#4.
認知機能障害をきたす疾患の相関 意識障害 (せん妄含) 緊急性が高い! 致死的疾患の早急な鑑別 最初に見分ける必要あり 「意識障害」と「認知症」 相互に影響しあう関係性 原因疾患が異なる場合がある 認知症 意識障害とのover lapがある場合 は緊急性が高い 神経変性疾患はじっくり診断 精神疾患 統合失調症や気分障害 解離性障害など 色々な精神疾患のカテゴリー 眞鍋雄太:月刊レジデント. 2014;7(2) 84-90,
#5.
「精神症状」への介入・治療の原則 • 精神科医以外の医師が、精神疾患を有する患者の身体治療を行うこと や、身体治療中に精神科的な問題に直面することは少なくない。精神疾 患自体が身体疾患発生のリスク因子である一方で、身体疾患の合併が 精神疾患のリスク因子でもある(精神疾患の合併で身体疾患の予後が 悪化する、慢性の健康問題の増加は、うつ病・うつ状態の頻度を増加さ せる)。身体科と精神科が上手く連携して、精神・心理面の問題を安全か つ適切に治療・対応する必要がある。 • 精神症状を診たときは、「外因(身体因・薬剤因など)の有無」と「緊急性」 を評価する。その上で、「治療可能性」や具体的介入策を検討する。 • 不眠を診たら睡眠薬、ではなく、まずは原因検索と睡眠衛生指導を行うこ とや、「せん妄」は多職種で協働し、発症予防・早期の気づき、適切な非 薬物治療や化学的機序を踏まえた適切な薬物治療の選択が重要である • 患者の「不眠」「不安」に対して、安易にベンゾジアゼピン系薬剤を処方し ないことが大切である。
#6.
「精神症状」への介入・治療の原則 ①精神症状への気づき 「眠れない」「元気がない」「訳の分からないことを言う」など、本人や家族の訴え、診 察時の様子などから、精神症状として拾い上げる ②状態評価と原因検索 症状の詳細な経過(発症時期、持続時間、寛解増悪因子など)を把握し、患者背景 (年齢、性別、生育環境など)、現在の身体状況(アクティブな疾患、感染症、脱水、 臓器障害など)、既往歴(身体疾患、精神疾患)、服薬歴、生活歴(飲酒歴、薬剤使用 歴など)を見直す。症状や状況によっては血液検査、尿検査、心電図、脳波、頭部画 像検査(CT/MRI)などのスクリーニングを行う ③外因(身体疾患、薬剤、環境因など)が判明し、介入が可能である場合 自殺企図や暴力などのリスクを勘案しつつ、外因への介入を行いつつ、物理的拘 束、薬物療法(化学的拘束含)を行いつつ、精神科とも連携する ④原因不明、外因の関与が考えられない、あるいは介入が困難な場合 ケースバイケース
#7.
医療における問題解決フレーム わすれがち 気 づ き 情報収集(面接) と診断・分析 治療目標 (主訴) の明確化 治療 計画 立案 思考の歪み・ノイズがでやすい 知識・思考⇒技能 (態度) 治療 実施 評価 省察
#8.
精神科医も精神科医にコンサルトする医師も せん妄に注意すべきこと • • • • せん妄は疾患ではなく、状態像に過ぎない。時に同定不能な単数ないし 複数の要因による複雑な意識障害(症候群・状態像)が本態。 せん妄の症状は、氷山の一角に過ぎず、背景にある身体的要因への治 療が主眼になる。精神科医はあくまでせん妄の診断と、原因の推察と対 症的薬物療法をできるに過ぎない。 せん妄の原因の予測や積極的な究明、治療の責任があり、また、できる のは、主治医である。そのため、「せん妄による精神科転科・転院依頼」 は、精神科側には前向きに検討されないことが多い(余程リエゾン精神 医学や病院・病棟の力動に理解のある医師以外は)。 精神科病棟のせん妄発生時は、精神科医が当然主治医として、せん妄 の全てのマネジメントをする必要がある 8
#9.
#10.
せん妄 ➢ 重篤な疾患や物質への中毒・離脱の過程で起こる何らかの身体的・環境 的負荷による急性の脳機能不全を呈した臨床症状群。 ➢ 急性発症の意識変容で、注意障害、睡眠覚醒リズム障害、認知機能障 害、行動障害(過活動や低活動)など多彩な症状の重症度の変動が特 徴的。 ➢ 精神病状態や躁状態、うつ状態、不安、睡眠障害、認知症など様々な精 神疾患に似た状態になり得る(「偉大なる模倣者」) ➢ 脳器質因子、全身疾患、薬剤因子、環境因子などを複合的な因子を背 景に発症するため、治療介入のための関係因子の同定、因果関係の認 識・証明、除去などは、実臨床的に困難なこともままある ➢ 高齢者、認知症患者、術後患者、重症患者、薬物使用、寝たきり、睡眠 不足、視力・聴力障害、脱水などで発症リスクが高い。
#11.
せん妄の臨床症状 特徴、症状 詳細 発症 数時間~数日の急性発症 経過 24時間以内の経過で増悪、軽快を繰り返す 注意障害 注意の継続ができない、注目することができない 混乱症状 支離滅裂な会話、非論理的な考え方 意識障害 周囲への反応性が低下する 認知障害 全体的、複数の認知機能の低下 知覚障害 幻覚(30%) 精神運動障害 過活動(活発)型(興奮、不眠)、低活動型(無気力、無為)、 混合型 睡眠障害 睡眠サイクルの異常、昼夜逆転 感情障害 恐怖、パラノイア、不安、抑うつ症状、イライラ、怒り、多幸 感 N Engl J Med 2006; 354(11) 1157-65
#12.
せん妄と鑑別すべき疾患 せん妄でみられる症状 間違えやすい疾患 誤った対応例 不眠 不眠症 BZ系薬剤 記憶障害、見当識障害 認知症 対症療法に終始 高齢 経過観察 幻覚・妄想 統合失調症 精神科転院 不安・焦燥 易怒的・興奮 活動性低下 (低活動性せん妄) アカシジア 性格 抗コリン薬 強制退院 うつ病 抗うつ薬 • 入院患者の精神症状の鑑別診断の筆頭にせん妄を置いて おくことが大切! せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎 一部改変
#13.
ハンマーを持つと全てが釘に見える • • 未診断あるいは未治療のせん妄は、褥瘡、誤嚥性肺炎、院内感染、心 血管イベントなどの罹患率上昇の原因となり、入院機関やリハビリ期間 の延長、介護施設への入所、死亡率上昇の原因ともなる。 入院中のせん妄(特に低活動性せん妄)となった患者の多くは、主科の 医師や看護師の双方によって、見過ごしや過小評価、誤診を受けている とされている。「意識変容」や「代謝性脳症」としてプロブレムリストに挙が り、正しく検索開始されることもあるが、主科の医師が自らの専門分野の 臨床的特徴の評価のみ行ったり、患者が「狂っている」様に見えたり、「重 度のうつ」に見えるとき、精神科医がコンサルトされる。患者が華々しい せん妄の症状を呈していても、「うつ(もしくは、不安、躁、精神病)」として 、総合病院において、精神科医が診察依頼されることは稀ではない。「病 院の文化」によって、せん妄の評価は遅れ、患者の苦痛は増し、重大な 健康問題の発見の遅延や過小評価が起こる。一方で、せん妄は外因性 疾患の代表格であり、精神科医の専門性と知的謙虚さが求められる。
#14.
臨床レベルでせん妄を惹起する病態 薬剤 オピオイド 抗コリン薬 糖質コルチコイド 抗パ剤 BZ 化学療法 頭蓋内疾患 原発/転移性脳腫瘍 脳卒中 脳挫傷 脳炎 辺縁系脳炎 プリオン病 癌副産物 サイトカイン 放射線治療 離脱症候群 アルコール 薬物 依存物質 膠原病 SLE 感染症 肺炎 尿路感染 敗血症 神経梅毒 HIV脳症 脱水 電解質異常 臓器不全 肝不全・肝性脳症 腎不全・尿毒症性脳症 せん妄 栄養障害 ウェルニッケ脳症 原因は違っても 病態は同じ 低酸素症 心不全 呼吸不全 貧血 内分泌 低血糖 甲状腺機能亢進・低下 クッシング症候群 八田耕太郎:せん妄ハンドブック 中外医学社 2021
#15.
せん妄の原因となる因子 ●直接因子 中枢神経の脆弱性 を反映した素因 単独で意識障害を 直接きたしうる要因 ・中枢神経系疾患 脳血管障害、脳腫瘍、脳外傷、脳・髄膜炎 etc ・内科的疾患 代謝性疾患(糖尿病、腎疾患、肝疾患) 内分泌疾患(甲状腺疾患、副腎疾患) etc ・依存性薬物からの離脱 アルコール、睡眠薬、抗不安薬 etc ・中枢神経系に作用する薬物の使用 抗コリン薬、抗不安薬、睡眠薬、H2ブロッカー etc ●準備因子 ・高齢 ・脳血管障害・頭部外傷の既往 ・アルコール多飲歷、薬物乱用歴 ・認知症、アルツハイマー病 ・せん妄の既往 etc 環境に関連して、誘発・ 遷延化につながるもの ●誘発(促進)因子 ・入院による環境の変化 ・ICU、CCUなどにおける過剰刺激 ・睡眠妨害要因(騒音、不適切な照明 etc) ・心理社会的ストレス:不安、抑うつ ・身体的ストレス:痛み、かゆみ、頻尿 etc ・感覚遮断(眼科手術後 etc) ・拘禁状況
#16.
せん妄の三因子(焚き火モデル) ●直接因子 ライター ●準備因子 医師が医学的に 介入しやすい ●誘発(促進)因子 悪化・遷延化につながる 身体的・精神的苦痛、環 境要因、環境変化など 中枢神経の脆弱性 を反映した素因 高齢、認知症など 薪 単独で直接起こすもの (引き金になる) 身体疾患、薬剤、手術 介入は 難しい せん妄=火 主に看護師 が介入 油
#17.
せん妄の三因子(焚き火モデル) 薬物治療=消火活動 はあくまで対処療法 単独で直接起こすもの (引き金になる) 身体疾患、薬剤、手術 ●直接因子 医師が医学的に 介入しやすい ライター ●準備因子 中枢神経の脆弱性 を反映した素因 高齢、認知症など 個体要因で 直接介入困難 薪 介入は 難しい ●誘発(促進)因子 取り除く! 原因療法 悪化・遷延化につながる 身体的・精神的苦痛、環 境要因、環境変化など 取り除く! 看護ケア 家族介入など せん妄=火 主に看護師 が介入 油
#18.
せん妄の原因:準備因子、促進因子、直接因子 準備因子 促進因子 直接因子 定義 せん妄をきたし やすい素因 せん妄を促進・重篤化・遷 延化する要因 せん妄の原因 意義 せん妄のハイリ スクグループ 非薬物療法を検討する際 に有用 その除去がせん妄治療の 第一歩 具体例 高齢 認知症 せん妄既往 過度の飲酒歴 環境変化 感覚遮断 睡眠リズム障害 身体拘束 不快な身体症状 臓器不全 電解質異常(低ナトリウム、 高カルシウム) 感染症 脱水 薬剤(オピオイド、ベンゾジ アゼピン、ステロイド) 介入 主に医師以外のスタッフが 介入・改善を企図 時に認識も介入も困難。 主に医師が介入・改善を 企図。 時に認識も介入も困難。 介入・改善が困 難 がん診療における精神症状心理状態発達障害ハンドブック 小山敦子・吉田健史 一部修正 18
#19.
せん妄患者の評価と診断 • 急性発症、意識変容、睡眠覚醒リズムの障害などの病歴・ 現症の介護者・看護者からの問診や診療録・看護記録の読 解と、本人の精神現症の診察(明確な錯乱、注意障害、まと まりない思考など)で多層的・多角的に情報収集を行う。 • 介護者や家族からの情報がない場合などは、認知症など他 の病態と正しく鑑別するためには、時間経過の中、情報収集 と情報に基づく再評価を繰り返し行い続けるしかない。 • 診断基準はは国際標準のDSM・ICDが推奨も、精神症状の 見立てやせん妄の診断に慣れていない場合、標準化された 評価尺度(スクリーニングツール)が用いられる。評価の結果 の診療録への記録などせん妄(もしくは疑われる病態)の進 行・経過の正確なモニタリングと記録・共有が重要になる。
#20.
せん妄の準備因子・誘発(直接)因子 準備因子 誘発(直接)因子 薬剤 身体因子 高齢 認知症 うつ病 アルコール濫用 脳血管障害 低栄養 オピオイド ベンゾジアゼピン 副腎皮質ステロイド 抗コリン・ヒスタミン薬 抗うつ薬 細胞毒性のある化学療法 キノロン系抗菌薬 電解質(Na, Ca, Mg)・酸塩 基異常 脱水 感染 低酸素血症・貧血 腎・肝・心不全 脳転移など 低血糖・甲状腺・副腎機能 不全症 持続的に所持 (初回評価で認識 可能) 持続的に所持+新規に出現 (初回評価後の新規出現の可能性あり。継続的情報収 集と再評価が必要) 20
#21.
せん妄の認識のためのシングルクエッション Single Question in Delirium (SQID) “Do you feel that(patient‘s) has been more confused lately?” 家族や友人に「○○さんは最近おかしいと感じますか ?」と尋ねる。 感度 80% 特異度71% Sands et al. 2010
#22.
CAM(Confusion Assesment Method)での早期診断 ①精神症状の急性発症、動揺性の変化 自己申告での混乱、見当識障害、幻覚、意識、注意力、発語の変動 あり ②注意力の欠如 記銘テスト(3・4桁の逆唱)、週・月の逆唱、意識、注意力、発語の変動 あり ③無秩序な思考 年、曜日、場所の見当識障害 思路が不明瞭か非論理的 会話が散漫、的外れ 極端に少ない ④意識レベルの変動 嗜眠性、昏迷、昏睡、過度の警戒 あり あり せん妄と診断 ①が不明瞭で、②と③もしくは④が認められる場合は、患者のことをよく知る家族、知人、施設 スタッフに患者の通常の状態に比べて、精神症状(記憶、思考)の急性変化を示す根拠がある かどうか質問する Ann Intern Med. 2014; 161(8) 554-61
#23.
CAM(Confusion Assesment Method)での早期診断 臨床所見 評価方法 ①精神症状の急性発 普段の患者の精神状態との変化や日内変動につい 症かつ動揺性変化 て一緒に過ごしている人物に確認。 ②注意力欠如 些細なことで注意がそれたり、自身の行動に集中を 維持できないかを評価する ③無秩序な思考 支離滅裂な思考、ちぐはぐな会話、話が予期せぬ方 向へころころ変わることがないか評価する ④意識レベルの変動 鮮明以外の意識レベル、昏睡、昏迷、傾眠、過覚醒 の有無を評価する。 ①②を満たし、かつ③もしくは④を満たすとせん妄と診断される Positive test using CAM:感度46-94%、特異度83-98%、LR+10.3、LR-0.2
#24.
