テキスト全文
#1. Daisuke Yamamoto
Department of Neurology, Shonan Kamakura Genreal Hospital About Surfer’s myelopathy サーファーズミエロパチー
について
#2. Introduction サーフィン初心者に起こりうる、重大な脊髄障害であるサーファーズミエロパチーですが、稀な疾患であり、認知度が低いことが問題です。サーフィンをはじめようとする人にとっては、その疾患発症リスクと予防対策についてきちんと認知しておくべき疾患ですし、サーフィンスクールで働くインストラクターも、その発症予防と対応の必要があり、理解を深め頂きたい疾患です。また、疾患に向き合う医療スタッフにおいても、稀な疾患でありますが、急性疾患でありますので、まとまった知識がすぐにアクセスできる必要があります。このスライドでは、現時点でのサーファーズミエロパチーについての情報をまとめ、上記関わりのある人すべてに対しての情報提供を目的としています。
#3. サーフィンに関わる人へ
知っておいていただきたいこと
#4. SMとは? SMについて知識を得るには、
surfer’s myelopathy foundation のサイトを参照していただくのが
最も勧められます。
英語サイトなので、このサイトの内容も引用しながら、説明していきます。www.smawareness.org
#5. SMとは? サーファーズミエロパチー(SM)は、初心者サーファーに起こりうる、外傷とは関係のない脊髄障害を来たす病気です。SMは脊髄の血の巡りが悪くなって起こる病気です。サーフボードの上で、長い時間、腹ばい姿勢で背中を過度に伸ばし過ぎることによって起こると考えられています。
#6. SMとは? 症状の起こり方は、最初に腰の痛みを自覚し、その後次第に足の感覚がなくなり、両足の麻痺を自覚するようになります。その麻痺は、ある人は改善を認めますが、ある人は改善が得られないこともあります。予防としては、初心者サーファーは、長時間海の中にいないこと、背中の痛みを自覚したらすぐに海からでること、が勧められています。
#7. SMが起こる理由 SMは外傷によって起こりません。SMは、腹ばい姿勢で、背中を過度に伸ばし過ぎる動作を繰り返すことで起こりうると考えられています。背中を過度に伸ばし過ぎる動作が、脊髄への血管の血流障害を来たし、その結果脊髄が障害されることが原因で発症すると考えられています。
#8. SMの症状 腰の痛み
両足のちくちくした感じ
両足の感覚がなくなる
歩きにくさ
両足の麻痺
尿の出にくさ
これらを症状として認めます。
#9. SM発症の危険因子 今までの報告で、以下の条件が発症リスクとして知られています。
サーフィン初心者
体格(筋肉が少ない体型)
脱水(旅行で遠方から来ている場合や長時間ビーチで滞在する場合)
長距離旅行者(血液がドロドロしている状態で静脈に血の塊ができやすい)
ハワイで多くSMが報告されているのは、旅行者が、上記条件が重なりサーフィンを行うことが理由であると考えられています。
#10. 症状の改善は得られるのか? 症状経過は人それぞれです。軽症例も重症例もあります。
ただし、症状がでてからなるべく早く対応することで、回復の可能性が高くなると考えられています。
#11. サーフィン以外で
SMは起こりうるのか? サーフィンでおこりうるような、背骨を過度に伸ばすような動作で、サーフィン以外でもSMを発症することが知られています。
#12. SMを防ぐには
どのようなことをしたらいいのか? SPINEという頭文字で覚えるヒントがあります。
S-SIT 波を待つ時間は腹ばい姿勢でなく、ボードに座って待ちましょう。
P-PACE 海の中にいるペースを自分で確認しましょう。30分以内にしましょう。
I-INSIST 熟練したインストラクターを選びましょう。
N-NOTISE 腰の違和感や痛みのサインに注意しましょう。
E-EXIT 腰の痛みや足の脱力を自覚したら、すぐに海から出ること、
また医療機関へ受診しましょう。
