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投稿した先生からのメッセージ
診断学って難しくて苦手というイメージはありませんか？皆さんが診断推論を面白くて好きだと言ってもらえることを目指しています。
(ロジックツリー診断推論の基本について解説したスライドは以下URL参照) https://slide.antaa.jp/article/view/157a375028884d9a
概要
Antaa X'mas特集号2025参加スライドです。ぜひ、皆さんもトナカイさん最終診断名をあててみてください。
本スライドの対象者
医学生／研修医／専攻医／専門医
参考文献
書籍【研修医のための 魔法のロジカル診断学 ロジックツリーで診断のプロに変身！】 https://www.amazon.co.jp/dp/4840755787
連載【劇的に診断力が上がる! 診断推論×ロジックツリー】 https://www.yodosha.co.jp/webg/contents/logic_tree/index.html
連載【メ〜太と学ぶ 問診わくわく☆レクチャー】https://www.yodosha.co.jp/rnote/monshin_lecture/index.html
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テキスト全文
小栗太一医師のプロフィールと著作
#1.
旭労災病院総合内科 小栗太一 【物語でわかる診断推論 × Antaa slide】
#2.
Profile 小栗 太一 Taichi Oguri ▶ 現職 独立行政法人労働者健康安全機構 旭労災病院 総合内科主任部長 ▶主な資格 日本内科学会指導医，認定内科医， 総合内科専門医 日本プライマリ・ケア連合学会指導医， プライマリ・ケア認定医 日本糖尿病学会専門医 日本専門医機構総合診療領域 特任指導医 日本病院総合診療医学会認定医 産業医 ▶趣味 息子や娘と遊ぶ，読書 X（旧Twitter）アカウント たのしい診断推論カフェ（@ShindanLogic） 診断推論に関する内容を楽しく わかりやすくみなさんにシェアします。
#3.
【書籍】 研修医のための 魔法のロジカル診断学 （じほう） 【連載】 劇的に診断力が上がる！ 診断推論×ロジックツリー （羊土社 ウェブGノート月刊連載） ・主に専攻医以上向け（研修医もOK） ・小説風の内容でしっかり学びたい人 主な著作 メ〜太と学ぶ問診わくわく☆レクチャー （羊土社 レジデントノート月刊連載） ・主に研修医向け（それ以上もOK） ・コミカルな内容でサクサク簡単に通読できる ・症候別に約５０症例のケースを収録 ▼内容紹介▼ ・ロジックツリーで診断力UP ・外来･ERで大活躍の3STEPの問診 ・浮腫の原因を簡単に見抜く ・失神･TIA･てんかん,鑑別できる? ・身体所見でショックを即分類 ・女性の腹痛診断のポイント ・不明熱を得意にする方法 ・膠原病の不明熱：5つ覚えるだけ ・ABCDEで意識障害を実践的に診察 ・緊急性の高い胸痛を瞬時に見抜く ・関節炎を正確に診察する ・・・など楽しく学べます！ ・研修医向け(医学生もOK) ・体系的な問診のやり方を漫画で学べる
トナカイさんの悲しいクリスマス
#4.
―雪がしんしんと降る、森の商店街。 クリスマスが近づくこの季節、キラキラと飾られたお店のショーウィンドウには、色とりどりのケーキが並んでいました。クマ研修医とウサギ看護師が楽しそうに歩いていると、ケーキ屋さんの前で、じっと動かない影が見えました。 🐻「あれ……トナカイさん？」 それは、いつも元気いっぱいのトナカイさんでした。でも今日は違います。ショーケースの前で、悲しい目をしてずっと立ち尽くしているのです。 🐰「トナカイさん、どうしたの？」 ウサギ看護師が優しく声をかけると、トナカイさんはゆっくりと振り返りました。
#5.
🦌「…ケーキ、食べたいんです。本当は。でも……」 小さな声が、雪に吸い込まれそうでした。 🦌「最近、喉が渇いて渇いて仕方なくて。お水をガブガブ飲んで、夜は何度もトイレに起きて…朝にはもうヘトヘトで。サンタさんと一緒に、世界中の子どもたちにプレゼントを届けるのが僕の仕事なのに……体がついていかなくて。」 トナカイさんの目から、ひとすじの涙がこぼれました。 🐰「そうだったの…。」 🦌「でも……僕、休みたくない。子どもたちの笑顔を見るのが、僕の一番の幸せなのに……」 クマ研修医は胸がぎゅっと締め付けられました。 🦌「みんなに言われたんです。ボクは虫歯も多い上に、この喉の渇きはおそらく糖尿病の症状だから、ケーキなんて食べちゃダメって。でも、怖くて病院に行けなくて。」
#6.
