#4.
しかし、 シートベルトを装着したことで発⽣する外傷も存在する 本症例はそんなシートベルト外傷の1例である Gumler et al, Distraction Fractures of the Lumbar Spine, The Journal of Bone and Joint Surgery, Vol. 64, No. 5, 1982.
#5.
症例 患者︓ 30歳 男性 既往歴・内服歴︓ 特記事項なし 現病歴︓ X⽉X⽇⾼速道路を約100km/hrで⾛⾏中に 右⾞線から幅寄せしてきた⾞を避けようと 左にハンドルを切ったところ電柱に正⾯衝突して受傷。 本⼈は運転⼿でシートベルト装着しエアバック作動あり
#6.
Primary Survey(初期評価) Airway A: 気道開通 Breathing B: 呼吸数 20/min、SpO2 100%(RM 10L/min) Circulation C: HR 98/min、BP 144/107mmHg、 末梢冷感・湿潤なし Disfunctin of Central Nervous System D: GCS E3V5M6、四肢⿇痺なし、対光反射迅速 → 静脈路確保し、Secondary Surveyへ
#7.
Secondary Survey(詳細観察) 頭部: 右眉⽑部に擦過傷 胸部: 右前胸部に圧痛 腹部: 平坦・軟、⾃発痛・圧痛あり、筋性防御あり シートベルト痕あり、tapping pain/反跳痛なし 背部: 脊柱叩打痛なし
#8.
左上図︓ 肺挫傷 (右第4/5肋⾻胸膜直下) 左下図︓ 左第10肋⾻⾻折 右下図︓ 左第2腰椎 横突起⾻折
#9.
腸間膜損傷(L4/5レベル) 上図︓動脈相 下図︓平衡相 両⽅のCT画像で 造影剤⾎管外漏出を認める。 ➡ 活動性の出⾎あり
#10.
腹部⼤動脈解離(L2/3レベル) 左図︓⽮状断 右図︓冠状断
#11.
負傷部位のまとめ 肺挫傷 (右第4/5肋⾻胸膜直下) 左第10肋⾻⾻折 左第2腰椎横突起⾻折 腸間膜損傷(L4/5レベル) ⼤動脈解離(L2/3レベル)
#12.
初診時検査所⾒ WBC Hb plt INR APTT Ddimer T-Bil AST ALT ALP γ-GTP 276 16.6 35.8 0.99 24.2 13.5 102/μL g/dL 104/μL 1.2 56 42 233 39 mg/dL U/L U/L U/L U/L 秒 μg/mL ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! Na K Cl BUN Cre CK 141 3.8 106 16 0.79 499 mEq/L mEq/L mEq/L mg/dL mg/dL U/L CKMB 3.5 トロポニンI 0.01 149 ⾎糖 ng/ml ng/ml mg/dL
#13.
初診時⾎液ガス分析 pH pCO2 ① 静脈⾎ ②動脈⾎ 7.29 7.33 55.0 40.0 mmHg pO2 HCO3 Base Excess Anion Gap 乳酸値 38.7 25.7 -2.0 66.3 20.6 -4.9 mmHg mmol/L mmol/L 11.7 2.85 10.9 mmol/L 3.63 mmol/L 時間経過で乳酸値が上昇 ⇨ 出⾎性ショックが進んでいる
#14.
⼊院後経過 第1病⽇︓ 腸間膜損傷 + ⼩腸穿孔(術中に判明)に対し 開腹⽌⾎術 + ⼩腸部分切除術施⾏ 第9病⽇︓ ⼤動脈解離に対するステントグラフト内挿術施⾏ 第24病⽇︓ 独歩退院
#15.
シートベルト症候群 機序:ベルトが上前腸⾻棘上を滑り、腹部に⾷い込む F. O'Kelly, Ir J Med Sci 2008;177:385-387 三徴:シートベルト痕、腸管損傷、腰椎⾻折(L1-3) Konstantinos O, Ann Vasc Surg 2015;29:365.e11-365.e15 Al-Ozaibi L, IJSCR 2016;20:74-76 改訂第5版外傷初期診療ガイドライン JATEC. へるす出版,東京,2017.