#13. 一般向け情報のまとめ SMはサーフィン初心者に起こりうる重大な神経障害を来たす病気です。リスクについては知られており、その予防は行われる必要があります。旅行先でサーフィンを行うことは、疲労や脱水、血液のドロドロ状態がリスクになりえます。長時間ボードの上で、腹ばい姿勢ではまたないこと、海の中に長くいすぎないことに注意して下さい。腰部の痛みはSM発症のサインですので、すぐにサーフィンを中断することが大切です。SMは両足の麻痺を起こす可能性があり、神経障害の回復は人それぞれです。麻痺が戻らない人もいることも知る必要があります。サーフィンを行う人、インストラクター双方できちんと認識しておく必要があります。
#14. 治療・診断に関わる
医療スタッフ向け
SMについての理解
#15. SMは頻度の稀な疾患です。典型的な病歴とMRI画像所見、また他疾患の除外から診断することになります。救急医、脳神経内科医、脳神経外科医、脊髄外科医、整形外科医は対応について了解しておく必要があります。
治療としては、リハビリテーションが重要です。セラピストも疾患について理解していただきたく思います。, 医療従事者向け:サーファーズミエロパチー
#16. SMは若年者で、特記すべき既往なく、脊髄疾患の既往もない初心者サーファーに好発する疾患です。発症年齢は、7-51歳までの報告があります。若年者に多い可能性として、ある程度の年齢になると、脊椎の柔軟性の低下から過伸展が起こりにくくなることが推測されています。筋肉の未発達も発症要因の一つとして考えられています。
初心者サーファーに起こりうる、腹臥位での脊椎過伸展によって誘発される脊髄虚血に由来する疾患として理解されていますが、病態については不明な点も多いです。 SMの発症機序
#17. 一般的には、脊髄過伸展に由来する、動脈圧迫、血管攣縮、塞栓性閉塞、血管の引抜きなど、いずれかによって引き起こされる、動脈性虚血が原因と考えられています。その他、静脈性障害の可能性も推測されており、静脈圧が高まることで脊髄虚血を引き起こす可能性(腹臥位での脊髄過伸展姿勢に、長時間のバルサルバ手技が加わることで、脊柱管内圧が高まり、静脈圧が高まる。その結果、静脈性の血流障害がおこり、虚血に至る。)も論じられています。脊髄梗塞と異なる、発症ごく早期からのMRI所見の変化があり、その事実からは静脈性障害の可能性について言及されています。 SMの発症機序
#18. SMの病歴 典型的には、腰部痛と下肢脱力で発症します。症状進行はその後数時間続きます。その間、髄節性のある疼痛過敏・知覚過敏、排尿障害、下肢麻痺の悪化を認めます。下肢麻痺は完全麻痺まで進行する場合もあります。麻痺は数時間のうちにピークを迎えるので、来院時にはNadirに至っていることが多いようです。
#19. SMの画像診断 MRIで指摘される画像病変は、臨床的な髄節レベルよりも高位に認められます。撮像条件には、T2WI/STIRに加えて、脊髄虚血の証拠を得るために、DWIを追加の有効性が報告されています。MRIではT2WI・DWIで高信号変化(脊髄中心性病変+浮腫性変化)を認め、脊髄梗塞に伴うCytotoxic edemaを反映した画像変化(ADC MAPは低信号)が認められます。脊髄長大病変になることが特徴で、胸髄中部(T5-T10)~円錐まで認められることが多いです。T1Gd造影では特に特徴的所見はありません。
#20. SM CASE
MRI STIR: Th7から円錐までの高信号、脊髄長大病変が指摘できる。Pencil like lesionとして表現もされる。水平断では脊髄中心性病変である。発症早期からMRIでの画像変化が認められる。同病変は、DWI HIGH, ADC MAP LOWであり、cytotoxic edemaとして評価され、脊髄虚血に合致する所見である。 MRI STIR
#21. SMの診断 MRI所見は比較的特徴的とされています。脊髄過伸展が長時間もしくは反復性に起こった病歴と、MRI所見を合わせて、除外診断がなされた上でSMは診断されます。鑑別診断としては、脊髄梗塞、脊髄動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、横断性脊髄炎、外傷性虚血、多発性硬化症、視神経脊髄炎、脊髄腫瘍、動脈解離などです。突発発症であり、脊髄梗塞が主な鑑別になり得ます。とりわけ、脊髄梗塞を起こしうる背景疾患の鑑別が必要です。
