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内田直樹

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高齢者におけるうつ病と認知症に対する治療の実際

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  • うつ病

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内田直樹

医療法人すずらん会たろうクリニック

スライドの見どころ

高齢者のうつ病診療について、非専門医向けにガイドラインの内容をまとめました。

内容

年齢が高くなるに連れてうつ状態の頻度が増加することがわかっています。

また、うつ病と認知症の関係は非常に密接ですl。

そこで今回、認知症にうつ病が合併した事例を紹介し、日本うつ病学会による「高齢者のうつ病治療ガイドライン」の内容を中心にまとめました。

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医/専門医

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スライドの見どころ

高齢者のうつ病診療について、非専門医向けにガイドラインの内容をまとめました。

内容

年齢が高くなるに連れてうつ状態の頻度が増加することがわかっています。

また、うつ病と認知症の関係は非常に密接ですl。

そこで今回、認知症にうつ病が合併した事例を紹介し、日本うつ病学会による「高齢者のうつ病治療ガイドライン」の内容を中心にまとめました。

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医/専門医

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産業医(8)

初期研修医(327)

医学生(3)

その他(297)


高齢者におけるうつ病と認知症に対する治療の実際

  • 1.

    高齢者におけるうつ病と認知症に対する治療の実際 内田 直樹

  • 2.

    高齢者のうつ病 地域住民を対象とした調査では、老年期の大うつ病の頻度は約2%、それより軽症のうつ状態の頻度は約10%程度であった。(朝田 隆ほか. 老年精神医学雑誌. 2004;15:1221-1225.) 年齢が高くなるにつれてうつ状態の頻度が増加し、75~80歳で27.8%、81~85歳で33.3%、86~90歳で34.8%、91歳以上で46.0%という海外の報告もある。(van‘t Veer-Tazelaar PJ, et al. J Affect Disord. 2008;106:295-299.)

  • 3.

    うつ病と認知症 うつ病が認知症の初期症状であることがある うつ病で一見認知症のような状態になることがある(仮性認知症) うつ病と認知症が合併する場合もある うつ病が治療で改善していても、長期的には認知症へ移行する可能性がある

  • 4.

    認知症発症の修正可能な危険因子の割合 Livingston G, et al. Lancet. 2020;396:413-446.

  • 5.

    本日のテーマ 事例 うつ病のスクリーニング ガイドラインの紹介 抗認知症薬の効果と限界 認知症治療について

  • 6.

    事例 85歳 女性 既往歴 高血圧、糖尿病、PCI後 現病歴 X-4年より上記診断で近医内科に通院していた。X年5月に転倒で入院した後より認知機能障害が進行した。 その後食事摂取量が減り、認知症の評価目的にX年9月に当院もの忘れ外来初診。

  • 7.

    事例 近くに住む孫とともに来院。 HDS-R11点(遅延再生1/6)であった。 食事が入らないことについて尋ねると、「食べてますよ」との反応。 器質的異常がないか精査を行うために近くの総合病院を紹介したが、明らかな異常はなかった。 3週間後の外来日には通院困難で在宅医療に移行した。

  • 8.

    事例 看取りを前提とした話をするつもりで訪問。 同居していた夫に話を聞いたところ、半年ほど前に仲が良く近くに住んでいた息子嫁の母が亡くなったあとから食事摂取量が減少し「自分は重い病気で助からない」と話していたことが明らかとなった。 認知症にうつ病が重なっていると考えて点滴し補液を行いながらミルタザピンを開始したところ2週間後の定期訪問時には食欲が改善、1ヶ月後にはデイサービスに行けるようになった。

  • 9.

    本日のテーマ 事例 うつ病のスクリーニング ガイドラインの紹介 抗認知症薬の効果と限界 認知症治療について

  • 10.

    うつ病のスクリニーニング検査2質問票法 不眠、食欲低下がある場合 「この1ヵ月、気分が沈んだり、憂鬱になることがよくあったか」 「この1ヵ月、物事に対して興味がわかない、あるいはこころから楽しめない感じがよくあったか」(ほとんど1日中、ほぼ毎日が原則) →どちらかがあれば、「うつ病」とする 感度96% 特異度57% (Whooley MA, Avins AL, Miranda J, et al. J Gen Intern Med. 1997 ; 12(7): 439-445.)

