テキスト全文
医師・薬剤師のチーム医療とHbA1cの重要性
#1. 医師・薬剤師のHbA1cの先を見据えたチーム医療 〜もはや血糖を下げることが糖尿病薬の目的じゃない!?〜 東京女子医科大学 糖尿病代謝内科学分野、
University of Exeter Medical School Research Fellow
田中 慧
tanaka.satoshi@twmu.ac.jp 秋田県薬剤師会本荘由利支部研修会
2026 年7月8 日(水)19:00 - 20:35
Web講演
#5. 本日の講演内容 0. 自己紹介 1 糖尿病治療薬のトレンドをおさえる(知識Update) 糖尿病治療の推移・トレンドの変化について 2 「血糖」から「血管」へ Additional Benefit (アディショナル ベネフィット)についておさえよう 3 明日から実践できる!服薬指導の実例集。 多職種連携を見据えて
糖尿病治療薬のトレンドとパラダイムシフト
#6. 実例① 血糖は良好、でも一剤追加 59 59 70代・男性
2型糖尿病(歴15年)
HbA1c 6.8%
心不全の既往あり
→ 今回SGLT2阻害薬を追加 ある日の午後、薬局に田中さん(70代)が来局した。糖尿病とは15年の付き合いで、血糖は良好に保ててきた。ところが先日の受診で心不全を指摘され、新しい薬が1つ増えたという。
処方箋を差し出しながら、少し腑に落ちない様子で—— 「血糖は良いって言われたのに、なんでまた薬が増えるんだ…?」 ― さて、あなたなら どう指導する?
#7. 糖尿病治療薬のトレンドをおさえる(知識Update) 糖尿病治療の推移・トレンドの変化について
#8. 糖尿病治療のパラダイムシフト 〜2010年代まで 血糖(HbA1c)を下げることが最優先の目標 現在(2020年代~) 血糖に加えて「血管」まで意識する 最終ゴール 合併症を防ぎ、健康寿命とQOLを延ばす ↑ここは今でも一緒
#9. 2010年代を振り返る にんじゃりばんばんが
流行っている頃・・・
HbA1c低下の効果と心血管リスク
#11. HbA1c低下の効果と限界 HbA1cを下げることは 確かに有効だった
★★細小血管合併症(網膜症・腎症・神経障害)の発症・進展を抑制★★
しかし、心臓・腎臓・血管の合併症は 抑えられなかった
心筋梗塞・心不全・腎不全・脳卒中などの大血管症リスクは十分に下がらない
→ 血糖を下げるだけでは、命に関わる合併症は防ぎきれない 6 6
#12. ただHbA1cを下げても心血管イベントは減るわけではない!?ACCORD試験(2008年) 高リスク2型糖尿病 約10,000人が参加
HbA1c 6.0% 未満目標の厳格コントロール群
HbA1c 7.0–7.9% 目標のスタンダード群
の心血管予後を比較
結果
心血管予後に有意な減少なし
それどころか・・・・
むしろ厳格治療群で死亡率が22%増加
試験は早期終了
「血糖を下げること」と「寿命を延ばすこと」は同じではなかった。 ACCORD trial (2008) 当然よくなるだろうな~
#13. ロシグリタゾン問題(2007年) PPARγ作動薬として2000年代に広く使用
HbA1cは良好に低下する
「いい糖尿病薬」と考えられていた Nissenらのメタアナリシス
心筋梗塞リスク増加 世界中で大きな衝撃 Arch Intern Med. 2010 Jul 26;170(14):1191-1201. ←ロシグリタゾン有利 ロシグリタゾン不利→ オッズ比(95%CI)
#14. え?HbA1cを下げても寿命は変わらないうえに、
悪影響になることもあるの?
