テキスト全文
医療者のためのスライドデザイン入門
#1. MASCOT SLIDE DESIGN SYSTEM 聞き手に失礼なスライドから
卒業しよう 医療者のための、マスコット起点のデザインシステム入門 SPEAKER 西村 涼 / Ryo Nishimura 道北勤医協 一条通病院 / Mediative株式会社 CCO
#2. 自己紹介 西村 涼(にしむら りょう) 総合診療専門医 / 1993年生・旭川医科大学卒 道北勤医協 一条通病院 在宅医療部 部門長 / 常任理事 KAMUI総合診療専門研修プログラム Program Director Mediative株式会社 CCO(医療AI実装支援) FOLLOW X @naitsuku_doc note 西村 涼 | ないからつくる総合診療医 Web https://kamuigp.com/
#3. AGENDA 本日の流れ 01 認めよう、「失礼」だ 医療者のスライドが伝わらない、本当の理由 02 真因はUI/UXデザインの「軽視」 デザインの体系を、医学と並べて理解する 03 マスコットからUI/UXを洗練する 一貫性は「起点」から作る 04 明日からの実践 How あなたのスライドに、具体的にどう落とし込むか 05 3場面+αの処方箋 研修医教育・市民講演・院内多職種・学会発表
スライドが伝わらない理由とその対策
#4. SECTION 01 認めよう
「失礼」だ CHAPTER ONE
#5. 教育者なら、覚えがあるはず — 3つの違和感 教育者の現場で起きている「伝わらなさ」は、3つの典型的な違和感として現れる 01 研修医がうつむく 最初は顔を上げていた研修医が、5枚目あたりでスマホやノートに目を落とす。質問を投げても、返ってこない。 02 市民が帰る 市民向け講演会で、休憩のあとに後列の席が目に見えて減る。アンケートは「難しかった」とだけ書かれている。 03 メモが止まる 院内のカンファレンスで、看護師・薬剤師・リハスタッフのメモを取る手が途中から止まる。質問もコメントも出ない。
#6. これは内容の問題でも
話術の問題でもありません
#7. 認めましょう
あなたのスライドは
「失礼」なのかも
#8. 医療者のスライド、3つの罪 聴衆に配慮しない「失礼」なスライドは、視覚情報を構成する3要素を扱えていないことに集約される 01 色 意味なく色を増やす。色は意味の運び手。増やせば増やすほど、視線はどこを見ればいいか分からなくなる。 02 字形 大きさだけ操作して、太さや字種でヒエラルキーを作っていない。「大きい=目立つ」と思い込んでいる。 03 強調 赤・太字・下線・蛍光ペン・斜体を全部一度に使う。全部強調すると、何も強調されない。
視覚情報の構成要素とその重要性
#9. ■ 糖尿病の管理について ★ 血糖コントロールの基本と治療の進め方 ● HbA1c 目標は7.0%未満 ● 食事療法 1日のカロリーを適正に ● 運動療法 週150分以上の有酸素運動 ● 薬物療法 メトホルミンが第一選択 ● 合併症 網膜症・腎症・神経障害に注意 Point ! Important !! 覚えよう ★ ✕ これは悪い見本です 7色を使うと、視線はどこを見ればいいか分からなくなる。色は意味の運び手だから、増やせば増やすほど意味が薄まる
#10. 高血圧の鑑別診断 本態性高血圧と二次性高血圧の見分け方 ・若年発症の高血圧では二次性を疑う ・薬剤抵抗性のある場合は精査が必要 ・低カリウム血症があれば原発性アルドステロン症を考える ・腎血管性高血圧では血管雑音を聴取することがある ・睡眠時無呼吸症候群との関連を検討する ✕ これは悪い見本です フォントを大きくしても太さが揃っていなければヒエラルキーは崩壊する。「大きさ」と「太さ」は別物
#11. ★インスリン導入の手順★ まず、糖尿病のコントロール不良の患者さんに対しては、速やかにインスリン導入を検討します。 特にHbA1cが8.0%以上の場合は、即座に導入を考慮すべきです。 開始量は0.1〜0.2単位/kgが基本で、低血糖に注意しながら段階的に増量します。 シックデイ対応についても必ず指導し、自己注射手技の確認も欠かさず行います。 ✕ これは悪い見本です 全部を強調すると、何も強調されない。強調の手段(赤・太・下線・蛍光ペン)を全部使うと、優先順位が消える
#12. 受け手が無言で耐えている、3つの苦痛 ダサいスライドは、受け手に「情報の濁流」「処理の諦め」「印象の劣化」という3つの苦痛を強いる 01 情報の濁流 スライドが映った瞬間、視線の優先順位がつけられず、目が泳ぐ。脳は処理の方針を立てられないまま、次のスライドに送られる。 02 処理の諦め 見続けるうちに、視覚情報が処理容量を超え、脳は省エネモードに入る。聞いているふりをしながら、内容は素通りしていく。 03 印象の劣化 終わった後、内容は忘れられ、印象だけが定着する。専門性は、話の中身より先にビジュアルの雑さで判断されている。
UI/UXデザインの軽視がもたらす影響
#13. あなたは患者には優しい。
なのに、聴衆には?
