#4.
4 プロフィール 大迫 鑑顕 (おおさこ のりあき)
国際医療福祉大学成田病院 精神科 助教
鹿児島県出身、千葉大学医学部卒業。千葉大学医学部附属病院、袖ケ浦さつき台病院、国保旭中央病院他で勤務。令和2年度より現職。
所属学会等:精神神経学会、日本摂食障害学会、精神保健指定医
総合病院精神科医という立場から、幅広い年代、疾患に併存する精神疾患に対応できるようにと心がけて、日々診療しております。Facebookで「千葉県若手精神科の会」を共催しております。千葉県内で精神科に興味がある方はぜひ検索を!
#5.
アルコール離脱せん妄って何?
#6.
そもそも、せん妄って何? 治療において重要なことは直接要因の除去である。
せん妄の要因は、多種多様な原因が考えられる2)3) 。
臨床的には対症療法として向精神薬による薬物療法が併用される。 せん妄 1)
急性で変動する注意障害、認知機能障害が特徴
二次的に引き起こされる意識障害
#7.
せん妄:臨床場面では? 入院患者の10-30%、高齢者では10-40%に起こる4)。
せん妄の合併は、身体合併症の発症、入院期間の長期化、認知症発症のリスク、死亡率の上昇と関連する5)。
一方、発症期間が短いほど予後が良好とされる6)。
重篤度は原病と一致していることが多い。
入院患者での精神科コンサルの中で最も多い疾患の一つ。
#8.
ICD-10 7)
アルコール使用によるせん妄を伴う離脱状態(F10.4)
アルコールに依存する者が、飲酒を中止あるいは減量した場合に出現するさまざまな症状のこと。たいてい1週間以内で終了。
24時間以内の「けいれん」
3~5日後に発現しやすい「せん妄」
夜間に多く、幻視、妄想、興奮
手指の振戦、多量の発汗、筋強剛、頻脈、便秘などの身体症状
不安、不眠、抑うつ気分、焦燥感等の精神症状 “アルコール離脱”せん妄とは?
#9.
出現の時間的経過から①早期離脱症状群(小離脱)②後期離脱症候群(大離脱) に分けられる。 図1 小離脱症状と大離脱症状の時間的経過と臨床症状(文献8より引用) アルコール離脱の分類
#10.
① 早期離脱症候群(小離脱) 飲酒中断後6時間を経過した頃から出現し、24時間後頃にピークを持つ。
通常3~7日で治まる。 症状
・自律神経過活動(発汗、高血圧、頻脈、粗大な振戦)
・不快感情(イライラ、不安、焦燥)
・消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)
・一過性の幻覚(幻視、幻聴)
・けいれん発作(強直間代)
・軽い見当識障害
#11.
② 後期離脱症候群(大離脱) アルコール離脱せん妄と同義。
最終飲酒48時間後から起き始め、72~96時間後がピーク。
大抵1週間以内に症状は消退する。
※ まれに4~5週間遷延するので注意 前駆症状
・不眠、振戦、恐怖 ・けいれん発作が先行することも! 症状
・見当識障害 ・妄想 ・自律神経過活動
・幻覚〔小動物幻視(虫など)、体感幻覚(虫が体を這う感じ)〕
※ 意識レベルは日内変動し動揺性に経過。 ときに職業せん妄(自身の職業に関連した動作)も起きうる。
#12.
以下の情報を必ず確認!
・最終飲酒時間 ・飲酒パターン(機会飲酒、晩酌、連続飲酒等)
・飲酒量 ・アルコール離脱症状の既往歴 アルコール離脱を見分けるポイント 日本酒3合以上を5年間×連日摂取
⇒高リスク!!9)
※ 日本酒3合は、ビール1.5L / 焼酎300mL / ワイン6杯に相当
AUDIT(アルコール使用障害スクリーニングテスト) 10)
評価尺度でスクリーニングもあり
#13.
どのように治療するのか?
#14.
本邦には十分なコンセンサスを得られた治療方針がない。
一般的な治療法と自施設での処方例を以下の3つに分けて解説する。
①ベンゾジアゼピン系薬物
②抗精神病薬
③栄養障害に対する治療 アルコール離脱せん妄の治療
#15.
急な断酒でGABAニューロンの働きが停止
↓
下流の興奮系ニューロンが著しく活性化
↓
離脱せん妄!! ① ベンゾジアゼピン系薬物 アルコール多飲酒者は、脳内の抑制系神経GABAニューロンが常にアルコールにさらされている。 GABAニューロンに作用するベンゾジアゼピン系薬剤で治療する!
ベンゾジアゼピン自身も「せん妄」の直接因子となり得るため、内服は可能な限り短期間にとどめる(1~2週間以内に漸減中止)
#16.