CAMでの鑑別診断の臨床比較 せん妄 CAM うつ 認知症 発 急激(数時間~数 症 分) 夜間発症が多い 少なくとも数週間 以上前 慢性経過(数ヶ月以 上かけて徐々に発 症) 注 低下 意 低下していないが 時に非協力的 進行すると低下 (後期まで保持) 思 支離滅裂 考 悲観的、絶望的 忘れがち、無頓着 意 変動(過覚醒~昏 識 睡) 鮮明(重症で時に 傾眠・昏迷) 進行すると意識障害 (後期まで鮮明) ※DLBは変動 経過 1日の中でも変動 朝に増悪 (多くは夜間に増悪) 日内パターンあり 慢性進行性 睡眠 障害もパターンなし 夜ごとに違う 障害を来すこともあ る(個人差あり) 障害 早期覚醒、過眠
#25.
各心理機能と関連脳部位 各心理機能 主な関連脳部位 主な臨床症候(名) 主な検査 見当識・知能 大脳皮質全般 失見当識:自分の名前や年齢、立場、日時、曜日、自分と周 囲との関係などを把握する能力が障害された状態 知能低下 WAIS-Ⅳ WISC-Ⅴ 言語 上側頭回、下側頭 回など言語領域 失語症:「聴く」「話す」「読む」「書く」といった言語のはたらきす べてに何らかの困難さが生じる症状 失読症:書かれた文字列を正しく読むことができない症状 SLTA、WAB失語症検 査、SALA 記憶 海馬を含む側頭葉 内側面 健忘症(エピソード記憶障害):「昨日どこに行って何を食べた か」など、個人が経験した出来事に関する記憶が障害された 状態 意味記憶障害:言葉や物の意味など、いわゆる知識が失わ れる障害 WMS-R、RBMT 注意 前頭葉、頭頂葉、 右半球頭頂葉 注意障害:注意散漫でほかの刺激に気が移りやすく、一つの ことに集中できなくなる障害 TMT-J、CAT・CAS 実行機能 (遂行機能) 前頭葉 実行(遂行)機能障害:目標を設定し、そのプロセスを計画、 効果的に行動していくことができなくなる障害など BADS、KWCST(慶應 版ウィスコンシンカー ドソーティングテスト) 視覚性認知 後頭葉、下側頭回 失認症:感覚障害がないにもかかわらず物体や人の顔などが 認知できない症状 VPTA、DTVP 行為 下頭頂小葉、 前頭葉内側面 失行症:単純な運動を誤って行ったり、手渡された物品(道具 など)を誤って扱ったりする動作や行為がみられる症状 着衣障害:動作麻痺などがないにもかかわらず衣服を正しく キル動作ができなくなる症状 SPTA(標準高次動作 性検査) 認知症 タイプによって異な る 認知症(アルツハイマー型、血管性、レビー小体型、前頭側頭 型など) MMSE、HDS-R 図解でわかる臨床心理学 井上嘉孝
#26.
高次脳機能障害のスクリーニング例 診察項目 診察法 異常が見られる障害 ベットサイドでの診察 自発話 「具合はいかがですか」などと聞く(自由な会話の中話 し方を観察) 意識障害、注意障害、失 語 構音 「パパパ、タタタ、カカカ」(単音節の繰り返し)を言わせ る 「パタカパタカパタカ」(三音節の繰り返し)を言わせる 「アー」(発声持続)を言わせる 麻痺性構音障害、運動失 調性発語、発語失行(失 構音)、失語(非流暢性失 語) 聴理解 開閉眼や離握手などの口答命令、Yes-No問題、物品 指示を行なう 失語(特に感覚性失語) 呼称 高頻度物品、低頻度物品の呼称を問う 失語(特に失名辞失語)、 視覚性失認、視覚性失語、 意味記憶障害 復唱 単音節~短文(音→語→文)を復唱させる 失語(特に伝導性失語) 聴覚指示 「さよなら」「おいでおいで」、敬礼 歯ブラシで歯を磨く、髪を櫛でとく 失語(特に感覚性失語)、 観念運動性失行 読字 音読、読解 失語(特に失読) 書字 自由書字、書き取り、 失語(特に失書)、失行 包括的なベットサイドのテスト(意識や注意、失語、拒否、易怒性などの影響に注意) MMSE、HDS-R、FAB、MOCA-Jなど
#27.
せん妄の診断基準(DSM-5) ✓ A)注意障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)と 意識障害(環境に対する見当識の低下) ✓ B)短期間(通常数時間〜数日)のうちに出現し、もととなる注意および意識水準 からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度が変動する傾向がある。 ✓ C)認識の障害(記憶欠損、失見当識、言語、視空間認知、知覚など)を伴う ✓ D)基準AおよびCに示す障害は、他の既存の確定した、または進行中の神経認 知障害(認知症、外傷後脳損傷など)では説明できず、昏睡のような覚醒水準の 著しい低下という状況下で起こるものではない。 ✓ E)病歴、身体診察、臨床検査所見から、他の医学的疾患、物質中毒または離脱 (乱用薬物や医薬品など)、毒物への暴露、複数の病因による直接的な生理学 的結果により引き起こされたという証拠がある。 DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
#28.
せん妄の診断基準(DSM-5) ✓ A)注意障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)と 意識障害(環境に対する見当識の低下) ✓ B)短期間(通常数時間〜数日)のうちに出現し、もととなる注意および意識水準 からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度が変動する傾向がある。 ✓ C)認識の障害(記憶欠損、失見当識、言語、視空間認知、知覚など)を伴う ✓ D)基準AおよびCに示す障害は、他の既存の確定した、または進行中の神経認 知障害(認知症、外傷後脳損傷など)では説明できず、昏睡のような覚醒水準の 著しい低下という状況下で起こるものではない。 ✓ E)病歴、身体診察、臨床検査所見から、他の医学的疾患、物質中毒または離脱 (乱用薬物や医薬品など)、毒物への暴露、複数の病因による直接的な生理学 的結果により引き起こされたという証拠がある。 DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
#29.
せん妄の診断基準(DSM-5)と構造 ✓ A)注意障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)と意識障害(環境に対する 見当識の低下) ✓ B)短期間(通常数時間〜数日)のうちに出現し、もととなる注意および意識水準からの変化を示し、さら に1日の経過中で重症度が変動する傾向がある。 ✓ C)認識の障害(記憶欠損、失見当識、言語、視空間認知、知覚など)を伴う ✓ D)基準AおよびCに示す障害は、他の既存の確定した、または進行中の神経認知障害(認知症、外傷後 脳損傷など)では説明できず、昏睡のような覚醒水準の著しい低下という状況下で起こるものではない。 ✓ E)病歴、身体診察、臨床検査所見から、他の医学的疾患、物質中毒または離脱(乱用薬物や医薬品な ど)、毒物への暴露、複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある。 • • • • • 症状・徴候の質(疾病性) A) B) C) 症状・徴候の程度(事例性) B)の一部 症状・徴候の原因(病因) E) 症状・徴候の原因の除外 D)の一部 症状・徴候の除外診断 D)の一部 DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
#30.
せん妄の原因論(氷山モデル) A・B・C項目(海の上の氷山):精神症状 注意障害と意識障害+認識の障害(記憶欠 損、失見当識、言語、視空間認知、知覚など) 短期間(通常数時間〜数日)のうちに出現 もととなる注意および意識水準からの変化 B項目の一部(波による海の上の氷山の変化): 1日の経過中で重症度が変動 E項目(海の下の氷山):精神症状の原因 医学的疾患、物質中毒または離脱(乱用薬物 や医薬品など)、毒物への暴露など複数の病因 D項目(海の下の氷山の除外診断): 進行中の神経認知障害(認知症、外傷後脳損傷 など)、昏睡のような覚醒水準の著しい低下など 30
#31.
せん妄のサブタイプ分類 (DSM-5で追加) • すべての診断基準がせん妄に合致するのであれば、その現 在の臨床的な状態または症状を特定せよ 過活動型、低活動型 または、混合型 • 過活動型せん妄の症状 不眠、落ち着きがない、早口で大声、易怒性・興奮、暴言・暴 力、徘徊 • 低活動型せん妄の症状 傾眠、無関心、不活発・臥床、注意減退、発語が少なく緩徐 ⇒うつ病や身体症状でのしんどさと誤解され、見逃されやすい
#32.
医学的意識障害の3次元 ~意識は心の舞台~ 意識野の広がり 舞台照明の広がり 意識狭窄 • 単純な意識障害 鮮明度の量的な障害=意識混濁 • 複雑な意識障害 意識狭窄=意識混濁+意識野の狭まり Ex)もうろう状態 意識変容=意識混濁+意識内容の質的変化+α Ex)せん妄、アメンチア(せん妄の一種) 意識内容の質的変化 舞台照明の当て方 舞台での劇の内容 意識変容 鮮明度(明るさ) 舞台照明の明るさ 鮮明 明識困難 昏蒙 傾眠 嗜眠・昏眠 昏睡 意識混濁 32
#33.
意識障害の分類 • 意識を、「舞台」に例えると、舞台の上で個々の精神現象(意識内容)が 俳優のように現れて去ることになる。意識には、①鮮明度(明るさ)、②広 がり、③質の3つの標識がある。舞台が明るいときは意識鮮明。 意識混濁 意識狭窄(狭縮) 意識変容 ライト全体の明るさ が弱まった状態 舞台の一部だけにライトが当てられてい る状態 一部のライトの色が異なり舞 台の色が変容している状態 鮮明度が障害され たもの 意識は鮮明だが、意識野(広がり・範囲) が狭まっているもの 意識に質的な変化が加わっ たもの 意識混濁+α 明識困難、昏蒙、 ヒステリーや強い不安、精神的に強く集 傾眠、昏迷、昏睡に 中した状態(ゾーン、フロー状態)、催眠 分類 のトランス状態、解離(ヒステリー)など てんかん性もうろう状態など脳器質性疾 患 せん妄、アメンチア、など てんかん性もうろう状態など 脳器質性疾患 不安、不穏、緊張などを呈す ることもある 33
#34.
せん妄における意識障害の評価 • • • • • 診察時、まず開眼しているか,開眼していれば言語機能(見当識),運動 反応を確認. 感覚自体の障害(難聴)、ごまかし(難聴者や認知症者の 取り繕い≓分かっていなくても頷くなど)に注意する。 閉眼していれば呼びかけ,それで開眼したら言語機能(見当識),運動反 応を確認. 呼びかけても開眼しなければ,強く呼びかける.それでもダメなら,痛み 刺激 (爪床圧迫)を 加える. せん妄の意識障害(特に日中)は、いわゆるJCSだと0~1位で、上手く評 価できないことが多い 日中の診察時、夜間の特徴的な自身の行動(興奮や自殺企図など)の 全部ないし一部の健忘がある場合、認知症ないし認知機能低下、解離 や虚偽などがない前提で、行動中の意識障害の存在を推定できる 34
#35.
無意識の三局面 深睡眠 睡眠の各段階 覚醒レベルの低下 無意識 覚醒 警戒 意識鮮明 前意識 容易には意識されない 前意識 容易には意識されない 正常な意識状態 正常な睡眠 意識混濁 注意と認識 眠気 器質性障害 啓蒙 脳疾患 昏睡(各段階) 死 シムズ記述精神病理学 アンドリュー・シムズ
#36.
精神科的無意識の三局面 • 昏睡(各段階) 深刻な脳疾患の患者は無意識となることがある。この場合の意識とは、正 常な意識状態と死に至るまでの両極端の間の連続的段階の中で捉えられ ている • 深睡眠 寝ている人は無意識である。この場合も、覚醒時から熟睡時の両極端の 間の連続的段階が存在している • 無意識 注意深く健康な人でも、内的および外的環境のある部分しか認識していな い。他の部分については無意識である。この場合も、充分に注意喚起された 状態から無意識までの連続的段階が存在している ※認知機能低下を生じた人が自身の行動や周囲の状況に無自覚や記憶困 難な場合を、「無意識」と表現される場合がある。 シムズ記述精神病理学 アンドリュー・シムズ
#37.
注意の種類 持続 切り替え 複 数 複数のことに同時に気を配る 目的により注意の重みを変える 注1 意つ をの 事 集( 中あ さる せ物 る事 こ) とに 集中性 持続性 選択性 転換性 転導性 切必 り要 替に え応 るじ 別 の こ と に 単 一 感受性 リハビリスタッフ・支援者のためのやさしくわかる高次脳機能障害 和田義明 (改変・追加) 37
#38.
注意の種類 機能 全般性注意 持続性注意 選択性注意 分配性注意 方向性注意 障害による症状 意識を支える 見当識障害 特定の領域に注意を向 遂行機能障害 ける 注意を配分する 特定の空間に注意を向 半側空間無視 ける 同時失認 ※注意の障害は、意識障害、遂行機能障害や視空間認知障害 でもあることがある 15章で学ぶビジュアル臨床神経学 永井知代子 38
#39.
病棟で分かる注意障害のサイン • 行動から分かること 視線を合わせずきょろきょろ TVの音や看護師の動きに気を取られる ルートをもぞもぞと触ったり、体を起こしたり、横になったり同 じ行動を繰り返す • 会話から分かること 話が回りくどくなる 何度も同じことを聞いてくる 質問と違うことを答える 自信が持てる!せん妄診療はじめの一歩 小川朝生
#40.
せん妄における精神症状の観察のポイント 症状 観察のポイント 意識レベル の変容 ボーッとしている 前日の診察のことを覚えてない 注意の障害 何度も同じ事を聞く 周囲の音や医療者の動きに気を取られてしまい、話に集中できない 質問と違う答えが返ってくる ルートを触ったり、体を起こしたり、横鳴ったり、同じ動作を繰り返す 認知の障害 朝と夕方を間違える 病院と家を間違える 直前のことを思い出せない ひとがいないのに「人がいる」と言ったり、話しかけるような素振りををする 症状の 日内変動 午前中はしっかりと会話もできていたのに、夕方あたりからそわそわと落ち着 きなくなる 面会者が帰ると、落ち着かずに自室の中をうろうろする 夜になると「家に帰る」と繰り返す、トイレに頻回に行く 実際は、夜間に多いせん妄時を医師が直接観察することはほぼなく、症状は日 内変動するため、日中の診察時だけでなく、夜間の看護記録なども参考し、推定 を含めて、レチスペクティブに精神症状評価する必要がある。 自信が持てる!せん妄診療はじめの一歩 小川朝生
#41.
せん妄で見られる変化とその特徴 • 意識が曇ってぼんやりしている • もうろうとして話のつじつまが合わない • 朝と夜を間違える、病院と家を間違える、家族のことが分か らない • 治療をしていることを忘れて、点滴などチューブ類を抜いてし まう • 怒りっぽくなり興奮する • 見えない物を見えると言ったり(幻視)、あり得ないことを言う (妄想) • 夜眠らない • 症状は急に起こることが多く、夜になると激しくなる 国立がん研究センター東病院ホームページより 41
#42.
せん妄を疑うポイント • 急激に起こってきた抑うつ、物忘れ、妄想、幻覚 • ちぐはぐなやり取りや興奮に出現パターン有り(夜間に多い) • 特徴的な出来事を、後で意識鮮明時に尋ねても覚えてない ことが多い • 最近、薬剤変更や手術をしたり、全身状態が悪い。 • 高齢者に多い • 患者の言動が、不利益になるような内容が多い (「帰る」「治療はしなくていい」「殺してくれ」など) ⇒問題解決には、まずは、「気づき」「疑問」が必要。
#43.
