テキスト全文
一酸化炭素中毒の概要と影響
#2. 本スライド対象者 •CO中毒の具体的な流れを再確認したい 救急科医 •⽕災事故患者がくる救急外来で研修する 初期研修医 •⼤雪による⽴ち往⽣が起こる地域で働く 医療従事者
#3. ⼀酸化炭素中毒とは ⼀酸化炭素(CO)中毒は 世界的な中毒死および中毒による後遺症の主要な原因である。 本邦の⽕災による死因では 「CO中毒」と「⽕傷」が 1位, 2位を毎年争っている。 (消防庁より)
一酸化炭素中毒の原因と症状
#4. ⼀酸化炭素中毒が起こるシーン • • • • • 暖房設備や給湯設備の不具合 換気不良な⾞庫内でのガソリン⾞の排気ガス(雪埋れ) 換気不良な室内での囲炉裏の使⽤ ⽕災などによる事故(逃げ遅れ) 練炭燃焼やガソリン⾞の排気ガスなどによる⾃殺 COは炭化⽔素や炭素の不完全燃焼によって⽣じる。 毒性が⾮常に強いガスで無⾊, 無臭, 無刺激性である。
#5. ⼀酸化炭素中毒の機序 COは肺胞より取り込まれ ヘモグロビン(Hb)と結合する。 その親和性は酸素の200〜250倍。 CO-Hbが多量に⽣成されることで Hbの酸素運搬能は低下する。 COは⼼筋細胞内の (酸素を貯蔵する)ミオグロビンにも結合し ミトコンドリアヘの酸素供給をさらに減少させる。
#6. ⼀酸化炭素中毒の急性期症状 エネルギー代謝速度の速い「脳」と「⼼臓」の症状が出る その他︓深紅⾊の⽪膚, 鮮紅⾊の静脈⾎, 流産
CO中毒の診断と初期対応
#7. CO中毒の遅発性 (間⽋型)脳症 時期: CO暴露数⽇から5〜6週間後に急速に出現 原因: 不明(⾃⼰免疫反応による脱髄性病変か? ) 危険因⼦: 36歳以上, 曝露時間が24時間以上。 「急性期の重症度」と「CO-Hb濃度」は関係ない。 症状: 精神病症状, 無⾔・無動, うつ状態, ⾃発性の低下, 精神症状 集中⼒/注意⼒低下, 遂⾏能⼒低下, 社会適応障害 錐体外路症状(パーキンソニズム), 錐体路症状(腱反射亢進) 神経症状 失⾏, 失認, 失⾒当識, 記銘⼒障害, 失外套症候群
#8. ⼀酸化炭素中毒の診断 ① COの暴露歴を確認 (可能なら現場のCO濃度測定) ② CO-Hb濃度測定 (パルスCOオキシメータ を使⽤) 正常値︓⾮喫煙者<2%, 喫煙者 5〜13% ただし,⻑時間暴露では10%以下でも危険︕ ③ 頭部MRI撮影 淡蒼球や基底核, ⽩質が DWI と FLAIR で⾼信号 ただし, 画像で異常がないことも多い Jeon SB. JAMA Neurol. 2018 Apr 1;75(4):436-443.
#9. CO中毒対応の流れ ⓪ 電話指⽰ ① 全⾝管理 ② 合併症検索 ③ HBO適応検討(後述) ④ ⼊院対応
#10. ⓪救急⾞受け⼊れ時の電話指⽰ • CO中毒疑い ⇒ 100%酸素投与を指⽰ (リザーバーマスク10L/min以上) 純酸素投与でCO-Hbの半減期を短縮(最重要治療) • 集団暴露の疑い ⇒ 全員病院受診を指⽰ • 更なる暴露の予防 ⇒ 現場の換気、避難を指⽰ • CO中毒以外の病態検索 ⇒ 熱傷の有無, 過量服薬の有無の確認 (⾃殺企図など)
CO中毒の合併症とHBO治療
#11. ①全⾝管理のPoint •ABCの安定化を図る A/B︓純酸素投与の継続 A︓気道熱傷, ⾆根沈下の確認 B︓呼吸様式, 肺⽔腫の確認 C︓重症不整脈, たこつぼ⼼筋症の確認 • 状態評価・合併症の検索を⾏う (次ページ👉)
#12. ②合併症検索 CO中毒では低酸素ストレスの症状が出現する • ⼼筋障害 ⇒ ⼼電図、⼼筋逸脱酵素チェック • 乳酸アシドーシス ⇒ ⾎液ガスチェック • 肺⽔腫 ⇒ 胸部CT/レントゲン • 神経症状 ⇒ 頭部CT/MRI • ⽕事であればシアン中毒, 気道熱傷をチェック ⇒ ⾎液ガス(乳酸アシドーシス), 喉頭ファイバー
#13. ③⾼気圧酸素治療装置(HBO) HBO療法(Hyperbaric Oxygenation Therapy)とは ⼤気圧の2〜3倍の気圧下で 100%酸素を投与する治療法である。 CO中毒に対する1回の治療は 2.5~3 ATAで 90〜120分使⽤する。 (圧⼒単位: Atmosphere Absolute) HBO療法によって CO-Hbの半減期は約5時間から 約20分(15~30分)に短縮される!
