テキスト全文
脳卒中後てんかんの基礎知識と疫学
#1. プラクティカルな
脳卒中後
てんかん診療 ―患者さんと一緒に治療を選択する― Daisuke Yamamoto
Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital
#3. 脳卒中後てんかんの一般的な知識 脳卒中後てんかんは、35歳以上の成人において、てんかんの原因で最も多いものである。
Early seizure(7日以内)の頻度は3.2%。Late seizure(7日以降)の頻度は6.7%。
てんかんに移行する頻度:Early seizureで35%。Late seizureで90%。
遅発性発作のリスクは時間経過で増加する。
てんかんの累積発生率は、1 年時点で 3.5 %。10 年時点では 12%。
脳卒中後のてんかん発症頻度: 6-12%。 Epilepsia. 1993;34:453.
Stroke. 2020;51:2715.
J Neurol. 1990;237:166.
Stroke. 2013;44:605.
Eur J Neurol 2013; 20: 1247-1255
脳卒中後てんかんのリスク因子と評価
#4. 脳卒中後てんかんは、成人てんかんの原因最多。
Late seizure = てんかん, Early seizureはてんかんではない。
時間経過してからでも、てんかん発作を認めうる。
#5. 脳卒中の重症度、皮質障害、出血性病変
SeLECT score, Cave scoreなど、
てんかん発症評価のスコアリングもある。 急性および後期脳卒中後発作の危険因子: Neurochem Int 2017; 107: 219-228
#6. 脳卒中後てんかんは予測可能ではある。
リスク:重症脳卒中、皮質病変、出血病変
出血病変がある場合は、リスクは伝えてもいいかも。
認知症と脳卒中後てんかんの関係
#7. 認知症合併はてんかんのリスク 認知症の併存は、Late seizureの危険因子である。
認知症は、脳卒中後でなくとも、それ自体がてんかんの危険因子である。 J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2005;76:1649.
#8. 認知症はてんかん発作のリスク。
認知症+脳卒中後なら、なおさらハイリスク。
#9. 脳卒中後てんかんで、AEDの推奨はない。 脳卒中後てんかんでの、エビデンスのあるAEDの推奨はない。
ただし、ほとんどの発作は単一の薬剤で制御可能である。 Stroke. 1988;19:1477.
#10. PSEは比較的コントロールは良好である。
高齢者におけるAED選択の重要性
#11. 特に推奨がないなら、薬剤選択条件としては高齢者むけのAEDが妥当だろう。 成人のてんかん・高齢者てんかんの、一番多い原因は脳卒中である。
そのような背景からは、高齢者むけのAEDを選ぶのが良かろう。 Ann N Y Acad Sci 2010; 1184: 208-224
#12. 脳卒中後てんかん:高齢者むけのAEDを選択する。
#13. SUMMARY 脳卒中後てんかんは頻度高い。 高齢者・認知症がキーワード。 あえては高齢者むけのAEDを選択。
高齢者てんかんの治療方針と注意点
#15. 原則、他の場合と同様に二回発作後AEDは開始する。 一回発作後、反復発作がある確率は50%以下。=てんかんとは言えない。
二回発作後、反復発作がある確率は70%以上。=てんかんと言ってよい。
高齢者てんかんであっても、同様に対応するのが基本ではある。 Epilepsia 2014;55:475-482
#16. ただし、画像異常が指摘される場合には、
初回発作で治療開始を検討。 CT/MRIで画像異常(腫瘍、陳旧性脳梗塞・脳出血、脳挫傷など)があることが 判明した患者では、発作が再発するリスクが高くなる。
この条件では初回発作でも、10年間で60%以上の発作リスクがある=てんかんである。
また、高齢者てんかんの、初回発作後の再発率の高さも知られている。 Epilepsia 2014; 55: 475-482. 標準的神経治療:高齢発症てんかん 日本神経治療学会
#17. 二回の発作で導入するか、初回発作で導入するか。
条件を説明し、AED導入について議論する。
#18. てんかん重積状態は高齢者で問題。重積化しやすい、死亡率高い。 高齢者てんかんでは、てんかん重積状態 (status epilepticus:SE) になりやすい。
SEを発症する高齢者の予後は不良。
80歳以上のSE患者の約65パーセントが死亡した、という報告もある。
SE後、機能障害が遷延し、ADL低下、療養型病院へ転院することもありうる。 Acta Neurol Scand. 1989;80:51.