  • 11.

    本日のテーマ 事例 うつ病のスクリーニング ガイドラインの紹介 抗認知症薬の効果と限界 認知症治療について

  • 12.

    高齢者のうつ病治療ガイドライン 日本うつ病学会が2020年7月に公開。 診療の支援を目的に作成されたものであり、治療を決定づけるものではないため、時と場合に応じてガイドラインにしばられずに医師の裁量で治療を工夫することも必要である。 治療に際しては、本ガイドラインを遵守したというだけでは過失責任を免れることはできず、一方で本ガイドラインから逸脱したことを過失とみなすこともできない。つまり本ガイドラインの内容は医療訴訟の根拠となるものではない。 「高齢者」の明確な年齢の基準は設定していない。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 13.

    はじめに 高齢者のうつ病診療は、 成人早期の診療と比べて難しい。 成人早期と比べて薬物療法の効果に大きな差はないが、副作用が生じやすく注意を要する。 成人早期と比べて精神療法の有効性の検証が十分でない。 認知症との鑑別は容易ではない。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 14.

    推奨とエビデンスの強さ 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 15.

    i. 診断 基本的には一般成人と同じ。 より若い年齢でうつ病を発症し高齢になって再発した若年発症の高齢者のうつ病と、高齢になってはじめて発症したうつ病がある。 高齢発症のうつ病では高率に大脳深部白質の血管病変を認めることが示されており 、「血管性うつ病(vascular depression)」と呼ぶ。若年発症のうつ病と比較して、より慢性の経過をたどり、再燃率、身体疾患合併率、認知機能障害、死亡率などのアウトカムにおいて予後不良である(Ismail Z, et al. Psychiatr Clin North Am. 2013;36:483-496.) 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 16.

    A. 治療導入に際して

  • 17.

    i. 診断 配慮すべき疾患・病態 a) 双極性障害 入院・外来を問わず高齢者の大うつ病エピソードの背景には、30%前後という高い頻度で双極性障害が存在し、そのうち相当数が単極性のうつ病と診断されている。 過去の躁・軽躁病エピソードの有無を、本人や家族から聴取することが必須であるが、長い人生の中で想起できなことも多い。 高齢者の双極性障害では、双極性障害やうつ病の家族歴を持つ例が39%に上る。(Depp CA, et al. Bipolar Disord. 2004;6:343-367.) 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 18.

    i. 診断 配慮すべき疾患・病態 a) 双極性障害 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 19.

    i. 診断 配慮すべき疾患・病態 b) 認知症・アパシー・せん妄 うつ病と認知症が鑑別困難な要因として、①うつ病と認知症に類似ないしオーバーラップした臨床症状があること(仮性認知症など)②認知症に抑うつ状態が高率に合併すること③うつ病から認知症への移行が多いことなどが挙げられる(馬場元. 日本臨床 別冊精神医学症候群 I. 2017;540-545.) うつ病と認知症との鑑別の補助として頭部MRIや脳血流 SPCET、DLB の鑑別にはさらにDATスキャンやMIBG心筋シンチなどの画像検査も有用である。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 20.

    i. 診断 配慮すべき疾患・病態 b) 認知症・アパシー・せん妄 アルツハイマー型認知症(AD)との鑑別として、ADでは病初期から記銘力障害と想起障害の両方を認めるが、特に記銘力障害がより強く障害されるため、近時記憶がより障害され、再認障害もみられる。遠隔記憶は比較的保たれやすい。一方うつ病では注意・集中の障害に加えて想起障害を認めるため、記憶の再生は不良だが、再認は保たれることが多い。また取り繕い反応や振り返り徴候もADでしばしばみられる。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 21.

