テキスト全文
高齢者てんかんの入院診療の重要性
#1. Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital Daisuke Yamamoto 新しいコモンディジーズ
高齢者てんかんの
リアルな
入院診療マネジメント
#2. Introduction 誤嚥性肺炎、尿路感染症といった感染症は高齢患者さんの入院理由の多い原因です。ここで話題にする、「高齢者てんかん」は、増加傾向にあり、もはや高齢者の入院治療理由としてのコモンディジーズといってもいいでしょう。
高齢患者さんの背景で、てんかん発作後の管理は意外とマネジメントが難しいです。
是非、ここで登場する一連の問題を整理してください。
#3. 高齢者てんかんの入院対応は
新たなcommon disease。 新しい常識
高齢者におけるてんかんの発生率と合併症
#4. てんかんの発生率と有病率は高齢者で最も高い。年齢とともに増加する。
世界的な高齢化に伴い高齢者の数が増加しており、これにより高齢者のてんかん症例数は増加することが予想される。
年齢は、てんかん発症の独立した危険因子であることが知られている。 J Clin Neurol. 2020; 16: 556-561. 新しい
common disease Epilepsia. 1992;33 Suppl 4:S6.
#5. 通常、てんかん発作を来し、発作後状態であっても必ずしも入院対応とはならない。
しかしながら、高齢になればなるほど、てんかん発作後状態で入院対応を要する可能性が高くなる。
発作後の意識障害は、若年者と比べ、高齢者では遷延しやすいことも知られている。
高齢である場合、発作後、入院確率が高くなるだけのみならず、死亡率も高くなる。
入院となれば、てんかん発作以外の、感染症等々の付随するトラブルも多くなり、 対応の難しさがより複雑化する、 高齢者てんかんは発作後、
入院対応になりがち。 Br J Clin Pharmacol. 2018; 84: 2208–2217.
#6. アルツハイマー病(AD)はてんかん合併が多い。 てんかんとアルツハイマー病の関連についてはよく知られている。
軽度認知機能障害(MCI)およびADではてんかん合併が多い。
65歳以上で、AD患者では、そうでない人より10倍てんかん発症リスクが高い。
AD患者では、半分がてんかん性の脳波異常を認める、という報告もある。
「認知症患者さんが、てんかん発作を認める」ことは、了解可能な合併症である。 Front Neurol. 2022; 13: 922535.
てんかん発作後の管理と意識障害の遷延
#7. 脳卒中後状態では、てんかん合併が多い。 脳卒中は、高齢者てんかんにおけるもっとも多い原因である。
脳卒中後にてんかん発作を発症する確率は6-10%程度という報告がある。
脳卒中でも、てんかんを起こしやすいリスクについての研究もある。
そのリスクはSeLECT・CAVEといった基準でスコアリングされる。
また、脳出血の場合は、よりてんかん合併リスクが高いことが知られている。
Drugs Aging. 2021; 38: 285–299.
#8. 問題になりやすい
ポイントを理解する。 何が困る?
#9. 発作後に生じる状態変化を、総じて「Postictal state」という。意識障害も起こりうる。
Postictal stateは分単位、時間単位で続くこともあれば、一週間持続することもある。
ベースの脳機能低下がある場合は(認知症や脳卒中後、高齢)では長期化もありうる。
現実的には1週間以上の機能障害が遷延することもある。
意識障害の遷延は、入院の長期化ないしは方針決定において困ることが多い。
その経過において、ADLも低下する。
意識障害の遷延が困る Epilepsy Behav. 2010;19:118
薬剤の副作用と治療効果の判定
#10. 薬剤(antiseizure medicine: ASM)の
副作用の可能性?
薬剤性の意識障害はないか?が困る。 発作後の意識障害においては、Postictal stateをまずは考える。
ただし、高齢者においてはASMによる過鎮静になっていないかも検討事項となる。
薬物代謝が若年者とは異なり、鎮静の副作用が目立つことがある。
意識障害で悩む場合は、ASM中止・変更も選択肢にする。
例えば、頻用するLEV使用中の意識障害の遷延で、LEVの薬剤性を考える、など。 Neurology. 2004; 63: 568.
