,チクングニア熱
マラリア
<非感染症>
悪性腫瘍:悪性リンパ腫
その他:サルコイドーシス 症例
#52. 来院時検査所見 WBC 5400 /μL
RBC 465万/μL
HGB 14.1 g/dL
HCT 40.3%
PLT 13.9万/μL
Na 135 mEq/L
K 4.0 mEq/L
Cl 95 mEq/L
BUN 5.6 mg/dL
Cre 0.78 mg/dL
Glu 94 mg/dL T.bil 0.76mg/dL
AST 86 U/L
ALT 58 U/L
LD 521 U/L
CRP 4.55 mg/dL 症例
輸入感染症のまとめと重要ポイント
#53. 血培 Salmonella Paratyphi A 好気ボトル 嫌気ボトル →CTRXで治療。ギムザ染色は3日間陰性 症例
#55. 極論!輸入感染症 病歴と身体所見をがんばる。鑑別を頑張って考える
Flu&COVID-19検査
マラリア→ギムザ染色3回
デング熱→PLT減少&CRP陰性⇒デング熱抗原キット検討
腸チフス→血液培養
(下痢あれば)便グラム染色&培養
#57. Take Home Message 発熱,皮疹,下痢患者では必ず渡航歴を聴取
病歴が普段よりさらに重要
渡航先,潜伏期間,曝露,予防から鑑別を考える
まず,マラリアを始めとしたBIG4を念頭に
しかし、Common is common
困ったら感染症科に電話ください