精神症状とAED選択の考慮
#19. 高齢者のてんかんについては、SEになったときの予後についての
情報提供もあってしかるべき。
高齢者てんかんは、決して良性とはいいきれない。
#20. 高齢者てんかんのAEDの推奨。
LTG・LEV・VPA・GBPが有効性・忍容性あり。
CBZは忍容性悪い。 Epilepsia. 2019;60:1325.
#21. LTG・LEVは焦点性てんかんでは推奨。
LEVは精神症状に注意。(攻撃性や易怒性のリスクあり)
LEV少量からの投与も検討。忍容性難しいなら少量(500mg/day)も一考。
ほぼ腎代謝。腎症では用量調整する。 高齢者てんかんにおけるLEVについての知識 UpToDate Inc. http://www.uptodate.com
#22. SUMMARY 高齢者てんかんは注意が必要な側面もある。 LEVが薦められる理由はある。
AEDの種類と精神・認知機能への影響
#24. てんかん患者において、精神症状の合併は多い さまざまな精神疾患、特にうつ病や不安症がてんかん患者の間で発生する頻度が高くなる。
てんかん患者のうつ病有病率は 13 ~ 35%。
このような場合、精神症状に悪影響のすくないAEDを選びたい。 Epilepsia. 2021;62:1158.
#25. 精神症状に悪いAED 気分に悪影響を与える可能性のある抗てんかん薬は知られている。
LEV・GBP
TPN・PRM・CLB
ZNS・FB Continuum . 2016;22:191.
#26. 精神症状にいい薬、悪い薬。 ●気分安定効果のある薬剤:LTG・CBZ・VPA
●抗不安作用のある薬剤 :Bz・FB・GBP・PRG
精神症状の悪化させる :CLB・FB・TPN・GBP・LEV・ZNS・PRM UpToDate Inc. http://www.uptodate.com
#27. 精神症状に悪い可能性のあるLEV ある研究では、てんかん患者における薬剤誘発性精神病性障害は14%であった。
レベチラセタムは最も精神症状に一般的に関与する抗てんかん薬であり、精神病の発症に一時的に関連していた。 Brain. 2016;139:2668.
#28. 認知機能への悪影響もありうる。 どのAEDも認知機能を損なう可能性がある。
認知機能障害を引き起こすリスクが高い:
FB、Bz、TPN、ZNS
認知機能障害の副作用リスクは低い:
LTG、GBP、LEV Epilepsia. 2011;52:2133
古典的および新規抗てんかん薬の比較
#29. SUMMARY 精神症状・認知機能への影響にも留意 LEV:精神症状×、認知機能〇
#31. <narrow spectrumのAED>
焦点性てんかんとは、脳の特定部位から異常放電を来たし、てんかん発作に至る、てんかん分類。
焦点性てんかんを考慮する場合には、narrow spectrumの抗てんかん薬が治療薬で選ばれます。
代表的な抗てんかん薬はCBZです。
抗菌薬に例えて、CEZと説明します。 Narrowとは? =焦点性てんかんに
有効である、
ことを意味します。
#32. Broadとは? =焦点性てんかん
・全般性てんかん
双方に有効である、
こと意味します。 <broad spectrumのAED>
全般性てんかんとは、脳全体に異常放電の発火を来し、てんかん発作に至る てんかん分類です。
発作分類が、焦点性か、全般性てんかんか区別しにくい場合もあります。
この場合は、双方に有効なbroad spectrumの抗てんかん薬を選びます。
代表薬剤はLEVです。
抗菌薬に例えてMEPMと説明します。
#33. 古典的抗てんかん薬について
従来薬=>CBZとVPAが代表薬 従来薬の代表薬は、カルバマゼピンとバルプロ酸です。
カルバマゼピンは=>昔からの、焦点性てんかんの第一選択薬 です。
バルプロ酸は =>昔からの、全般性てんかんの第一選択薬 です。
従来薬は、新規AEDの出現で、使用頻度は減っています。その理由は、薬剤相互作用(併用薬の効果を変えてしまう)や薬剤の副作用によります。よって、従来薬の処方機会は減り、新規抗てんかん薬が選択されることが多くなっています。 (第1世代)
#34. (第2-3世代) 新規抗てんかん薬について
