テキスト全文
大動脈エコーの重要性と症例紹介
#1. 大動脈エコーEmergency Ultrasound Studies
倉敷中央病院 救急科
田邉 綾/舩冨 裕之
#2. Introduction 大動脈瘤切迫破裂, 大動脈解離は救急外来において頻度は低いものの, ショック, 急性腹症患者では常に鑑別となる. 緊急度, 重症度ともに高く, 診断から治療までの迅速な診療プロセスが良好な転帰につながる.
エコーは簡便かつ短時間で検査可能であり, 非常に有用なデバイスである. いざというときに正確な評価ができるよう, 本スライドの内容を踏まえ, 日頃から技量を磨こう.
#3. 症例 72歳 男性 【主訴】突然発症の胸背部痛
【現病歴】来院当日, 突然の胸背部痛で目を覚まし, 人生最大の疼痛のため救急外来を受診した。
【既往】感染性心内膜炎に対して大動脈弁置換術施行後 真菌性大動脈瘤 心房粗動
【生活歴】ADL自立
症例の詳細と診断過程
#4. 症例 72歳 男性 【来院時現症】
Vital sign:GCS E4V5M6 HR 67 bpm BP 209/116 mmHg RR 18 回/min SpO2 100% BT 36.4℃
橈骨動脈は左右差なく両側とも触知良好 血圧左右差無し
【検査所見】
心電図:洞調律 ST-T変化なし
心エコー:心嚢液なし 心収縮良好 大動脈弁逆流や上行大動脈基部拡大なし
#5. 症例 72歳 男性 大動脈エコー:腹部大動脈内に拍動に伴って動くflapを認める
#6. 症例 72歳 男性 【経過】
速やかに造影CTを撮影し, Stanford B型急性大動脈解離の診断となる.
降圧, 鎮痛のうえ保存的加療の方針となる. 腹部大動脈瘤/解離を疑えば速やかにエコー
→迅速な診断と治療介入につながる
大動脈エコーの適応と評価項目
#7. Aorta Emergency Ultrasound Studies 適応の見極めと評価項目
正確な描出
適正な解釈
臨床への応用 Jang TB et al. J Ultrasound Med 2012; 31: 515-521
#8. Aorta Emergency Ultrasound Studies 適応の見極めと評価項目
正確な描出
適正な解釈
臨床への応用 Jang TB et al. J Ultrasound Med 2012; 31: 515-521
#9. 1. 適応の見極めと評価項目 腹部大動脈瘤と大動脈解離
を疑う時
⇨急性腹症を含む全ての腹痛・背部痛患者
原因不明の低血圧・失神・心停止患者 Ann of Emerg Med. 2016 Jul;68(1):11-48
#10. 1. 適応の見極めと評価項目 腹部大動脈瘤
大動脈径の測定
3cm以下は正常、腸骨動脈は1.5cm以下
(advanced) AAA破裂所見の有無
大動脈解離
Flapの有無 Ann of Emerg Med. 2016 Jul;68(1):11-48
大動脈エコーの正確な描出方法
#11. Aorta Emergency Ultrasound Studies 適応の見極めと評価項目
正確な描出
適正な解釈
臨床への応用 Jang TB et al. J Ultrasound Med 2012; 31: 515-521
#12. 2. 正確な描出 コンベックスプローべを用いて仰臥位で観察
心窩部の腹部正中横走査で椎体を同定
椎体ーacoustic shadowを伴う半円形の高エコー域
椎体前面の脈管構造を探す
大動脈は, 椎体前面患者の左側に位置し, 拍動する
救急・プライマリケアで必要なポイントオブケア超音波
#13. 2. 正確な描出 心窩部から左右腸骨動脈分岐部までスキャン
腹腔動脈, 上腸間膜動脈, 腎動脈を描出
(十分な範囲でスキャン出来ているか確認のため)
短軸・長軸の両方を描出
Ma & Mateer's Emergency Ultrasound
#14. 2. 正確な描出 Limitationー肥満と腸管ガス
プローべによる腹部の圧迫
*圧迫のしすぎに注意 (圧迫による破裂の報告はなし)
Coronary view
側臥位、右前腋窩線上で肝臓をwindowにする
Ma & Mateer's Emergency Ultrasound
腹部大動脈瘤の解釈と診断基準
#15. Aorta Emergency Ultrasound Studies 適応の見極めと評価項目
正確な描出
適正な解釈
臨床への応用 Jang TB et al. J Ultrasound Med 2012; 31: 515-521
#16. 3. 適正な解釈(腹部大動脈瘤) 径が30mm以上であれば腹部大動脈瘤と定義
外膜から外膜までの径を測定
前面から後面
可能であれば側面から側面も
矢状断面でも径を測定
Annals of Emergency Medicine. 2016 July;68(1):11-12
#17. 3. 適正な解釈(腹部大動脈瘤) 腹部大動脈瘤
腎動脈以下に生じる事が多い(90%以上)
上腸間膜動脈分岐後は注意深く観察
総腸骨動脈も可能な範囲で観察する
形態ー紡錘状がcommon(嚢状は小さくても破裂riskあり) Ma & Mateer's Emergency Ultrasound 救急・プライマリケアで必要なポイントオブケア超音波
#18. 3. 適正な解釈(Advanced) 腹部大動脈瘤破裂所見の有無
壁在血栓の途絶
浮遊血栓
大動脈壁の途絶
大動脈周囲の低エコー域
後腹膜血腫
Rev Med Liege. 2018 May;73(5-6):296-299.