    i. 診断 配慮すべき疾患・病態 b) 認知症・アパシー・せん妄 レビー小体型認知症(DLB)は AD以上にうつ病との親和性が高く(Boot BP, et al, Neurology. 2013;81:833–840.)、認知機能障害や幻視、パーキンソニズムなどの中核的症状が明らかになる前から抑うつ症状が出現することが多いので(Fujishiro H, et al. Psychogeriatrics. 2013;13:128–138.)、病初期はうつ病との鑑別がより困難となる。 うつ病と比較してDLBで認められやすい臨床症状として、REM 睡眠行動障害や嗅覚障害、起立性調節障害や排尿調節障害、発汗異常などの自律神経症状、向精神薬への過敏性などが挙げられる。パーキンソニズムでは初期には振戦は少なく、寡動や易転倒性が多い。精神病症状としては幻視やパレイドリアなどの視覚認知障害、替え玉妄想や幻の同居人などの誤認妄想がしばしばみられる(McKeith IG, et al. Neurology. 2017;89:88–100. 2017. 石川正憲ほか. 薬局. 2017;68:2233-2239.) 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 22.

    i. 診断 配慮すべき疾患・病態 b) 認知症・アパシー・せん妄 前頭側頭葉変性症のひとつである前頭側頭型認知症(FTD)の行動障害型(bvFTD)では、脱抑制やアパシー、固執・常同性、食行動変化などの性格・行動の変化が病初期より認められる。アパシーによる活動性や関心の低下は、うつ病の症状と類似する。うつ病とbvFTDとの鑑別には、後述する抑うつ状態とアパシーの鑑別のポイントのほかに、bvFTD の特徴である甘いものを極端に好む、同じものを食べ続けるといった嗜好や食行動の変化も有用な所見となる(田渕肇. 老年精神医学雑誌. 2018;29:274-280.)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 23.

    i. 診断 配慮すべき疾患・病態 b) 認知症・アパシー・せん妄 アパシーは認知症に限らず、脳卒中やパーキンソン病などの神経疾患でも高率に認められ、「モチベーションの減弱ないし欠如」を中核とし、無感情、感情の平板化など情動領域の障害、興味喪失、無関心など認知領域の障害、発動性(自発性)の低下など意欲障害、行動領域の障害が現れる。 (Robert P, et al. Eur psychiatry. 2009.24;98:104.小林祥秦(編):脳疾患によるアパシー(意欲障害)の臨床 改訂版. 新興医学出版社, 2016) 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 24.

    i. 診断 配慮すべき疾患・病態 c) 身体疾患・脳器質疾患に基づく抑うつ状態、薬剤誘発性の抑うつ状態 日本うつ病学会診療ガイドラインより

  • 25.

    i. 診断 配慮すべき疾患・病態 c) 身体疾患・脳器質疾患に基づく抑うつ状態、薬剤誘発性の抑うつ状態 身体疾患や脳器質性疾患、そして薬剤によって生じた抑うつ状態と、いわゆる原発性のうつ病との鑑別のポイントは①身体・器質性疾患の発症、悪化、寛解、あるいは薬剤の使用と抑うつ状態のそれとの間に時間的な関連があること、②原発性のうつ病とは異なる非定型的な特徴がみられること(発症年齢、経過、家族歴など)③その身体・器質性疾患あるいは薬剤と抑うつ状態との間に直接的な関連を示す文献的証拠があること、などである(上島国利ほか.医学界新聞. 2008;2787.) 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 26.

    ii. 臨床的特徴 1) 臨床症状 中核症状は抑うつ気分と興味・喜びの喪失である。 それに続く中核症状は高齢者では自殺念慮、悲観であるのに対して、成人早期では易疲労感や食欲の変化であった。 高齢者のうつ病では精神運動 激越、心気症、身体症状(一般的)、身体症状(消化器系)の重症度が高く、罪責感と生殖器症状は低かった。 強い罪責感や罪業妄想を伴う場合は、自殺のリスクが高い 。 高齢者のうつ病では入院患者の45%が精神病性うつ病であったという報告がある。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 27.

    ii. 臨床的特徴 2)治療反応・寛解 より高齢になるほど反応率・寛解率ともに低くなる。 治療開始時に重症、不安症状の合併、現在のエピソードが長い、身体疾患の合併、遂行機能障害の存在は治療反応性不良の予測因子である。 治療早期の反応は治療反応性良好の予測因子。 精神病症状を伴う高齢者のうつ病は、抗うつ薬と抗精神病薬の併用やECTを用いることで、非精神病性のうつ病と同等の反応が期待できる。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 28.

    ii. 臨床的特徴 3)再発・再燃 高齢者のうつ病は再発率が高く、残遺症状の存在は再発率を上げることから、維持療法は重要である。 抗うつ薬による12ヵ月の維持療法はプラセボと比較して有意に再発・再燃を予防し (NNT=5)、有害作用による脱落には有意差はない。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 29.