#16.
シートベルトによる腸管損傷 シートベルト痕がある場合、腸管損傷の併発率が8倍 Al-Ozaibi L, IJSCR 2016;20:74-76 直達損傷:前⽅から脊椎⽅向に外⼒が加わり その間にある臓器が直接損傷を受ける 介達損傷:前腹部に加わった衝撃が腹圧を上昇させ 内圧の伝播により臓器の破壊が⽣じる (⼩腸、⼗ニ指腸はCループで破裂する) 改訂第5版外傷初期診療ガイドライン JATEC.へるす出版,東京,2017.
#17.
シートベルトによる腰椎⾻折 腰椎の椎体前部にシートベルトが押しつけられると そこを⽀点として椎体後部に上下⽅向の剪断⼒が発⽣ このような⾻折を『チャンス⾻折』と呼ぶ 腹部を横断するシートベルトが原因となるため L1-3の間に⽣じることが多い
#18.
シートベルトによる⼤動脈解離 ⼤動脈解離は腎動脈以遠(ZoneⅢ)で多い Sherene S. J Vasc Surg 2012;55:1277-86 L2/3腰椎間で動脈解離を来す報告が多い(私⾒) Konstantinos O, Ann Vasc Surg 2015;29:365.e11-365.e15 Dan WP. Ann Vasc Surg 2015;29:1316.e1-1316.e6 Ivan T. Ann Vasc Surg 2018;53:270.e13-270.e16 Paritosh C. Pediatr Radiol 2008;37:87-90
#19.
外傷性腹部⼤動脈損傷の特徴 外傷性腹部⼤動脈損傷は全鈍的外傷の0.04% うち、1/3がシートベルト装着に由来する M. Ahmed, Cureus 2019;11(5): e4662. 搬送時に⾒落とされ 36%が受傷1週間後以降に発⾒される Le Pimpec-Berthes F, AERCV. 1995;407-425 死亡率は⾮外科的加療で75%、外科的加療でも37% Jean PB, J Vasc Surg. 2003;38:997-1004 頻度が少なく、⾒落とされやすいが 死亡率は⾼い
#20.
鈍的⼤動脈損傷の分類 内膜剥離 ⼤内膜 フラップ 内膜が裂けて ⾎栓の幅と ⻑さがどちらも <10mm 内膜が裂けて ⾎栓の幅と ⻑さがどちらも >10mm 仮性 ⼤動脈瘤 ⼤動脈 破裂 外膜の 形態異常あるが 外膜が 破綻していない 外膜の 形態異常あり 外膜が 破綻している Benjamin WS. J Vasc Surg 2012;55:47-54
#21.
鈍的腹部⼤動脈損傷の分類毎の治療 • 内膜剥離︓保存 • ⼤内膜フラップ︓⾎管内治療 or ⼿術 • 仮性⼤動脈瘤︓⾎管内治療 or ⼿術 • ⼤動脈破裂︓緊急⼿術 Sherene S. J Vasc Surg 2012;55:1277-86 腸管内容物が腹腔内に漏れている場合 循環が安定しているなら感染リスク踏まえ ⾎管内治療が第⼀選択となる Ivan T. Ann Vasc Surg 2018;53:270.e13-270.e16
#22.
Take Home Message 交通事故の被害を軽減するシートベルトだが 「シートベルト装着による外傷」が存在する シートベルトによる腹部⼤動脈損傷は 頻度は少ないが、⾒落とされやすく、死亡率が⾼い シートベルト症候群の三徴 (シートベルト痕、腸管損傷、腰椎⾻折)を認めた場合 腹部⼤動脈損傷を考慮する必要がある シートベルト使⽤による⼤動脈損傷は 腎動脈以遠で多く、特にL2/3腰椎間で発⽣する