テキスト全文
動脈シース留置の概要と目的
#1. 動脈シース留置を マスターしよう! すたば
#2. このスライドでは... アンギオやECMO*の導入時に使っている 動脈シースってどうやって入れるの? *:extracorporeal membrane oxygenation 体外式膜型人工肺 コロナで有名になったエクモです このような疑問にお答えします.
#3. もくじ 1.シースってなに? 2.動脈シースが必要なケース 3.シース留置の手技 4.シース留置の時の注意点 5.抜去の方法
動脈シースの種類とサイズ
#4. 1.シースってなに? コレ メディキット株式会社スーパーシース® ✔正式名称はシースイントロデューサー ✔主に血管(動脈、静脈)に留置して使用 ✔サイズはシース内腔をフレンチ(1F≒0.3mm)で表示 ちなみに,カテーテルは外径表示 だから5Frのシースに5Frのカテーテルが 通ります! シース断面
#5. サイズのめやす Fr(フレンチ) 内腔mm(約) 使用例 4Fr 1.3 上腕などに 5Fr 1.6 1stチョイスで使いやすい 6Fr 2 10Fr 3.3 IAPBなど 14Fr 4.6 IMPELLA®など 16Fr 5.3 VA-ECMO送血管など IABP:大動脈バルーンポンピング IMPELLA:経皮的補助人工心臓 VA-ECMO:いわゆるPCPS どのサイズの動脈シースを使うかは病態によって変わります. どのメーカーのシース,サイズ展開が病院に常備されているか チェックしてみましょう.
#6. 2.動脈シースが必要なケース 外傷,心筋梗塞,脳卒中などの アンギオ・IVR治療のため ECMOやIABPなどの留置のため IABP:大動脈バルーンポンピング IVR:interventional radiology 画像機器を使用しながら治療すること 救急外来や集中治療室以外でも 入院患者での急変(主に心肺停止に対するECMO)や外科の術後出血など, 動脈アクセスとして大腿部にシースを留置することは多いです.
シース留置手技の解剖と準備
#7. それでは実際に動脈シースを入れてみましょう!
#8. 3.シース留置の手技 今回は右大腿動脈に5Frのシースを留置してみましょう. その前にまずは大腿部の解剖を予習! CTの再構成画像 大腿動脈 深大腿動脈 穿刺ポイントは 浅大腿動脈 の部位!深大腿動脈の分岐より中枢で穿刺 ✔中枢すぎると止血困難や腹腔内穿刺、後腹膜出血のリスク ✔末梢すぎると浅大腿動脈穿刺でワイヤーが大腿動脈に迷入しやすい →止血困難や、動静脈瘻形成のリスク
#9. CTの再構成画像 鼠径靭帯 穿刺部位は大腿骨頭レベル 鼠径靱帯の1~2横指下方を穿刺するとシース留置が 大腿骨頭レベルでできる(ことが多い) 体格によってもわかりにくいこともあり, 透視を使える状況であれば穿刺時にも透視を使うことをオススメします. 透視が難しければ,エコーで深大腿動脈の分岐や穿刺ルートに静脈などの 構造物がないかどうかもチェックしましょう!
#10. 3.シース留置の手技 解剖はOK!シースを留置してみましょう. TERUMO ラジフォーカスイントロデューサー® • • • 穿刺部が決まったら消毒 マキシマルバリアプリコーション(透視を使うなら下に放射線防 護具の着用をお忘れなく) シースにヘパリン生食を通したりの物品準備 手技の際に事前に必要な物品の準備をしておくのが成功の秘訣ですネ
シース留置時の注意点と合併症
#11. 3.シース留置の手技 • キットに付属の17〜19Gの穿刺針で穿刺、角度は45° Aライン留置などと基本は同じ手技です 45° • 動脈血の逆流がきたら、内筒を抜いてガイドワイヤーを入れていく ガイドワイヤー ワイヤーを送る時に知っておきたい注意点があります
#12. 4.シース留置の時の注意点 深腸骨回旋動脈 ・穿刺部位が正しくても 深腸骨回旋動脈と下腹壁動脈に 下腹壁動脈 ワイヤーが迷入しやすい ・解剖学的な角度なので、ブラインド 穿刺では一定の割合で迷入する 迷入は多くは少し抵抗を感じるが, 入れ慣れてないとわからないことも... 無理に手技を進めると、細い枝からの 出血(後腹膜出血や腹壁血腫)になる こともあります.
#13. その他の迷入あるある 細い枝への迷入 深大腿動脈への迷入 深腸骨回旋動脈(多い) 下腹壁動脈 浅腹壁動脈 ガイドワイヤー 進めたい方向とは逆方向に ワイヤーが進む ガイドワイヤー ガイドワイヤー 血管内膜下への迷入 無理なガイドワイヤー操作や石灰化の強い高齢者の血管など 血管側の要因もあり
#14. 4.シース留置の時の注意点 深腸骨回旋動脈 合併症で止血術(多くはIVRで止血可 能)が必要になることも... 下腹壁動脈 防ぐには ・透視下でワイヤーが正しく総腸骨動 脈を走行するかみる ・ガイドワイヤーの先端がアングルで はなくJ型を使用する (次ページで詳しく説明)
シース留置手技の詳細と固定方法
#15. ガイドワイヤーの先端はJ型がおすすめ アングル型 角度がついておらず柔らかい. 選択性がよく、迷入しやすい. J型 分枝には迷入しにくく, メインの太い血管内を 進んでいく.
