#4.
下顎骨の名称 下顎骨はいろいろな部位で骨折します 筋突起 下顎頭 まずは、各部位の名称を覚えましょう 関節突起 下顎骨骨折の頻度 ・関節突起 下顎枝 オ ト ガ イ 部 歯槽部 下顎角 下顎体 37% ・オトガイ部 24% ・体部 21% ・角部 12% ・下顎枝 3% ・筋突起 2% ・歯槽部 オトガイ孔:オトガイ神経が出る 半数以上が第2小臼歯の下にある 参考文献:田嶋定夫. 形成外科手術手技シリーズ 顔面骨骨折の治療. 改訂第2版. 克誠堂出版, 1999.
#5.
下顎骨の神経 下顎神経 神経の走行 下顎神経(三叉神経第3枝) 下顎孔 ↓ ※内側(舌側)から下顎孔へ入る 下歯槽神経:下顎の歯・歯肉の知覚 ↓ ※オトガイ孔から皮膚側へ出る 下歯槽神経 オトガイ神経:オトガイと下口唇の知覚 オトガイ孔 オトガイ神経 下顎骨骨折で神経が障害されると感覚障害がでます 参考文献:田嶋定夫. 形成外科手術手技シリーズ 顔面骨骨折の治療. 改訂第2版. 克誠堂出版, 1999.
#6.
下顎骨の筋肉 閉口筋群 側頭筋 外側翼突筋 ・咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋 ※外側翼突筋:上頭ー閉口筋、下頭ー開口筋 とする場合もあり 開口筋群(下顎骨に付着する) ・顎舌骨筋・オトガイ舌骨筋・顎二腹筋 ※開口筋は外側翼突筋下頭、茎突舌骨筋、舌骨下筋を 含める場合もあり 咬筋 下顎骨に付着する開口筋群 咀嚼筋とも言いますが、まずは口を閉じる閉口筋群の4つをイメージしましょう 骨折時の骨片のずれに筋肉が関与します 参考文献:田嶋定夫. 形成外科手術手技シリーズ 顔面骨骨折の治療. 改訂第2版. 克誠堂出版, 1999. 内側翼突筋
#7.
顎関節の解剖 顎関節とは ・下顎頭(関節突起先端)が下顎窩(外耳道前のくぼみ)にはまっている ・下顎窩の前方に関節結節がある ・図は骨のみですが、実際はここに関節円板、靱帯、関節包などがあります 関節結節 下顎頭 参考文献:菅原康志. インストラクション・フェイシャルフラクチャー.克誠堂出版, 2007. 下顎窩 (側頭骨)
#8.
顎関節の運動 顎関節の運動 ①回転運動 ②滑走運動(前方移動) の2種類の動きがあることが特徴 <閉口時> <開口時> 開口時の始めは 下顎頭は下顎窩で回転する 外耳道の前を指で触って口を開けると、滑走運動がわかります 参考文献:菅原康志. インストラクション・フェイシャルフラクチャー.克誠堂出版, 2007. <最大開口時> さらに大きく開口する時は 下顎頭が関節結節まで 滑走(前方移動)する
#9.
直達外力と介達外力 直達外力:損傷部位に直接作用する外力 介達外力:損傷部位ではなく、骨などを介してエネルギーが伝達されるため 離れた部位も損傷されることがあります 例:・下顎骨のオトガイを殴られた時に 関節突起(顎関節)が折れる ・尻もちをついて、脊椎の圧迫骨折が生じる など 顎先をぶつけた時に、顎先だけしか診察しないと 後で顎関節が痛いと言われることがあります 診察時に忘れずに確認しましょう 参考文献:田嶋定夫. 形成外科手術手技シリーズ 顔面骨骨折の治療. 改訂第2版. 克誠堂出版, 1999.
#10.
下顎骨骨折の全身症状 外傷の場合、局所の外傷にとらわれず、まずバイタルサイン、意識レベ ルなどのABCDの異常がないか確認しましょう 全身症状 ・呼吸困難、ショック、意識障害 呼吸困難の原因 ・口腔内異物による気道の閉塞 ・出血、血腫、血餅 ・炎症性浮腫 ・意識消失による舌根沈下 ・下顎骨の後方偏位 ・骨片の牽引圧迫による気道狭窄など 参考文献:榎本昭二ら. 最新 口腔外科学 第5版. 医歯薬出版, 2017. 必要に応じて気道の確保をおこなう ・口腔内吸引 ・止血 ・下顎の前方牽引 ・気管挿管 ABCDアプローチ A:Airway(気道) B:Breathing(呼吸) C:Circulation循環(循環) D:Dysfunction of CNS(中枢神経)
#11.
