#4.
プロフィール 大迫 鑑顕(おおさこ のりあき)
Department of Psychology, Bellvitge University Hospital - Bellvitge Biomedical Research Institute (IDIBELL), Barcelona, Spain.
千葉大学大学院医学研究院精神医学
資格等:医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医・指導医、日本医師会認定産業医、公認心理師
所属学会:日本精神神経学会、日本摂食障害学会、日本臨床精神神経薬理学会
#5.
1.摂食障害の診断
#6.
今回は“主要な摂食障害”に関して確認しましょうDSM-5 食行動障害および摂食障害群 Feeding or Eating Disorder(FED)
#7.
必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対する有意に低い体重*に至る。
体重増加または肥満になることに対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続する行動がある。
自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如 神経性やせ症 / 神経性無食欲症(AN)DSM-5:診断基準 *有意に低い体重:正常の下限を下回る体重で、子どもまたは青年の場合は、期待される量低体重を下回ると定義される。 DSM-5, American Psychiatric Association より抜粋
#8.
神経性過食症 / 神経性大食症(BN)DSM-5:診断基準 反復する過食エピソード。
他とはっきり区別される時間帯に、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量より明らかに多い食物を食べる。
そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚。
体重の増加を防ぐための反復する不適切な代償行動。
過食と不適切な代償行動が共に平均して3ヵ月間にわたって少なくとも週1回は起こっている。
自己評価が体型および体重の影響を過度に受けている。
その障害は、神経性やせ症のエピソードの期間にのみ起こるものではない。 DSM-5, American Psychiatric Association より抜粋
#9.
過食性障害(BED)DSM-5:診断基準 <神経性過食症 A)と同様 (過食エピソード)>
過食エピソードは、以下のうち3つ以上のことと関連している。
通常よりずっと速く食べる。
苦しいくらい満腹になるまで食べる。
他とはっきり区別される時間量よりも明らかに多い食物を食べる。
身体的に空腹を感じていないときに大量の食物を食べる。
自分がどんなに多く食べているか恥ずかしく感じるため、1人で食べる。
後になって、自己嫌悪、抑うつ気分、または強い罪責感を感じる。
過食に関して明らかな苦痛が存在する。
<神経性過食症 C)と同様 (罹病期間、過食頻度)>
その過食は、神経性過食症のように反復する不適切な代償行動とは関係せず、神経性過食症または神経性やせ症の経過の期間のみに起こるのではない。 DSM-5, American Psychiatric Association より抜粋 BNと異なるのは、
代償行動がない点!
#10.
特にAN、BNで共通する、精神病理、行動の特徴がある 全身状態の管理が難しい・・・ 外来診察で難しさを感じる部分 DSM-5における診断分類
#11.
摂食障害?ダイエット?判断に迷ったら・・・ 体重が減少し始めて早期の段階における区別の指標として有用なもの
体重
体重減少の程度が大きいこと
体重減少が止まらないこと
身体症状
月経が止まったり、初潮が始まらない
徐脈、低血圧などの身体症状を伴う 摂食障害情報ポータルサイト https://edcenter.ncnp.go.jp/edportal_pro/index.html
#12.
まとめ1.摂食障害の診断 主要な摂食障害として、神経性やせ症(AN)、神経性大食症(BN)、過食性障害(BED)の3つがある。
ANとBNは、類似する精神病理的症状、行動的特徴を呈する。
BEDは、過食行動はあるが、代償行動*はない。
*代償行動:体重の増加を防ぐための反復する不適切な行動(過剰な運動、下剤・利尿薬の乱用、自己誘発嘔吐など)
#13.
2.なぜ摂食障害の診療が難しく感じるのか?
#14.
一度診断がついてからも、別の診断名に変ってしまうことがある(摂食障害の中で) Solmi M et al. Outcomes in people with eating disorders: a transdiagnostic and disorder-specific systematic review, meta-analysis and multivariable meta-regression analysis. World Psychiatry. 2024 Feb;23(1):124-138. メタ解析論文のデータより
それぞれ20~30%の割合で診断変更となっている
#15.