#14. SECTION 02 真因はUI/UX
デザインの軽視 CHAPTER TWO
#15. スライドは「資料」ではなく、
読み手の脳との
インターフェース。
#16. 医学に体系があるように、デザインにも体系がある 解剖学・生理学・薬理学があるように、デザインにも認知負荷理論・ゲシュタルト・視線動線という体系がある 医学 デザイン 解剖学 どこに、何があるか? 認知負荷理論 脳の処理容量はどれだけか? 生理学 どう動くか? ゲシュタルト原則 何を「同じグループ」と感じるか? 薬理学 どう効かせるか? 視線動線 視線はどう流れるか? このような誰にも見やすいデザインの「センス」を理論化したものを、UI/UXといいます。
#17. スライド作成を支える、3つのデザイン理論 明日のスライドを変える3つの基礎理論:認知負荷理論/ゲシュタルト原則/視線動線 01 認知負荷理論 脳の処理容量はどれだけか? 詰め込むほど聴衆の処理容量は溢れる。「1スライド1メッセージ」はこの理論。 02 ゲシュタルト原則 人は何を「同じグループ」と感じるか? 近接・類同・整列。「揃って見える」「グループに見える」はこれで作る。 03 視線動線 視線はどう流れるか? 人の視線は左上から始まり、F字・Z字パターンで動く。流れに沿わせれば自然に伝わる。
#18. 一貫性のないスライド vs 一貫性のあるスライド 色・フォント・図のテイストを揃えるだけで、同じ内容でも受け手の脳の負担はまったく違う BEFORE 一貫性なし • 色が5色/フォント3種混在 • 図のテイストもバラバラ • 余白の取り方も毎回違う • 脳の処理容量が「整える」ことに使われる • 結果:内容が脳に届かない ▶ AFTER 一貫性あり ● 4色/フォント1種 ● 図のテイストが統一 ● 余白の規則が一定 ● 脳の処理容量を内容に振り向けられる ● 結果:同じ情報量でも、伝わる量が違う
#19. 一貫性が脳に優しい、3つのメカニズム 一貫性は、認知負荷の低減・信頼の蓄積・記憶への定着の3つで聴衆の理解を支える 01 認知負荷の低減 脳が「これは同じグループだ」と認識した瞬間、新しい処理を立ち上げる必要がなくなる。空いたリソースを内容理解に振り向けられる。 02 信頼の蓄積 1枚目から最後まで世界観が揺れないこれは「準備された資料だ」という信頼の蓄積になる。専門性はビジュアルで先に判断される。 03 記憶への定着 パターンが繰り返されると、脳はそれを「型」として記憶する。「あの先生のスライド」というブランド認知もここから生まれる。
#20. ここまでの整理 真因が見えれば、次の問いが見える 01 あなたのスライドが伝わらないのは、内容や話術の問題ではない 02 真因はUI/UXデザインの軽視と、一貫性の欠如 03 デザインは「センス」ではなく、学べる「学問」
マスコットを起点にしたデザイン手法
#22. SECTION 03 マスコットから
UI/UXを洗練する CHAPTER THREE
#23. マスコットとは、
色・線・トーンの参照点となる
「1つの目印」。
#24. マスコットが提供する、3つの起点 マスコット1体が、色・形・トーンという3つの起点をスライド全体に提供する 01 色 マスコットの配色=スライドの配色。たとえば白衣のビーバーなら「白+黒+ブランドカラー+グレー」の4色。装飾色を1色も足さない理由になる。 02 形 マスコットの輪郭線の太さに合わせてカード枠線・hero box枠の太さを揃える。マスコットが「貼り付けた装飾」ではなく「世界の住人」に 03 トーン マスコットがやわらかいなら文体もやわらかく、鋭いなら断定的に。「このキャラの口から出る言葉として自然か?」が文体の判断基準になる