下顎骨骨折の局所症状 局所症状 ・開口障害・顎関節部の腫脹・疼痛(顎関節部も介達外力で損傷する) ・咬合の不正(歯の咬み合わせが変) ・骨片偏位による歯列弓の変形(歯がずれている) ・顔面下1/3の変形 ・知覚異常:下歯槽神経・オトガイ神経の損傷で 下の口唇、歯肉、歯の知覚麻痺を生じる (転位が少なければでないこともある) 下歯槽神経 ・骨片の異常可動性(押したら動く) ・軋轢音、捻髪音 オトガイ孔 オトガイ神経 ・歯肉断裂、出血、骨の露出 下顎神経 下顎孔 ・症状は骨折の部位や骨片の変位の程度によっても変わります ・顎をぶつけたら咬合不正・開口障害・開口時痛は確認しよう 参考文献:榎本昭二ら. 最新 口腔外科学 第5版. 医歯薬出版, 2017. ・田嶋定夫. 形成外科手術手技シリーズ 顔面骨骨折の治療. 改訂第2版. 克誠堂出版, 1999.
#12.
関節突起部骨折の症状 関節突起部骨折の症状 ・開口障害・顎関節部の腫脹・疼痛 ・咬合不正 ・下顎部の変形: 片側骨折→下顎正中が患側へ偏位 ※支えている片側の長さが短くなるため 両側骨折→下顎が後退、前方開咬変形(オープンバイト) ※外側翼突筋は前方に引っ張る作用が無くなるため、咬筋、内側翼突筋、側頭筋の作用 により下顎が後退する。また、支えが短くなり回転する。その結果、臼歯部(奥歯)が 早期に接触してしまい、前歯部が閉じない(オープンバイト)となる ・耳出血、外耳道腫脹、圧痛 ・咬合不正、開口障害、開口時痛、歯牙損傷がなければ、下顎骨骨折を否定し X線を減らすことが可能といわれているよ 参考文献:形成外科診療ガイドライン 2021年版.榎本昭二ら. 最新 口腔外科学 第5版. 医歯薬出版, 2017.
#13.
下顎骨骨折の症状で注意点 ・顎の外傷では、咬合不正や開口障害(開口時痛)を確認しましょう ・ただし、下顎骨折がなくても、以下のような症状を生じる場合がある ため注意しましょう ・開口障害:顎関節周囲組織の損傷で生じる(外傷性顎関節症) ・咬合不正:脱臼や欠損など歯の異常があると、骨折がなくても咬合不正がでる ・偽咬合不正:頬骨骨折時の知覚異常(眼窩下神経障害)でも、上の歯の知覚障害 により、咬合の違和感を訴える場合あり ・耳出血: 中頭蓋底骨折時は、耳の後ろに皮下出血を生じます(バトル徴候)
#14.
画像検査 ・咬合不正、開口障害、開口時痛があれば、画像検査を行いましょう ・顔面骨骨折のCTでは、冠状断、矢状断、3Dの再合成もお願いしよう ・CTで診断されることが多いが、下顎骨骨折は他の顔面骨骨折と異なり X線でも診断可能なことが多い X線 ・オルソパントモグラフィー:パントモ、パントモグラフィーともいわれる 上下顎全体を画像一枚に撮影したパノラマレントゲン写真。全体がわかる ので見やすい CT ・特に下顎関節突起骨折の診断に、冠状断と3Dの画像が有用 ・下顎骨骨折ではCTがメインです MRI ・軟部組織損傷、関節内の液体の状態、神経損傷の状態などの評価には有用 参考文献:形成外科診療ガイドライン 2021年版.
#15.
