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クリスマスの思わぬ贈り物と著者紹介
#1. An Unexpected Christmas Gift クリスマスの思わぬ贈り物—相棒からの見えないプレゼント —An Invisible Present from a Loyal Ally Antaaクリスマス特集号2025
#2. 2 ABOUT ME Goal 番場 祐基 新潟大学医歯学総合病院 高次救命災害治療センター同 呼吸器・感染症内科 内科医
専門は呼吸器領域と感染症ですが、とりあえずなんでも診る
島🏝️暮らしをきっかけにブログ活動をスタート
ブログ「内科医のジレンマ」同Facebookページ
X:@LostphysicianYB
note: @md_dilemma
ICU/救命センター・感染症(抗酸菌・真菌・HIV)、呼吸器内科集中治療領域で内科医だからこそできること!を模索中(相談、質問、依頼などはDMでお願いします)
症例発表:発熱と腰背部痛の患者背景
#3. Case presentation 1754 歳*、男性 数週間続く発熱と腰背部痛 数週間前から断続的な発熱、寝汗、倦怠感を自覚していた。長年慢性腰痛を患っていたものの、熱が出た頃から腰背部痛の悪化を自覚していた。
OTC医薬品(アセトアミノフェンやNSAIDs)を使用していたが、改善はなく、
12月24日に腰背部痛が急激に増悪し動けなくなったため、救急要請した。
腰背部痛は安静時にも生じ、解熱鎮痛薬を使用すると熱とともにいくらか軽快した。しかし、薬の効果が切れたためか、夜間になると悪化した。一時的に症状が改善していたが、最近再び熱が出る様になった。増悪時まではトイレへの歩行もできていた。 *もちろん、架空の症例です
#4. Case presentation 患者背景と生活歴 身長:170cm、体重110kg、BMI 38kg/m2
【職業】世界中を一晩で飛び回る「グローバル配送業」【居住地】北極圏【動物曝露】トナカイ9頭と密接な接触あり【食習慣】各国で出されるクッキーと牛乳(一部未殺菌も)を頻回摂取【既往歴】高血圧症、脂質異常症、2型糖尿病、高尿酸血症閉塞性睡眠時無呼吸症候群【内服薬】 オルメサルタン、ロスバスタチン、メトホルミン、アロプリノール体重コントロールこそ不良であったが、併存症のコントロールは良好であった
腰痛のRed Flagsと文献紹介
#6. 腰痛のRed Flags Eur Spine J. 2016;25(9):2788-802. など 古典的にはこのようなRed Flagsが多数(上記文献では46個!)挙げられているが、エビデンスレベルや定義はバラバラ悪性腫瘍で大事なのは、やはり既往 J Clin Med. 2025;14(20):7174.
椎体骨折は、年齢、外傷、ステロイド使用 Cochrane Database Syst Rev. 2023;8(8):CD014461.
感染性腰背部痛のRed Flagsと患者特有のリスク
#7. 感染性腰背部痛を疑うべき Red flag 症状・所見 発熱(炎症反応)腰背部痛
(夜間増悪・安静時) 脊柱叩打痛 神経症状
(筋力低下、感覚障害、排尿排便障害) ただし、すべて揃うことは稀 背景リスク 免疫不全
(糖尿病、悪性腫瘍、HIV、ステロイド) IVDU
(静注薬常用者) 背部の術後
(最近の脊椎手術・硬膜外注射) 他・多部位感染
(皮膚、尿路、IEなど) 年齢+上記
#8. 感染性腰背部痛を疑うべき Red flag 症状・所見 発熱(炎症反応)腰背部痛
(夜間増悪・安静時) 脊柱叩打痛 神経症状
(筋力低下、感覚障害、排尿排便障害) ただし、すべて揃うことは稀 背景リスク 免疫不全
(糖尿病、悪性腫瘍、HIV、ステロイド) IVDU
(静注薬常用者) 背部の術後
(最近の脊椎手術・硬膜外注射) 他・多部位感染
(皮膚、尿路、IEなど) 年齢+上記
#9. 患者特有のRed flags 家畜(トナカイ)との
日常的接触 未殺菌乳の摂取 超高頻度の国際移動
#10. 患者特有のRed flags 家畜(トナカイ)との
日常的接触 未殺菌乳の摂取 超高頻度の国際移動 人獣共通感染症(Zoonoses) 渡航先特有の感染症
人畜共通感染症の定義と重要性
#13. 人畜共通感染症 「脊椎動物と人の間で自然に移行するすべての病気または感染」
#14. 人畜共通感染症(zoonoses) 60%以上 75%以上 全感染症に占める割合
既存のヒト感染症の約6割が、
脊椎動物とヒトの間で伝播する
人畜共通感染症 新興感染症の起源新興感染症の7割以上が
野生動物由来 Nature. 2008;451(7181):990-3.
