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尿路結石症の基本的理解と診断
#2. よくある疾患をきちんと診断するには 1.その疾患の典型的な経過を覚えておく
2.その疾患に似た重篤な疾患を除外できる
3.本当にその疾患でよいかを常に疑う ちゃんと全体像を覚えておくことが大事なんだね。
尿路結石症の症状と特徴
#3. よくある疾患その⑥:尿路結石症
尿路結石症とは、腎臓から尿道までの尿路に結石が形成される疾患
#4. 1.その疾患の典型的な経過を覚えておく
2.その疾患に似た重篤な疾患を除外できる
3.本当にその疾患でよいかを常に疑う
#5. ①突然発症の疝痛
(側腹部痛・腰背部痛) ③夜間・早朝に多い ②血尿 尿路結石症の特徴 疝痛(せんつう)と呼ばれる
波状的な激痛が特徴
➡強くなったり弱くなったりを繰り返す 就寝中は尿が濃縮しやすいため
結石ができやすい ・肉眼的 : 10〜30%
・顕微鏡的: 80~90%
尿路結石の痛みの部位とメカニズム
#6. ①突然発症の疝痛
(側腹部痛・腰背部痛) 疝痛(せんつう)と呼ばれる
波状的な激痛が特徴
➡強くなったり弱くなったりを繰り返す
#7. 尿路結石は、激痛だが腹膜刺激症状がない
→ 虫垂炎や腹膜炎との違い 尿路結石症は内臓痛のため、体動による悪化がない➡痛みでのたうち回る 腹膜炎は体性痛のため、体動により悪化する➡痛みで動けない バタ バタ
#8. 下部尿管の結石 → 下腹部・鼠径部・陰嚢・ 大腿部への放散痛
・結石は尿管膀胱接合部に近い部位 中部尿管の結石 → 臍周囲や腹部正中の痛み・結石は尿管が総腸骨動脈と交差する部位 上部尿管の結石 → 側腹部・背部痛
・結石は腎盂・尿管の接合部あたり 結石の位置によって痛みの部位が変化する! しばしば嘔気も伴うよ…(ウエッ)。 ☝上記3箇所は尿管の生理的狭窄部位であり、
結石が停滞しやすく、痛みの発生部位となる
尿路結石の診察と血尿の重要性
#9. 身体所見では肋骨脊柱角(CVA)叩打痛を確認する ①CVA叩打痛のメカニズム
結石による尿流障害→上流の内圧が上昇して水腎症になる→腎被膜が伸展され肋骨脊柱角(CVA)叩打で疼痛を感じる
②診察のポイント
座位 or 側臥位で背部を露出してCVA(第12肋骨と脊柱の交点)を軽く叩打、痛みの有無・強さ・左右差を評価
③臨床的意義
・尿路結石、腎盂腎炎、腎膿瘍 などで陽性になる
④注意点
・尿路結石以外の疾患でも陽性になるので必ずしも特異的な
所見とはいえない(単独での評価はダメ!)
・閉塞してから時間経過とともに陽性率が低下する
・下部尿管結石では陽性率が低下する
・小さな結石や慢性閉塞では痛みが弱い ちゃんと左右で比較することを忘れない!
#10. ②血尿 ・肉眼的 : 10〜30%
・顕微鏡的: 80~90%
#11. 血尿を過信しない! 疝痛に加えて肉眼的血尿があればすぐに尿路結石が浮かぶが、実際は顕微鏡的血尿のみのことも多い。
また、結石が嵌頓すると尿路閉塞により血尿が出なくなることもあるため『血尿がない=尿路結石ではない』とはいえない。
画像検査(エコーやCTなど)と組み合わせて診断する必要がある。 !