① ベンゾジアゼピン系薬物 〇高齢者、肝障害がある場合
ロラゼパム(ワイパックス®)錠 1回1mg 1日3回 毎食後
〇その他
ジアゼパム(セルシン®、ホリゾン®)1回5mg 1日3回 毎食後
ジアゼパム(セルシン®、ホリゾン®) 10mg/2ml
0.5~1アンプルを2分以上かけて静注 (2回目以降は3~4時間間隔)
#17.
精神症状が激しい場合に抗精神病薬の併用を検討。
薬剤選択は、せん妄に対する薬物療法と同様の流れで選択する12)。
効果不十分な場合に同量程度の追加を繰り返し、翌日の投与量はそれを参考に決定。
夕方以降に投与量が多くなるように設定。
例:おやつ療法 RIS液 15時 0.5ml、夕 0.5ml ② 抗精神病薬
#18.
せん妄 糖尿病の有無 ハロペリドール リスペリドン ペロスピロン クエチアピン オランザピン 注射製剤 低活動型 短半減期 剤型の利 OD錠 OD錠 内用液 錐体外路症状が出現しやすい人向き +/- - 図2 せん妄に対する薬物療法(文献11より作成・改変) ② 抗精神病薬:薬剤選択
#19.
② 抗精神病薬 ハロペリドール(リントン®、セレネース®) 5mg/ml
0.5アンプルを生食100mlに溶解し200ml/hで投与
1日2回 15時、夕 *初期投与量(症状に応じて回数、用量を適宜増減)
クエチアピン(セロクエル®)錠 1回25-50mg 1日1回 夕
ペロスピロン(ルーラン®)錠 1回4-8mg 1日1回 夕
リスペリドン(リスパダール®)内用液 1回0.5-1mg
1日1回 夕
#20.
③ 栄養障害に対する治療 アルコール多飲酒者は、低栄養、脱水、肝障害等を伴う場合が多い。
血液検査等で評価し、異常があった場合は補正する必要がある。
特に、ウェルニッケ・コルサコフ症候群の予防目的にビタミンB系を積極的に予防投与する13) 。
#21.
③ 栄養障害に対する治療 チアミン塩化物塩酸塩(旧アクタミン®) 10mg/ml 5~10アンプルをメインの補液に混注(※保険上は5アンプルが上限) フルスルチアミン(アリナミンF®)糖衣錠
1回25mg 1日3回 毎食後
#22.
治療が落ち着いたら・・・ 可能であれば、依存症治療へつなげられるとなおよい。
アルコール依存症が進むと、体や精神に悪いばかりではなく、飲酒運転で摘発されたり職場でのトラブルが重なって失業、というように社会・経済的な影響がだんだん大きくなっていく。
友人や家族との関係も影響をうけ、自分の内・外の世界で多くの大切なものを失うことになる。
精神保健福祉センター、保健所で相談事業を行っている。
#23.
まとめ アルコール離脱せん妄の治療では、早めの対応を行えるかがポイント。
情報収集が非常に大切!
一方で、専門家でもアルコール離脱の症状とせん妄の症状の見分けは難しいことも。
飲酒量が多ければ、迷わずベンゾジアゼピン系薬剤による治療を開始する!
#24.
Lipowski Z et al. Transient cognitive disorders (delirium, acute confusional states) in the elderly. Am J Psychiatry, 1983 Nov; 140(11): 1426-36.
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中村純,せん妄の診断・予防・治療, 2005
Zhang Z et al. Impact of delirium on clinical outcome in critically ill patients: a meta-analysis. Gen Hosp Psychiatry. Mar-Apr 2013;35(2):105-11.
Pisani MA et al. Days of delirium are associated with 1-year mortality in an older intensive care unit population. Am J Respir Crit Care Med. 2009 Dec 1;180(11):1092-7. 引用文献
#25.
融道男,中根允文,小見山実監訳:ICD-10 精神および行動の障害−臨床記述と診断ガイドライン−,医学書院,東京,1993
アルコール依存症治療ナビ.jp (http://alcoholic-navi.jp/)
せん妄のスタンダードケアQ&A100 p.122,141 南江堂 2014
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臨床精神薬理. 2017 20: 175-179 せん妄の型に応じた薬物療法の違い
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#26.
アルコール・薬物関連障害の診断・治療ガイドライン 87-92 じほう 2002
精神科救急のすべて p.214-224 新興医学出版社 2011
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DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院 2014
J Clin Diagn Res. 2015 Sep;9(9):VE01-VE07. Alcohol Withdrawal Syndrome Benzodiazepines and Beyond
独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター(http://www.kurihama-med.jp/index.html) その他の参考文献