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再吸収阻害薬関連顎骨壊死の概要と報告
#1. ー 歯科の車窓から🚂 その時、口の中で起きていること 再吸収阻害薬関連顎骨壊死あるいは ビスフォスフォネート関連顎骨壊死 作成者:Dr. KOTATSU 監修:Kamome@DDS, PhD
#2. 骨に関する薬剤による顎骨壊死がある ビスフォスフォネートを使っている患者に難治性の顎骨壊死が発生する2003年の報告。 :ビスフォスフォネート関連顎骨壊死(BRONJ)Marx, R. E. Pamidronate (Aredia) and zoledronate (Zometa) induced avascular necrosis of the jaws: a growing epidemic. Journal of oral and maxillofacial surgery, 2003, 61(9). 新たな治療薬として登場したデノスマブはビスホスホネートより半減期が短く、骨に沈着せず、破 骨細胞にアポトーシスを誘導しない…が、同様の頻度で起きることが判明。 :デノスマブ関連顎骨壊死(DRONJ) メカニズムが異なっても顎骨壊死が起きることからこの2つを包括して再吸収阻害薬関連顎骨壊死 (ARONJ)と呼称。 さらに抗がん薬とよく併用される血管新生阻害薬、分子標的治療薬、特にチロシンキナーゼ阻害薬 などの投与を受けている症例でよく起きるので米国口腔顎顔面外科学会(AAOMS)は薬剤関連顎骨 壊死(MRONJ)とした。
顎骨壊死の診断基準と臨床的特徴
#3. ビスフォスフォネート・デノスマブ等の薬剤を使う疾患 骨粗鬆症 固形がん(乳がん・前立腺がん・肺がん・甲状腺がん・腎がん等)の骨転移 多発性骨髄腫等 悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症 パジェット病など過剰な骨量減少を特徴とする疾患の治療 全国共通がん医科歯科連携講習会テキスト(第二版)2019. Estee L. Bone Reports. Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw: a mechanobiology perspective. 2018, Volume 8.
#4. 診断 以下の 3 項目を満たした場合に 再吸収阻害薬関連顎骨壊死(ARONJ)と診断する。 ビスフォスフォネートまたはデノスマブによる治療歴がある。 顎骨への放射線照射歴がない。 また骨病変が顎骨へのがん転移ではないことが確認できる。 医療従事者が指摘してから 8 週間以上持続して口腔・顎・顔面領域に骨露出を認める、 または口腔内ある いは口腔外の瘻孔から触知出来る骨を 8 週間以上認める。 *ステージ0には適用され ない。 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理 : 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー 2016.
ビスフォスフォネート関連顎骨壊死のリスクファクター
#5. 臨床的特徴 ステージ0 半分は進展しないので過剰診断にならないよう注意 骨露出・壊死なし、歯原性では説明できない痛み 下唇の感覚鈍麻や麻痺(Vincent症状) ステージ1 無症状で感染を伴わない骨露出・壊死、瘻孔 ステージ2 感染を伴う骨露出・壊死、瘻孔。骨露出部に疼痛、発赤。 イメージ図 ステージ3 歯槽骨を超えた骨露出・壊死。 その結果、病的骨折や口腔外瘻孔、鼻・上顎洞口腔瘻孔形成や 下顎下縁や上顎洞までの進展性骨溶解。 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理 : 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー 2016.
#6. ビスフォスフォネート関連顎骨壊死のリスクファクター 機械的外傷(抜歯)・感染による炎症との関連。 Ikebe T. Pathophysiology of BRONJ: drug-related osteoclastic disease of the jaw. Oral Science International, 2013, 10(1). 1) 骨吸収抑制剤 2) 歯科治療 3) 全身性 がん、糖尿病、関節リウマチ、低 Ca 血症、副甲状腺機能低下症、骨軟化症、ビタミン D 欠乏、腎透析、 骨パジェット病 4) 先天性 MMP-2 遺伝子、チトクローム P450-2C 遺伝子などの 一塩基多型 SNP 5) 併用薬 抗がん薬、副腎皮質ステロイド、エリスロポエチン ・血管新生阻害剤(サリドマイド等) ・チロシンキナーゼ阻害剤 しかし発生頻度がそれほど高くないことや歯科処置を行わなくても発生することがあり、 これらのリスク因子に加えて未知のメカニズムがあると考えられている。 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理 : 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー 2016.