せん妄と間違えやすい疾患とその対応 せん妄で 見られる症状 間違えやすい 疾患 誤った対応 ⇒全てせん妄の悪化につながる 不眠 不眠症 睡眠薬(BZ受容体作動薬)の投与 記憶障害・ 見当識障害 認知症/(加齢に よるもの) 経過観察 徘徊 認知症 身体拘束 幻覚・妄想 統合失調症 精神科への転棟・転院 不安・焦燥 不安障害 抗不安薬(BZ系)の投与 アカシジア 抗コリン薬の投与 興奮・易怒性 (性格によるもの) 強制退院 活動性低下 うつ病 (低活動型せん妄) 抗うつ薬(抗コリン作用)や抗不安 薬(BZ受容体作動薬)の投与 せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎
#44.
認知機能障害をきたす疾患の相関 意識障害 緊急性が高い! 致死的疾患の早急な鑑別 最初に見分ける必要あり 「意識障害」と「認知症」 相互に影響しあう関係性 原因疾患が異なる場合がある 認知症 意識障害とのover lapがある場合 は緊急性が高い 神経変性疾患はじっくり診断 精神疾患 統合失調症や気分障害 解離性障害など 色々な精神疾患のカテゴリー 眞鍋雄太:月刊レジデント. 2014;7(2) 84-90,
#45.
せん妄と認知症の鑑別 特徴 せん妄 認知症 発症 急性(時々夜に発症) 潜行性・進行性 経過と持続 日内変動・動揺性(夜に悪化) 一日を通して一定・慢性進行性 期間 数時間から数日 数ヶ月から数年 意識 障害される 鮮明 注意 注意の方向づけや選択性、転導性 が損なわれ、一日を通して変動 重篤な認知症でなければ正常 見当識 通常は時間の見当識障害があり、 知らない場所・人物を見知ったもの と間違う 損なわれることが多い 思考 錯乱・豊富・無秩序(まとまりがない) 貧困化・不毛化 睡眠・覚醒 リズム 損なわれる・動揺する 正常か断続的な睡眠(リズム障 害でない) 身体疾患や 薬剤性の要 因 少なくともどちらか一方は存在する 存在しないことが多い(特にアル ツハイマー型認知症) Lipowski ZJ: JAMA, 258: 1789-1792, 1987
#46.
せん妄と認知症の鑑別困難点 意識の障害で記憶は障害され、意識の 評価(の一部)には記憶を用いる。 せん妄 急性の発症 意識を障害 症状・重症度は変動性 可逆的 せん妄から認知症への移行は 考えられていた以上に頻繁 いわゆるPICSとか プリオン病、血管性認知症、レビ ー小体型認知症は急性 認知症 緩徐な発症 記憶を障害 緩徐に進行性 非可逆的 アルツハイマー型認知症の夕暮れ 現象、レビー小体型認知症は変動性
#47.
せん妄とうつ病の鑑別 せん妄により 特異的な特徴 経過の動揺性 急性発症 意識変容 身体的要因の存在 失見当識 思考のまとまりのなさ 理解力低下 せん妄とうつ病 両方にみられる特徴 感情の変化 睡眠障害 活動性低下 無感情 焦燥 情報処理速度の低下 記憶障害 Roisin Q’Sullivan, et al.:Lancet psychiatry. 2014 September:Vol.1(4) 303-311
#48.
低活動型せん妄とうつ病 低活動型せん妄 うつ病 発症・経過 急性 亜急性 日内変動 一日中傾眠か夜間に悪化 午前中に不調 意識障害 混濁 鮮明 見当識障害 あり なし 注意障害 あり なし 幻視 あり なし 脳波 徐波が見られることがある 正常 薬物治療 ? 抗うつ薬 ケア内容 動くように促す 安静指示 • 低活動型せん妄の治療目標: 睡眠や覚醒リズムの確立=「夜は深く寝て、日中はしっかり起こす」
#49.
三つのDの鑑別点 意識障害 認知機能 症状変動 治療可能性 Dementia (認知症) なし あり なし 困難 Delirium (せん妄) あり あり あり 可能 Depression (うつ病) なし なし(基本は) なし 可能 ※現実的には合併している場合も多く、鑑別はそう簡単ではない ようこそ 精神医学へ 基礎と精神疾患13の物語 忠井俊明
#50.
せん妄、うつ病、アルツハイマー型認知症の鑑別 せん妄 うつ病 アルツハイマー型認知症 発症様式 急性、亜急性(日~週 単位) 亜急性(週~月単位) 慢性(数ヶ月~年単位) 経過 一過性(日~週単位、 治療によって改善) 持続性、反復性(週~月単位、 治療によって改善) 進行性 意識 混濁 正常 正常 症状日内変動 あり(典型的には夜に 増悪) ないことも多いが、古典的には 朝に増悪 目立たない 認知機能障害 注意集中力低下、失見 当識、記銘力障害 正常~軽度(主観的な障害で あることが多い) 経過の初期には近似記 憶の障害が目立つ 感情 動揺・不安定 抑うつ的、悲観的 多様 幻覚・妄想の頻度 45%前後(幻視が多 い) 10%前後(典型的には貧困妄 想、罪業妄想など) 初期には稀。信仰記に は30%程度(物盗られ妄 想などが多い) 身体的原因 直接因子としての身体 的原因がある 身体疾患罹患に伴う精神心理 的負担の結果、生じることがあ る なし がん診療における精神症状心理状態発達障害ハンドブック 小山敦子・吉田健史
#51.
入院患者に活気のなさなどが見られた際の 鑑別フローチャート 活気なし、表情乏しい 1つでもあり 急性発症 見当識障害 注意障害 幻視 2週間 以上続く 全くなし 「好きなことが 楽しめない」 ないか、 2週間未満 診断 低活動型せん妄 うつ病 適応障害 or 通常反応 治療 原因となる身体的治療 抗うつ薬 (-) リハ導入/採光/音楽 安静指示/支持的傾聴 支持的傾聴 ケア せん妄診療実践マニュアル 改定新版 井上真一郎
#52.
認知症の患者の入院中の 見られる「徘徊」の原因として考えられる病態 検査による 予定入院 肺炎による緊急入院 ①BPSD ①せん妄 ②BPSD ③BPSD+せん妄 せん妄の直接因子は普 通はなく、環境への不適 応によるBPSDと考えら れる 肺炎によ るせん妄 環境変化へ の不適応に よるBPSD 肺炎によるせん妄 と環境変化への不 適応によるBPSD が併存
#53.
高齢者にみられるせん妄の鑑別診断 臨床像 せん妄 診断にかかわる臨床検査所見など ⚫ 覚醒度の障害が本質でその変動が顕著である ⚫ 認知(記憶、見当識、言語、視空間の弁別能力、知覚)の 障害を伴う ⚫ ⚫ ⚫ 脳波上基礎律動の徐波化・反応性低下・後頭部優位 性の欠如が上げられるが特異性はない 直接惹起因子となる身体疾患に対応した検査所見あ るいは摂取物質・薬剤の存在 各種評価尺度のカットオフ値を越える評点 うつ病 ⚫ 抑うつ気分、関心・喜びの喪失が中核症状 ⚫ 特異的マーカーはないため、意識水準の変動がない ことを確認し、潜在しうる低活動型せん妄を見逃さな いようにする BPSD ⚫ 急性エピソードとしての発症ではない ⚫ 意識の曇りとその変動が主病像ではない ⚫ 入院理由や入院環境を理解できず、それらへの不安が本 質的に影響している ⚫ 特異的マーカーはないため、認知症に伴う言動異常 のうち、せん妄など他の疾患を除外したものと捉える レム睡 眠行動 障害 ⚫ 睡眠後半のエピソードが多い ⚫ 悪夢と一致する寝言や叩いたり蹴ったりする異常行動 ⚫ 呼びかけや体を揺さぶることで容易に抑制できる ⚫ ポリソムノグラフィによる筋緊張消失を伴わないレム 睡眠 シヌクレイノパチー(パーキンソン病、レビー小体型認 知症、多系統萎縮症)の存在 側頭葉 てんか ん ⚫ ⚫ ⚫ ⚫ 先行する上腹部不快感、幻嗅、既視感・未視感 言動異常、動作停止、無反応、意識減損 顔面・手足の不随意運動 睡眠中の行動異常とその際の刺激への反応不良・想起 不能 ⚫ 想起できない転倒 ⚫ ⚫ けいれんを伴わない持続性発作の状態 ⚫ 側頭葉内側面焦点では精神症状・自律神経症状・感覚症 状といった持続性前兆が目立つ ⚫ 従命可能な軽度もうろうから無反応まで ⚫ ⚫ NCSE ⚫ ⚫ ⚫ 繰り返しの脳波検査および睡眠時脳波によるてんか ん性放電の捕捉 家族による発作時の動画記録を通した左記症状の 確認 原因疾患があれば画像・血液・髄液検査における相 応の所見 脳波検査による持続性発作波 原因疾患があれば画像・血液・髄液検査における相 応の所見 高齢者にみられるせん妄の鑑別診断 八田耕太郎 精神医学 65巻6号
#54.
マルチタスクとしてのせん妄の医学的マネジメント 内容 原因の同定と 治療 (直接因子の 改善・排除) 支持的介入 (促進因子の 改善・排除) 薬物療法 例 身体的原因の治療(感染症、電解質異常、脱水 など) 原因薬物の中止・減薬・変薬(オピオイドの減 量・変更、ベンゾジアゼピン系薬の中止など) 積極的な身体症状緩和(疼痛・便秘などの改善) カテーテル類などの整理 拘束を控える 抗精神病薬など(内服、静注・筋注など)
#55.
せん妄の「治療」 ・せん妄は正しい診断と適切な対応によりある程度に改善する 状態像 ・早期発見と早期介入・治療が重要。 ・原疾患がはっきりしている場合は原疾患の治療が第一。 ・併せて誘発因子を改善することも大切(睡眠の改善、見当識 を助ける環境整備、一定の看護スタッフの関与など)。 ・しかし、現実的には原疾患治療の都合上、環境の向上は困 難(ex.集中治療室の環境) →多くの場合、薬物治療が試みられる。(だいたい抗精神病薬) 「せん妄の診断・予防・治療」 監修:産業医科大学 精神医学教室 教授 中村 純
#56.
56
#57.
せん妄への標準的対応(予防・治療) ①せん妄リスク因子の評価・予測 ②多因子・多職種介入によるせん妄予防 ③せん妄の早期発見(観察・CAM) ④せん妄の早期診断 ⑤早期治療(非薬物療法+薬物療法)
#58.
せん妄治療・ケアの困難点 ✓ せん妄診断の確信の持てなさ・コンサルト困難(自助・共助) ✓ 初期対応の困難と不安 目的に対して適切とは言えない不眠時、不穏時指示の使用 ✓ せん妄の情報共有(診断、対応など)の困難 看護師ー医師、身体科医ー精神科医(院内) 医療スタッフー患者・家族(院外) → つまり、身体疾患に対する精神科医(近代化前)の悩みと ほぼ共通。医師・スタッフが連動した対応システム要
#59.
カプランの考えに基づく精神障害の予防 一次予防 せん妄早期治療 精神障害をもつ人の地 域生活の支援、再発防 止支援が中心。 二次予防 せん妄早期発見 問題の早期解決や深刻化を防ぐた めの支援をおこなう 三次予防 精神的健康の維持、レジリエンスの向上を図り、精神障 害の発生を防ぐ せん妄発症予防
#60.
「せん妄ハイリスク加算患者ケア加算」の流れの沿ったフローチャート STEP1 リスク因子の確認(準備因子の特定) 一 次 予 防 二 次 予 防 □70才以上 □脳器質的障害 □認知症 □アルコール多飲 □せん妄の既往 □リスクとなる薬剤(特にベンゾジアゼピン受容体作動薬)の使用 □全身麻酔を要する手術後またはその予定があること 1つでも当てはまる場合 STEP2 せん妄の予防対策(直接因子や促進因子の除去) ・患者および家族への説明(パンフレットや動画) ・不穏時・不眠時指示 ・せん妄ハイリスク薬(BZ受容体作動薬)の減量・中止・変更/使用回避 ・せん妄予防ケアの立案・実施(環境調整やコミュニケーションの工夫など) 入 院 前 ま た は 入 院 3 日 以 内 STEP3 せん妄の早期発見 ・ツールを用いた評価(病棟とICUで別ツールを使用) ・臨床的評価(見当識障害/注意障害) ・他疾患との鑑別(認知症/うつ病/アカシジア/レストレスレッグス症候群) ●評価のタイミング ・術後3日以内は集中的に ・急性疾患では入院時から定期的に ・「何かおかしい「いつもと違う」と感じたときに ・状態変化時や薬剤変更時 せん妄あり STEP4 せん妄の治療(直接因子や促進因子の除去、薬物療法) ・原因療法(原疾患の精査・治療、原因薬剤の中止) ・薬物療法(主に抗精神病薬) ・非薬物療法(環境調整やコミュニケーションの工夫など) せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎 入 院 中
#61.
せん妄フローチャート(一次予防) STEP1 リスク因子の確認(準備因子の特定) 一 次 予 防 □70才以上 ・診療録などで確認 □脳器質的障害 ・脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、頭部外傷などの既往 を確認 □認知症 ・認知症診断名や抗認知症薬内服の有無を確認 ・ツールを用いた評価 Ex)OLDなど □アルコール多飲 ・ツールを用いた評価 Ex)AUDIT-C(≧5)など □せん妄の既往 ・過去に入院歴・手術歴がある場合は家族に確 認 □リスクとなる薬剤(特にベンゾジア ゼピン受容体作動薬)の使用 ・持参薬、お薬手帳、紹介状などで確認 □全身麻酔を要する手術後または その予定があること ・診療録などで確認 1つでも当てはまる場合 STEP2 せん妄の予防対策(直接因子や促進因子の除去) ・患者および家族への説明(パンフレットや動画) ・不穏時・不眠時指示 ・せん妄ハイリスク薬(BZ受容体作動薬)の減量・中止・変更/使用回避 ・せん妄予防ケアの立案・実施(環境調整やコミュニケーションの工夫など) せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎
#62.
フローチャートと加算算定チェックリストとの対応 STEP2 せん妄の予防対策 ハイリスク患者に対するせん妄対策 ・患者および家族への説明 (パンフレットや動画) □認知機能低下に対する介入(見当識 の維持など) ・不穏時・不眠時指示 □脱水の治療・予防(適切な輸液と水 分摂取) ・せん妄ハイリスク薬(BZ受 容体作動薬)の減量・中止・ 変更/使用回避 ・せん妄予防ケアの立案・実 施(環境調整やコミュニケー ションの工夫など) □リスクとなる薬剤(特にBZ系薬剤)の 漸減・中止 □早期離床の取組 □疼痛管理の強化(痛みの客観的評価 の使用) □適切な睡眠管理(非薬物的な入眠の 促進など) □本人および家族へのせん妄に関する 情報提供 せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎
#63.