尿路結石の診断方法と検査の比較
#12. 尿路結石の診断における
検査ごとの比較 ★尿検査と血液検査は基本のスクリーニング★非造影CTが最も正確
★超音波はERで迅速かつ簡便で妊婦・小児の診断にも有用
★KUBは経過観察に使用
#13. 尿路結石の種類ごとの特徴 ★シュウ酸カルシウム結石:最多の結石、Ca摂取は減らしすぎない
★リン酸カルシウム結石:副甲状腺機能亢進症の合併に要注意!
★尿酸結石:痛風・メタボと関連
★ストルバイト結石:感染結石であり、除去と抗菌薬が必要
★シスチン結石:遺伝性、再発率高く大量水分で予防
#14. ③夜間・早朝に多い 就寝中は尿が濃縮しやすいため
結石ができやすい
尿路結石の発症リスクと再発率
#15.
結石は尿の濃縮する状況で起こりやすい 就寝中(夜間~早朝)は尿が濃縮して結石ができやすく、この時間帯に発症しやすい。
また同様に、尿の濃縮力が高く食生活が乱れ水分も不足しやすい30~50歳代(特に男性)で好発する。
最近は食生活の欧米化もあり女性や高齢者でも増えている傾向あり。
再発率が高く、一度できた人は5年以内に約50%が再発すると言われており、過去に尿路結石の既往があれば今回も痛みの原因である可能性が高い。
#16. ちょっと待って!
尿路結石なら若年者に多く、夜間や早朝に発症しやすい。しかも、痛みでのたうち回るのが典型だよ。この患者さんは? 先生! 救急搬送された患者さん、突然の激痛なので尿路結石だと思います。腰のあたりも痛いみたいですし。 高齢でお昼の発症。痛みが強く、じっとして動けないみたいです。 尿路結石は“内臓痛”だから動いても痛みは悪化せず患者さんは七転八倒する。一方、腹膜炎のような“体性痛”は動くと痛みが増すから、患者さんは動かない。年齢や発症時間を考えても、尿路結石とは少しズレがあるんじゃない?
痛みを発症した時の状況は? 尿路結石の典型的な経過をきちんとおさえよう そういえば、トイレでいきんだあとに突然痛みが出たみたいです。 それは大腸穿孔かもしれないね。
バイタルサインが安定していたら、
すぐにCTを撮影しよう。
#17. 1.その疾患の典型的な経過を覚えておく
2.その疾患に似た重篤な疾患を除外できる
3.本当にその疾患でよいかを常に疑う
尿路結石と大動脈疾患の鑑別ポイント
#18. ◆尿路結石との違い
尿路結石
痛みで血圧は上昇する(ショックはまれ)
疝痛(波状性の激痛)
大動脈疾患
ショックバイタル(血圧低下・頻脈)
解離:裂けるような痛みが移動
AAA破裂:腹部に拍動性腫瘤を触れることも
◆鑑別のポイント
胸~背部に放散する移動性疼痛、拍動性腫瘤の有無
高齢・喫煙歴・高血圧などのリスク因子を確認
腎動脈に解離が及ぶと血尿を伴うこともある
造影CT(CTA)で血管病変を確認 ショック+腰背部痛=結石? まずは大動脈疾患を除外! 50歳代以上の初発の腎疝痛様発作は、まず大動脈疾患を否定しよう!
#19. 激痛で腹膜刺激症状がないからといって尿路結石とはいえないよ。しかも高齢で初発も変だね。バイタルサインは? 70歳の男性が突然の激しい腰背部痛で救急搬送。痛みで七転八倒しており腹膜炎ではなさそうなので尿路結石だと思ったのですが…。 ショック+腰背部痛=結石? まずは大動脈疾患を除外! 血圧80/50mmHg、脈拍120回/分とショックバイタルです。
何故でしょうか。 尿路結石なら痛みで血圧が上がることはあってもショックバイタルにはならないよね。
この人はコントロール不良の高血圧もあるし、まずは大動脈解離や大動脈瘤破裂などを考えてエコー検査を行おう。 わ...、わかりました!