#15. では薬そのものは安全なのか? 糖尿病治療薬に関して
FDAの承認に
Cardiovascular Outcome Trial(CVOT)が
義務化
心血管アウトカム試験の影響と新薬の承認
#16. 心血管アウトカム試験(CVOT)が変えたもの 25 25 きっかけ|2007年 ロシグリタゾンのメタ解析で
心筋梗塞リスク増加が報告 規制|2008年 FDA 新規糖尿病薬すべてに
心血管安全性(CVOT)を
義務化 転換 「血糖を下げる」だけでなく
「心血管を害さない」証明が必須に 結果的に、SGLT2・GLP-1RAの「心・腎保護」というベネフィット発見につながった
#17. 2010年代といえば・・・ 「会いたくて」
「レリゴー」が
流行っている頃・・・
#18. GLP1受容体作動薬の発売(2010年)
SGLT2阻害薬の発売(2014年)
#19. GLP1受容体作動薬 年表 2026年 MASH適応 17 17
#20. 2014年~ 本邦にてSGLT2阻害薬が発売 2020年 慢性心不全へ適応 2018年~ 1型糖尿病に適応 SGLT2阻害薬 年表 2021年 慢性腎不全(CKD)へ適応 2025 2025年 後発品発売 16 16
糖尿病薬の適応拡大と治療の変化
#21. 糖尿病薬は、糖尿病以外の治療へ 2020年 慢性心不全へ適応
2021年 慢性腎不全(CKD)へ適応
2023年 肥満症適応
2026年 MASH適応
SGLT2阻害薬 GLP-1受容体作動薬
#22. 糖尿病治療のパラダイムシフト 〜2010年代 血糖(HbA1c)を下げることが最優先の目標 現在(2020年代~) 血糖に加えて「血管」まで意識する 最終ゴール 合併症を防ぎ、健康寿命とQOLを延ばす 「下げる医療」から「守る医療」へ ― 薬の選び方が変わった
#23. 最近のトピック:脂肪肝の治療が糖尿病の治療において重要視されています 48 48
#24. 糖尿病は肝臓癌罹患の大きなリスク なんで?
血糖から血管へ:治療の新しい視点
#28. 前半まとめ ― 世はHbA1c至上主義からの脱却! 昔(〜2010年頃) 今(現在) ・投薬目的は「HbA1cを下げる」一択
・低ければOK 高ければ追加
・合併症は起きてから対処 ・個々の状況で個別化
・個別化はHbA1cだけではなく、「血管リスク」を総合的に判断 14 14
#29. 「血糖」から「血管」へ Additional Benefit (アディショナル ベネフィット)について
おさえましょう
#30. なぜ「血管」なのか? 糖尿病の三大合併症は「細い血管の障害」
糖尿病で命を縮める主因は「心血管疾患(太い血管)」
失明・下肢切断も血管障害から起こる
▶ 究極的な話、糖尿病治療で守るべきは「血管」
34 34
合併症の整理と血糖管理の限界
#31. 合併症の整理 ― 細小血管症と大血管症 細小血管症
網膜症・腎症・神経障害
大血管症
心筋梗塞・脳卒中・末梢動脈疾患
細小血管症は血糖管理が効きやすい ・・・でも
▶ 大血管症は血糖だけでは守りきれない 35 35
#32. 血糖を下げるだけでは大血管を守れない 厳格な血糖管理でも大血管イベントは大きく減らず
強化療法でむしろ死亡が増加
血糖「だけ」の追求には限界がある
37 37 28 28 2026/7/8田中慧秋田県薬剤師会 随時質問可 チャット欄あるいはQ&Aにご記入ください 低血糖
#33. 新しいガイドライン ― 日本糖尿病学会の2型糖尿病治療アルゴリズム 31 31 1 Step 1 病態で選ぶ 肥満/非肥満に応じて薬剤を選択 2 Step 2 安全性に配慮 禁忌・特徴的な副作用を確認 3 Step 3 Additional benefits を考慮 CKD・心不全・心血管疾患を考慮して選ぶ 4 Step 4 患者背景 服薬継続率・コスト・効果の持続性 Step 3の要点 ― 心血管疾患:SGLT2i →次点GLP-1RA / 心不全・CKD:SGLT2iが第一選択 「2 型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」糖尿病66(10):715~733,2023
#34. Additional benefitとは? ― 血糖を超えた「恩恵」 30 30 「Additional benefit」 = 直訳で「追加的な恩恵」。
血糖を下げる効果を超えて、心臓・腎臓・体重・予後まで守る 主作用(すべての糖尿病薬) 血糖(HbA1c)を下げる + Additional benefit 心・腎の保護/体重減少/心不全・CKDの抑制
一部の薬(SGLT2i・GLP-1RA)が持つ + 「血糖降下」に加え、Additional benefit が薬選びの新しい判断軸になった
#35. 選択アルゴリズムの変化 ― 病態で選ぶ かつて:HbA1cを下げる順に薬を足していく
今:心不全・CKD・ASCVD・肥満など病態で優先薬を選ぶ
→将来的に、脂肪肝の状況、睡眠時無呼吸症候群などでも?
▶ 「その人の血管を守る薬」を選ぶ発想へ 31 31
集約的管理と低血糖リスクの重要性
#36. 集約的管理の力 ― Steno-2 血糖・血圧・脂質・生活を同時に管理
→心血管イベント、死亡を 大きく減らした!