    ii. 臨床的特徴 4)予後 未治療の場合、遷延して生命予後も悪い。 高齢者の抑うつ症状が認知症の前駆症状であることや、 抑うつエピソードが認知症のリスクとなることが指摘されており、認知症への移行に注意が必要である。 高齢者のうつ病の 5~7 年の追跡調査では、認知機能が正常であった患者の18.2%が認知症に移行していたのに対して、認知機能低下があったうつ病(仮性認知症)患者では 71.4%が認知症に移行した。 レビー小体型認知症への移行も多い。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 30.

    iii. 薬物動態 1)概要 薬物動態は加齢により影響を受けるため、向精神薬による薬物有害事象も増加する。 ベンゾジアゼピン受容体作動薬剤(BZD)や抗コリン作用のある薬剤に対して高齢者は感受性が亢進していることが指摘されている。 高齢者に向精神薬を投与する際は、現在の全身状態(肝・腎・心機能障害の有無)や併用薬の有無を事前に評価し、慎重に処方する。 高齢者に対して向精神薬の多剤併用療法は有害事象が出現しやすいことから推奨されない。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 31.

    iii. 薬物動態 a)抗うつ薬 注意すべき副作用に、低ナトリウム血症、転倒、骨折、骨密度低下、不整脈、錐体外路症状、セロトニン症候群、消化管出血が挙げられる。 抗うつ薬の効果発現より早くに有害事象が生じるため、早期発見に努める。 SSRI、SNRIは、CYPに対する阻害作用があるために、薬剤相互作用に注意する必要がある。CYPの薬剤相互作用の度合いは、フルボキサミン、 パロキセチンが強く、デュロキセチン、セルトラリンが中等度で、エスシタロプラム、ミルタザピン、ベンラファキシンは弱い。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 32.

    iii. 薬物動態 a)抗うつ薬 抗うつ薬による薬剤性SIADHは無症状の場合もあるが、 程度によって嘔気、筋力低下、けいれん、意識障害などを引き起こす。特に高齢者で頻度が高く、SSRIやSNRIが他のクラス(TCAやNaSSA)より多い 。 TCAとエスシタロプラムはQT延長に注意が必要である。 SSRIのまれではあるが重大な副作用として上部消化管出血が挙げられる。特に高齢者で頻度が高いNSAIDsや抗血小板薬の併用時にリスクが上昇するため、これらの薬剤を併用中の高齢者では特に注意する 。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 33.

    iii. 薬物動態 b)炭酸リチウム 一般的に忍容性が高い。一方で、有効血中濃度(0.4~1.2mEq/L)が、中毒濃度(1.5mEq/L 以上)に近接しているためリチウム中毒に注意する。 リチウムは腎排泄の薬剤であり、腎機能低下時には特に血中濃度に注意する。 血中濃度を上昇させる可能性がある薬剤(NSAIDs、利尿薬、ACE阻害薬、 ARB等)の併用時には血中濃度に細心の注意を払う必要がある。 投与初期や増量時には1週間に1回を目途に、維持量の投与中には2〜3ヵ月に1回を目途に血中濃度を評価する。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 34.

    iii. 薬物動態 c)抗精神病薬 高齢者では血中濃度半減期が延長し CYP活性が低下するために、初期投与と維持投与を行う場合ともに低用量で行う。 錐体外路症状や抗コリン性の副作用に注意して行う必要があり、第二世代抗精神病薬を選択することが望ましい。 注意すべき有害事象は、錐体外路症状や抗コリン性の副作用、そしてQT延長に伴う重症の心室性不整脈や心臓突然死である。 抗精神病薬を処方されている高齢者、特に電解質異常や不整脈の既往がある場合は定期的な心電図検査によるQTc間隔の測定が望ましい。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 35.

    iii. 薬物動態 d)不眠症治療薬 BZDは基本的にCYPで代謝される。また、蛋白結合率が高い。そのため、低タンパク血症や肝障害があるときには薬効が大きくなるために注意する。 加齢のみによる薬力学的変化も大きく、薬効は2~3 倍増強すると報告されている。 高齢者にBZDを使用する際には、転倒のリスクを高めるほか、認知機能障害やせん妄症状を引き起こす可能性に留意する。 長期的に投与することによる依存形成や離脱症状の出現にも注意し、不眠に対する使用は不眠の期間のみに限定する。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 36.