#25. マスコット選びの、3つのNG マスコット選びの失敗は、凝りすぎ・借り物・役割欠如の3つに集約される 01 凝りすぎ 精緻なイラストは、毎回サイズ調整・配置調整に時間を取られる。シンプルな線画のほうが結果的に長く使える。 02 借り物 ディズニー・有名アニメキャラ・ストックイラスト。著作権の問題以前に、世界観が他人事になる。「自分の世界」が大事。 03 役割欠如 「なんとなく可愛いから」「空白を埋めるため」 やりすぎはノイズでしかない。やるにしても
役割を考えて置いたほうがいい
#26. 起点なし vs 起点あり 起点があれば、すべての判断軸が「このキャラの世界に馴染むか?」の1問に集約される BEFORE 起点なし • 「センスのいい色は?」 • 「いいフォントは?」 • ── 答えがその都度ブレる • スライドごとに別物に見える • 作るのに時間がかかり、それでも統一感が出ない ▶ AFTER 起点あり ● 色・フォント・図のテイスト・余白 ● すべての判断軸が ● 「このキャラの世界に馴染むか?」 ● の1問に集約される ● 判断が速く、統一感が自動的に生まれる
#27. マスコットから始める、4ステップ マスコット起点のデザインシステムは、抽出・反映・拡張・検証の4ステップで思考できる 01 抽出 マスコットのコア要素(色・線の太さ・輪郭の丸み・全体のトーン)を観察し、書き出す 02 反映 抽出した要素を、スライドの色・枠線・フォント・余白に反映する 03 拡張 色・枠線で反映できたら、文体・話法・図のテイストにも拡張する 04 検証 全スライドを並べて「このキャラの世界か?」と問う。違和感があればその要素を見直す
#28. SECTION 04 明日からの
実践 How CHAPTER FOUR
マスコットの選び方とデザイン要素
#29. マスコットを手に入れる、3つの方法 マスコットはAI画像生成(GPT-Image 2推奨)/既存素材/自作の3つの方法で手に入る 01 AI画像生成 GPT-Image 2が高精度。「総合診療医の白衣を着たキャラ、シンプルな線画、白背景」のように指示すれば、自分のマスコットが数分で手に入る。 02 既存素材 いらすとや等。便利だが、他の人のスライドと被る。「自分のマスコット」になりにくく、世界観が立ちにくい。短期利用や試作向き。 03 自作・依頼 自分で描く、もしくはデザイナーに発注する。時間とコストはかかるが、最も世界観が立つ。長期的に使うなら投資価値あり。
#30. マスコットから抽出する、4要素マトリクス 色・線・フォント・余白の4要素を抽出すれば、デザインシステムの骨格は完成する 要素 マスコットから抽出するもの 実装ルール 色 マスコットの主要色 4色厳守(白/黒/ブランドカラー/グレー)。装飾色は1色も足さない 線 マスコットの輪郭線の太さ 枠線を「同じ太さ」に揃える(例:2.75pt) フォント マスコットの丸み/直線さ 丸み強なら丸ゴシック・中庸ならYu Gothic・直線なら明朝。1種類のみ使う 余白 マスコットが置ける余白の感覚 詰め込み禁止。マスコットが「住める」余白を、各スライドに必ず確保する この4つを揃えれば、デザインシステムの骨格は完成します
スライドマスター化による一貫性の確保
#31. マスタースライド化の、4ステップ 一貫性の源泉は「スライドマスター」。多くの方が触ったことがないこの機能が、毎回ゼロから作る労力を消す 01 スライドマスターを開く PowerPoint:[表示]タブ の[スライドマスター] / Keynote:[表示] の[マスタースライドを編集] 02 配色テーマを4色に固定 白/黒/ブランドカラー/グレーをマスター上で定義。装飾色は1色も足さない 03 フォントテーマを1種類に固定 例:Yu Gothic(和文)。本文・見出し・キャプションすべて同じファミリーで統一 04 5つのスライド型を作っておく 表紙/主張1枚/3要素並列/Before-After比較/締めくくり ── 毎回ゼロから作らずに済む