顎骨壊死の発症メカニズムと頻度
#7. 発症メカニズム ARONJ 発症のメカニズムはいまだ十分に解明されていない。 薬剤による 骨リモデリングの抑制、破骨細胞活性の抑制 口腔細菌の感染性の増加 口腔上皮細胞のリモデリング、遊走抑制 免疫システムの変化 血管新生の抑制 などが考えられている。 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理 : 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー 2016.
#8. 発症頻度 ■ 骨粗鬆症ビスフォスフォネート治療患者 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理 : 顎骨壊死検討 委員会ポジションペーパー 2016. 10 万人年当たり1.04-69 人(経口)、 0-90 人(静注) ■ がん患者での発生率は骨粗鬆症患者よりも高い。 デノスマブ治療:骨粗鬆症 0-0.03%、がん患者 1.8%での発生報告例 ■ ビスフォスフォネートとデノスマブで の発生頻度はほぼ同程度 。 Khan AA. International Task Force on Osteonecrosis of the Jaw. Diagnosis and management of osteonecrosis of the jaw: a systematic review and international consensus. J Bone Miner Res 2015, 30. Lipton A. Superiority of denosumab to zoledronic acid for prevention of skeletal-related events: a combined analysis of 3 pivotal, randomised, phase 3 trials. Eur J Cancer 2012, 48. Saad F. Incidence, risk factors, and outcomes of osteonecrosis of the jaw: integrated analysis from three blinded active- controlled phase III trials in cancer patients with bone metastases. Ann Oncol 2012, 23. <日本での報告> BRONJ 治療に関する実態調査. 日本口腔外科学会 2015. 2011-13 年にビスフォスフォネート関連顎骨壊死は4797例の報告。 日本ではビスホスホネート内服薬投与のみで4割から半数のBRONJが発生し、 →国外の注射薬投与での発生が高いというものと異なる報告がある。
顎骨壊死の休薬と治療方針
#9. 休薬 歯科治療前に骨吸収抑制薬の休薬するかについては一定の見解はない。 がん患者では原則として休薬しない。 VS 日本骨粗鬆学会 2015, 2016 ADA 米穀歯科医師会 2011 AAOMS 米国口腔顎顔面外科学会 2014
#10. 治療が難しい →予防が大事 1) 骨壊死がこれ以上進まないようにする。 2) 疼痛などの症状の緩和、感染を抑えて患者のQOL を維持する。 3) 患者教育および経過観察、口腔管理を徹底する。
顎骨壊死予防のための医歯薬連携
#11. 防ぐためにどうしたらいいか → 医歯薬連携、患者教育 適切ながん、骨粗鬆症、歯科治療を受けられない患者の不利益を防ぐ。 ●可能であれば、投与前に歯科受診を指導、歯科治療が骨吸収抑制薬治療 開始の 2週間前までに終わっているとよい。 ●歯科医師はビスフォスフォネートとデノスマブ以外の骨粗鬆症治療薬は ARONJ発生とは関連しないことを再認識しておく必要。一方で、医師の62% は歯科医師に口腔内診査を以来したことがなく、72%は歯科医師と連携した ことがないという報告がある。 Taguchi A. Lack of cooperation between physicians and dentist during osteopo rosis treatment mat increase fractures and osteonecrosis of the jaw. Curr Med Res Opin 2016, 32. 骨吸収抑制薬の投与の前に抜歯を終わらせる治療計画、 口腔衛生指導をしっかり。それが難しければ口腔外科の専門医に 依頼しようかな…。治療が終わったら主治医に連絡しなくちゃ
TAKE HOME MESSAGE: 顎骨壊死の注意点
#13. TAKE HOME MESSAGE ● ビスフォスフォネート系薬剤やデノスマブでは、顎骨壊死に要注意 ● 顎骨壊死の危険因子は歯科治療、口腔衛生の不良、免疫抑制 ● 骨吸収阻害薬を投薬する前になるべく歯科治療を!