テキスト全文
胸腔穿刺・ドレナージの基本と重要性
#1. 胸腔穿刺・ドレナージ より安全に、より効果的に 番場祐基
内科医(呼吸器内科・感染症科)、救急医
ブロガー(内科医のジレンマ)
#2. 内科医
専門は呼吸器領域と感染症ですが、とりあえずなんでも診る
島暮らしをきっかけにブログ活動をスタート
ブログ「内科医のジレンマ」同Facebookページ
Twitter:@LostphysicianYB
ひょんなこと(?)から救命センター勤務に集中治療領域で内科医だからこそできること!を模索中 番場 祐基 新潟大学医歯学総合病院 高次救命災害治療センター同 呼吸器・感染症内科
#3. 胸腔穿刺、ドレナージは非専門医でも行う可能性がある手技である
十分な準備といくつかのポイントを守れば重大な合併症リスクは軽減できる
適応を考えること、安全性を最優先することが最も重要である
胸腔穿刺の適応と手技のポイント
#4. 胸腔穿刺の適応/禁忌を知る
必要な物品を確認する
安全な手技のこつをマスターする
#5. 胸腔穿刺/ドレナージを行う可能性がある医師(特に非専門)
介助につくスタッフ
#6. 胸腔穿刺の適応とリスク
胸腔穿刺の手技
胸水検査について
胸腔ドレナージの適応とリスク
胸腔ドレナージの手技&おまけ
胸腔穿刺のリスクと安全対策
#8. 胸腔穿刺の適応とリスク 胸腔穿刺・ドレナージには絶対的な禁忌事項はない。
メリット、デメリットを総合的に判断する必要がある 8 1) PMID: 34896096 適応 胸水貯留の原因検索漏出性?滲出性?強く漏出性を疑う場合以外は穿刺が望ましい
胸水貯留に伴う症状の緩和
自然気胸の脱気 リスク1) 医原性気胸(3.3%)
出血(1.7%)
再膨張性肺水腫(極めて稀、〜0.1%)
#9. 出血リスク 大出血のリスクは少ない手技である
エコーは必須!! 9 1) PMID: 1996485、2) PMID: 33905681、3) PMID: 34896096 最も重要なポイント リスクのある患者に、今穿刺する必要があるか? PTが正常値の1.2-2倍〜、血小板数5-10万〜なら出血性合併症は増加しない1)
メタ解析では凝固障害のある患者への胸腔穿刺・ドレナージによる大出血と死亡率は0%(95%CI、0-1%)2)
大出血の発生率はエコーの使用が明示されている研究では0.04%に対して、明示されていない研究では0.5%であった3)。
抗血小板薬や抗凝固薬に関しては十分なデータがない。できれば中止が望ましい
胸腔穿刺に必要な物品と手順
#12. 12 1) PMID: 17035643 体位/穿刺位置 穿刺部位の選定が最も重要
患者の協力を得られない場合は無理をしない エコーで、上下の肋間でも十分穿刺可能な位置を探す
穿刺部から胸腔内までのおおよその距離を測定
脊柱から5-10cm外側
肋骨上縁を穿刺する ポイント 第9肋骨より下部は腹腔内損傷リスクが高いので❌
どうしても座位が困難なら、患側を下にした側臥位か、ベッド上で頭側を上げるか、仰臥位で行う 注意点 Thoracentesis
Wikimedia Commons
#13. 手順 麻酔および穿刺針を胸壁に対して垂直に穿刺し、肋骨上縁を通る最短ルートを 13 動画あります NEJM 2006; 355:e16(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMvcm053812) 消毒 マキシマルバリアプリコーションが基本 ドレープを貼る 局所麻酔 表皮麻酔後、肋骨上縁に沿って陰圧をかけ2-3mmずつ進めながら麻酔を散布
一番痛い壁側胸膜に十分麻酔する(気体・ないし液体が引ける手前)
到達点までの距離を覚えておく 試験穿刺・本穿刺 2と同じ経路で陰圧をかけながら針を進める
胸腔内に到達したら、数mm針を進め、外筒のみ留置 延長チューブを接続 (ドレナージ) 点滴筒部分を切断した輸液セットを接続し、排液バッグへ 1 2 3 4
#14. 排液量は? 再膨張性肺水腫の予防 稀な合併症
安全に行うなら1500ml/回以上の排液は行わないほうがよい 14 1) PMID: 33905681 最も重要なポイント 急激な排液は行わない 胸水排出量の上限を決めている学会やステートメントが多いが、このレビュー1)ではこれを必ずしも支持しないとしている