#11. 治療効果判定が困る。
てんかん重積状態のコントロールは
ついているか? てんかん発作後の意識障害はpostictal stateをまずは考える。
先述のごとく、薬剤性要因も考慮する。
また、発作コントロールが制御できていない可能性(非けいれん性てんかん重積状態:NCSE)も考慮する必要がある。
高齢者のてんかん重積状態として、NCSEの頻度は、若年者よりも高い。
この場合、評価の方法として脳波検査、MRI検査を検討する必要がある。 European Journal of Epilepsy. 2022;94:18-22
#12. てんかん発作後の意識障害の遷延は、摂食開始に影響がある。
また、てんかん発作後状態では、意識障害以外にも、嚥下機能障害遷延にも影響がある。
嚥下障害は、誤嚥性肺炎の発症、栄養状態の悪化など合併症に関連する。
こと、高齢患者さんなら、食事がとれないなら経鼻経管栄養にするかどうかも 一つの議論になりうる。
発作後の
嚥下機能障害が困る。 Epilepsia. 2024. doi: 10.1111/epi.17914.
入院時の発作原因の確認と対応
#13. 超高齢なら、栄養経路は悩む。 てんかん発作後なら、仮に意識障害・嚥下障害が遷延するとしても、 経時的な症状改善は期待したい。
ただし、経過を踏まえても改善に乏しい場合もある。
経鼻経管栄養実施を一律に対応する、というわけにもいかないだろう。
栄養経路の方針には悩むことになる。
#15. まずは、てんかん発作を引き起こす原因について検討する。
二通りに分けて検討する。①誘発性発作か? ②非誘発性発作か?
誘発性発作の原因は以下の如く。(急性症候性発作の原因)
急性脳卒中> 代謝異常・電解質異常> 腫瘍性> 外傷> 薬物関連発作> 中枢神経系感染症
検査としては、脳MRI、採血、全身CT、内服薬の確認、髄液検査など検討される。
薬剤性:抗精神病薬、抗うつ薬、トラマドール、メトロニダゾール、テオフィリンなど
これらを網羅的に検討する。 発作の原因確認 J Epilepsy Res. 2019;9:27–35.
高齢者のてんかん重積状態の治療法
#16. 非誘発性発作は以下の原因。
AD?脳卒中後?薬剤性?感染性? 60歳以上になるとてんかんの発生率が高くなる。
非誘発性発作の原因
原因不明>脳卒中後>認知症>腫瘍性>外傷性
認知症性疾患、脳卒中の既往、脳腫瘍・転移性脳腫瘍、外傷歴があるか。
これらをキーワードに確認する。
J Epilepsy Res. 2019;9:27–35.
#17. 発作抑制+初期対応 高齢者のてんかん重積状態についての特別な推奨はなく、 他のSEと同様に対応する。
1st lineと2nd line 治療を組み合わせて行う。
1st line 治療での呼吸抑制には注意。ジアゼパム投与は慎重に。用量も勘案する。
保守的に使用するなら、ジアゼパム 5mg IV (1/2 ample) から使用してみる。
#18. ベンゾ
ジアゼピン 静注
抗てんかん薬 静脈麻酔薬 第1段階治療 第2段階治療 第3段階治療 5分発作が持続したら、てんかん重積状態と評価する。
すぐに、①ベンゾジアゼピンを静注する。また、②静注抗てんかん薬も投与する。発作持続で、③ベンゾジアゼピン、④抗てんかん薬は追加投与する。 第1+2段階治療で発作抑制困難であり、
発作開始から60分経過するなら
難治てんかん重積状態と評価とする。
⑤第3段階治療へ移行する。 ルート1
ロラゼパム
OR
ジアゼパム ルート2
レベチラセタム
OR
ホスフェニトイン ミダゾラム
OR
プロポフォール
OR
ペントバルビタール 発作持続で、
5分後追加投与可 1 5 3 2 発作持続で、使用していない
抗てんかん薬を追加投与可 4 まずやること てんかん重積状態への治療的対応 Epilepsy Curr 2016;16:48
高齢者におけるASMの選択と管理
#19. 高齢患者のてんかん重積状態は、死亡率が高いことが知られている。
高齢者のてんかん重積状態の治療には難しさがある。呼吸抑制の問題。挿管の問題。
意識障害の遷延、誤嚥性肺炎の合併、認知症の併存、ポリファーマシーなど問題が多い。
入院によるADL低下もある。
転帰不良の可能性(意識障害が戻らない、嚥下障害が戻らない)、 予期せぬ合併症の可能性について言及する必要がある。
つまるところ、「アウトカムがかなり悪くなる可能性」について十分言及する必要が、 入院の最初にはある。
患者説明はどうか? Seizure 2020;81:210-221
#21. 高齢者てんかんでの、ASMの推奨はLTG・GBPがある。
少なくとも、新規ASMが推奨と考えやすい。
分かりやすいのは、頻用される「いわゆる3L」(LEV・LCM・LTG)。
ただし、代謝や生理学的老化により、忍容性はシビアに検討される必要がある。
薬物の副作用が出やすいことは留意しておく必要がある。 ASMの選択について J Clin Neurol. 2020; 16: 556-561.