せん妄因子の積極的排除 対策 直接因子 原疾患 ハイリスク薬 促進因子 身体的苦痛 不十分な 療養環境 発熱、脱水などの積極的同定と治療 薬剤の減量・中止・回避 オピオイドスイッチング 低リスクのステロイドに変更 BZ系多剤多量⇒離脱・依存性が低いBZに弛 緩&漸減 抗ヒスタミン薬(胃薬)⇒PPI 抗コリン⇒ChE阻害薬 排泄/睡眠/疼痛などの積極的コントロール 下剤、睡眠薬、ルート・バルーン管理、除痛 環境整備・調整 日中の離床、見当識維持、ストレス緩和
#64.
せん妄対策の基本・理想は引き算 身体疾患、薬剤、手術 、アルコール(離脱) 直接因子 促進因子 準備因子 身体的苦痛(不眠、 疼痛、便秘、尿閉、 視力/聴力低下など) 精神的苦痛(不安、 抑うつなど) 環境変化(入院、ICU 、騒音など) 高齢、認知症(認知 機能障害)、 脳器質性疾患の既 往(脳梗塞、脳出血 など) 、アルコール多飲、 せん妄の既往 せん妄患者モデル せん妄対策の原則 ①悪いものを加えない ②悪いものを減らす せん妄のリスク評価 できるならば せん妄のリスク管理
#65.
せん妄フローチャート(二次予防) STEP3 せん妄の早期発見 ・ツールを用いた評価(病棟とICUで別ツールを使用) ・臨床的評価(見当識障害/注意障害) ・他疾患との鑑別(認知症/うつ病/アカシジア/レストレスレッグス症候群) 二 次 予 防 ●評価のタイミング ・術後3日以内は集中的に ・急性疾患では入院時から定期的に ・「何かおかしい「いつもと違う」と感じたときに ・状態変化時や薬剤変更時 せん妄あり STEP4 せん妄の治療(直接因子や促進因子の除去、薬物療法) ・原因療法(原疾患の精査・治療、原因薬剤の中止) ・薬物療法(主に抗精神病薬) ・非薬物療法(環境調整やコミュニケーションの工夫など) せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎
#66.
誰でもできるせん妄予防対策 • 入院時、せん妄のハイリスク患者をスクリーニング • ハイリスク症例への適切な予防対策 観察での徴候の早期発見⇒対応 • せん妄による不眠を前提にした不眠時対応 ベンゾジアゼピン(BZ)系受容体作動薬以外の不眠時指示 「非ベンゾ」もベンゾです! せん妄でなければBZ系もOK! 身体不調時は常用のBZ系が悪さをする!という発想が大事 • (漫然とした)不眠時・不穏時指示を見直す(せん妄予防・治療 の観点から) • 入院環境を整備する(せん妄の非薬物療法)
#67.
せん妄予防の薬物治療 • できる範囲でベンゾジアゼピン系薬剤の減量・中止(急激な 中止は離脱せん妄のリスク) • 周術期のせん妄予防 術前のラメルテオン(保険適応なし) 術後当日一晩のデクストメデトジン静注(保険適応なし) 術前抗精神病薬(メジャー)投与、術後ドロペリドール投与 • アルコール依存症の離脱せん妄予防 ベンゾジアゼピン系薬剤(ロラゼパム、ジアゼパム)+ビタミン 剤投与+補液・全身管理
#68.
せん妄予防・治療の非薬物療法 • 認知機能や見当識への刺激 Ex)見えやすい所にカレンダー設置、日時や場所、入院目的、毎日の治療ス ケジュールの説明、家族や知人の面会、家で使い慣れた物品の使用 • 身体要因への介入 Ex)脱水・低栄養の改善、便秘の緩和、疼痛コントロール、処方の見直し • 不動化への介入(早期からの運動) Ex)点滴・カテーテル・ドレーン・身体拘束の最小化、可能な限りの早期離床・ リハビリ • 視覚障害や聴覚障害への対策(補正) Ex)眼鏡・補聴器の使用、ゆっくり大きな声で話しかけ • 睡眠障害への対策(睡眠補助) Ex)昼間は明るく夜間は点灯しない程度に薄暗く、騒音を避け、早めに一般病棟に転 棟、日中はできるだけ離床、テレビ・ラジオ・面会など日中は刺激
#69.
安全な不眠時・不穏時 • せん妄発症の可能性を考慮に入れた不眠時処方を • その不眠は、せん妄による睡眠リズム障害である可能性を 否定できてますか?(BZ受容体に作用する睡眠薬投与で、 当然ですが、不眠もせん妄も悪化します) • ちなみに、ベンゾもいわゆる非ベンゾも同じBZ受容体に作 用する薬なので、せん妄発症・増悪のリスクはほぼ同じです • ラメルテオンは即効性はほとんどありません。 • 精神科的に推奨不眠時 ベルソムラ20mg(高齢者は15mg)ないしデエビゴ2.5~5mgか、 トラゾドン25mg位が現実的選択肢と思われる
#70.
(ただの)不眠とせん妄の不眠の比較 不眠 せん妄 睡眠覚醒リズムの障害 あまりなし 昼夜逆転 症状の動揺 なし あり (1日の中で症状が増悪と軽快、一般に夜に増悪) 注意力障害 ほぼなし あり (突然の脈絡のない話題、会話の迂遠さ・まとまり なさ、などで気づかれる) 見当識障害 なし あり (日付や場所、時間がわからなくなる) 記憶障害 なし あり (数分前のことを覚えていない) 知覚障害 なし 幻視・錯覚 感情の障害 なし 時に抑うつや躁類似の状態像を呈する 意欲・行動の障害 なし あり (亢進して激しく動く、逆に発動性低下することも)
#71.
(病棟での)不眠の鑑別フロー 速やかな対応が必要 緊急性 主観的・客観的不眠 せん妄 意識障害(睡眠・覚醒リズムの障害) 強い不安・焦燥感による不眠 睡眠を障害する身体症状(疼痛・掻痒感) 過覚醒による不眠 身体疾患に伴う不眠 便秘(膨満感・蠕動痛)、発熱・寝汗、頻尿(夜間の輸液) 薬剤性・医原性 うつ病 睡眠関連障害 誤った生活習慣 薬剤性の不眠 症状としての不眠 睡眠障害 精神衛生の問題 緩和ケアレジデントの鉄則
#72.
不眠時指示の判断基準 ①本人からの不眠の訴え(「眠れない」)や薬剤希望(「 薬がほしい)がある場合 ②本人からの訴えはないが、他覚的に眠れていない 様子だったり、落ち着きない言動がある場合(使用の 判断基準が看護師でまちまち) 72
#73.
ベンゾジアゼピン受容体作動薬による 薬剤性せん妄を避けるための対策 • 病院全体または病棟単位で、不眠時・不穏時の指示を統一 する(標準指示を決める) • 病棟常備薬を見直し、不眠時薬として、BZ受容体作動薬以 外の薬剤を追加(または、病棟常備薬からBZ受容体作動薬 を外す) • パスの不眠時指示を見直す • 不眠に対する薬剤選択について、病棟薬剤師が医師に対し て積極的にアドバイスを行う • 院内の勉強会や研修会で、BZ受容体作動薬のせん妄発症 リスクについて取りあげる せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎
#74.
当医の考える不眠時指示 【不眠時】 内服可能時 せん妄による不眠を否定 ①デエビゴ5mg(高齢者、CYP3A阻害薬内服中は2.5mg) 1日2回まで(1時 間空けて) 無効時はmax10(保険用量)を来ないように再投与可 ※重度肝機能障害に禁忌 併用薬注意(CYP3A阻害薬) ①ベルソムラ(20)1錠 不眠時 1日1回まで ※高齢者はベルソムラ15mgまで 無効時にデエビゴ投与は保険適用外 ②トラゾドン25mg 1日3回まで(1時間空けて) ※せん妄時はfirst line 内服不能時 興奮時、水分負荷困難時などは筋注も可能 ①生食100ml+アタP1A(30分以上) ※純粋な不眠により有効 ②生食100ml+セレネース1/2A(30分以上) ※基本的に薬効はせん妄合 併時のみしかないと考えるべき(興奮しての不眠にしか効果は期待できず) ※パーキンソン病、レビー小体型認知症、重症心不全には禁忌(投与前に 診断の有無を必ず確認) 特にせん妄合併時はせん妄にも有効 74
#75.
睡眠・覚醒と神経伝達物質 特徴 睡眠・覚醒への作用 (イメージ) セロトニン 朝↑、夜↑、神経細胞を適度に活性化 遮断で睡眠 メラトニン 夜↑、セロトニンから合成される 刺激で睡眠 グルタミン酸 神経回路におけるアクセル 遮断で睡眠 GABA 神経回路におけるブレーキ 刺激で睡眠(BZ系) アドレナリン ノルアドレナリン ドパミン ストレスにより↑、副腎髄質から血中へ 交感神経から分泌、脳内では青斑核から分泌 快楽中枢へ作用 遮断で睡眠 遮断で睡眠 遮断で睡眠 アセチルコリン 副交感神経から分泌、覚醒の発現・維持に関係 遮断で睡眠 ヒスタミン オレキシン 覚醒の維持に関与 覚醒の維持に関与 遮断で睡眠 遮断で睡眠 いわゆる睡眠薬(眠気を生じる薬剤)は、 覚醒物質の効果減弱か睡眠物質の効果増強かの働きを持つ
#76.
睡眠・覚醒機構の機序と睡眠薬・睡眠関連物質の作用機序 (あくまでイメージで不正確) 睡眠覚醒リズム調節 BZ系睡眠薬 非BZ系睡眠薬(Z薬) バルビツール酸誘導体 アルコール症 アデノシン拮抗作用 カフェイン アデノシン 神経系 睡眠物質 PGD2 他蓄積 睡眠 中枢 睡眠覚醒リズム調節 メラトニン受容体作動薬 GABA 神経系 抑制 体内 時計 睡眠覚醒リズム調節 抗ヒスタミン薬 (抗アレルギー薬など) 覚醒 中枢 ヒスタミン 神経系 大脳皮質 覚醒状態を抑える オレキシン受容体拮抗薬 76
#77.
病棟における不眠時指示の使用アルゴリズム 主観的・客観的不眠 入眠困難、中途覚醒・再入眠困難 あり ・身体的苦痛の有無 SpO2低下、血圧の著明な低下 疼痛、かゆみ、しびれなど ・意識障害の有無 時、場所など見当識障害の有無 数唱、計算の正解 or 不正解 強くあり 身体的苦痛 なし あるいは強くない 可能なら身体的苦痛の医学的処置 あり 意識障害 不穏時アルゴリズム参照 なし 内服可能時 ①デエビゴ2.5~5mg ①ベルソムラ15~20mg 内服不能時 ①生食100ml+アタPA静注 (30分以上) 筋注可 ②生食100m+セレネース 1/2Al(30以上) 筋注可 (なるべく避けるべき) ※強い不安・焦燥感による過覚醒とし ての不眠、薬剤性・医原性の不眠、う つ病や統合失調症としての不眠、 などは、鑑別が必要(慣れてないと難 しいが) 77
#78.
せん妄ハイリスク患者への 不眠時指示の薬剤調節フローチャート せん妄ハイリスク患者 (入院時) 未使用時は 頓用の確実な使用徹底 不眠時指示(頓用薬) YES 夜間良眠 NO 効果なし 効果あり 同頓用指示 を継続 頓用使用 同頓用指示 を継続 頓用薬1回量 増量・変更 定期薬を開始 定時薬を開始 ラメルテオン、オレキシン受容体拮抗薬など BZ系はもちろん避ける 数 日 以 内 に 評 価 ・ 対 応
#79.
リエゾン精神医学におけるせん妄臨床の流れ リエゾン依頼 他科からせん妄(疑含)についてリエゾン介入依頼 頼診券熟読(依頼者の意図の類推) 診療録作成 電子診療録、スタッフ予診から情報収集 →仮病歴作成(経過と誘因候補の探索のため) 新患・往診 ベットサイド面接(もしいれば、家族・関係者も面接) で情報収集→病歴サマライズ 方針決定・伝達 フォローアップ 薬物治療、誘因除去など治療方針 治療介入(定期薬・頓用指示他) 診療録・ベットサイド面接で現症・経過を把握 (特に夜間)。効果と副作用を勘案・薬剤調節
#80.
一般的身体疾患とせん妄の治療の比較 疾患の存在への気づき・発見(可能性含)・情報収集と分析 疾患の診断(有無・重症度) せん妄では 時に困難 せん妄でも 時に可能 末期癌など 重症では無理 原因把握のための検査 原因療法(原因の除去) 一般的身体疾患 はこれがメイン 対症療法(除去困難時の対応) せん妄、末期癌 はこれがメイン
#81.
「せん妄発症」の予測・予防・診察・対応 せん妄発症の予測 発症の可能性なし・皆無 発症の可能性あり せん妄発症の疑いなし せん妄発症の疑い 精神科医が 関われるのは 主にここから 未発症 安全確保・症状対応 悪化予防 せん妄予防ケア せん妄発症の有無の診断・判断 発症 発症時のケア・治療 原因の明確化・除去 発症時の薬物治療 除去可能 除去不能 静穏化可能 静穏化不能 鎮静?
#82.
せん妄の治療・介入を始める前に • 現疾患の経過・病歴、精神症状の経過の確認 (頼診科のカルテ内容と看護記録の確認・転記) • 発症前のADL・認知機能・性格・認知症の有無・生活歴などの 確認 (できれば、家族、看護スタッフなどより事情聴取) • 内服薬の確認(追加・増減) (ベンゾジアゼピン系、ステロイド,オピオイド,抗ヒスタミン薬など) • 癌の場合は脳転移の除外を (肺癌,消化器系癌,乳癌,泌尿器系癌は要チェック!) • 糖尿病,耐糖能異常,緑内障,てんかんの既往の確認 (禁忌薬あり) • 電解質異常,アンモニア,炎症,貧血,呼吸状態の把握 (低Na, 高Ca, 脱水,腎機能障害,感染症,貧血,呼吸不全は高リスク)
#83.
せん妄の本人診察前に確認・収集すべき情報① 項目 必要な理由 情報源 頼診理由(症状、診断、薬物治 療、転棟など環境調節など) 当科的対応方針の選択 頼診券、主治医、病棟看護師 患者ないし家族の診察の諾否 直接診察か間接的助言の選択 頼診券、主治医、病棟看護師 キーパーソン・家族の特徴 説明対象の特定、介入方針の 選択 診療録、看護記録 入院日、依頼理由の症状およ び言動の詳細と経過 せん妄のリスク・機序・推移の 推定 診療録・看護記録 バイタルサイン、SpO2、摂食、 睡眠などの推移 せん妄リスク・機序・推移の推 定 診療録・看護記録 入院理由・退院目標 生活環境の確認のため 頼診券、診療録、主治医、病棟 看護師 手術の有無と手術日・その内 容 せん妄リスクと機序の推定 診療録・看護記録 年齢・性別、既往歴・併存症 せん妄リスクと機序の推定 介入法・程度の選択 診療録・看護記録 飲酒習慣と量、最終飲酒日時 アルコール離脱機序の検討 診療録・看護記録 内服薬(オピオイドやステロイド、 せん妄リスクと機序の推定 BZ系など向精神薬など) 介入法・程度の選択 診療録・看護記録、お薬手帳
#84.