患者への説明 <入院 or 帰宅の判断> ・下顎骨骨折単独で、呼吸などに問題がなければ基本的には帰宅可能。 ・入院する場合 ‣気道閉塞など、呼吸に問題がある場合 ‣頭部外傷や他の骨折による症状・意識消失・食事摂取困難など 他の理由で入院することもある <患者に説明する注意事項> ・口を開けない(顎を動かさない) ・飲水可、噛まないで食べられるものを摂取:ウイダーインゼリーやお粥、刻んだ麺など 噛まなくても食べられるものなら何でもよい ・出血・腫脹の予防に血圧が上昇することは避ける。※ 飲酒・運動・入浴(シャワーなら軽く) ・頭部外傷時は症状増悪あれば脳外科受診を指示する ・歯牙損傷がある場合は、歯科受診を ・手術枠調整もあるので早めに形成外科や口腔外科など受診をお願いします
#16.
患者への説明 <処方> ・痛みがあれば鎮痛薬(NSAIDsやアセトアミノフェン)を処方する ・抗生剤は下顎骨骨折のみであれば不要。 ※感染の可能性がある場合は処方を考慮 ・神経障害にビタミンB12(メチコバール)を処方しますが、救外では不要です <顎外固定> ・痛みは顎を固定すると減ります ・オトガイ帽(チンキャップ):頭と顎をバンドで固定できる ・弾性包帯:どこでもあるので使いやすい ・弾性包帯で固定は2本あればできるので、知っていると便利です ・頭と顎を縦方向だけで巻こうとしても、頭は丸いのでずれてしまいます ・そこで、1人が頭(水平方向)に包帯を1巻きしたら、もう一人が顎(縦方向)に1巻き する。これを順番に繰り返すと、頭や顎の包帯がずれにくくなります
#17.
下顎骨骨折の治療 顎間固定 ここからは、治療はこんな感じでするんだなとイメージがつけばいいので さらっと流して読めば大丈夫です 下顎骨骨折の治療の目的 ・咬合(咬み合わせ)の回復です。咬合を無視して、骨折を治療しても意味がありません ・治療には、保存的治療(顎間固定)と手術による治療があります 保存的治療=顎間固定(IMF:intermaxillary fixation) ・骨折前の咬合が問題ない場合、上顎は骨折がなければ歯の位置はずれませんよね 元通りの咬合に戻すには、上顎の歯を基準として(咬み合うように) 骨折した下顎骨の(歯の)位置を整復すれば、元の咬合を回復できます ・顎間固定とは、咬合を治した後に、開口するとまたずれてしまうため 咬合がずれないように、上下顎を固定することです ・顎間固定によって、咬合の確保、安静により腫脹や疼痛の予防 ずれが少なければ骨片の誘導、骨折部の癒合などが得られます
#18.
下顎骨骨折の治療 顎間固定 顎間固定(IMF:intermaxillary fixation)の方法 ・上顎と下顎に器具を装着し、ワイヤーや輪ゴムで開口できないように固定します ・①ネジを使う方法 と ②歯に器具を付ける方法があります ① ネジを上下の歯槽骨に打ち込み固定する方法 ・顎間固定用骨ネジ(IMF Screw)を用いて、歯を避けて歯槽骨に固定します ※商品名でDTA Screw (DTA:Dual-Top Auto) と呼ばれることもあります ・適応例 ・上下顎の歯にかかる(歯列弓内)骨折がない ・咬合(咬頭嵌合)が良好 IMF Screwは簡単で早く、歯への負担も少ないので適応なら使用することが多い 参考文献:菅原康志. インストラクション・フェイシャルフラクチャー.克誠堂出版, 2007.
#19.
下顎骨骨折の治療 顎間固定 ② 器具を歯に付ける方法 ・ワイヤーやゴムを引っかける突起がある金属のバーを 上と下の歯の頬側(前面)にそれぞれ固定します ・線副子・ブラケットなどの種類があります 線副子 ・線副子(金属のバー)と歯をワイヤーで固定します ※多くの種類があり、アーチバー、三内式などと呼ばれることもあります ・歯があればどんな症例でも使用できるため、顎間固定で最も使用される 矯正用ブラケット ・ブラケット(ワイヤーを通すことのできる装置)をボンドで歯に接着します ※便利ですが無理な力をかけると外れてしまうため、顎間固定ではあまり使わない印象です
#20.