#16. ✔シース留置の手技(ワイヤー留置後) • 無事ワイヤーが総腸骨動脈に入ったら シース本体をワイヤーに沿って 進めていきます 理想のワイヤーの走行 シース ガイドワイヤー シースのサイズや製品によって,ガイドワイヤーとのシースとの段差が 大きい時は,ガイドワイヤーを置いたところで皮膚切開+ペアンで 皮下組織の拡張をすることもあります.(サイズによってはダイレーター が付属) ここに注目 シース ガイドワイヤー
#17. ✔シース留置の手技(固定) シース 皮膚 固定 • シースを根本まで留置したらシースを固定 Ø 内腔のあるシース部分では固定しない Ø ハウジングという溝がある部分で固定 Ø 針でシースを傷つけないように • シースの使用目的によっては固定しないこともあります (サイズアップしていくためすぐ入れ替えたりなど) ようやく留置できました! 治療の目的に合わせて使いましょう. 太いので長期留置することはありませんが,ヘパリン生食加圧圧バックと 圧モニターを繋ぐと動脈圧モニタリングも可能です.
シース抜去の方法と合併症対策
#18. 5.抜去の方法 治療が終わったら,シースはできるだけ早く抜きましょう. ✔外傷のIVR後で再出血のリスクがある ✔今すぐではないが準緊急的にECMOやIABOなどが必要になる このような場合にはおよそ24時間を目安に留置しておき, 抜去基準(病院ごとに設定していることが多い)を満たした際に抜去します. (例えば外傷で止血が完了し追加の輸血が不要になったらなど) 抜去方法 ✔圧迫止血 ✔穿刺部止血デバイス (アンジオシール®,エクソシール®,パークローズProGlide®など) ✔ECMOのA送血管などでは外科的に縫合止血 圧迫の目安 ✔5Frで止血困難がなければ圧迫は10分, 安静解除は4〜6時間が目安
#19. シース抜去時の出血性合併症と対策・治療 合併症 ✔穿刺部の出血 ✔穿刺部の仮性動脈瘤 浅大腿動脈穿刺で起こりやすい.血管の背側の骨がなく皮膚との距離が離れて おり圧迫止血が難しいため. 仮性動脈瘤 周りの組織圧で瘤のように見えてるだけ 浅大腿動脈 ✔エコーで診断可能(治療にも有用) 治療 対策 ✔低位穿刺にならないように ✔圧迫(用手orエコープローべで) ✔仮性瘤部にトロンビン注入
#20. シース抜去後のチェックリスト □バイタルサイン □穿刺部の出血の有無(外出血,皮下出血) できればエコー(ドップラー)でチェック 皮下出血は通常は穿刺部より下に広がるため、足全体をみること □穿刺部の末梢側の血流 拍動、色調、温度、左右差、痛みなど 抜去直後,1時間後,安静解除の際にチェックしましょう. 安静解除時には足を曲げてみたりして出血がないかどうかも 確認したいですね.出血があれば止血が得られていないので, 仮性動脈瘤ができていないかどうかエコーで確認しましょう. 問題なければ基本的にはよく足を動かしてもらってDVT対策をしましょう. DVT:deep vein thrombosis 深部静脈血栓症
エコーガイド下の穿刺とよくある質問
#21. 余談ですが 最近では血管穿刺自体もエコーを使うことも多く,おすすめです! 穿刺前の確認のみにエコーを使用していた時と比べ, 誤穿刺(静脈穿刺)リスクが下がりました. 透視が使えない場合もエコーでワイヤーの走行を可能な範囲で 見ることで,ワイヤーの迷入リスクも減らすことができます. リアルタイムエコーガイド下穿刺だと ✔血管の中心を穿刺できる ✔貫通法(前壁・後壁穿刺)の必要がない (1回穿刺で決まるため出血リスクが下がる) ど真ん中 穿刺前の準備としても ✔ドップラーで血流が豊富な場所か評価できる ✔動脈と静脈と分離できる 治療でも ✔仮性動脈瘤をドップラーで瘤内の血流をみながら圧迫できる (トロンビン注入も同様)
#22. よくある質問 Q&A Q:うまく動脈を触れられません A:大腿動脈は比較的太いので触知しやすいことが多いのですが,若年女 性などでは大腿動脈が細く,脈が触れても血管の中心(最強点)を触診 だけで探すのは難しいこともあります.肥満ではさらに難易度は上がり ます.逆に高齢者では皮膚・皮下組織が薄く触れやすいものの,血流が 低下して穿刺部としては不適切ということもあります.触診に自信がな い場合,処置前のエコーやリアルタイムエコー下穿刺が有用です.ぜひ 活用してみてください.合併症はないにこしたことはありませんので, 使えるデバイスは全て使いましょう. Q:事前のCTで穿刺予定の動脈石灰化が強かった場合、 どうすればよいですか A:石灰化が強いとワイヤー迷入や血管損傷のリスクが高くなるためでき るだけ避けたいですが,実際には血流が十分あってワイヤー操作などを 気をつければ問題ないことも多いです.
参考文献と重要なメッセージ
#24. Take home message ✔血管解剖を熟知しよう ✔見えないものほど怖いものはない ワイヤーの迷入に注意 ✔カテーテル留置後、不要になったらすぐに抜こう エコーは有用,上手に活用しましょう!