せん妄の本人診察前に確認・収集すべき情報② 項目 必要な理由 情報源 発症前の推定される認知機能 とADL せん妄のリスク・機序・改善程 度の予想 診療録・看護記録、家族の陳述 糖尿病の有無、BS・HbA1c MARTAの使用の可否 診療録・看護記録、検査結果 肝機能障害、腎機能障害、QTc 向精神薬の使用の可否や調節 など 検査結果 最新のCRP、炎症反応など、お よび推移 せん妄のリスク・機序・推移の 推定 検査結果 最新の頭部MRI/CT 急性変化、慢性虚血性変化や 萎縮の程度 画像診断 脳波 基礎活動や突発活動の評価、 診断補助 脳波 脳脊髄液 細胞数・蛋白濃度の評価、診断 髄液検査 補助 せん妄ハンドブック 八田耕太郎 改変
#85.
せん妄診察のベットサイド面接の流れ ①睡眠を話題に自然にアプローチ ②奇異言動とその内容に言及 奇異言動の記憶の有無の確認 ③見当識(年月日・場所・状況)と 近時記憶や注意障害(順唱)の確認 ④飲酒習慣とその量、 常用向精神薬の有無の確認 診察中の応答・表出から 注意の障害や変動を観察 要すれば、認知機能障害なども 注意の方向性、維持、固着などの有 無 幻視・錯覚、被害的言動など 自身の状態・状況のメタ認知の有無 状況の解釈モデル ※ベットサイドに家族・関係者がいたら、さりげなく病前・入院前の情報収集と、せ ん妄の一般論・薬物治療の効果・副作用の説明、家族の不安の傾聴・受容を行う せん妄ハンドブック 八田耕太郎 一部改変 85
#86.
せん妄診察のベットサイドの面接の流れ ⓪ベット周りの様子や面接開始前の様子をしっかり観察 ①睡眠を主な話題に自然にアプローチ 患者に警戒心を起こさせないように、患者にとって最も身近でソフトな質問である睡 眠の話題からアプローチ ②奇異言動とその内容に言及。奇異言動の記憶の有無の確認 せん妄時の異常言動の記憶の完全な欠損・断片的な記憶時、医師・スタッフなどの 説明後の不安な状態時は、診察的に協力的なことが多い。被害的に歪曲されて記 憶されている場合は、診察への非協力や治療拒否・拒薬などを生じるので、慎重か つ深追いしない ③見当識(年月日・場所・状況)と近時記憶と注意障害(順唱)の確認 夜間のみのせん妄時、認知症併存時は所見の解釈に注意。患者の自尊心などに は配慮し、患者に言い訳の余地を残し、前置きの上、確認する。「(入院や身体疾患 の治療中に)なかなか急に言われると難しいですよね・・」など。 ④飲酒習慣とその量、常用向精神薬の有無の確認 診療録・看護記録上で確認している場合は不要なこと、本人の陳述は、あまり当て にならないことも多い せん妄ハンドブック 八田耕太郎 一部改変 86
#87.
身体疾患をもつ患者の 精神科コンサルテーションにおけるベットマナー ①座ること ②患者のためにちょっとした何かをすること ③笑顔で接すること ④はじめに患者について知っていることを話すこと ⑤今一番心配なことは何かを聞くこと ⑥病気や予後についての患者の理解の仕方、痛み・機能喪失・死などについての不 安をよく聞いておくこと ⑦患者の家族や仕事、病気が家族関係や社会的役割に与える影響について聞いて おくこと ⑧患者が誇りに思っている活動や業績を聞き、機会を見てそのことを讃えること ⑨患者が遭遇している人間としての苦境について理解を示すこと ⑩精神的評価の必要性と目的を説明し、患者に共同観察者の役割を取ってもらう ⑪面接の終わりに具体的な何かを伝える Yager J,. Psychosomatics, 1989. 87
#88.
診察時に確認すべき情報 項目 必要な理由 情報源 現在の注意の障害・変動 意識水準とその変動の有無 の評価 奇異言動の記憶 意識水準の変動の有無の評 本人 価 現在の見当識: 時、場所、状況 意識水準あるいは認知機能 の評価(診察時) 現在の近時記憶 認知機能の評価(診察時) 睡眠・覚醒サイクル 睡眠覚醒サイクル障害の有 無 本人(自覚的)、スタッフ・診 療録(他覚的) 奇異言動の内容 せん妄とそのほかの疾患・ 状態との鑑別 本人、スタッフ・診療録 本人、スタッフ、診療録 本人 本人、スタッフ・診療録 精神症候学的、神経心理 せん妄とそのほかの疾患・ 学的診察 状態との鑑別 ※せん妄、認知症などでの認知機能低下を呈している場合、生活・現病歴、既往歴、飲 酒習慣とその量、最終飲酒日、常用向精神薬、身体科薬など本人からの情報収集が難 しいことが多い。一方で、家族でも非同居だと、入院前の生活状況を知らないことも多い せん妄ハンドブック 八田耕太郎 改変
#89.
CAM(Confusion Assesment Method)での診断 ①精神症状の急性発症、動揺性の変化 自己申告での混乱、見当識障害、幻覚、意識、注意力、発語の変動 あり ②注意力の欠如 記銘テスト(3・4桁の逆唱)、週・月の逆唱、意識、注意力、発語の変動 あり ③無秩序な思考 年、曜日、場所の見当識障害 思路が不明瞭か非論理的 会話が散漫、的外れ 極端に少ない ④意識レベルの変動 嗜眠性、昏迷、昏睡、過度の警戒 あり あり せん妄と診断 ①が不明瞭で、②と③もしくは④が認められる場合は、患者のことをよく知る家族、知人、施設 スタッフに患者の通常の状態に比べて、精神症状(記憶、思考)の急性変化を示す根拠がある かどうか質問する Ann Intern Med. 2014; 161(8) 554-61
#90.
CAM(Confusion Assessment Method)での診断 項目 評価方法 異常の具体例 ①精神症状 の急性発症 と変動性の 経過 患者の精神状態は、 ベースライン時と比 べて急激な変動が 見られた 普段の患者の精神状態と の変化や日内変動につい て一緒に過ごしている人物 に確認。 ・異常な行動が現れたり消える ・あるいは程度が増減しがちである ②注意散漫 患者は集中するこ とが困難か? 些細なことで注意がそれた り、自身の行動に集中を維 持できないかを評価する ・他のことに気をとられやすい ・人の話を理解することが難しい ③無秩序な (支離滅裂 な)思考 患者の思考はまと まりのない、あるい は支離滅裂か? 支離滅裂な思考、ちぐはぐ な会話、話が予期せぬ方 向へころころ変わることが ないか評価する ・とりとめのない話や無関係な話をする ・不明瞭、または筋の通らない考え方を する ・意図が予測できず、変化についていけ ない ④意識レベ ルの変動 全体的に見て、こ の患者の意識レベ ルをどう評価か? 鮮明以外の意識レベル、昏 睡、昏迷、傾眠、過覚醒の 有無を評価する。 ・過覚醒(過度に敏感) ・傾眠(すぐに覚醒する) ・昏迷(覚醒困難) ・昏睡(覚醒不良) ①+②+(③ or は④)の3項目があてはまれば、せん妄と診断される Positive test using CAM:感度46-94%、特異度83-98%、LR+10.3、LR-0.2 Jpn J Gen Hosp Psychiatry, 25 (2) : 165-170, 2013
#91.
CAMでの鑑別診断の臨床比較 せん妄 CAM うつ 認知症 発 急激(数時間~数 症 分) 夜間発症が多い 少なくとも数週間 以上前 慢性経過(数ヶ月以 上かけて徐々に発 症) 注 低下 意 低下していないが 時に非協力的 進行すると低下 (後期まで保持) 思 支離滅裂 考 悲観的、絶望的 忘れがち、無頓着 意 変動(過覚醒~昏 識 睡) 鮮明(重症で時に 傾眠・昏迷) 進行すると意識障害 (後期まで鮮明) ※DLBは変動 経過 1日の中でも変動 朝に増悪 (多くは夜間に増悪) 日内パターンあり 慢性進行性 睡眠 障害もパターンなし 夜ごとに違う 障害を来すこともあ る(個人差あり) 障害 早期覚醒、過眠
#92.
せん妄の臨床症状 特徴、症状 詳細 発症 数時間~数日の急性発症 経過 24時間以内の経過で増悪、軽快を繰り返す 注意障害 注意の継続ができない、注目することができない 混乱症状 支離滅裂な会話、非論理的な考え方 意識障害 周囲への反応性が低下する 認知障害 全体的、複数の認知機能の低下 知覚障害 幻覚(30%) 精神運動障害 過活動(活発)型(興奮、不眠)、低活動型(無気力、無為)、 混合型 睡眠障害 睡眠サイクルの異常、昼夜逆転 感情障害 恐怖、パラノイア、不安、抑うつ症状、イライラ、怒り、多幸 感 N Engl J Med 2006; 354(11) 1157-65
#93.
せん妄と鑑別すべき疾患 せん妄でみられる症状 不眠 記憶障害 見当識障害 幻覚・妄想 不安・焦燥 易怒的・興奮 活動性低下 (低活動性せん妄) 間違えやすい疾患 不眠症 認知症 高齢 統合失調症 誤った対応例 BZ系薬剤 対症療法に終始 経過観察 精神科転院 アカシジア 性格 抗コリン薬 強制退院 うつ病 抗うつ薬 • 入院患者の精神症状の鑑別診断の筆頭にせん妄を置いて おくことが大切!
#94.
せん妄の原因となる因子 ●直接因子 中枢神経の脆弱性 を反映した素因 単独で意識障害を 直接きたしうる要因 ・中枢神経系疾患 脳血管障害、脳腫瘍、脳外傷、脳・髄膜炎 etc ・内科的疾患 代謝性疾患(糖尿病、腎疾患、肝疾患) 内分泌疾患(甲状腺疾患、副腎疾患) etc ・依存性薬物からの離脱 アルコール、睡眠薬、抗不安薬 etc ・中枢神経系に作用する薬物の使用 抗コリン薬、抗不安薬、睡眠薬、H2ブロッカー etc ●準備因子 ・高齢 ・脳血管障害・頭部外傷の既往 ・アルコール多飲歷、薬物乱用歴 ・認知症、アルツハイマー病 ・せん妄の既往 etc 環境に関連して、誘発・ 遷延化につながるもの ●誘発(促進)因子 ・入院による環境の変化 ・ICU、CCUなどにおける過剰刺激 ・睡眠妨害要因(騒音、不適切な照明 etc) ・心理社会的ストレス:不安、抑うつ ・身体的ストレス:痛み、かゆみ、頻尿 etc ・感覚遮断(眼科手術後 etc) ・拘禁状況
#95.
せん妄病歴の描き方 • 診療録・看護記録などから明確に分かる確実な情報・事実( 入院目的、入院日と頼診日)と、推論や忖度によるしかない 不確実な情報(頼診理由、せん妄発症推定日や推定発症原 因など)の区別を意識して、せん妄発生が推定される「変曲 点」を探す。 • いつからどのような症状や行動変化、関連しそうな身体疾患 の発生・増悪、薬剤投与、データ異常などを生じたのか?薬 剤や疾患との関係など事象の因果関係を推定できるか? • 病棟管理上、具体的に困っている事は?(誰がどのように) • せん妄に対する対応は?(逆に増悪するようなことがされて いないか?)
#96.
意味の発見 112112112112112・・・ 意味の発見 111221123321123442・・ 規則性 変化 パターン(蓋然性)の発見 規則性を破るポイントの発見 傾向 相関 突出値 変曲点 特定変数の時間 変化の中にみら れる気息性 2つの変数の関 係の中にみられ る規則性 傾向を逸脱する データ/値 傾向や相関の方 向を変えるター ニングポイント 思考・論理・分析 「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践 波頭亮
#97.
意味の発見 規則性 • 「変化の規則性」 1つの主体が時間と共にある特定の変数に おいて変化していく性質のもの • 「関係の規則性」 2つの変数の間の関係性として見られるもの 規則性 意味の発見 データの読み取り “そのものが価値” を持つもの 変化 [定まったパターン (整然性)として表出] “価値のありか”を 示してくれるもの [規則性を破るポイント として表出] 傾向 相関 突出値 変曲点 [特定変数の時間変化 の中に見られる規則性] Ex)逓減/逓増、繰り返し /循環の傾向 [2つの変数の関係の 中に見られる規則性] [傾向を逸脱するデー タ/値] [傾向や相関の方 向を変えるターニ ングポイント] 「規則性の発見」の意味内容のそのものが直 接価値を持つ 「変化の発見」は、その後のなぜ変化したの かを判明させてこそ、現実的に有用な意味合 いにつながる 思考・論理・分析 「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践 波頭亮 97
#98.
事象間の関係 事象間の関係 単なる偶然 相関 独立 二つの事象が何らかの影響 を及ぼしたり及ぼされたりす る関係 一方の事象が変化しても、 もう一方の事象が変化する 必然性のない関係 時間的序列 意味的運動性 単純相関 単純に相関があるのみの 関係で、因果関係ではない もの ※身長と体重 因果 必ず一方が先に生起し(原 因)、他方を生起せしめる( 因果)関係 ※自動車のスピードと事故率 思考・論理・分析 「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践 波頭亮
#99.
因果関係の9視点(ヒルの基準:1965) 合致する基準が多くなるほど因果関係の確実性が高まる 1.関連の強固性(Strength):原因と結果の関連が強い 2.関連の一貫性(Consistency):異なる地域、集団、時間でも同一の事象が 起こる 3.関連の特異性(Specificity):原因と結果が1対1対応 4.時間性(Temporality):原因が結果よりも時間的に先行 5.生物学的用量反応勾配(Biological gradient):原因と結果がなだらかな関 係である 6.生物学的蓋然性・妥当性(Biological plausibility):生物学的に矛盾なく説明 できる 7.整合性(Coherence):既存の知識体系と矛盾しない 8.実験的証拠(Experimental evidence):関連を支持する実験的研究が存在 9.類似性(Reasoning by analogy):既存の類似した関連により裏づけられる
#100.
枠組みを変えて捉える4つの視点 横 断 的 経 時 的 虫の目 現場の実態(ミ クロ)を把握す る目 第一線の現場に行き、実態(生情報)を 把握する。 細かく見る目・現場の視点 三現主義:現場・現物・現実 鳥の目 全体(マクロ)を 目先の現実や利害にとらわれず、大局 俯瞰・判断する 的視点から自身のポジションを確認し、 目 優先課題を感じ取る目 蝙蝠の 目 別の側面を見 る目 魚の目 流れを感じ取る 流れやトレンドを捉え続けつつ、環境 (将来を予測・ 変化を把握する目。 展望し、決断す る)目 物事を反対から見たり、一般的見方に とらわれず、常識を疑い、固定観念を 取り払う。
#101.