新規=>使いやすい 近年登場した抗てんかん薬は、新規抗てんかん薬として位置付けられます。
代表薬は、レベチラセタム。抗菌薬に例えるなら、カルバペネムをイメージします。
新規抗てんかん薬の特徴は、「副作用の少なさ」と言えるでしょう。
代表薬であるレベチラセタムは、ブロードスペクトラムで、副作用が少ない※、となると、非専門医にとっては使用しやすい抗てんかん薬である、と言えるでしょう。
焦点性てんかんにおけるAEDの選択
#36. CBZ カルバマゼピン
例え:CEZ
Narrowのエース、副作用は気になる。 焦点性てんかんの推奨。
薬物相互作用が問題になる。
副作用:低Na血症、皮疹、悪心、血球減少など
高齢者には不適な可能性。
#37. VPA バルプロ酸
例え:三世代経口セフェム
全般性のエース、成人での使用は限定的。 全般性てんかんの推奨。
若年者のてんかんで使用。女性は不適(妊娠で使えない)。
副作用:悪心・脱毛・体重増加・高NH3血症など
焦点性てんかんでは限定的な効果。
副作用は目立たないので、困ったときに選ぶ。
#38. ZNS ゾニサミド
例え:第二世代セフェム
安価で使いやすい。精神面が弱点。 焦点性てんかんの推奨。(Broadスペクトラムではある)
精神面での副作用が問題になる。
副作用:精神症状の悪化、認知機能の悪化など
第一世代のAEDであるが、新規AEDっぽいと理解。
#39. LEV レベチラセタム
例え:カルバペネム
Broad spectrum、使い勝手の良さ。 焦点性+全般性てんかんの推奨。
使い勝手のよさと、副作用の少なさのバランス。
点滴製剤あり+てんかん重積状態での適応あり。
副作用:基本的に忍容性はよい。ただし、精神症状への悪影響。
易怒性、攻撃性。特に知的障害が併存する場合には考慮。 UpToDate Inc. http://www.uptodate.com
#40. LTG ラモトリギン
例え:カルバペネム
Broad。使いやすい。ただし漸増必要。 焦点性+全般性てんかんの推奨。
精神症状、眠気の副作用の少なさが強み。
副作用:低Na血症、皮疹、悪心、血球減少など
漸増の必要、重症薬疹リスクが弱点。
外来診療向け。
患者との治療選択における対話の重要性
#41. LCM ラコサミド
例え:super CEZ
Narrow spectrum、副作用も。 焦点性てんかんの推奨。
副作用もCBZと比較してよい。忍容性の高さが知られている。
副作用:めまい感、徐脈など
用量依存的なPR間隔の延長あり。低心機能では避けるのも一考。 Epilepsia. 2012 Mar;53:521-8. UpToDate Inc. http://www.uptodate.com
#42. PRM ペランパネル
例え:CLDM
Add onで使う。副作用は気になる。 焦点性てんかんの推奨。
薬物相互作用が問題になる。
副作用:精神症状の悪化
#44. SUMMARY AEDには使い分ける特徴がある。 押さえておくべきポイントはある。
#46. 脳卒中後てんかんは、コモンである。
脳卒中+認知機能障害はリスク高い。高齢者てんかんは、SEで予後不良。
AED選択においては、「高齢者むけ」の特徴があってしかるべき。
併存症を加味しての検討:精神症状、認知機能障害、腎障害、低心機能など。
AEDごとの有している特徴をもとに、選択肢を議論する。 SUMMARY
初回発作後の治療開始の判断基準
#47. 患者さんとともに、選択する治療を Shared Decision Making
医療者の押し付けにならない治療選択を。
#48. 患者さんとの議論において、提案する内容
「初回発作から治療をするのかどうか?」
「副作用が問題になっているかどうか?」
「精神症状、眠気、ふらつき?」
「コストはどうか?」
「有効性?」
#49. 初回発作から治療しますか?
二度目の発作から治療しますか?
#50. 初回発作は経過観察もあり。
ただし、高齢者てんかんでは発作再発リスクは高い。
脳卒中後てんかんでは再発リスクは高い。
てんかん重積状態では、大幅な機能低下がありうる。
AEDは基本的には、永続的な使用になる。
副作用とコストに関する患者の懸念
#51. 副作用は問題になっている?