    iii. 薬物動態 d)不眠症治療薬 ラメルテオンは CYPを介し肝臓で代謝され、高度な肝障害下での使用とフルボキサミンとの併用が禁忌となっている。 スボレキサントは、添付文書では高齢者に使用する際は15mgの投与にとどめるよう記載されている。 いずれの薬剤もうつ病の不眠に対する系統的な検討は行われておらず、添付文書には「精神疾患(統合失調症、うつ病等)の既往又は合併のある患者における本剤の有効性及び安全性は確立していない」、「二次性不眠症に対する本剤の有効性及び安全性は確立されていない」と記載されている。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 37.

    B. 状態の評価と基礎的介入

  • 38.

    i. 状態の評価 自記式評価尺度としては GDS や QIDS-SR、他覚的評価尺度としてはHAM-DとMADRSが代表的である。 前者は主にスクリーニング、後者は重症度の評価に用いられる。 アパシーの評価としては、Apathy scale(日本語版:やる気スコア)や標準意欲評価法が作成されている。 食欲低下や脱水等の全身状態に注意することが重要である。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 39.

    ii. 基礎的な介入 本格的治療を導入する以前に、本人・家族および介護者に対する心理教育、環境調整を行う。 さまざまな喪失体験を背景とした老年期心性に対して十分な受容的・共感的態度を示すことが重要である。 家族が疲弊していることも多く、家族へも共感的態度を示しつつ、老年期心性への理解を促すことが必要である。 高齢者のうつ病は自殺リスクが高く、注意が必要である。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 40.

    C. 治療の各論

  • 41.

    CQ 1. 高齢者のうつ病に有用な精神療法はあるか? 高齢者のうつ病に対して、精神療法(認知行動療法(B)、問題解決療法(B)、回想療法・ライフレビュー療法(B)や行動活性化療法(C))はうつ症状の軽減に有効であり、明確な有害事象の報告はなく試みるべき治療法である(1B)。 ただ、各療法間で有効性の差を示す明確なエビデンスはない(D) 。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 42.

    CQ 2. 高齢者のうつ病に対して推奨される抗うつ薬はどれか? 高齢者のうつ病に対して、抗うつ薬治療による有効性 (急性期および維持期治療)が示されているが(B)、抗うつ薬のクラス間での有効性の差を示す明確なエビデンスはない。 一方安全性に関して、有害事象は新規抗うつ薬(SSRI、SNRIおよびミルタザピン)やnon-TCAに比べてTCAで多い傾向にある(B)。 以上より、高齢者のうつ病に対しては、新規抗うつ薬ないしnon-TCAが推奨される(1B)。 なお、新規抗うつ薬間での有効性および安全性の比較に関しては、エビデンスが十分とは言えず、現時点で順位付けはできない(D)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 43.

    抗うつ薬は副作用プロフィールで選択する 副作用プロフィール ボルチオキセチン 吐き気 エスシタロプラム QT延長、吐き気 デュロキセチン 排尿障害 ミルタザピン 過鎮静、めまい

  • 44.

    CQ 3. 高齢者のうつ病に対して薬物療法と精神療法の併用は単独治療より有用か? 高齢者のうつ病に対する精神療法は薬物療法と併用することが有効であるという明確なエビデンスはない(D)。 しかし、慢性経過の患者に対しては有効である可能性が示唆されており、精神療法と薬物療法の併用は一定の有用性が期待できる(2D)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 45.

    CQ 4. 高齢者のうつ病に対して低用量の抗うつ薬の投与は有用か? 高齢者のうつ病に対する低用量の抗うつ薬の投与に関するエビデンスは限定的だが、新規抗うつ薬において低用量(適用量の半量)での有効性が示され、また有害事象が少ないことが報告されている(C)。 以上より高齢者うつ病に対して抗うつ薬を使用する際には、まずは低用量(適用量の半量程度)での効果を確認することが推奨される(1D)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 46.