🐰「ねえ、トナカイさん。一度、診療所でちゃんと検査して調べみたらどうかしら。それに糖尿病だからケーキを全く食べちゃだめなんてことはないわ。きちんと治療して血糖をコントロールすればきっと大丈夫よ。」 翌日の検査。クマ研修医は予想していました。 🐻「喉の渇き、多飲、多尿……おそらく糖尿病だろうな。」 🐰「あら、トナカイさん目が赤いわ。瞬きの回数も多いし…、なぜかしら。」
トナカイさんの検査と診断の過程
#7.
検査結果を見て、クマ研修医は首をかしげました。 なんと尿に糖は出ていません。血糖値も正常です。 🐻「……糖尿病じゃない？…じゃあ何だろう？」 ウサギ看護師が、トナカイさんの顔をじっと見つめました。 🐰「ねえトナカイさん、目も乾いてる感じしない？しょぼしょぼしてるみたい……」 🦌「そう言われれば……口の中も、いつもカラカラで。目もゴロゴロするんです」
#8.
それをみたライオン先生が優しく言いました。 🦁「追加で検査をしてみよう」 数日後。血液検査でSS-A抗体が陽性と出ました。 🐻「これは…シェーグレン病？」 🦁「涙や唾液が出にくくなる病気だね。口が乾くから、たくさん水を飲む。だからおしっこも増える……いわゆる多飲の状態になることもあるんだ。」
#9.
トナカイさんは小さな声で言いました。 🦌「じゃあ僕…糖尿病じゃないんですか？ケーキは食べてもいいんですか？」 🐻「ええ、大丈夫ですよ。シェーグレン病ならケーキを控える必要は特にありません」 でも、ウサギ看護師は何かひっかかるものを感じていました。 🐰「ねえクマ先生……"たくさん"って、実際どれくらいなのかしら？念のため、1日のおしっこの量を測ってもらえませんか？」 🐻「それもそうだね。トナカイさん、お手数ですがお願いします。」
#10.
しかし翌日、トナカイさんが恥ずかしそうに持ってきたメモを見て、みんなは息を飲みました。 🐻「…5リットル……！？」 ライオン先生の表情が、すっと真剣になりました。 🦁「これは、"口が乾いてたくさん飲むから多い"だけじゃ説明できない量だね……」 🐻「ええ？どういうことですか？」
尿崩症の可能性と検査結果
#11.
ライオン先生が言いました。 🦁「水制限試験をしてみよう」 お水を控えてもらう検査を行い、もし「たくさん飲むから多い」だけなら、水を控えれば体が自動的におしっこを濃くして尿量を減らしてくれるはず。 しかし—結果は意外なものでした。 血清ナトリウムは146 mEq/Lまで上がったのに、尿は薄いままです。 🐻「体は脱水気味なのに……おしっこを濃くできていない……？」
#12.
🦁「やはり、これは尿崩症の可能性が高いね」 トナカイさんは静かに聞いていました。そして、小さくつぶやきました。 🦌「その病気は治るんですか？僕は…もう､サンタさんとは飛べないのかな｡」 その言葉に診療所のメンバーは凍りつきました。 🦌「サンタさん、僕には何も言わないんです。でも分かるんです。きっと僕が辛そうにしてるのを全部見てる。"無理しないでいいから"って、いつも優しく言ってくれるんです。でも…それが逆に辛くて…。」 トナカイさんの声が震えます。 🦌「今年のクリスマス、"僕は休んで、他のトナカイに頼むから"って言われるんじゃないかって…そう思うと、夜も眠れなくて…。」 🐻「大丈夫。絶対に…、絶対に僕たちが原因を見つけて診断します！」
#13.
尿崩症には2つのタイプがあります。 ①脳からの指令（AVP）が”出ない” → 中枢性尿崩症 ②腎臓がその指令を"聞かない" → 腎性尿崩症 まずMRIで脳を調べました。 🐻「中枢性なら、脳に何か異常があるはず……」 しかし結果は､異常なし。 🦁「下垂体には問題なさそうだ。だとすると原因は…。」
#14.
MRIに異常がないなら、腎性尿崩症の可能性が高い—！ ライオン先生は、次の検査を提案しました。 🦁「DDAVP負荷試験をしましょう。これで腎臓が"尿を濃くしなさい"という脳からの指令に反応できるか分かります」 結果は—尿はほとんど濃くなりませんでした。
腎性尿崩症の原因と治療方針
#15.
