テキスト全文
難治性てんかんの初期治療と患者経過
#1. 難治性てんかんの初期治療と管理 県立大島病院 PGY2
山田直樹
#2. 脳外科ローテート中・・・外科からコンサルト!!「痙攣が止まりません!」
#3. 【患者ID】 77歳男性
【病歴・経過】
X月Y-3日 癒着性腸閉塞として外科にて保存的加療目的に入院。
X月Y日 17時に病棟より痙攣発作あり主治医にcall。ジアゼパム0.5Aivし、痙攣は頓挫した。しかし、22時頃に再度痙攣発作が持続的に起こる。再度ジアゼパム静注し、レベチラセタム(イーケプラ®︎)1000mgを15分かけて持続静注した。
てんかん重積状態の定義と治療
#4. 【既往歴】
もともとてんかんが背景にありCBZ、LEV、PERの3剤でコントロール中。30代から痙攣発作あり、最終発作は2019年3月。PER追加後は発作なく過ごしていた。器質的なものではなく、電気生理学的なてんかん発作である。MRIでは多発性脳梗塞多発所見あり。
【内服薬】
カルバマゼピン(テグレトール®︎)400mg
レベチラセタム(イーケプラ®︎)1500mg
フェノバール30mg
アレビアチン100mg
2018年8月:テグレトール400mg+イーケプラ2000mgに減量
2019年4月部分発作あり テグレトール400mg+イーケプラ200mg+フィコンパ2mgへ。
#5. 【経過】 X月Y+1日 脳外科にコンサルト。ホストインを22.5mg/kg静注したが、痙攣がおさまらず。頭部CTでは異常なし。
同日に、フェンタニル4ml,ミダゾラム5ml,ロクロニウム4ml静注し、気管管理しMDZ3mg/hで鎮静開始した。
早期てんかん重積状態の対応と治療法
#7. てんかん重積状態 発作がある程度の長さ以上に続くか、または短い発作でも反復しその間の意識の回復がないもの。
痙攣発作が5分以上持続すれば治療を開始すべきで30分以上持続すると後遺障害の危険性がある。
「てんかん診療ガイドライン2018」より
#8. 難治性てんかん重積状態 第1段階および第2段階治療薬で抑制されないてんかん重積状態と定義される。
発作が抑制されない場合には、早急に全身麻酔療法を施す必要がある。
痙攣を伴わないもの:NCSE
#11. 早期てんかん重積状態(5分〜)
静脈路確保
ジアゼパム 5〜10mg/分 iv
小児であれば
ミダゾラム 0.1〜0.3mg/kg iv
ルート確保困難な場合
ミダゾラム 鼻腔・口腔内・筋注投与
0.5%注射液を10mg(小児では0.3mg/kg)使用する。
この間に原因検索
ABC評価、バイタル測定
血液検査、血液ガス
低血糖あれば
50%Glu50ml
+
塩酸チアミン100mg
確定したてんかん重積状態の治療薬
#12. 確定したてんかん重積状態(10/15分〜) ホスフェニトイン 22.5mg/kg
150mg/分以下 静注
フェノバルビタール15〜20mg/kg
100mg/分以下 静注
ミダゾラム 0.1〜0.3mg/kg
1mg/分 静注
レベチラセタム 1,000mg+生食100ml
15分以上かけて静注開始 この間に
気道確保、酸素投与、モニタリング
CTやMRI
#13. 難治性てんかん重積状態(40〜60分) ミダゾラム 0.05〜0.4mg/kg/時で 持続静注
プロポフォール 1〜2 mg/kg 静注
2〜5 mg/kg/時 持続静注
チオペンタールやチアミラールは省略・・・
超難治性てんかん重積もある・・
#14. 【挿管後の経過】
鎮静:MDZ5mg/h
鎮痛:FENT 30μg/h
AED(新規抗てんかん薬)
①pPHT 22.5mg/kg SE doseでloading
②LEV 2000mg/day
持続的脳波:単発のsharp waveがバラバラに出現
血圧低下に対してNadを開始した。
誤嚥性肺炎に対して、ABPC/SBTが開始されている。
ICUでの経過と治療の調整
#15. 【ICU経過】 X月Y+2日
MDZ持続静注でも痙攣が頻回に起こる。
プロポフォール3ml/h持続静注開始。
不随意運動がある場合には、MDZ2mlフラッシュで対応。
髄液検査実施し、髄膜炎等がないことを確認。
ペランパネル(フィコンパ®︎)再開。
#16. X月Y+3日
ラコサミド(ビムパット®︎)400mg再開。
X月Y+4日
プロポフォール減量したが、痙攣発作が出現する。
プロポフォール2mlフラッシュで対応
【ICU経過】
#17. X月Y+5日以降は減量すると、数十秒続く痙攣発作が出現する、の繰り返しでありフラッシュで対応していた。
X月Y+7日 不随意運動が減少し、鎮静薬も徐々に減量していき本人の意識も戻る。
X月Y+8日 抜管 【ICU経過】
#18. X月Y+10日 抗てんかん薬内服
LEV:3000mg、PER:6mg、LCM:400mg、
VPA:1200mg(退院時にはoff)
意識障害を伴うような痙攣発作はなく、上肢の不随意運動のみでコントロールできている。
(この不随意運動は許容するしかないという結論) 【ICU経過】
てんかん予防と薬剤の選択
#20. 国試でもカルバマゼピンとかバルプロ酸とかレベチラセタムは聞いたことあるけど・・・
それ以外はあんまり分かりません!
レベチラセタムとラコサミドの特徴
#21. レベチラセタム(イーケプラ®︎) 内服500mg×2回(1000〜3000mg/日)
静注から内服に切り替える際に使用しやすい薬剤。
急性期での静注:
1000〜3000mg+0.9%生食100mlに溶解して15分以上かけて投与する。
#22. レベチラセタムの長所
①薬物相互作用が少ない
②蛋白結合率が低い
③肝代謝されない
④副作用が少ない
#23. ラコサミド(ビムパット®︎) 2016年から発売
内服と静注どちらもある。
内服と静注のバイオアベイラビリティは同様。
薬物相互作用はないが併用療法で使用できる。
内服:100mg×2回(最大400mg)
#24. 2016年から発売開始
AMPA受容体に選択性を有する非競合的な拮抗薬。
併用療法が使用可能
内服:1日1回2mg就寝前
併用:1日1回2mg就寝前、1週間かけて漸増し最大12mg/日まで ペランパネル(フィコンパ®︎)
てんかん発作の原因とリスク要因
#25. 今回のてんかん発作の原因・リスク ・頭部CT、髄液検査では異常なし。
・腸閉塞が起きたことで、経口での抗てんかん薬の吸収が低下して有効血中濃度が低下していた可能性がある。
・入院中に肺炎等の感染症を起こしていることも関係している。
・高齢者である。(そもそも薬剤が効果を発揮する脳の部分・受容体が萎縮している。)
#26. Take home message ・痙攣はすぐに止める必要がある。
・薬剤の選択(どれか一つ)と必要量を覚える!!
・痙攣(or意識障害)の原因検索を同時進行で行う!
・Dの異常はA・Bの緊急につながる!
・抗てんかん薬の減量・中止には注意・・・
痙攣管理の重要性と参考文献
#28. 参考文献 「up to date」
「てんかん治療ガイドライン2018」
「今日の治療薬2022」
「みんなの脳神経内科」
「病棟・ICU・ERで使えるクリティカルケア薬」
「ICU/CCUの薬の考え方使い方ver.2」
(いらすとや・ワンピースコラボ)