    有効性は低用量で高い一方で、副作用は用量依存性に増加した Furukawa TA, et al. Lancet Psychiatry. 2019;6:601-609.

  • 47.

    抗うつ薬の効果は早いと1週間、遅くとも2週間で 現れることが明らかとなった Papakostas GI, et al. J Clin Psychopharmacol. 2006;26:56-60.

  • 48.

    CQ 5. 高齢者のうつ病に対する維持療法における適切な抗うつ薬の投与期間は? 高齢者のうつ病は再燃・再発リスクが高いことから、 寛解後少なくとも1年は持続療法を行う(1C)。 その後の維持療法の期間は再発リスクや患者家族の希望を考慮して決定する(2D)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 49.

    CQ 5. 高齢者のうつ病に対する維持療法における適切な抗うつ薬の投与期間は? 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 50.

    CQ 6. 第一選択薬による治療に成功しない高齢者のうつ病に対して、抗うつ薬の変更ないし併用を行うことは可能か? 高齢者では、抗うつ薬の変更ならびに併用の有用性を判断するに足るエビデンスはほぼない(D)。 抗うつ薬の変更は、前薬による治療で反応が得られない場合や、前薬の忍容性が不良の場合に試みることを提案できる(2D)が、抗うつ薬の併用は、高齢者では向精神薬の多剤併用療法で有害事象が出現しやすい可能性があり、行わないことが望ましい(2D)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 51.

    CQ 7. 第一選択薬による治療に成功しない高齢者うつ病に対して、抗うつ薬以外の薬剤の追加は有用か? アリピプラゾール(A)ならびに炭酸リチウム(B)による増強療法の抑うつ症状に対する有効性が示されて いる。 アリピプラゾールによる増強療法は、急性期ではアカシジアやパーキンソニズムの発現が多いが、全脱落率はプラセボと差がなく忍容性が高い(A)。しかし、半年を超える長期投与の知見は乏しいので、ジスキネジアなどの遅発性の有害事象に留意しつつ行うことを提案する(2A)。 炭酸リチウムによる増強療法は 重篤な有害事象の発現例があり、脱落率が高い可能性があるので(B)、血中濃度や重篤な有害事象に留意しつつ行うことを提案する(2B)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 52.

    CQ 8. 高齢者のうつ病に対して電気けいれん療法(ECT)は薬物療法と比較して有用か? ECT単独療法は薬物療法と比較して有効である(C)。 また、ECTと薬物療法の併用療法は薬物療法単独と比較して有効である(C)。しかし、高齢者へのECTでは、記憶障害、頭痛、めまい、嘔気・嘔吐などの副作用が出現しやすい(D)。ただし、認知機能への影響が長期にわたって持続する根拠はない(C)。 以上より、高齢者のうつ病に対して、ECTは薬物療法単独と比較して有用である(2C)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 53.

    CQ 9. ECTと薬物療法の併用によって寛解した高齢者のうつ病患者の維持療法にECTは有用か? ECTと薬物療法の併用療法によって寛解した高齢者のうつ病患者の維持療法には、薬物療法と比較し、ECTと薬物療法の併用療法がうつ症状の軽減に有効である (A)。 一方、認知機能への影響に有意な差はない(A)。 以上より、維持療法には、ECTと薬物療法の併用療法が有用である(2A)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 54.

    CQ 10. 高齢者のうつ病に反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法は有用か? 薬物療法の治療効果が得られない高齢者のうつ病(ただし、精神病症状を伴うものは除く)に対して、rTMS療法は偽刺激と比較し、うつ症状の軽減に有効である (B)。一方、刺激部位に痛みが生じることがある(B)。 また、rTMS 療法は認知機能障害を伴わない(B)。 したがって、高齢者のうつ病に対して、rTMS療法は有用である(2B)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 55.

    CQ 11. 高齢者のうつ病に有用なその他の治療はあるのか? 比較的軽症の高齢者のうつ病に対しては、運動療法 (C)の有効性および安全性が示されており、行うことが望ましい(2C)。 また高照度光療法(C)、食事療法(オメガ3不飽和脂肪酸の摂取)も一定の効果が示されており、有用である(2C)。 ただし、それぞれの治療において、種類・強度・量・介入期間について有効性の差を示す明確なエビデンスはない(D)。 高齢者のうつ病治療ガイドラインより

  • 56.