#22. SMの診断 髄液検査では、蛋白増多があり、軽度の細胞数増多が報告されています(白血球・赤血球とも)。
脊髄血管撮影の施行については、推奨している報告もあります。血管撮影による異常血管の検索は、脊髄梗塞の背景疾患の原因評価として検討されます。また、血管撮影と同時に、病変が指摘できる場合にはtPAの動注療法やニモジピンの動注療法も可能になります。
#23. SMの治療 治療プロトコールについては、ステロイド療法、血圧維持(induced hypertension)、 早期リハビリテーション介入が一つの提案です。
脊髄虚血による病態が想定されるため、経口・静注の抗血栓療法は試みられていますが、確立したものはありません。tPA療法については検討されています。ただし、メリット・デメリットについての検討が乏しいです。
#24. SMの治療 ステロイド治療の有効性については、小数例ですが報告はあり、副作用の懸念も投与対象症例については許容できる可能性が高いことから、投与することは検討されてもいいと考えられています。
高用量ステロイド静注療法は、脊髄損傷の methylprednisolone protocolに則って行うことは一つの選択肢です。
#25. SMの治療 脊髄虚血が原因であるので、Triple H therapy(hypertension, hypervolemia, and hemodilution)の提案があります。
Mean arterial pressure (MAP)を85 mmHg以上、少なくとも24時間以上保つ治療は選択肢です。AANS/CNSのガイドライン(脊髄損傷)に習うなら、MAPを85-90 mmHgに7日間保つ治療方法があります。
#26. SMの治療 可能であれば、緊急の脊髄血管撮影を行い、血管閉塞が同定できるならtPA動注療法を行ったり、血管攣縮所見が同定できるなら、ニモジピンの動注を治療オプションとしてすることができます。
Lumber drain placementも選択肢として検討されます。
その他、脊髄梗塞としてのエダラボン投与や、高気圧酸素療法が選択肢になります。
#27. SMの機能予後 臨床経過はばらつきがあり、完全回復から持続的な対麻痺までばらつきがあります。予後予測は、最増悪時の神経障害の程度によって予測され、ASIAスコアでAもしくはBの場合には、改善が乏しい可能性について報告されています。機能予後はMRI所見とは関連性がないと言われています。
#28. SMその他の問題 サーフィンでなくとも、同様に想定される機序でSMを発症する可能性があることは重要な知識と思われます。サーフィンの前駆がなくとも、同様に脊髄過伸展動作後にSMを発症したケースの報告があります。手術姿位、解体業の労働者、チアリーディング、スイミング、体操競技で発症したケースの報告があります。
#29. Surfer’s myelopathy
診断・治療・予後について
まとめ
#30. 診断は病歴が重視されます。MRI所見は確立しています。脊髄梗塞との鑑別が主たるところで、異常血管の存在は評価すべきです。脊髄障害を来たす疾患の一通りの鑑別が必要です。
治療に関してはエビデンスの高い推奨はありません。緊急での血管撮影は検討事項です。血管閉塞があればtPA動注療法は選択肢になります。それ以外の治療はステロイド療法、循環血漿量を十分担保するための輸液療法、血圧を一定に高く保つこと、エダラボン投与、高気圧酸素療法、髄液ドレナージが選択肢になります。
機能予後は最重症状態に依存する傾向にあります。
#31. SMは生来健康な方に、サーフィンで発症しうる重症にもなりうる病気であり、稀な病気であるものの、認知度がもっと上がるべきと考えています。また、予防的対策がとられる必要があり、SM発症者が少しでも減ることを強く願います。
知識の共有により、SMに関わる状況が少しでも改善することを期待いたします。 TAKE HOME MESSAGE.