#20. LDH上昇が重要! 腎梗塞か結石か? ◆尿路結石との違い
尿路結石
血尿が多いが、LDHは通常上がらない
腎梗塞
LDH上昇(腎組織壊死のマーカー)
心房細動や弁膜症 → 塞栓が腎へ飛ぶ
突然の側腹部痛(結石と症状が酷似)
血尿はあることもないこともある
◆鑑別のポイント
LDH・D-ダイマーの上昇をチェック
心電図でAfの有無を確認
造影CTやエコーで血流障害を確認
「側腹部痛+LDH↑+Af既往→腎梗塞をまず疑う!」 LDH↑ Af
尿路結石と腎梗塞の違いと注意点
#21. あれ、この人の採血、なんでこんなにLDH上がっているの?
しかもエコーで水腎症も確認できなかったんだよね。もしかして心房細動の既往なかった? 先生! 救急搬送された患者さん、突然の腰背部の強い痛みでCVA叩打痛がしっかりあり、血尿もあるので、尿路結石で間違いなさそうです。 そういえば、救急室での心電図モニターはAfでした。 LDHが上昇して心房細動がある時は、腰背部痛と血尿があっても腎梗塞の可能性を疑おう。
エコーや造影CTで血流を確認しよう! LDH上昇が重要! 腎梗塞か結石か?
#22. 下腹部痛では消化器・婦人科疾患も考慮! ◆尿路結石との違い
尿路結石
痛みが背部~鼠径部へ放散、血尿がある
感染合併がなければ発熱はない
虫垂炎
右下腹部痛、発熱、腹膜刺激症状あり
血尿はほぼなし
婦人科疾患(卵巣茎捻転・子宮外妊娠など)
妊娠の可能性や月経歴を確認
卵巣茎捻転:下腹部痛、エコーで卵巣嚢腫あり
子宮外妊娠:妊娠可能年齢+不正性器出血
◆鑑別のポイント
女性患者では 尿中hCG・腹部エコー を実施
虫垂炎ではMcBurney点の圧痛を確認
#23. 発熱+結石=膿腎症(結石性腎盂腎炎)を疑え! ◆ただの尿路結石との違い
単なる結石
激痛+血尿が主、熱はあっても軽度
基本的にショックはない
結石性腎盂腎炎
高熱・悪寒・腰背部痛
敗血症リスク(糖尿病など)
WBC・CRPなど炎症反応高値
放置すると敗血症性ショックに至る
◆対応のポイント
抗菌薬+尿管ステント or 腎瘻で緊急ドレナージ
→早急に泌尿器科コンサルト!
結石+感染症状は緊急事態!速やかに閉塞解除を
尿路結石による膿腎症のリスクと対応
#24. ん、高熱が出ているし、ひょっとして膿腎症(尿路結石で尿がうっ滞し、細菌感染を合併した状態)から敗血症性ショックになっているんじゃない? 先生! 尿路結石の患者さんってショックにならないんでしょ?CTでしっかり結石と水腎症があって
大動脈疾患がないのになぜかショックになってるんですが…。 え?尿路結石でも重篤になることがあるんですか? ほとんどの患者さんは鎮痛剤で経過観察が可能だけど、単腎患者さんの尿路結石や閉塞性の腎盂腎炎など緊急ドレナージが必要になるケースもあるんだよ。 発熱+結石=膿腎症(結石性腎盂腎炎)を疑え!
#25. 1.その疾患の典型的な経過を覚えておく
2.その疾患に似た重篤な疾患を除外できる
3.本当にその疾患でよいかを常に疑う
診断エラーを防ぐための考え方
#27.
簡単に読めて、網羅的な鑑別診断の考え方をマスターできる診断学の入門書です。
ロジックツリーを使用して分析的に考える 意見の共有とフィードバック 参考:
当院の診断推論カンファレンスの流れ マインドフルネス 呼吸と身体感覚に意識を集中。10分やるだけでもスッキリ。
丹田呼吸や54321法と組み合わせるのもオススメです。 診断エラーを防ぐためには?