排液量1500ml以上で発症率が増加した、胸腔内圧<-20cmH2Oで発症するなどの報告
動物実験では肺虚脱の時間が長いほど発症しやすいことが示唆されている。
予測不能な有害事象であるが、リスクを最小限とするために生理学的異常や胸痛、持続的な咳などの症状が出現したら排液を中止すべき
治療:酸素投与、必要に応じて陽圧換気、モルヒネ投与など
胸水検査の方法と注意点
#16. 胸水検査 検査前確率が重要
比較対象となる血清検体の採取や項目忘れには注意 16 1) PMID:12075059、2) PMID: 21459855 参考:胸膜疾患のすべて 改訂第3版, 2015 基本検査
Light基準1) 滲出性or 滲出性疑い その他 総蛋白(Alb)
LDH
コレステロール
細胞数/細胞分画
グルコース
Gram染色/培養
pH ADA(結核性胸膜炎)
アミラーゼ(膵性胸水)
RF(リウマチ性胸膜炎)
TG(乳び胸) 項目 血液培養ボトルに
直接注入2)
#17. 17 PMID:12075059 Lightの基準1) 胸水貯留の原因や鑑別の詳細については割愛・・・
胸腔ドレナージの適応とリスク
#19. 胸腔ドレナージの適応とリスク 一番の問題点は穿刺・チューブによる疼痛、一番怖いのは血管・臓器損傷
治療として必要か、症状緩和につながるかを考えるべき 19 1) PMID: 34896096 適応 気胸-治療
胸水-症状緩和or治療(悪性胸水への胸膜癒着)
膿胸-治療
外傷性血気胸-治療
術後管理 リスク1) 出血(1%)胸腔穿刺と同等だが、大出血の発生率は0.7%と胸腔穿刺より高い
再膨張性肺水腫
ドレーン閉塞(6.3%)
ドレーン脱落・変位(6.8%)
感染(5.8%)
動脈損傷、臓器損傷
#20. 20 参考)PMID: 20696690 気胸 原則、中等症以上は胸腔ドレナージの適応 胸壁までの距離≦2cmかつ呼吸困難感がなければ軽症として、経過観察可能
中等症でも単回穿刺が有効なことがある
(穿刺のみの方が合併症、入院期間が短い) ポイント 続発性気胸は注意が必要①癒着:緊張性気胸や重症でなければ原則CT撮影②穿刺はリスクが高い 注意点
胸腔ドレナージの手技と物品
#22. 胸腔ドレナージに必要な物品 22 個人的にはモスキートがベスト
#23. 23 物品の準備−胸腔ドレナージ− 気胸は比較的細径でもよい(痛みは細い方が少ない)外傷など不安定性が懸念されるなら24Fr〜
膿胸、悪性胸水は比較的太径が望ましい(20Fr〜) 薬剤注入(癒着、線維素溶解療法)を行うならダブルルーメンの比較的太いチューブを選択
続発性気胸もやや太め癒着などの処置を考慮し、ダブルルーメンを選択 チューブ選択のポイント バッグも色々…
#24. 24 Cardinalhealth, Inc Argyle™ トロッカーアスピレーション キット 気胸
胸水貯留 胸腔ドレナージに必要な物品 アスピレーションキット 一方向弁(アスピレーションバルブ)がついており、
脱気・排液が可能
臓器の誤穿刺の報告が多い
胸腔ドレナージの手順と注意点
#25. 25 1)PMID: 20696688 体位/穿刺位置 第4、5肋間 前腋窩線上が第一選択(safe triangle)
エコーは必須 上腕を頭側へ外転させるか、頭の後ろへ回す
原則、第4、5肋間 前腋窩線上を第一選択とする
エコーで穿刺位置と胸腔内までの距離を確認する ポイント 胸水の場合、さらに下の肋間や背側からドレナージを行うこともある(第6,7肋間、中腋窩線上)が、臓器損傷や筋肉の損傷リスクが少し高くなる。また背側すぎると仰臥位の際に苦痛となる。
仰臥位がとれないようなら側臥位も可 注意点 大胸筋外側、広背筋前縁、乳頭の高さより上
#26. 手順 鈍的剥離の操作には慣れが必要。後述する。 26 1)PMID: 20696688 消毒 マキシマルバリアプリコーションが基本 ドレープを貼る 局所麻酔 表皮麻酔後、肋骨上縁に沿って陰圧をかけ2-3mmずつ進めながら麻酔を散布
一番痛い壁側胸膜に十分麻酔する(気体・ないし液体が引ける手前)
到達点までの距離と方向を覚えておく 皮膚切開・鈍的剥離 肋骨に、水平に2cm前後の切開を加える