精神症状、眠気、ふらつき?
#52. 眠気は問題になっていませんか?
LEV・PRM・CBZは変更した方がいいかも。
推奨:LTG・LCM・VPA
「忍容性」の問題がないかを確認していく必要があります。
#53. 精神症状は問題になっていませんか?
易怒性:LEV・PRM・ZNSは変更した方がいいかも。
推 奨:LTG・LCM・VPA・CBZ
「忍容性」の問題がないかを確認していく必要があります。
#54. 運動症状は問題になっていませんか?
LCM・CBZは変更した方がいいかも。
「忍容性」の問題がないかを確認していく必要があります。
#56. コストは問題になっていませんか?
第一世代AEDにするのも選択肢です。
CBZ・ZNS・VPA
ジェネリックのある薬剤にするのも選択肢です。
LEV・LTG・ZNS・CBZ・VPA
AED選択のポイントと患者中心の治療
#58. 医師の判断で選択するのもよいが、条件を設定し、
患者さんと一緒に選択できる、調整していくことが適切。
#60. LEV 急性期からの使いやすさ
てんかん重積状態からの連続した使用。
点滴製剤あり。
最初から有効用量で使える。
忍容性の高さ。
Broad spectrumの使いやすさ。
若年女性での使いやすさ。
眠気・易怒性には留意。
#61. LCM ラコサミドの焦点性てんかんについて
エキスパートオピニオンでの推奨 Initial treatment of focal epilepsy:
lamotrigine, levetiracetam, oxcarbazepine, carbamazepine,
lacosamide
Older adult with focal epilepsy:
lamotrigine, levetiracetam, lacosamide
Epilepsy treatment in adults and adolescents: Expert opinion, 2016.
Epilepsy Behav. 2017;69:186.
#62. LCM ラコサミドの焦点性てんかんについて
ガイドラインでの推奨 現時点(2023/01)において、ガイドラインでの推奨レベルは高くはない。
■NICE guideline [NG217] Published 2022:
Focal seizures with or without evolution to bilateral tonic-clonic seizures
first-line monotherapy lamotrigine or levetiracetam
second-line monotherapy carbamazepine, oxcarbazepine,
zonisamide.
third-line monotherapy lacosamide
#63. LCMは、成人てんかん診療で役に立つ
成人てんかん診療では、焦点性てんかんを主にターゲットにすればいいです。
ということは、Narrow spectrumのAEDでよいです。
Broad spectrumのLEVでなくても良い訳です。
LEVは便利ですが、LEV以外の選択肢として、LCMは知っておく必要があります。
#64. ラコサミド眠気少なく、効果もよい。 1週間での有効用量までの増量が可能であり、レベチラセタム同様急性期病院で
使用しやすい薬剤。
眠気が問題になりにくい薬剤でもあり、第1選択薬で眠気が問題になり、
継続できなかった症例で変更薬剤の選択肢になる。
高齢者でも比較的使いやすい薬剤。
副作用の心筋電導障害の報告はある。
あまり弱点がなく、焦点性てんかんでは頼りになる薬剤。
#65. 焦点性てんかん用AED である。
脳卒中後てんかん用AED である。
高齢者てんかん用AED である。
急性期用AED である。 LCMとはどんなAEDか?
#66. LCM 急性期からの使いやすさ
てんかん重積状態は適応なし。
点滴製剤あり。
1週間で有効用量に増やせる。
忍容性の高さ。
成人診療では、BroadでなくNarrow spectrumでよい。
低心機能の場合には留意。
#67. 忍容性はひとそれぞれ LEVがだめだが、LCMがいい場合がある。そして、その逆もありうる。
忍容性はひとそれぞれ。
忍容性が高い・有効性の高い薬剤の選択肢は多い方がよい。
#68. LEV LCM LTG ZNS CBZ VPA CLB PRM TPN 1st line 新規 従来薬 Add on 抗てんかん薬の立ち位置(私見)
#69. SUMMARY AEDをグループごとにわけて理解。 使いやすい薬剤を増やしていく。
#70. 押さえるべきポイントがあり、知識の整理をしましょう。
押し付けでない、対話から患者中心の治療選択を検討してみましょう。