意識障害の遷延と薬剤調整の重要性
#22. 精神症状がある場合、
潔く、LEVはあきらめる LEVはあらゆるてんかん患者さんに使用しやすいASM。
高齢患者でも忍容性、有効性も知られている。
しかし、LEV使用で精神症状を認める場合がある。
この場合はLEVの副作用を考慮したい。
LEV使用後精神症状があるなら、すぐにASM変更を検討するのがよかろう。
せん妄や、BPSDと区別が困難なのなのだが、潔い、ASM変更は賢明な判断となろう。 Innov Clin Neurosci. 2012; 9: 10–12.
#23. 意識障害が遷延する場合は、
そのASMをあきらめる? 先に議論になったが、てんかん発作後の意識障害の場合に悩む。
発作後状態なのか?
NCSEなのか?
ASMによる薬剤性なのか?
一つ一つ吟味し、悩むなら、そのASMを中止することも選択肢になる。
ASMを中止してみる勇気を持てることは大切だと思う。
#24. 腎症とLEV レベチラセタムは頻用する。
LEVはほぼ腎代謝である。
腎症では用量調節が必要なので留意しておくこと。
すぐに参照できるようにする。
過量投与にならぬよう。 イーケプラ点滴静注500mg 添付文書
コストを考慮したASMの選択
#25. 低心機能とLCM ラコサミドも頻用するASMの一つ。
LCMと不整脈は気になる副作用。徐脈のリスクについては知られている。
「LCM+徐脈」のシチュエーションでは、すぐにLCMを中止すること。
心臓合併症があるからといってLCMは禁忌ではないが、不整脈発症リスクとして併存症としての心臓病態は捉えておく必要があるかもしれない。 Cureus. 2021; 13: e20736.
#26. 勿論、コストも重要。
第一世代は安い。
第二世代(新規)以降は高い。
ただし、ジェネリックがあるものもある。
LEV・LTG:ジェネリックあり。
LCM :ジェネリックなし。(2024/04時点) ASMのコストも重要
#27. 低コストASMの
検討が必要なセッティング 高い薬価の薬剤が使用しにくいセッティング:療養型病院、介護老人保健施設
コストの面への配慮が必要
コストに強いASM:第一世代、第二世代のジェネリック
=>CBZ・ZNS > LEV・LTG
高齢者てんかんの入院診療における課題とゴール設定
#28. 高齢者てんかん発作での入院は、経口摂取が困難になりうる。
食事がとれない:意識障害の遷延による、薬剤過鎮静による、嚥下障害による、など。
理屈からは、経時的な症状改善は期待したい。
ただし、改善が得られにくいシチュエーションもある。
一律に経管栄養にしていいものかどうかは悩む。
改善の可能性、改善がえられない可能性について説明して、方針決定する。 栄養経路の選択
#30. 選択したASMで発作抑制が得られるか?
選択したASMの忍容性は問題ないか?
退院後、ASMの副作用はないか?過鎮静、運動機能低下?
再入院なきよう。「発作=>入院」は問題が多い。
発作予防を達成したい。 発作後改善が
得られた場合の対応
#31. 栄養経路についてどう考えるか。
転院加療の検討。
経鼻経管栄養を継続するかどうか。
薬剤副作用の再考。やめてみる勇気を。
てんかん重積後脳症など、明らかに予後が悪い場合の議論。 発作後改善が
得られなかった場合の対応
#33. 入院の入り口では、経過が悪いかもしれない可能性について、十分説明できることが必要である。 入院時説明 1
#34. 2 事前指示についての議論も必要。
意識障害の遷延の可能性。
嚥下障害遷延の可能性。
長期入院による合併症の可能性。 高齢診療における問題の議論
#35. 意識障害の遷延でのアクション 3 意識障害が遷延する場合に、検討すべきこと。
発作コントロール、薬剤性、postictal state。
勇気をもって薬をやめてみることも大切。
#36. 4 自宅退院?転院対応?
その際に問題にもなりうる薬剤コスト問題。
経管栄養問題。 ゴール設定の議論について
#37. 高齢者の入院てんかん診療は難しいテーマを含んでいます。
コモンな主題であり、医療従事者みなで共有したいです。
行き当たりばったりではなく、想定される問題点を理解しておきながら、
最適な選択肢を患者さん・ご家族にに提案できるようにしたいものです。 THANK YOU!