せん妄の鑑別診断:臨床項目(I WATCH DEATH) Infection 感染 脳炎、髄膜炎、脳腫瘍、HIV、梅毒、敗血症、チフス、マラリア Withdrawal 乱用物質からの離脱 アルコール、バルビツール酸誘導体、鎮静・催眠薬 Acute metabolic 急性代謝異常 アシドーシス、アルカローシス、電解質異常、肝不全、腎不全 Trauma 外傷 閉鎖性頭部外傷、熱中症・熱射病、術後(間近の手術歴)、重 度熱傷 CNS pathology 中枢神経系の異常・病理 脳内出血、正常圧水頭症・水頭症、てんかん発作、脳卒中、 脳腫瘍、血管炎、脳膿瘍、 Hypoxia 低酸素症 貧血、一酸化炭素中毒、低血圧、呼吸不全/心不全による低 灌流 Deficiencies of Vitamins ビタミン欠乏症 ビタミンB12、ナイアシン、チアミン(ビタミンB1)、葉酸 Endocrinopathies 内分泌疾患 副腎皮質ホルモン過剰症/低下症、高血糖/低血糖、副甲状 腺機能亢進症 Acute vascular 急性血管障害 高血圧性脳症、ショック、脳卒中、TIA、不整脈 Toxins or drugs 中毒または毒物 治療薬・医薬品、違法薬物、農薬、有機溶剤 Heavy metals 重金属 鉛、マンガン、水銀 脳神経疾患ケアの精神生物学的基礎 監訳 植村研一他
#102.
神経救急としてのけいれん・意識障害(せん妄含)を疑う主な検査所見 低血糖 低血糖発作 高血糖 糖尿病性ケトアシドーシス(尿中ケトン体++、血ガスpH↓) 非ケトン性高浸透圧性昏睡(血 液浸透圧↑↑、尿糖++) 高CO2血症 CO2ナルコーシス(pH↓ BE↓ 胸部レントゲン)、 CO-Hb高値 CO中毒(PaO2/SpO2ともに正常) 高尿酸血症 pH↓ 循環不全(低血圧、脱水) ビタミンB1欠乏性乳酸アシドーシス(Wernick脳症、ビタミンB1↓) WBC高値 敗血症(CRP↑、ショック、DIC) 甲状腺クリーゼ(肝酵素上昇、頻脈、下痢、高血糖、Free T3↑、 TSH↑) 腎機能障害 尿毒症(代謝性アシドーシス、pH↓、乏尿、上腕にシャント、BUN/Cr↑、K↑ 肝機能障害 肝性脳症(ALT/AST・Bil・NH3↑、凝固能↓、Fischer (分子鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸)比↓、 腹部エコー、脳波) 低Na血症 副腎不全(低血糖、ショック) SIADH(血管内水分量~↑、尿中Na正常、ADH↑) 水中毒(水 多飲、精神疾患、ADH↓) 中枢性塩類喪失症候群(脱水、尿中Na↑↑) CPMにも注意 高Na血症 中枢性尿崩症(脱水、多尿、ADH↓) 体温異常 偶発性低体温(低K、低血糖、不整脈)、熱中症(脱水、高CPK、急性腎不全) 心電図 頻脈性/徐脈性不整脈 ACS 薬物中毒(QTc延長) 胸部レントゲン 肺炎、肺水腫、喘息、胸部大動脈解離⇒さらに胸部造影CT追加 アルコール血中濃度 急性アルコール中毒 Triage DOA+尿中定性毒性検出キット 薬物中毒 除外診断 精神疾患にともなう失神(Hand-drop test、既往歴) 神経救急の現場における精神疾患の鑑別 石田琢人 三村将 診断と治療 vol.105-no.1 2017 112-116 102
#103.
情報の統合と分析・診断 • せん妄を疑われた患者を、実際に診察するのは、一般的に は症状が改善していることの多い日中である。 • 診察時の応答・表出から注意の障害・変動を観察(日中は幻 覚や興奮などは目立たないことが多い)、診療録・看護記録 の情報から注意の障害・変動や認知機能障害(夜間の幻覚 や興奮など)、睡眠、睡眠・覚醒サイクルなど夜間を含め1日 の状況と経過を確認・類推し、病歴と現症など情報と分析を 統合して、せん妄の有無、程度、想定される誘因や治療法な どを仮説・推論をまじえて、判断・診断する必要がある 103
#104.
せん妄治療の思考・情報収集シート • 主訴(主な現場の困りごと) 発生時期(なるべく月日まで特定) 不穏 叫び声・暴言 徘徊 摂食拒否 服薬拒否 幻覚 意識障害 急な活気低下 • 退院希望の有無 (退院希望があった場合)家に帰って何がしたい ※自宅に介護している家族がいるなど、自分の状況の把握は困難も、自宅 に気がかりなことがある場合も多い(全くの了解不可能な帰宅要求とは言え ない場合もあることに留意。診察者側の常識的配慮=優しさが必要) 帰宅困難な理由(医学的、心理社会的) 104
#105.
せん妄治療の原因検索の思考・情報収集シート Vital signの異常の有無 血圧 呼吸数 SpO2 身体ストレスの有無 疼痛 便秘 下痢 頻尿 医療処置の有無 身体拘束 点滴 膀胱留置カテーテル 感覚障害の有無 視力障害 聴力障害 補聴器 眼鏡 睡眠妨害ストレスの有無 ICU環境 室内・他患の騒音 モニター装着 感染症の有無 発熱 WBC/CRP上昇 呼吸障害の有無 低酸素血症 高酸素血症 CO2ナルコーシス・呼吸器疾患の既往 代謝系異常の有無 Na Ca Mg 血糖 脱水 肝不全 腎不全 内分泌系の異常 甲状腺ホルモン 副腎皮質ホルモン アルコール問題の有無 一定量の常用 依存症・離脱せん妄の既往 せん妄リスク薬の有無 ベンゾジアゼピン受容体作動薬他(開始時期も確認) 105
#106.
せん妄の背景にある病因への治療や介入 Wernicke脳症 ビタミンB1静注→内服(認知機能の推移を観察) アルコール/GABA作 動薬からの離脱 ベンゾジアゼピン系薬投与(漸減法・負荷用量投与法・症状出現時 投与法など) 低血糖 ブドウ糖補充 低酸素/低灌流 輸血、慢性心不全の積極的治療 アルコール、コカイン、 幻覚薬の中毒 静かで保護的な環境、継続的な観察、鎮静薬の使用 髄膜炎/脳症 特異的な抗生物質/抗ウイルス薬などで加療 毒物/薬物過剰摂取 アセチルシステイン、ナロキソン、フォメニゾール、フルマゼニルなど てんかん発作 抗てんかん薬の負荷用量での投与 脳卒中 抗凝固療法など治療 レビー小体型認知症の 高齢者で他の医学疾患が同定できない場合 初期症状 薬剤使用の最適化 オピオイド・抗コリン薬などの使用の再考(スイッチングや中止など)
#107.
せん妄を疑った場合の検査の流れ STEP1: せん妄を疑った場合の第1選択肢となる検査 感染症に関しては症候と血液検査の結果を踏まえることも可 STEP2: 第1選択肢などではせん妄と判断しずらい場合 せん妄以外も考慮する場合 STEP3: 各種検査と病歴、経過からせん妄の可能性が低い場合 中枢神経系の脆弱性が存在または示唆される場合 STEP4: 特定の疾患を強く疑うが臨床経過から確定診断が望ましい場合
#108.
せん妄を疑った場合の検査の流れ STEP1 全身観察 バイタル測定、外傷などの有無 血液検査 血算 腎機能(BUN/Cr) 肝機能 電解質(Na, K, Ca, IP, Mg) 肝機能(アンモニア含) 腎機能 甲状腺機能 炎症反応 血 糖 感染症の有無 尿検査 胸部Xp 胸腹部CT SARS-CoV-2 インフルエンザ 各種培養 血液ガス検査 CO2貯留の確認 ラクテート測定 脳波検査 徐波化の検出 尿検査 尿中薬物スクリーニング STEP2 頭部CT 梅毒検査 HIV検査 細菌感染以外の感染症検査 ビタミンB群(B1、B12)、葉酸 薬物血中濃度測定(抗てんかん薬、気分安定薬、ジゴ キシンなど) 精神作用性物質の乱用・中毒の除外 せん妄との鑑別に迷う病態や疾患 舩槻紀也 など 老年精神医学雑誌 第35巻第5号 2024.5 450-454
#109.
せん妄を疑った場合の検査の流れ STEP3 脳脊髄液検査(髄膜炎を強く疑う場合は緊急性高:HIV、梅毒、PCR検査な ど) 脳波検査(特異的脳波の検出) 頭部MRI 自己免疫疾患に関する血液検査 自己免疫性疾患除外目的の検体検査(抗LG1抗体、抗CASPR2抗体、抗 NMDA受容体抗体、抗TPO抗体、抗NAE抗体、抗核抗体など) 血中アミノ酸測定 尿中ポルフィリン測定 STEP4 各種の核医学検査 特異度の高いバイオマーカー検体検査 せん妄との鑑別に迷う病態や疾患 舩槻紀也 など 老年精神医学雑誌 第35巻第5号 2024.5 450-454
#110.
せん妄予防・治療の非薬物療法 • 認知機能や見当識への刺激 Ex)見えやすい所にカレンダー設置、日時や場所、入院目的、毎日の治療ス ケジュールの説明、家族や知人の面会、家で使い慣れた物品の使用 • 身体要因への介入 Ex)脱水・低栄養の改善、便秘の緩和、疼痛コントロール、処方の見直し • 不動化への介入(早期からの運動) Ex)点滴・カテーテル・ドレーン・身体拘束の最小化、可能な限りの早期離床・ リハビリ • 視覚障害や聴覚障害への対策(補正) Ex)眼鏡・補聴器の使用、ゆっくり大きな声で話しかけ • 睡眠障害への対策(睡眠補助) Ex)昼間は明るく夜間は点灯しない程度に薄暗く、騒音を避け、早めに一般病棟に転 棟、日中はできるだけ離床、テレビ・ラジオ・面会など日中は刺激
#111.
せん妄に対する環境調整の思考・対応シート 環境調整 日光を浴びる、わかりやすい表示、時計やカレン ダーの設置、本人の好きなもの 症状管理 不快症状の緩和(疼痛・排便コントロール、点滴・カ テーテルなど抜去の検討 追加検査 中止薬剤 ベンゾジアゼピン受容体作動薬 追加薬剤 関わりの工夫 ノックする、目を見る、体をさする、優しく話す、一 度に多くを言わずゆっくりと確認しながら会話する 日中の覚醒改善 リハビリ、本、テレビ、音楽鑑賞、車椅子移動 感覚障害への対応 補聴器、眼鏡、義歯装着など その他 111
#112.
せん妄をはじめ、器質性精神疾患 のマネジメントの原則 • • 原則として、急性の器質性精神疾患の症状は、基礎疾患の治癒に伴い、 薬物療法など持続的治療を要さずに、改善・消失する。すなわち、可逆 性であることが、一般の精神疾患(統合失調症、双極性障害)と大きく異 なる。もちろん、終末期せん妄、慢性疾患(心不全、COPD、神経変性疾 患)などでは基礎疾患の改善が現実的に期待できないことも多い。 器質性精神疾患の代表格であるせん妄を通して、マネジメントの基本を 学ぶためには、せん妄の要因(準備・直接・促進因子)をできうる限り特 定し、診療録に明記する必要がある。特に、直接因子については、ラボデ ータ、脳画像検査などを確認して(未施行時、必要に応じて検査を実施し て)検索し、薬剤についても、せん妄発症に先立って開始・増量された医 薬品の有無を必ず確認し、さらに特定された直接因子への介入の可能 性の有無を確かめる。せん妄の直接因子にどこまで介入可能か否か(す なわち、せん妄の治癒可能性はどの程度か)の判断は、臨床経過の見 直し、対症療法としての薬物療法の投与計画にとって必須である。 112
#113.
時系列に沿ったせん妄対策 直接因子 ・リスク薬剤の減量・中止 ・リスク薬剤の使用開始 ・原因身体疾患の治療 ・原因薬剤の減量・中止 促進因子 ・身体的苦痛(疼痛・不眠など)/精神的苦痛(不安など)の軽減 ・家族に説明・協力依頼⇒パンフレットや動画を使用 準備因子 ・リスク評価 ・スタッフ間で共有 せん妄発症 入院 評価 薬物治療 定期的なスクリーニング (ツール使用 ・不眠(促進因子)の薬物治療 ・予防的薬物治療 (重症度評価) ・抗精神病薬中心の薬物療法 ・ケースによっては鎮静 113
#114.
せん妄予防の薬物治療 • できる範囲でベンゾジアゼピン系薬剤の減量・中止(一方で 、急激な中止は離脱せん妄のリスク) • 周術期のせん妄予防 術前のラメルテオン(保険適応なし) 術後当日一晩のデクストメデトジン静注(保険適応なし) 術前抗精神病薬(メジャー)投与、術後ドロペリドール投与 • アルコール依存症の離脱せん妄予防 ベンゾジアゼピン系薬剤(ロラゼパム、ジアゼパム)+ビタミン 剤投与+補液・全身管理
#115.
せん妄の薬物治療アルゴリズム コンセンサスなし 内服不可 低活動型 せん妄 注射製剤 ハロペリドール (セレネース) 内服可能 アリピプラゾール? (エビリファイ) 軽症・副作用回避 舌下吸収 アセナピン (シクレスト) 糖尿病- 糖尿病の有無 糖尿病+ 短半減期 トラゾドン (レスリン) 経皮吸収 ブロナンセリン テープ (ロナセンテープ) クエチアピン (セロクエル) ペロスピロン (ルーラン) 剤形の利 薬効に時間要 オランザピン (ジプレキサ) 錐体外路症状が 出現しやすい人向き リスペリドン (リスパダール) 腎排泄 ミアンセリン (テトラミド) バルプロ酸 (デパケン) 注射製剤 ヒドロキシジン (アタラックスP) 八田 耕太郎 せん妄ハンドブック 一部改
#116.
せん妄の薬物治療 (静穏化+少し鎮静化目的) 内服 興奮小 定時トラゾドン 25mg夕 不眠時トラゾドン 25mg頓用 不眠時レンボレキ サント2.5~5mg 不穏時ペロスピロ ン4mg頓用 (30分あけて計3回 まで) DM・CKD・QT延長などない場合 興奮大 定時 クエチアピン25mg 夕 リスペリドン0.5~1.0mg 夕 ペロスピロン4mg 夕 不穏時 リスペリドン0.5~1.0mg クエチアピン25mg 不眠時クエチアピン25mg頓用 (30分あけて計3回まで) 注射 定時ハロペリドール0.5~1A+生食100ml 19時から2時間かけて点滴 不眠時 ヒドロキシジン1A+生食100ml 30分以上 かけて(興奮が弱く、不眠が前景の場合) ハロペリドール0.5~1A+生食100ml 30分 以上かけて点滴(興奮が強い時以外、催眠 効果自体はほとんどない) ※年齢、腎機能などを考慮して用量設定・調節。 本来の使用量の数分の1で開始(特に高齢者) ※特にクエチアピンなど(いわゆる)鎮静系抗精 神病薬)の用量設定は経験が必要(適宜修正) 頓用追加はラダー法 適宜増減 ※せん妄治療開始時は、眠前投与は、拒薬や鎮 静系(クエチアピンなど)の翌朝の傾眠のリスク 予防に夕食後に処方(いずれ眠前に移動) ※不眠(認知症など)とせん妄の不眠は分ける
#117.