下顎骨骨折の治療 プレート固定 顎間固定はツラく、関節は早く動かした方がよいです 手術でプレートやRag screwなどで固定すると、顎間固定の期間を短縮できます 顎間固定のみ 手術+顎間固定 顎間固定期間: 4週間 顎間固定期間:1~4週間 顎間固定の期間は決まっている訳ではありません 手術の固定の方法・骨折の仕方 (線状骨折か粉砕骨折など)・ 術者によっても変わります 例:ミニプレート2枚で強固に固定 :顎間固定を1週→食事以外は輪ゴムで安静位の継続を2週 関節突起部骨折で固定性に不安:顎間固定を3週
#21.
手術か顎間固定かの判断 保存的治療(顎間固定)か手術かの判断に明確な基準はありません 参考として、手術適応の例を記載します 手術適応 顎間固定 ・骨片の転位が大きい ・骨片の転位が少ない→顎間固定でいける場合あり オトガイ~下顎枝の骨折 オトガイ~下顎枝の骨折 ・無歯顎、骨片内に歯がない(咬合関係ないため) ・高位(関節内)の 関節突起骨折 ・小児で転位の少ない骨折 ・骨折線が2か所以上、骨欠損、開放骨折 ‣正中~低位関節突起 ・関節突起部や上顎の骨折を合併 ‣脱転・脱臼のない高位関節突起骨折 など 関節突起骨折 ・低位の関節突起骨折 ・顎間固定で良い咬合が得られない ・両側骨折で前方開咬がある など 参考文献:田嶋定夫. 形成外科手術手技シリーズ 顔面骨骨折の治療. 改訂第2版. 克誠堂出版, 1999. 形成外科診療ガイドライン 2021年版.
#22.
下顎骨骨折の治療 顎間固定 顎間固定をした場合の注意点 ・出血や嘔吐をした場合に、口が開かないと窒息してしまう可能性があります ・嘔吐する可能性がある場合は、輪ゴムやワイヤーを外しておきましょう ・輪ゴムは簡単に外れますが、ワイヤーの場合はすぐに切れるようにワイヤーカッターを ベッドサイドなど分かりやすい場所に置いておきましょう ・窒息時の対応を医師・看護師などで確認しておきましょう
#23.
下顎骨骨折の合併症 ・下顎骨骨折には以下のような合併症の報告があります ・頻度は少ないため、覚える必要はないですが こういった事も起こる可能性があるので注意しましょう 下顎骨の合併症 ・外耳道損傷(外傷性外耳道狭窄) ・外耳道骨折・下顎窩骨折(側頭骨部) ・二次感染による頭蓋内合併症 ・外傷性真珠腫 ・顔面神経麻痺・味覚障害 ・難聴 参考文献:形成外科診療ガイドライン 2021年版.
#24.
Take home message ・外傷の場合、局所の外傷にとらわれず、まずバイタルサイン 意識レベルなどのABCDの異常がないか確認しましょう ・顎をぶつけた場合は、開口障害・開口時痛・咬合不正の症状を 確認しましょう ・下顎骨折の場合は咬合の回復が重要です ・とりあえずこの3個は覚えましょう ・他も理解すると知識が深まりますが、1度で分からなくても大丈夫です ゆっくり理解していきましょう
#25.
参考文献 ・形成外科診療ガイドライン 2021年版. ・田嶋定夫. 形成外科手術手技シリーズ 顔面骨骨折の治療. ・榎本昭二ら. 最新 口腔外科学 第5版. 医歯薬出版, 2017. 改訂第2版. 克誠堂出版, 2021年版. 1999. ・形成外科診療ガイドライン ・平野明喜. 形成外科診療プラクティス 顔面骨骨折の治療の実際. ・田嶋定夫. 形成外科手術手技シリーズ 顔面骨骨折の治療. 改訂第2版. 克誠堂出版, 1999. 文光堂, 2010. ・平野明喜. 形成外科診療プラクティス 顔面骨骨折の治療の実際.文光堂, 2010. ・医学大辞典 第2版. 医学書院, 2009. ・菅原康志. インストラクション・フェイシャルフラクチャー.克誠堂出版, 2007. ・尾崎 峰. 顔面骨骨折を知り尽くす. PEPARS. No180. 2021.