「血糖だけ」の治療から「多因子を束ねる」へ 38 38
#37. 忘れちゃいけないのが・・・「低血糖を減らす」こと 重症低血糖は心血管イベントの増加、死亡率の増加と関連
低血糖そのものが認知機能低下・転倒・骨折のリスク
「下げる」だけでなく「危険な低血糖を作らない」
▶ 低血糖の少ない薬が選ばれる理由 24 24
#38. 糖尿病専門医はどう選んでる? 心不全、CKDがある
→ SGLT2阻害薬を優先
メタボリックシンドロームがあり、肥満が根本的な原因で発症した病態
→ GLP-1受容体作動薬を優先
併存疾患を見て「血管を守る薬」を選んでいます。。
▶ HbA1cだけで薬を足す時代の終わり 44 44
#39. HbA1cだけで薬を足す時代の終わり =HbA1cが目標内でも
治療薬が追加になったりすることが増えた。
実践的な服薬指導の実例と指導方法
#41. 明日から実践できる!服薬指導の実例集。 多職種連携を見据えて
#42. 実例① 血糖は良好、でも一剤追加 59 59 70代・男性
2型糖尿病(歴15年)
HbA1c 6.8%
心不全の既往あり
→ 今回SGLT2阻害薬を追加 ある日の午後、薬局に田中さん(70代)が来局した。糖尿病とは15年の付き合いで、血糖は良好に保ててきた。ところが先日の受診で心不全を指摘され、新しい薬が1つ増えたという。
処方箋を差し出しながら、少し腑に落ちない様子で—— 「血糖は良いって言われたのに、なんでまた薬が増えるんだ…?」 ― さて、あなたなら どう指導する?
#43. 実例①【どう指導する?】まず考えてみよう 59 59 あなたなら、どう指導する? 考えるヒント ① 患者さんの不安の
正体は? 考えるヒント ② 「血糖以外の目的」を
どう伝える? 考えるヒント ③ 続けてもらう
一言は?
#44. 実例①【こう指導する】声かけの例 59 59 薬 「糖尿病が悪化したわけではないと思います。今回の薬は血糖のためだけでなく、心臓と腎臓を守るために加わりました。心不全による入院や腎機能の低下を防ぐことができます」 なぜそう言える?(根拠) ・心不全の入院を低下
・腎機能の低下を抑制
・血糖と独立した臓器保護(大規模試験) フォローのポイント ・血糖マネジメントが悪化したから薬が増えたわけではない
・脱水、シックデイは休薬
・複数医療機関からの重複処方に注意 「糖尿病が悪化して増えたわけではないこと」 「心臓と腎臓を守るための薬」 が大事
#45. シックデイルールは「具体的に伝える」 メトホルミン、SGLT2阻害薬はシックデイルールの対応
発熱・下痢・食欲不振、造影CT、手術予定など・・・の時の対応をあらかじめ「具体的に」確認しておく
具体的な水分・炭水化物の摂り方、受診の目安を伝える
とくにSGLT2阻害薬は脱水・ケトアシドーシスに注意
▶ 「困ったら連絡を」の窓口に
55 55
GLP-1受容体作動薬と肥満症の治療の重要性
#46. 実例②糖尿病でないのにSGLT2阻害薬 59 59 60代・女性
糖尿病なし
高血圧症、慢性腎臓病あり
→ SGLT2阻害薬が処方 慢性腎臓病で通院中の佐藤さん(60代・女性)。以前から降圧薬を内服中。
糖尿病はないが、徐々に腎機能低下あり、最近になり慢性腎臓病の診断。ある日、主治医からSGLT2阻害薬が処方された。お薬手帳を見た本人は、少し戸惑った様子で—— 「これ、糖尿病の薬でしょ?私、糖尿病じゃないのに…間違いじゃないの?」 ― さて、あなたなら どう指導する?
#47. 実例②【どう指導する?】まず考えてみよう 59 59 あなたなら、どう指導する? 考えるヒント ① 患者さんの不安の
正体は? 考えるヒント ② 「低血糖が心配」に
どう答える? 考えるヒント ③ 安心して続けて
もらうには?