#14. ③HBO適応の検討 適応A (通常のHBO基準)︓ 適応B (相対禁忌があっても施⾏を考慮すべき重篤な状態の基準): CO-Hb>10% 36歳以上かつ暴露から24時間以内である 24時間以上の暴露 適応Bに該当する CO-Hb>25%(妊婦でCO-Hb>20%) ⼼筋傷害, pH<7.20, 神経学的異常が遷延
#15. ③HBO適応の検討 絶対禁忌︓ バイタルサインのモニタリングが必要 挿管管理中, ⼈⼯呼吸器管理(NPPVも含む) 従命が⼊らない, 薬剤持続投与中 相対禁忌︓ 閉塞性換気障害(喘息、COPD) 上気道炎・副⿐腔炎・中⽿炎 閉所恐怖症 気胸がある(全例CTで確認︕)
HBO治療の適応とプロトコール
#16. ③HBO適応フロー 適応Aに該当 YES 絶対禁忌に該当 NO 相対禁忌に該当 NO HBO施⾏ NO NBO施⾏ *NBO︓Normobaric Oxygen Therapy YES YES NBO施⾏ NBO施⾏ NO NO 適応Bに該当 YES 禁忌に対応可能 YES HBO施⾏
#17. ③HBOプロトコール • 診断後なるべく早く施⾏ • 原則3⽇間施⾏(保険適応は10回まで) • 1回 2気圧 120分(施設により異なる) • 1⽇1回施⾏。その他の時間はNBOを施⾏する。 • 初回施⾏後もCO-Hb>10%なら同⽇にもう⼀度施⾏ 【NBOプロトコール】 • リザーバーマスク10L/minでCO-Hb<2%になるまで継続 • HBOを施⾏しないなら最低24時間はNBOを施⾏する
#18. ③HBOの加圧プラン 2.2 ︓空気投与 ︓純酸素投与 2 Atm 1.8 1.6 1.4 1.2 1 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100 105 110 115 120 Time(分)
#19. ③HBOの合併症 圧損傷 気胸, 中⽿炎, 副⿐腔炎 中⽿・副⿐腔・⻭の締め付け感 酸素毒性 (空気投与の時間を設けることで発⽣率低下) 可逆性視⼒障害︓数⽇から数週間で改善することが多い 肺︓咳嗽の出現, 呼吸機能低下 けいれん︓不可逆的な脳損傷をきたすことは少ない 減圧症︓疲労感, 筋⾁痛, 関節痛, 脳卒中様症状
#20. ③HBOの中断基準 中断基準: 強い苦痛の訴え, ABCDの異常が疑われる HBO合併症の発症が疑われる 中断⼿順: 酸素濃度100%のまま減圧する 減圧速度は通常速度で⾏う 減圧後は必要最⼩限の酸素投与とする 再導⼊基準: 合併症への対応が可能であり かつ, HBO適応の状態である
退院後のフォローと注意点
#21. ④⼊院対応 • 酸素投与終了後に症状が落ち着いていて かつ, CO-Hbの再上昇が無いことが確認できれば退院可能 • 退院時は間⽋型脳症の説明をし, かかりつけヘフォローを依頼 • ⾃殺企図であれば精神科のフォローを⼊れる • 囲炉裏などが原因の場合, 暴露予防を促してから退院させる
#22. 間⽋型脳症の病状説明Point 暴露数⽇以降に 間⽋型脳症と呼ばれる神経障害を認める場合がある 急性期のHBOをはじめとした治療で その発症率が下がることが報告されている 機序は完全には明らかになっておらず 急性期の治療ができても間⽋型脳症は防げないことがある 間⽋型中毒に対する確⽴された治療はない 年単位で改善していくこともあるが, 後遺症が残ることもある
#23. Take Home Message • CO中毒は不完全燃焼で発⽣する死亡数の多い中毒である • 低酸素ストレスにより脳と⼼臓を中⼼にダメージを受ける • 酸素投与および⾼気圧酸素療法が最重要治療である • 急性期を乗り越えても間⽋型脳症を認めることがある • 退院後はCOへの暴露予防に努めることが重要である