せん妄の薬物療法(内服) 薬剤投与は夕方以降に投与量が多くなるように設定(基本的に夕方に処方) <興奮が軽度の場合>ベット上ゴソゴソ・多弁など → 無効時は抗精神病薬に置換 トラゾドン(レスリン・デジレル) 25~100mg ・抗うつ効果<入眠効果 mildな鎮静効果。半減期短い ミルタザピン(テトラミド) 10~30mg ・抗うつ効果<入眠効果 mildな鎮静効果。半減期長い <興奮が中等度以上の場合>易怒的・暴力行為など(拒薬なし) ・リスペリドン(リスパダール)錠剤・液剤 0.5~3mg パーキンソ二ズムは比較的少なく、抗幻覚妄想効果>鎮静効果。 液剤は効果発現が想定的に速やか。 腎機能低下時は排泄遅延→過鎮静に注意 ・クエチアピン(セロクエル) 25~150mg 糖尿病に禁忌 パーキンソ二ズムが非常少なく適度な鎮静効果有り(時に過鎮静)。用量に幅があ るため使いやすい。半減期が短い。
#118.
せん妄の薬物療法(注射) <内服困難・拒薬傾向・即効性が要求される場合>など ・ルート確保時は副作用リスクの少ない静注が筋注より望ましい 即効性>持続性 セレネース1/2~1A+生食20ml側管より静注(ワンショット・数分) 即効性<持続性 セレネース1/2~1A生食100ml点滴静注(30分以上) ※パーキンソン病、レビー小体型認知症、重症心不全には禁忌(投与前に診断の有 無を必ず確認) パーキンソニズム、悪性症候群、QT延長・不整脈などの副作用に注意 <「鎮静」効果=「傾眠・入眠」効果を期待する場合> 日中の施行は慎重に ・セレネース1/2~1A+アタラックスP1A+生食100ml(30分) 呼吸状態不良時でも比較的安全に施行可能。 ※呼吸状態不良時のフルニトラゼパム(サイレース)やドルミカム使用は呼吸抑制( CO2ナルコーシス含む)・突然の痰詰まり、全身状態不良時のレボトミン筋注やコント ミン静注は血圧低下などでの急変の可能性の家族への説明、SpO2などバイタルの モニタリングなどを行う(正しい危険性の認識が必要)。BZ系投与自体もせん妄の増 悪ないし遷延化のハイリスクなことに注意(眠らない場合は逆に脱抑制リスクあり)
#119.
せん妄の薬物治療(注射) 静穏化が目標 定時ハロペリドール(5mg)0.5~1A+生食100ml 1時間で点滴(19時~) 不眠・不穏時ハロペリドール0.5~1A+生食100ml 30~1時間で点滴 鎮静化が目標 以下の使用は副作用必発の認識で施行 本人ないし家族への説明と同意が必須 クロルプロマジン(25mg)0.5~1A筋注 クロルプロマジン(25mg)0.5~1A+生食 100ml 1時間で点滴、入眠時点で終了 高頻度で起こる血圧低下に注意! ハロペリドール0.5~1A+フルニトラ ゼパム(2mg)1A+生食100ml 1時間で点滴、入眠した時点で中止 高頻度でおこる呼吸抑制(呼吸数減少 、喀痰貯留など)に注意! 入眠しない場合は逆に脱抑制のリスクあり
#120.
せん妄への薬物療法(注射) 上級編 • • • 内服も困難なほどの全身状態不良時、せん妄状態となることもある(終末期せん 妄含)が、患者本人は全身状態の不良を訴えることもできないことも多い。 複雑な意識障害であるせん妄を起こすほどの全身状態不良時に、不用意な向精 神薬投与は死亡につながる重大な副作用を生じることもあるが、不眠や興奮が患 者および治療・介護者に重度の苦痛や支障を生じる場合は、医師・看護師など医 療サイドが、効果と危険性をよくよく認識の上、家族にも説明して、下記を施行する ことも出来る(精神科医としては積極的に推奨はしない) セレネース1/2~1A+サイレース1/2~1A+生食100ml 1時間で点滴。入眠後に中止 呼吸抑制に注意(施行中・施行後も必ずモニタリング) 呼吸抑制での拮抗時、サイレースの半減期が長く、拮抗薬の効果切れに注意 • セレネース1/2~1A+生食100ml→ドルミカム持続(1mg/時間より漸減) 呼吸抑制・ドルミカムの耐性形成に注意。呼吸抑制時はドルミカム中止 • コントミン1A+生食100ml(30分) 血圧低下→急変に注意(施行中・施行後も必ずモニタリング)
#121.
急性の静穏・鎮静化が必要 D2 Block GABA 意識レベル低下 を避けたい 意識レベルを低 下させたい (催眠作用弱) (催眠作用中程度) D2 Block 経口可 リスペリドン (リスパダール Ⓡ)経口 経口不可 ハロペリド ール(セレネ ースⓇ) 筋注、点滴 D2+α, H Block 興奮強 レボメプロマ ジン (ヒルナミンⓇ) クロルプロマ ジン (コントミンⓇ) 筋注 GABA Block 不安強 ジアゼパム (ホリゾン、 セルシンⓇ) 筋注、静注 入眠させたい (催眠作用強) GABA Block 単回使用 フルニトラゼ パム(サイレー ス、ロヒプノ ールⓇ)点滴 持続使用 ミダゾラム (ドルミカムⓇ) 点滴 チアミラール(イソゾールⓇ) 静注 チオペンタール(ラボナールⓇ) 静注 プロポフォール静注 ヒドロキシジン(アタラックスⓇ) 筋注 電気けいれん療法(ECT) プレセデックス
#122.
静穏化・鎮静化に用いられる薬剤の効果と特徴(イメージ) 一般的に用量依存性 静穏化 鎮静化 リスパダー ル液 経口 セレネース 点滴 セロクエル 経口 ヒルナミン コントミン 筋注 セルシン 静注・筋注 サイレース 点滴 ドルミカム 点滴 抗幻覚・妄想 作用 ◎ ◎ ○ ○ ― ― ― 催眠作用 △ △ ○ ○ ○(急速静注 時は◎) ◎ ◎ 呼吸抑制 ほぼー ほぼー ほぼー △ ○(急速静注 時は◎) ◎ ◎ 循環抑制(血 圧低下) △ △ ○ ○ ○ ○ ○ 抗コリン作用 ○ ○ △ ◎ △ △ △ 効果発現時間 (およそ) 20分前後 点滴・静脈 15分前後 筋注 30分前後 30~60分 筋注 15分前後 静注:数秒~ 数分 筋注:10分前 後 静注:数秒~ 数分 静注:数秒~ 数分 その他 活性代謝 産物は腎 排泄 EPSに注意 糖尿病に禁 忌 抗ヒスタミン 作用大 拮抗薬あり 拮抗薬あり 作用時間長 め 拮抗薬あり 作用時間短 め
#123.
BZによる急速鎮静に伴うリスク • 呼吸抑制 中枢性呼吸抑制 ・延髄呼吸中枢ニューロンにGABA-A受容体発現 BZ⇒換気量↓ 上気道閉塞 ・咽頭気道拡張筋群の活性↓ ・解剖学的な上気道狭窄: 肥満、小顎、巨舌、扁桃肥大 ・不適切な神経筋反応(咽頭ニューロパチー) ・病前からのSAS • ベンゾジアゼピンによる脱抑制 ・脳損傷や衝動制御不良の患者 ・パニック障害や境界性パーソナリティ障害 123
#124.
各受容体のアンタゴニストの作用 受容体 アンタゴニストの作用 主作用 α1 鎮静作用 α2 抗うつ作用 D2 抗精神病作用、抗躁作用 5-HT1A (アゴニストとして)抗不安、抗う つ作用、錐体外路症状軽減 5-HT2A 抗うつ効果、睡眠の改善、EPS 軽減 5-HT2C 副作用 起立性低血圧、反射性頻拍症、過鎮静 高プロラクチン血症(乳汁分泌)、振戦、 アカシジア、急性ジストニア、遅発性ジ スキネジア、悪性症候群 食欲増進、肥満 5-HT3 嘔気の減少 H1 抗不安、睡眠 眠気、過鎮静、食欲増加、体重増加 M EPSの軽減 口渇、羞明、便秘、排尿障害、記憶障 害、意識障害
#125.
せん妄で用いる抗精神病薬の副作用 (モニタリング項目) 副作用 パーキンソン症状 転倒 観察項目 手のふるえや筋肉のこわばりなどはない か? 血圧低下 ふらつきはどうか? 過鎮静 朝の眠気はどうか? 過鎮静・嚥下障害 誤嚥性肺炎 食事中のむせはないか? QT延長 失神・突然死 ふらつきや動悸はないか? 心電図の確認 悪性症候群 意識障害・死亡 バイタルサイン(発熱・頻脈)やCPKの確認 アカシジア 不眠 落ち着きのなさはないか? 眼球上転 顔面の視診 便秘 排便の確認、腹部の診察(触診、視診) 排尿困難 排尿回数や尿量の確認 せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎
#126.
せん妄の悪循環の例 せん妄からの回復 せん妄 肺炎 多動・不穏 抗精神病薬過量 アカシジア 認知症 全身状態不良 嚥下障害 がん治療医が本当に知りたかった緩和ケアのレシピ 一部変更
#127.
せん妄での頻用薬の特徴と注意点 薬剤 一般名(商品名) 目安 投与量 内服薬 トラゾドン 25~ (デジレル・レスリ 100mg ン) 特徴 鎮静効果 短半減期 注意点 使用場面 幻覚妄想・興 奮強時は効果 不十分 クエチアピン (セロクエル) 25~ 200mg 鎮静効果 糖尿病に禁忌 短半減期 日中投与の傾 パーキンソ二ズム 眠 リスクが少ない 不眠を伴うせん 妄時(鎮静作用 強め) リスペリドン (リスパダール) 0.5~ 3mg 抗幻覚・妄想効果 ・液剤の利点(即 効性・内服しやす さ) 腎機能障害時 は蓄積・薬効 遷延→過鎮静 純粋な不眠時 は非推奨 主な問題が幻覚 妄想や興奮(鎮 静作用は弱め) パーキンソン 病、重症心不 全に禁忌 主な問題が幻覚 妄想や興奮(鎮 静作用は弱め) 注射薬 ハロペリドール (セレネース、リ ントン) 1/2~2A 抗幻覚・妄想効果 経静脈的投与は 副作用少なめ
#128.
せん妄における抗精神病薬の使い分け(イメージ) 定型抗精神病薬 急性の錐体外路症状のリスクが高い 非定型抗精神病薬 急性の錐体外路症状のリスクが相対的に低い。 幻覚・妄想抑制効果がメイン 長 作 用 時 間 <腎機能障害に慎重投与> アリピプラゾール (エビリファイ) いわゆる低活動型 せん妄時に使用? 入 リスペリドン 眠 (リスパダール) 効 果 は CKD時は蓄積に注意 本 来 ハロペリドール 期 (セレネース) 待 (リントン) し に く 内服不能時も使用可 い (静注や筋注あり) 入眠・鎮静効果も期待できる <糖尿病に禁忌> オランザピン (ジプレキサ) 入眠効果も期待可 難治性嘔吐時など 食欲増進効果あり ペロスピロン (ルーラン) 夜間せん妄中心 日中の過鎮静を避けたい時 短 弱 入眠・鎮静作用 <血圧低下に注意> クロルプロマジン (コントミン) (ウィンタミン) レボメプロマジン (ヒルナミン) (レボトミン) 強い入眠・鎮静効果 内服不能時も使用可能 (静注や筋注あり) クエチアピン (セロクエル) 入眠効果も期待可 食欲増進効果あり 強
#129.
せん妄での使用薬の特徴と注意点 薬剤 一般名(商品名) 内服薬 注射薬 目安 投与量 特徴 注意点 使用場面 トラゾドン (デジレル・レスリン) 25~100mg 鎮静効果 短半減期 幻覚妄想・興奮強時は効果 不十分 せん妄を疑う不眠、不 眠を伴うごく軽度のせ ん妄時(鎮静作用強 め) クエチアピン (セロクエル:QTP)) 25~200mg 鎮静効果 短半減期 パーキンソ二ズム リスクが少ない 糖尿病に禁忌 日中投与での傾眠のリスク 起立性低血圧、血圧低下の リスク 不眠を伴うせん妄時 (鎮静作用強め) クロルプロマジン(コ ントミン、ウィンタミ ン:CP) レボメプロマジン (レボトミン、ヒルナミ ン:LP) 10~25mg 鎮静効果 日中投与での傾眠のリスク 起立性低血圧、血圧低下の リスク 口渇、便秘のリスク 糖尿病を合併した不 眠を伴うせん妄時(鎮 静作用強め) 同用量で鎮静効果は リスペリドン (リスパダール:RIS) 0.5~3mg 抗幻覚・妄想効果 ・液剤の利点(即効 性・内服しやすさ) 腎機能障害時は蓄積・薬効 遷延→過鎮静・持ち越し 純粋な不眠時は非推奨 主な問題が幻覚妄想 や興奮(鎮静作用は 弱め) ハロペリドール (セレネース、リント ン:HPD) 1/2~2A 抗幻覚・妄想効果 経静脈的投与は副 作用少なめ パーキンソン病、重症心不 全に禁忌 主な問題が幻覚妄想 や興奮(鎮静作用は 弱め) ※幻覚妄想作用の有無、鎮静作用の有無、期待される薬剤の効果期間、糖尿病、 腎機能障害の有無などで薬剤を選択
#130.
せん妄に対する思考法と着眼点のまとめ • せん妄の症状や特徴を知り、せん妄を鑑別診断の一つにお けるようになる • せん妄は、「複雑な意識障害の一形態という認識」に基づい て、思考できる(必ずある何かの意識障害の原因があり、可 能な範囲で検索・対応すべきで、安易な薬物投与をしない) • 時系列、変曲点、日内変動に注目して,仮説思考しながら、 せん妄の有無を評価できる • なるべく原因を特定して、改善可能性=せん妄の可逆性・治 療可能性を予測する(蓋然性の高い仮説に基づき) • せん妄の介入・治療の本質は足し算ではなく引き算 • 薬物治療時はメリハリと作用機序に注意する
#131.
色々なせん妄 • • • • • アルコール離脱せん妄 薬剤性せん妄 認知症に重なったせん妄 終末期におけるせん妄 低活動性せん妄
#132.
アルコール離脱性せん妄 • • • • 最終飲酒後48~96時間以内に起こる事が多い 小動物幻視・作業せん妄が特徴的 予防はアルコールと交叉耐性のあるBZ系投与 発症時は、一般のせん妄と同様の対応(BZ系投与以外は)
#133.