#48. 実例②【こう指導する】模範の声かけ 59 59 薬 「間違いではありませんので大丈夫です。この薬は、糖尿病がなくても心臓と腎臓を守るお薬として使われます。腎臓の負担を減らして、尿たんぱくや腎機能の悪化を防ぐ効果があります。また、血糖が正常の場合は、それ以上下げる力は弱いので低血糖の心配はほとんどありません」 なぜそう言える?(根拠) ・腎機能の低下を抑制
・糖尿病がなくても臓器保護(大規模試験)
・単体使用で低血糖の頻度は稀 フォローのポイント ・脱水・シックデイは休薬
・複数医療機関からの重複処方に注意 ひとことで言えば 「糖尿病がなくても心臓と腎臓を守るお薬です」
#49. SGLT2阻害薬 ― 血糖を超えた「心・腎」保護 心不全の入院・悪化を抑制(DAPA-HF / EMPEROR)
尿蛋白を減らし、腎機能の低下(eGFRの悪化・透析導入)を抑制
(CREDENCE / DAPA-CKD / EMPA-KIDNEY)
などなど・・・・エビデンス多数
いまや糖尿病がなくても、心不全・慢性腎臓病(CKD)に適応
▶ ポイント: 作用は血糖非依存
利尿・心負荷の軽減・糸球体内圧の低下によると考えられる 39 39
#50. SGLT2阻害薬 ― 複数医療機関からの重複に注意 糖尿病内科、循環器内科、腎臓内科など複数受診の患者はSGLT2阻害薬が重複処方されてしまうケースが多い(はじめようとしたらすでに循環器内科で処方されてた・・・というケースも多々)
新規処方の際は、お薬手帳の確認をお願い致します 39 39
#51. 実例③ ― テレビのGLP-1報道が不安 59 59 50代・女性
2型糖尿病(歴8年)
GLP-1受容体作動薬を使用中
→ テレビの「やせ薬」特集を見て不安に 糖尿病でGLP-1受容体作動薬を続けている山田さん(50代・女性)。ある晩、テレビの「やせ薬」特集を見て急に不安になった。翌日、心配そうな表情で薬局を訪れ—— 「テレビで怖い話をしてた…この薬、私は大丈夫なの?」 ― さて、あなたなら どう指導する?
#52. 実例③【どう指導する?】まず考えてみよう 59 59 あなたなら、どう指導する? 考えるヒント ① なぜダイエット報道をみて
不安になった? 考えるヒント ② 「安全なの?」にどう答える?どういった状況なら危険? 考えるヒント ③ どういった疾患に適応拡大になっている?
#53. 実例③【こう指導する】模範の声かけ 59 59 薬 「テレビのダイエット目的(自由診療)とは違い、あなたには糖尿病治療として適切に処方されています。テレビで言うように、過剰に痩せすぎている人が使うのは問題ですが、正しい状況で使えば安全性は確立しています」 なぜそう言える?(根拠) ・適切な患者では「利益がリスクを大きく上回る」と多くの医学的根拠がある。
フォローのポイント ・なぜ不安になったのか聞いてみる
・体型に関する表現や言い方に注意
・昨今では糖尿病以外の様々な疾患で適応が拡大していることも補足 適応外の美容目的使用は低栄養・筋肉量低下・摂食障害悪化のリスクがあると考えられている ただし・・・十分な医学的根拠はない。 (そもそもエビデンスが集められない)
→現時点では「ラクして痩せようとすることへの感情論」
#54. 肥満症の改善 GLP-1受容体作動薬の特徴は? 26 26
#55. 肥満は様々な代謝障害を引き起こす 肥満症診療ガイドライン2022. 日本肥満学会 27 27
#56. 糖尿病を根本的に改善させる・・・「体重を減らす」が治療目標に 肥満は多くの代謝障害・血管リスクの上流
体重減少そのものが合併症予防につながる
GLP1受容体作動薬が肥満症・MASLDへ適応が拡大
▶ 糖尿病治療=体重マネジメントの時代へ 29 29
#57. GLP-1受容体作動薬も心血管イベントを抑制する 心筋梗塞・脳卒中・心血管死を抑制(LEADER / SUSTAIN-6)
体重減少・血圧・脂質の改善も後押し
動脈硬化の進展を抑える方向にはたらく
▶ 肥満を伴う高リスクの2型糖尿病で大血管予後を改善 42 42
#58. 血糖以外の柱 ― 包括的リスク管理 血圧の管理
脂質管理
禁煙
▶ 血糖+これらを束ねて初めて血管が守れる 45 45
#59. 多職種連携の中の薬剤師 先鋭化する糖尿病治療薬の情報提供
後発品の導入について
「血糖」「エーワンシー」に関する情報だけでなく、 HbA1cの先にある「Additional Benefit」の意図を橋渡し
薬局でのひと言が、患者さんのさらなる合併症の予防につながると思っています。 58 58
#60. Take home message 1 糖尿病の治療目的は「血糖を下げる」から「血管を守る」へ 2 糖尿病薬の選択は 「Additional Benefit」 が意識される時代へ 3 さまざまな目的で処方されるようになった糖尿病薬。その効果や注意点を患者に届ける橋掛けとしての薬剤師 60 60