    高齢者のうつ病ガイドライン まとめ まず診断において、双極性障害や認知症との鑑別、身体疾患や脳器質疾患、薬剤の影響を慎重に検討することが重要となる。 具体的な治療については、精神療法、薬物療法、ECTのいずれも有用であることが示されているが、特に薬物療法を行う際には高齢者における薬物動態を理解し、より若い世代の患者以上に有害事象の出現に注意を払う必要がある。 高齢者のうつ病にはより若い世代のうつ病以上に多様性があり、治療に際しては、様々な状態、状況を鑑みて、患者それぞれに応じたきめ細やかな治療が必要となる。

  • 57.

    本日のテーマ 事例 うつ病のスクリーニング ガイドラインの紹介 抗認知症薬の効果と限界 認知症治療について

  • 58.

    抗認知症薬4剤の添付文書より 効能・効果 「アルツハイマー型認知症(及びレビー小体型認知症)の認知症症状の進行抑制」

  • 59.

    抗認知症薬4剤の添付文書より 効能又は効果に関連する使用上の注意 「本剤がアルツハイマー型認知症(及びレビー小体型認知症)の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない」

  • 60.

    抗認知症薬4剤の添付文書 効能・効果 「アルツハイマー型認知症(及びレビー小体型認知症)の認知症症状の進行抑制」 抗認知症薬によって異常タンパクの蓄積や脳萎縮を抑えるというエビデンスはない。

  • 61.

    抗認知症薬の効果 よくある抗認知症薬の効果を示す図 縦軸は70点満点の検査の変化率をみており、2-3点差しかないものをこのように表現している

  • 62.

    ©みんなの認知症情報学会 62 抗認知症薬の効果 つまり、実際の効果はこれくらい

  • 63.

    ©みんなの認知症情報学会 63 抗認知症薬の効果 また、服用群(青)とプラセボ群(オレンジ)を比べてこのように考えがちだが、、、

  • 64.

    ©みんなの認知症情報学会 64 抗認知症薬の効果 実際の効果はアセチルコンを増やすという上向きのもので、効果幅としてもこれくらい

  • 65.

    抗認知症薬4剤の添付文書より 重要な基本的注意 4.「定期的に認知機能検査を行う等患者の状態を確認し、本剤投与で効果が認められない場合、漫然と投与しないこと」 存在しない認知症予防効果に期待して効果があるかどうかわからないまま漫然と投与しないこと!

  • 66.

    抗認知症薬 アルツハイマー型認知症もしくはレビー小体型認知症と診断できる場合に使用を検討 NNTは10、NNHも12 使用する場合はMMSEで認知機能の評価を 効果を感じなければ中止する 前医から処方されていた場合は中止を検討 副作用として嘔吐、めまい、不眠、徐脈、下痢

  • 67.

    抗認知症薬 アルツハイマー型認知症もしくはレビー小体型認知症と診断できる場合に使用を検討 NNTは10、NNHも12 使用する場合はMMSEで認知機能の評価を 効果を感じなければ中止する 前医から処方されていた場合は中止を検討 副作用として嘔吐、めまい、不眠、徐脈、下痢 効果がなければ中止、が基本

  • 68.

    本日のテーマ 事例 うつ病のスクリーニング ガイドラインの紹介 抗認知症薬の効果と限界 認知症治療について

  • 69.

    支援の基本  認知症=認知機能障害+生活障害 医学モデル 認知機能障害の改善     「改善可能な認知症」 社会モデル 周囲の環境を変える   →個別の自立の支援   →社会のあり方を変えること ~改善可能な部分に働きかける~

  • 70.

    小田陽彦.高齢者への精神科の薬の使い方.洋學社;2021.

  • 71.

    まとめ 不眠か食欲低下があれば2質問票法でスクリーニング 診断において、双極性障害や認知症との鑑別、身体疾患や脳器質疾患、薬剤の影響を慎重に検討する 重症うつであれば状態に合わせて抗うつ薬を最低量の半量で開始し、効果を2週間後に判定する 抗認知症薬の効果はごく軽度の認知機能の改善であり、効果を感じなければ中止が基本 認知症の改善可能な部分に注目し続け、依存先を増やし、社会を変えていく必要がある

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