Microorganisms.2020;8(9):1405.
主要な家畜由来の人畜共通感染症と症例再考
#15. 主要な家畜由来の人畜共通感染症 Nature. 2008;451(7181):990-3.
Microorganisms.2020;8(9):1405.
#16. ペット由来となりうる人畜共通感染症 Nature. 2008;451(7181):990-3.
Microorganisms.2020;8(9):1405.
#17. 人畜共通感染症としての重症熱性血小板減少症候群(SFTS) Lancet Microbe. 2025:101271.
#18. 症例再考:サンタの背部痛の正体 暫定診断:化膿性脊椎炎
一般的な原因微生物:ブドウ球菌・レンサ球菌 腸内細菌(尿路感染後など)
動物との接触歴からブルセラ症の可能性も想定される
☑︎血液培養
☑︎胸腰椎MRI検査
☑︎心臓エコー検査(心内膜炎検索)
ブルセラ症の診断と症状
#19. 症例再考:サンタの背部痛の正体 血液培養: Brucella spp.
胸腰椎MRI検査L2-3の椎体炎(脊柱起立筋内の膿瘍を伴う)
最終診断
ブルセラ脊椎炎を伴うヒト・ブルセラ症 BMC Infect Dis. 2021;21(1):460. のちにB. suis biovar 4 と判明 J Wildl Dis. 1986;22(4):479-83.
Can Vet J. 1991;32(11):686-8.
#20. ブルセラ症:Brucellosis Brucella属菌
小型で好気性のグラム陰性桿菌宿主に基づいて6つの古典的な種に分けられ、そのうち4種がヒトの重要な人獣共通感染症の原因
細胞内寄生性があり、宿主の免疫細胞内(特にマクロファージ)で増殖するため、ブルセラ症は単なる急性感染症として終結せず、長期化し、体内の様々な臓器で潜在的な病巣を形成しやすくなる(=長期治療が必要)。 B. melitensis
#21. ブルセラ症:Brucellosis 【疫学】
世界で最も広範な人畜共通感染症の1つ
過小診断されていると考えられており、年間160万-210万人が感染していると推定されている
感染は主に、汚染された未殺菌の乳製品の摂取や、感染した家畜(ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ)との直接接触によって発生する。本邦では、輸入症例(渡航者・来日症例)と、国内感染(職業関連、B. canis)家畜は清浄化されており、国内感染リスクは低い。B. canisは一部のイヌが保菌。次に示す論文のとおり、中国北部〜東北部で症例が多いことは知っておくべき。
Emerg Infect Dis.2023;29(9):1789–1797.
#22. ブルセラ症:Brucellosis 【症状】
臨床症状は非常に多様であり、しばしば他の疾患と誤診される。潜伏期間も5日から6ヶ月と幅が広い
(通常は1-3週間程度)
倦怠感、発熱、関節痛、筋肉痛といった非特異的な
全身症状が主体である(軽症例はインフルエンザ様)午後〜夕方・朝にかけて発熱(間欠熱)
典型的には波状熱:間欠熱→一旦症状が好転→間欠熱
骨関節系の合併症は最も頻繁に認められる局所所見であり、末梢性関節炎、仙腸関節炎、椎体炎などを認めるその他、泌尿生殖器系感染、中枢神経系感染、心内膜炎などを合併することがある 中国寧夏回族自治区における1,590例のまとめ
Front Microbiol. 2023:14:1259479. 画像はwikipediaより
ブルセラ症の診断方法と治療方針
#23. ブルセラ症:Brucellosis 【診断】一般的な血液検査で特徴的な所見はない
血液培養および感染部位の局所培養陽性率:局所の培養>血液培養血液培養陽性までの時間は短くても5-7日、最大14日以上かかることもあり、疑った場合には長めの培養をお願いする必要がある(培養条件も必要。BACTECシステムなど、自動培養システムは有用)感染局所の検体採取には侵襲的な処置が必要なことが多い(骨、心など)▶︎抗体検査が重要しかし、現在民間検査会社では受注しておらず、疑った場合には保健所・地衛検を介して、感染研に行政検査として依頼が必要!
#24. 6週間の治療が必要です
今日はもう飛べません
ブルセラ症の治療と今後の展望
#25. ブルセラ症:Brucellosis 【治療】成人ではドキシサイクリン(DOXY)、小児ではST合剤が治療の中心6週間の治療が基本 PEP(曝露後予防)では通常3週間治療 N Engl J Med 2005;352:2325-36.
Ann Med. 2023;55(2):2295398.