鉗子を患者に向け、圧をかけながら押し広げる(1枚1枚剥ぎ取るように)
肋骨上縁を進め、閉じた鉗子で胸膜を穿破する ドレーンチューブの挿入 チューブの先端を鉗子で把持し、挿入する(気胸では頭側、胸水では尾側へ)
挿入した深さを記録し、最終的に胸部X線で位置を確認する基本的に「ドレナージが効いていれば」どこでもよい 1 2 3 4 チューブの固定 0または1-0の絹糸で創部を縫合+ドレーンを固定する
縫合・固定方法は色々。残ったチューブもテープで皮膚に固定する
バッグに接続し、接続部を結束バンドで固定する 4 透視下が
一番安全
#27. 27 皮膚切開のポイント 穿刺困難、誤穿刺のリスクになるため、皮膚切開は十分に大きく、真皮まで 肋骨部への皮膚切開は十分余裕をもって (直径の1.7〜1.8倍くらい。小さいと穿刺困難になる)
皮膚切開時、気胸なら皮膚を上に、胸水なら下に引っ張る(皮下トンネルの入口と出口に高低差が生まれる) ポイント 注意点 真皮まで十分に切開を加える
出血の多くは圧迫すれば止血できるのであわてない ドレーンチューブ直径の
1.7-1.8倍 Gray's Anatomy 40th edition Churchill Livingstone,2008
#28. 28 1) PMID: 35618677 鈍的剥離のポイント 鈍的剥離にはそれなりに力が必要。勢いで鉗子が進みすぎないように反対側の手で抑える
皮下-胸腔トンネルを十分に広げて、胸腔側の出口を見失わないように 鈍的剥離、特に胸膜穿破時には反対の手で鉗子を抑えストッパーにする
1枚1枚、丁寧に剥ぐイメージ
モスキート鉗子が一番安全である可能性1) ポイント 鉗子の先端が胸腔に対して垂直になるように進める(「曲がり」を使うときは、特に注意)
鉗子や指で十分に皮下トンネル、特に胸膜を広げておく(トンネルの先が迷子にならないように)
可能なら癒着がないか、指を入れて確認する 注意点
ドレナージボトルと吸引の基本
#29. トロッカー 現在もトロッカーカテーテルが主流であるが、トロッカーを用いたドレーンチューブ留置は推奨されない 29 1) PMID: 24648468 重要なこと トロッカー(内筒)を胸腔内に入れない トロッカーの先端は鋭利であり、重要な縦隔構造物を誤穿刺するリスクがある
トロッカーを使用したドレーンチューブ留置の方が合併症が多いことが報告されている1)
トロッカーを使用せず、なるべく鉗子で胸腔内にチューブを誘導すべき
トロッカーを使用する場合には、胸腔内にトロッカーが入らないように細心の注意を払うべき
#31. 31 ドレナージボトル&吸引 病院によって採用されているドレナージボトルが異なる
基本的にみるべきポイントは一緒<呼吸性変動><エアリーク><排液の量と性状> 排液部/水封部/吸引圧制御部の3つからなる
チェストドレーンバッグは吸引圧制御ボトルの注水量で、メラサキュームは吸引圧を設定することで調整 ポイント チェック項目 チェストドレーンバッグ メラサキューム 吸引が必要 吸引不要
電源必要
圧の調節が容易 住友ベークライト 泉工医科工業 呼吸性変動は持続吸引しているとわからない
胸膜癒着の方法と注意事項
#33. 胸膜癒着の色々 ダブルルーメンカテーテルの側管から注入し、一定時間(2時間程度)おいて、吸引を再開する
タルク以外は適応外使用 安全性と効果のバランスで選択する 発熱・疼痛が主な有害事象 33 1) PMID: 21628929、2) PMID: 17320580、3) PMID: 23269268、4)PMID: 25947235、5)PMID: 23489754、6) PMID: 25669666、7)日呼外会誌,2014、8)日呼吸誌, 2018 痛くない 痛い
#34. 胸腔穿刺、ドレナージは非専門医でも行う可能性がある手技である
十分な準備といくつかのポイントを守れば重大な合併症リスクは軽減できる
適応を考えること、安全性を最優先することが最も重要である
#35. 以上 今回はAntaa Slideテンプレートの改訂版を利用しました。
さらにより良いテンプレートになるよう、また新たなスライドを作成したり、feedbackしたいと思います。