摂食障害の専門治療へアクセスする経路の複雑さ多彩な精神症状、多岐にわたる身体合併症 様々な診療領域が摂食障害診療には関与しており、適切な治療経路が分かりにくい
摂食障害患者が医療機関を受診したとしても、診断の遅れが発生する可能性 (スコットランド)摂食障害と診断された患者はそうでない患者と比較して、摂食障害と診断されるまでの5年間により頻繁に一般開業医を受診していた (台湾)ANとBNと診断された患者のほぼ全員が、その診断前の1年間に身体的問題を主訴に医療機関を受診してた
精神的な問題の訴えがあったのは、そのうちの半数にも満たなかった
受診した診療科の多くは内科や婦人科であり、摂食障害の適切な診断名が付けられていたものはわずかだった Ogg EC, et al. General practice consultation patterns preceding diagnosis of eating disorders. International Journal of Eating Disorders. 1997;22(1):89-93. Tu CY, et al. Paths to the first-time diagnoses of anorexia nervosa and bulimia nervosa in Taiwan. International Journal of Eating Disorders. 2021;54(1):59-68.
#16.
ANの身体症状 低体重:BMI 17 kg/㎡未満
急激な体重変動:1か月に8%以上の増減
耳下腺腫脹
吐きダコ(ラッセル兆候)
歯の形や色の変化、虫歯
徐脈
無月経、月経異常(女性)
電解質異常(低Na, K)
総コレステロール高値
など 摂食障害情報ポータルサイト https://edcenter.ncnp.go.jp/edportal_pro/index.html
#17.
BNの身体症状 耳下腺腫脹
吐きダコ(ラッセル兆候)
歯の形や色の変化、虫歯
脱水
浮腫
(特にBEDでは)結果的に太っていることが多い
など 摂食障害情報ポータルサイト https://edcenter.ncnp.go.jp/edportal_pro/index.html
#18.
ANの神経生物学的モデル様々な要因から、多彩な精神症状を呈する Kaye WH et al. New insights into symptoms and neurocircuit function of anorexia nervosa. Nat Rev Neurosci. 2009 Aug;10(8):573-84. 小児期 青年期 成人期 特性
ネガティブな感情、完璧主義、やせ願望、内受容感覚の自覚、強迫性パーソナリティ障害 思春期
脳の発達、内分泌変化、ストレス、文化的要因 ダイエット 体重減少 神経生物学的変化 否認、認知の硬さ、不安、抑うつ、強迫傾向 慢性化
(30-50%) 回復
(50-70%) 飢餓、衰弱 症状の変化
病気としての変化?
器質的な変化?
#19.
Minnesota Starvation Experiment(1944-1945、米国)“痩せること”で人間はどのような症状を呈するか検証した実験(飢餓症候群) 対象
兵役免除を志願した36名の心身ともに著しく健康な男性 Keys A et al. The biology of human starvation. Vol 1 and 2. Minneapolis: University of Minnesota Press. 1977: 145-177. 目的
厳しい飢饉の実験室シミュレーションに基づいて人間の飢餓の問題に関する信頼のおける文献を作成すること
その科学的成果を、第二次世界大戦末期におけるヨーロッパとアジアの飢餓犠牲者に対する連合国の救済援助の指針作成に用いること プロトコール
12週間 通常食(約3,200kcal)の観察(ベースライン)
24週間 約半分(約1,560kcal)のカロリー制限食の半飢餓
12週間 カロリーコントロールされた再栄養リハビリテーション
8週間 コントロールされていない再栄養リハビリテーション
#20.
Minnesota Starvation Experiment(1944-1945、米国)精神疾患の病歴がなくても、体重減少で多彩な精神症状を呈する 再栄養時に自由に食べても、元の体重の110%までで止まる
体重減少・増加の主体は脂肪である
終了後の被験者は、常に食物と食べることばかり考えて、通常の活動も困難になった
ほとんどの行動が摂食や快感を長引かせる目的で行われ、時間をかけて異常な味付けにした
再栄養期間には、多くのものが過食し、期間終了後も持続する者もいた
抑うつ、ヒステリー、心気症が増悪、自殺・自傷者も出た 抑うつ
不安
易刺激性、易怒性
焦燥
精神病的エピソード
人格変化(心理検査)
自尊心の低下
社会的引きこもり 精神面での変化 身体面での変化 鈴木眞理.摂食障害における栄養学の重要性. 心身医学. 2016: 56(10) 1006-1012.