#32. 明日からのセルフチェック、3項目 作ったスライドは、一貫性・マスコットの役割・TPOの3項目で自己判定できる 01 一貫性 1枚だけ浮いているスライドはないか色・フォント・余白・線の太さ等、揃っていなければそこが綻び。 02 マスコットの役割 語りかける/指し示す/うなずく/驚く。あるいは余白埋めのあしらい。役割が明確に答えられないなら置かないほうがいい。 03 TPO 学会発表のような厳粛な場では、思い切って消す判断も必要。TPOで使い分けるのが大事。
場面別のマスコット活用法
#33. SECTION 05 3場面+αの
処方箋 CHAPTER FIVE
#34. 3場面のマスコット選択指針 研修医教育は「同じ目線」、市民講演は「素朴な質問を投げる役」、院内多職種は「議論の進行役」 01 研修医教育 研修医にとって「もう一人の研修医」のような距離感。指導医がトップダウンで教えるのではなく、横に並んで一緒に考える役。 02 市民講演 市民の代表として「それってどういうこと?」と問う役。専門用語の壁を、キャラが代わりに下げる。 03 院内多職種 医師・看護師・薬剤師・MSW、どの職種にも偏らない中立な役。問いを投げ、議論を促す。特定の代弁者にはならない。
#35. 研修医教育での実装 マスコットを「同じ研修医として隣にいる存在」に配置すると、研修医は自分の思考プロセスを重ねられる BEFORE マスコットなし • 症例提示/鑑別/診断のスライドが独立 • 研修医は思考の流れを見失う • 「何が繋がっているんだ?」と離脱 • 受動的に情報を受け取るだけ ▶ AFTER マスコットあり ● 各ステップにマスコットを配置 ● マスコットが指差す・考え込む・納得する ● 研修医は思考プロセスを重ねられる ● 「次はどう考えるか」を予測しながら聴ける
#36. 市民向け講演での実装 マスコットに「市民代表として素朴な質問を投げる」役を与えると、専門用語の壁を下げられる BEFORE マスコットなし • 専門用語が並ぶスライド • 市民は「分からない」と感じても質問できない • 後ろから帰っていく • アンケートには「難しかった」だけ ▶ AFTER マスコットあり ● マスコットが「それってどういうこと?」と問う ● 吹き出しで素朴な疑問を可視化 ● 専門用語の壁を、キャラが代わりに下げる ● 市民は「自分の疑問だ」と安心する
#37. 院内多職種での実装 マスコットを「中立な進行役」に配置すると、特定の職種に偏らない議論が立ち上がる BEFORE マスコットなし • 医師目線で書かれたスライド • 看護師・薬剤師・MSWは「自分たちの話ではない」 • メモを取る手が止まる • 質問もコメントも出ない ▶ AFTER マスコットあり ● マスコットが「みなさん、どう思いますか?」 ● 全方位に問いを投げる役 ● 特定の職種の代弁者にしない配置 ● 議論が立ち上がる
学会発表におけるマスコットの扱い
#38. 学会発表では
マスコットを消したほうがいい
#39. このスライド自体が、ビーバーキーノートで作られています このスライド自体が、白衣のビーバー1体から派生したデザインシステムで作られている 4色/太い黒線/角丸/Yu Gothic
すべて、白衣を着たビーバー1体から
派生しています。
#40. デザインを学び直すことは
読み手への配慮を
考えなおすいいきっかけです
スライドデザインの重要性と今後の展望
#41. THANK YOU ご覧いただき、
ありがとうございました。 明日からのスライドが、聴衆を疲れさせない一枚になりますように。 Mediative スライドデザイン・
医療AI実装のご相談 https://mediative.co.jp/ note 医療 × AI × 教育の発信
実装と思考の蓄積 西村 涼 | ないからつくる総合診療医 X リアルタイム発信
フォローいただけると嬉しいです @naitsuku_doc 西村 涼 | ないからつくる総合診療医