腹部大動脈瘤破裂所見と解離の評価
#19. 腹部大動脈瘤破裂所見 Rev Med Liege. 2018 May;73(5-6):296-299. 浮遊血栓 大動脈周囲の低エコー域
後腹膜血腫 壁在血栓の途絶 救急超音波テキスト-point of careとしての実践的活用法
#20. Pitfall Cylinder tangent effect
大動脈径を過小評価してしまう
対策:短軸と長軸両方を評価する
大動脈周囲リンパ節を瘤と誤認する
対策:ドプラで血流を確認 Ma & Mateer's Emergency Ultrasound
#21. 壁在血栓は未破裂動脈瘤でも見られる
→血栓は破裂や解離を示唆するものではない Pitfall Ma & Mateer's Emergency Ultrasound
#22. 3. 適正な解釈(大動脈解離) Flapの有無
ドプラ上の解離所見
合併症の評価
心タンポナーデ
大動脈弁逆流
主要血管の解離の進行や血流
救急超音波テキスト-point of careとしての実践的活用法
臨床への応用と診断精度の向上
#23. 3. 適正な解釈(大動脈解離) 胸部大動脈解離
心窩部のアプローチでは評価困難
傍胸骨左縁長軸像:大動脈拡大, 大動脈内flap, 心嚢液貯留
大動脈拡大:大動脈基部径≧ 4cm
正常では右室:大動脈:左房=1:1:1
上位肋間アプローチ, 胸骨上アプローチも追加
解離の評価には造影CTが必要→エコーでの評価に固執しない 救急・プライマリケアで必要なポイントオブケア超音波
#24. Aorta Emergency Ultrasound Studies 適応の見極めと評価項目
正確な描出
適正な解釈
臨床への応用 Jang TB et al. J Ultrasound Med 2012; 31: 515-521
#25. 4. 臨床への応用(腹部大動脈瘤) 腹部大動脈瘤
80%は破裂まで診断されていない
非特異的症状のため診断が遅れる
誤診率は30-60%
急性腹症患者では常に念頭におく必要がある
Acad Emerg Med. 2013 Feb;20(2):128-38.
#26. 4. 臨床への応用(腹部大動脈瘤) 腹部大動脈瘤破裂所見
(壁在血栓の途絶/浮遊血栓/大動脈壁の途絶/ 大動脈周囲の
低エコー域/後腹膜血腫) 径が小さくても破裂しないとは限らない
→ 症状の持続する腹部大動脈瘤患者は
速やかな追加精査が必要 これらは感度が低い(感度 14-72% 特異度 100%)
5cmを超えるAAAがあれば他の原因が証明されるまで破裂として扱う。 Rev Med Liege. 2018 May;73(5-6):296-299.
大動脈解離の診断と治療方針
#27. 4. 臨床への応用(腹部大動脈瘤) 未破裂腹部大動脈瘤の対応
3.0-5.4cmの大動脈瘤
→3-12ヶ月ごとのフォロー
>0.5cm/半年の瘤拡大あるいは≧5.5cm
→心臓血管外科へ紹介 J Vasc Surg. 2003;37(5):1106-17 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020年度版)
#28. 4. 臨床への応用(腹部大動脈瘤) POCUSは診断精度が高い
腹部大動脈瘤(>3cm)に対する身体所見
感度 68% 特異度 75%
POCUSで診断に関するsystematic review
感度 97.5-100% 特異度 94.1-100%
LR(+) 10.8-∞ LR(-) 0.00-0.25 POCUSで診断速度が速く、予後が改善
POCUSあり:診断 5.4分 手術 12分 死亡率 40%
POCUSなし:診断 83分 手術 90分 死亡率 72% Acad Emerg Med. 1998; 5:417
#29. 4. 臨床への応用(大動脈解離) 急性A型大動脈解離
Intern Emerg Med. 2014;9(6):665-70. 直接所見
内膜フラップあり
壁内血腫あり(大動脈壁>5mm) 間接所見
上行大動脈基部拡大(≧4cm)
心嚢液貯留
大動脈弁逆流 いずれかの直接or間接所見あり⇒感度 88%
直接所見あり⇒特異度 94%
#30. 4. 臨床への応用(大動脈解離) 大動脈解離
エコーでの診断精度
感度・特異度ともに60-90%
エコーはあくまでも診断, 合併症検索の
補助ツール
→詳細な評価は造影CTで
Intern Emerg Med. 2014;9(6):665-70.
Take Home Message: エコーの重要性
#31. Take Home Message 腹痛患者では常に腹部大動脈瘤, 大動脈解離を念頭におき, エコーによる大動脈の評価を考慮する
エコーは腹部大動脈瘤の診断精度が非常に高い
エコーは大動脈解離の診断, 合併症検索の一助となるが, 評価を固執しすぎるべきではない