#21.
体重や食行動が回復しても、精神症状はなかなか改善しない(AN) 臨床的回復*から5年後に、ほとんどの参加者は、完全、または、ほぼ完全な心理的回復に達した 臨床的回復からの期間(年) 対象群平均 Keski-Rahkonen A et al. Epidemiology and course of anorexia nervosa in the community. Am J Psychiatry. 2007 Aug;164(8):1259-65. ※臨床的回復=体重、月経が回復し、代償行動が少なくとも1年間ないこと フィンランド、出生コホート
双子を対象とした研究(AN vs. non-AN)
#22.
まとめ2.なぜ摂食障害の診療が難しく感じるのか? 摂食障害は、病気の経過中に診断名(病状)が変わることが多々ある。
様々な診療科にまたがる、多彩な身体・精神症状を呈する。
遺伝性の特性:ネガティブな感情、完璧主義、やせ願望など
状態に関連した変化:飢餓と衰弱により、神経学的障害を引き起こし、病前の特徴を誇張してしまう。
栄養失調:感情の調節不全(飢餓症候群)を引き起こし、多彩な精神症状が出現する。
身体症状に比べて、精神症状の改善はかなり遅い。
#23.
3.どのような治療が推奨されるのか?
#24.
摂食障害の治療目標 AEDレポート2016日本語版
#25.
メタ解析研究最も治療効果の高い治療法は何か? 児童思春期EDの方が成人EDと比較して、回復率が有意に高く(全ED)、慢性化率が低く(ED total, AN)、死亡率が低い(ED total, AN, BN) Solmi M et al. Outcomes in people with eating disorders: a transdiagnostic and disorder-specific systematic review, meta-analysis and multivariable meta-regression analysis. World Psychiatry. 2024 Feb;23(1):124-138. <回復率が高かった治療法(単独での治療法)>
栄養指導:最も大きな回復率と関連(全ED)
CBT :全 ED で回復率が 26% 以上あった唯一の介入方法 早期に治療開始することが予後に影響する
栄養指導、認知行動療法(CBT)の効果が期待できる
薬物療法のみではあまり効果は期待できない・・・
#26.
精神科以外でできること 入院中であれば(特に低体重のAN)
専門医療機関(精神科)への早期外来受診を促す
入院の目標は、とにかく全身状態の安定(体重増加)
全身状態が悪いと、心理療法が効果的ではない可能性
入院での心理療法の効果を示す研究は少なく、BMI 15前後を対象にしている (Ziser K, et al. Front Psychiatry. 2021; Preis MA, et al. Int J Eat Disord. 2020; Riccardo Dalle Grave RD, et al. Psychother Psychosom. 2013.)
そもそもCBTを実施できる医療機関が少ない
心理面へのアプローチは退院後でよいが、簡単な疾患教育はできる
栄養指導の導入
多職種でのアプローチ
#27.
精神科医療機関入院?外来?どこの病院が良いの? エキスパートコンセンサスで推奨されているフローチャート
※各医療圏の状況に合わせて適宜改編が望ましい。
精神科領域における摂食障害の連携指針(摂食障害情報ポータルサイト(専門職の方))
#28.
患者説明(疾患教育)のための資料 摂食障害情報ポータルサイト(一般の方)
https://edcenter.ncnp.go.jp/edportal_general/index.html
コンテンツにある資料を本人、ご家族に読んでいただくだけでも、十分に参考になると思います。
#29.
摂食障害治療の参考のための資料 摂食障害情報ポータルサイト(専門職の方)
https://edcenter.ncnp.go.jp/edportal_pro/
診療のためのマニュアルや、診療連携のための情報が記載されています。
拒食症身体治療マニュアル: 精神科医もできる!
監修:森則夫, 著:栗田大輔(浜松医科大学), 金芳堂, 2014
低栄養の際に注意しなければならないリフィーデング症候群に対する対策など、とても分かりやすく記載されている身体管理マニュアルです。