🦁「やはり腎性尿崩症だね。」 診断が見えてきて、クマ研修医はホッと息をつきます。 🐻「原因が分かれば、治療できる…！ん？これは—カリウムが低い……？」 🦁「腎性尿崩症の原因はリチウムなどの薬剤性の頻度が高い。だが、今回は薬剤歴はない。低カリウム血症があるとそれだけで腎臓の尿を濃くする力が落ちて、腎性尿崩症のような状態になることがあるんだ」 🐻「じゃあ…今回は低カリウムが原因で、腎性尿崩症になっていた？」 🦁「その可能性はあるね。まずはカリウムを補充してみよう」
#16.
トナカイさんの目に、希望の光が宿りました。 🦌「治るんですか？」 🐻「ええ、一緒に頑張りましょう。 クマ研修医は思いました。 🐻「よかった……これで、トナカイさんはまたサンタさんと飛べる……！」 しかし、その夜、ライオン先生はひとり、検査データを見つめていました。 🦁「……まだ何か、足りない気がするな」
#17.
治療が始まって数日後。 カリウムを補充しても、トナカイさんの症状はあまり変わりませんでした。 🐻「あれ……おかしいな。低カリウムを治せば良くなるはずなのに……」 ライオン先生が、静かに言いました。 🦁「クマ先生、低カリウムが原因だけじゃ説明できないことがありそうだ。ほら、よくみるとAG正常の高Cl性代謝性アシドーシスがある。」 🐻「それってどういうことですか…？」
#18.
🦁「遠位尿細管性アシドーシスだよ。シェーグレン病では、腎臓の"間質"に炎症が起きて、そばにある尿細管も傷つくことがあるんだ」 • 遠位尿細管が傷つく → 酸を捨てられない → 遠位尿細管性アシドーシス • 集合管が傷つく → 尿を濃くできない → 腎性尿崩症 🐻「トナカイさんは、遠位尿細管性アシドーシスと腎性尿崩症が同時に出ていたんだね。だから低カリウムは原因じゃなくて— 🦁｢そう｡遠位尿細管性アシドーシス→ 低カリウム → ＋集合管障害で腎性尿崩症、だったわけだ｡」 🐻「そ､そうだったのか！」
トナカイさんの回復とクリスマス
#19.
治療方針が変わりました。ライオン先生たちは、カリウムやpHを整えつつサイアザイドで尿量を調整します。少しずつ尿量は減り、トナカイさんも元気が戻ってきました。 🦌「夜、起きなくなりました。体が……軽いんです」 そしてクリスマスイブの夕方。トナカイさんは、あの日と同じケーキ屋さんの前に立っていました。でも今度は、迷いのない笑顔で。 🦌「先生たち……僕、今年もサンタさんと飛べます！サンタさんに伝えたら…"今年もよろしく"って、僕の頭を撫でてくれて……」 🐰「そうだったの、よかったわね！」 🦌「今夜は、このケーキをサンタさんと一緒に食べるんです。先生たち、本当にありがとうございました！」 トナカイさんは深く頭を下げると、ケーキの箱を抱えて、雪の中を駆けていきました。
#20.
その夜。クマ研修医は診療所の窓から星空を見上げていました。 🐻「トナカイさん……無事に飛べたかな」 どこか遠くで、鈴の音が聞こえたような気がしました。 🐰「……がんばって、トナカイさん」 その日は救急患者さんが多く夜遅くまで患者対応が続き、診療所に泊まり込みとなった二人。一段落して診療所の仮眠室で翌朝まで眠りました。
トナカイからの感謝の贈り物
#21.
——そして、朝—— 🐰「あら？」 ウサギ看護師が目を覚ますと、診療所の机の上に小さな箱が置いてあります。 🐰「これ……誰が……？」 赤いリボンのかかったその箱には、手書きのメッセージカードが添えられていました。 --------------------------------- 「森の診療所のみなさまへ 今年も無事に、世界中の子どもたちに プレゼントを届けることができました。 最後に、ここにも寄らせていただきました。 クマ先生、ウサギ看護師さん、ライオン先生。 ありがとう、そしてメリークリスマス —トナカイとサンタより」 ----------------------------
#22.
🐰「トナカイさん…来てくれたんだ……」 🐻「これは！」 箱を開けると、中には温かな手編みのマフラーと、小さなオルゴール。楽し気なクリスマスの音楽が流れました。 ２人は窓の外の空を見上げて、小さく手を振りました。 「メリークリスマス!」
#23.