入院時の飲酒の問診ポイント ⓪採血データ、病歴、病態などを再確認 ①飲酒歴(1日飲酒歴、飲酒の頻度、最終飲酒日時) ②摂食状態(食事をとらずアルコールだけで済ますことはない か) ③アルコール離脱けいれん、アルコール離脱せん妄(AWD)の 既往の有無 ④アルコール関連疾患(肝、膵臓疾患など)の既往の有無 ⇒本人だけでなく、家族・同居者などからの情報収集が望まし い(飲酒量など本人の陳述は、医学的意識でも、心理学的意識 でも当てにならない)
#134.
飲酒量の数値化=客観化 • 大量飲酒の目安はアルコール60g/日 20g×3が目安 日本酒(15%) 1合(180ml) ビール(5%) 中瓶(500ml) 焼酎(25%) 0.6合 チューハイ(8%) 中瓶(500ml) ワイン(12%) グラス2杯(200ml) • AUDIT-C(問題飲酒の重症度判定) 男性>5点 女性>4点 0点 1点 2点 3点 4点 飲酒頻度 飲まない 月1度以下 月2~4度 週に2~3度 週に4度以上 通常飲酒量 10~20g 30~40g 50~60g 70~90g 100g以上 大量飲酒(>60g)の頻度 ない 月に1度未満 月に1度 週に1度 ほぼ毎日
#135.
可逆性せん妄/不可逆性せん妄 可逆性せん妄 不可逆性せん妄 典型的な 原因 脱水、感染、高Ca血症、薬剤性 肝不全、腎不全、低酸素血症、脳転移 治療可能性 高い (原因へのアプローチが可能) 低い (原因へのアプローチが困難) 治療目標 せん妄からの回復 せん妄の部分的な症状(不眠や幻覚、不安・ 焦燥など苦痛な症状)の個別的緩和 直接因子 への介入 積極的に行う 部分的に行う 主な 薬物療法 抗精神病薬など ①抗精神病薬など ②抗精神病薬とBZ受容体作動薬の併用 ③十分量のBZ受容体作動薬の単独投与 個別的 ケア内容 ・見当識の回復、生活リスムの 補正 不穏・興奮(とされる)症状の緩和、睡眠確保 共通する ケア内容 身体管理(疼痛・便秘など)、環境調節、コミュニケーション、家族ケア せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎 一部改変
#136.
癌患者のせん妄の原因 中枢神経系への直接的侵襲 脳転移、脳炎、髄膜炎 臓器不全による代謝性脳症 肝・腎機能障害、呼吸障害 電解質異常 Ca、Na、Kの異常 薬剤性 感染症 血液学的異常 栄養障害 腫瘍随伴症候群 モルヒネ、ステロイド、抗 うつ薬、睡眠薬など 肺炎、尿路感染症など 貧血 全身性栄養障害(悪液質) ホルモン産生腫瘍 終末期では多要因かつ排除困難な場合が多い Breitbart Psycho-oncology, 1998
#137.
がんの臨床経過 ( ( 症 状 の 出 現 ・ 検 診 ) ( ( 化 学 療 法 ) 術 前 治 療 検査の苦痛 治療開始までの不安 ( 手( 化 術学 )療 法 ( 放・ 射分 線子 治標 療的 )薬 ) ( 術 後 化 学 療 法 ・ 放 射 線 治 療 ) 治 療 追 加 治 療 治 癒 経 過 観 察 治療の副作用 に伴う苦痛 長 期 生 存 後遺症の苦痛 社会復帰に伴う 不安・不全感 ( 放( 手 が( 射ん術 線薬) 治物 療療 )法 ) 再 発 再 発 治 療 終 末 期 死 亡 治療を巡る難しい決断 からだの病気のこころのケア チーム医療に活かす医療職の専門性 鈴木伸一編著
#138.
「がん」治療の目的 進 行 早期 度 終末期 がんを標的とした治療 治 療 緩和ケア 目 的 根治 延命 緩和・BSC がんでは死なない ようにする(できた) がんで死ぬとしても 出来るだけ長く生かす がん(関連)死は 避けられない 他疾患で死ぬ 上手くすれば,他疾患 で死ぬかもしれない 苦しまないように がん死させる BSC(Best supportive care):がんに対する抗がん剤などの積極的な治 療は行わず、症状などを和らげる治療に徹すること
#139.
緩和ケア領域では不可逆なせん妄が多い • それを「終末期」せん妄というかは不明も、終末期で あっても、約50%のケースで介入により改善可能だ ったという報告もある。 • 終末期であっても簡単に諦めずに、可逆的印すを検 索することは大切(本人・家族のACPや主科の主治 医の気持ちなど忖度しながら)
#140.
終末期せん妄 • 緩和医療において慣用的に用いられている用語(正確な定 義はない) • 「死亡前数時間~数日の状態で、腎不全を含む不可逆的な 多臓器不全の状態や、不可逆的な代謝性障害を生じ、全身 状態の改善が困難となった結果、改善の見込みのなくなった せん妄」 • 一般的に、終末期において、全身の機能低下と合わせて、 薬剤や脱水、感染などを理由に発症することが多い。特に、 薬剤が原因の場合は薬剤の中止、脱水の場合には補液な どにより、せん妄の改善を図ることが可能で、その原因の正 確な探索が重要になる
#141.
死亡までの2つの過程 錯乱 振戦 不穏 困難の道程 幻覚 せん妄 生 眠気 ミオクローヌス 傾眠 痙攣 昏迷 半昏迷 普通の道程 昏睡 死 緩和ケアの魔法の言葉 どう声をかけたらいいかわからない時の道標 緩和ケア 2016年6月増刊号
#142.
終末期せん妄の臨床的課題 • せん妄は、脳の機能障害の果てに出てくる最終形であり、そ の背景因子は多様であるが、精神症状として認知され、対応 も周知されている。 • 背景を評価せずに、「せん妄ならば○○する」といったような 1対1の対応は、臨床場面全体を見通す視点がなければ、 患者や家族に対して、有益な介入や治療を行うことはできな い • 特に、終末期の場面では、せん妄は不可逆的な状態である ことも多く、治療のゴールも、意識障害の改善ではなく、患者 の苦痛を軽減する点に移行していく必要がある。
#143.
身の置き所のない(restlessness)の鑑別 • 意識障害、せん妄 • 十分緩和されていない身体症状 痛み、呼吸困難、吐くに吐けない悪心、かゆみ • 尿閉(下腹部の確認) • 宿便(超音波や腹部レントゲン撮影で確認) • アカシジアの除外(ドパミン受容体拮抗薬の使用の有無) • ステロイドによる焦燥(投与開始後の症状増悪の有無) • アルコール、ベンゾジアゼピン、ニコチンの離脱症状 • 不安・焦燥(terminal anguish) 終末期・緩和医療におけるせん妄 小川朝生 老年精神医学雑誌 第35巻第5号 475~482
#144.
終末期のせん妄の原因と対応 せん妄の原因の検討 対応 脱水や腎機能障害 補液 感染 予後を考慮し、改善可能と考えられるならば抗生 剤による治療を行う 高カルシウム血症 補液、ビスホスホネート製剤 低マグネシウム血症 マグネシウム製剤投与 SIADH 低ナトリウム血症の補正 転移性脳腫瘍 ステロイド、他 オピオイド オピオイドの減量、スイッチング 薬剤の過量投与 原因薬剤の減量、中止 抗腫瘍薬、免疫療法 原因薬剤の減量 中止 終末期・緩和医療におけるせん妄 小川朝生 老年精神医学雑誌 第35巻第5号 475~482
#145.
通常診療のせん妄と終末期せん妄の比較① 通常診療 終末期 治療目標 ①意識障害の改善 ②精神症状に伴う苦痛の軽減 ③注意障害に伴う苦痛の軽減 ④Terminal anguishなど関連す る苦痛の軽減 ①○ ②○ ③○ ④基本的 にない ①最初は試みるが難しい場合には、 ②、③、④を優先する ②○ ③○ ④伴うこともありあわせて対応する。 場合により鎮静を含めた対応を多職 種で身長に検討する 要因への対応 原因の除去 原因の除去 ただし多臓器不全を背景に複数の 要因が重なることから、調整可能な 因子を同定し、可能な範囲で修正を 試みる ※ESMO(欧州臨床腫瘍学会)では、ハロペリドール、リスペリドンの使用は推奨され ていない。クエチアピン、オランザピンは苦痛緩和に有益の可能性を指摘 終末期・緩和医療におけるせん妄 小川朝生 老年精神医学雑誌 第35巻第5号 475~482
#146.
通常診療のせん妄と終末期せん妄の比較② 通常診療のせん妄 終末期せん妄 複合的ケア 予防 推奨される 急性期では、脱水や低栄養、疼 痛コントロール、多剤併用の回 避、積極的な離床を中心に行う 療養・介護施設では、見当識の 確保、視聴覚の強化、積極的コ ミュニケーションなど 終末期のケアからの移行の中で行われ る 終末期では、患者のベネフィットとケアに 伴う苦痛とのバランスを検討する 複合的ケア 治療(重症化、 遅延の予防) エビデンスは乏しいが、薬物療 法の前提として実施する 通常のケアからの移行のなかでおこわれ る。終末期では、患者のベネフィットとケ アに行う苦痛とのバランスを検討する 薬物療法 抗精神病薬 一般的に使用 軽症から中等症の終末期のせん妄に対 しては、苦痛緩和への利益が少ないかも しれない 薬物療法 ベンゾジアゼピ ン受容体作動薬 単独では使用しない 終末期のせん妄に伴う苦痛に対して、抗 抗精神病薬を補う意味で使用さ 不安効果、入眠、間欠性鎮静、調節的鎮 れる 静に使用 終末期・緩和医療におけるせん妄 小川朝生 老年精神医学雑誌 第35巻第5号 475~482
#147.
死が近づいたとき • 死後の予測、死の自然の過程で見られる徴候、身体の苦痛 や身体以外の苦痛を評価 • 治療・ケアの方針を患者・家族・医療者で確認し、症状緩和 のための薬物療法やケアを提供する • 患者・家族の病状認識を確認し、それぞれの思いを配慮した 声がけをする。家族の疲労や健康状態にも配慮することが 必要
#148.
臨終前後の望ましいケア • 医療者が患者・家族の傍らにいて傾聴や共感を示し、希望を 支え、誠実に穏やかに対応する • 身体をさすること、聴覚は維持されやすいので話しかけるな ど具体的に説明することで患者・家族とのコミュニケーション を促進する • 予測される経過や時間を説明する
#149.
治療抵抗性の耐えがたい苦痛に対しての鎮静薬の投与 耐えがたい苦痛 治療抵抗性 フローに乗らない場合 ①苦痛緩和の強化 ②精神的ケアの強化 ③間欠的鎮静(必要に応 じて) 患者の意思と相応性から持続的鎮静が妥当 持続的な鎮静薬の投与 調節型鎮静 原則的に 相応性 ①苦痛の強さ ②治療抵抗性の確実さ ③予測される生命予後 ④効果と安全性の見込み 持続的深い鎮静 状況に応じて(限定的に) 149
#150.
鎮静のメリット・デメリット メリット 調節型鎮静 コミュニケーションで きる可能性がある デメリット 苦痛緩和が十分に 得られない可能性が ある 持続的深い鎮静 確実な苦痛緩和が得 コミュニケーションで られる可能性が高い きなくなる 150
#151.
高齢者におけるせん妄の原因 ①中枢神経疾患:脳血管障害,慢性硬膜下血腫,髄膜炎,脳膿瘍,脳腫瘍 ,頭部外傷 ②代謝性疾患:脱水,電解質異常,低血糖,腎不全(尿毒症),肝不全,甲 状腺機能亢進症,クッシング症候群 ③循環器疾患:うっ血性心不全,急性心筋梗塞,不整脈,ショック ④呼吸器疾患:呼吸不全(低酸素血症,高炭酸ガス血症) ⑤感染症:尿路,呼吸器 ⑥その他の全身疾患:貧血,悪性腫瘍,感覚遮断(視覚,聴覚),全身麻酔 ,外科手術,断眠,疼痛,尿閉,便秘 ⑦環境変化(入院とくに集中治療,入所,旅行,転居):精神的ストレス ⑧薬品:抗コリン薬,抗不安薬,睡眠薬,抗うつ薬,抗痙攣薬,抗パーキンソ ン病薬,ジギタリス,利尿薬,H2 ブロッカー,テオフィ リン,消炎鎮痛薬,抗 ヒスタミン薬,アルコール,市販の感冒薬 老年医学テキスト改訂第 3 版 2008,P78―80 日本老年医学会編.
#152.
#153.
せん妄に対する精神科医の本音 • 一部の総合病院精神科医の熱心な啓発もあり、せん妄=精 神科コンサルトとなる向きがあるが、せん妄は身体疾患や薬 剤、手術、あるいはターミナルなど身体疾患など身体的スト レスが基本にある複雑な意識障害であり、一次的には、身体 疾患を治療しないと改善しない病態である(時間差もある)。 • 精神科医は、せん妄の診断、対症的な薬物治療(抗精神病 薬)はできるかもしれないが、せん妄の身体疾患の原因検索 ・特定やせん妄の原因となる身体疾患の治療は一意的に主 治医の領分であり、本質的には精神科で「治療」できない、と 大体の精神科医は思っている。精神科医もコンサルトする側 も、患者を、更に自分を守るためにも適切な学習(訓練)と教 育が必要である
#154.
参考文献 おすすめ
#155.
研修医のための学びのあるせん妄研修 リエゾン依頼 他科からせん妄(疑含)についてリエゾン介入依頼 頼診券熟読(未来の自分が頼診側になった気持ちで) カルテ予診 電子診療録から情報収集→仮病歴作成 (経過と誘因候補の探索、適宜指導医が援助) 新患・往診 初診時は指導医と併診・症状把握・診断 方針決定・伝達 フォローアップ 指導医と治療方針を協議・指導医確認 治療開始(定期薬・頓用指示他) 研修医単独で再来・診察・情報収集・指導 医報告・相談⇒リエゾン回診でフォロー
#156.
さいごに • • 総合病院精神科(有床・無床)数カ所で、精神科医として臨床する中、複 雑な意識障害のはずのせん妄が、なぜか精神科にふられるということに 、長年、違和感を感じていました。確かに、精神症状であるも、本質は意 識障害であり、何かしらの原因があるも、精神科医でしかない自分には 鑑別が難しく、例えば、SLEや脳梗塞などによる脳炎の症状としてのせん 妄(脳幹というか大脳皮質も含めての問題ですが)などを疑っても、なか なか、それを身体科の先生に上手く説明できなかったり、色々怖い思い をする中、色々な失敗を経て、色々な知識を身につけました。 まだ上手く自分の中で統合できず、また、人に教えるには、まだまだ完熟 が足りず、ボリュームが増えすぎましたが、今の病院に移り、数年経ち、 ようやく、精神科を1ヵ月回ってくれる臨床研修医も出はじめ、このスライド をもとに解説しながら、自分の知識の再構成とどう伝えるべきかを模索 中です。上手くまとめられず申し訳ありませんが、もしここまで読んでいた だけた方がいれば、感謝を申し上げます。いずれ、別の疾患・病態でも。 156