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神経痛性筋萎縮症(NA)の概要と特徴
#1. でも、診断できると患者のためになる! Neuralgic Amyotrohy 知っている人しか知らない
NA問題 Department of Neurology, Seirei Hamamatsu General Hospital
Daisuke Yamamoto
#2. Neuralgic Amyotrohy (NA)
とは?
#3. 神経痛性筋萎縮症 (NA) 「片側上肢の筋萎縮」の鑑別疾患。
「肩の脱力」の鑑別疾患。
病歴、臨床像が特徴的。
免疫介在性機序が想定されており
(特発性腕神経叢炎)、
免疫療法で比較的機能改善が期待できる。
一方、認知度の低さから誤診も多い。 臨床神経学 2013;53:969-973
NAの症状と進行過程
#4. 比較的強い、
肩から上肢の疼痛。
その疼痛は週単位で改善する。 まずは疼痛で発症。 1
#5. 肩の脱力を自覚する。
上肢全体にも脱力は認められる。 疼痛後、
肩が上がらなくなる。 2 臨床神経学 2013;53:969-973
#6. 筋萎縮は肩甲周囲に強い。
また、C5,6領域に強調されることが典型的。 その後、筋萎縮を
来たす。 3
NAの診断方法と神経局在
#7. 自然軽快も部分的にはありうるが、
未治療では脱力は持続。
筋萎縮もそのまま残存。 脱力は持続する。 4 MUSCLE & NERVE 2016;53:337-350
#9. 臨床像は特徴的で参考になる。 痛み+筋萎縮! 男性! 肉体労働! きき手! 中年! 上記臨床像が典型例。きき手の過負荷が発症のtriggerになることも想定されている。
例:肉体労働に従事する、中年男性が、強い肩痛後、1ヶ月経過の右手の脱力を主訴に受診。
#10. NAの神経局在 腕神経叢の障害による。 NAは腕神経叢の[炎症]による疾患。
炎症の誘発は、感染、過度の運動等。
誘発エピソード後、1週間で発症。 典型例ではC5、6(upper trunk)の
障害が強い。
よって、肩周囲の筋萎縮になる。
肩が上げられなくなる。 腕神経叢とは、脊髄神経がそれぞれ
合流して形成された部分。 腕神経叢はC5-T1が乗り合いして
形成されている。
簡単には上肢全体の障害になる。 C5 C6 C7 C8 T1 Upper trunk
NAの治療法と介入の重要性
#11. 頚髄MRIで一緒に撮影できる。
鑑別疾患の頚髄症も評価可能。 ただし、筋萎縮を来たすその他
神経疾患(ALS, CIDP......)が
鑑別に残るので、NAを疑ったら
神経内科へコンサルトでよい。 腕神経叢の腫大が観察できる
こともある(STIR法/冠状断)。 腕神経叢の物理的圧迫障害がない
ことも確認できる。 NAの検査 MRIはオーダーして、
神経内科へコンサルト。 Singapore Med J 2016;57:552-560
#13. PSL内服
論文では記載が最も多いです。
私個人はPSLで治療したことがないので、効果はわかりません。
IVIG
γグロブリン大量静注療法の有効性が言われています。
本邦ではIVMPとの併用療法の提案があります。
IVIG+IVMP療法は有効と考えます。 IVMP
メチルプレドニゾロンによるステロイドパルス療法も有効と思われます。
もし、入院でIVIG療法ができない場合には、有効な選択肢になり得ます。 NA治療 臨床神経学 2013;53:969-973
#14. NAは治療介入可能な疾患である。 Brain and NERVE 2014;66:1421-1428
NAの鑑別診断と注意点
#15. 腕神経叢全体の障害を呈するが、
腕神経叢のupper trunkに強いと典型的。
つまり、上肢全体の症状であるが、
脱力/筋萎縮は肩甲周囲に強調される。 疼痛後、進行性の脱力/筋萎縮の自覚。 肩が痛いので、整形外科に
受診することが多い!
中年に多いので、
[40/50肩]、と評価されることも。 突発発症の強い肩の痛みで発症。 典型的NAのまとめ
#16. 一側上肢以外に症状はないか?
筋疾患?末梢神経障害?
頚髄障害?大脳障害?
念のため頭部CTを
施行しておくことは無難と思います。 鑑別。 腕神経叢の腫大が観察できると診断に有用。
腕神経叢の物理的圧迫性障害の除外。
頚髄症の除外。 頚髄MRI+冠状断撮影 中年?男性?きき手?
身体を使うエピソード?
疼痛→改善→筋萎縮の経過の確認。
C5.6に強調される、上肢全体の症状? 受診されたら、典型的キーワードの確認。
#17. 末梢神経伝導検査、針筋電図、
髄液検査、抗ガングリオシド抗体など。
VZV感染、Diabetic amyotrophyなど、
その他の腕神経叢障害を来たす疾患、
ALS、CIDP…等の可能性を評価します。 追加検査。 治療。IVIG+IVMP、ステロイド療法。 典型的キーワードでNAは疑える。
ただし、最終的な鑑別診断は
神経内科と相談して下さい。 整形疾患らしさがなければ、
神経内科へコンサルト。
#18. ここからは、NAの細かい話。 NAは、多様な疾患スペクトラムを呈しうる。
前述のような典型例から離れた症状を認めることもある。
典型的なNA以外の知識も学んでみよう。
NAの多様な症候と誤診のリスク
#19. 中年、男性、運動負荷、利き手、疼痛発症
が、NAの典型的なキーワード。
ただし、全てがそろうわけではない。
評価の心構えとしては、この中の数個当てはまればよい、と考える。
疼痛発症後の筋萎縮、が特徴のはずだが、
疼痛発症でないこともある。
利き手でない側に発症することもある。 典型的なNAのキーワードは
すべてそろうわけではない。
#20. 典型的なNAは近位型。
ただし、遠位型NAもある。
Upper trunk OR Lower Trunkそれぞれ優位型がある。 Upper trunk →近位型(典型的NA) Lower trunk →遠位型 MUSCLE & NERVE 2016;53:337-350
#21. 遠位型では、橈骨神経麻痺(下垂手)もしくは、後骨間神経麻痺(下垂指)に、
麻痺が強調されるのが特徴。 遠位型NAは橈骨神経麻痺が強い。
もしくは、後骨間神経麻痺が目立つタイプも。
シンプルに、[下垂手/下垂指]と憶えておく。 手関節背屈障害 手指伸展障害 Brain and NERVE 2016;68:509-519
#22. 多様なNAのスペクトラム。
本当に単一疾患と
言っていいものか? NAは典型例で診断は迷わないが、
多様な症候を呈しうる。
遠位型に始まり、後骨間神経麻痺タイプ、
横隔神経麻痺の合併、
疼痛がないタイプ、
下肢の神経叢(腰仙神経叢)タイプなど。
[症候群]としてNAを理解すると、鑑別の幅が広がります。そして何より治療可能な疾患なので、想起することは重要です。 Brain and NERVE 2014;66:1421-1428
#23. NAは誤診の多い疾患です。
肩の疼痛とともに、肩の運動障害を主訴に受診することが多く、
特に整形外科の先生に知って頂きたい疾患です。
頻度は決して少なくありません。
治療反応性は比較的良いと思われ、未治療と免疫療法での治療介入例では、
OUTCOMEが全く違います。
診断においては、知っているか否か、が最も重要です。
知っているだけで、患者さんに良い結果を提供できます。 TAKE HOME MESSAGE!